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金融危機とデフレ経済を解く(1) 投稿者 たにん 日時 2002 年 10 月 29 日 02:10:18:

#吉田氏の主張は、7%のマネーサプライの増加が恐慌を避け目先のデフレ脱却に必要となるから、そのために不良債券50兆円を買い取り、日銀引き受けによる2%インフレターゲット政策を行うことのようだが、現実の効果は予想通りになるか?政策が実行される時期や規模がどうなるか?海外の反応は?など興味は尽きない。

      2002年10月28日号:Vol 122

    <決定版:金融危機とデフレ経済を解く(1)>
         緊急事態を乗り切る方法
   
 【良質な経営・IT・ビジネス、経済知識の提供を目標に】
     (読者数: 28,686名)
著者:Systems Research Ltd. chief consultant 吉田繁治
著者へのひとことメール⇒   yoshida@cool-knowledge.com
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■本無料版の考察を深めたものが有料版です。いつ申し込んでも、そ
の月に発行されたすべてを読むことができます。過去の月のバックナ
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■最新刊の10月23日号は、<ソニー・出井伸之の認識と経営(4)
>として05年のブロードバンド&遍在コンピューティング時代、
と知識産業・知識労働へ向かった経営と仕事に焦点を当て考察を行っ
ています。10月30日号では、関連して「新しいブランド価値の構
造」をテーマにします。

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http://premium.mag2.com/reader/servlet/Search?keyword=P0000018

*以下、当幅フォントの指定で読むと文字レイアウトが整います。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

こんにちは、吉田繁治です。前号までは3回に渡り<知識資本と知識
労働に関するノート>をお送りしました。このテーマに関しては、継
続して書かなければならないことが残っています。
本メールマガジンでは、今後何回も取り上げます。

今回は、緊急事態を迎えた<金融危機とデフレ経済を解く>です。こ
のテーマは、1回では終わらないと思います。
今回は「決定版」という大仰な題をつけます。
可能な限り注釈をつけ、平易に解きます。

※頑張ったのですが、短縮するために、送信が午前0時を過ぎました。
 申し訳ありません。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   <Vol.122 決定版:金融危機とデフレ経済を解く(1)>
         緊急事態を乗り切る方法
【目次】 
 1.最初に問題提起を
 2.モノの価格の平準化
 3.投資の失敗の結果が、日本の銀行問題
 4.奇妙な日銀総裁のスタンス
 5.日銀も政府も、銀行自己資本不足を犯人としているが・・・
 6.通貨供給量と物価の経済学的な関係
                (第2部へ続く)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.最初に問題提起を

▼議論は藪の中に似て・・・

取り上げる理由は、新聞・雑誌・書籍を読み、最近の国会論議を聞い
ても、話の筋が昨年と比べれば煮詰まっては来たものの、芥川龍之介
の短編『藪の中』のように、混乱していると感じるからです。

先週、予算委員会での議論をTVで見ていて、質問も答えもピントが
ずれていると感じました。小泉首相は経済論・金融論では答えること
ができない。担当に任せているという態度です。責任者が経済音痴で
いいのかと驚愕しました。このままでは、1929年の大恐慌を招い
たフーバー大統領になりますね。

不良債権処理を促したのが、ブッシュ大統領というのもいただけませ
ん。彼もマクロ経済音痴です。

不良債権問題をこのメールマガジンで取り上げたのは、1年3ヶ月前
でした。1000万人(100万社分)が新たに失業を経由し、雇用
調整が行われるという考えは、当時から変わっていません。

↓(01年7月:この国の不良債権問題を解く)
http://www.cool-knowledge.com/0705furyou-saiken-mondai(1).html

1000万人は労働者6名に1名、16.7%です。01年3月期の
失業率は5.2%です。合計すれば21.9%(1400万人)。2
0%を超える失業は73年前の米国の大恐慌時代に相当します。

少なくとも2年、不良債権の整理で1929年の恐慌に似た状況が、
世界的に起こる可能性が高くなっています。

恐慌は、経済の根底での構造変化に伴う雇用と賃金の大幅な調整過程
です。不況は、小幅な調整プロセスです。

▼仮説

最初に、立論の導きの糸を示します。

(1)12年前のバブル経済の崩壊を経て、日本は21世紀初頭に世
界を襲うはずのデフレ経済の先頭に立っているのではないか?
(2)地価の下落から始まった日本のバブル崩壊を、米国と西欧は8
年遅れの株価崩落という形で経験しつつあるのではないか。

以上二点が、私の仮説です。

▼資本

【日本】
資金が銀行を通じて供給される日本では、担保となる地価の下落(商
業地75%、住宅地60%)が、通貨(=信用)の収縮、つまりデフ
レの根底にありますね。

【米国・西欧】
資金が証券市場を通じて供給される米国・西欧では、株価下落が、信
用収縮(=マネー収縮)の根底にある。2000年春以来の40%か
ら80%の下落は信用恐慌に相当します。

【世界の株価水準】(02.10.11時点)

      最近の価格  最高価格  時期  最高価格比
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日経平均   8,439   38,915 (89.12) -78.3%
米ダウ30種 7,286 11,722 (01.01) -37.8%
ナスダック    1,114 5,048 (00.03) -77.9%
英FTSE    3,773 6,930 (99.12) -45.5%
独DAX     2,597 8,064 (00.03) -67.8%
仏CAC40   2,758 6,922 (00.09) -60.2%
韓国総合指数 584 1,138 (94.11) -48.7%
台湾加権指数   3,947 12,495 (90.02) -68.4%
香港ハンセン   8,858 18,397 (00.03) -51.8%
シンガポールST 1,357 2,582 (00.01) -47.7%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

株価下落は会社価値の評価の下落です。買収価格下落と言っても同じ
です。世界平均では、50%下落。その分の信用が飛んだ。

これは、資本が旧来のものから他のものに逃げる恐慌です。
資本主義の資本は、株数×株価=総時価です。

日本・米国・西欧の 「資本主義」で同時に、
 ・20世紀型の(有形の)工業経済から、
 ・21世紀型の(無形の)情報経済への移行が起こっていると思え
  るのです。

市場参加者のマネーは、情報経済の資本をまだはっきりとは見ていな
い。次の図に示す「整列」はまだ起こっていない。

経済原理の自然に任せるなら、この移行は痛みをもたらします。

▼基本図式

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[土地・設備・機械・商品にマネーが集まった工業資本主義]
           ↓
       [カオス:chaos]:2001年〜2004年
           ↓
         [整列]   :2004年〜2005年
           ↓
       [知識資本主義]:2005年〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

数年で(先進国では)常識が転換します。工業経済の部分は新興工業
国に移行し、先進国は情報経済に入る。産業革命風の変化になります。

【各要素の変化】
      中国を含む途上国は     OECD諸国は
       工業資本主義へ      知識資本主義へ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
組織    ピラミッド型中央集権    ネットワーク協業
規模      大規模が有利       小規模が有利
所有      所有が有利        利用が有利

労働    肉体労働(時間給)     知識労働(成果給)
労働      標準作業        専門知識労働
動機     賃金と生活      自己目標と社会的意義
雇用      長期雇用       プロジェクトまたは
                  長期雇用の現場ワーカー
資本    土地・建物・設備    知識による付加価値創造力
                  (データベースと
                   アプリケーション+人材)

経営  コマンド&コントロール  リーダシップ&チームワーク
競争     コストダウン         コアの知識
生産   コンベア型生産ライン    デジタルプロセス
オフィス   都市に大部屋         適地へ分散
動力       交通           ネットワーク
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

20世紀では知識は物的資本(土地・設備・機械)に従属していまし
た。

大企業は成功した資本であり、土地・設備・機械の有形資産と標準作
業の労働者を大量に抱えた。そうした20世紀の大規模組織は、30
億人の途上国の経済へ移行する。

先進国では、資本のコアは知識による差異化になる。
土地・設備・機械と標準作業は知識資本に従属する。

■2.モノの価格の平準化

同じ製品を作る工場労働の賃金、土地、建物、設備の価格は、世界的
に平準化に向かう。デジタル経済ですから、今回の移行は20世紀の
ようなゆっくりした変化ではない。数年で起こる。

▼起こった変化

10億人で商取引をしていた20世紀OECD経済(=インフレ経済
:賃金の硬直性がある)に、約30億人の5分の1から30分の1の
低賃金労働(=価格低下圧力)が加わった。
冷戦後の通信ネットワークによる統合経済がこれです。

生産の技術は、80年代中期以降、機械装置とともに途上国に輸出さ
れています。90年代末以降の工業では、途上国=低品質量産商品で
はない。労働の士気も高く熟練も数年です。

▼事例:2000年の技術水準

日本の現在の技術水準と比べた電子部品の製造技術を示します。◎は
日本より上回り、○が日本と同じレベル、△はやや劣る、×は劣る、
を示します。(経済産業省調査:2000年)

            韓国    台湾    中国
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カラーTV
  ブラウン管     ○     ○     × 
  IC・半導体    ○     △     ×
パソコン
  メモリ       ○     △     ×
  マザーボード    ○     ◎     ×
  電源        ○     ◎     ○
エアコン
  コンプレッサ    ○     ×     ×
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

量産型部品で突出していた日本の技術と生産規模の優位は、90年代
半ばから崩れています。加えて2008年になれば、今の韓国・台湾
のポジションに近くまで中国が達する。
電子機器の工場出荷価格は、さらに下げる。

日常で使うモノの過半はアジアからくる。決して産業の空洞化ではな
い。OECDの10億人はもう工場労働では賃金の維持はできない。

製造原価は、最終売価の20%に縮小します。
工場ではOECDの高い賃金は維持できない。

▼付加価値原理

          商品の付加価値割合   1人当り
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
途上国30億人  世界のGDPの20%  20÷30=0.7
先進国10億人  世界のGDPの80%  80÷10=8.0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

先進諸国の相対賃金が、中国の1人当たり賃金の8÷0.7=11倍
になるのが08年頃までの変化で、2010年以降(中国沿岸部4億
人では)3倍くらいにまで縮小するでしょう。

生産より販売が、生産より商品企画やブランド価値が、言い換えれば
マーケティングが、生産の4倍以上の付加価値を生みます。

量産より、在庫管理・流通制御(=SCM)、そして顧客に販売(=
CRM)するほうが難しく、それらの知識労働の賃金が高い時代に向
かう。販売員や営業は知識労働です。

新興国での生産の過半は先進国の資本と技術が行い、製品は先進国で
消費されます。

モノの移動に国境がなくなり、工場が消えた世界をイメージするには、
大消費地である東京とモノの生産地である地方都市を思い描けばい
いでしょう。

東京では食料や工業生産に従事している人は少ない。だから所得水準
は日本で最高(沖縄の2倍)なのです。東京が空洞化しているわけで
はない。

中国を地方都市と見て、東京を日本として描けばいい。
東京では、土地と賃金が高すぎ量産工場は成立しない。

工場生産は過去の農業生産と同じです。肉体労働で生産性の低い農業
から、機械生産の工場に労働が移動したから、農業の生産性も上がり、
先進国で食料は豊富になった。

先進国で起こるのは、工場労働から知識労働への移行です。工場労働
者が少なくて済むから、工業品は(賃金と比較した相対価格で)安価
になり豊富になる。

以上が産業の変化です。以下、緊急問題の金融を見ます。

■3.投資の失敗の結果が、日本の銀行問題

銀行家の失敗は土地本位主義の終焉(しゅうえん)を見通すことがで
きなかったことです。90年代で、最も下がったのが地価です。

担保とは、所有権留保つきの土地の購入。銀行は融資することで、マ
ネー(預金)と引き換えに、合計では1383兆円も価値が下がった
土地を抱えたことになる。潰れるのが当然です。

土地投機は、企業を代理人(エージェント)に立て、銀行が進んで行
った。この意識が銀行になく融資は事業の将来性の評価を行っている
と言うのは自己欺瞞です。自己欺瞞は事業の主領域の定義を誤らせま
す。進んで、不動産業と事業規定すべきでしたね。

▼地価と株価の下落:信用収縮の根底

       全国地価      増減
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
85年   1016兆円
90年   2455兆円  +1439兆円(+42%)
94年   1915兆円  − 540兆円(−22%)
99年   1072兆円  − 843兆円(−44%)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
          (『デフレの経済学』岩田紀久男:2001)

90年にはGDP(≒国民総所得)の5倍であった日本の地価は、9
9年末でGDPの2倍にまで下落。実質的に買ったのは銀行です。土
地担保制度とはそうした意味です。

土地を代理購入し利用権を企業に与えた銀行の自己資本は、惨状を呈
します。世界最大の預金を持つ銀行が、世界で最弱になった。原因は
地価の下落です。(この認識が日銀に欠けています)

▼債務超過の全国銀行:2003年3月期予測

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資本の部合計    24.9兆円
推定引当不足     6.8兆円(要引当不良債権−引当金)
繰り延べ税金資産  10.7兆円(将来5年間の税の還付金)
その他       −2.0兆円
以上の差し引き、
  正味自己資本   5.4兆円
  うち公的資本   7.2兆円(過去の投入分残高)
公的資本を除く、
    自己資本  −1.8兆円(債務超過状態)

(株式保有時価)  26兆円   (日経平均9383円)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
            (深尾光広 02.10.18日経新聞)

全国銀行の融資・保有国債・債券・固定資産(土地・建物)を合計し
た総資産は800兆円です。

税効果会計制度による繰り延べ税金資産の10.7兆円を自己資本か
ら引けば、正味の自己資本は5.4兆円。政府が優先株等を買って投
入している公的資本が7.2兆円ありますから、これを引くと実際の
自己資本は[−1.8兆円]、債務超過ですね。

(補注)繰り延べ税金資産は、銀行が貸倒引当金として(利益の中か
ら有税で)積み立てた分です。銀行が将来、利益を出すと仮定したと
き、過去5年間の税の払い過ぎとして還付される分の想定計算です。

[繰り延べ税金資産+公的資金投入]を除くと、日本の銀行は債務超
過(=実質的な倒産状態)です。

銀行は今までに90兆円の不良債権の整理を行ったのですが、なお、
要注意債権を含めれば135兆円の不良債権予備軍が残っています。

地価と株価の大幅上昇(2倍)がない限り銀行の不良債権整理に、1
00兆円(=国家税収の2年分)の政府資金投入を必要とします。

▼参考:5大銀行の自己資本

大手銀行は、それよりいい状態にあるか?
大手銀行のほうが、実は内容が悪い。

           三菱     三井
みずほ 東京 UFJ 住友 りそな
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
自己資本  5.0  3.2  3.0   3.7  1.3兆円
うち繰り延べ
  税金資産  2.2 0.9 1.3 1.8 0.8
公的資金      1.9 0.0 1.4 1.3 0.8
差し引き
  正味自己資本  1.9 2.3 0.3 0.6 -0.3兆円
10月10日の株価
での株式含み損 -1.1 -1.1 -0.9 -1.6 -0.5
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
差し引き自己資本 +0.8 +1.2 -0.6 -1.0 -0.8兆円
                   (2002年3月期)

5行合計で、貸出しの約20%、50兆円の不良債権が見込まれます。
不良債権処理を2年で行えば、回収分を3割と見て35兆円の債務
超過でしょう。政府資金の投入が大手行のみで50兆円必要になる。
全国銀行で、100兆円が必要です。

100兆円規模の政府資金投入を2年間で行うというのが、「2年間
で不良債権処理を終わらせ、安定した金融機能を回復する」という政
府公約が含むことです。ところがこの認識は、政府にない。

ここ2年は、予想の最悪が現実になることを繰り返しています。

結論から言えば、2年で100兆円分の不良債権の処理を終わらせる
のは無理です。最短でも、5年はかかる。

不良債権整理のプロセスでは塩漬けになっていた、建設・不動産・流
通が持っている土地は競売価格で、土地市場に放出されます。

大幅な地価の下落。回収金額可能額は減ります。不良債務企業の土地
を、直接に政府が買っても、日銀が買っても、結果は土地の大量放出
です。

■4.奇妙な日銀総裁のスタンス

02年10月16日、速水日銀総裁は定例記者会見で以下のように述
べています。

▼総裁の定例記者会見

<先程もご説明したように、私どもはかなり思い切った流動性の供給
を続けており、経済のほうは底打ちをして少し明るい感じが出てきて
いるし、市場のほうは資金がかなり緩んでいることも事実である。そ
ういったことで、十分に資金の供給は行われていると考えている。(
速水総裁)>

日銀は資金供給を十分に行い、市場に資金が回っていると認識してい
るとの表明です。どうでしょうか?

日銀が言う流動性の供給は「現金通貨」+「金融機関が持つ日銀預け
の当座預金」です。「マネタリーベース」と言います。

       日本銀行券   日銀当座預金    合計
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1992年   33兆円      3兆円   36兆円
1997年   44兆円      4兆円   48兆円
2000年   55兆円      6兆円   61兆円
02年9月   66兆円     15兆円   81兆円  
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(注)日銀当座預金:金融機関が日銀へ無利子で預けている預金

日銀からの金融機関へのマネー供給は、金融機関の手持債券や手形、
CPの購入です。日銀は購入代金を各金融機関の日銀当座勘定に振り
込みます。「中央銀行の債券買いオペ」と言います。

【趣旨】
速水総裁は<「日銀当座預金勘定」に以前の数倍の資金を供給してい
る。債券の購入でゼロ金利に誘導しても使われないのは、民間の資金
需要がないからだ>ということを言っています。

なぜ、ゼロ金利でも資金需要が盛り上がらないか? 
彼は「銀行の仲介機能が壊れているからだ」としか言いません。

問題はここです。果たして政府が自己資本注入を行って「銀行の仲介
機能」が回復すれば、民間の投資や、個人消費のための資金需要が盛
り上がるのか?

【状況の推移を待つ】
<ここで、今何をやるのかということについては、全体が動き出して、
何か必要性が出れば、また考える必要があるかと思うが、日本銀行
のほうから政策をこうするんだという状態ではないと思っている。
(同)> つまり、まだ、様子見を続けるということです。

■5.日銀も政府も、銀行自己資本不足を犯人としているが・・・

<ご存知のように、銀行貸出しというのは、まだ前年比でマイナスに
なっている。私どもが(前年比で)20%以上もマネタリーベースでカ
ネを出し、M2+CD(マネーサプライ)も3〜4%は伸びているが、銀
行の貸出しが伸びていくようにはなっていない。(同)>

<銀行が本来果たすべき信用仲介機能が、まだ本格的に働いていない
ために、いくら待っても、なかなか民間の需要──需要というのは、
典型的には、企業サイドでは設備投資であり、家計サイドでは新しい
消費需要であるが──というものが動き出していかないといったこと
が、経済全体を暗くしているということではないかと思う。(同)>

問題はここです。

▼日銀と小泉政権の立論

  金利はゼロで、マネーはふんだん供給され、
  金融は超緩和の状態にある。
  銀行の仲介機能が動いていないから、
  設備投資と消費が動いていない、と結論づけている点ですね。

以降で、速水総裁とマネー当局が言っていること、竹中政策・小泉政
策が「経済学的に当を得ているか?」ということの検証を行います。

以降が、本考察のフォーカスポイントです。

▼名目金利と実質金利

住宅を事例に、名目金利と実質金利の関係を示します。

住宅ローン金利が(本当の)低金利で、住宅価格が以前の半分なら皆
が買いに走る。住宅の質の悪さと狭さへの不満は強い。ニーズはある。
しかし、住宅が売れない。なぜか?ということです。

1992年頃までは、今の2倍から4倍の価格の住宅に、ローン金利
は7%〜8%で需要はついていた。

今なら東京三菱銀行が01年12月に始めた初期3年間の固定金利1
%の住宅ローンがあり、他行も追随しているにかかわらず需要の盛り
上がりはない。企業の設備投資も同様です。

理由は、
  住宅ローンの[名目]金利が固定で4%レベルでも、
  住宅は、さらに値下がりするという予想があるため、
  ローン金利に値下がり予想を加えた[実質]金利は、
  高いままになっているということです。

銀行の仲介機能が健全でも、物価と資産の値下げ予想があるときは、
実質金利が高止まりし、キャピタルロスが見込まれるため、増加借り
入れ→投資ではなく、資産処分をして借入を減らすことが正しい選択
です。

名目金利(4%)+資産の下落率(5%)⇒実質金利(9%)

以下のような「実質金利予想」がある。
資産価格の予想を加えれば、今は低金利ではなく高金利です。

▼92年まではキャピタルゲイン期待

1992年まで:
住宅ローン(名目)金利7%−住宅価格値上がり期待7%以上
⇒住宅を買えば実質金利はマイナス⇒「キャピタルゲイン:資本利益
」が得られるとの予想があった。

購入価格5000万円の住宅が年7%値上がりするなら、住宅ローン
名目金利が7%でも、金利ゼロと同じです。年10%値上がりすれば、
居住で利用した上に3%のキャピタルゲインが得られます。

▼02年はキャピタルロス予想

現在:
=住宅ローン(名目)金利4%+住宅価格の下落予想(5%)
⇒住宅を買えば、実質金利で9%もの負担になる。

▼エコノミストとしては奇妙な言説

速水総裁が言うのは、
(1)名目と実質を分ける「マクロ経済」を知っているエコノミスト
としては、とても奇妙な名目金利の低さのみですが、
(2)民間が予想しているのは、購入資産や物価の下落率を加えた、
経済学的に正しい「実質金利」です。

「低く見える名目金利」で投資をしたら、経営は大変なことになる。
だれでもそれを知っています。投資では10年後の資産価格を見通す
必要がある。

以上を考慮すれば、日銀総裁の言う<銀行が本来果たすべき信用仲介
機能が、まだ本格的に働いていないために、いくら待っても、なかな
か民間の需要──需要というのは、典型的には、企業サイドでは設備
投資であり、家計サイドでは新しい消費需要であるが──というもの
が動き出していかないといったことが、経済全体を暗くしている>と
いうのは、変だということになる。

物価の下落、資産価格下落の予想では実質金利の高止まりがあるから
です。

▼仮に銀行機能が正常でも

銀行の融資機能が仮に正常で、貸し付けをしようとしても、民間が借
りない。
資金余裕のあるところは低利の融資すら返済するのは、
 ・「名目金利」は1.8%でも、
 ・物価と資産の価格下落を予想した上での負担になる「実質金利
  が高い」ことが理由になっています。

今銀行融資の平均金利は1.8%です。しかし将来の資産価格と物価
を考慮した「実質金利」が高い。だから経済合理性から借りる人は少
ない。ここが、問題でしょう。

借りる人が少ないという結果は「資産価格と物価の下落予想」をして
いる人が多いことを意味しています。

これが「デフレ予想」です。

このデフレ予想(物価と資産の下落期待)がある限り、
(1)銀行が融資リスクをカバーする自己資本を持っていようがいま
いが、つまり、政府が大量の資金を破綻状態の銀行に投入し、融資機
能を正常化しても、
(2)予想資産価格と物価の下落で構成される「実質金利」が高止ま
りしていれば、言い換えれば、資産価格と物価の下落が続けば資金需
要は増えず、投資も増えない。

名目金利と実質金利、これを以降で解きます。
ここを間違えると日本経済は恐慌を迎えます。
1000万人失業、100万社倒産に向かう。
政策コスト(あとの税)が、高くなるのです。

認識不足からそうなっているのか、意図的か、判断に苦しむのが日銀
の姿勢です。エコノミストであるはずの竹中財政経済・金融担当相の
不良債権処理を2年でやるという政策も同じです。

不良債権処理は銀行の処理に任せ、政府・日銀はマクロのマネー政策
に専念すべきです。既にメロメロの銀行に対し、一人正義漢ぶる姿勢
はやめたほうがいい。市場に任せることです。この国の官は未だに行
政指導を金科玉条にしたお代官ですね。

■6.通貨供給量と物価の経済学的な関係は?

デフレ経済に関し、類書の中では『デフレの経済学』(岩田規久男:
東洋経済新報社:01年12月)が優れていますね。

まず、
物価の変化率=通貨供給の変化率+通貨の所得流通速度の変化率
       −実質経済成長率

(補注)
(1)物価の変化率は、物価の上昇、または下落率です。
(2)通貨供給の変化率は、M2+CD、つまりマネーサプライ、
   [現金+普通預金+定期預金+譲渡性預金]の変化です。
(3)通貨の所得流通速度は、供給されているマネーサプライの総
   額が、GDPに対し何回転しているかで計ります。
   GDP÷マネーサプライ総額=通貨の所得流通(回転)速度
   この逆数がマーシャルのKです。
(4)実質経済成長率は、GDPの成長率です。

岩田氏の計算によれば、日本経済で、物価が下がる(=デフレになる)
通貨供給(マネーサプライ)の増加の分岐点は年率で4.2%です。
4.2%以上のマネーサプライの増加がないと、日本経済は物価が
下落し、デフレになってしまう。(同書p109)

(注)米国経済がデフレになる通貨供給増加率の分岐点は2.7%と
計算されています。日本に比べ少ない理由は、個人の消費でプラスチ
ックカードとローンが現金の代用をしている結果でしょう。

経済を回すのに必要な通貨供給量が次第に増える理由は、
(1)名目所得の増加に比例し、必要と感じる財布の中の現金が増え
   る。
(2)名目所得の増加とともに、必要と感じる預金も増える。
(3)企業規模拡大とともに必要な預金は増える、という、流動性嗜
   好(しこう)の結果です。

日本経済が、1%の物価上昇で2%の実質経済成長を図るとすれば、
以下の計算になります。

物価の上昇率(1%)=貨幣供給量の増加(7.2%)−貨幣の所得
流通速度の低下(4.2%)−実質経済成長率(2%)

今の日本経済を実質で3%成長(名目では物価上昇2%を足した5%
成長)させるには、[現金+普通預金+定期預金+譲渡性預金]の増
加を年7.2%に保つための通貨量調節をしなければならない。

▼マネーサプライの増加=現金+普通預金+定期預金+譲渡性預
(M2+CD)の増加率と、実質経済成長率、物価上昇率の関係
            
     マネー  貨幣の所得   実質  消費者物価
サプライ 流通速度の低下  GDP  上昇率 
(実績)  (仮説値)  (実績値)(実績値)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
82年    9.2%   -4.2%     3.2%   2.5%
87年    7.4% -4.2% 5.1% 0.5%
92年    0.6% -4.2% 0.4% 2.8%
97年    3.1% -4.2% 0.2% 2.0%
98年    4.0% -4.2% -0.8% 0.2%
99年    3.6% -4.2% 1.9% -0.5%
00年    2.1% -4.2% 1.7% -0.6%
01年    2.8% -4.2% -1.9% -1.0%
02年3月   3.7% -4.2% 0.0% -1.2%
02年6月   3.4% -4.2% 0.6% -0.8%
02年9月   3.3% -4.2% (未集計) -0.9%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      (前年比増減率:データは日銀の10月統計より)

上記を見れば、[消費者物価の上昇率=貨幣供給量の増加−貨幣の所
得流通速度の低下(4.2%)−実質経済成長率]という公式がほぼ
成り立っています。つまり仮説にできる。

日銀は、日本経済をデフレ恐慌に陥らせないためには今の3%レベル
のマネーサプライ増加を、(バブル期の)87年並み、7%に上昇さ
せる必要があります。

現状の3%レベルのマネーサプライの増加では、[物価上昇率+実質
経済成長率]は[−1.2%]にしかならない。ここが認識されてい
ないのが不思議ですね。

<構造改革なくして成長なし>というスローガンも<銀行へ公的資金
での資本注入がなければ銀行機能の回復はない>ということも5年の
長期では正しい。

今、日銀預けの当座預金勘定を増やすだけでは、民間にマネーは回ら
ない。結果は現在のようなマネーサプライの増加率3.3%。物価の
下落を促し実質金利の高止まりで投資を遠ざける供給量です。

このままで、不良債権処理に進めば「確実に」恐慌に陥ります。

不良債権処理を促進せず、銀行側が主張するように自己資本を粉飾の
ままにしておいて、民間からの貸しはがしをしても同様にデフレ型恐
慌に向かいます。竹中金融相の政府資金投入政策でも、銀行の主張す
る「じっとしておくこと」でも結果は同じです。

政府と日銀が取るべき政策は、
(1)政府は50兆円を準備し、不良債権を[簿価−引当金]の価格
で銀行からRCC(整理回収機構)が買い取り、銀行の貸借対照表か
ら落としてオフバランス化する。
(2)そのための国債発行は、日銀が全部を直接引き受ける。
(3)同時に日銀はマネーサプライで7%の増加、物価で2%の上昇
を図ることを宣言する。

ハイパーインフレにはなりません。世界の(潜在力としての)商品供
給量が超過状態にあるからです。断言できます。以上、<決定版:金
融危機とデフレ経済を解く>第1部、緊急事態を乗り切る方法でした。
次号は、続きの第2部です。

see you next week!!

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11月1日発売の『販売革新11月号』に「在庫管理の根幹は何か」
を15ページにわたった特集記事として寄稿。ウォルマート(28兆
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