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貧困に殺された九大オーバードクターはなぜ生活保護に頼らなかったか
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投稿者 うまき 日時 2019 年 3 月 01 日 14:34:12: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

2018年9月21日 みわよしこ :フリーランス・ライター
貧困に殺された九大オーバードクターはなぜ生活保護に頼らなかったか

九大・箱崎キャンパスで火災と爆発が発生し、法学部のオーバードクターの遺体が発見された事件からは、1人の人間に誰の助けの手も届かない社会のひずみが見えてくる(写真はイメージです) Photo:PIXTA
誰の助けの手も届かなかった
1人のオーバードクターの死
 9月6日、「福岡市東区の九州大学・箱崎キャンパスで火災と爆発が発生している」というニュースが流れた。焼け跡からは、1人の性別不明の遺体が発見された。

 私の周辺の最初の反応は「化学系の研究室の事故では?」というものだった。しかし、それはあり得ない。九大理学部・工学部は、かつて箱崎キャンパスに存在したが、数年前、福岡市西区の伊都キャンパスに移転していた。

 続く反応は「活動家?」だった。伝統ある大学では、かつて大学に在籍していた学生運動家が数十年後も大学に出入りしていることは、珍しいことではない。賛否両論あるところではあるし、私自身、大学に居座っている元学生運動家は最も苦手な人種の一類型だ。とはいえ、大学の自治や学問の自由を尊重するのなら、一定の「緩さ」とそこからもたらされるリスクはつきものだろう。

 数日後、遺体は法学部のオーバードクターだったという事実が判明した。男性で、46歳だった。以下、本記事では男性を「Aさん」とする。

 まずは報道と独自調査から、現在のところ判明しているAさんの経歴をたどってみたい。九大大学院進学までの足取りは、次のとおりだ。

・1972年生まれと推測される。「出身地は関西」という情報もある。

・1988年、中学を卒業し、横須賀市の陸上自衛隊少年工科学校(当時)に進学。同時に自衛隊に入隊。少年工科学校では高校卒業資格が得られないため、湘南高校通信制課程にも入学。

・1991年、少年工科学校・湘南高校通信制課程の高校相当課程を修了し、自衛隊を退官。

・九大法学部に入学し(年次不明)、憲法を専攻。

 少年工科学校に入学すると、自衛隊員(特別国家公務員)となる。全寮制で、生活費は必要ない。元同期生・Bさんは「月あたり10万7600円の俸給があったので、浪費していなければ、卒業時に300万円程度の貯金はあったはず」という。Bさんから見た少年工科学校時代のAさんは、「人1倍の努力家」「真面目に勉強していた」ということだ。

 中学を卒業して少年工科学校に入学する生徒の背景は、さまざまだ。「自衛官になりたい」という強い志望も、親との険悪な関係による「合法的家出」も、貧困からの選択もある。大学進学の夢を抱いて入学する生徒も少なからずいるのだが、初志貫徹する生徒は多くない。3年のコースを修了した後は、1年の訓練を経て、下士官として自衛隊内でのキャリアを開始することができるからだ。Bさん自身も、現在は幹部自衛官として責任ある立場にある。

 ともあれ1991年3月、AさんとBさんは少年工科学校を卒業した。卒業後、Aさんを含む17名は自衛隊を離れ、Bさんを含む270名は自衛隊内でのキャリアを歩み始めた。Aさんが九大法学部に進学した年次は、入学までの足取りとともに現在のところ不明だ。少年工科学校時代の貯金を元に、受験勉強に励んでいたのかもしれない。いずれにしても、1994年までには大学進学の夢を果たしていたものと思われる。

なぜ急激に困窮し
そして住宅を喪失したのか
 九大法学部に入学した後のAさんの歩みのうち、現在のところ判明している事実は以下の通りだ。

・1998年(26歳)、九大大学院修士課程に入学。憲法学を専攻。

 その後博士課程に進学するが、博士論文は提出せず、2010年に退学(38歳)。在籍可能期間満了に伴い在籍できなくなったものと推察される。

・2015年(43歳)以後、研究室を1人で使用していたが、夜間のみ。他の院生とは接触していなかった。

・2017年3月、専門学校などの非常勤講師職を失う。

・2017年(45歳) 3月・4月はほぼ無給。同年5月・6月の月給は14万5000円。同年6月、家賃が払えなくなり、10万円の借金でしのぐ。同月、昼間の宅配便の仕分けのバイト(週4回)を開始。

・同年12月、夜間も肉体労働のバイト(週4回)を開始。

・2017年6月から2018年5月までの間に住居を喪失したと見られる。

・2018年5月、Aさんが研究室に寝泊まりしていることを九大が把握。

 少年工科学校時代の同期・Bさん(前出)は、次のように語る。

「九州大学法学部卒の学歴だけを見ると素晴らしいのに、そんなに困窮していたとは……。我々は15歳のときから親元を離れ、『同じ釜の飯を食った仲間』です。何らかのメッセージがあれば、みんな、何らかの形で協力できたと思うのですが」

 しかし、Aさんは少年工科学校時代の同期との繋がりを、ほとんど維持していなかったようだ。その思いは、私には少しだけ理解できるような気がする。元同期のBさんたちは、キャリアを築き、家庭を持ち、若干の不足やトラブルがあっても「それなり」「普通」の人生を送っている。あまりにも輝かしく、近づけない存在に見える。それが「一院生」「一オーバードクター」という立場の切なさだ。

法学部卒の知識を生かさず
肉体労働を行った意外なメリット
 しかし、私には1つ疑問が残る。Aさんはなぜ、肉体労働を選んだのだろうか。報道によれば、肉体労働を開始した2017年以後、Aさんは激しく体重を減少させていたという。研究への思いを抱き続けていたAさんが、研究と生計の両立に苦労していたようだという報道もある。事務やスーパー・コンビニに比べれば、肉体労働の時給は高い。研究時間を確保するには、好ましい選択なのかもしれない。それにしても、「法学部卒の知識と人脈を使って法律事務所でアルバイトをする」という路線が、私には自然に思える。

 いずれにしても、筋力が低下している身体障害者の私にとって、「お金が足りないから肉体労働」という選択肢は、最初から考えられない。そこで、同様の選択をした50代の男性クリエイター・Cさんに、「なぜ肉体労働?」と尋ねてみた。Cさんは実績あるコンテンツ・クリエイターだが、業界の地盤沈下に伴い、土木・建築の現場での「ライスワーク」によって「ライフワーク」を支える選択を行い、現在に至っている。

「僕にとって1つ考えられるのは、Aさんが『肉体労働の方がストレスは少ない』と考えた可能性です。Aさんは、法学という専門分野で努力してきた方ですから、上下関係のあるアルバイトでの『感情労働』には強い抵抗感を抱いた可能性もあります。肉体労働の現場は、意外にハラスメントが少ないのです」(Cさん)

 納得できる説明だ。

「それに、給料は日割月給です。アルバイトなら100%日払い、または週払いです。窮迫しているときには、本当に助かるのは確かです」(Cさん)

 Aさんの窮迫状況から見て、「日銭」の必要性は切実だっただろう。さらに、時間の面からのメリットもある。

「現場によっては、『早上がり』ができることもあります」(Cさん)

 工事現場・建設現場の多くでは、作業時間が定められている。ICT業界のように、疲れ果てた心身で果てしない残業を続けることはない。この点も、余暇時間で制作や研究を行いたい人々にとっては、むしろ好都合なのかもしれない。

 Aさんが、どのような種類の肉体労働を行なっていたのかはいまだ判明していない。しかし、必死の就労にもかかわらず、Aさんは住居を喪失した。

「奨学金」という重石に
がんじがらめにされた可能性
 住居を喪失したAさんは、母校・九大の研究室に寝泊まりし始めた。法学部をはじめとする人文社会系学部は、伊都キャンパスへの本格移転段階となっており、ほぼ取り壊しを待つ状態となっていた。そして悲劇的な結末に至る。

・2018年7月、Aさんが寝泊まりしていた研究室のある棟の移転が開始される。

・2018年8月 Aさん、「事態が悪化」と親しい人々に記す。九大がAさんに退去要請を行う。

・2018年9月6日 Aさん、研究室に放火。遺体で発見される。享年46歳。

 Aさんは、九大時代の友人や教員たちと、良好な関係を保っていたようだ。人柄・能力などについて、ネガティブな証言は特に伝えられていない。窮迫状況をメールその他の手段で伝えるコミュニケーション能力も残っていた。

 もちろん、憲法学を専攻したAさんは、日本国憲法の「生存権」も生活保護制度も知っていたはずだ。住居を喪失する前に、生活困窮者自立支援制度の住宅支援給付金を利用すれば、最長9ヵ月という半端な期間ではあるが、「住」を支えられて生活を再建することもできたかもしれない。しかし、制度に助けを求めることなく、母校に放火して遺体で発見されることとなった。

 しかし、なぜAさんは必死で働いていながら、住宅を喪失することになったのだろうか。九大箱崎キャンパス近辺には、まだかつての貧乏学生向けの物件が数多く残っている。家賃相場は、ユニットバス付きワンルームで2〜3万円程度だ。オーバードクターは、学部時代・大学院時代に住んでいた学生向け物件に、そのまま住み続けていることが多い。より良い住居へ転居することができない経済状況にあるからだ。

 結局、家賃が払えなくなり、住居を喪失した背景として考えられるのは、学生支援機構奨学金の返済だ。学部4年間・大学院修士課程2年間・博士課程3年間、借り入れを続けていたとすると、総額は少なくとも1000万円前後となる。大学に学籍があれば返済は猶予されるが、学籍を失うと返済しなくてはならない。

 2010年以後、博士課程院生としての学籍を失ったAさんは、不安定な非常勤講師業をかけ持ちしながら、奨学金を必死で返済していたのではないだろうか。1ヵ月あたり15万円の収入があっても、返済額が月あたり4万円とすれば、手元に残る金額は月あたり11万円となる。税や社会保険料を支払えば、福岡市の生活保護基準を「余裕」で下回り、生活保護を利用する資格があったことになる。

「貧困は人を殺す」
この事実を直視すべき
 Aさんの46年の生涯は、ほとんどわかっていない。しかし、九大法学部時代の生活、さらに1998年から12年にわたった大学院生時代を支えたものは、主にアルバイトと学生支援機構奨学金の借り入れだったと考えられる。

 大学院に進学すると、アルバイトはさらに困難になる。研究に時間とエネルギーを集中させたかったら、アルバイトをする時間はなくなる。大学院在学中の生活を支えるための経済的支援は、2000年以後、少しずつ整備されており、「研究で給料を受け取りながら大学院生活を送る」ということが可能な大学も増えてきた。

 しかし、Aさんが九大大学院を中退したのは2010年である。その時期に存在した制度の貧弱さを考えると、やはり学生支援機構奨学金の借り入れは避けられなかったであろう。

 もちろん、Aさんの収入状況であれば、返済の減額や猶予を受ける可能性はあった。しかし、困窮の中での必死のやりくりは、それだけで手続きや申請の気力を失わせるものだ。貧困がメンタルヘルスを悪化させること、逆に貧困の軽減がメンタルヘルスの問題を軽減させることは、数多くの研究で実証されてきている。貧困による疲弊が、制度利用や手続きのハードルを高め、そのことが状況をさらに悪化させるメカニズムは、主に先進国のシングルマザーを中心に実証されている。

 Aさんを「研究にこだわったからだ」と非難するのはたやすい。しかし、Aさんが大学院生だった1998年から2010年は、国立大学法人化をはじめ、大学と博士号の位置づけが激変した時期だ。試合に参加している間にルールが変わっていくようなものだった。「自己責任」で片付けるのは、あまりにも酷だろう。

 この現状を熟知している榎木英介氏(病理医・近畿大学講師)は、記事「九大『オーバードクター』の死にみる『夢のソフトランディング』の重要性」を発表した。苛酷になっていくばかりの現状を踏まえても、なお個人にできる選択はある。「研究を諦めても人生は終わらない」という真理を認めれば、自ずと視野は広がり、道が見つかるだろう。

今や知ることはできない
生活保護に助けを求めなかった理由

本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中
 私から見れば、Aさんは単純に「生きる」という選択、日本国憲法に定められた生存権を行使する決意をすればよかった。生活保護が利用できる状況だった可能性は極めて高い。生活保護を利用して一息つき、心身の健康を回復し、少しずつ、無理なく、夢と現実の妥協を図りながら生きていく希望はあったはずだ。しかし、今から何を言ってもAさんは生き返らない。

 今の私は、ただ、Aさんに「お疲れさまでした」と声をかけたい。そして、困窮の中で必死にベストを尽くし、減るばかりの選択肢の中から最良の選択を試み、それでも力尽きたAさんの冥福を、心から祈る。

(フリーランスライター みわよしこ)
https://diamond.jp/articles/-/180232  

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コメント
1. 2019年3月01日 14:36:11 : OO6Zlan35k : L3FGSWVCZWxFS3c=[9] 報告

院に進学できるだけの知能があったのだから

貧困に殺されたというより、高くなり過ぎたプライドによる自滅

2. 2019年3月01日 19:56:38 : nTLecllWY2 : c2NLdklUTFYzTnM=[7] 報告
Aさんの供養になる、良い記事だ。

世の中には、志を高く持ちながら、生きることに、不器用な人は、たくさんいる。

Aさんを、伯夷、叔斉にたとえたら、嫌がるかな?

3. 2019年3月01日 20:15:20 : o4ZxWSpuaU : cmp4OUZBQlJQcUU=[164] 報告
死ぬがまし 生活保護に 頼るより
4. 2019年3月01日 20:28:43 : S8ni2zRi2s : SWhCOVdFcjdNUlk=[5] 報告
破産すれば借金はなくなるのだが。死ぬほど困っていたなら破産すればよいのではなかろうか。法学部卒なのにそれを知らないわけはないと思うのだが。

もちろん破産すれば金融機関からの付き合いを拒否されるが、バイトには関係がなかろうに。どうも経済的な困窮よりも将来に悲観しての悲劇だと思われる。

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