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国の基幹統計全体への疑義広まる、先進国の地位から脱落…人権無視の隣国と同レベル
https://biz-journal.jp/2021/12/post_272264.html
2021.12.30 06:00 文=加谷珪一/経済評論家 「加谷珪一の知っとくエコノミー論」 Business Journal
国土交通省(「Wikipedia」より)
国土交通省が国の基幹統計を書き換えていたことが明らかとなった。基幹統計はGDP(国内総生産)の算出にも使われており、統計が信頼できるかどうかは、国家の信頼に直結する問題といえる。厚生労働省でも過去に似たような統計不正が発覚している現実を考えると、日本はもはや先進国とは呼べない領域に近づきつつある。
■どうしても残る不可解な点
今回、不正が発覚したのは、国土交通省の「建設工事受注動態統計」である。この統計は建設業の毎月の受注実績を取りまとめており、都道府県を通じて事業者からデータを収集している。GDPの算出には公共工事の推計が不可欠だが、この統計は基礎情報のひとつとなっており、重要度は極めて高い。
具体的には、全国の建設事業者から約1万2000社抽出し、月ごとの受注高を記載した調査票を提出してもらうという方法で集計が行われる。事業者からは月ごとに調査票の提出を受けるが、事業者の中には締め切りまでに調査票を提出できないところもある。この場合、数カ月分のデータを合算する形でデータを処理していた。
数カ月分のデータを合算すると、月ごとの受注実績に違いが生じるが、数カ月程度のズレであれば、年度内では帳尻が合う。GDPの推計は四半期ごとに行っているので、月ごとの数字にズレが生じること自体も問題ではあるが、取り返しの付かないレベルとまでは言えない。だが話はそれだけにとどまらなかった。
同省は2013年からデータ処理の方法を変更し、未提出の事業者については事後に合算するのではなく、調査票が提出されていなくても推計値を入力するようにした。
推計値を入力するのであれば、事後に調査票が提出された場合、両者のズレを修正しなければならない。だがそうした作業を行っていなかったばかりでなく、事後の調査票の数字も入力し、数字を二重計上していた。こうした二重計上は2013年4月以降、8年にわたって続き、会計検査院からの指摘(2019年11月)を受けるまで止まらなかった。検査院の指摘から2カ月が経過した2020年1月になって、ようやく都道府県に書き換えの停止を指示している。しかも2019年以前については調査票の一部が廃棄されており、正しいデータに修正することもできない状況だ。
それにしても不可解なのは、データ入力の方法を変更した際、なぜ数字を水増しする形で処理したのかという部分である。推計値のデータを入力し、その後、提出されたデータを書き加えれば、二重計上によって数字が水増しされるのは明らかである。二重計上する以前、数カ月分の数字を合算していたことに関しては、(決して許されることではないものの)担当部署の判断として理解できない措置ではない。時期が多少ズレても、数字の絶対値を変えていないのであれば、GDP統計への影響は軽微であり、重大な不正にはならないからである。
だが、二重計上を行って数字を水増しするというのは、公務員として絶対にやってはいけないことであり、それを実施するとなれば、担当者は手が震えるくらいの恐怖を感じるはずだ。それにもかかわらず、同省では水増しが行われており、何らかの理由があったのではないかと疑いたくなる。
■厚労省の統計不正にも見える同じ図式
国の基幹統計で重大な不正が発覚したのは今回が初めてではなく、2019年に厚労省の「毎月勤労統計調査」でも同じような事案が発生している。同統計は、賃金や労働時間に関するもので、建設工事受注動態統計と同様、調査結果がGDP算出に用いられるなど、基幹統計の一つとして位置付けられている。この統計がデタラメだと、労働者の賃金が上がったのか下がったのかといった労働環境の変化が正しく認識できない。
厚労省は、本来、全数調査すべきところをサンプル調査にして、それを補正せずに放置していた。この統計は全数調査が原則なので、サンプル調査にすることそのものが不適切だが、サンプル調査に切り換えたからといって、すぐに数字がおかしくなるわけではない。適切に処理していればサンプル調査でも統計の信頼性は維持できる。
だが、同省はサンプル調査の処理方法を誤り、補正作業を実施しなかったことから、得られた数字が実際の数字よりも小さくなっていた。このミスは10年間続いていたので、その間、賃金が低く算出されていたことになる。通常、こうしたミスが発覚した場合、以前まで遡って、すべてのデータを補正するのが正しい対応策ということになるだろう。
ところが、先ほどの国交省と同様、厚労省もこれに対して不可解な対応を行っている。本来、行うべき修正を実施せず、2018年以降のデータだけを訂正したのである。2018年以前の賃金は安く算出されているので、このような処理を行えば、18年以降に賃金が急上昇したように見えてしまう。この訂正作業は、政権幹部による統計批判がきっかけだったともいわれており、一部からは政権に「忖度」したのではないかとの批判が出ている。
本当のところは作業を行った当事者しか分からないので何とも言えないが、どちらのケースも、数字が増えて、GDPが拡大する方向性で処理が行われたのは紛れもない事実である。
近代民主国家において、正しい統計を取りまとめることは、絶対的なルールといってよい。統計を都合よく書き換え、それに基づいて恣意的な政策を実施するというのは、いかなる理由があっても許容されるものではない。もしこれをやってしまえば、独裁者が支配し、基本的人権がまったく守られない隣国と何も変わらなくなってしまう。
■統計にあらわれるその国の本当の実力
今回の不正とは関係なく、実は日本の基幹統計については以前から疑問視する声が相次いでいたのが現実だ。日銀は非公式ながらもGDPの算出方法について疑義があるとするペーパーを公表しているし、一部の専門家はGDPの数字が上向くように修正されているのではないかとの指摘を行っている。
統計全体への疑義が生じていたところに、2度の不正が明るみに出たということであり、現段階においてすでに日本の統計に対する信頼は、想定程度、崩壊したと考えてよいだろう。統計が信頼できなければ、当然のことながら、政府が発表する内容全体についても疑義が生じるので、場合によっては民主主義の崩壊につながりかねない。
多くの国民は普段、経済統計とは無縁の世界で生活しているのであまり知られていないが、日本の統計は先進諸外国と比較するとかなり貧弱な状況が続いてきた。統計作業は地味であるがゆえに、貧しい国は、こうした分野に十分なリソースを割くことができない。つまり各種統計を整備することは、民主主義の維持に不可欠なコストであり、ここに十分な資金と人材を割けることは、まさに先進国であることの象徴なのだ。
近年、日本の国際的地位の低下が指摘されているが、統計の分野ではすでに日本は先進国の地位から脱落している。それどころか、今回の不正によって、民主国家として適切なのかという疑義すら生じている状況である。
一連の不正会計は、法的には統計法に違反しているかどうかが焦点だが、単なる法律論に終わらせてはいけないだろう。実務的には統計法の範疇で処理されるとしても、民主国家において統計を改ざんすることは、民主主義そのものへの挑戦であり、基本的人権の侵害にも相当する重大なルール違反である。政治的には、極めて重い責任が発生すると考えるべきだ。
なぜこの不正が行われたのか、国会は徹底的に調査する必要があるし、もし何らかの意図が存在したという場合には、当事者はすべての政治責任を負う必要がある。日本の恥部を世界に晒すのは嫌なことかもしれまないが、これを乗り越えられなければ、日本の未来は危うい。
(文=加谷珪一/経済評論家)
●加谷珪一/経済評論家
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
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