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「吸血鬼ボルトン」更迭、安全保障のプロが次々退場し東アジアに忍び寄る影 ボルトン解任で「4つの戦争」の危機がいささかなりとも弱まった
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投稿者 鰤 日時 2019 年 10 月 01 日 17:55:46: CYdJ4nBd/ys76 6dw
 

「吸血鬼ボルトン」更迭、安全保障のプロが次々退場し東アジアに忍び寄る影
牧野愛博:朝日新聞編集委員

国際・中国 DOL特別レポート
2019.10.1 4:57


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「吸血鬼ボルトン」更迭 、安全保障のプロが次々退場し東アジアに忍び寄る影
Photo:Chip Somodevilla/gettyimages
 トランプ米政権の安全保障政策を指揮してきたボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が9月10日に更迭され、後任にオブライエン大統領特使(人質問題担当)が任命された。

 最強硬派の退場が、北朝鮮非核化交渉やイラン情勢にどう影響するか。

 トランプ政権では「安全保障政策のプロ」が次々に政権を離れることになっている。

 同盟関係軽視のトランプ大統領が、来年の大統領選の「再選第一」で成果を焦り「Bad Deal(無分別な取引)」をするのを懸念する声も少なくない。

「リビアモデル」で大統領と“溝”
北朝鮮は「吸血鬼」と非難
 トランプ大統領は、ボルトン氏を更迭した翌11日、記者団に「ボルトン補佐官は、金正恩朝鮮労働党委員長に対し、リビアモデルに言及する大きな失敗を犯した」と語り、北朝鮮政策で見解の相違があったことを強調した。

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制裁解除に核の完全廃棄求める
「リビアモデル」とは、最初に大量破壊兵器を放棄させてから、支援を行うという試みだ。

 核兵器などの大量破壊兵器開発の疑惑があったリビアのカダフィ政権が、米国や英国との交渉で非核化を宣言、国際原子力機関や米国などの査察に応じ、米ブッシュ政権はリビアの核兵器やミサイルを無力化、核開発の完全廃棄を確認したうえで、制裁解除などを行った。

 カダフィ政権はその後、欧米との関係を深めたが、民主化運動の弾圧などから内戦に突入。カダフィ大佐は、米仏などからの支援を受けた暫定政権の兵士らに殺害されたとされる。

 ボルトン氏は当時、安全保障担当の国務次官としてリビア非核化を主導しており、北朝鮮との非核化交渉でも制裁解除などの条件に核の完全廃棄を求め、段階的な放棄を主張する北朝鮮との対立が続いてきた。

 初めての米朝首脳会談を控えて実務者の折衝が行われていた2018年5月には、北朝鮮側は崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官の談話を発表、ボルトン氏をこう批判した。

「リビアの轍を踏まないために高い代価を払って強力で頼もしい力を育てた。この現実を理解せず、悲劇的な末路を歩んだリビアと我々を比べている。米国の政治家は朝鮮をあまりにも知らない」

 ボルトン氏はそれにもかかわらず、同年6月にシンガポールで第1回米朝首脳会談を終えた後の7月、米国メディアとのインタビューで、「北朝鮮の大量破壊兵器と弾道ミサイルを1年以内に解体する案」をまとめたと言及。北朝鮮のさらなる怒りを買った。

 筆者は2015年3月、ボルトン氏にインタビューしたことがある。

「北朝鮮を訪れたことはないのか」と尋ねると、同氏はにやりと笑い、「私は北朝鮮から人間のくずと呼ばれている。行けるわけないだろう」と答えた。

 同氏は国務次官を務めていた2003年当時、ソウルでの講演で「金正日(総書記)は数百万人を飢え死にさせた。北朝鮮の人々は地獄のような悪夢のなかで暮らしている」と強調。

 北朝鮮が同氏を「人間のくず」「吸血鬼」とこき下ろしたこともあった。

後任オブライエン氏
手腕は未知数
 ボルトン氏の更迭で、米国の北朝鮮政策はどうなっていくのだろうか。

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トランプ政権の人事に特殊な要素
 後任のオブライエン氏は、2018年5月、人質問題を担当する特使に就任した。トランプ大統領は、起用の理由を「人質の交渉で素晴らしい仕事をした。多くの人が彼を尊敬している」と説明した。

 温厚な性格の一方、ボルトン氏らネオコングループとも良好な関係を築いているとされる。

 一方で、カリフォルニア州出身の弁護士でもあるオブライエン氏がなぜ、国家安全保障担当の補佐官に就任するのか、疑問視する声もある。

 オブライエン氏は共和党議員の外交政策顧問も務めているから、外交に明るい人物と評することはできるだろうが、他にも適任者は数多くいたと思われる。

 安全保障専門家の知人は、スウェーデンで暴行容疑で訴追された米国人ラッパーの解放が、同氏の就任に多少なりとも影響したとの話を聞いたという。

 知人は「この問題には、トランプ氏の長女、イバンカ大統領補佐官も強い関心を寄せていたため、オブライエン氏の就任に追い風になったと聞いた」と語る。

 ホワイトハウスのこれまでの人事を見ると、専門家としての知識のほか、トランプファミリーとの関係が影響している印象を受ける。

 イバンカ氏の助言があったのかどうか、真偽は不明だが、そのような解説が出るのは、トランプ政権の人事に特殊な要素がからんでいる証左でもあると思う。

 いずれにしろ、オブライエン氏の手腕は未知数だ。

トランプ大統領の「Bad Deal」を懸念
非核化より米朝改善重視
 知り合いの米国務省元当局者は、「ボルトン氏は問題の多い人物だったが、トランプ大統領が北朝鮮と『Bad Deal(無分別な取引)』することを防いできたのも事実だ。トランプ氏が北朝鮮とおかしな取引をするかもしれない」と懸念する。

 米国の朝鮮半島専門家たちは、「トランプ氏は、北朝鮮の非核化よりも米朝関係の改善を重視している」「彼の関心はノーベル平和賞」などと手厳しい。

 北朝鮮の核問題に焦点を当て続けてきたボルトン氏の退場で、トランプ氏が、北朝鮮から非核化で成果を得られないまま過度な譲歩をすることを憂慮しているのだ。

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「核武装」などの軽率発言目立つ
 ただ、トランプ大統領も今年2月のハノイでの2回目の米朝首脳会談後、記者団に対して、北朝鮮が少なくとも寧辺核施設以外の核関連施設を明らかにする必要があるとの考えを示している。

「寧辺核施設を放棄するから、国連制裁決議の一部を緩和してほしい」という北朝鮮の要求を退けたのはトランプ氏自身だ。

 この時の記者会見の映像は残っており、さすがのトランプ氏も方針を変えるのは簡単ではないはずだ。トランプ大統領が考えを変えるとしたら、北朝鮮側が新たな提案を行う必要があることは確かだ。

「中距離ミサイルアジア配備」や
「核武装」の軽率発言
 朝鮮半島情勢に対する米国内の関心がかつてのようには高まっていない今、ボルトン氏が退場したからといって、米朝関係が劇的に変化すると考えるのは、時期尚早かもしれない。

 それでも、今、日本の安全保障専門家の間でささやかれているのは、ボルトン氏をはじめ、その前任者だったマクマスター元米大統領補佐官や、各国から厚い信頼を得ていたマティス前国防長官らの、「安全保障のプロフェッショナル」たちの相次ぐ退場による、東アジアの安保情勢への悪影響だ。

 オブライエン氏の東アジア情勢や北朝鮮問題に対する姿勢はまだ見えない部分があるが、例えば、エスパー国防長官のアジアへの中距離ミサイル配備発言は、日本の安全保障専門家にかなりの衝撃をもって受け止められている。

 エスパー長官は8月、米記者団に対して、中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱したことを受け、アジアに中距離ミサイルを比較的早期に配備したい考えを示した。

 この発言を日本の専門家の1人は「東京をかつてのベルリンにする気なのか」と当惑する。

 この専門家が言ったのは、米国が1980年代、旧ソ連のSS20型ミサイル配備に対抗して、西ヨーロッパにパーシング2型ミサイルと、トマホークを配備しようとした動きのことだ。

 欧州への中距離ミサイル配備で、旧ソ連が欧州を攻撃しても、「モスクワとベルリンで相討ちになっても、ワシントンは生き残ってしまう。それでソ連はINFの締結に乗り出した」と説明。米国はINF条約から離脱したことについて、「かつてのベルリンとモスクワの関係を、東京と北京に置き換えようとしているのではないか」と懸念する。

 米国の真意はまだ見えないが、そうした軽率な発言をするエスパー氏の国防長官としての資質を疑う声も上がる。

 別の専門家は、「エスパー氏は、軍事産業と関係があった人物。ミサイルを売りたい意識が潜在的に働いたのかもしれない」と語る。

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エスパー氏、ビーガン氏に懸念の声
 北朝鮮との実務協議を担当する米国務省のビーガン北朝鮮政策特別代表についても、懸念する声がある。

 ビーガン氏は9月に行った講演で、「北朝鮮の非核化に失敗すれば、日本と韓国で核武装論が持ち上がる可能性がある」と語った。

 この発言も、日本の専門家の間では悪評紛々だ。専門家の1人は「米国は核不拡散に全力を挙げてきたのではなかったのか。核の傘を含む拡大抑止を強調してきた姿勢と矛盾するし、同盟国に対しても不用意な発言だ」と語る。

 日米関係筋はビーガン氏の発言について、「米朝協議がうまくいかないことへの焦りがあったのだろう。非核化に十分協力していない中国への警告という意味もあったのだろう」と解説したが、同時に「発言のトーンが強すぎるのも事実だ。私がスピーチライターだったら、あんなことは言わせない」。

 一方でボルトン氏は、時に過激な主張が目立ったが、現実も常に見据えていた。

 筆者がインタビューをした際にも、南北軍事境界線に近い板門店を訪れた時のことに触れ、「ソウルからヘリコプターで、わずか数十分の距離だった」と話し、北朝鮮のソウルに対する攻撃を完全に防ぐのは難しく、北朝鮮と事を構えることは現実的ではないとの考えを示していた。

 軍縮を担当していた国務次官時代、北朝鮮が核物質や弾道ミサイルなどをシリアやイランなどに輸出することを防ぐため、関係国と協力して「大量破壊兵器の不拡散構想」(PSI)の枠組みを広めたことでも知られる。

最初の試金石は
9月末の米朝実務協議
 トランプ政権は、今後、オブライエン氏を加えて、「吸血鬼」のいない体制で北朝鮮との非核化交渉を仕切り直しすることになる。

 北朝鮮は9日に、崔善姫第1外務次官の談話を発表し、今月末に米朝実務協議を開く考えを示した。

 談話では「米国が新たな計算法と縁のない古いシナリオを再びいじくり回すなら、朝米間の取引はそれで幕を下ろす可能性もある」と、新たな譲歩を示す動きは示していない。

 一方で北朝鮮が望んでいる制裁の緩和をするにしても簡単ではない。

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トランプ大統領の“暴走”を抑えられるか
 国連制裁決議の場合、関係国との調整が必要になるし、米国の独自制裁については米議会の同意が必要だ。北朝鮮から何らかの対応を引き出さない限り、難しい。

 日韓両政府のビーガン氏の交渉力に対する評価は決して低くはないが、プロフェッショナルな外交官ではないだけに、思わぬところで、手だれの北朝鮮から逆に足元を救われないかという懸念も残る。

 交渉が膠着状態になった時に、大統領選再選のために早く成果を誇示したいトランプ大統領が、また何かを言いださないとも限らない。

 ハノイでの米朝首脳会談で、段階的な非核化に応じようとしたトランプ氏を、ボルトン氏とともにいさめたポンペオ国務長官は最近も、「北朝鮮が完全に非核化するまで、制裁の緩和はない」と繰り返し、言及している。

 しかし、所詮、トランプ氏が我を通せば、ポンペオ氏もオブライエン氏も最後まで抵抗することは難しいだろう。トランプ大統領の意向に沿って動くタイプであり、ボルトン氏のように強硬に持論を主張して大統領を抑え込もうとするとは考えにくい。

 トランプ氏が安全保障や同盟関係に無関心だという指摘を受けて久しいが、トランプ氏の“暴走”を抑えながら、現実的な「解」を探ってきた「安全保障のプロフェッショナル」たちの退場が、東アジアの安全保障に影を落とす事態にならないことを祈りたい。

(朝日新聞編集委員 牧野愛博)

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写真:CNP/時事通信フォト
北朝鮮、イラクへの先制攻撃
ベネズエラ介入の危険は軽減
 トランプ米大統領は9月10日、ジョン・R・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任した。

 これまでのトランプ政権の閣僚や大統領補佐官らの解任や辞職は、合理的で事情通の穏健な人物が退けられ、強硬派が取って代わることが多かった。

 だが今回のボルトン氏解任(本人は「自分から辞意を申し出た」と主張)はそれとは逆で、さすがのトランプ氏もボルトン氏のあまりのタカ派ぶりに愛想をつかしてクビにしたのだ。

 来年の大統領選を前に、北朝鮮との非核化交渉などで成果を演出したいトランプ大統領には邪魔者だったようだ。

 トランプ大統領は解任を発表後、「私はこれまで彼の多くの提案には、他の政権幹部と同様に強く反対してきた」と述べた。

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就任後2年8ヵ月で学習したトランプ氏
以前からトランプ氏は側近に、「もしジョン(ボルトン)の言う通りにしていたら、今ごろ米国は4つの戦争を抱えていたところだ」と漏らしたという。

 2019年1月1日に辞職した前国防長官ジェームズ・マティス海兵大将は、ボルトン氏を「悪魔の化身」と評したこともある。歴戦の智将にとっては、戦争を知らない超タカ派の外交官は腹立たしい限りだったろう。

 ボルトン氏を切り捨てたことは、トランプ政権が北朝鮮、イランに対する先制攻撃を行わず、ベネズエラへの介入を避け、アフガニスタンの和平交渉を進展させる方向にかじを切りつつある兆候と思われる。

 今後それらの交渉や和解がうまくいくか否かは予断を許さないが、戦争の危険が若干なりとも減じたとはいえよう。

 米国の大統領は第1期の辞任直後には強硬論を唱えるが、事情を知った第2期には穏健になった例が多い。トランプ氏も就任後、約2年8ヵ月で学習したことも少なくはないのだろう。

 もちろんトランプ氏には任命責任がある。

 ボルトン氏の前任者、ハーバート・R・マクマスター陸軍中将は湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争で功績を挙げ、実直な性格で軍事史の博士号も得た智将だったが、大統領に状況を説明してもなかなか理解してもらえず、その苦労を周囲に漏らすうち、馬鹿にしたような言辞もあって更迭された。

 その後任につとに超タカ派で知られていたボルトン氏を据えたのは、乱暴な人選だった。

 彼は名門イェール大学を最優等の成績で卒業した法学博士だが、高校生の時代から共和党タカ派で公民権法(人種差別禁止)に反対したバリー・ゴールドウォーター上院議員を支持、1964年の大統領選挙を手伝ったが、ゴールドウォーター候補は惨敗した。

 司法省など官界に勤務したのち、ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領により国務次官(安全保障担当)に任じられ、イラク攻撃を推進した。

「ネオ・コン(新保守派)」の1人といわれるが、本人は「私はずっと以前からの保守派。ネオ・コンではない」と強調した。筋金入りのタカ派だ。

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安保理決議に逆らってイラン制裁
大使時代は「国連軽視」
イラン経済制裁を継続
 その後、国連大使になったが、「国連軽視」の姿勢が際立った。

「国連などというものはない。あるのは国際社会であり、それは唯一の超大国である米国によって率いられる」とか「国連本部の10階以上(事務総長室などがある)がなくなっても困ることはない」など傲慢不遜で他国があきれるような発言が多く、礼儀を重んじる外交官には不適だった。

 オバマ大統領の広島訪問を「恥ずべき謝罪の旅」と非難、原爆投下を「トルーマン大統領の勇断」と評価した。

 こんな人物をトランプ氏は安全保障担当の大統領補佐官にしたから、その進言は安全保障どころか戦争推進に向かうのは当然だ。

 イランの核開発を大幅に制約する見返りに経済制裁を解除する「イラン核合意」は、米・露・英・仏・中・独の6ヵ国とイランが2015年7月14日に調印し、同月20日、国連安全保障理事会は決議2231でこれを承認した。安保理はすべての国連加盟国がその履行に協力するよう求めた。

 その後、IAEA(国際原子力機関)はイランの核施設の査察を行い2016年1月16日、イランが核合意を完全に履行していることを確認した。

 これにより経済制裁は解除されるはずだったが、トランプ政権は2018年5月8日、イラン核合意からの離脱を宣言、経済制裁を続行した。

 他国も貿易決済は米国の金融機関を経由することが多いから、イランとの貿易を再開しにくく、実質的には広範囲の経済制裁が続くことになった。

 だが米国の行動は安保理決議に逆らい、国連憲章第25条(安保理決議は法的拘束力を持つ)に違反する。

 米国大統領への安全保障政策の指南役が国連を軽侮し、「国際社会は米国に率いられる」と公言するのだから、米国は安保理決議を無視するのも平気で、世界の独裁者であるかのように振る舞うこととなった。

唯我独尊の対外政策で
米国の孤立を深める
 冷戦時代なら米国が同盟国を「率いる」ことがある程度可能だったが「東側陣営」が消えたから、「西側陣営」も形骸化している。

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核全面廃棄主張し米朝会談決裂
 米国自身も、日本の財務省の昨年5月5日の発表では、対外純債務が885兆円にも及ぶ世界最大の債務国になった。経済での弱者が頼る「保護貿易」に向かわざるを得ない。

 ボルトン氏はその変化に目を閉じ、唯我独尊の対外政策を、トランプ大統領に勧め、米国は孤立を深める結果となった。

「イラン核合意」の破棄にはどの国も追随せず、米国が提唱した、海上のイラン包囲網「センチネル作戦」に参加する国は少ない。形だけ参加してもホルムズ海峡周辺で自国のタンカーを護衛するだけで、イラン攻撃に加担する気配はない。

 ボルトン氏は、米軍12万人を対イラン攻撃に投入することを主張したが、トランプ政権の他の幹部は同意しなかった。

 トランプ政権は昨年5月14日、在イスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転したが、その後1年以上たっても、米国に追随して大使館を移したのはグアテマラ1国だけだ。

 1967年の第3次中東戦争でイスラエル軍は東エルサレムを占領、国連安保理がイスラエル軍の占領地からの撤退を決議したのに従わず、エルサレムを首都と宣言した。

 だから他国は大使館をテルアビブに置いていたのだが、米国はエルサレムへの大使館移転を強行、国際社会の反発を受けた。

 まともな安全保障担当の大統領補佐官なら、「そういうことをすれば米国は孤立し、指導力を失います」と諫言すべきだが、ボルトン氏は逆にトランプ氏をあおり立てた。

リビア方式で核全面廃棄を求め
米朝首脳会談決裂の原因に
 北朝鮮との交渉でも、ボルトン氏は「オール・オア・ナッシング」を唱え、北朝鮮が完全に核放棄をするまで経済制裁を強化して追い詰めるよう主張した。

 今年2月27・28日、ハノイでの2度目のトランプ・金正恩会談が決裂に終わったのは、北朝鮮が段階的に核放棄を行い、それに応じて米側が経済制裁を徐々に進めるよう求めたのに対し、米国側はボルトン氏の論に沿って、「まず全面核放棄をせよ」との立場を譲らなかったため、とされる。

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アフガニスタン和解工作でも対立
 ボルトン氏は国務次官補時代にリビアとの交渉に当たり、非核化を達成した実績を誇り、北朝鮮にも「リビア方式」を適用するよう勧めていた。

 リビアはウラン濃縮のための遠心分離器を輸入していたものの、核開発をできる技術や工業力がないため、それを倉庫に放置していたことが後に判明した。

 不要品を放棄することで経済制裁を解除させ、2006年5月に米国との国交正常化にも成功したから、リビアの指導者ムアンマル・カダフィ大佐の方が実際は得をしたのだ。

 だがボルトン氏はそれを自分の成功体験とし、北朝鮮側との会談でもリビアの例を持ち出した。

 2011年にリビア内戦に米国、フランスなどが介入し、リビア政府は倒れ、カダフィ大佐は殺された。

 核開発を止めて殺された指導者の話を北朝鮮にするのは全く逆効果だ。会談決裂後トランプ氏が、ボルトン氏について「最悪だ。賢くない」と言ったのも当然だった。

 トランプ氏はイランの穏健派のハッサン・ロウハニ大統領と会談し、得意の「取引」をしようとしたが、ボルトン氏はそれに反対、「攻撃すればイラン政府はすぐに倒れる」と主張したといわれる。

 イラク戦争前にも彼は同じことを主張。2003年3月の開戦から2011年12月の米軍撤退まで8年9ヵ月のイラク戦争に米国を引き込むことになった。

 この戦争で米軍は死者約4500人を出し、財政危機を招いたが、そのことへの反省は彼にはないようだ。

 トランプ氏はアフガニスタンの武装勢力タリバンが2001年10月以来18年間の米軍との戦いに屈せず、支配地を広げる形勢に終止符を打つため、和解工作を進め、タリバンの代表を米国大統領の公式別荘キャンプ・デービッドに招いて会談しようとした。

 この時も、ボルトン氏は「テロリストを招待するとはもってのほか」と反対し、大統領と対立していたとされる。

大統領選を意識したトランプ氏
政権内で中庸の議論増える可能性
 トランプ氏は強硬論を唱えて大衆の人気を得たものの、来年11月の大統領選挙を前にイラン、北朝鮮、タリバンなどとの交渉の成果を演出したいから、好戦的なボルトン氏は邪魔者だったろう。

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日本にも対北強硬論は危険だった
 もちろんトランプ氏自身も、慎重論者ではなく、思いつきで首尾一貫しない言動をしてきた。ボルトン氏が政権を去っても、米国の対外政策が穏健で合理的なものになるとは限らない。

 北朝鮮、イラン、タリバンなどとトランプ氏が「取引」をしても、満足のいく合意に達せず、決裂になる可能性は低くない。

 とはいえ、超タカ派のボルトン氏が切り捨てられたことは、米政権内で中庸を得た議論が行われる余地を生む効果はある程度あるように思われる。

 外交をつかさどるマイケル・ポンペオ米国務長官は、CIA長官時代に北朝鮮の金正恩委員長排除を示唆したことがあり、イラクでの捕虜などの拷問について、それをした者は「拷問者ではない。愛国者だ」と言ったこともあり、米国でも「ボルトンに次ぐ危険人物」ともいわれる。

 だがポンペオ氏はトランプ大統領に徹底的に忠誠で、トランプ氏が「私はポンペオ氏以外とは誰とも争った」と言ったほどのイエスマンだ。

 大統領が対話、和解に目を向け、更迭したマクマスター前補佐官の意見も徴していると知れば、それに向かって努力するのではないか。

日本にとっても
対北強硬論は危険だった
 ボルトン氏更迭の翌日、9月11日の記者会見で、菅義偉官房長官は「ボルトン氏は日米同盟の強化や北朝鮮問題の対応を含むインド・太平洋地域と国際社会の平和と安定に尽力した。これまでの貢献に感謝したい」と述べた。

「米国第一」のトランプ大統領は、北朝鮮が米国本土に届くICBMの配備さえしなければ、「米国に対する北朝鮮の核の脅威を除去した」と米国民に実績を誇れる。

「完全な非核化」の目標に対し満点ではないが90点は取れる形だから、北朝鮮が射程300キロ級の短射程弾道ミサイルの発射をしても不問に付す姿勢だ。日本に届く中射程のIRBMにも関心は薄い様子だ。

 日本では「米国がICBM廃棄だけで北朝鮮と和解すれば最悪の事態」との声が強い。

 もちろん北朝鮮の核の完全廃棄が望ましいから、「オール・オア・ナッシング」を唱え、「核の完全廃棄まで経済制裁の手を緩めるな」と主張するボルトン氏を日本政府が頼りにしたのは自然なことではある。

 だが真の「最悪の事態」は、核戦争だ。

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自暴自棄にしないことが重要
滅亡の淵に追い込まれた北朝鮮が自暴自棄になり、「死なばもろとも」の心境から、核ミサイルを日本の米軍基地(横須賀、佐世保、三沢、横田、岩国、嘉手納など)に発射し、さらに東京、大阪などが狙われれば、日本が滅びかねない大惨事になる。

 核攻撃に対して報復能力を示し、攻撃を諦めさせる核抑止戦略は、相手の理性的判断を前提とし、自暴自棄の相手には効果がない。

「自爆テロの犯人は死刑に処す」と言っても効き目がないのと同然だ。

 同盟の強化もあまり効果はない。

 通常兵器による戦争なら同盟国軍と協力し、侵攻して来る敵軍を陸でも空でも撃退することが可能だが、核ミサイルは戦線を飛び越え、直接こちらの心臓部に落下して来る。

弾道ミサイル迎撃は難しい
自暴自棄にしないことが重要
 相手が弾道ミサイルを発射する前に、航空機などによる先制攻撃で敵ミサイルをすべて破壊できればよいが、北朝鮮の弾道ミサイルは移動発射機に載せて、山岳地帯のトンネルに隠され、いざとなればトンネルから出てミサイルを直立させて発射する。

 旧式の「ノドン」では発射まで約1時間、燃料を充填したまま待機する新型だと数分で発射できる。しかもその詳細な位置を事前に知ることは困難だ。

 ダミーのトンネルもあるだろう。また山腹のトンネルを上空からの爆撃でつぶすことも容易ではない。

 偵察衛星が常時敵地の上空にいてトンネルなどから出てきたミサイルを発見できるように思う人も少なくないが、偵察衛星は時速2万数千キロの速力で周回し、1日に約1回各地の上空を通過する。

 カメラの首振り機能やレーダーの能力を生かしても、1日に1分程度しか撮影はできない。 

 静止衛星は高度3万6000キロの赤道上空を周回し、地球の自転と釣り合うから静止しているように見える。だがこの高度からではミサイルは見えず、発射の際に出る赤外線を感知できるだけだ。

 しかも先制攻撃をするなら、すべての目標をほぼ同時に破壊する必要がある。そうでないと相手は残ったミサイルを発射してくる。

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北の弾道ミサイル阻止は難しい
 湾岸戦争(1991年1月〜2月)では、イラク軍は88発の「アル・フセイン」(スカッド改)弾道ミサイルを発射した。これに対し米空軍など有志連合軍は1日平均64機を「スカッド・ハント」に出動させたが、目標を発見するのは困難を極め、発射前に破壊できたのは偶然発見した1基だけだった。

 イラク軍はミサイル発射を続け、停戦の3日前、2月25日にダーランの米軍兵舎に落下した「アル・フセイン」は、死者28人、負傷者97人を生じさせた。

 飛来する弾道ミサイルを迎撃するのも容易ではない。日本の弾道ミサイル防衛に当たるのは、イージス艦6隻(他に2隻進水、艤装中)と航空自衛隊の弾道防衛用ミサイル「PAC3」34両だ。

 イージス艦は各種のミサイルを垂直発射機に最大90発ないし96発を積めるが、弾道ミサイル防衛用の「SM3」ミサイルは各艦8発しか搭載していない。今後増やす予定だが「SM3」の新型は1発40億円もするから、そう多くは買えない。

「PAC3」は射程20キロ程度だから、地点防衛にしか役立たず、発射機1両に16発積めるが4発しか積んでいない。日本のミサイル防衛は政府が言う「万全の備え」どころか、気休めにすぎない。

 米海軍は、横須賀に空母1隻、揚陸指揮艦1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦7隻を配備し、うち巡洋艦2隻、駆逐艦5隻は弾道ミサイル防衛能力がある。だが米軍艦も各艦6発ないし7発しか「SM3」ミサイルを積んでいない。

 一方で、北朝鮮が保有する日本に届く弾道ミサイルは「数百発」と政府は言っており、日米が協力してもその一部しか阻止できないだろう。

 北朝鮮の核弾頭は20ないし30発と推定されるが、火薬弾頭のミサイルと交ぜて、多数を発射されれば、どれが核弾頭付きかは分からないから突破される公算は大だ。

米国が無謀に走らないことは
日本の安全にも寄与
 かつて日本は1941年7月から米国による在米資産の凍結と石油輸出全面禁止の経済制裁を受け「備蓄石油のある間に一暴れして見せる」と、真珠湾攻撃に打って出た。

 核ミサイルの時代にそんなことが起きては大変だ。

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ボルトン氏に感謝する必要はない
 残念ながら北朝鮮を追い詰め、自暴自棄にしないことが安全保障の良策と考えざるを得ない。

 トランプ政権が、北朝鮮に対して、米国に届くICBMさえ配備しなれば、経済制裁を徐々に緩める政策を選ぶとすれば、日本にとっては腹立たしい。

 だが北朝鮮にICBMがなければ、米国は、もし北朝鮮が日本や韓国に対して核攻撃をした場合、自国が核攻撃を受ける心配をせずに報復攻撃を行うことができる。

 米国が核兵器を極東に持ち込まなくても、アラスカ沖で常に待機している弾道ミサイル原潜から核ミサイルを発射できるから、北朝鮮が自暴自棄になっていなければ、十分に抑止力を保てる。

 そう考えれば、日本の官房長官がボルトン氏に「感謝」する必要はない。

 むしろ彼の更迭は米国が無謀な戦争に向かう危険をいささかなりとも減じ、日本の安全にも寄与する、と内心歓迎すべきではないか。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)
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https://diamond.jp/articles/-/215053  

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コメント
1. 2019年10月01日 20:17:55 : KUhbYDuU6w : b3BkUGZjQkUuZXM=[46] 報告
辞めさせた あまりに口が 軽過ぎて
2. 2019年10月01日 23:46:52 : LY52bYZiZQ : aXZHNXJYTVV4YVE=[3125] 報告
崔善姫第1外務次官が談話発表

〖平壌10月1日発朝鮮中央通信〗朝鮮の崔善姫第1外務次官は1日、次のような談話を発表した。

朝米双方は、来る10月4日の予備接触に続いて、10月5日に実務協商を行うことで合意した。

わが方の代表らは、朝米実務協商に臨む準備ができている。

私は、今回の実務協商を通じて朝米関係の肯定的発展が加速化することを期待する。−−−
http://www.kcna.kp/kcna.user.article.retrieveNewsViewInfoList.kcmsf

3. 2019年10月02日 01:16:30 : yL5Gzq7kkU : VmVNM0RML3doVWc=[675] 報告
別に日本人を直接殺す攻撃をする必要はない。原発とその付近の高圧線の送電線の鉄塔を何本かなぎ倒すだけで日本は終わる。

F35もオスプレイも役に立たない。

4. 2019年10月02日 02:26:03 : kTbuH3KpL6 : SERJSEY1YkV2RHc=[125] 報告
安全保障のプロ?
もし本物のプロならF35一機分の経費で敵の政権幹部を買収できると指摘するはずだ。
一編隊分の経費があれば敵国の中に有力な経済コングロマリットを作り出しそのあがりを政権に提供できてしまうと指摘するはずだ。
しないのは他でもない。
安全保障のプロではなく戦争をけしかけるプロだからだ。

イラク戦争に深く関わったこいつが、その大失敗に関して何か責任を取ったか?

5. 2019年10月02日 07:40:01 : H4WFbx6TC2 : OWxET09aVzR2RXc=[1] 報告
北朝鮮の云うことが当たっているとは思う。偽ユダヤアメ公はこんなのばかり。

正恩は、祖父と父が実はアメポチだった事を恥じてるのではないだろうか?

6. 2019年10月09日 13:35:24 : GuJJGWNU2A : QTJ5b3E5di9pT2c=[73] 報告
ボルトンが安全保障のプロだって?

違うだろう。

戦争家で、ありもしない脅威を作り上げ、テロを陰で起こし、防衛費をかすめ取る泥棒、、と言おうか寄生虫だわ。

世界から、こんなのがいなくなれば、平和になるでしょう。

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