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社説 2019年7月12日
辺野古の海をめぐる沖縄県と政府の対立が、再び法廷に持ちこまれることになった。玉城デニー知事の提訴方針が、きのうの議会で認められた。
昨年8月、軟弱地盤の発覚などをうけて、県が埋め立て承認を撤回したのが、今回の訴訟の出発点だ。防衛当局は、県の措置を取り消すよう石井啓一国土交通相に申し立て、認められた。裁判では国交相のこの裁決の当否が争われる。
残念なのは、有識者でつくる第三者機関・国地方係争処理委員会(富越和厚委員長)が全く機能しなかったことだ。
裁判に先立つ形で、係争委はこの問題を審査してきた。論点はふたつだった。
(1)行政不服審査法によれば、国交相に申し立てができるのは国民や企業などの「私人」に限られるが、防衛当局はそれに当たるか(2)防衛当局と同じ政府の一員である国交相に、公平公正な審査が期待できるか。
これに対し係争委は先月、(1)防衛当局の立場も私人と変わらない(2)行政事務は細分化され、どの機関も適正に仕事をしている。国交相がことさらに判断をゆがめるとはいえない――として政府の行動を追認した。
とうてい納得できない。
埋め立ての要件などを定めた公有水面埋立法は、私人と国とを明確に区分し、扱いも別にしている。何より軍事基地を造る目的で埋め立てを許される「私人」などいるはずがない。
(2)の縦割り行政を称賛するような見解も噴飯ものだ。工事は閣議決定に基づいて行われており、国交相が防衛当局と異なる見解を示すことなど考えられない。理屈をこね、事の本質を見ないまま、常識に反する判断をしたとの批判は免れまい。
係争委は4年前にも同様の辺野古案件を審査した。最終的に県の訴えを退けたものの、国側の主張にも疑問を呈していた。その後、委員長らが交代したためか、政府による既成事実づくりに屈したのか、国寄りの姿勢を今回鮮明にした。この係争委の判断に対しても、県は提訴を検討しているという。
政権の強引さは目にあまる。国と自治体の利害がぶつかった場合を想定した解決手段は別に用意されているのに、一般国民の権利を守るためにある行政不服審査請求という裏技を繰り出した。「身内」同士で確実・迅速に処理でき、工事に突き進めると踏んだのは明らかだ。
地元の民意を無視し、脱法的なやり方を恥じず、係争委もまた期待される使命を果たさないとなれば、地方は国に従属するしかない。ひとり沖縄の問題ではない。地方自治全体をゆるがす事態と考えるべきだ。
https://www.asahi.com/articles/DA3S14093218.html?iref=comtop_shasetsu_02
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