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タイではなぜ、「クーデター」が成功するのか?日本人が知っておくべき“微笑みの国”の素顔
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投稿者 うまき 日時 2019 年 4 月 11 日 12:42:05: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

WEDGE REPORT
タイではなぜ、「クーデター」が成功するのか?日本人が知っておくべき“微笑みの国”の素顔
2019/04/11

樋泉克夫 (愛知県立大学名誉教授)

 3月24日、タイでは2014年のクーデターから5年を経て民政移管のための総選挙が行われた。前回は2011年だったから、じつに8年ぶりとなる。

 この間、選挙権を持ちながらも投票機会のなかった若者は少なくなく、今回の総選挙における初有権者(First Time Voters)は750万人前後を数える。少年から青年への時期、彼らは赤シャツで表象されるタクシン派と国王のシンボルカラーである黄シャツを身に着けた反タクシン派の間で数年に亘って繰り返されてきた激しい街頭抗争を目の当たりにしてきたはずだ。それだけに、今後のタイ政治を占ううえでも、彼らの投票動向が注目されたのである。


iStock / Getty Images Plus / Boontoom
タイの政治が「何でもあり」と言われる所以
 3月24日に投票が行われ、翌25日午後2時には中央選挙管理委員会が選挙結果を発表した。だがあくまでも暫定結果であり、公式結果は5月9日まで明らかにされない。なぜ、こんなにも時間がかかるのか。

 暫定議席数にもかかわらず、プラユット暫定首相の続投を目指す「国家国民の力党」とタクシン派の「タイ貢献党」――2大政党を中心として、下院各党の暫定議席数に応じて連立政権構想が打ち出される。なかには公式結果発表まで動かず、“洞ヶ峠”を決め込む政党もある。

 それだけではない。比例区の議席結果に不満を持ち、比例区選出方法に問題ありとする政党や市民団体からは、憲法裁判所への提訴の動きも出始めた。議席配分が不公平というわけだ。この提訴を憲法裁判所が「是」と判断したなら、これまでの判例からして今次総選挙に無効の判断が下される可能性も否定できない。そうなった場合、3月24日に示された民意は文字通り幻と化してしまう。

 若者の支持を集め第3党に躍り出たと伝えられる「新未来党」のタナトーン党首は4月6日、2015年6月に発生した騒動事件に関わる煽動と被疑者隠匿容疑で警察当局の取り調べを受けている。有罪となった場合、同党首は最悪9年の禁固刑に処されるだけでなく、憲法裁判所が同党に解党を求める可能性すらある。

 加えるに中央選挙管理委員の資質を問い、同委員会の正当性に疑義を呈する市民団体まで現れたのである。

――「何でもあり」と形容されるタイの政治だが、総選挙後のこうした動きを見ただけでも、何とも判り難い。

 日本のメディアでは、今回の選挙を「軍政延長か、民主化か」といった単純な視点で捉えがちだが、この種のステレオタイプな報道では、「微笑みの国」の政治文化の真相は伝わらないどころか、日本人に誤解を与えかねない。

なぜ、クーデターが成功するのか?

「国王を元首とする民主制度」を理解するカギとして、先ずは王国であるタイの歴代憲法の基本構造が我が明治憲法に近いこと――代表例「国軍の統帥権は国王に属す」――を指摘しておく。

 それを踏まえたうえで日本における出来事を例に、2つの「もし」を想定してみたい。

 ひとつめの「もし」は、昭和11(1936)年2月に発生した2・26事件において、「昭和維新」を掲げて決起した青年将校の行動を、昭和天皇が「是」としていたら、である。

 2・26事件に際し昭和天皇は「朕が股肱の臣を傷つける行為は断固として許されない」と立腹し、自ら軍を率いて反乱軍の討伐に乗り出すとの決意を明らかにしたと伝えられる。昭和天皇の意志が明らかになった時点で青年将校らが掲げた「錦旗革命」は否定され、彼らは「反乱軍」と見做されてしまった。かくして「昭和維新」は潰えたのである。

 日本のメディアがクーデターと報ずるタイの政変――タイ語では「パティワット(革命)」と呼ぶ――は、国政の混乱、あるいは国軍内の主導権争いが原因となって国軍が軍事出動することで発生してきた。その際、クーデター陣営が掲げる大義名分の基調は「『国王を元首とする民主制度』の守護」である。

 決起した時点ではあくまでも非合法団体であるクーデター陣営だが、国王が允許した段階で合法団体に変質し国政の全権を掌握することとなる。ここに、2・26事件とタイにおいて成功したクーデターを分けるポイントが潜んでいるように思える。

 最も新しい2014年のクーデターを例にすれば、プラユット陸軍司令官をトップとしてインラック政権打倒を掲げたクーデター陣営(国家平和維持団)は、国王の裁可を得て国政の全権を掌握する国家平和維持評議会(NPKC/プラユット陸軍司令官が議長)へと合法性が与えられ、その下に同議長が首相を兼務する暫定政権を成立させ国政を執行することになった。

カギを握るのは「陸軍司令官」

 暫定政権発足に前後して立法議会(時に制憲議会)が招集され、クーデターによって停止された憲法に代わる新しい憲法の制定を進める一方で、暫定期間における国会の機能を果たす。この間は、「国王を元首とする民主制度」に基づく暫定憲法が施行される。立法議会の議員はクーデター陣営――現在はNPKC――によって指名されることにも留意しておく必要がある。

 さらに理解を促すために、次の3点を指摘しておく必要があろうか。

 第1が既存利益集団ともいえる「A(王室)・B(官僚)・C(資本家)・M(国軍)複合体」である。あるタイの政治学者が提起した分析だが、じつは立法議会議員は例外なくABCM複合体から選ばれ、基本的には民政移管後の上院に横滑りする。

 第2が首相・国防大臣・陸軍司令官の関係である。当然のように人事権は首相⇒国防大臣⇒陸軍司令官のルートで上から下に行使されるが、陸軍司令官はクーデターを発動することで首相に対する生殺与奪の権を握る。いわば陸軍司令官はクーデター発動という“非常事大権”を保持しているゆえに首相以上の権限を持つことから、首相が国防大臣と陸軍司令官を兼任した時に政権は最も安定する。現在のプラユット暫定首相の場合、最も信頼するプラウイット大将が国防大臣を務めている。

 第3が国軍組織上の権限である。制度上は陸軍・海軍・空軍の上部に統合機関として国軍最高司令部が置かれているが、同司令官は実働部隊を持たないゆえに一種の儀礼職に近い。かくて最強の実力組織を掌握する陸軍司令官が事実上国軍のトップに位置し、政権の後ろ盾となる。だがクーデター指導者となり得るがゆえに、常に「クーデター発動の意思」を問われる。昨年10月に就任したアピラット陸軍司令官もまた新任会見で記者から問われたが、明言を避けた。将来を想定すればこそ自らの手足を縛る必要はない、ということだ。

 こうした権力の仕組みの中で、<クーデター決起(憲法・国会停止)⇒ 暫定政権(新憲法制定)⇒ 総選挙 ⇒ 民政移管 ⇒ 国政混乱 ⇒ クーデター>という政治過程が繰り返されてきた。

 以上が「国王を元首とする民主制度」の骨格といえる。総選挙を経た後も、新政権が成立するまで国政の全権を掌握しているのはクーデターを成功させた集団――現在でいうならばNPKCであることを忘れてはならない。

タクシンとは“ホリエモン”のような存在

 以上を前提にして次なる「もし」だが、仮に陸軍が強い政治的影響力を発揮していた昭和20年以前に全盛期の「ホリエモン」が現れ、財閥によって形作られてきた財界の仕組みに打撃を与える一方、莫大な原資で政党を再編・糾合して国政を動かすようになっていたら、である。そうなった場合、既存勢力は危機感を持ち、身構え、態勢を整え、糾合してホリエモン勢力の包囲・阻止に動いたはずだ。

 タクシンとは言ってみれば、このホリエモンのような存在である。こう考えてこそ、2005年から続くタクシン派と反タクシン派の激しい対立の背景が浮かび上がり、2014年のクーデターから今回の総選挙を経て、現在も継続する混乱状況の底流を捉えることができる。

 そこで注目すべきは、2017年夏の国民投票を経て公布された現行憲法に従って制定された現在の選挙法だろう。

 全国に350の小選挙区を設けると同時に、150の比例議席は全国の小選挙区選挙で投じられた総得票数から割り出された基数によって各政党に配分される。だが、当該政党が小選挙区で獲得した議席数が同党に割り当てられるはずの比例議席数を上回っていたなら、比例議席はゼロとなる。小選挙区で最多議席を獲得したタイ貢献党の比例議席がゼロだったのは、この規定が適用された結果なのだ。

 この制度は「下院の民主的運営を目指し巨大政党による独裁阻止」を“大義名分”として定められた。その背景に見え隠れするのは、2000年初頭の政権掌握以降の総選挙において常に下院過半数を押さえ単独政権を維持してきたタクシン派に対する危機感である。

 法制度面で不利な立場を跳ね返そうとタクシン派が打った新たな試みが、昨秋結党された若手中心の「国家維持党」である。タクシン派を2党に分け全国の支持票を分散させることで、比例区での議席ゼロを回避しようと狙ったに違いない。

タクシン派が繰り出した「究極のポピュリズム」

 国家維持党は総選挙が近づいた2月初旬、現国王の姉に当たるウボンラット王女を同党首相候補に擁立し一気に攻勢に出た。タイでは各政党が首相候補を擁立して総選挙に臨み、候補者個人ではなく政党を選ぶ。首相公選制のような仕組みでもあるが、首相は必ずしも下院議員である必要はないから、著名人を担ぎ出せば選挙戦を有利に展開することができる。究極のポピュリズムといえるだろう。

 すでに王室を離れているうえに社交界の花形として全国に知られた同王女である。彼女を擁立することで選挙活動に弾みを付けようとしたはずだ。だが王女擁立が表明された当日深夜、「王族の政治参加は不可」との国王声明が伝えられ、国家維持党の狙いは脆くも外れた。3月に入るや、「国王を元首とする民主制度」を制度面で監視する憲法裁判所が、王女擁立が憲法に抵触することを理由に国家維持党に対し解党を、同党幹部に対しては10年間の政治活動禁止を命じた。かくてタクシン派はタイ貢献党による“片肺飛行”のまま選挙戦に臨まざるを得なかったのである。

 なお、ここで2005年2月の総選挙以降、憲法裁判所が議会内外でタクシン派を押さえる方向に働いてきたことを記しておきたい。

日本人が知っておくべき“微笑みの国”の素顔

 5月4日の戴冠式当日を挟んだ数日間、タイは国を挙げての祝賀ムードに包まれる。であればこそ当面は政治休戦となり、5月9日の総選挙結果公式発表を待って連立政権を巡る政界再編劇が本格化するだろう。その際、連立の軸は上院の250議席に加え下院118議席を擁する国家国民の力党を背景にしたプラユット暫定首相にあることは間違いない。

 だがタクシン派の存在――小選挙区で137議席を持ち、東北部を拠点に一定の支持層を維持するタイ貢献党――を無視するわけにはいかない。すでに「タクシン」は元首相個人を指すというより、ABCM複合体に対して「ノー」の意を示す政治的記号となったのではないか。

 3月30日、タイ政府は官報でタクシン元首相による一連の振る舞いを「悪劣」と見做し、現国王は前国王が同元首相に与えた一切の勲章を29日付けで剥奪したことを明らかにした。4月7日には首相退任以降も許されていた「国土防衛志願者軍団大団長」の称号の使用が禁止されたことで、王室とタクシン元首相の関係は絶たれたことになる。

 じつは国王戴冠式を司る最高責任者の立場に在るシリントーン王女は4月3日から10日まで訪中し、北京、上海、江西、福建、香港、マカオを回った。4日には王毅国務委員兼外交部長と会談している。なお、同王女の訪中は今回で48回目。おそらく同王女以上に訪中回数を重ねている外国要人はいないだろう。それほどまでに同王女と中国の関係は深い。

――以上、タイが国是とする「国王を元首とする民主制度」に則って、政治面から“この国のかたち”を考えてみた。

 日本の外交、経済にとってタイが東南アジアにおける重要なカウンター・パートであることは明らかだ。いま「微笑みの国」は新しい「国王を元首とする民主制度」の許で変貌を遂げようとしている。であればこそ「軍政延長か、民主化か」といった類のステレオタイプの視点を捨て、タイの政治文化の変化を読み取ることが、いまこそ求められているのではないか。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/15894  

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コメント
1. 2019年4月11日 19:00:34 : O8HL2KZeN6 : R3B5aGZLdXlFWW8=[203] 報告
クーデター するもさせぬも 相手次第

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