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オウム帝国の正体
投稿者 日時 2002 年 11 月 21 日 14:49:00:

朝日新聞社
www.asahi.com

竹信悦夫の「ワンコイン悦楽堂」 November 20, 2002
オウム帝国の正体
一橋文哉 新潮社、2000年、元の定価1600円+税


竹信 悦夫
タケノブ・エツオ
1950年兵庫県生まれ。76年朝日新聞入社。支局、社会部、外報部、カイロ、ニコシア、シンガポールで特派員。休刊した英字紙Asahi Evening Newsのデスク、やはり休刊の英文誌Japan Quarterly編集長、翻訳センター編集長を経て現在は調査研究本部研究員。
著書に「英字新聞がどんどん読めるようになる」(光文社、2000)。共同執筆した著書に「コンサイス人名辞典外国編」(三省堂、1976)、「湾岸戦争の二百十一日」(朝日新聞社、1991)など。

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駆け込み乗車をしそこねて、目の前で電車の扉が閉まってしまう。
よくあることですが、あれは、ばつが悪いものです。
しかも通勤時間帯なら、せいぜい数分待てば次の電車がやってくるのに、なんだかえらく時間を無駄にしたような気分になる。
通勤に利用している私鉄の駅で、プラットホームに駆け上がったところで、電車のドアが閉まった。
朝から、けちがついたようでいい気はしない。
その電車は、途中で都心に向かう地下鉄と接続する。
数分待って1本あとの電車に乗ると、これが途中の地下鉄の駅で足止めになった。
一つ先の駅で事故があったため、と車内放送がある。
そのうち動き出すだろうと、しばらく車内で待っていると、やがて復旧のめどは立たない、とのアナウンスだ。
やれやれ、しょうがないな、と出口に向かおうとすると、プラットホームのあちこちで通勤客らしき人たちが座り込んでいる。
壁や柱にもたれてぐったりした人もいる。
吐いている人、ハンカチを口元に当てて苦しそうにしている人。
えらく二日酔いの客が多いな、まったく、と思いながら、急いで地上に出て、タクシーをつかまえた。
頭の中には、遅刻しなけりゃいいがな、ということしかなかった。
私の記憶にある、1995年3月20日、いわゆる地下鉄サリン事件の朝の出来事です。
そのころ私は、英字新聞の編集者だったのですが、会社に着いた時にも、編集部はふだんとあまり変わりがなかった。
何本もの地下鉄の車内で、毒物がまかれて、多数の被害が出ている、という事件の概要がわかってきて、騒然となる直前でした。
地下鉄サリン事件を引き起こしたのが、オウム真理教のメンバーで、この教団が、ほかにも多くの犯罪に関わっていたことが分かるのは、さらにのちのことです。
今でも「あの時、1本前の電車に間に合っていたら」と思うことが、ときにある。
新古書店の百円棚で入手した本書は、月刊誌「新潮45」に95年6月号から96年8月号まで断続的に計9回にわたって連載された同名の記事をもとに、2000年になって加筆してできあがった、と「あとがき」にあります。
著者の立場は、事件は終わっておらず、なお未解明・未解決の部分を多く残している、継続中の事件ととらえている点にあります。
「連載当時はオウム真理教への強制捜査や麻原逮捕へのカウントダウンが始まるなど、オウムをめぐる情勢が刻々と変化する中で、地下鉄サリン、国松長官狙撃、村井刺殺・・・と凶悪事件が次々と発生し、警察やマスコミ、そして社会全体が一種のパニック状態に陥っていた」
「そんな混乱と喧噪の中で、週刊誌、いや新聞並みの超過密スケジュールで取材、執筆したことを思い出す。それこそ、『思い込む』余裕はなく、『追い込み』をかけられる気分で書いた連載原稿が四、五年を経た今、いささかも色褪せず、むしろ新鮮な感覚で読めたのには、正直言って驚いた」
(中略)
「オウム真理教が今なお、かつての強固な信仰と組織、豊富な資金力を保持し、ますます意気軒昂だからこそ、そう感じるのだ」
「オウムは、『二千年帝国』樹立に向けて、確実に動き出しているのだ」(304〜305ページ)
著者は、オウム真理教に関わる一連の事件のうち、次の三つを三大未解決事件として取りあげます。
1)国松孝次・警察庁長官狙撃事件(1995年3月30日発生)
2)オウム真理教最高幹部の一人、村井秀夫刺殺事件(1995年4月23日)
3)坂本堤弁護士一家殺害事件(1989年11月4日発生)
このそれぞれについて、いくつもの仮説が検証されています。
その根拠になっているのが、日本の捜査当局やアメリカ中央情報局(CIA)の作成した内部資料、捜査員や事件関係者への取材結果で、著者はこうした情報を組み合わせ推論を積み重ねていく。
この過程が、いわば本書のいちばんのミソですから、結論部分だけを書いても、どれだけ意味があるのか分かりませんが、とりあえず主な部分を列挙すると
1)については、
「長官狙撃事件の真相がオウムと北朝鮮と暴力団とを結ぶ線上にあることだけは間違いあるまい」(140ページ)
とし、同時にCIA報告にあるロシアとオウムとの関わりにも注意を払っています。
2)については
実行犯の男が、三重県内の右翼団体に所属していたと自供する一方で、在日の北朝鮮出身者がつくる主体思想研究会の一員だったことなどをあげて
「(村井は)暴力団との交渉から北朝鮮との窓口まで、ほとんどすべてを一手に引き受けており、どこから狙われても不思議ではなかったことになる」(194ページ)
と指摘。
さらにはロシア、北朝鮮での利権にからめて、首相経験者を含む日本の政治家や大物フィクサーなどを次々に登場させ、「村井に向けられた刃は、金でできていたに違いない」(198ページ)
と結論づける。
3)については
「麻原が、忠誠心は強くても、犯罪には素人で、成り行き任せの行動をとる幹部たちだけに犯行を委ねるわけにはいかない、と考えたことは想像できるし、何らかの善後策、つまり、犯罪のプロである暴力団に支援を依頼したことは十分にあり得る話であろう」(272ページ)
としたうえで、オウムは暴力団側からすると「いいカモ」だったのではないか、との警察幹部の話を紹介しています。
つまり、キーワードは「暴力団」「北朝鮮」「ロシア」です。
これに女性スキャンダルがらみで暗闘を繰り広げる警察官僚、オウムとは別の巨大宗教組織が、見え隠れする。
帯に曰く
「まだ何も終わってはいない!」
「警察は、なぜ真相究明を諦めなければならなかったのか? 政財界を初めとする日本の暗部から、ロシア・北朝鮮にまで及ぶ闇の連鎖が、金と権力に群がる巨大な陰謀を指し示す。(中略)背後に蠢く魑魅魍魎を炙り出す!真相は、いまだ藪の中にある」
と、相当におどろおどろしい。
たしかに政財界人や警察官僚の暗部だけでなく、暴力団員や北朝鮮工作員、ロシアン・マフィア、それに巨大新興宗教団体なども、存在することは、広く知られているけれど、実態はほとんど知られていない。
いうなればブラック・ボックスになっている。
「宗教法人を乗っ取ったり、教団の奥深くまで食い込んで、巨額な闇資金を吸い上げる仕事」(275ページ)を手がける「宗教舎弟」の動きなどは、複数のブラック・ボックスを行き来しているようなもので、世間の目にはさっぱり見えない領域です。
著者の取材は、捜査する側と並行して、一つ間違えば捜査対象になりかねない「裏世界」の人たちにも広く及んでおり、これが本書の奥行きの深さにつながっている。
また捜査する側についても、幹部だけでなく一線の捜査員から情報や見解を集めているところが強みになっています。
新聞記者仲間では、情報を「上から取る」とか「下から取る」とかいう言い方をしますが、一般に組織の上層部から出てくる情報は、よくまとまっているし、信頼度も高いことが多い。
半面どうしても間接的になるし、その組織(ないし情報提供者)の利害に沿った形に加工されてしまうという問題点がある。
代表的なのが、官庁や企業の広報文や、「リーク」と呼ばれる情報漏洩です。
これに対して、下から出てくる情報は、具体的・直接的で生々しい。確度も高いのですが、部分的・断片的であることも多いので、その情報を記事化するには、取材者の側でさらに補充したり加工する必要がある。
新聞記事にする場合、かなりの程度の確認と裏付けが要求されますが、本書の著者は、不確定要素が多く確認が十分取れていない(あるいは取りようがない)ために、新聞には掲載できない段階の話も、どんどん書いている。
当然思い過ごしや思い込みも混入しているでしょうが、警察の捜査の限界にとらわれないで、独自に「闇」を解明していこうという取材姿勢は、大いに共感できる。
この点で、対照的なのが、同じオウム事件を扱い「オウムの謎を透視する!」と帯にある「極秘捜査/警察・自衛隊の対オウム事件ファイル」(麻生幾著、文芸春秋、1997年、元の定価1800円)です。
こちらは警察、自衛隊の内部報告書や通達文書など、非公開文書に記載された情報を中心に、それぞれの組織の動きや幹部たちへの取材を基に構成しています。
新聞やテレビの場合、非公開文書はもちろん、いずれは公開される文書でも事前に入手すれば、それだけで「特ダネ」扱いされることもあるくらいです。「紙取り競争」などと、ちょっと自嘲的な呼び方をすることもありますが、やってみるとそれほど簡単でもありません。
だからこれだけたくさんの文書を入手したのは立派というべきなのですが、せっかくの素材が十分に消化されきっていないうらみがあるのも事実です。
こちらの著者は、固有名詞を並べるのがお好きだと見えて、官庁の部署名や役職者のフルネーム、兵器の名称やスペックなどを、繰り返し書き連ねる。
「化学防護小隊を動かす命令を防衛庁長官から受け取った防衛庁運用課長の山崎は、直ちに陸上幕僚監部運用課長の松川正昭に電話で伝え、さらに東部方面総監部の防衛部運用班から、化学学校校長と104化学防護隊の指揮官へと「命令」が次々と伝わっていったのだ」(150ページ)
「まず山梨県上九一色村と静岡県富士宮のサティアン群の突入部隊(名目は「捜査本部支援」)として編成されたのが、警視庁機動隊と関東管区機動隊が五百六十名。捜索部隊として、警視庁捜査第一課、鑑識課、科学捜査研究所、第一機動捜査隊、第二機動捜査隊、第三機動捜査隊、公安部公安第一課、生活安全部麻薬対策課、大崎警察署刑事課の計五百四十四名。そのほか警察庁からの顧問団(刑事局、警備局、科学警察研究所)、オブザーバーとして山梨県警本部捜査第一課、警察官と併任した陸上自衛隊化学学校スタッフ、硫酸アトロピンを携行した東京警察病院の医師など三十名。さらに、現地指揮本部にも、警視庁捜査第一課長の寺尾正大を筆頭にして十一名が、前線指揮することが決まった。上九一色村だけで総計一千百四十五名という大部隊を投入することになったのである」
「一方、東京都内の十一カ所のオウム施設に踏む込むのは、まず第二機動隊を中心とした百二十名の警視庁機動隊。捜査チームの方は、警視庁捜査第一課、第三課、第四課、暴力団対策課、捜査共助課、国際捜査課、鑑識課、第一機動捜査隊、第二機動捜査隊、第三機動捜査隊、生活安全部麻薬対策課、公安部公安第一課、大崎警察署刑事課などからの混成部隊で、総勢二百五十三名。ここでも合計して三百七十三名もの大部隊が編成されたのである」(205ページ)
はいはい、ご苦労さん。
ついでにいえば、せっかく「ゼンソウ」とか「ロッカチュウ」といった組織内の隠語をちりばめて内部事情に通じているところを見せている割には、不審な車両を「照会」する部署が「紹介センター」になっていたり(268ページ)、東京地検が「殺人予備罪では、絶対に令状は出せません」と、警視庁を一蹴したことになっていたり(342ページ)する、基本的な間違いもある。令状を出すのは、裁判所ですぞ。
それに物事はやたらと「イッキ」に進み、捜査員たちはことあるごとに「狂喜」する、という具合で、紋切り型の言い回しが何度も何度も出てくるのも興ざめです。
趣味の問題といえば、それまでだけど
「”悪魔の扉”のオープニングへの序曲がゆっくりと始まっていったーーー」(55ページ)
なんて文章は、ちょっと恥ずかしくなってくるなあ。
最後の締めくくりも
「シャンバラ帝国という”悪の帝国”を築こうとしたカルト集団たちの野望は、警察、自衛隊の必死の攻防で、実はギリギリのところで防がれていたという事実は、忘れてはいけない。そこには、決して表には出ないが、警察や自衛隊の名もなき男たちの全てを犠牲にした血と汗にまみれた姿があったことも是非、記録に留めておきたい」(379ページ)
と、プロジェクトX顔負けのオヤジ礼賛調。
でも、いくら極秘資料を駆使したって、手柄話はしょせん手柄話でしかないんだけどね。
ともあれ、こうして「極秘捜査」と読み比べてみると、「オウム帝国の正体」は、取材力にすぐれているだけでなく、読み物としてもうまく書けていることがわかる。
実際に競争して取材する立場になれば、いろいろとアラが目につくかも知れませんが。
「オウム帝国の正体」の末尾近くに、オウム事件に対する政府や捜査当局の取り組み方に疑問を抱く国会議員で結成した「オウム問題を考える議員の会」が、代表世話人のこんな言葉とともに紹介されています。
「今後は、オウムと政党の関係をきちんと解明していかなければならない。オウム事件というのは、明らかに麻原被告がすべてじゃない。麻原被告は政治家をはじめとする”ある人物”らに操られていたと思う。例えば、サリン製造疑惑に深く関わったと言われる元オウム幹部が逮捕されていないのは、ある政治家が手を回した疑いがあるし、ほかにも、政治家とオウムの間には、いくつかの疑惑が残されたままだ」
「オウム真理教は、宗教法人制度をうまく利用してアンダーグラウンドで儲けようと言う要素を非常に強くもっていたのだと思います。それが暴力団と結びつき、国際的に密貿易をしたり、薬物を流したり下のはいったい、何のためだったのか。不可解なことを不可解なままお蔵入りさせようとしているとしか思えないのです。
(中略)
警察はなぜオウムの国際的活動について、あるいは、さまざまな関係人脈について調査や事情聴取をしないのか。政府はどうして、オウム事件について何もしないのか。これらはすべて、単に麻原の異常さや宗教的理由などでは説明がつかないのです・・・・・・」(298〜299ページ)
この代表世話人こそ、最近自宅前で刺殺された石井紘基代議士でした。
手口が、村井秀夫刺殺事件に似ているのが、仮に偶然だったとしても、不気味でなりません。



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