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社会保障費の歯止め見送り、景気最優先 財政危機に警鐘 マイナス利やめた方が景気物価に好影響 日銀金融政策 米利上げ新興国
http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/548.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 11 月 21 日 19:53:15: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

2018年11月21日 ロイター
社会保障費の歯止め見送り、景気最優先 財政危機に警鐘も
社会保障関係費をめぐり、歳出をコントロールするための目安やコスト抑制の方針を明示することは見送られた
11月20日、経済財政諮問会議では、社会保障関係費をめぐり、歳出をコントロールするための目安やコスト抑制の方針を明示することは見送られた。2017年6月撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)
[東京 20日 ロイター] - 20日の経済財政諮問会議では、今後の経済財政運営方針が議論されたが、社会保障関係費をめぐり、歳出をコントロールするための目安やコスト抑制の方針を明示することは見送られた。2019年10月からの消費増税を前に、景気腰折れの回避を最優先にする政府のスタンスがにじみ出た。

 だが、22年度から30年度にかけては急速に高齢化が進むと予想される。このまま財政規模の膨張を放任した場合、国内貯蓄で財政をファイナンスできない事態に直面すると警鐘を鳴らす専門家もいる。

 社会保障費の伸びについて、これまで政府は16─18年度の3年間で1.5兆円程度というシーリングを設けていた。

 10月時点の同会議では、民間議員から、従来の年間5000億円の伸びを下回る額に抑制することが可能との意見が提示されていた。19年度の高齢者人口(65歳以上)の伸びが0.9%程度と、過去3年間の1.7%程度より減速するとの試算から、高齢者人口の伸びが緩和されるためとしていた。

 しかし、この日の会議で示されたのは、19年度の社会保障関係費は「経済・物価動向等を踏まえ、2021年度まで実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す」という、今年6月に発表された新経済・財政再生計画で示された目安を実現すべき、というものだった。

 具体的な目安額は提示されず、目安を示す文言も骨太方針から踏み込んだ内容にならなかった。

 複数の政府関係者によると、19年10月の消費増税後に景気が冷え込まないよう、十分な対策を打ちたいという意見が政府内で多数派となり、さらに診療報酬の抑制に反発する医療関係者の強い働きかけが影響したという。

 全世代型社会保障を目指す安倍首相は、教育無償化の拡大に力を入れ、家計負担を軽減して消費対策にもつなげたいとの考えを再三にわたって表明している。

 同時に政府内には、増税で実質的な所得の目減りの影響が大きい高齢者世帯に対する支援策も手厚くしたいとの声が多くなっている。

 社会保障関係費を厳しく抑制することは、こうした政府内の意向とは相いれないとみられる。

 財政制度審議会の「来年度予算編成に関する建議」(20日発表)でも、今年は社会保障費の目安額を示さなかった。これまで毎年5000億円程度という抑制目安額を明記してきたが、増税が可能となる経済環境を整えることが「先決」と、財務省が戦術を転換した可能性が、政府部内でささやかれている。

 財政再建を重視する政府関係者は「価格上昇の激しい薬や医療高度化により、放っておけば、社会保障費は高齢者人口の伸び以上に拡大する。できれば4000億円前後といった目安額を示したいとの思いはあった」と打ち明ける。

 政府内からも20日の諮問会議で、具体的な抑制額や踏み込んだ文言が示されなければ「最も財政に影響の大きい社会保障費の策定が、ブラックボックスの中に入っってしまう。財政拡大に歯止めが効かない」と嘆く声もあった。

 さらに中長期の財政状況を見通せば、2022年度から30年度にかけて、75歳以上の後期高齢者が急増する(国立社会保障・人口問題研究所)が、この年齢層では1人当たり医療費の国庫負担が前期高齢者の5倍に膨らむ。

 今のうちから社会保障費の抑制に取り組まなければ、財政再建はままならないことは誰もが認識している。

 立正大学経済学部の池尾和人教授は「2020年代には国内貯蓄で巨額の財政をファイナンスできなくなる可能性が高まり、財政の様相も変化するだろう」と指摘する。

 しかし、複数の政府関係者は「今は25年度基礎的財政収支の黒字化目標達成のことなど考えていない」と認めている。

(中川泉 編集:田巻一彦)
https://diamond.jp/articles/-/186302


 

 
今マイナス金利やめた方が景気・物価に好影響−小枝氏インタビュー
日高正裕、藤岡徹、竹生悠子
2018年11月21日 5:00 JST
実証分析で利上げ条件を2%から1%に下げた方が物価を上昇させる
理論が発展段階にある時、データに語らせるとこういうふうになる

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
小枝淳子早稲田大学准教授はブルームバーグのインタビューで、日本銀行が今、マイナス金利を撤廃した方が景気や物価に好影響を与える可能性があるとの見方を示した。日銀の金融研究所は今月5日、約2年前にマイナス金利を撤廃していた場合の景気や物価への好影響を指摘した小枝氏の英語論文を公表した。

  小枝氏は、日銀が今、マイナス金利を撤廃した場合の影響について、まだ実証分析してないので断定はできないとしつつ、総括的な検証を行った2016年9月に比べて景気が良く、物価上昇率も高く、潜在成長率も今後上昇が見込まれるのであれば、「利上げをした方がしなかった時に比べ、経済活動や物価を押し上げる方向に働く可能性がある」と述べた。インタビューは19日に行った。


黒田・日銀総裁Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
  小枝氏の論文「量的・質的緩和のマクロ経済の影響」は1995年から2016年末までのデータを基に、実際に起きた現実と別の想定でシミュレーションを行い、政策効果を定量的に評価するカウンターファクチュアルと呼ばれる手法で実証分析を実施。日銀が16年1月に採用した0.1%のマイナス金利を同年9月に0%に引き上げていた方が、景気や物価に好影響を与えた可能性が高いという結果が得られた。

  小枝氏は元国際通貨基金(IMF)エコノミストで、昨年10月から1年間、日銀金融研究所の客員研究員を務めた。「この論文は研究者としてデータをしっかり分析して結果を報告しようという動機で執筆した。政策提言をしているわけではない」と強調した。

  市場では、金融研究所が現政策に反する論文を公表したことで、日銀が金融政策正常化に向けて布石を打ったとの見方も出ている。黒田東彦総裁は20日の国会答弁で、同論文は「日銀の公式見解ではない」と言明。マイナス金利は「現時点では大幅な金融緩和の一環として必要」と述べ、市場の観測を否定した。

  日銀は13年4月、2年で2%の物価目標の達成を掲げて量的・質的緩和を開始したが、5年半たっても達成は程遠い状況だ。日銀は現在も、2%を安定的に持続するため必要な時まで現行の金融緩和を継続することや、安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続すると約束するなど、2%にひも付けた政策運営を行っている。

  小枝氏の実証分析では、利上げ条件を1%に引き下げた場合、潜在成長率が強ければかえって物価を上昇させるという結果が得られた。景気が十分強ければ、物価上昇率が2%に達する前に利上げしても、「利上げ後にそれほど引き締めなくてもよくなる」と指摘。長期目標として2%を変える必要はないが、「必ずしもそれを利上げの条件にしなくてよいのではないか」と語る。

  日銀の試算によると4−6月期の潜在成長率は0.78%だが、小枝氏は「そこそこ強い」と指摘。今後も0.8%前後の潜在成長率が続くと仮定すると、物価2%を利上げの条件にするより、1%の方が経済、物価に好影響を及ぼすとの見方を示す。

  主流派経済学の標準的なモデルでは「利上げの条件を引き上げるとあまりにも景気や物価に効くのでパズル(謎)と言われている」と指摘。「理論的なものが発展段階にある時に、実証分析によりデータに語らせると、こういうふうになる」と論文の意義を語った。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-11-20/PIHHFB6TTDSA01?srnd=cojp-v2


 

日銀金融政策の今後(田口美一)

日銀のインフレ目標はギブアップすべき?
 田口講師:私の整理では、アベノミクスでは中央銀行として日本銀行がやったことはある程度効果があり、実体経済では円高阻止、株安阻止も結果的にはうまくいきました。経済も非常に順調に回復し、むしろ回復期としては非常に長い、5年超の経済成長に寄与してきたと思います。ただし、この中でたくさんの国債を日銀が買ってしまったので、その出口戦略をどうするかという問題が残っています。また、日銀ではありませんが、日本政府、あるいは財務省が巨額の国債残高を抱えているわけですが、これをどのような道筋で解消していくのか、この二つが大きな宿題として残っています。
 日銀は7月の終わりに緩和策の枠組み強化として一連の内容を打ち出しました。緩和を強化するのか、出口に向けた準備をしているのかよくわからない、矛盾のある内容だったと思います。コメントでは緩和策の強化と言ってはいるものの、政策の具体的発動では、10年国債の0%を維持と言いながら、変動許容幅は±0.2くらいまでよいという言い方をしていて、一体どういう思惑なのかとなったわけです。平たく考えれば、そうは言ってもやはり出口戦略に向かって、国債の金利が0やマイナスというのはまずいので、少しずつ調整を図っていくのだろうというのが読み筋だと思っています。実際に10年国債の金利を見ても、足元では0.15%位まで上昇しています。

 さらに、黒田日銀総裁の公表している政策の推移の中で、最も注目すべきは国債購入で、80兆円としていたものを変更せず、今もそのままにしています。
 ところが、実際そのペースで日銀が買っているかと言うと、日銀の国債残高の推移をプロットした表を見ると、2013年あたりから80兆近いペースで買ってきていたものが、実はすでに2017年から30兆円に減っているのです。そして今年は9月までのところで約22兆円となっています。このようにすでに無理が出てきているのです。実際に資産サイドに負債もついてきているのは当たり前のことで、そもそも5年ほど前から最後のポイントだと指摘してきた銀行券については、3兆円から5兆円ほどは伸びていたわけですが、やはりここにきて急激にストップがかかっています。国債を買っていないわけなので当然、当座預金もそれほど伸びてはいません。掛け声では80兆円と言っても、実際のところはすでに購入ペースは半分以下のところまで落ちてきているのです。
 日銀が異次元緩和を始めたところからの株と為替の推移で考えると、最初の2年ほどは効果が絶大でした。2016年以降は効果が全くないという見方もありましたが、ここまで時が経ち5年間を振り返ると、株価は落ちておらず、為替もトランプ政策があったとはいえ円高には戻っていません。これだけ大規模なことを続けてやり、しかも国債購入ペースが80兆円から40兆円程度に下がっていても、急に逆戻りはせず、かなりの効果が続いているという評価もできるのです。
 また、CPI(除く生鮮食品)をコアインフレ率と日本では呼んでいますが、その水準は1%に向かってゆるゆると落ち込むこともなく徐々に切り上げる動きとなっていて、それほど悲観する状況ではないと思います。世界を見ても、アメリカは2%にしっかり乗ってきていますが、ユーロは1%を割ってきています。イギリスあたりも2%後半から足元はまた落ちてきています。世界で言うコアインフレ率は、生鮮食品とエネルギーを除くもので、日本ではコアコアと言われているものになり、0.4%となっています。しかしこの0.4%も、マイナスから比べると、プラスになってきているわけです。

 そもそも2%は、海外に比べて日本の目標としては高すぎるのではないかということを、元日本銀行幹部でみずほ総研エコノミスト、門間氏がデータで示しています。日本はバブル期から世界に比べてインフレ率が低いという話で、海外で2%といった目標は日本では0%でもおかしくないのではないかというコメントを週刊エコノミストに発表しています。
 また、やや専門的ですが、最近アメリカでよく言われていることがあります。失業率が下がるとインフレが上がってくることを示すのがフィリップスカーブで、図では縦軸と横軸を逆に取っています。普通は景気が絶好調になってくると失業率が下がっていき、ある時点より低下するとインフレが顕著になってくると言われているのですが、これが最近では失業率が下がってもあまりインフレ率が上がっていないということがディスカッションされています。つまり、現在日銀が消費者物価2%を達成するために死に物狂いでやるということ自体に、どこまでの意味があるのかということが取りざたされているのです。

 金融政策の今後として、日銀は2%をギブアップした方がわかりやすいのではないか、また国債、株、リートも、そろそろ購入減額を明確に示した方が良いのではないか、ゼロ金利は一旦終わったという話を始めても良いのではないか、と思うのです。少し古い話ではありますが、2015年に元日銀の田幡氏がIMFからの要請で行った調査で、金融政策の正常化には相当な時間がかかると結論づけています。特にその当時で日本は20年以上、アメリカとヨーロッパでは10年かかると言われていました。しかしアメリカについてはこのときの予測よりも速いピッチで出口を進んでいるのです。日銀の金融政策の今後が注目されているわけです。
動くきっかけはアメリカ?
 ゲスト白川浩道氏(クレディ・スイス証券 副会長、チーフ・エコノミスト):まず2%のターゲットはナンセンスだという気がしています。日本は2%という数字を達成しようとすると、これには統計的な問題もありますが、中に入っている家賃等の全体に占めるウエイトは3割くらいあるのですが、家賃の上昇率は0%あるいはそれ以下なのが実態です。どの国でも公共サービス系の物価、例えば教育費や運賃、家賃が、制度として上がっていくものなのです。そうした国で消費者物価2%を達成するという事は、それほど生活必需品の物価に負担がかからないのですが、日本の場合はそういうところが動かないので、全体で消費者物価を2%上昇させようとすると、食料品が10%も上がらないと達成できない訳で、これは無理な話なのです。
 このような統計的なことを少し勉強すると、より現実的な物価というものがあり得ると考えられます。ないしはもう少し公共的なものも上げていく、インデックス化して賃金として上げていくというような何かをやらないと、突然2%という数字だけを与えられてなんとかしろと言われても、現実的に無理なのです。
 ただ問題は、日銀だけでギブアップできないという問題があるということなのです。もうギブアップしたいし、しようと思っているので、2%達成不可能という見通しを彼らも作っているわけで、ほぼギブアップしてしまったと言えます。しかし、政府がまだギブアップしておらず、やることの意味を自らも問わないので、議論が完全に停滞し、フリーズ状態になっているのです。
 これはやはり誰かが指摘した方が良いと思うのですが、日銀が言っても誰も聞かず、政府でも誰も言わないので、これは永遠に残るのではないかとすら思います。日銀はすでに誰かに助けを求めている状態ですが、日銀側からは言い出せません。おそらく政府も政権が変わらなければ言わないでしょう。
 1つのチャンスは、他の国あたりから言ってもらうことです。日本はもともと無理なことをやっているのではないか、為替を安く誘導しているのではないか、無理なことを目標にしていること自体、実は何か下心があるのではないかと、トランプ大統領に言ってもらうのが一番良いのです。そうすれば大きく変わることになるでしょう。しかしそれを彼が言わなければ、何も動かないだろうと思うのです。私がもしアメリカの大統領だったら、それは無理なのではないか、下心があるのでしょう、為替を安くしているだけだろうと言い、簡単に終わらせることなのです。しかしそれを言ってくれなければ、何も変わらないという気がしています。
(下心があるのでしょう、 私がもしアメリカの大統領だったら、「それは無理なのではないか、為替を安くしているだけだろう」と言い、簡単に終わらせることなのです。しかしそれを言ってくれなければ、何も変わらないという気がしています。)
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座/「株式・資産形成実践コース」講師
田口 美一
11月6日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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【次回の記事】米利上げが与える新興国への影響(唐鎌大輔)
【前回の記事】新たな時代の日中関係(大前研一)

https://asset.ohmae.ac.jp/mailmagazine/backnumber/20181114_1/

米利上げが与える新興国への影響
唐鎌大輔

新興国の局面変化
 2010年を起点としたときの、新興国への累積資本流入額を見ると、2017年に多くの資本が入り、その後に流出が始まっているのが分かります。これは当たり前の話で、アメリカが金利をこれだけ上げれば、ドル建ての資産が相対的に魅力的になってきているということです。

 裏を返せば、今まで新興国のような政治的なリスクや経済的なリスクを負っている、相対的にリスクの高かった資産は、ドルに比べて魅力が落ちるはずで、そこからお金を抜くしかないのです。したがってその動きが、今始まっているというわけなのです。その意味で局面変化が近いという見方ができるのです。
 例えば去年の6月、アルゼンチンが100年国債を発行したという話がありました。その100年国債なども、アメリカでこれだけ金利が付いているのであれば必要ないのです。アルゼンチンは過去100年で5回もデフォルトをしている国であり、無理してそのような国債を買う必要は無いのです。しかし2017年の時には、その100年国債がすごく売れたのです。それはやはりお金が余っていたからです。
 しかしこの1年でアメリカはバランスシートを大きく縮小し、これからも縮小していくので、お金の量は世界的に減っていくわけです。その中でどこを削るかというときに、投資家としてはやはり、新興国を削ることになるわけです。こうした動きはこれからも続くと思います。
 そもそもアメリカが金融緩和をして、新興国にお金が入ってきたからこうした事態になりました。アメリカが金融緩和をしたときに、新興国にお金が入る段階で資本規制をしておかなければいけなかったのです。量的緩和で新興国にお金が入り、新興国の資産価格が上がることになったわけで、その量を減らした時には、その逆のことが起きるのは当たり前です。金融引き締めをしても大丈夫だと言う人は、徐々にやるから大丈夫だということを言いがちですが、緩和をするときに効果があると言っておいて、止める時には影響がないと言うのはやはり無理があるのです。本来こういうことが起きないためには、資本規制を敷いて量的緩和の影響を新興国が受けないようにするべきだったのです。
 しかし、株が上がることを止めるのは、上がって困る人がいないので、非常に難しいのです。このことは、次回同様の局面では、真面目に議論しなければならないことだろうと思います。入ってくるお金で資産価格が加熱しないように、新興国はケアをしなくてはいけないのです。ただそうは言っても、やはり皆バブルが破裂しないとバブルだと気づかないもので、加熱する過程で止めるのは実際難しいだろうと思います。
 新興国に入ったお金の中身を見てみると、その60%弱がアメリカの量的緩和要因で、30%弱が低金利要因で、合わせて90%程度がアメリカの金融政策要因によって新興国にお金が入っています。

 しかし今、そのバランスシートは縮小していて、金利はどんどん上げているわけなので、新興国の資本は流出して当たり前です。9割近くがそこに端を発しているものなので、どう考えても資本流出は避けられないと言えます。新興国の経済も良いのでお金が残るのではないかという見方もありますが、新興国のファンダメンタルズ要因の資本流入はわずか1%程度なので、1%は残るかもしれませんが、どう客観的に見てもアメリカが利上げを続ける限りにおいては、今後新興国からお金が抜けることは規定路線と言えるのです。
 そうしたことを前提に、いろいろな相場や経済の見通しを考えていかなくてはいけないのです。アメリカが元気でアメリカが利上げを続けるという前提に立つと、新興国にお金が入るという事はおそらくありえないのです。わざわざそんなことをする必要がないからです。予想ですが、基本的にはこの資本が出ていくという部分に関しては、ほぼ約束された未来だと言えるのではないでしょうか。
 アメリカ経済が耐えられるかどうかというよりも、新興国が耐えられるかどうかが心配だと話ましたが、新興国の経済が何に困っているかと言うと、インフレに困っています。インフレでは通貨安になったら困るわけですが、今世界では、これまで観てきたとおり、新興国からお金が抜けて、新興国の通貨が下がるということが慢性的に起きているのです。そうするとインフレが加速してしまいます。それを止めるために彼らは何をしているかと言うと、通貨防衛です。要するに、利上げをしているわけです。
 世界的に新興国の中央銀行は、同時多発的に利上げをしている現状があります。2018年の累積変更幅を見ると、ロシアや南アフリカのように金利を下げた国もありますが、利上げをした国が多くあります。つまり、景気がすごく良くて利上げをしたいというわけではないのに、通貨が下がり続けると国内経済にインフレを通じて悪い影響があるので、防衛をしているのです。結局はアメリカの利上げによってやらされているという格好になっているのです。

 これではいずれ経済に対してネガティブなことが起きるという事は容易に想像がつくでしょう。これが続いていくと、ろくなことにはならないという前提で、マクロの見通しを立てるべきでしょう。今後もアメリカがどんどん利上げをし、円安ドル高、米金利も3.5%を超えてという予測をする人はもちろんいますが、この場合新興国はどうなってしまうのかという事は置き去りにされてしまっているのです。
 パウエルFRB議長も9月の記者会見の時に、自分たちの政策が新興国に影響を与えているという認識はあると言っています。
 しかしまだ自分たちの政策を変えるほどの話ではないと話しています。ということは、変えるほどの話になるという結末も、十分に頭の片隅にあると考えられます。FRBは、新興国を筆頭とする国際金融市場の混乱を理由として、利上げの手を止める、当然米金利が下がり、ドルも下がる、結果として円高になるというのが私の見通しのメインシナリオです。
 実際このシナリオが今年に起こると思っていたのです。
 しかし、アメリカの経済が凄く強いと、中央銀行としては利上げを止める理由がなくなってしまうのです。NYダウが高く、アメリカ経済が良い状態だと、新興国の資産価格もなんとなく値持ちしたりもするわけです。それにより結局、アメリカが強い限りにおいては、こうしたダラダラした状態が続きます。アメリカ経済に対する認識がFRBの中で変わってくれるほど新興国が混乱しないと、FRBの今の強気な姿勢は変わらないでしょう。
 どうなったら目が覚めるのかというのは、端的には株の急落が続く場合でしょう。明らかに今年2月、10月、11月と株が動揺しているので、この動揺を放って置けなくなったときに、FRBの正常化プロセスは止まるのではないかと思います。
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みずほ銀行 国際為替部 為替営業第一チーム
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唐鎌 大輔
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【前回の記事】日銀の金融政策の今後(田口美一)


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コメント
1. 2018年11月21日 20:27:19 : ZzavsvoOaU : Pa801KbHuOM[146] 報告
【第3回】 2018年11月21日 木下 斉 :地域再生事業家
ヒーロー幻想が地方を滅ぼす「狂犬」木下斉が語る、誰も語らなかった地方のリアル(3)
地域活性化、いわゆる「地方創生」の分野で「狂犬」と呼ばれる男がいる。木下斉、36歳。権力者に対する忖度や曖昧な意思決定がはびこる地方において、耳が痛くなるような正論を放ち続けることからついた異名だ。既得権益層には「狂犬」、若手にとっては「希望の星」。
そんな木下氏の新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』の発売を記念してインタビューを刊行した。地方におけるビジネスの要諦を全三回でお届けする。今回が最終回。前編・中編はこちらから。(構成:井上慎平)

ストレスによる10円ハゲ、関係者の夜逃げ。すべて、必要な失敗だった

木下 斉
地域再生事業家
1982年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、修士(経営学)。国内外の事業による地域活性化を目指す企業・団体を束ねた一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、一般社団法人公民連携事業機構理事を務めるほか、各地で自身も出資、共同経営する熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、サッポロ・ピン・ポイント株式会社代表取締役、勝川エリア・アセット・マネジメント取締役なども務める。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画したのを発端に全国商店街共同出資会社・商店街ネットワーク取締役社長に就任。その後現在に至るまで事業開発だけでなく地方政策に関する提言も活発に続けている。
――前回は、地方でビジネスを立ち上げるのに必要なのは「失敗を許容する姿勢」、逆に邪魔になるのは「失敗してはいけないという思い込み」だと伺いました。木下さん自身も、過去は失敗を積み重ねてきたのですか?――

それ、聞いちゃいますか(笑)。
当たり前じゃないですか。現在進行系で、失敗の連続ですよ。

私は高校生の頃に全国の商店街が出資してつくる「商店街ネットワーク」という会社の社長になったのですが、慣れない仕事にストレスで10円ハゲができたり、あまりに理不尽なことを言われ、株主総会で株主たちにブチ切れして社長を退任することになったり……その後も投資した事業で関係者が夜逃げをしたり、代金を踏み倒されたり、アイデアだけを取られてプロジェクトから外されたり、地元の経済団体から圧力を受けたりしました。

――す、凄まじい量ですね。――

でも、そういう中で本当に信頼できる仲間ができて、各地で一緒に会社を作って仕事をさせてもらえているのだから、必要な失敗だったと思うんですよね。
僕は別にどでかい成功をしたわけではないですが、今もおかげさまで好きなことはさせてもらえているわけです。

メディアは成功した後しか報じないから過去の「失敗」がイメージできない
ただ、メディアは成功してからしか地域のプロジェクトを取り上げないうえに、都合のよい美談ばかりを切り取ろうとします。だから、成功した後の姿だけを見ても、過去の失敗をイメージできないし、その段階に至るまでになくなっていった数多のプロジェクトなんて知られもしない。

でも、僕が知っている地域で成功している人は誰だって、たくさんの失敗を背負ってきていますよ。彼らだって、ときに心が折れかけ、事業なんて放り出して逃げ出したいと思うことさえある、ちっぽけな、生身の、弱い人間なわけです。それでも、取材されたときに「いやぁ、もうやめたいんですよ」なんて言えないですから。「地域のために頑張っています」とか当たり障りないコメントを言わざるをえない。

それなのに、多くの人は成果をあげた後の姿だけを見て「ああ、自分には無理だ。あの人とは器が違う」と諦めてしまう。けれど、実際に酒を飲んで話してみれば、同じ人間だとわかるはずです。

いろいろなことにビビって眠れない夜があったり、喧嘩したり、スタッフがついてこなかったり……日常茶飯事ですよ。そういうトラブルがあっても、成果をあげるまでやめなかっただけ。
最初から成功続きの天才だったわけではないんです。

明日のリーダーは、今日の凡人である

――『凡人のための地域再生入門』というタイトルにはそのような意図も込められているのでしょうか?――

まさに、そのとおりです。
衰退する地域に共通している問題は、「うちにもすごいリーダーがいればなあ」という「他力本願マインド」です。けれど、いつまでたってもそんなスーパーマンなんて来ないんですよ。どのまちにも、最初からスーパーマンだった人なんていないからです。

結局、うまくいっているまちと衰退するまちの差は、「ヒトなし・モノなし・カネなし」、という困難な状況でも、めげずに足を一歩前に出し進んできた「凡人」がいたかどうかだけです。
最初から評価されていたのではなく、成果をあげたから評価されるようになったわけですから。彼らだって、地元では「あいつにできるはずはない」と言われていた「凡人」たちばかりなんです。

だから凡庸であることを理由に自分ではないスーパーマンを待ち望んでいる限りは、いつまでもその地域は動き出さない。

それを伝えたくて、この主人公の物語も「都市部で会社に言われたことをやるだけの弱気なサラリーマン」という設定にしました。
実際、今地域で「ヒーロー」として注目される人の多くは、過去は東京などの大都市で普通に暮らしていた、専門家でもなんでもない目立たない存在でした。けれど、自分なりに少し勇気を出して挑戦したからこそ、そこから道が拓けていったわけです。地域活性化のため、なんて大げさなことは思わずとも、好奇心を突き詰めて成果をあげ、結果として地域のためになっているケースだってあります。

明日のヒーローは、今日の「凡人」なんですよ。

――立ち上がった「凡人」がいたかどうかが地方の明暗を分ける、と。――

そう思います。
地方を変えるには、不条理にも失敗にもめげず、泥臭く前に足を踏み出し続けるほかない。こうしたリアリティこそ、自分が伝えなければならないのではないかと思いました。だから、この本はストーリー形式でなければならなかったんです。

まだやっていない人にはそのリアルを疑似体験してもらい、もうやっている人には自分だけではないという連帯感や自信を共有したい。
そう思って書いたら、結果的に、私のまわりの知り合いからも「別に地域再生とか興味ないし、木下の今までの本は理屈っぽくてよくわからんかった。でも、この本はおもろい」と言ってもらえています(笑)。

自分の本をまず一冊読むなら、まずこれから読んでもらえると嬉しいです。

さびれていく地元に後ろめたさを抱えつつ、今日も都市部で働くサラリーマンへ
――最後に、この本は、誰に読んでほしいですか?――

ここまで、「闇」を語りすぎたので、地方で働くことがとんでもない苦行のように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
仲間には、「都市部で働いて、言われたことだけしていた時期のほうがよっぽど辛かった」とよく言われます。そういった意味で、この本は、都市部で働くサラリーマンも読者として想定しています。

「いつか地元の役に立てればいいな」とぼんやり思ったまま都市部に出て、帰るタイミングを失った人は結構多い。そういった人たちに、いつも問い合わせをいろいろともらいますから。

頭の片隅に、さびれていく地元に対する後ろめたさがある。もしくは、親の介護や事業を継ぐなどの理由で、いつかは帰る可能性がある。そんな人にこそ、読んでもらいたいですね。

別に将来地元に戻ることがなくても、戻って頑張る友人をサポートすることもできるでしょう。持ち家を貸し出すとか、できる範囲でいいんです。
それぞれができること、小さなこと、凡庸なこと、「どうせやってもしかたがない」と思うようなことを積み重ねれば、この物語の主人公のように思いもしない展開へと繋がることもあります。

それが、地域再生の醍醐味ですから。
https://diamond.jp/articles/-/186025

 
黒字廃業する近江商人、継ぎませんか?
記者の眼
東近江市が東京で「あとつぎさん」探しイベント開催

2018年11月21日(水)
松浦 龍夫

 「黒字やのに、廃業する会社が地域で増えてるんやわ」――。先日、関西のある中小企業経営者に取材したときに出てきたコメントだ。その地域とは、「三方よし」の近江商人で有名な滋賀県東近江市。最近では、長く事業を営んできた日本有数の黒板メーカーが、業績は好調なのに会社をたたんでしまったと嘆く。

 事業継承の厳しさを裏付けるデータがある。中小企業庁の調査によると、2017年に廃業した企業の約半数が黒字廃業であり、その大半が社員50人未満の小規模事業者だった。「黒字廃業」を選択する企業は、正社員のなり手がいない人手不足、または後継ぎ不在のいずれかの事情に当てはまることが多いという。

 東京商工リサーチが10月に発表した調査によると、2018年1〜9月の人手不足による倒産は299件と、過去最多のペースで増加していることがわかる。リクルートワークス研究所が19年卒を対象とした調査を見ると、300人未満の中小企業の大卒求人倍率は約10倍、つまり1人に10社が押し寄せるほどの採用難となっている。

 後継者不足についても深刻で、帝国データバンクが17年11月に発表した「後継者問題に関する企業の実態調査」によると、国内企業の3社に2社が「後継者がいない」と回答している。

「あとつぎさん」探します
 このような状況下で、中小企業が自力で後継ぎを探すことは困難を極める。社員が数人単位の組織では、安心して事業を任せられる人材が社内にいるとは限らないからだ。最近は事業承継を地元銀行やベンチャーキャピタルがサポートするケースもあるが、手間がかかる割に仲介料も高くはない地方の小さな企業の案件はなかなか支援されないという。

 「商売上手で知られる近江商人も人材難には勝てないのか……」と感じた取材から3カ月後、冒頭の経営者から「11月にみんなで東京に出て後継ぎを探すことにしたんや」と連絡が来た。

 イベントは東近江市が企画し、11月9、10日の2日間、東京駅そばの貸会議室で開催した。「黒字廃業」の危機に瀕している同市の企業8社が参加してブースを設け、個別相談に応じた。東近江市の担当者は「このように地方の経営者自らが上京して後継ぎを探すイベントは聞いたことがない」と話す。

 私も会場に足を運んでみると、各社のブースで経営者と後継ぎ希望者が真剣な面持ちで面談を行い、テレビや新聞社の取材も入るにぎわいを見せていることに驚いた。東近江市によると、2日間で42組50人が来場したという。市の担当者は、「目標の40人を大幅に上回った。告知をあまりしていないのに関心の高さに驚いた」と語る。


11月9日に開催された東近江市の後継ぎイベントの様子
 出展企業に話を聞いてみた。その1社であるヤマサンは自社製品10種類を机の上に並べて、代表取締役の奥山進氏自らが来場者に熱心に対応していた。奥山氏が「唐辛子好きが高じて商売を始めた」という同社は、無農薬の唐辛子にこだわり、香辛料の製法で特許を取っていて都内の高級飲食店チェーンにも卸している。

 しかし「社員は家族のみであとは地元の高齢者の方のアルバイトだけ。娘もいるが、結婚して跡を継ぐのは難しい」と現状を説明する。79歳という年齢もあり廃業も考えたが、「取引先の飲食店や自治体からもやめられたら困ると言われて。これだけ必要としてくれているなら、なんとか存続したいと。イベントでいい人が見つかれば」と参加理由を話した。

 ほかにも、米粉パンの材料として人気のある米粉を扱う「丸宮穀粉」をはじめ、老舗の貸衣裳業者、ぶどう、なしの栽培農家なども参加。それぞれのブースで経営者が「後継ぎ候補者」と話す姿は真剣そのものだった。経営者がこの場で見込みがあると判断した候補者は、後日改めて企業を実際に訪問する機会を得て、労働条件が合えばまず働いてみて、お互いの意思が確認できれば事業継承という流れになるという。

 想定以上の来場数で、一定のマッチング効果はあった今回のイベント。テレビに取り上げられた唐辛子のヤマサンでは、ウェブから大量の注文が入るというオマケまでついた。


イベントに関連したメディア露出で注文が殺到したヤマサンの香辛料
 一方で、参加した経営者からは「何十年も存続させたいから若い人に託したいが、来たのは50歳を過ぎた企業のリタイヤ組が多かった」「自社には女性向け製品が多いので、女性社長を募集したかったが男性が多かった」と、ミスマッチを指摘する声も上がっていた。

 始まったばかりのイベントで課題は多いが、長年かけて築いた事業基盤の次世代への継承は多くの経営者にとって切実な願いだ。主催者である東近江市には同じ悩みを持つ近隣の自治体から、イベントについての問い合わせが相次いだという。自治体、企業、来場者の反響から、より大きなイベントに発展する可能性も感じられた。もちろん、イベントが成長する一番の特効薬は、実際に移住者の「あとつぎさん」が生まれ、定着することに違いない。今後の取り組み、展開に注目したい。


このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/111900625/?ST=editor


 

平賀源内を生んだ「国産化」という渇望
通商の課外授業
田沼意次のイノベーション政策から学べること

2018年11月21日(水)
羽生田 慶介


田沼意次の政策を追い風に次々とイノベーションを起こした平賀源内(提供:首藤光一/アフロ)
 「白河の 清きに魚も 住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき」

 江戸時代の中後期(1790年前後)にうたわれたこの有名な狂歌は、幕府の実権を握っていた田沼意次(たぬまおきつぐ)による賄賂の横行やダーティーな政治慣習を際立たせるものとして扱われることが多い。

 田沼の後に老中として寛政の改革を進めた元白河藩主、松平定信(まつだいらさだのぶ)によるクリーンで倹約志向の政治が息苦しく、田沼時代の自由闊達な庶民生活が懐かしい、という意味だ。

 近年、田沼意次という政治家の手腕を改めて高く評価する研究が増えている。

 もちろん、賄賂や金権体質をほめているのではない。通商産業政策の学びとして、多くの示唆を田沼から得ることができるからだ。

 平賀源内(ひらがげんない)や杉田玄白(すぎたげんぱく)といった日本の近代史における屈指のイノベーターも、田沼意次の政策がなければその才覚を十分発揮できなかっただろう。

田沼意次が挑んだ国難「経済破綻」
 田沼意次が老中として政権を担った当時の日本の状況を、今日のビジネスパーソンに分かりやすく例えてみれば、さしずめ「アジア通貨危機(1997年)の頃のインドネシア」(のインフラ環境・科学技術が200年前の状態)といったところだろうか。

 「資源依存の輸出構造の中で」「資金流出が止まらず」「税収が足りない」という難局だ。

 原油などの資源に依存する輸出構造の中、ルピアの為替レート暴落により大きな金融危機となったのが1990年代後半のインドネシアだ。

 ただ、田沼時代以前の日本の「資源依存」は少し背景が違う。

 当時の日本は主要な輸出プロダクト自体が金や銀という資金そのもので、その産出の底が尽きることで輸出はおろか、貨幣の鋳造すら難しい危機的状況に陥っていた。

 たび重なる天変地異で凶作が続く中、前政権である徳川吉宗が続けてきた増税(年貢増徴)政策は限界を迎えており、経済再建に向けたあらゆる手を打たねば国の破綻を避けられない。

 こんな状況で国政を託されたのが田沼意次という政治家だ。

保護主義に逃げず「俵物」で輸出拡大
 破綻が近い経済を立て直すため、まず田沼意次がとった政策は、ビジネスセクターからの徴税の強化だ。

 問屋や仲買などの民間グループ(仲間組合)に特権を与え、その対価として課税をする。これに加えて献金の要求を増やしたことが、賄賂の横行を招いたとして歴史に悪名を残すことになる。

 だが、これはあくまでも危急の財政政策。今、注目すべきなのは、田沼がリードした通商産業政策だ。

 まず田沼はこれまでの幕府政策を転換し、長崎貿易を拡大させる。「保護主義では自国経済が立ち直らない」と、素早く決断したのだ。

 それまでの幕府は、金・銀の大量流出に焦りに焦った結果、長崎貿易を縮小していた。国内が不況の中、いわゆる「鎖国」下にありながら例外的に進められてきた、幕府による管理貿易の窓口である長崎の貿易すら減らせば、まさにジリ貧だ。

 そこで田沼は、前政権まで主要「輸出」品目だった金・銀を、逆に「輸入」ターゲットに設定した。それには新たな輸出品目が必要となる。

 まだ産出できる銅に目を付けたが、この資源交換だけでは到底、経済再建には間に合わない。そもそも資源の一次産品をそのまま輸出するコモディティ取引では、国際的な代替拠点との価格比較もされてしまう。

 付加価値をつけたカタチで輸出できる日本の資源が必要だ。

 田沼政権は加工海産物、いわゆる「俵物」の増産に邁進する。煎海鼠(いりなまこ)・干鮑(ほしあわび)・鱶鰭(ふかひれ)の「俵物三品」という名前は、歴史の授業の記憶にあるのではないだろうか。これらは特に中国(清)に高く売れた。

 だが、高付加価値な加工海産物は、そう簡単に当時の漁村で量産できるわけではない。幕府は、加工・量産技術をもつ事業者(請負商人)に外部委託し、加工海産物の製造方法を日本沿岸各地に伝授させて回った。そして高い品質で生産された俵物は、政府が集中的に買い上げた。

 通商政策と産業政策の連携、そして中央政府と地方自治体の連携の観点で高く評価に値する。

輸入品の「国産化」によるイノベーション
 長崎貿易の拡大という勝負に出た田沼意次には、「俵物」の増産による輸出強化と同時に、もうひとつの重要な政策が必要だった。

 それが輸入品の「国産化」だ。

 今日のビジネスパーソンも魅了するイノベーター、平賀源内もこの殖産興業の政策を追い風に活躍したのだ。

 庶民に人気のある商品の多くは、当時のハイテク大国である中国(清)などから来る輸入品。

 ハイテクと聞くと、平賀源内の有名な「エレキテル」(摩擦起電器)をイメージするかもしれないが、当時のハイテク製品のほとんどは電気を使うようなものではない。精巧な陶器や、栄養価の高い農産物、そして薬などが、高い技術力の結晶だ。

 これらに精通したエンジニアは「本草学者」と呼ばれた。

 海外から薬草や野菜の種を輸入し、日本の土壌に合った栽培方法や量産プロセスを開発する。

 例えば、当時大成功を収めた「甘藷(サツマイモ)先生」こと青木昆陽(あおきこんよう)は、江戸以降の幾多の日本国民の飢えを救った立役者として現代でも評価が高い。

 もう一人、田沼時代の本草学者として著名なのが「人参(ニンジン)博士」とも呼ばれる田村藍水(たむららんすい)だ。

 栄養価の高い朝鮮人参は、嗜好品としてだけでなく医療目的のニーズも高かった。輸入に頼っていては高価すぎて庶民には手が届かない。貿易収支も悪化する。これを解決し国産化を進めた田村藍水は、他にもオランダなどからの輸入に頼っていた白砂糖の国産化も手掛けている。

 この田村藍水に弟子入りしたのが、平賀源内だ。

「国産化」を目指した平賀源内の「弱み」
 「日本の土をもって、唐・阿蘭陀(オランダ)の金銀を取り候」

 陶芸家としても名高い平賀源内は、陶器の製作にあたりこう記している。

 長崎貿易で中国やオランダから高価な陶磁器が輸入され、対価として金銀が流れ出ることを自らよく見ていた源内は、幕府に提出した『陶器工夫書』のなかで、天草地方の土が製陶に適している分析結果と、国産陶器の輸出による国益を提言している(平賀源内記念館資料より)。

 杉田玄白から「非常の人」と評され、自分の興味のままに発明に打ち込んだように思われている平賀源内だが、そのモチベーションには輸入品の国産化による国益の確保が見える。

 源内が国産化を目指したものは、他にもある。例えば薬品だ。当時、下剤・利尿剤の漢方薬として重宝されていた芒硝(硫酸ナトリウム)も、源内は国産化をトライした。師匠の田村藍水が国産化した朝鮮人参と同様、輸入に頼っていたために高価すぎたのだ。

 平賀源内が幾度も開いた「薬品会(やくひんえ)」という展示会も、薬の「国産化」の狙いだ。藩ごとに個別最適で進められていた薬品の研究開発を集約することで、海外から高額で輸入している薬を国産に切り替える仕掛けだ。

 自分の手元で発明するだけでなく、産業構造の変革も源内のチャレンジのひとつだったのだ。

 だが、ここで源内の課題が露呈する。

 源内は「R&D」や「試作」には長けていたが――実は「量産化」ステージにはめっぽう弱かった。

 前述の芒硝も、伊豆で原料を入手して少量生産には成功したが、産業として成り立たせるだけの量産はできなかった。

 もう一つ有名な源内の発明である「火浣布(かかんぷ)」(アスベスト製の燃えない布)も、量産化には失敗。試作品のプレゼンテーションが幕府で大ヒットし、すぐに大型受注を取り付けるも、結局、原材料の採掘量が予定を満たせず事業撤退となってしまった。

 稀代のイノベーター平賀源内も、研究開発型ベンチャーが直面する「死の谷」や「ダーウィンの海」と呼ばれるハードルを越えることの難しさを痛感したのだろう。

 この後、源内は賀茂真淵(かものまぶち)に入門し、突如、文芸家に転身する。

 源内のチャレンジは全てが成就したわけではなかったが、それでも、彼による『物類品隲(ぶつるいひんしつ)』の編纂などの産業貢献は大きく、田沼意次が進めた輸入品の「国産化」はひとつひとつ実を結んでいった。

 経済破綻を目前にした田沼の思い切ったイノベーション政策が、当時の国難を乗り切ることに繋がったことは間違いない。

他人の「国産化」を笑うな
 世界にはいまだ「国産化」への渇望が渦巻いている。

 例えば、田沼時代に似た例として挙げたインドネシアにも、国産化を強化する試みが長く続いている。

 1980年代は、自動車部品のうち政府が指定した品目を義務的に国産化させる政策を実施。だがこれが最終的な単純加工だけインドネシア国内で行う「見せかけ」の国産化を招いたことを受け、その後は国産化の工程や付加価値に応じた恩典を与える政策にシフトした。

 近年のエコカー政策やスマートフォンの生産においても部品の現地調達要求が続いている。

 実は、現在のグローバルな貿易ルールにおいて、国内産の部品や材料の使用を求める政策は禁止されている。WTO(世界貿易機関)のTRIMs(Trade-Related Investment Measures)協定における「ローカルコンテント要求」禁止というルールだ。

 それでも、田沼時代の日本と同じく、今日でも開発途上国が持つ「国産化」の渇望を消すことはできない。そこでWTOは、経済発展のための必要性が認められれば、開発途上国には例外的に「ローカルコンテント要求」を認めている。

 これを「どうせ日本のメーカーの品質には遠く及ばないだろうし、途上国にも頑張っていただきたい」などという「上から目線」で捉えていてはいけない。これからの新興国の「国産化」は、一気に高い競争力を獲得する可能性が高いのだ。

 新興国のイノベーションでは、「リープフロッグ現象」という言葉がよく使われる。

 彼らの製品・サービス開発は、日本がこれまで歩んできた段階的な進化は踏まない。途中の段階をすべて飛び越して、一気に最新鋭の技術を前提とした創造性を得るのだ。Leap(跳躍)するFrog(カエル)のように。

 固定電話は持ったことがないのにスマートフォンが普及していたり、銀行口座はない人々が電子決済を活用している新興国市場がまさにそれだ。

 インドネシアの現地メーカーAdvanが2018年前半に発表した新作スマートフォン「G2」は、なんと1600万画素のフロントカメラを搭載している。最新iPhoneのフロントカメラは半分以下の700万画素だ。

 「自撮り」を好むインドネシア人のニーズに応えるため、一気に最先端のカメラモジュールを組み込んだのだ。

 田沼時代の日本では、杉田玄白がオランダ語の医学書ひとつを翻訳するのに3年以上が必要だった。この時代の「国産化」は苦心の連続だったことだろう。

 だが、ますます情報や技術の移動が加速する今日、新興国が渇望する「国産化」はイノベーションの種の宝庫だ。

 新興国企業の成長を脅威に捉えるのではなく、一緒に国産化を実現するパートナーになれるかが、今後のグローバル競争で勝つためのカギとなる。


 当コラムの執筆者の書き下ろし書籍『稼げるFTA大全』が発売になります。

 TPP11や日本EU・EPA(経済連携協定)。2019年には大規模FTA(自由貿易協定)が相次ぎ発効される見通しです。けれど、果たしてこれらの動きが、日本の企業にどんな影響を与えるのか、十分に理解している経営者やビジネスパーソンは少ないのではないでしょうか。

 しかし本書で指摘しているように、「関税3%は法人税30%に相当」します。仮に、これまで輸出入でかかっていた関税がゼロになれば、それを活用するだけで、昨日と同じビジネスを続けていても、ザクザクと利益を生み出すことができるのです。ほかにも、海外企業のM&Aがよりやりやすくなったり、各国GDPの10〜15%を占める「政府調達」に入札しやすくなったりするなど、FTAを活用することで、ビジネスチャンスはぐんと広がります。

 同時に、FTAのルールをきちんと守れていなければ、税関当局の指摘を受けてしまい、サプライチェーンが止まるという甚大な被害を受けることもあります。

 日本初、企業が「稼ぐ」ためのFTA攻略本をみなさんの会社の経営に役立ててください。


このコラムについて
通商の課外授業
 経済産業省で諸外国との経済連携交渉に従事したのち、複数の戦略コンサルティング企業で事業戦略立案などに取り組んできた羽生田慶介氏(デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員)が、各国の通商政策・戦略や、その攻防の舞台裏、トリビア(豆知識)などについて、分かりやすく解説します。

 英国のEU離脱やトランプ米大統領の登場などにより、各国の通商政策は激変の時を迎えており、変化を見据えた対応が急務です。競争から取り残されないためのヒントを提供します。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/070600051/111900015/?ST=editor

2. 2018年11月21日 22:54:17 : SimMBMBEJC : 7ZsZRwKenB8[7] 報告
>立正大学経済学部の池尾和人教授は「2020年代には国内貯蓄で巨額の財政をファイナンスできなくなる可能性が高まり、財政の様相も変化するだろう」と指摘する。

なんて、書いてますが、ファイナンスは日銀がしてるから問題ないのでは。むしろ、ファイナンスできなくなったら、国債暴落・金利上昇でにっちもさっちもいかなくなるのでは。
ここまできたら、日銀がファイナンスし続け、他方、円の暴落には目をつむるということを余儀なくされるのでは。そうするとやっと、輸入価格も円建てで暴騰して、すばらしいインフレ経済になってゆくでしょう。

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