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如往さんへのレス:田中宇氏の「小泉訪朝」や「イラク攻撃」について 投稿者 あっしら 日時 2002 年 9 月 25 日 18:37:50:

如往さんの『「あっしら」考+α』( http://www.asyura.com/2002/dispute2/msg/782.html )に対するレスです。

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如往さん、こんにちわ。
過大な評価をいただき恐縮しています。
(つまらないホメ合いを行っても仕方がないことですが、如往さんの言説から照射される世界像と論理の深みに心揺さぶられております)

『経哲草稿』を読んでからはや30年ほど経ち、抜粋していただいた文章をこうやって読み返すと、マルクスのヒューマニスティックな思想性と社会的関係性を基礎とした現実認識の確かさを再確認できます。

(マルクスはその総合性と論理性から近代知性として最高レベルにあると考えています。それは、職業的学者を志向して知的活動を行ったのではなく、思想の実現手段として知的活動を行ったことに起因していると考えています。現実を所与の固定的なものとして考えたり、学を学として取り組むことがもたらす“限界性”を反面教師として示していると思っています)


ご紹介いただいた田中宇氏の論考についてコメントします。
(田中氏のオリジナル: http://tanakanews.com/

■ 小泉首相訪朝

 現在の米国政権が「悪の枢軸」と名指ししている北朝鮮に日本政府が単独の意志で国交正常化交渉に出向いたと考えるのは、ナイーブというレベルを超えたはちゃめちゃなものの見方だと思っています。

 小泉政権にとって現段階で北朝鮮との関係を改善しなければならないという緊要性はなく、「悪の枢軸」とされている北朝鮮に接近して火中の栗を拾うという危険な道を選択する必要もありません。
好意的に解釈しても、米国の国際政策意図に基づき訪朝を指示され、それを奇貨として戦後57年経っても懸案として残っている「北朝鮮問題」を解決できればという判断で訪朝を決意したというものでしょう。

米国の意図は、日本の資金を利用して、北朝鮮の「核・ミサイル開発」と「ミサイル輸出」を押しとどめることであり、将来的には朝鮮半島を中国・ロシア・日本を牽制するカードとして活用することにあると推測しています。


● 米国の政治潮流

 覇権国家として多面多様な国際政策を展開しなければならない米国にスタンスが異なる政治勢力やシンクタンクが存在することは、当然ですし、健全なことだ思っています。

 “普通の国”であれば言葉にすることでさえ臆する内容を、恥じらいや躊躇心もなく晒して論議する“健全さ”です。
 田中氏は極右派(新保守主義、ネオコン)と中道派(均衡戦略派、外交派)に色分けしていますが、両者の識別はゴールに至る道筋や目的を達成するための手段の違いに拠るものであり、目的という本質に差異があるとは見ていません。
(民主党と共和党の対立についても同様に考えています。二項対立的な構図はわかりやすく、政権変動もメリハリがついていいというものでしょう)

 イラク攻撃の“成功”が極右派の勢力拡張につながるという見方を提示していますが、フセイン政権を倒すまでは極右派が必要ですが、それによって生じた混乱を収拾するのは外交派の役割です。(フセイン政権打倒が即軍事行動の終結につながるという見方はしていません)

 民主党政権が拡大したベトナム戦争を収拾したのは名だたる保守派共和党(ニクソン)政権ですが、ブッシュ政権のなかにもニクソン政権的役割を担う勢力がいると考えています。
 パウエル国務長官こそがそのような役回りのために既に用意されている存在だと思っています。(ブッシュ政権後の「国民融和政権」の副大統領になる芽もあると勝手に予測しています)

 米国が覇権国家として国際政策を展開するためには、“強硬派”と“柔軟派”がともに必要であり、時宜に応じて両者の強弱が現れると考えたほうが素直です。
(当然のこととして、政権内部でマッチ・ポンプ的言動も行われます)


● 「文明の衝突」

田中氏は、「極右派は、イラク、イランといったイスラム諸国など「悪の枢軸」に対して「先制攻撃」を行って「文明の衝突」を起こし、第二の冷戦のような長期的・世界的な対立に仕立て、それによって軍事産業の繁栄とアメリカの世界覇権を維持しようと考えている」と述べていますが、かつてのソ連敵視政策や現在の中国危険視政策ならいざしらず、イスラム諸国を敵としても“軍事産業の繁栄”は実現できません。

対イスラム戦争は、武器・弾薬の在庫処理には貢献しても、厖大な開発予算を組んでの新規兵器システム開発生産には結びつかないからです。
(実際に戦争を起こさなくとも、兵器システムが陳腐化することでも在庫処理はできます)
その一方で、厖大な対外債務と赤字財政に苦しんでいる現状での対イスラム戦争は、軍需産業にはほとんどメリットがない地上部隊の大量投入と長期駐留を必要とする“割の合わない”軍事行動です。
(ベトナム戦争時期とは経済・財政条件が変わっています)

米国支配層が「軍事産業の繁栄とアメリカの世界覇権を維持しようと考えている」のなら、近代化が著しい中国を危険視することで十分その目的を達成することができます。

 田中氏が「文明の衝突」をどのようなものとして認識しているかはわかりませんが、「文明」を政治経済的価値観と置き換えれば、戦後世界経済システムがドン詰まったという認識に基づき、政治経済的価値観の対立を解消することで新しい「世界経済システム」を築くことを目的として今次の対イスラム戦争は遂行されていると考えています。

 共同体的利益を基礎に置いた経済価値観と個人的利益を基礎に置いた経済価値観、利息取得を禁止する経済価値観と中央銀行制度に代表される利息取得が基礎の経済システム、イスラム法を基礎とした世界共同体という政治価値観と近代国民国家という政治体制などのイスラムと西欧的近代価値観の対立を西欧的近代価値観の勝利によって解消したいという狙いでことが進められていると推察しています。
(米国が“世界共同体”ではなく“世界帝国”を築こうとしている見方については、暫定的にはあっても、長期的にはないと考えています)

 田中氏は、「文明の衝突」がアジアにも波及する可能性に触れていますが、アジアにおける「文明の衝突」については楽観視しています。
 アジア諸国が歴史的に身につけている融通無碍性格が、西欧的近代価値観をも包摂すると考えているからです。
 日本もそうですが、危険視されている中国政府も、経済成長第一主義を掲げ、どのような無理難題もうまくかわして米中関係の維持をはかるはずです。

 北朝鮮が「悪の枢軸」に指名されたのは、“反イスラム”という色合いを薄めるための“智恵”だと考えています。

 アジアについては、「文明の衝突」よりも、戦後一貫として米国の主要パートナーであった日本の地位が今後どう変動していくのかが最重要問題だと考えています。

 これまでの米国政権の考え方によれば、相手が“金の成る木”であるかどうかを最重要視するはずです。
 経済成長の峠を越えただけではなく、「デフレ不況」で身動きができなくなっている日本よりも、今後の成長が期待でき、13億人という巨大市場で金融システムも未完成で参入しやすい中国に“思い”が募る可能性は高いと推測しています。

 日本政府及び日本国民は、歴史は休むことなく変動していること、近代国家は経済的利益で物事を判断すること、外国の判断や政策は制御できないものであること、日米関係は英米関係とは異質のものであり状況の変化のなかで変容していくものであることなどを踏まえて現実を見る必要があります。

 田中氏も、「だが次回の朝鮮戦争は、日本にプラスになるとは限らない。逆に「経済面でアメリカの脅威になるほどに発展した日本が、第2朝鮮戦争で破壊されるのは良いことだ」と思っている人々が、米政権の上層部にいても不思議はない」と警鐘を鳴らしていますが、世界的なデフレ不況を解消する一つの有効な方策は、世界に向けて財の供給を行っている産業国家を破滅させることであることにも留意すべきです。

 日米の地理的関係の違いから言っても、米国に追随するかたちの対アジア政策ではなく、日本がきちんと生き残っていくための主体的な対アジア政策を行う必要があります。
(元駐タイ大使である岡崎氏のように「米国と仲良くしてれば孫子の代まで日本は安泰だ」という思考停止的見方は、20年前ならいざしらず現在においては危ういものであると言わざるを得ません)

 日朝問題に打開の道筋が見え、米国が対イスラム戦争にのめり込んでいる今こそ、ロシアを含めて、これまでとは違った対アジア外交を推し進める好機だと考えています。

(米国との関係を希薄にすべきだとか敵対的なものにすべきという主張ではありません)

 最後に、田中氏は、日中国交回復に道筋を付けた田中元首相が政治生命を失うことになったロッキード事件と対比しながら、「アメリカ政権中枢で極右派が最終的な勝利を収めた場合、小泉首相が田中元首相のように政治的に殺される可能性もある」と結んでいますが、極右派が最終的に勝利するという観点やそれまで小泉政権が続くのかという問題はともかく、あり得ない話だと思っています。

「戦争」ボードに書き込みましたが、朝鮮半島政策及びその後のアジア政策は2000年には確定していたものであり、均衡戦略派の意向で小泉訪朝が実現されたわけではないからです。( http://www.asyura.com/2002/war16/msg/369.html

■ 米国のイラク攻撃

イラク攻撃については「戦争」ボードで以下の書き込みを行っていますので、ご参照いただければ幸いです。

[参考書き込み]

『米英はベトナム&アフガニスタンと同じく“大敗北”を迎えます』
http://www.asyura.com/2002/hasan14/msg/173.html

『メディア的世間知を超えて米国政権の狙いを推察しましょう』
http://www.asyura.com/2002/hasan14/msg/173.html

『米英の中東戦略』
http://www.asyura.com/2002/hasan14/msg/201.html

『日本は経済を回復し経済活動力を維持するしかありません』
http://www.asyura.com/2002/hasan14/msg/220.html

『日本は経済を回復し経済活動力を維持するしかありません』
http://www.asyura.com/2002/hasan14/msg/220.html


● ヨルダン王室

 ヨルダン王室が、ムハンマドの直系であること、30年代にサウド家とアラビア半島の覇を競い合った関係にあること、50年代まで存続したイラク王室と血縁関係にあることなどから中東でそれなりの役割を果たせる存在であることは認めます。

 現在はパレスチナ自治区となっている西岸の相当部分はヨルダン領で、ヨルダン内部にも百万人を超えるパレスチナ難民がいます。
 あけすけに言えば、ヨルダン王室は、イスラエル及び米国の庇護のもとで存続できる存在です。

 そのような前提で、王室メンバーがイラク攻撃後に元アフガニスタン国王ジャヒル・シャーのように担ぎ出される可能性があると思っています。
 しかし、ジャヒル・シャーがダメだったように、イラクの統治者としてヨルダン王室メンバーが受け入れられることはないと予測しています。


● 「オスロ合意」以降

 「戦争」ボードで“アラファト議長米英支配層お仲間説”を唱えてある人から顰蹙を買いましたが、PLO主流派が果たしているパレスチナでの役割には大きな疑念を抱いています。
 イスラエルによって放逐されて流浪の日々をおくったPLO主流派が、イスラエルとのある種の“合意”に基づきパレスチナの支配者として復帰したことを激しく非難するつもりはありません。(政治勢力が権力を求めるのは自然ですし、“貧すれば鈍する”です)

 パレスチナの住民の多くも、根拠や道理がない「イスラエル建国」やイスラエルの非道な軍事行動には我慢ならないと思っても、家族の生活を維持することが何より重要な問題と考え、イスラエルとの“平和共存”を望んでいます。(そのような構えのなかでイスラエルが入植地を拡大させていくことにいたたまれなくなった人々がインティファーダを行っています)

 イスラエルとしても、PLOを放逐したものの、占領(直接支配)はコストもリスクも高いと認識しました。
 そのような両者の思惑が、「オスロ合意」に結実したと考えています。

 イスラエルは、「オスロ合意」後もパレスチナ自治区での入植地を拡大し、インティファーダという民衆抵抗運動を招きました。一方、アラファト議長側近は、そのようなイスラエルの動きに有効な政治的対応ができず、政治的支配者として国際援助資金を私物化するといった愚かなことばかり行ってきました。

 昨年夏から激化した「自爆テロ」についても、事件の真相を明らかにすることを求めず(いくつかはイスラエル側が仕組んだ「自爆テロ」があります)、テロを口実としたイスラエル軍の侵攻を非難する程度の対応で終始しています。

 大笑いなのは、公安部隊まで崩壊的状況にされたにも関わらず、イスラエルや米国の求めに応じて、「テロリストの取り締まり」を約束していることです。
 圧倒的な情報力と対応力を有するイスラエルの軍や治安部隊が取り締まれないテロは、アラファト議長がどうあがいても取り締まれないのです。

 米国やイスラエルが求めている「アラファト退陣」も茶番だと考えています。
現在のパレスチナを、米国やイスラエルの意向に逆らわないかたちで統治できるのはアラファト氏しかいないことは自明です。
 カリスマ性があるアラファト氏が建前として“反イスラエル”を唱えて統治することで、なんとかパレスチナの“偽の平和”は維持されます。

 パレスチナでは来年1月に選挙が行われますが、アラファト議長が再選され、イスラエルはともかく米国は民意を尊重するという言い訳でそれを認めることになると予測しています。
 茶番だという理由は、アラファト氏がイスラエルや米国から敵視されていなければ、再選の芽が小さかったと考えるからです。
 ハマスは相互扶助的活動をまじめに行っているのに対しアラファト氏は国際援助も私物化している、アラファト氏は昨年夏以降のイスラエルの軍事行動に有効な対抗策を打ち出し得なかったことで、イスラエルへの攻撃を敢行するハマスへの支持が昨年秋から今年春にかけて急拡大しました。
 3月から4月にかけての議長府包囲と現在も続いている議長府包囲というアラファト氏への敵対行動が、アラファト氏への支持を急回復させています。(今や圧倒的な支持を受けています)
 アラファト氏は、イスラエルや米国から“最大の敵”とされることで、人気を盛り返したのです。

(ドイツのネオナチ政党もそうであったように、ハマスやイスラム聖戦のなかにも、イスラエルや米英のエージェントが入り込んでいるはずです。過激な言動をするメンバーほどあやしい存在です)


● “イスラム過激派”

 田中氏は、「911後のアメリカは「イスラム世界」を丸ごと「テロリスト集団」として敵に仕立てたいのではないか、アメリカはソ連の後がまとなる「長い八百長戦の敵」として、イスラム世界を選んだのではないか、という見方ができる」と述べていますが、80年代に起きたベイルートの米国関連施設の連続爆弾テロからずっと、「イスラム世界」を丸ごと「テロリスト集団」と見立てる作戦は行われていたと考えています。

 田中氏は、「アルカイダとかオサマ・ビンラディンといった存在も、本当に100%アメリカやイスラエルの宿敵なのか、アメリカやイスラエルは911事件が起きるまでの過程で、要所ごとに、アルカイダがきちんと敵として育ってくれるよう、何らかの秘密の支援を、もしかするとアルカイダ側も気づかぬうちに、やったりしなかっただろうか、と勘ぐりたくなる」と書いていますが、私も、アルカイダとウサマ・ビンラディン氏のポジションと役割はすっきりしていません。

 すっきりしない最大の理由は、米国によるアフガニスタン攻撃の口実がウサマ・ビンラディン氏などを引き渡さないことであり、タリバン政権もウサマ・ビンラディン氏らに出国するよう求めたにも関わらず、そのような行動をとらなかったからです。

 ウサマ・ビンラディン氏の真意はわかりませんが、死刑になるとしても彼らが出国していれば、防げなかったとは思いますが、アフガニスタンへの攻撃に対する国際世論は変わっていたはずです。

(ウサマ・ビンラディン氏らが、米国との決戦は不可避と考え、アフガニスタンに対する軍事行動も避けられないのなら、それを好機として戦うという判断をしたのかもしれません)


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