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「新パイプラインはロシアの罠」は真っ赤な嘘! 英エコノミスト誌の「作文」を鵜呑みにした日本の新聞 
http://www.asyura2.com/19/senkyo258/msg/292.html
投稿者 うまき 日時 2019 年 3 月 08 日 22:23:00: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

「新パイプラインはロシアの罠」は真っ赤な嘘!
英エコノミスト誌の「作文」を鵜呑みにした日本の新聞
2019.3.7(木) 杉浦 敏広
ロシアから天然ガスを欧州へ送る「ノルト・ストリーム」(出典:ガスプロム)
プロローグ
利益を生まない巨大プロジェクト
 「利益を生まない巨大プロジェクトが進められている場合、理由が2つ考えられる。出資者が愚かであるか、あるいは狙いが他にあるかだ」
 2019年2月20日付・日本経済新聞6面に、英週刊誌エコノミストの「新パイプラインはロシアのワナ」と題する長文翻訳記事が掲載されました。
 上記はこの論考の冒頭の一節です。内容は事実に反する記述が多く、曲解と偏見に満ちた記事なので論評に価せずと考え、筆者は無視しておりました。
 ところがその後、多くの知人・友人から「この記事内容は本当か?」との問い合わせを受けました。
 内容は事実と異なっていても、著名な雑誌であり影響力も大きいようなので、今回はあえてこの記事を題材として取り上げることにしました。
 この記事が批判している対象パイプライン(P/L)は「ノルト・ストリームA」と命名された、ロシアからバルト海経由ドイツまでの天然ガス海底パイプラインです。
 Aと命名された理由は@があるからですが、最初のパイプラインは単に「ノルト・ストリーム」が正式名称です。
 ただし、「ノルト・ストリームA」と比較する意味で、この小論ではあえて「ノルト・ストリーム@」という名称を用いたいと思います。
 この小論ではまず、旧ソ連邦・新生ロシア連邦から欧州向けの天然ガス輸出の歴史を概観することにより、旧ソ連邦・新生ロシア連邦が天然ガス供給源として信頼に足る存在であるかどうか検証します。
 次にノルト・ストリーム@の現況を分析し、なぜ米国やウクライナがノルト・ストリームAに反対しているのか考察したいと思います。
 最後に、英エコノミスト誌冒頭の一句が果たして正鵠を射ているのかどうか、筆者個人の見解をご披露させていただきます。
旧ソ連邦・新生ロシア連邦から
欧州向け天然ガス輸出の歴史
 旧ソ連邦崩壊前夜、ソ連邦ガス工業省傘下にコンツェルン・ガスプロムが設立され、天然ガスの輸出業務を担当していました。
 コンツェルン・ガスプロムは新生ロシア連邦に入るとガスプロムに改組され、今では世界最大の天然ガス生産・輸送・販売会社になりました。
 旧ソ連邦の石油輸出公団とOMV(Österreichische Mineralölverwaltung/オーストリア石油会社)は1968年6月1日、ソ連邦からオーストリア(墺)向け天然ガス供給契約に調印しました。
 「なぜ、石油輸出公団が天然ガス輸出契約を?」と不思議に思われる方もいると思いますが、当時はソ連邦にガス輸出公団が存在せず、石油輸出公団が天然ガスの輸出交渉をしていました。
 40年後の2008年6月、OMVはウィーンで天然ガス契約40周年記念式典を挙行して、露ガスプロムに対し「過去一度も途絶えることなく天然ガスを供給してくれたことに感謝する」旨の感謝状を手交しています。
 2018年6月5日には同じくウィーンで、契約50周年記念式典を開催しました。
 露ガスプロムのA.ミーレル(A.Miller)社長と墺OMVのR.シーレ(R.Seele)社長は2018年6月5日、露V.プーチン大統領と墺S.クルツ首相臨席の下、既存の2028年までの天然ガス長期供給契約を2040年まで延長する契約書に調印。
 露A.ミーレル社長は「欧州への天然ガス長期安定供給のためにはノルト・ストリームAの建設が必要不可欠である」と強調しています。露ガスプロムと墺OMVの関係は、他の欧州大手ガスユーザーにとり一つの指針を示していると言えましょう。
 1991年末にソ連邦が解体されてソ連邦が消滅したときも、欧州向け天然ガス供給が途絶えたことはありませんでした。
 このことは、「アラブの春」で北アフリカから地中海経由南欧向け天然ガス供給が一時途絶えたことを想起するとき、ソ連邦・ロシアがいかに信頼に足る資源供給国であるか、事実が物語っていると言えましょう。
 このように書くと「いや、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給を止めたではないか」との反論が出ること必至と思います。
 確かに、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給を過去3回止めました(2006年、2009年、2014年)。しかしそれはあくまで経済問題であり、政治問題ではありません。商品代を払わない買い手に、商品供給を続ける売り手はいません。
旧ソ連邦・新生ロシア連邦から
欧州向け天然ガス輸出の歴史
 2018年6月5日付・ロシアの日刊紙コメルサントに、旧ソ連邦・新生ロシア連邦から欧州向け天然ガス供給開始の歴史が略述されているので、要旨をご紹介します(bcm=10億立米)。
1967年:“ドルージュバ”(友好)と“ブラーツトボ”(同胞)P/L完工後、ソ連邦からチェコスロバキア向けに天然ガス供給開始。
1968年6月:ソ連邦石油公団と墺OMV 、年間1.4億立米の天然ガス供給契約調印。
以後、2018年5月末までにロシアから累計218bcmの天然ガスを供給。
1968年:ソ連邦と東独(DDR)、天然ガス供給契約調印。
1969年:西独(BRD) に社会民主党(SPD)党首のW.ブラント首相誕生、Ostpolitik(東方政策)推進。ソ連邦に天然ガスと鋼管の交換取引を提案。
1970年:西独とソ連邦、契約調印。西独のガス輸入会社はRuhrgasとVerbundnetz。
1973年:ソ連邦から東独と西独向けに天然ガス供給開始。以後、2018年5月末までに1兆立米以上の天然ガスが旧ソ連邦・新生ロシア連邦からドイツ(東独・西独)に供給された。
1975年:ソ連邦はブルガリア・ハンガリー・フィンランド・伊・仏と天然ガス供給契約調印。
1978年:ソ連邦から旧ユーゴスラビア連邦向け天然ガス供給開始。
1979年:ソ連邦からルーマニア向け天然ガス供給開始。1980年にはソ連邦から欧州向け天然ガス供給量は54.8bcmに拡大。
1986年:トルコと年間6bcm、25年間の長期供給契約調印。トランス・バルカン陸上P/L完工後の1987年から天然ガス供給開始。以後、ソ連邦・露連邦からトルコ向けに400bcm以上の天然ガスが供給された。
(1991年末)旧ソ連邦崩壊、新生ロシア連邦誕生
1996年:露ガスプロムとギリシャ、天然ガス契約調印。ギリシャ向け天然ガス供給開始。
2001年:ヤマル半島〜欧州天然ガスP/Lで、ロシアからオランダ向け天然ガス供給開始。
2017年:露は非CIS諸国(EU諸国-バルト3国+トルコ)向け194.4bcmの天然ガスを輸出。
 2018年のロシアから非CIS諸国向け天然ガス輸出量は201.7bcmとなり、この結果、欧州連合(EU)28か国の天然ガス消費に占める露産天然ガスのシェアは2017年の34.2%から、2018年36.7%に上昇しました。
 これが、米ドナルド・トランプ大統領が「欧州はロシアの天然ガス依存度が高すぎる」と批判する背景になります。
 なお、露ガスプロムは欧州向け天然ガス輸出先をCIS(独立国家共同体)向けと非CIS諸国向けに分類しています。
 ガスプロムの言う非CIS諸国とは(EU諸国−バルト3国+トルコ)を指しますので、政治的なCIS諸国とは多少異なります点、追記しておきます。
ノルト・ストリーム@Aと
ドイツ国内天然ガス陸上パイプライン
 露ガスプロムは世界最大のガス会社です。露国内で天然ガスを生産し、自社の国内・輸出用P/L網で欧州に天然ガスを輸出しています。今年12月には中国向けに天然ガス供給開始予定です。
 ロシアからバルト海経由ドイツ向け海底P/L「ノルト・ストリーム @」(NS @)は、露フィンランド湾Vyborg(ヴィボルグ)から独Greifswald(グライフスヴァルト)湾Lubmin-1基地まで口径48インチ(1220o)、全長1224キロの2本の天然ガスP/Lです。
 設計輸送能力は計55bcmですが、2018年の輸送量は設計能力以上の58.8bcmになり、2011年末の稼働開始から2018年末までに累計264.1bcmの天然ガスをロシアからドイツに輸出しました。
 付言すれば、海底P/Lの建設費は水深にほぼ正比例します。浅ければ安く、深ければ高くなります。
 日本のメディアではほとんど報じられることはありませんが、実は海底P/Lだけ建設しても無意味です。
 海底P/Lに接続する陸上受入基地と陸上P/Lを建設しないと、海底P/Lは完工しても稼働できません。
 NS@に接続するドイツ国内陸上P/L(口径56”=1420o)は「OPAL」と「NEL」の2系統あり、OPALはチェコ・スロバキア方面へ、NELはオランダ方面に天然ガスを輸送しています。
 NS@がフル稼働態勢に入ったのは、陸上接続P/Lが完成して、EUガス規制(第3次エネルギーパッケージ)の適用が除外された後のことです(後述)。
 NS@に並行して、全長1220キロのノルト・ストリームA(NS A)が現在2本同時に建設中です。
 総工費95億ユーロ、海底P/L NS Aの出荷基地は露フィンランド湾のウスチ・ルガ、独国内受入基地はLubmin-2、陸上P/Lが「EUGAL」(European Gas Pipeline Link)です。
 EUGALはLubmin-2基地から独・チェコ国境まで全長約480キロのP/Lで、口径56インチ、送圧100気圧、既存のOPALパイプラインに並行して建設中です。2本建設予定で、1本目は2019年末、2本目は2020年末までに完工予定です。
 NSAとEUGALが稼働すれば、欧州のエネルギー安全保障に大きく貢献するでしょう。
 NS@とNSAのパイプライン地図は以下の通りです。余談ですがNS@が1224キロ、NSAが1220キロと多少距離が異なるのは、ロシア側の起点(出荷基地)が異なるからです。
ノルトストリーム(冒頭と同じ図)(出典:露ガスプロム http://www.gazprom.com/projects/nord-stream2/
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/9/5/600/img_951e17e59fc307f53d78ce05527af62159972.jpg

 ご参考までに、ロシアから欧州向け天然ガス海底P/Lは以下の通りです。

拡大画像表示
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/e/1/-/img_e1841dac2ab483f99e7fa431f9ae793782023.jpg

米国はなぜノルト・ストリームAに
反対しているのか
 上述の通り、海底P/L NSA は順調に建設中です。今年2019年2月末現在、全長1220キロのうち既に700キロは敷設済みで、2019年11月には1本目が、年末には2本目が完工予定です。
 ドイツ国内接続陸上P/Lの1本目は今年末に完工予定ですから、来年早々にはNSAの1本目とEUGALの1本目P/Lが接続されて、P/Lシステムは稼働態勢に入るでしょう。
 米トランプ大統領はこのNSAに反対を表明しています。経済制裁も視野に入れ、P/L建設協力企業を恫喝しています。
 反対理由はNSAが建設されるとNS@と併せ、欧州の天然ガス対露依存度が高くなること、およびロシアからウクライナ経由欧州向けトランジット輸送がなくなり、ウクライナ経済が疲弊するという理由です。
 ウクライナでは3月31日が大統領選挙です。新大統領にとり喫緊の課題は、今年末に失効する同国経由欧州向け天然ガス長期トランジット契約の対露更改交渉になります。
 トランジット輸送により同国が得る収入は年間20億〜25億ドルと言われており、この輸送がなくなると同国経済は大打撃を受けます。これが、ウクライナがNSA建設に反対しているゆえんです。
 ではなぜ、トランプ大統領やウクライナは建設中のNSAに対する反対運動を大々的に展開しているのでしょうか?
 トランプ大統領自身、既に完工間近の2本の海底P/L建設を阻止できるとは思っていないはずです。
 筆者は、米国やウクライナはP/L建設遅延を狙っていると考えております。
 年内にNSAの1本目とそれに接続する1本目の陸上P/Lが完工して接続され、年内に稼働態勢が整えば、それは現在進行中のEU・露・ウクライナ(宇)3者間のウクライナ経由欧州向け天然ガストランジット輸送契約更改交渉において、ロシアが有利になります。
 現行契約は露プーチン首相と宇ティモシェンコ首相臨席のもと、2009年1月に締結された、2009年1月1日から2019年12月末まで11年間有効の長期契約で、今年末に失効します。
 既に昨年7月と9月、および今年1月に契約更改交渉を行いました。次回は新大統領就任後の5月に交渉再開予定です。
 この時点で、ウクライナを迂回する1本目のNSAから独国内経由中欧・東欧に露産天然ガスが供給される態勢に目途がついていれば、それはウクライナの交渉力が弱まることを意味します。
 米国にとり、露が交渉において有利になる状況が出現することは望ましくありません。
 せめて年内のP/L完工・稼働が不透明な状況(=ロシアにとり不利な状況)で、EU・露・ウクライナが対等な立場で交渉することが望ましいと思っているはずです。
 ウクライナ経由欧州向けトランジット輸送がなくなると、ロシアの欧州向け天然ガス輸送計画に支障が出ます。ガスプロムにとり欧州市場は金城湯池であり、主要な外貨獲得源です。
 その最重要市場への天然ガス供給に支障をきたすことはガスプロムの損失となり、ひいてはロシアの国益を毀損します。ロシアはこの様な事態だけは避けなければならず、逆に米国はそのような事態を望んでいます。
 上記が、米国がNSA反対キャンペーンを展開している理由と筆者は理解しています。
ウクライナに真の脅威となる天然ガスP/Lは?
 ウクライナは2015年11月、露からの天然ガス輸入を停止しました。しかし実際にはP/L逆走により、NS@の露産天然ガスを欧州側から輸入しています。
 P/Lでロシアから直接輸入するよりも、千立米あたり約100ドル高い価格で輸入しているのが実態です。
 しかし、ウクライナにとり真の脅威はNSAではありません。それは黒海横断海底P/L「トルコ・ストリーム」です。
 ロシアにとり、米国やマスコミの目が建設中のNSAプロジェクトに注がれていることは、実は都合のいい事態かもしれません。
 露ガスプロムはその間に、粛々と黒海横断海底P/Lを建設しました。
 バルカン陸上P/Lは、ロシアからウクライナ・ルーマニア・ブルガリア経由トルコにP/Lガスを供給しています。
 1本目のトルコ・ストリーム(以後、TS@)はトルコ市場向けですから、完工・稼働するとバルカン陸上P/Lは不要になり、ウクライナ経由がゼロになります。
 TS@プロジェクトでは既に全長930キロの海底P/L2本がほぼ完工しており、1本のP/Lの年間輸送能力は15.75bcm、2本で31.5bcm、現在はトルコ国内の陸上接続P/Lを建設中です。
 1本目はトルコ市場向け、2本目は南欧・中欧向けであり、ブルガリアから西に行けば、セルビア・ハンガリー経由墺バウムガルテンのハブ市場に接続可能になります。
 このトルコ・ストリームの前身は「サウス・ストリーム」でした。
 サウス・ストリームはブルガリア向けに4本の海底P/L(1本15.75bcm、計63bcm)を建設する構想でしたが、同国に親欧政権誕生後、このP/L建設構想は反故となり、代替案として実現したのがTS@です。
 もしロシアが本当にウクライナ経由トランジット輸送をゼロにしようとすれば、「トルコ・ストリーム A」(TSA/年間輸送能力15.75bcmx2本)も建設するでしょう。
 このTSAが実現すると、文字通りウクライナ経由はなくなります。
 TSAに関しては、もう一つニュアンスがあります。
 TSAは西欧ではなく、南欧向けガス供給を主眼とします。これは、カスピ海産天然ガスをコーカサス・トルコ経由南欧に輸出する「南ガス回廊」構築構想と真っ向から競合します。
 カスピ海シャハデニーズ第2段階の天然ガスはピーク時生産量16bcmですから、この量ではロシアにとり脅威になり得ません。
 脅威となるのは、カスピ海横断海底P/Lが建設されて、対岸のトルクメン産天然ガスが大量に南欧向けに流れるインフラが構築される構図です。
 ですから筆者は、これを阻止すべくロシアはTSA構想を今後推進すると予測しています。
 ロシアの問題点はNSAが建設されるかどうかではありません。
 NSAは(多少遅れても)実現するでしょう。ロシアの問題点はロシアに十分な天然ガス輸出能力・余力があるかどうかです。
 筆者は、供給能力・余力が隘路となり、このままいけば露ガスプロムの輸出戦略の破綻が早晩表面化すると睨んでいます。
 ただし、対策はあります。それはガスプロムがトルクメン産天然ガス輸入を再開して国内ガス需要に充当し、西シベリア産天然ガスを輸出に振り向けることです。
 欧州に向かうはずのトルクメン産天然ガスをロシアが輸入すれば、その分トルクメン産ガスの輸出能力は低下します。
 ゆえに、ロシアにとりトルクメン産天然ガスの輸入再開は一石二鳥の喫緊の課題になります。
ノルト・ストリームAの障害
EU第3次エネルギーパッケージ
 EUの第3次エネルギーパッケージは2009年に採択されました。これは一言で申せば「天然ガス市場の自由化、生産と輸送の分離」で、日本風に言えば「発電と送電の分離」になります。
 欧州天然ガス市場に於ける競争力を阻害する要因を排除すべく、EU域内のP/L輸送能力の半分は第三者に開放することが規定されています。
 NSAが現在直面している問題はEU委員会が策定した新ガス指令案です。
 指令案によれば、第三国からEU域内への国際P/Lに対し、出荷基地と受入基地にもこの「生産と輸送の分離」規定が適用されることを想定しています。
 もちろん、このガス指令案がノルト・ストリームAを念頭に策定されたことは論を俟ちません。
 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2月7日、突如この案に賛成を表明したため、慌てたのが独A.メルケル首相。
 直ちに両首脳は協議に入り、メルケル首相は翌8日、「独仏は協議の結果、ガス指令修正案で合意に達した」と発表。
 修正案とは、出荷基地に適用することを外すこと、受入基地を有する国がガス指令を適用するかどうかEUと協議のうえ決定するという案です。
 すなわち、NSAの出荷基地露ウスチ・ルガには適用されず、露ガスプロムはP/L輸送能力全量55bcmを使用可能になります。
 受入基地ルブミン-2はドイツですから、ドイツがガス指令を適用するかどうか責任をもつことになります。
 ただし、適用例外措置を認めてもらう場合、例外措置発効時の5か月前までにP/L受入国はEU委員会に申請することになっています。
 米国やウクライナのNSA反対運動よりも、露ガスプロムやドイツにとり、このEUガス指令案の方が実は頭の痛い問題ではないかと筆者は推測しております。
英エコノミスト誌記事への反論
 ここで、冒頭の「新パイプラインはロシアのワナ」と題するNSA批判記事に戻ります。
 何度読んでも意味不明です。デタラメな記事と言っても過言ではありません。
 この記事を書いた記者も翻訳記事をチェックした(はずの)日経デスクも、このパイプラインのことを知らないのではないでしょうか。
 ではこの記事を概観します。
 まずパイプライン地図が目に入ります。「ノルドストリーム2」の地図があり、ビボルグからグライフスバルトまでとなっています。
 Nord(北)はドイツ語ですから、発音は「ノルト」になります。しかしこれは枝葉末節です。
 NS@の起点(出荷基地)は露フィンランド湾ヴィボルグ、受入基地は独グライフスヴァルト湾ルブミン。NSAの起点はフィンランド湾ウスチ・ルガであり、ヴィボルグではありません。
 P/L地図の起点が間違っているということは、P/Lプロジェクト自体をよく理解していない証拠と言わざるを得ません。
 「経済的に見れば、必要のないパイプラインだ」と書いてありますが、具体的な根拠は不明です。
 既存のP/L網で十分足りるというのがどうやら理由のようですが、欧州では今後天然ガス輸入拡大が必要です。
 なぜなら、石炭火力からガス火力への転換、原発停止などによりEU域内の天然ガス需要が増える一方、EU域内の天然ガス生産量が減少するからです。
 欧州域内最大のガス田、オランダのフローニンゲンでは天然ガス生産量が減少しています。同ガス田のピーク時生産量は2013年の53.8bcm、2019年の生産予測は17.5bcm。今後4〜5年以内に年間生産量12bcmまで減少し、2030年までに生産をやめる計画です。
 北アフリカからの天然ガス供給も減少の見込み、ノルウェー産天然ガスの増産も困難です。
 ですから、露産P/Lガスが安定的に供給されることは欧州エネルギー安保に貢献することになり、経済的に見れば必要なP/Lなので建設しているわけです。
 「ガスプロムがノルドストリームの唯一の株主だ」と、露ガスプロムが唯一の株主であることを批判しています。
 しかしこのNSAプロジェクトは当初、欧州の大手需要家(買い手)5社がこのプロジェクトに権益参加することになっていました。
 ところが、米国の対露経済制裁により権益参加が阻止されてしまいました。ですから、もしガスプロムが唯一の株主であることを批判するのであれば、批判の対象はロシアではなく米国になります。
 「ノルドストリーム2によって、ロシアはバルト海地域にインフラ設備を有することになる。これは、現地のロシア軍駐留を増強する言い訳になり得る。だからこそ、バルト3国や北欧諸国ポーランドは懸念しているのだ」
 話は全く逆です。NS@とAのP/L地図をご覧ください。
 このP/Lは露からフィンランド〜スウェーデン〜デンマークの排他的経済水域経由、ドイツに入ります。
 反露志向の強いバルト3国やポーランドの排他的経済水域を経由すると嫌がらせを受けること必至です。すなわち、懸念しているのはロシアであり、であるがゆえにバルト3国とポーランドを意図的に避けました。
 それでも一つ問題が発生しました。NS@はデンマーク領離れ小島の領海を一部通過しています。
 NSAは@に並行して敷設中ですが、デンマークは米国の圧力を受け、自国領海通過を拒否しており、これがNSA建設遅延の原因になっています。
 「第2に、ノルドストリーム2は欧州のロシア産エネルギーへの依存度を高めることになる」
 これは事実です。しかし買い手は民間企業であり、民間企業は安くて安定した供給者から商品を購入します。
 旧ソ連邦、新生ロシア連邦からの天然ガスは安くて安定的に供給されているので、買い手は露産ガスを選好しています。依存度の多寡は結果論に過ぎません。
 「アラブの春」で北アフリカから地中海縦断海底P/Lが止まり、天然ガス不足となり困ったのが南欧です。
 この時、追加供給して欧州の不足分を補填したのが露ガスプロムですが、別に経済支援したわけではありません。
 ビジネスとしてガス供給を増やしただけですが、結果として双方の利益になりました。
 エコノミスト誌は「最終消費者にもっと公正な価格でガスを提供すべく・・・、コストを開示し、透明性を高めるように求めてきた」と主張しています。
 露輸出者と欧州需要家の天然ガス価格契約は油価連動型ですから、油価が高くなればガス価格も高くなり、逆も真なりです。
 しかし契約は商業契約であり、価格形成式は当事者(売り手と買い手)間の秘密事項です。西側企業の石油・ガス契約でも、当事者間の契約価格や価格形成式を公表することはありません。
 開示されたら情報漏洩になります。
 付言すれば、この油価連動型長期契約方式は露ガスプロムが発明した契約形態ではなく、欧州大手需要家がソ連邦にガス契約書の雛型として提案しました。
 当時油価が安かったので、油価連動型にすればガス価格も安くなることは分かっていました。
 この油価連動型長期契約により大儲けしたのが西独RuhrgasとVerbundnetz、墺OMVなどです。
 「ロシアは天然ガスの供給をいつでも政治的な武器に使えると考えている」
 この批判は典型的、かつステレオタイプな文言です。
 上述の通り、ロシアの天然ガス輸出は商業契約です。契約に従い量も価格も規定されており、過去50年間、供給が政治的理由で途絶えたことはありません。
 ロシアにとり石油(原油と石油製品)と天然ガスは主要な外貨獲得源ですから、自らバルブを閉めることは自分で自分の首を絞めることと同義語です(ウクライナは別次元の問題)。
 他の批判も推して知るべしと言えましょう。
エピローグ
犬が吠えても、駱駝は進む
 ロシア語の諺に「犬が吠えても、隊商(駱駝)は進む」があります。
 トルコや中東諸国にも同様の諺があるそうです。スラブ民族は森の民であり砂漠の民ではありませんので、中央アジア諸国でこのような諺が定着したのではないかと推測します。
 米トランプ大統領はノルト・ストリームA建設反対を強硬に唱え、西側の建設協力企業に圧力をかけています。
 しかし、ロシアから欧州向け天然ガス供給は増えています。
 需要家は安い価格で安定した供給を保証する、信頼に足る生産者・供給者から天然ガスを購入します。結果として、この経済合理性が欧州のエネルギー安全保障に貢献しており、ここには政治が関与する余地はありません。
 米トランプ大統領がいくら反対しても、独メルケル首相はNSA建設を支持しており、(デンマーク領海通過問題以外)海底P/Lも陸上接続P/Lも建設は順調に進行しています。
 上記の諺を援用すれば、「トランプ吠えても、メルケルは進む」となりましょうか。
 墺S.クルツ首相は2月20日、ホワイトハウスで米トランプ大統領と会談。その際、大統領から米国産ガス輸入を迫られたことに対し、下記のようにコメントしています。
≪Buying gas from the United States would not be a problem for us. But as long as Russia’s price is better than that of the United States, Russia is more attractive for us as a partner on this issue. A believe that as a former businessman, [Trump] can understand that we have different interests here,≫ the Austrian Chancellor noted.
(米国からガスを買うことは問題ありません。しかし露産ガスが米国のガスより安い限り、露産ガスの方が魅力的です。ビジネスマンならお分かりいただけると思います)
 正鵠を射たコメントと言えます。優秀なビジネスマンたるトランプ大統領は、果たして何と回答したのでしょうか。
 筆者は常々、なぜ英フィナンシャル・タイムズ紙やエコノミスト誌がかくも稚拙な対露批判を展開しているのか不思議に思っていましたが、今年3月号の『選択』を読み納得しました。
 「英国、対ロ秘密情報戦の内実/暴露された陰の組織と黒い手口」と題するリポートは、英国の秘密組織がカネを払い、ロシアへの警戒感を高めながら親ロシア派を攻撃し、より強硬な対ロ政策を歓迎する世論の形成を促しており、その支払い先に、英国では「エコノミスト」誌や「フィナンシャル・タイムズ」紙が登録されている、と報じています(同誌17頁)。
 エコノミスト誌記事の冒頭に曰く、「利益を生まない巨大プロジェクトが進められている場合、理由が2つ考えられる。出資者が愚かであるか、あるいは狙いが他にあるかだ」。
 どうやら、エコノミスト誌記事冒頭の一節には「デタラメな記事が書かれている場合、理由が2つ考えられる。記者が愚かであるか、あるいは狙いが他にあるかだ」の方がよく似合いそうですね。
(参考地図)
 ご参考までに、NS@とNSAに接続するドイツ国内陸上P/L、NEL、OPAL、EUGALのP/Lルートは以下の通りです。
地図出所:https://www.eugal.de/en/eugal-pipeline/route/
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/4/e/400/img_4e5b6625219bb284145d913caa2a485a45508.jpg
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55675
 

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コメント
1. 佐助[6603] jbKPlQ 2019年3月08日 22:55:51 : z5Sx38n0Sg : VHN1VmMvUE9LZS4=[61] 報告
パイプライン建設には,日本のパイプライン専用クレーンを何十台も使います。鵜呑みにした日本の新聞は馬鹿だとしておきましょう。本当に情けない日本のマスコミ。天罰が下るでしょう
2. 2019年3月09日 13:18:03 : GrnqIRic9c : TGtxcWRQRXJvQU0=[7] 報告
>「英国、対ロ秘密情報戦の内実/暴露された陰の組織と黒い手口」と題するリポートは、英国の秘密組織がカネを払い、ロシアへの警戒感を高めながら親ロシア派を攻撃し、より強硬な対ロ政策を歓迎する世論の形成を促しており、その支払い先に、英国では「エコノミスト」誌や「フィナンシャル・タイムズ」紙が登録されている、と報じています(同誌17頁)。


イギリスも油断できないねえ、アメリカに劣らずという感じだ。

>親ロシア派を攻撃

これはコービンたたきでしょうね。

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