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携帯電話基地局、周辺住民の「がん死亡率」高く…5G、一部欧州で中止、人体へ影響懸念
https://biz-journal.jp/2020/07/post_168531.html
2020.07.25 05:50 文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者 Business Journal
朝霞市城山公園のKDDI基地局設置予定地。現在、工事は中断している。
■国策としての無線通信網整備の影で
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が続いていた5月27日、スーパーシティ法(改正国家戦略特区法)と呼ばれる法律が国会で成立した。5G(第5世代移動通信システム)の導入と連動して、日本の未来型都市の構築を進めるための法律である。国家戦略特区を設け、そこで人工知能(AI)や5Gなどを駆使した自動運転、医療、防犯などの「実験」を行うための法的な布石にほかならない。
このプロジェクトの有識者懇談会の座長には、小泉政権の時代に急進的な規制緩和策を押し進めた竹中平蔵・東洋大学教授が就任している。あまり報道されていないが、未来型都市の構築はいわば政府肝いりの計画なのである。
こうした状況下で、通信基地局の設置をめぐるトラブルが増えている。3月31日付日本経済新聞によると、千葉市は「楽天モバイルと共同で学校敷地内に基地局を設置」することで合意しているという。「導入するのはまず市内の5小学校」で、7月から基地局設置の工事に取り掛かる。埼玉県野田市では楽天が住居から2メートルの位置に基地局を設置しようとして、住民から抗議を受け計画中止に追い込まれた。
「電磁波からいのちを守る全国ネット」の運営委員をしている筆者のもとには、基地局設置に関する相談が頻繁に持ち込まれる。その背景には、電磁波による人体への影響について認識が広がってきたことに加えて、携帯電話各社が基地局の設置を急ピッチに進めている事情がある。たとえばKDDIは「今後2023年度末までに国内最多となる53,626局」の設置を予定しているという。
筆者自身も基地局設置をめぐるトラブルに巻き込まれている。埼玉県朝霞市の自宅から100メートルほどの場所でKDDIが基地局を設置するための工事に着手したのだ。しかも、設置場所は朝霞市の公有地である城山公園の敷地内である。基地局設置をめぐるトラブルは今後、多くの人が直面する問題である。
6月8日の午後、筆者はたまたま工事現場を通りかかった。そして工事の標識を見て、KDDIの基地局設置工事であることを知った。同社の下請け工事会社に工事の中止を求めたところ、数時間して工事のペンディングを伝えてきた。そして翌日、現場から重機を搬出した。こうして筆者とKDDIは話し合いをすることになったのだ。
一方、朝霞市のみどり公園課には、基地局設置を目的とした公園使用の許可取り消しを求めたが、KDDIに法的な不備はないので、応じられないとの返答を受けた。
■電磁波による人体への影響
携帯基地局や携帯電話端末から発せられる電磁波による人体への影響は、特に欧米で指摘されている。スイスでは5Gの計画が中止になった。日本と欧米の認識の違いは、規制値の著しい数値差に的確に現れている。たとえば携帯電話で使われるマイクロ波の規制値は、日本が1000μW/平方センチメートル(1.5GHz〜300 GHz)であるのに対して、欧州評議会の勧告値は0.1μW/平方センチメートルである。
欧米でも各国の政府が定めている規制値は、日本とあまり変わらないほど緩やかな傾向があるが、地方自治体などが独自の推奨値を設定したり、条例を制定するなどして、基地局の設置をある程度規制している。どこにでも自由に設置することはできない。基地局の撤去を命じる判決も下されている。
マイクロ波をめぐる安全性の研究は、大きく2つに分類できる。マイクロ波による人体への影響は熱作用だけと考える研究者群と、それ以外の要素も考慮すべきであるとする研究者群である。「それ以外の要素」は総称して「非熱作用」と呼ばれ、その代表格は遺伝子毒性である。遺伝子を傷つけて、がんなどを発症するリスクがあるとする説である。
アメリカの国立環境衛生科学研究所のNTP(米国国家毒性プログラム)の最終報告(2018年)は、マイクロ波によって「雄のラットが心臓腫瘍を発症したという明確な証拠がある」(電磁界情報センター)などと結論づけた。これは携帯電話端末を想定した実験であるが、だからといって基地局からの電磁波が安全という保証はない。というのも電磁波自体は弱くても、基地局周辺の住民は1日に24時間、5年、10年、15年と長期にわたり電磁波を被曝し続けるからだ。
■基地局からの距離とがんによる死亡を検証した疫学調査
基地局周辺にがん罹患者が多いという疫学調査は複数ある。たとえば11年にブラジルのミナス・メソディスト大学のドーデ教授らが実施した調査である。これは1996年から2006年まで、ベロオリゾンテ市においてがんで死亡した7191人の住民の居住地点と基地局との距離関係などを調査したものである(出典:Science of the Total Environment)。基礎資料として使われたのは、次の3点である。
・市当局が管理している、がんによる死亡データ
・国の電波局が保管している携帯基地局のデータ
・国政調査のデータ
対象の基地局数は856基。電力密度は40.78μW/平方センチメートル〜0.04μW/平方センチメートルである。結論を先に言えば、基地局に近いほど、また基地局の設置数が多い地区ほど、がんによる死亡率が高い。下記のデータは、調査対象の7191人の住居と基地局の距離を分類したものである。
※基地局からの距離:がん死亡者数
・100m以内:3569人
・200 m以内:4977人
・300 m以内:5950 人
・400 m以内:6432 人
・500 m以内:6724 人
・600 m以内:6869人
・700 m以内:6947人
・800 m以内:6989人
・900 m以内:7000人
・1000 m以内:7044人
(その他、基地局から1000 mより外のケースが147人)
基地局に近いほど、がんによる死亡率が高い。基地局から100メートル以内に、調査対象となった7191例の約半分が位置づけられたのである。また、地域別の死亡率についていえば、がんによる死亡率が最も高かったのは、中央南区である。この地区には市全体の基地局の39.6%(06年の時点)が集中していた。逆に最も低かったのはバレイロ区で、基地局の設置割合は全体のわずか5.37%だった。
もちろん懸念されているのは発がんだけではない。10年に沖縄県糸満市の西崎病院・新城哲治医師が実施した疫学調査では、倦怠感、精神錯乱、意識障害、しびれ、めまい、視力障害、頭痛、不眠などさまざまな症状が報告されている。
■基地局に関する情報が住民に開示されない不思議
朝霞市のケースでは、2つの重要な問題点がある。第1に電磁波によって健康上のリスクが生じるとする有力な説があることを、朝霞市とKDDIが住民に説明したのかという点である。第2に、両者とも基地局に関する情報、たとえば電磁波の放射範囲や予測される電力密度、将来的に基地局の仕様を変更する予定の有無、さらには両者の契約書などの詳細を開示していないことである(周波数帯と出力についてはKDDI側が開示した)。
朝霞市の富岡勝則市長に筆者が内容証明で送った公開質問状の回答によると、KDDIは今年 4月 20日 に携帯電話基地局建設のための公園占用許可申請書を朝霞市のみどり公園課に提出した。そして25日に朝霞市は「申請内容が許可基準等に適合している」として、許可を下ろしたのである。つまり緊急事態宣言で自粛要請が行われていた時期に基地局設置の手続きが急ピッチに行われたのだ。
朝霞市の説明によると、住民に対してKDDIが基地局設置に関する説明を行い、それを示す書面も提出されているとのことだった。ところが筆者が基地局の設置場所から直近に住む住民にKDDIから説明を受けたかどうかを取材したところ、「説明は受けていない」と答えた。そこでKDDIの広報部に事情を尋ねたところ、「基地局の建設にあたっては適切な説明を関係者の方々へ実施しています」との回答があった。説明会の日時と場所を明かさないので、広報部に繰り返し書面で質問したが、説明会を開いた日時と場所が明かされることはなかった。
朝霞市も、この点について、「住民説明の個別具体的な内容につきましては事業者に対し確認をお願いします」(質問状の回答)と回答を回避した。筆者が重ねて回答を催促すると、7月10日に次のようなメールが来た。
「住民説明につきましては、令和元年7月6日から令和元年8月6日までの間で実施されたようです。個別具体的な内容につきましては、事業者に確認をお願いします」
公園占用許可を申請する約1年前に住民に対して説明したというのである。
筆者は朝霞市に対して、KDDI基地局に関する情報などを全部開示するように、公式に情報公開請求を申し立てた。これに対して朝霞市は、「図面」「基地局位置が特定できる情報」「委任事項」「対応結果」「内容(対応相手の反応)」「工作物の高さ」「築造面積」など肝心な部分は非公開とする決定を通知してきた。
これでは朝霞市とKDDIがどのような契約を結んでいるのか分からない。住民が被曝することになる電磁波の正体すらも知ることができない。KDDIと筆者の話し合いの前提となる基本的な資料の提出を阻んでいるわけだから、筆者としては不服(異議申立)の手続きを取る以外に選択肢がない。
学校や公園など公有地への基地局設置問題は、今後増えていく可能性がある。それ以外の場所への設置はますます加速するだろう。そんな時代、電磁波による人体への影響を軽視することはできないのである。
(文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者)
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