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『収容所体制と難民流出』続〜全体主義体制が生み出す難民は全て政治難民である〜
投稿者 YM 日時 2003 年 1 月 23 日 03:17:15:

(回答先: 【重要 】三浦小太郎『収容所体制と難民流出』〜北朝鮮難民を座視することは私たちの社会の人権概念を崩壊させる〜・抄(現代コリア2002/10) 投稿者 YM 日時 2003 年 1 月 23 日 03:11:59)

5、全体主義体制が生み出す難民は全て政治難民である

では、なぜこのような事態を、国際社会(特にUNHCR)は座視したままなの
か。
中国政府の難民弾圧は、北朝鮮を韓国、そして米国との間の緩衝地帯として確保
したいという政治的意図あってのことである。しかし、本来難民を保護すべき立
場のUNHCRが充分な保護行動に至らないのは、単に中国政府の非協力的な姿
勢だけではなく、北朝鮮難民は「経済難昆」「食糧難民」であり、難民条約の保
護対象である政治難民とは見なしにくいという現状認識があるからであろう。
この認識は、日本においても賛同する文化人(例えば徐勝、和田春樹氏ら)、マ
スコミ、外交政策担当者などが多い。
彼らの判断によれば、北朝鮮難民は政治的迫害からではなく、単に飢餓から逃れ
るために脱出して来た人々であり、その証拠に何回も中国と北朝鮮を往復するり
ピーターが多い。また、リピーターが多いということは、強制送還されてもさし
たる被害を受けにくいということであり、保護の対象とは見なしにくい。この問
題の根本的解決のためには、北朝鮮への食糧支援、経済支援によって国内の飢餓
を何とか解決することであるとしている。
これに対し、実際の難民救援に当たっているNGOの多くは、難民は確かに飢餓
に耐え兼ねて生きるために脱出した人々かもしれないが、北朝鮮に強制送還され
れば、酷い拷問や、時によれば収容所、処刑という運命までもが待ち受けている
ことを実例や難民証言を元に反論している。確かに食糧やいくばくかの金銭を求
めて中国に入り、それを得た後は北朝鮮に戻るリピーターは存在するが、それは
難民が北朝鮮に家族を残しており、彼らを助けるために戻らなければならないた
めである。また、特に韓国、日本などのNGOに保護を受けた難民ほど酷い仕打
ちが待っていおり、そのような難民は、教化所、政治犯収容所などに送られ、多
くが劣悪な食料事情と拷問の中で苦しんでいる。難民の様々な証言は、強制送還
後の入れられた監獄では、不衛生で寄生虫が大量に蠢いて難民を苦しめる獄中
で、わずかな食糧しか与えられず、看守の拷問、殴打、暴言を受ける姿を数多く
伝えている。救援団体や実情を知るジャーナリストは、このような証言や現実
が、彼らを保護対象とするに充分な理由であるとする。
私も原則的にこの意見に賛同し、UNHCRに難民の保護を強く求めるものであ
る。しかし、ここで問題をやや違う立場から提起したい。全体主義体制から生ま
れる難民は、他の性格が事なり、経済難民か政治的亡命者かという区分は殆ど意
味が無いという点である。
先述したように、北朝鮮では「万人が万人の敵であり、密告者であり、テロルの
対象であるしという徹底した全体主義体制である。同時に、配給制度の崩壊(及
び遥か以前に起きた農業、工業全体の産業基盤の崩壊)は、北朝鮮では生命の維
持に必要な最低限の食糧もおぼつかないという飢餓状態を招いている。このよう
な国家を脱出すること、それは難民にとっては、人権以前の「生存権」の問題で
ある。
そして、さらに重要なのは、北朝鮮刑法では、生きるための脱出がそのまま反逆
罪であることだ。北朝鮮刑法四七条は、「共和国公民が祖国及び人民に背いて、
外国文は、敵側へ逃亡するか、スパイ行為をするか、敵に援助をするなどの祖国
反逆行為をした場合には、7年以上の労働教化刑に処する。罪状が重い場合に
は、死刑及び全ての財産没収刑に処する。」と定めている。北朝鮮を脱出し、
「敵側」である韓国、日本のNGOと接し、その保護を受け、北朝鮮国内の現実
を敵側に伝えたこと、これはそのまま国家反逆行為と見なされることは明らかで
ある。この刑法の文体が明かにするように、「スパイ行為、敵側への援助」とは
何であるかは全く不明瞭である。全ては権力者の恣意のまま運ばれる。
全体主義体制下において、「政治犯」「政治的亡命者」という概念は本質的に意
味を持たない。繰り返すが、ある個人が政治犯になるかならないかは、本人の思
想信条や行動とはかかわらないのが全体主義体制の特徴である。ゆえに、ごく一
部の階層を除いた全ての国民が、「政治犯、反逆者」と懇意的に体制側から認定
される可能性を持つ。そして、生存権と言う最低の権利を行使するために中国へ
脱出したことは、全体主義体制の外部に逃亡しようとした犯罪行為とされる。
(略)

難民証言が生々しく伝える、北朝鮮の警察、保安部、安全部などの難民への虐待
は、単に彼らの人間的低劣さの現れだけではない。新たな「敵」を見いだした全体
主義体制の反撃である。全体主義体制が民衆を抹殺する行為を私達が座視するの
は、かってのアウシュビッツでのナチスの行為を座視していた世界の過ちを再び
繰り返すことである。これだけの死者の数を歴史に刻みながら、人類はなぜ同じ
過ちを繰り返しているのか。

6、難民(無国籍者)というアポリア(難問)

第四項で先述したように、アレントは、難民という言葉よりも、二〇世紀の全体
主義が生み出した新しい現象として「無国籍者」という言葉を選んだ。アレント
の言う「無国籍者」とは、第一次世界大戦、ロシア革命、そしてナチス政権の誕
生と共に起こった大量の難民・亡命者の流出を指す。
一九世紀までは、亡命は基本的に時の体制に反抗した個人が追放されたり、自ら
の意志で脱出するという、あくまで個人的行為だった。しかし、全体主義体制が
生み出す難民、そして「無国籍者」はこれらの古典的な政治亡命とは全く異なる
範壌の存在である。全体主義体制が必然的に生み出し続ける、個人の意志や思想
とかかわりのない大量の難民流出が周辺諸国の受け入れを不可能とし、実質的に
帰化制度の限界を露呈し、大量の「無国籍者」、いかなる国家からの庇護も受け
られない人々を生みだしたのである。
(略)

北朝鮮難民は、事実上は無国籍者ではない。彼らは、大韓民国の基本理念として
は「韓国国民」である。また、北朝鮮政府は、彼らを「不法出国者」つまり、北
朝鮮国民と見なしている。だからこそ北朝鮮は中国に難民の強制送還を求めるの
だ。しかし、これは北朝鮮難民の存在が、ドイツを追われたユダヤ人よりもさら
に悲劇的であることを示している。彼らは、「無国籍者」になること、アレント
の言葉に戻れば、「難民収容所」における保護すら得られない人々なのだ。
北朝鮮の全体主義体制が必然的にもたらした難民の流出に対し、現在に至るま
で、北朝鮮、中国両政府は、難民の存在すら認めようとしない。これ程までに事
態が明かになったにもかかわらず、中国政府の銭基深副首相は「脱化者を北朝鮮
に強制送還してはいない」と述べ(五月二四日の日中交流シンポジウム発言)章
啓月外交部スポークスマンは「中国辺境には大量の北朝鮮難民は存在しない」
(五月二日外交部定例ブリーフィングでの答弁)と述べている。北朝鮮当局の発
表は言うまでもない。自らの存在すら、体制の恐意曲判断により「抹殺」され、
国際機関からも難民として認定されない人々、これこそ、全体主義体制の究極の
犠牲者である。「無国籍」以下の、「存在すら否定された人々」これが北朝鮮難
民である。
そして北朝鮮は、強制送還された彼らを、まごうこと無き「敵対組織」として扱
い、全体主義体制の強化のためにあらたなる敵を迫害する(この意味で、北朝鮮
難民の流出が直ちに体制の崩壊や変革に繋がるという意見は充分ではない。彼ら
の強制送還を認め続ければ、それはかえって体制の強化にも成りかねない)。
(略)

7北朝鮮難民間題の解決に向けて

国際連帯の精神のみが、『アトム化」を強制され、存在すら否定された人々に、
新しい「国家」と「入間関係」を取り戻す
(略)

ある難民は、韓国に来て最も驚かされたこととして「ボランティア」の存在を上
げている。確かに北朝鮮では、真の意味でのボランティアなど(政府の強制や制
度化による「援農」はあるが)想像すべくも無い。全体主義体制では全ての「自
発性」が否定され、忌避される。同時に、スローガンとして「指導者のために」
「革命のために尽くせ」とは毎日のように繰り返されるだろうが、具体的に、見
ず知らずの「他者」の為に自発的に援助するという精神は、人間の横の連帯が否
定されつくした社会では決して生まれない。
全体主義社会からの難民の救援と定着は、経済的だけでなく精神の回復から成さ
れなければならない。この難問を韓国一国にゆだねるのは、今後ますます重荷と
なって行くだろう。難民を韓国がより受け入れられる経済的協力関係を関係諸国
が取ると共に、NGOが連帯してこのような難民の精神的ケア活動が可能かどう
かを模索して行く必要がある。
また、難民受け入れを中心は韓国であっても、かってベトナム難民を世界が受け
入れたような、自由と人権を重んずる諸国が負担を分け合うような姿勢もまた必
要である。この意味で、アメリカの上院のケネディ委員会が、超党派でこの難民
問題を真摯に取り組むべきだという方向を示し,続いてモンゴル等を予定地とし
た難民キャンプ建設が予算措置を含めて論じられていることは(七月のアメリカ
上院外交委員会にて、国務省に対し八千万ドルの予算がキャンプ設営やNGOへ
の援助として要請されている)この難民問題にアメリカ政府が本腰を入れて望む
可能性を示唆するものとして注目に値する。また在日コリアンが多く存在し、朝
鮮半島と歴史的な経緯を持つ日本こそ、難民のうち帰国者、日本人配偶者、そし
てその子孫についての受け入れを考慮する必要がある。日本のNGOはこの問題
を政府に対し提示しつつある。日本政府がこの問題に対し「東アジアの最大の人
権問題」として取り組むことがのぞまれる。
(略)

北朝鮮の人権問題は、残念ながら数年前までは世界的な注目を浴びることが無
かった。これは北朝鮮の鎖国体制によって充分な情報が外に伝わらなかったこと
もあるが、やはりこの問題が、東西冷戦時代は、「東村西」の問題としてしか受
け取られず、それこそ朝鮮半島を巡る各国の国益と安全保障がぶつかり合う「ナ
ショナルな問題」としか認識されなかったことが大きいと恩われる。しかし、今
や世界は動き始めている。北朝鮮難民を、国内の全体主義体制を座視すること
は、東アジア全体の不安定要因であるだけではなく、また、単に北朝鮮一国の人
権問題というだけでも無いことに、特に九・一一テロ事件以降、世界が気づき始
めたからである。
(略)

生命への感謝の念、人間の存在それ自体への喜び、差異や多様性との和解。これ
ら全てを否定する全体主義政権によって、今、北朝鮮難民は抹殺されようとして
いる。北朝鮮難民を救うことは、彼らだけのためではない。私達の人間性を、ニ
ヒリズムから守るためでもあるのだ。

(本稿は北韓人権市民連合と、日本のNGO北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
の共同編集季刊誌「北朝鮮民衆の生命と人権」二五号に掲載されたものを一部加
筆修正したものです。)

*極めて重要な論文につき,無断にて長々引用させていただきました失礼m(__)m
なお,原文は急いで雑誌を編集したと見えて,極めて誤植が多いですが,明らかな誤植は引用者の判断により直しました。上のテキストに誤植がある場合は引用者のミスタイプですm(__)m

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