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※紙面抜粋
※2023年7月29日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
政府の責任も問われる(松野博一官房長官と木原誠二官房副長官=右)/(C)日刊ゲンダイ
本当にこの国はどうしてしまったのか。
顧客から預かった修理車を故意に傷つけ、保険金請求額を水増ししていた中古車販売大手ビッグモーターの悪質な手口は、日本中の車好きを震撼させた。車体に蹴りを入れたり、ゴルフボールを靴下に入れてブッ叩いたりして修理箇所を増やす手口には、言葉を失ってしまう。
不正の背景には、修理費などで得られる1台当たりの利益目標をむちゃに課すノルマ主義や、達成できなければ工場長からヒラ社員に降格させるような制裁人事、上司にモノが言えないパワハラ経営体質などがあったとみられる。山口県で創業した小さなオートセンターが全国に事業を展開するに至り、ここ10年ほどで急成長を遂げた裏にこんなブラック構造があったとは、笑えない話だ。
ビッグモーターによる自動車保険の保険金不正請求問題で、国土交通省は28日、全国の34事業所に道路運送車両法に基づく一斉立ち入り検査を実施。これは、自動車整備工場への立ち入りとしては過去に例がない規模だ。重大な違反が認定されれば、ビッグモーター側の意見を聞く「聴聞」の手続きを経て、車検業務の資格取り消しなどの行政処分が科される可能性がある。
また、金融庁もビッグモーターと保険会社の取引実態を調べるため、損害保険ジャパンなど損保大手4社と中堅3社の計7社に対し、保険業法に基づく報告徴求命令を出す方針を固めたことが28日、分かった。保険契約者の保護に問題がなかったかどうかを調べる。保険代理店契約を結んでいる各社は、ビッグモーターの不正を本当に把握していなかったのか? 金融庁が問題アリと判断した場合は、より厳しい検査に乗り出す可能性もある。なんだかドラマ「半沢直樹」みたいな展開になってきたが、日本を代表する巨大損保を巻き込んだデタラメは、この国のモラルがとことん腐ったことの証左だ。
ビッグモーターをめぐる問題では、各地の店舗前の街路樹が枯れてなくなる“怪奇現象”も注目を集めている。すでに全国18都道府県の店舗前で街路樹や植え込みが枯れたり、伐採されたりしていることが確認されていて、ビッグモーターは28日、「除草剤等による影響で、枯れた可能性が高い」とするコメントを公式ホームページ上で発表。あくまで“過失”という立場だ。
小池知事も街路樹枯死を問題視
東京都内でも都道に面する8店舗で「樹木が枯れるなど通常と異なる部分が認められた」と、東京都の小池知事が28日の会見で明らかにした。そのうち1カ所は「明らかに作為的に伐採されたと思われる」といい、警察に被害届を提出する準備もあるという。店舗付近の街路樹の土壌調査を行って、除草剤成分が検出された場合は賠償などを求めていく考えも示した。
神宮外苑の再開発で3000本ともされる大量の樹木が伐採されることは容認する小池から見ても、ビッグモーター店舗前の街路樹枯死は見過ごせないということか。その問題意識は、やはり凡人には理解しがたいほど独特である。さすがは女帝だ。
不正や詐欺まがいでも儲かればいいという風潮が横行
「神宮外苑の再開発は、汚職にまみれた2020東京五輪利権の“本丸”だといわれています。環境より利権優先の金儲け主義という意味では、ビッグモーター問題と通じるところがある。小泉構造改革の頃から弱肉強食の新自由主義が幅を利かせ、儲けた者勝ちの風潮が蔓延するようになってしまった。そこにはモラルも何もありません。それがとりわけ顕著になったのが第2次安倍政権で、権力者を守るために公文書を改ざんしたり、権力者のオトモダチに対する逮捕状を握りつぶすようなモラルハザードが常態化した。そして、権力者のために悪事を働いた役人が出世していくという腐敗国家ぶりを我々は見せつけられてきました。政治が腐り、官僚機構がモラルハザードを起こせば、民間企業だって『バレなきゃいい』『稼げばいい』と考えるのは当然でしょう。政府と同様に、弱者を痛めつけ、だましてカネを巻き上げても恥じることがない。国家ぐるみの犯罪が相次いだ末の焼け野原が今の日本なのです」(政治評論家・本澤二郎氏)
つい最近も、リスクの大きい「仕組み債」をめぐって地銀と顧客のトラブルが相次いでいることが話題になった。元本割れのリスクを十分に説明しないまま金融知識が乏しい顧客に仕組み債を売りつけ、なけなしの退職金を失ってしまった人もいる。そうした苦情にも適切に対応しなかったとされ、金融庁は千葉銀行とちばぎん証券、武蔵野銀行の3社に業務改善命令を出した。3社は今週、内部管理態勢の強化を柱とする報告書を関東財務局に提出したという。
政府と金融当局の責任は重大
「これは3社に限った話ではなく、日本の構造的な問題です。アベノミクスの異次元緩和以降、ゼロ金利政策で金融機関は融資による儲けが見込めないため、ハイリスク・ハイリターンの金融商品で高い手数料を得ようとするようになった。顧客側も超低金利で預金が目減りしていく現状で、将来不安からリスクのある金融商品に手を出してしまう。普通のサラリーマンが定年まで勤め上げれば安心して老後生活を送れるような環境を整えるどころか、老後のために自己資金2000万円用意しろとか、投資しろとあおる政府や、今般の物価高でもゼロ金利政策を続ける金融当局にも大きな責任があります」(経済評論家・斎藤満氏)
仕組み債は、金融庁が問題視したことで取り扱う地銀が急減したという。だが、代わりに販売額を増やしているのが米ドルなどで運用する「外貨建て保険」だ。これも為替の変動によって元本割れする可能性があるリスク商品であることには変わりない。
「不正や詐欺まがいが横行する国になったのは、やはり政治がおかしくなっているからです。政府が好き勝手して憲法を守らないのだから、もはや法治国家とは言えないでしょう。権力に近い特権階級が税金の中抜きや賄賂で懐を潤し、警察組織も権力に忖度して庶民を虐げるようになれば、先進国とも呼べません。ビッグモーターのトップが不正を社員のせいにして刑事告訴まで口にしたことには驚きましたが、疑念を持たれた政治が刑事告訴をチラつかせてメディアに圧力をかけるのと構図はそっくりです。安倍長期政権で日本はタガが外れ、菅政権も岸田政権もそれを踏襲して軌道修正しない。自分たちに都合がいいからです。弱い立場の人ほど声を上げなければいけない。弱者にも強者にも等しく与えられている『1票』の力を選挙で行使する必要があります」(本澤二郎氏=前出)
今だけ、金だけ、自分だけ──。こんな社会にした政治家の責任は重い。