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ことしの政界「5大ニュース」
本日、この席に参ります前に『ボーイズラッシュ』という主婦の友社が出している若者向けの雑誌の取材を受けました。政治、経済、文化、芸能などの分野についてことしの5大ニュースをそれぞれ専門家に選んでもらい、それについてコメントしてもらうという年末特集の企画で、政治の分野で私が指名され、1時間ほどインタビューを受けました。
私は、10月末までの段階で大きな国内の政治的ニュースは、第一に、田中眞紀子外務大臣更迭事件だと思います。その意味は、メディア、特にテレビのワイドショーが政治に参加してきて「劇場的な政治」をつくり上げた。そのスターが田中眞紀子女史でした。田中女史は小泉内閣樹立への大きな流れをつくったわけですが、しかし、権力者の小泉さんと袂を分ければやがて失脚する。そして、田中外相更迭によって小泉首相の人気も20%ほど落ちました。同時に、テレビ界も劇場政治の主役を失った。日本の政治とテレビの役割を考える上で田中外相更迭事件は大きな事件だったと思います。
第二は、ムネオ事件です。田中眞紀子女史が正義の立場の主役だったとすれば――私はそうは思わず田中女史批判を繰り返し、私が出たテレビ番組や私のEメールには一時は抗議が殺到したことがありましたが、マスコミは田中女史をそのように扱っていました――、その敵役、悪役中の悪役の鈴木宗男議員のもろもろの疑惑とその後の展開です。カネをめぐるスキャンダル問題では加藤紘一元幹事長、井上裕前参議院議長、辻元清美社民党前政審会長、田中真紀子前外相らが議員辞職に追い込まれました。この一連の政治とカネをめぐるスキャンダル問題が第二のニュースだと思います。
第三は、これは非常に地味なニュースで、おそらく世論調査では5大ニュースの中に出てこないと思いますが、民主党の代表選挙とその後の展開です。民主党代表選は野党第一党の存在をアピールする絶好のチャンスでした。しかし民主党は人事のゴタゴタで逆に株を下げてしまいました。この結果が10月27日の7つの衆議院及び参議院選挙における補欠選挙でストレートに現れました。私も各選挙区を取材しましたが、選挙運動の中心だった人たちは口をそろえて「民主党に対する国民の失望が響いた」と言っていました。この結果、選挙戦は盛り上がらず、投票率は軒並み30%台、千葉参院補選はなんと24%台の投票率です、70%もの有権者が棄権する――これで民主主義が成り立つかというような低投票率でした。投票率が下がれば下がるほど組織力がものをいいます。公明党・創価学会に後押しされた自民党系候補が勝利し、鳩山民主党は手痛い打撃を受けました。野党第一党は政治の主役にはなり得ないとしても、政治の流れを決める上で非常に重要な存在です。私は少なくとも当面の間政権交代は困難になったと感じています。これは日本の政治にとって大問題です。その意味で、代表選をきっかけにした民主党の低迷を3番目のニュースとして指摘しておきたいと思います。
第四は北朝鮮問題です。拉致問題と核開発疑惑をめぐる北朝鮮問題は世界的にも大きなニュースになりました。日本は当面、北朝鮮を国際舞台に引きずり出す、いわば主役の役割を担うことになりました。これは目下展開中ですが、率直に言って、日本政府はかなり複雑な方程式を解かなければならなくなったと思います。アメリカはイラク問題もあり、日朝交渉の行方をしばらく見守ろうという態度です。日本としては核開発疑惑の解明はアメリカにやってもらいたいわけですが、当面、北朝鮮問題は日本が主役を担うことになりました。北朝鮮に核開発をやめさせるためには、「断念すればKEDOの枠組みを継続する」という太陽戦略と「もし諦めないなら容赦しない」という北風戦略の合わせ技が必要ですが、日本には北風路線をとる力はありません。これはアメリカにやってもらわないといけない話なのです。いまのところ、アメリカは日朝交渉の成り行きを見守る姿勢をとっており、日本にげたを預けています。日本は困難な立場に立たされました。今後かなりもつれた交渉になると私は思います。
第五はいわゆる「竹中ショック」です。小泉首相は去る9月12日の日米首脳会談において不良債権処理の加速化をブッシュ大統領に約束しました。その約束にもとづいて、9月末の内閣改造において柳沢金融担当相を更迭し、後任として竹中平蔵経済財政担当相を兼任させました。経済・財政・金融の全権を竹中氏に丸投げしたのです。竹中氏は不良債権処理の加速化のため、従来の自己資本率の計算方法を変え、自己資本率を8%以下に落とし、国有化するという方向に動いています。竹中氏の周辺からは、〃自己資本率8%以下の銀行には政府が公的資金の注入して国有化する。そのあと外資にまかせることもあり得る。現在の役員たちは当然責任を問われることになる〃との意向が示されています。この竹中路線に対して、いつもは政府・自民党に対して従順な大銀行の首脳も「承服しかねる」と猛反発し、自民党内にも竹中批判の声が噴き出ました。
昨夜、公明、保守2党の首脳会談が行われ、この席で〃できる限り3党共同体制を維持してデフレ対策について解決を図るけれども、しかし、腹を固めておかなければならない。決裂した場合には覚悟を固めておかなければならない〃という会話がかわされたそうです。これは竹中首相、竹中金融担当相へのブラフだと思います。この会合は秘密の会合だったようですが、しかし、昨夜の段階で私のところへ連絡をくれた人がいました。意図的に漏らしたのか、それとも結果的に漏れたのかわかりませんが、とにかく秘密を守るというのは大変なことだとつくづく思います。昔から〃秘密は揮発油のごとし。すぐに揮発して現れてしまう〃と言われていますが、今回の件もその例に漏れませんでした。いかなるデフレ対策を打ち出すか――小泉内閣は正念場を迎えています。
きょう、小泉さんの極めて近い人に〃小泉さんは竹中・木村主導の案を十分に承知した上で竹中大臣にすべてをゆだねているのか〃と聞いたところ、「いや、実は小泉総理は中身は知らない。研究することをゆだねたんだ」と言っていました。この点、竹中大臣は「すべてゆだねられた」と言っているようですから、このすきま風、どうなりますか。小泉首相が使い分けているのかもしれませんが、これから大きな問題になるのではなかろうかと思います。
私は本日、取材に答えて、ことし10月末段階までの5大ニュースとして以上の5つを挙げました。この私の話が印刷物になって発売されるのは12月ころだろうと思います。それまでにアメリカによるイラク攻撃が起こりますと、純粋の国内問題ではないのですが5大ニュースの一つに入るでしょう。10月末段階の「ことしの政界5大ニュース」は以上の5つではないかと思います。
幻想の上の小泉パフォーマンス政治
昨年4月に小泉政権が誕生した以後、日本の政治情勢は非常に変わりました。昨年4月は日本の政治の大きな替わり目だったと思います。小泉さんという人は、マスコミ利用のうまさという点では実は侮りがたい能力があるなと私は思っています。と言うのは、昨年の夏、あるテレビ局の実力プロデューサーと、その解説者が私のところを訪ねまして、「森田さんは小泉さんをかなり厳しく批判しているけれども、もう少しトーンを緩めてもらえないか。我々に協力してくれとまでは言わないけれども、もうちょっと緩やかにやってくれませんか」と言いに来ました。私は「それはできませんよ。たとえテレビからの出演依頼が減っても、私はそういうことはできません」と答えました。小泉首相はテレビ局を掴んでいるようです。実力あるプロデューサーの何人かがテレビ利用の方策を研究しているようです。
このとき、先方はこういう話をしていました。「小泉さんが〃今度の自民党総裁選は私の政治生命をかけた勝負になる。3度目の今度の挑戦で負けたら私の政治生命は終わる〃という悲壮な決意を秘めて総裁選出馬を決めたときから、自分たちは相談に預かっている。その上、小泉さんの周辺にはアメリカの選挙運動の研究者も集められました。秘密のメディア戦略チームがつくられました」というのです。アメリカの選挙は完全にメディア戦略です。メディア対策を中心に戦略を立て、情報戦において勝つという時代になっています。そういう研究の経験を積んだ人たちを集めてプロジェクトチームを発足させ、かなりの研究費を払って研究してもらった。そのプロジェクト研究グループが出した結論は、テレビを味方にすれば勝てるということだったそうです。
テレビ番組というのは秒単位で動いています。私も、あまりにも負担が大きいので今はやっていませんが、4年前まで毎朝、フジテレビの「めざましテレビ」という番組で「ニュースのつぼ」というコーナーを担当していました。まずキャスターから呼びかけがきて、私が話に入ると60秒という数字が出ます。ほんのちょっと話すと45秒と出る。次に30秒、20秒、15秒と出、残り10秒の段階になると若いアシスタント・ディレクターが両手を広げて10本の指を一つ一つ折って秒読みに入る。両手がグーになったとき容赦なくコマーシャルが入りますから、そのときにぴたりと話をまとめなければならない。話途中でコマーシャルが入ると、視聴者からすぐに「途中で切るとは何だ」という抗議の電話がかかってきます。それも1本や2本ではない。逆にほんの2、3秒でもあいてしまうと、局全体が実に気まずい思いになるんですね。テレビの制作スタッフたちはそういう秒単位の仕事をしているわけです。
自由民主党総裁選に際して、テレビ局は各候補10秒とか20秒とかと決めて各候補の発言を放送します。立候補者は、麻生さん、橋本さん、亀井さん、小泉さんの4人。それぞれ平等に発言を紹介します。実はプロジェクトチームは、数秒で終わるスローガンをこういう形で言ってくださいと小泉さんに提言したそうです。つまり、「自民党を変えます」、――2、3秒で言える。そして、「日本を変えます」「構造改革なくして景気回復なし」を加えても10秒あれば大丈夫。構造改革と景気回復は国民の2大要望です。これを少し早口に言えば数秒あれば十分です。
遊説のとき、普通はそこに集まった人たちの顔を見、目を見ながら演説します。橋本さんにしても、麻生さんにしても、亀井さんにしても、聴衆の顔を見ながらいろいろ説明しますから発言が長い。ところが小泉さんはテレビカメラの向こうにいる全国民に向かって「自民党を変えます」「日本を変えます」「構造改革なくして景気回復なし」の三つの言葉を繰り返しました。ほかの余計なことは言わない。これがニュースとして報道されました。他候補は発言の一部が報道されるため意味不明のことが多い。これに対して三つのスローガンを繰り返す小泉さんの主張は明快に伝わる。これによって国民的に支持されているという雰囲気づくりに成功し、世論調査で小泉さんが他を圧していることがわかれば、百数十万人の自民党党員の意識も変わる。国会議員の意識すら変わる。小泉陣営はこの戦略をとり見事に成功したのです。
小泉さんは高校時代に弁論部に所属していたそうです。演劇や音楽にもかなり関心が深かったようです。芸能のセンスがありますから、パフォーマンスにおいてほかの候補者よりはずっとうまい。小泉さんの演説スタイルは、小泉さんが高校生だった1960年前後の高校弁論部の形とのことです。その頃、高校弁論部に身を置いていた人たちは、〃かつて我々が教わった演説スタイルと同じだ〃と言っています。ともかく、「メディア戦略で勝利したことが小泉勝利につながった」と小泉周辺の人たちは言っていました。小泉的スローガン絶叫方式が成功したのです。
その後も重大問題に直面するたびにこの小泉プロジェクトチームが動いているそうです。メディア戦略を練りあげてきたようです。ほかの候補者が旧来型の選挙運動を行ったのに対して、小泉さんだけがアメリカ型のメディア戦略を駆使して世論操作をしたのです。私は油断できないグループが出てきたなと思っています。
もう1つ、小泉さんがアメリカに見習っていることがあります。シンクタンクの活用です。アメリカには共和党系、民主党系のシンクタンクが幾つかあります。たとえば、いま政権を握っているブッシュ政権が共和党系シンクタンクにあるテーマについて報告書を出すように命じる。シンクタンクが報告書を提出すると、ホワイトハウスはどの部分をどういう形で使うか決めるわけですが、その結果はシンクタンクに報告されるそうです。それが滞ると、シンクタンクが機能しなくなる。小泉さんは、学者やジャーナリストを集めて、シンクタンク化して使っています。最近は丸投げになっていますが……。
米国の真の動きを知る難しさ
私はアメリカ側の情報を直接得るために、アメリカの通信社、新聞、雑誌の取材は相当無理をしても受けるようにしています。同じ人の取材を何回も受けているうちに信頼関係が生まれ、自由な意見交換ができるようになります。そのためにできるかぎり取材を受ける努力をしているのですが、最近、新聞や雑誌に私の名前に出るためか、シンクタンクの人も訪ねて来てくれるようになりました。私が知っていることを伝えて誠心誠意対応すると、親しくなるにつれ、先方もいろいろなことを先方も教えてくれます。そんな形で生のアメリカ情報を入手するよう努力しているのです。
1982年秋に鈴木善幸総理が突然の退陣表明したときのことです。当時、親しくしていただいていた先輩ジャーナリストが、岸信介さんから直接話を聞いたこととして、共和党の意を受けて岸さんが鈴善幸首相木おろしのために動いていることを極秘情報として直接私に知らせてくれました。あのときレーガン政権は多くの政府・共和党の要人を日本に派遣して日本指導層の考え方を変え、鈴木善幸首相に静かに退いていく道をつくった。自民党は総裁選という大イベントを行って中曽根さんを次の総理大臣に選ぶわけですが、この過程にアメリカの共和党系が深く関与していたのです。このことをつかんでいたものですから、それ以後、日本の政治の動きはアメリカの対日政策を分析しなければ解明できない、アメリカの対日政策を読み解くことがカギだと思い、私なりにその努力を続けてきました。
アメリカの対日政策に関する正確な情報は日本の新聞を読んでもなかなかわかりません。イギリスの代表的な新聞フィナンシャルタイムスは東京で印刷していますから、即日読むことができるのですが、アメリカの新聞はちょっと時間がかかる。カネさえ出せばすぐに読むことはできるのですが、私のような貧乏人は通常料金で読もうとしますからタイムラグが起こります。そういう点でいろいろ不便もあります。もっとも、最近知ったのですが、フィナンシャルタイムスはイギリスで発売されているものと日本で発売されているものとは内容がかなり違うということがわかりました。いろいろ努力してきましたが、アメリカの情報を取ることは非常にむずかしいことです。
7年前、私はニューヨーク、ワシントンに取材旅行に行ったことがあります。ワシントンにある日本の官庁は日本大使館です。しかし、日米関係に携わっている政府系機関は三つあります。一つはもちろん外務省――安全保障、政治、経済の日米関係全般をやっています。もう一つは通産省、いまの経済産業省です。ニューヨークにJETRO(日本貿易振興会)の拠点を置いて日米通商関係について活動しています。また、JETROは米国の情報をとるために下部組織をつくっており、その一つがワシントンにもあります。これだけでも外務省は迷惑だと考えているようです。もう一つは大蔵省、いまの財務省です。財務省は金融財政研究所のような組織をつくっています。そのほかいろいろな組織に出向しています。主としてこれを通じてワシントン情報をとっているようです。同じような組織はロンドンにも置かれています。ワシントン情報をとるために、財務省も経済産業省もかなり苦労しています。
7年前のワシントンへの取材旅行の際、私は長年の知人の紹介によって、その情報戦のただなかで苦闘している人の話を聞くことができました。ワシントンにおける情報戦というのは、それはすさまじいものだそうです。その人は抜群の英語の使い手で、個人事務所を構えてアメリカ人女性を雇用して活動しているのですけれども、ある事態にちょっと深入りしたなと思ったときには、その夜、何者かによって事務所が捜索された形跡があるというのです。それは、自分にしかわからない物のほんの1ミリの移動でわかるそうです。そのうえ、雇っている女性秘書は超ミニ姿で事務所に出勤して彼を堕落させようと挑発する。逆セクハラです。その人は長いアメリカ留学経験もありし、幅広い人脈もあって、度胸もある人なのですが、「日夜、気を緩めることができない状況でやっていますが、それだけしても正確な情報を得るのは大変むずかしい」と言っていました。
結局、ワシントンにおいては、オールジャパンで情報を集めている。つまり、政府関係者、新聞社、商社などの代表者が会合を持って情報交換をし、それぞれの貧しい情報活動を相互の協力で補い合っています。それぞれが本国に対して恥をかかないように事に当たっているわけです。
戦後の日本は占領状態から出発しました。ワシントンの情報活動における日本の位置は、今に至るも占領時代と本質的には変わっていないと言っていました。ですから、ニューヨーク、ワシントンの旅で、日本がアメリカにおいて得る情報は極めて貧しいものであることを思い知らされたのです。それから数年たちますから、今どうなっているか。変わっていればいいと思うのですが、関係者の話を聞くと、あまり変わっているようには思えません。ということで、米国政府の深部の動きはなかなかわからないのです。
不良債権処理が対米公約になった顛末
昨年4月、日本に来たシンクタンクの人と話をしたことがあります。そのシンクタンクは、昨年3月20日に行われた森前総理大臣とブッシュ大統領との日米首脳会談に関して一つの提言を出しました。その提言が採用され、それに従って会談は行われたというのです。このとき、そのシンクタンクが出した提案とは、〃不良債権処理が日本政府の最も優先すべき責任であるとして、日本が不良債権処理を急速に進めることを日米首脳会談で合意する。日本が不良債権処理を急速に進めることが日米関係が円滑にいくカギだということにする〃というものです。これが日本政府によって受け入れられたというのです。
実はこのとき、日本側にも動きがありました。日米首脳会談を行うに当たって、外務省は森総理大臣に対して〃安全保障上の問題や沖縄問題を主題に日米首脳会談を行ってください〃と主張したようです。これに対して当時の経産省は〃むしろ経済問題でいきましょう。アメリカが受け入れるのは不良債権処理です〃と主張した。両省の国際関係のトップが首相官邸に呼ばれ、森総理大臣の前で「御前会議」を行われました。森さんが中央に座り、その机の両側に外務省と通産省の国際関係のトップが座って2時間の激論が続けられたと言われています。2時間後、森総理大臣が経産省案でいくという判定を下したわけです。通産省案とは、〃経済問題が日米関係の中心であり、アメリカが関心を持っているのは日本の不良債権処理だ。これを中心にすれば日米首脳会談はうまくいく〃というものでした。この結果、不良債権問題が政治の中心問題になります。
森さんがその1カ月後に退陣して小泉総理大臣が登場しました。小泉さんが掲げた構造改革は多くの国民から支持されました。高度経済成長型の社会経済運営がもはやできないことはみんなわかっています。高度経済成長型社会とは、人口が増えて働き手が次々と生まれ、経済は成長し、したがって税収が増えるということを前提にしたシステムです。しかし少子・高齢化時代になったいま、社会経済運営の仕方を根本を変えなければいけない。日本は構造改革をしなければならないということは一種の国民の合意です。
小泉さんが高支持率を得た決定的な要因は、5月7日の所信表明演説において「聖域なき構造改革」を強く打ち出したことです。小泉首相は具体策として、第一に不良債権処理、第二に財政再建、第三に行政改革――特に特殊法人改革――をセットにして打ち出しました。実はここに大きな過ちがあったのですが、国民は錯覚しました。この三つは構造改革ではないのに、構造改革と思い込まされてしまいました。この小泉改革路線に多くの国民は拍手しました。
私は、「時代が変わったにもかかわらず古い制度、古い法律でやっていくのは間違いだ。時代に適応してシステムを変えなければいけない」――これが構造改革の本筋だとすると、まず第一に手を着けるべきは税制改革だと思います。今の税制はインフレ抑止、とくに土地税制はバブル経済をとめるためにつくられたものです。しかし今や4年間に及ぶ物価の傾向的下落というデフレスパイラルの状況になっています。これに対する対策として最も緊急なものは税制改革だと思います。要するに、短期的には税制をインフレ抑制型からデフレ克服型に変え、中長期的には高度経済成長システムからゼロ成長システムに変えていく――構造改革は複眼的な視点に立ったプランのもとに行われるべきだと私は思います。
自民党総裁選の最終盤、私はニース解説役を務めているテレビ東京の自民党総裁選特別番組で小泉さんと直接話す機会がありました。小泉さんはこの2、3日後に自民党総裁になり、その1週間後に総理大臣になるわけですが、このニュース番組で私は「体系的な構造改革プランを打ち出し、それを国民的な議論にかけ、最終的には総選挙を行って国民の審判を問うことが必要ではないですか」と問いかけました。小泉さんは日本の体系的な構造改革プランについては〃積極的に取り組む〃と答えましたが、しかし、〃総選挙を行って新内閣について国民の信を問うべきではないか〃という点についてはまったく口を閉ざしていました。
政権の座についた後、小泉首相は、小泉構造改革の目玉として不良債権処理、財政再建、行政改革=特殊法人処理の3つを「聖域なき構造改革」という大風呂敷に包んで打ち上げたわけですが、前述のとおり私はここに小泉首相の最大の政策ミスがあったと思います。バブル経済がはじけて一挙にデフレに陥ったなかで土地税制をはじめとする税制改革がまず行われなければならない。ところがインフレ抑制を主目的とした制度は全く従来のままです。土地取得に関しては39%にまで上げた土地取得税を26%に下げましたが、それ以外はインフレ抑制型のままです。
インフレ抑制型からデフレ克服型へ――この喫緊に行われるべき政策変更の必要性について小泉政権内からはほとんど声が聞こえてきません。中長期的な課題についても掛け声ばかりです。内実の伴った政策づくりは行われていません。
小泉さんは小泉構造改革の1丁目1番地は不良債権処理と位置づけています。むろん不良債権処理は行われなければなりませんが、私は不良債権処理にあたっては景気浮揚策との結合と適度のスピードが大事だと主張しつづけてきました。スピードを出し過ぎると大変なことになる。スピードが緩過ぎてもよくない。適度のスピードで行う――これが肝要だと思うのです。2、3年のうちに銀行を通じて強制的に処理するということは、借り手企業とくに中小零細企業をどんどんつぶしてしまうことにつながります。不良債権の処理は今のようなハードランディング路線では無理です。不良債権処理のためにはデフレを止め、経済を活性化させなければならない。少なくとも資産価格の傾向的下落をとめないかぎり不良債権は増えるばかりです。私は緊縮財政のもとで不良債権処理をはかろうとする小泉構造改革は間違っていると言い続けているのですが、〃不良債権処理は構造改革そのものだ。不良債権処理を行えば旧来の日本の社会経済システムは変わる〃と考える人が官界にも研究者間にもマスコミ界にも非常に多いのは困ったことです。
ブッシュ政権の意のままに動く小泉政権
小泉首相は昨年7月の参議院選挙で勝利し、小泉さんの構造改革というスローガンは国民の間に広がりました。ここまでが小泉政権の第一期です。しかしその後、倒産が増え失業率が上昇しているという日本経済の実態が次第に明らかになり、秋口に入れば本格的な景気対策論争が起こるであろうと思われていたところで米国における9・11同時多発テロ事件が起こりました。アメリカのアフガニスタン攻撃が世界最大ニュースになり、これに対するバックアップ体制をつくることが日本の政治の中心テーマになりました。これが第二期です。言って見れば、米国における同時多発テロ事件によって、小泉構造改革の見直しは先送りされてしまったと言っていいと思います。日本にとって大変不幸なことになりました。
ところが、01年末に、日米関係上、重要な事件が起こります。それは、ダイエーをめぐる問題です。つまり、ダイエーを存続させるのか、整理するかの問題について政府にげたが預けられるわけです。政府は、巨大スーパーのダイエーを整理するわけにはいかない。失業の問題もありますし、地域経済に与える影響もありますし、そのうえ実は多くの有力な自民党国会議員の関係もあったようです。政府はダイエー存続を決定します。そして、存続のためには巨額の融資をしている大銀行にさらに追加融資をしてもらはなければなりません。そこで大銀行は「聖域なき構造改革」から外すことにしたのです。つまり、大銀行をつぶさないとの決定をします。これは、日本国内では大きなニュースにしないよう配慮されましたから大きなニュースにはならなかったのですが、アメリカがこれに相当怒りました。約束が違うのではないかというのです。この怒りが、これは後に明らかになったことですが、2月18日の日米首脳会談のときに日本側に手渡されたメモにつながるわけです。2月18日の日米首脳会談は日米関係において非常に大きな意味を持ったと思います。
以下のことは国内ではあまり報道されていません。ホワイトハウスが共和党系のシンクタンクに対して報告したことを米国研究者から聞きました。それによると、日米首脳会談の重要な点は2点だった。一つは、日本側はアメリカのイラク攻撃を支持するための有事法制をつくることを約束した。有事法制は通常国会で成立できませんでしたから、おそらく、来年の通常国会の重要課題になるでしょう。もう一つは、日本が持っている米財務証券を小泉政権ある限りは売却しない、売却させないことを約束したというのです。これによって小泉政権は長期政権になる道を固めた――つまり、ブッシュ政権が続く限り、ブッシュ政権は小泉政権を守ることになる。少なくともその可能性が高くなりました。
そのときに私が聞いた説明では、日本が保有している米財務証券は、官レベルでは日銀が20兆円、財務省が20兆円、そして東京都も数兆円持っているとのことでした。ですから米国政府も石原慎太郎都知事を怒らせないようにしているそうです。石原知事が怒って「売り払う」ということになると国債市場に混乱が起こり、長期金利の上昇を招くおそれがあります。民間レベルでは保険会社等々が120兆円ぐらい持っているとのことでした。日本は官民合わせて合計160兆円強の米財務証券を持っているというのです。この米財務証券を保有しつづける約束をすることによって、小泉政権はダイエーと銀行救済の日本政府の措置に対して不満を持ったアメリカをなだめることに成功し、小泉政権を安定させたというのです。小泉首相は日本の国益を犠牲にしてブッシュ政権の支持を得ているのです。
電撃的な日朝首脳会談の裏側
2002年初めの日本の政治の主テーマは、田中眞紀子外相問題と鈴木宗男議員問題がでした。通常国会は鈴木スキャンダル問題を中心にして展開されたわけですが、深部ではそのような動きがあったのです。
通常国会は7月末まで続きましたが、鈴木議員逮捕によって鈴木スキャンダル問題が国会レベルで終わったあと経済問題が再浮上します。〃景気は冷え込んだままで、失業者は増えている。実際の失業者の数は名目失業者の倍以上に上る〃とか、8月末に日本で行われた世界精神医学会の会合では〃自殺率が世界一の国は日本だ〃という報告がなされたなどの暗いニュースがどんどん出てきました。秋の臨時国会の中心テーマは経済問題、不況問題となったときに、小泉さんは8月30日、9月17日平壌訪問という衝撃的な声明するわけです。小泉首相は政治のテーマを国内経済問題から外交へ方向転換したのです。
ただ、ここで一つの問題が起こります。小泉側近グループは電撃的に発表することによって内閣支持率を高めようという戦略のもとで動いていましたから、この日朝首脳会談の件は米国政府に対しても伏せていました。もう一つの事情は、外務省の主流派は北米局と条約局です。今回、陰の主役として動いた田中均アジア大洋州局長は非主流的な立場にいます。そのため、外務省主流派の抵抗を受けないため、外務省内でもごく一部だけが動いて秘密を保ったと言われています。こうして8月30日の声明に至るわけです。
もちろん、声明直前に来日したアーミテージ氏には話をし、ついでブッシュ大統領に電話連絡して了承する旨の返答を得たようです。ですから、日本側はきちんと事前連絡をしたと思っていたのですが、米国政府はかなりヘソを曲げたようです。
私はこの10月中旬、新たに拉致議連(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟)の会長になった中川昭一議員にインタビューしたことがあります。前の拉致議連会長の石破茂さんは9月末の内閣改造で防衛庁長官になり、副会長の米田建三さんは総務庁副大臣になりました。拉致議連の主たるメンバーはほとんどがいいポストに就きました。例外は平沢勝栄さんただ一人です。9月末の内閣改造の隠れたる目的は拉致議連の解体にあったのではないかと言いたくなるような人事でした。
このインタビューで中川昭一氏は私にこう語りました。「何人かの米国政府高官や外交当局者に会ったが、かれらは『日本はアメリカ月が末のを抜きにしてきた朝鮮外交をやるつもりなのか』と不快感を隠そうとしなかった。これからの日米関係はかなりきついことになる」と。
日朝首脳会談のあとに明らかになったのが北朝鮮の核開発疑惑問題です。アメリカ政府は8月中旬、北朝鮮の核開発について確実な証拠を握り、日本政府に北朝鮮に核開発疑惑があると伝えていた。しかし日本政府はこれをほとんど無視した形で日朝交渉を進め、小泉首相は平壌宣言に署名した――〃これはどういうことか〃という米国政府の本音が10月以降、日本側に伝えられてきました。
その一つのルートは、これは小泉政権にとってグサッとくるようなものだったのではないかと思いますが、ワシントンに橋本元首相を招いてこの話をし、〃記者会見をして話しても結構〃と示唆したわけです。これは〃あなたの口から言ってくれ〃というに等しいことです。独走した小泉首相に対するかなりの政治的なしっぺ返しが米国政府によって行われたと見ることもできます。
これに対する小泉さんの回答が不良債権処理の加速化でした。というより、アメリカ政府のご機嫌を取るために「加速化」を打ち出したのです。先日、外国人記者に対して日本の政局について話した際、〃今回の日朝首脳会談にアメリカは不快感を持っている。それをなだめるためになされたのが不良債権処理加速化の約束ではないか。われわれはそう捉えているが、森田さんもそう思うか〃という質問を受けました。〃私も同じ見方です〃と答えましたが、海外のジャーナリストのなかにもそのように捉えている人がいるのです。
小泉政権は、昨年末のダイエー救済をめぐって大銀行を守ることを打ち出したことに対して不快感を表明したアメリカの怒りをおさめるために、日本が保有する米財務証券160兆円の不売却というカードを使ったわけです。そして今回は、対北朝鮮外交における日米の行き違いを沈静化するために不良債権処理の加速化を約束したのです。