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政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/151.html
投稿者 赤かぶ 日時 2018 年 10 月 25 日 09:59:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない
https://diamond.jp/articles/-/183286
2018.10.25 八代尚宏:昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 ダイヤモンド・オンライン


継続雇用年齢をただ70歳に引き上げるだけでは、必ずしも高齢者の活用にはつながりません(写真はイメージです) Photo:PIXTA


継続雇用年齢「70歳に引き上げ」は、
効率性と公平性を欠いた仕組みの延長


 政府は10月22日の未来投資会議で、「70歳までの就業機会確保」のための雇用改革案を打ち出した。働く高齢者を増やすことは人手不足や年金制度の安定化に不可欠だ。しかし、その手段として、企業が自発的に高齢者を雇用できるための規制改革ではなく、逆に雇用の義務付けという「規制強化」を用いている点に大きな問題がある。

 第1に、現行の65歳までの継続雇用年齢の70歳への引き上げへの法改正である。これに対しては企業の人件費増が指摘されているが、むしろ正規・非正規社員間や、大企業と中小企業の労働者間の格差拡大という公平性の視点がより重要である。第2に、シニア層の中途・キャリア採用の拡大は、雇用の流動性を高めるという視点では望ましい。しかし、そのための具体的な政策はなく、単に大企業に中途採用比率の情報公開や協議会等で要請する等の「口先介入」で済ませるのでは不十分である。

 本来の70歳雇用シナリオとは、なぜ企業が熟練労働者である高齢者を十分に活用できないのかについて分析し、次に、それを妨げている制度的な要因を取り除くことにある。こうした制度・規制の改革こそが、本来のアベノミクスの「第三の矢」であったはずだ。

 現行の高年齢者雇用安定法では、定年退職者の65歳までの雇用を義務付けている。しかし、高齢者の仕事能力には大きな差があり、現役以上のスキルを持つ者もいる半面、職場のお荷物となっている場合も少なくない。定年退職直前よりも2〜3割減の給料は、前者には低すぎ、後者には高すぎる。何より定年後は1年契約等の非正規社員の扱いのため、有能な人材でも責任のあるポストには就けられないという無駄遣いが生じる。

 どの職場でも仕事とのミスマッチの社員を抱えると、それだけ他の社員への仕事のしわ寄せが大きくなる。とくに給与の低い若手社員にとっては、高い給与に見合った仕事をしない中高齢社員の存在が、転職の契機となりやすい。これは同じ職場の非正社員や取引先の中小企業の社員にとっても不公正な仕組みである。こうした効率性と公平性に欠ける仕組みを、さらに70歳まで5年間も引き延ばそうとすることが、今回の政府の目論見である。

問題の最大要因は「60歳定年制」
同一労働同一賃金、解雇の金銭解決ルールが必要


 日本の高齢者の活用を妨げる最大の要因は、大企業を中心とした60歳定年制である。多くの先進国では、同一業務でありながら年齢だけを理由とした解雇は、人種や性別によるものと同様に「年齢による差別」として原則禁止されている。しかし、日本では、年功賃金と定年時までの雇用保障という慣行が、年齢による差別を不可欠にする主因となっている。このため同一労働同一賃金の原則と、画一的な雇用保障の例外として解雇の金銭解決ルールの導入により、企業が安心して定年制を廃止し、貴重な高齢人材を活用できる環境を整備することが、本来の政府の責任となる。

 今回の働き方改革法でも、同一労働同一賃金の原則は示されている。しかし、勤続年数が長ければ、それに見合った高い賃金でもいいという抜け穴が残された。また、企業の同一賃金についての説明義務も設けられたが、それは労働者が納得しない場合の措置はない。

 やはり欧米企業のように、「同一業務の他の社員と比べて不利に扱われている」という社員からの訴えに対して、企業側に「差別をしていない」という立証責任を、人事資料等を用いて果たすことの義務付けが不可欠となる(参照:「働き方改革が目指す「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか」)。これは公害対策基本法で、被害者の訴えに対して、工場側が公害を出していないという立証責任を負うことと同じ原則である。

 もっとも、日本では企業内の訓練投資を円滑に行うために、ある程度の雇用保障・年功賃金が必要という論理もある。しかし、今後の長期的な低成長時代に、60歳まで頻繁な配置転換を通じた企業内訓練を漫然と続けることは、明らかな過剰投資である。遅くとも入社後20年以内に、それまで経験した業務の内で、もっとも自分に向いた職種を選び、それに見合った賃金を受け取る。そうすれば、企業にとっても60歳という一定の年齢で、画一的に解雇する必要性はなくなる。現行の雇用慣行を全面的に変えるのではなく、欧米の職種別の働き方と組み合わせることが、本来の働き方改革である。

シニアの中途採用拡大に欠けている
「部局別採用」という視点


 今回、新たに登場したものが中途採用市場の拡大という政策目標である。この目標自体はともかく、なぜ企業が、特にシニア層で中途採用に消極的かという要因分析を欠いている。本来、「新卒一括採用か中途採用か」の対立軸よりも、「人事部採用か部局別採用か」の方が、はるかに重要である。未熟練の新卒採用者に比べて、特定分野での専門的能力をもつシニア層の採用は、そのキャリアを評価できる部局の責任者による採用がミスマッチを防ぐ上で必要となる。

 しかし、この場合、仮にそのキャリアを生かせる業務がなくなった場合に、雇用関係がどうなるかについて明確なルールはなく、紛争が生じやすい。これを防ぐためには、「職務・地域限定正社員」という新たな働き方のルールが必要だが、これに対して労働界の反対は根強く、法改正は先送りされている。

 新卒一括採用者が企業内で配置転換を繰り返し、どの部局でも通用するジェネラリストに育成されるという、過去の高い経済成長期に成立した雇用慣行は限界に近付いている。そうした働き方も少数のコア社員には必要かもしれないが、大多数の社員は特定の職種の専門職で、より良い条件の企業に中途採用されるような流動性の高い労働市場が必要となる。企業に対してキャリア採用を増やせというだけでなく、それを実現できるための法制度を整備することが政府の基本的な責任である。

「解雇の金銭補償ルール」の策定で
透明かつ公正な労働紛争は解決できる


「日本の解雇規制は厳し過ぎ、その緩和が必要」という誤解がある。現実には、労働基準法に定められている解雇規制は、特殊な場合を除き、30日分の賃金である解雇手当のみで、それさえ支払えば、事実上、解雇自由の世界である。

 また、労働契約法には、企業は解雇権を持つものの、それを濫用してはならないという「解雇権濫用法理」が示されている。しかし、この判例法の原則を単にコピーしただけの規定では裁判に訴えなければ解雇権濫用の有無が示されず、裁判の費用を賄えない労働者にとっての有効な救済手段となっていない。

 解雇の金銭解決のルール導入に対して、「カネさえ払えば解雇できる」という批判は誤りである。第1に、裁判の代わりとなる労働審判や労働局のあっせんでは、すでに金銭解決が紛争解決手段として用いられており、それがなぜ裁判ではダメなのか。問題は解決金の水準であり、それがとくに中小企業等では低すぎることにある。

 第2に、裁判で解雇無効判決が出た場合にも、多くの場合、元の職場への復帰ではなく金銭補償による和解で解決されており、すでに多くの解雇紛争はカネで解決されている。

 それでは、なぜ、あえて欧州並みの金銭解決ルールが必要なのか。それは紛争解決の手段の差により、金銭補償額に大きな差があるためだ。厚生労働省「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の資料では、訴訟の費用がもっとも低い労働局あっせんでの補償額は、平均して35万円に過ぎないが、裁判での和解では400万円と大きな差が生じている。

 仮に欧州並みに解雇の金銭補償ルールが策定されれば、労働審判やあっせんの補償金も、それを基準にして定められることも可能となろう。「カネさえ払えば解雇が可能」と批判する論者は、裁判に訴えられない多くの労働者が十分な補償金も受け取れずに解雇されている現状をどう考えているのだろうか。


出所)厚生労働省「第12回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」

 少なくとも70歳までの雇用機会の拡大は、高齢者の所得面だけでなく、年金財政健全化のためにも必要である(参照:「安倍3選後が年金改革「最後のチャンス」、日本の対応は遅すぎる」)。しかし、そのための手段として、政府が長年求められている制度や規制の改革を怠り、その代わりに企業に対して高齢者やキャリア採用に関する規制を強化することは、過去の産業政策と同じ手法であり、日本経済の活性化をむしろ損なうものでしかない。

(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)


 

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コメント
1. 2018年10月25日 19:02:12 : UGd5uG6y2Q : _7yrpMxYnqY[536] 報告
幸せに させぬことだよ 狙いとは
2. 2018年10月25日 22:35:44 : ZzavsvoOaU : Pa801KbHuOM[78] 報告

2018年9月21日 八代尚宏 :昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長
安倍3選後が年金改革「最後のチャンス」、日本の対応は遅すぎる
安倍総理の3期目、最大の課題の1つが「年金制度」です Photo:PIXTA
 安倍晋三総理が自民党の総裁選挙に勝利し、2021年まで現政権を維持することが可能となった。今後3年間の経済政策の最大の課題は、増え続ける借金に依存した社会保障、その中でも最大の支出である「公的年金制度の改革」である。
 財政赤字の是正と言えば消費税率の引き上げが焦点となる。しかし、2019年度に引き上げられる予定の消費税率2%の増収分5兆円は、2018年度予算の赤字額(23.8兆円)の2割強に過ぎない。財政赤字の主因である増え続ける社会保障費を賄うためには、消費税率を10%へ引き上げるだけでは不十分であり、今後とも税率を持続的に引き上げなければならない。こうした事態を防ぐためには社会保障費の合理化が避けられない。
 社会保障費の約半分弱を占める公的年金は、老後の生活を支える大きな柱であり、その削減は容認できないといわれる。しかし、公的年金は生活保護のような弱者保護の手段ではなく、「長生きのリスク」を分散するための保険である。これは死亡した人の家族の生活を守る生命保険と正反対の機能であり、早く死亡した人の積立金が長生きする人の年金に回される再分配の仕組みである。
 年金が保険原理にもとづく以上、平均寿命の伸長という「長生きのリスク」の高まりに応じて保険料を引き上げなければ、年金制度は維持できない。ところが厚労省は年金保険料に上限を設定してしまったので、後は給付面の調整しかない。この民間保険では当然な保険収支の均衡を維持するための制度改革が、これまで政治的な配慮から先送りされてきた。これが年金保険財政悪化の主因である。この過去の「年金政策の不作為」のツケを解消することは、長期安定政権でなければできない最重要課題である。
なぜ政府は支給開始年齢の
引き上げをタブー視するのか
 年金保険における「長生きのリスク」を抑制するもっとも普遍的な手法が、年金を受け取れる年齢を平均寿命に連動して引き上げることである。これを「年金の踏み倒し」というのは誤解であり、平均寿命の伸長で自動的に増える生涯給付の増加分を中立化するだけである。
 長寿化は、働き続けられる平均的な年齢の長期化を意味している。一般に日本の男性高齢者の就業意欲は高く、先進国の中ではトップクラスで、高齢女性の就業率も急速に追い付いている。高齢者が働き、税金や社会保険料を払い続ければ、それだけ壮年層の負担は軽減し、経済成長にもプラスの効果がある。もっとも、高齢者の働く能力には個人差も大きく、早期退職の選択肢も設けることが必要だ。
 先進国の平均寿命と年金の支給開始年齢を比較すると、日本の男性の年金受給期間が16年間(女性は22年間)と極端に長いことが分かる。これは日本の厚生年金の受給開始年齢が2025年に65歳にとどまるためである。これに対して他国は67-68歳で、平均寿命までの受給期間がほぼ10年間である。日本と平均寿命に大差のない豪州では、2035年までに70歳への引き上げを2014年に決めたが、これが責任ある政府の本来の姿である。
 これに対して日本では、支給開始年齢が65歳に到達する2025年まで、それ以上の引き上げは検討しないとしているが、それではあまりにも遅すぎる。2018年2月の高齢社会対策大綱では、65歳より後に割増年金の受給を開始する繰下げ制度について、70歳以降の受給開始も選択可能とするとした。しかし、これは平均寿命まで生涯に受け取れる年金給付額を所与としたもので、年金財政の改善には貢献しない。このような目先の対応で、本質的な議論を避けようとすることには弊害が大きい。

 https://diamond.jp/mwimgs/3/8/-/img_38b572ead9cc67fabd5a13861c9d76d958540.jpg
年金給付額を削減する
「マクロ経済スライド」の問題点
 厚労省は、既存の年金給付を毎年一定率で削減するマクロ経済スライド制度を2004年に導入した。これは社会保険料の引き上げと同じで、毎年の法改正を必要とせず、自動的に適用される。国会等で紛糾する年金の支給開始年齢引き上げのための法改正と比べて、行政側に都合の良い仕組みである。
 しかし、この削減率は物価上昇率の範囲内でという強い制約があり、これまでのデフレ経済下ではほとんど機能しておらず、年金財政の悪化の主因となっている。それだけではなく、仮に現実に機能したとすれば、基礎年金にも画一的に適用されることから、低年金者にとっては大きな負担増となる、逆進性の大きな制度である。
 これに対して年金の支給開始年齢引き上げも、実質的に年金給付引き下げの手段であることには変わりはない。欧米諸国でも多くの受給者は、減額された早期受給年金を選択している。マクロ経済スライドとの違いは、被保険者にとって事前に何歳まで働くかの選択肢があることだ。これが年金受給者になってからの逃げ場のない給付削減との大きな違いである。
高齢者の雇用機会の確保には、
「同一労働同一賃金」が必須
 年金の支給開始年齢の引き上げには、その年齢まで働ける労働市場の整備が不可欠となる。しかし、これを現行の働き方の抜本的な改革ではなく、高年齢者雇用安定法での企業に対する定年退職者への65歳までの再雇用義務を、さらに70歳にまで引き上げるのは企業に大きな負担を課す、あまりにも企業依存の安易な政策だ。また、とくに大企業と中小企業の労働者間での生涯賃金格差の拡大をもたらす要因ともなる。
 個人の仕事能力の差は年齢とともに拡大する。それにもかかわらず60歳までの雇用を保証し、その時点で一律に解雇する定年制という雇用管理は、他の先進国では「年齢差別」として禁止されている。日本でもこの悪平等な雇用慣行を見直すためには、企業が年功賃金の是正と能力主義人事への転換を可能とするような政府のルール作りが必要とされる。
 今国会で成立した働き方改革法は、本来、同じ業務の労働者には、年齢・性別や働き方の違いを問わず、同じ賃金を保証することで、高齢者にとって働きやすい労働市場とすることを目的としていた。しかし、肝心の同一労働同一賃金に十分な関心が向けられず、単に勤続年数が長ければ高い賃金という年功賃金を正当化する骨抜きの内容になってしまった。(関連記事:『非正規・正規の格差是正が葬られた働き方改革法案の問題点』)
 現行の働き方の改革は、労使の合意に基づくことが基本である。しかし、法律で諸外国のような解雇紛争についての明確なルールを定めることへの反発を恐れた行政の不作為により、今後の企業の改革が妨げられる面も大きい。従来の日本的な雇用慣行を保護するのではなく、多様な働き方に中立的な制度への改革が高齢者雇用を促進するために必要な政府の責務である。
 
 急速な高齢化社会への基本的な対応は、年齢に中立的な社会制度の構築である。安倍政権の3期目は、小手先の対応ではなく、年金支給開始年齢の平均寿命とのリンクや、年齢にかかわらない雇用・賃金制度への抜本的な改革を図る必要がある。これが真のアベノミクス実現の最後の機会となろう。
(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)

https://diamond.jp/articles/-/180246

2018年7月6日 八代尚宏 :昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長
非正規・正規の格差是正が葬られた働き方改革法案の問題点

働き方改革法案では、肝心な「同一労働同一賃金」については骨抜きになっています

 政府の働き方改革法案が国会で成立した。しかし、残業時間の上限規制や高度プロフェッショナル制度の導入に比べて、より本質的な改革である「同一労働同一賃金」については、ほとんど議論がされなかったのも事実だ。これは政府提案の内容自体が、当初の趣旨と比べて骨抜きされており、現行の働き方に大きな影響を及ぼさないものとなっていたためである。
 政府の働き方改革実行計画によれば、同一労働同一賃金の導入は、同一企業における正社員と非正規社員との間の「不合理な待遇差」の解消を目指すものとされている。基本給や各種手当といった賃金の決定ルールの差については、単に、「正規と非正規との間で将来の役割期待が異なるため」との主観的・抽象的説明では不十分であり、職務内容や配置の変更範囲等、客観的・具体的な実態に照らして判断という基本方針は妥当である。
 しかし、この原則が、今回成立した働き方改革法案では、具体的に、どこまで適用されているのだろうか。まずは、これを正規・非正規の賃金格差について最高裁判決が下された事案と対比して見よう。
3つのポイントで見る
働き方改革法案と同一労働同一賃金
 第1に、各種手当について、である。例えば、住宅手当を転勤を前提とした正規社員に限定するというような明確な根拠がなければ、非正規にも平等にという原則は、「ハマキョウレックス」(浜松市の物流会社)に対し、有期雇用契約で勤務する契約社員が、同じ業務の正規社員の基本給や諸手当との差額の支給を求めた最高裁の判決と整合的である。
 第2に、賞与については「会社の業績等への同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を求める」とした。これを字句通りに解釈すれば、例えば同一の路線を走る非正規のトラック運転手について、会社への貢献度に正規社員との差はないため、少なくとも基本給の同一月数分の賞与を得る権利がある。これは定年退職後再雇用の社員への賞与を否定した、長澤運輸事件の最高裁判決の見直しを意味するのだろうか。それとも定年退職者は例外というような抜け穴を作るのだろうか。これは、今後、増える一方の高齢者の活用に重要なポイントとなる。
 第3に、もっとも大きな点は基本給の差である。「職務、職業能力、勤続に応じて支払うことを定めていれば、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の支給を求める」としている。
 しかし、正規・非正規社員間の賃金格差の最大の要因は、正規社員の年齢や勤続年数に比例して高まる年功賃金にある。単に勤続年数に比例した賃金の年功給を無条件に容認すれば、同一の職務で同じ職業能力でも、勤続年数の短い非正規社員は不利となる。その意味では、改革法案の中身を具体化したガイドラインは「勤続年数が正規と同じ非正規社員にのみ同一労働同一賃金」の原則を示したものに過ぎず、事実上、現行の正規・非正規社員間の基本給の格差を正当化するものといえる。
「正規社員との待遇差の説明義務」だけでは
非正規社員の処遇改善につながらない
 政府の働き方改革実行計画では、非正規社員の処遇改善の切り札として、雇入れ時に適用される待遇の内容等の本人に対する説明義務を新たに課すこととした。また、雇入れ後にも、比較対象となる正規社員との待遇差の理由等についての説明義務も課されている。しかし、これらはいずれも企業による一方的な説明に過ぎず、非正規社員の納得は求められていない。
 これには非正規社員が不合理な待遇差を訴えた裁判において、欧米諸国の様に企業側が「差別をしていない」ことを人事記録等で立証する義務は含まれていない。ガイドラインでは、「裁判上の立証責任を労使のどちらが負うかという議論もあるが、訴える側・訴えられる側がそれぞれの主張を立証していくことになることは当然」との開き直りのような表現もある。この民事裁判の一般原則を、企業と労働者との間に人事情報等について大きな差のある個別労使紛争について機械的に適用することは、労働法の原則を無視したものといえる。
 これは公害裁判において、「訴える患者側と訴えられる工場側とが、各々の主張を立証せよ」ということに等しい。非正規社員への差別は一種の社会的公害であり、公害対策基本法のように、企業側により大きな立証責任を課すことが、実質的な公平性の原則に沿うものといえる。
正規社員と企業が望んでいないから
グローバルスタンダードの同一労働同一賃金は葬られた
「非正規という言葉をなくす」という、当初の安倍総理の意気込みにもかかわらず、肝心の働き方改革法案は、むしろ現行の正規・非正規格差の大きな部分である基本給格差を正当化するものとなった。
 これは野党の働き方改革法案への反対の中心が、もっぱら正規社員の残業手当という概念をなくす脱時間給制度に置かれたためであり、「非正規との同一労働同一賃金はまやかし」という批判は、国会論議では皆無であった。これは、経団連と連合、与党と野党が、共に、経済社会環境の変化にも関わらず、日本的雇用慣行の維持という点では、基本的な利害が一致していることを示している。
 欧米の職種別労働市場では、同一労働同一賃金が当然の前提になっている。これは公平性の観点だけでなく、仮に同一職種で低賃金の労働者がいれば、それは他の労働者への賃下げ圧力となることから労働組合が絶対に許さないためである。他方で、日本の企業別に分断された労働市場では、労使共同体の下で企業利益の分配を受ける企業内の正規社員と、市場賃金で働く企業外の非正規社員との賃金格差は当然とされる。また、不況期にも正規社員の雇用を維持するために、非正規社員の事実上の解雇が行われている。
 こうした仕組みの下で、非正社員という言葉をなくすためには、まず正社員という戦後の高い経済成長の時代に成立し、今後の低成長期には維持困難な働き方の改革が先決である。そもそも正規社員の年功賃金を前提として、どうすれば非正規社員との賃金格差を縮小できるのだろうか。グローバルスタンダードの同一労働同一賃金の実現が葬られたのは、それは正規社員と企業の代表が、共にそれを望んでいないためである。
日本的雇用慣行を変えざるを得ない
「市場の圧力」の高まりも
 それにもかかわらず、日本的雇用慣行を変革する方向への圧力は高まっている。
 第1に、企業活動のグローバル化の下で、国内外を問わず外国人社員の比率は高まっている。同じ職務にも関わらず勤続年数の違いで賃金に大きな差があれば、法律がどうあれ企業の説明責任が求められ、納得できなければ有能な外国人社員は日本企業を避けることになる。
 第2に、社員に占める高年齢者比率の高まりの下で、年功賃金を維持する企業は対外競争力の低下を免れない。過去のピラミッド型の年齢構成の時期に有利な賃金体系は、逆ピラミッド型に近づくほど不利になる。年功賃金の根拠となっていた企業内での熟練形成も、情報化技術の進展の下では、むしろ陳腐化のリスクが大きい。
 第3に、高齢労働者が増える今後の労働市場では、60歳定年制の矛盾が高まっている。この他の先進国では、「年齢による差別」として禁止されている定年制に、労働組合が強く反対しないことは、それが定年時までの雇用保障や年功賃金と表裏一体の関係にあるためだ。平均寿命が80歳を超えて伸びる時代には、70歳まで現役の労働市場が必要とされる。それは、単に、定年後再雇用の非正規社員を増やすことではなく、年齢にかかわらず同一労働同一賃金の徹底化である。
 正規社員の定期昇給という既得権を保護したまま、市場賃金の非正規社員との格差を是正しようとすれば、今回の働き方改革のような見せかけのものにとどまらざるを得ない。今回の働き方改革法案は、年齢、性別、国籍に関わらず、多様な働き方を促し、個人が自らの仕事能力に応じた報酬を受け取れる、市場の活力を生かした労働市場を形成するための第一歩としてとらえる必要がある。
(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)

https://diamond.jp/articles/-/174152


 


 
2016年12月26日 八代尚宏 :昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長
働き方改革が目指す「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか

 働き方改革のコアとなる「同一労働同一賃金」のガイドラインが公表された。この目的は「非正社員の待遇改善を実現する方向性を示す」とされているが、いかにして正社員との賃金格差を欧州諸国並みに是正するかという、具体的なプロセスは示されていない。
 報告書では、(1)正社員と非正社員の賃金決定基準の明確化、(2)個人の職務や能力等と賃金との関係の明確化、(3)能力開発機会の均等化による生産性向上、等があげられている。いずれも当然の原則だが、仮にそれらが実現したとして、どのような道筋で賃金格差が是正されるのか。企業に対して明確化を求める割には、政府の意図は明確ではない。
 このガイドラインの本来の目的を実現するためには、書かれている内容よりも、書かれていないことの方に大事なポイントがある。
 競争的な労働市場では、賃金の低い企業から高い企業へと労働者が移動することで、賃金格差は自然に解消される。同一労働同一賃金が実現しないのは、そうした労働移動を妨げる障壁があるためで、それが何かを示し、取り除くための処方箋を描くのが、本来のガイドラインの役割である。
 このカギとなるのが「雇用の流動化」である。しかし、この肝心の点が報告書ではほとんど触れられていない。これは、(1)賃金は正社員主体の労働組合と使用者との合意で決める、(2)労使協調をもたらす固定的な雇用慣行の堅持、(3)その範囲内で非正社員にできる範囲のことだけするという「労使自治の原則」が、暗黙の前提となっているためだ。
 そもそも、過去の高い経済成長期に普及した「正社員中心の働き方」という成功体験へのチャレンジが、本来の働き方改革の核心ではなかったのか。日本の働き方は、特定の企業内での円満な労使関係にもとづいている。その反面、企業の保護の外にある非正社員との格差は大きい。労働者の高齢化が進む中で、定年退職後に1年契約で働く高齢者数は急速に増えており、非正社員比率が4割を超すのは時間の問題である。
「雇用保障・年功賃金」を
どう見直すかがカギ
 およそ病気の原因が分からなければ治療はできない。賃金格差の是正には、その要因についての共通理解が肝要である。日本の短時間労働者の時間当たり賃金はフルタイムの正社員の6割弱と、欧州主要国の8〜9割と比べて大きい。これは主として若年層で小さく中高年層で大きい、正社員の年功賃金カーブから生じている。この年功賃金を所与として、どうすれば非正社員との賃金格差を縮小できるのだろうか(参考・2016年2月5日付記事「『同一労働同一賃金』実現は、正社員にも無縁ではない」)。
 仮に勤続年数の等しい非正社員に正社員と同じ年功賃金を適用しても大きな意味はない。有期雇用の非正社員にとって、年功賃金のメリットが生じる前に雇用が中断され易いからである。
 むしろ正社員の賃金が、例えば40歳台で特定の職種に特化した「ジョブ型」に転換し、フラットな形へと変わる選択肢を広げれば、元々、特定の職種に就くことを前提に雇用される非正社員との賃金差は縮小する。
 報告書では定年制には触れていない。定年制とは、本来は熟練労働者である高年齢者を、一律に解雇するという制度である。なぜ企業はそんなことをするのかというと、企業への貢献度を上回る年功賃金が大きな負担となるからだ。特定の職種について社員の賃金と生産性が見合っているジョブ型であれば、労働力不足時代に何歳になっても辞めてもらう必要性は乏しい。これは年齢にかかわらず働き続けたい多くの社員にとっても大きなメリットとなる。
 今回のガイドラインでは、過去の高い経済成長期に形成された「雇用保障・年功賃金」をどう見直すのかの基本的スタンスが曖昧なままである。これでは欧米の職種別労働市場を前提とした同一労働同一賃金の実現は極めて困難である。
労使自治の原則を巡る
日米労働法の違い
 日本の労働法には、最低賃金と労働時間以外の規制は原則としてなく、労使自治の原則に委ねられている。同一労働同一賃金の法制化は、この大原則への侵害との批判がある。
 米国の労働法も労使自治に基づいているが、「差別の禁止」という、より大きな原則があることが違いである。解雇は原則自由だが、人種や性別を理由とした解雇は厳しく罰せられる。これに「年齢による差別」も加えられ、日本のような一定の年齢に達したことだけをもって解雇する定年退職制は明確な違反行為である。
 最近、定年後再雇用されたトラック運転手が、定年前と全く同一の仕事にもかかわらず、賃金が大幅減になったことを不当として訴えた。これは社会常識に反した訴えと受け止められたが、米国なら同一労働同一賃金の論理どおりの要求と言える。
 この本来の争点は、トラック運転手という典型的なジョブ型の職務にまで年功賃金を機械的に適用したことにある。熟練労働者を企業内に閉じ込めるための仕組みによって、定年による解雇が必要となるという矛盾が生じる。仮に、40歳頃からのフラット賃金であれば、会社も不足しているトラック運転手の賃金を下げる必然性はなくなる。
 報告書の「個人の職務や能力等と賃金との明確化」とは、こうしたジョブ型の働き方への移行という意味であろうが、それを明確化しなければ、ガイドラインの役割を果たせない。また、企業に要求するだけでなく、労働力が長期的に減少する今後の社会で、定年制という「年齢差別」を、いつまでも放置している政府の責任が問われるべきであろう。
低成長時代には見合わない
年功昇進という過剰な制度
 ガイドラインでは、非正社員の業績・成果が正社員と等しければ同一賃金とされる。しかし、それには「特定の仕事に賃金が結び付く」職務給が大きな前提となる。現行の「特定の人に仕事をつける」年功昇進の仕組みのままでは無理である。もはや年功給が賃金の大きな割合を占めている企業は少ないであろうが、賃金の高いポストへの年功昇進に変化がなければ、年功的に決まる賃金の実態は変わらない。
 正社員と非正社員の間だけでなく、大企業と中小企業、男性社員と女性社員等の賃金格差の主因も、年功賃金カーブの差から生じている。この年功賃金の根拠として、労働者の生活費が年齢とともに高まることに見合った「生活給」という説明がある。しかし、これは労働者が「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」というもので、夢の世界の話である。
 より合理的な年功賃金の説明としては、企業内訓練を極度に重視する日本企業では、大企業の男性正社員ほど、頻繁な配置転換を通じて、より賃金の高い高度な業務に就けられる機会が多いことがある。その場合、年功賃金カーブの差は、個人の労働生産性の差に対応することになり、同一労働同一賃金と必ずしも矛盾するものではない。日本的雇用慣行を擁護する論者は、こうした暗黙の前提に立っているものとみられる。
 しかし、最近の日本経済における情報通信技術の発展等の下では、長期間にわたって企業内で形成された熟練が急速に陳腐化するリスクも大きい。企業内訓練は社員への投資であるが、現在の低成長期には過去の高成長期と比べた投資の収益率は平均的に低下している。これまでの社員の生涯を通じた企業内訓練は、現在では過剰投資の面も大きい。
 企業内訓練を通じた労働生産性の上昇は、年齢が高まるほど個人間のばらつきも拡大する。過去の高い成長期に大企業を中心に普及した年功賃金は、今日の低成長期には社員間の生産性に見合わない賃金格差の主因となる。日本企業でも個人の仕事の概念を明確化して、これまで避けてきた人事評価に本格的に取り組む時期に来ている。
正社員の賃金決定基準の明確化へ
求められる企業の説明責任
 ガイドラインの柱のひとつに「正社員の賃金決定基準の明確化」がある。これを実現するために有効な手段として、企業内で類似の業務の社員間の賃金格差の説明を企業に対して義務付けることが、当初案では盛り込まれていた。この「働き方改革」の数少ない目玉が、最終的に落ちてしまったことは残念である。
 これは企業にとって負担増となるという批判は近視眼的である。市場の需給関係で賃金が決まる非正社員に対して、企業内で決まる正社員の賃金決定の仕組みの合理化は、働き方の多様化が進むほど、その効率的な活用を図るために不可欠となる。
 欧米企業は社員の人事評価に多くの時間とコストをかけているが、これは多様な人種・国籍の社員からの「差別されている」という訴えに対抗するためでもある。日本企業も、人事評価に欧米並みのコストをかけることは、公平性の観点だけでなく、長期的には能力主義人事への道を開くことで、企業自体にも大きなメリットがある。
 今後の低成長期には、「黙って上司に従って働けば、長期的に損はない」という過去の経験が成り立たない。短期間内に、会社への貢献に見合った評価と処遇を求める部下を説得できるだけの高い仕事能力を管理職に求めれば、欧米型の「給与に応じて働く」仕組みに近づくことになる。
 今後、増え続ける中高年社員と減る一方の管理職ポストとのギャップが大きくなる下で、人事部による一方的な割当方式では、社員の不満を高めるだけである。管理職に昇進することが社員にとってメリットだけでなく、大きな負担にもなることが明確になれば、自分の本来の職務に専念できるジョブ型社員へのニーズも増えるであろう。
 企業の内部労働市場にも、管理職ポストの需給メカニズムを導入することが、本来の働き方改革の基本と言える。これは結果的に「非正社員という言葉をなくす」という安倍総理の思いに結び付くことにもなる。
(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)

https://diamond.jp/articles/-/112527

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