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Washington Files 印パの相互核抑止は実際に機能するのか   朝鮮半島にもあてはまる深刻な問題
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投稿者 うまき 日時 2019 年 4 月 15 日 13:13:16: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

Washington Files

印パの相互核抑止は実際に機能するのか

2019/04/15

斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)


(iStock.com/flySnow/Purestock)
 カシミール地方の領土争いめぐりインド、パキスタン間の緊張が高まる中、両国が保有する核戦力の「相互抑止力」が果たして戦争を回避できるのかという論議が欧米で活発化しつつある。ホワイトハウスも昨年1月公表した「米国国家安全保障戦略」報告書の中で、印パ間での核戦争の危険に言及、深刻な懸念を表明したばかりだ。

 「核抑止力=nuclear deterrence」とは、圧倒的破壊力を持つ核兵器を保有することで相手国は報復を恐れ、侵略や攻撃を思いとどまり、結果的に戦争を回避できるとのコンセプトを意味する。冷戦時代、米ソ両超大国が核戦争に至らずに済んだのも、双方が、いずれかによる先制攻撃に対し大量核報復できる体制を維持してきたからだと説明されてきた。さらにそこから、核武装が平和確保を保証するといった極論さえ一部に存在する。


(AP/AFLO)
 ではインド、パキスタン間の紛争の場合も、双方が核武装している現状をもって、「相互核抑止力」が機能し、結果的に核戦争につながることはない―と単純に言い切れるだろうか。実際は、そう簡単な話ではない。「核の均衡=nuclear parity」を維持してきた超大国間の体制と、宗教や民族問題など複雑な要素が絡んだ印パ間のような地域紛争とは同日には論じられないからだ。

 そこでなぜ、印パ情勢が楽観を許さないかについて、過去の事例を参考にしつつ、冷静に議論する必要がある。

 直面する世界の諸問題への対応を論じた「米国家安全保障戦略」報告書は、印パ間の緊張関係について具体的に「両国間の軍事対立が核交戦につながる恐れは、アメリカにとっても依然として重要な懸念材料であり、外交的関心と注意をつねに持ち続ける必要がある」と指摘、とくにパキスタンに対しては「同国が保有する核兵器について責任ある管財人(responsible steward)であることを証明し続けるよう、わが国としてうながしていく」として、核の先制使用やテロリスト・グループへの流出の事態につながることのないようクギを刺した。

 アメリカがとくに南アジアでの核戦争勃発を懸念するのは、クリントン政権下の1999年に起こった印パ間の「カーギル戦争」当時の記憶があるからだ。

「相互核抑止力」地域紛争の際には必ずしも機能しない
 これは同年5月から7月にかけて両国国境沿いのカシミール山岳地帯の要衝「カーギル」のインド側実効支配地域をパキスタン側のイスラム武装組織と民兵部隊が占拠、エスカレートして両国軍が戦争状態に突入したことから「カーギル戦争」と呼ばれたものであり、一時はパキスタン軍が、猛反撃に出たインド軍に対抗するため、核兵器使用も検討したといわれるほど緊迫した情勢となった。両国が1998年、ともに核兵器開発実験を実施したその翌年のことだった。

 とくに交戦期間中、パキスタン外相が「戦いが長引いた場合、わが国は持てるあらゆる戦力を投入するのにやぶさかでない」と核兵器使用を示唆する警告を発したことや、パキスタン戦略部隊が核弾頭を国境地帯に移動させたとの情報をアメリカのCIAおよびDIA(国防情報局)が入手したことなどから、同年7月、クリントン大統領が急遽ホワイトハウス訪問を促したシャリフ首相に対し、パキスタン軍の同地域からの撤退の要求と核使用への厳重警告を行ったことで知られる。

 結局、アメリカはじめ国際社会の厳しい批判と反発もあり、パキスタンは核の先制使用に踏み切ることもなく、インド支配地域からの部隊撤退を決定、事態収束につながった。

 ただ、この「カーギル戦争」が残した重要な教訓を見逃してはならない。それは、「相互核抑止力」は超大国間の場合と異なり、地域紛争の際には必ずしも機能しないという点だ。

 「相互抑止力」は、以下のような重要な前提から成り立っているからだ:

核兵器を管理する軍部に対するシビリアン・コントロールが確保されているかどうか
当事国の政治指導者が国民感情や過激な宗教対立意識に流されず理性的判断を下せるかどうか
国民が核兵器使用のもたらす恐るべき被害や悲劇的結末について十分な知識と理解を持っているかどうか
 遺憾ながら、印パ対立のような地域紛争では、超大国の場合とは異なり、これらの前提のいずれをも充たしているとは言い難い。

 たとえば、シビリアン・コントールについては、「カーギル戦争」の場合、徹底されておらず、パキスタン軍部が独断で一部の核弾頭を紛争の前線に移動させたとみられている。ホワイトハウスに出向いたシャリフ首相が、クリントン大統領の口から核弾頭配備の動きを初めて知らされた時、驚きの表情を見せたと当時のホワイトハウス高官が証言していることも、それを裏付けている。

 また、シャリフ首相は「カーギル戦争」終結直後にムシャラフ陸軍参謀長の画策した軍事クーデターにより失脚、政界から追放されたが、このことも、パキスタンのような軍事体制下では理性的な判断を下す指導者が不在となり、従って核抑止力も機能する状況になかったことの証左ということもできよう。

 「カーギル戦争」当時、クリントン大統領とシャリフ首相の緊迫した会談に同席したストロブ・タルボット国務副長官は2004年刊行した回想録の中で「大統領はキューバ・ミサイル危機以上に深刻な事態と受け止め、首相に対し顔を紅潮させながら、部隊の戦闘地域からの撤退と核兵器不使用を強く要求した。クリントン政権が取り組んだあらゆる外交・安全保障問題の中で最も危険かつ瀬戸際のエピソードだった」と述べている。

 しかしその後、インド、パキスタン両国とも年々、軍事予算を増額、互いに軍備増強が続いている。核戦力も例外ではない。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)発行の2018年度最新版各国軍事力報告書によると、インドは核弾頭130-140発、パキスタンは140-150発を保有していると推定される。

両国核交戦となった場合、持久力の面でインドのほうが格段に有利
 この数字だけを見る限り、表面上、両国間の「核の均衡」は保たれているが、実際はインドは、地上発射ミサイルのみならず、戦略爆撃機および潜水艦発射ミサイル(SLBM)のいわゆる「トライアド(triad=三本柱)」と呼ばれる核戦力能力を備えているため、両国核交戦となった場合、持久力の面でインドのほうが格段に有利だ。(1984年講談社刊、拙著『核戦略ゲーム』参照)

 従って、両国の核バランスは極めて不安定であり、そのこと自体が、核戦争のリスクを増幅させかねない。

 さらにパキスタンは、「核先制不使用」ドクトリンを公式に採用していない。これに対し、インドは「報復」としてのみ核兵器を使用することを宣言している。パキスタン軍部内では、先制核攻撃によって一気にインドの核戦略基地に壊滅的打撃を与えることも核戦略の一環として視野に入れていると判断され(実際に「カーギル戦争」ではその前兆となる動きがあった)、国際社会にとって大いに気がかりな点だ。

 こうした状況下で起こったのが去る2月27日、カシミール地方の自国領内で起きたパキスタン軍によるインド空軍機2機撃墜と、墜落した操縦士2人の拘束事件だった。その直後、インド側もパキスタン戦闘機1機を撃墜したと発表、にわかに緊張が高まった。また同月14日には、インドが実効支配するカシミール地域で、パキスタン過激派による車を使った自爆テロが発生、インド民兵40人が死亡したのを受けて、インドがただちにパキスタン側の過激派訓練施設を空爆した。

 さらに4月8日、パキスタンのクレシ外相が「インドが今月中に再び攻撃を計画している」との懸念を国連安保理に訴えたことを明らかにしており、カシミール領をめぐる双方の抗争は再びエスカレートしかねない情勢となっている。

 しかし、ワシントンでは今、皮肉なことに、「1999年カーギル戦争」収拾で米政府が積極的役割を果たしたのとは異なり、場当たり的な外交政策に終始し真剣な対外コミットメントを軽視してきたトランプ政権下で今回、果して印パ戦争勃発の事態を回避できるのか、という議論が出始めている。

 米ブルームバーグ通信は2月27日付けの解説記事で「クリントン大統領は1999年の危機回避で死活的に重要な役割を果たしたが、朝令暮改のトランプ政権に同様の指導力を発揮できる能力があるのかどうかを試す時が来ている」「パキスタン軍は通常戦力面での歴然たる劣勢をカバーするため、交戦となった場合、緒戦での核兵器使用を重視しているとされるだけに、今こそアメリカ外交力の真価が問われている」などと論じた。

 ワシントン・ポスト紙も3月5日掲載のゲスト・コラムで、相互に確証破壊力(mutually assured destruction=MAD)を保有することによって抑止力が機能するとする伝統的な理論に触れる一方、「相手国が破滅的な結果に至ることを恐れ報復に至らないとの判断の下に、できるだけ早い段階で核先制使用により敵に圧勝することによって、全面戦争を回避できる、とのシナリオもありうる」との核管理問題専門学者の見方を紹介、「為政者がエスカレーション・リスクを誤算することでより危険な状況を生み出す」と警鐘を鳴らしている。

朝鮮半島にもあてはまる深刻な問題
 南アジアにおける核戦争勃発の懸念は実は、独裁体制下の北朝鮮が核を保有する朝鮮半島にもあてはまる深刻な問題だ。もし、韓国が将来、対抗上、核武装に踏み切り、印パ対立と同様の緊迫した事態となった場合、一衣帯水のわが国にとっても存亡にかかわる重大事にもなりかねない。

 超大国であれ途上国であれ、指導者をこうした「誤算」による“危険な誘惑”から遠ざけるためには、国際社会が普段から、核管理体制の徹底と究極的な核廃絶に向けて世界各国における世論を声を大にして喚起し、監視の目を光らせていくしかない。この点でとくに、広島、長崎被爆という地獄図のような悲惨な結果を身をもって経験した日本の果たすべき役割は、より一層重くなっている。       
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15925  

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