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「日米同盟は盤石」――その言葉を、私たちは無条件に信じてよいのでしょうか。フランスの歴史家エマニュエル・トッド氏は、トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領を侮辱した場面に「同盟国への軽蔑」を読み取り、日本やドイツは本当に「同盟国」なのか、それとも実態は被占領国なのかと、鋭い問いを投げかけます。同志社大学大学院教授の三牧聖子氏はこの問いを受け、防衛費増額要求やパレスチナ国家承認問題を通じて、対米依存が外交の選択肢をいかに狭めているかを重ねて示します。元エルサレム支局員の朝日新聞記者・高久潤氏も交えた鼎談から、日米関係の実像を読み解きます。最新刊『2030 来たるべき世界』から一部を抜粋・再編集してお届けします。
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■「アメリカ敗北の象徴」としてのトランプ
高久 もともとトッドさんは、非常に早い段階で「トランプが大統領になる可能性は高い」と、ある種、預言者的に指摘されていました。トッドさんはトランプ氏のことを「いいアイデアを持っている部分もある」と評価しつつ、一方で非常に厳しい批判もされていました。では、何がきっかけで、いつごろから、その批判をより強めていったのか。
最初のころ、トランプ氏に対して何らかの期待があったのではないかと思います。しかし、それがうまくいかなかったのか。どこで、何が変わったのか。つまり、トランプ氏に何を期待し、彼は何をできなかったのか。そして、いま強い批判の対象になっている理由はどこにあるのか。
その点について、どのように理解すればよいのでしょうか。
トッド 彼の人柄が露呈したときです。私が見方を変えるきっかけになったのは、トランプがホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領を侮辱したときです。
つまり、世界中が見ている前で、トランプはヴァンス副大統領とともに完全に見下す態度を見せつけました。私はゼレンスキー大統領が好きでもないし、ウクライナの姿勢も支持していません。
しかし、アメリカの大統領、つまりウクライナをロシアとの戦争に突っ込ませた国の指導者があんな振る舞いをする。ゼレンスキー大統領をあんな風にあしらう。そこには、形而上学的な意味での悪があると思いました。人に屈辱感を与えることを楽しむという背徳的な人格が表れていると感じたのです。
面白いですよね、私はウクライナを支持していません。しかし、私にとって決定的だったのはむしろトランプのゼレンスキーに対する態度なのです。
彼はアメリカの同盟国とされる国々を侮辱することで、とりわけ快感を得るのです。彼はヨーロッパの人々を馬鹿にしました。まるで子ども扱いです。日本には、どんな扱い方を思いつくだろう、と考えてしまいます。
高久 では、トッドさんの、いわゆるゼレンスキー氏とトランプ氏の有名なシーンについての分析ですが、これはアメリカではどのように解釈されているのでしょうか。まず、三牧先生はどのようにご覧になっているのか、教えていただけますか。
三牧 トッド先生はウクライナ戦争について独自の分析をされてきましたが、「アメリカが既に敗北しているからトランプが現れたが、トランプ自身の外交・内政はむしろアメリカの敗北を加速させている」という分析は、まさにウクライナ問題の分析にも有効です。
2025年2月末、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナの鉱物資源の権益をアメリカに渡す代わりに、軍事支援や将来の安全保障を提供してもらう旨の協定を締結しにホワイトハウスにやってきました。しかし、そこで行われた首脳会談で、トランプ大統領の収奪的な性質や大国中心主義が露呈し、結果このときは鉱物資源協定は成立しませんでした。
トランプ大統領は「国際秩序」や「中小国の領土保全」にはまったく関心がありません。あるのは、物質的な利益をめぐる「取引」への関心だけ。投資なり、資源なり、「その国がアメリカに対して何を差し出せるか」を基準に、アメリカがどれだけ安全保障などを提供するかを判断する。
ロシアが軍事侵攻を続ける中、ウクライナとしてはアメリカに提供できるものがほとんどない中で、泣く泣く鉱物資源の権益譲渡を考えたわけです。
しかし結局、トランプ大統領や同席していたヴァンス副大統領が、「ゼレンスキーにはアメリカへの感謝が足りない」などと言い出して、会談は決裂しました。
その際トランプ氏が言い放ったのが、「あなたたちウクライナはカードを持っていない」という言葉です。まさに大国が中小国を見下す発言であり、「アメリカはその国から何を得られるのか」というトランプの取引主義をよく表す言葉です。
アメリカがウクライナを「戦わざるを得ない状況」にしているにもかかわらず、アメリカに援助を求めて来た際には「アメリカに対して差し出せるものがなければ守れない」と拒絶しているわけです。二重三重の意味で罪深いことだと言わざるを得ない状況です。
ゼレンスキー・トランプ会談では、トランプ政権の中小国に対する軽視や侮蔑も露わになりました。これは日本を含め、同盟国も他人事ではありません。いつ「日本はもっとカードを持っていないのか」「もっと出せないのであれば守らない」と言われてもおかしくありません。歴代政権は、同盟こそがアメリカのパワーの源泉であり、同盟国と力を合わせられることが他の大国にはない強みだと語ってきました。
しかしトランプ大統領はそれを理解していない。まさにトッド先生が言うように、アメリカが既に「敗北」しているからこそ現れたトランプ大統領は、歴史的に何がアメリカを強く、偉大にしてきたのかを理解せず、それゆえに、むしろ「アメリカの敗北」を加速させるような政策ばかりをとっているのではないかと思います。
■同盟国か被占領国か――ドイツ・日本・アメリカ
トッド これについては付け加えたいことがあります。同盟国という言葉を日本ではよく聞きます。日本はアメリカの同盟国だとよく聞かされました。アメリカとの関係がどういうものかを決めるのは、日本の皆さんにお任せします。
ただ、私は本の出版にともないドイツに行く機会がありましたので、そのことを話します。そこで私が気づいたのは、ドイツはもはやアメリカの同盟国ではないということです。ドイツ人たちは再び被占領国の地位に舞い戻っていたのです。再びというのは、もともとアメリカとドイツの関係、アメリカと日本の関係は同盟関係ではありませんでしたから。征服者と被征服者の関係でした。
ドイツで驚いたことがあります。私が訪問したのは、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム」が2022年9月に破壊された事件の後でした。これはアメリカが仕組んだ破壊工作です。これを見て、ドイツは独立国であることを放棄し、アメリカに占領される国に戻ったのだという印象を持ちました。
となるとドイツの新しい首都はどこだろうと考えました。冷戦時代の統一前の西ドイツの首都だったボンだろうか。統一後はベルリンに戻りましたが、実は今は米軍の空軍基地があるラムシュタインになったのではないだろうかと思ってしまいます。
さて、日本にとって、同盟国というのは適切な言葉なのでしょうか。
三牧 今のトッド先生からの問いかけに、皆さんだったらどのようにお答えになるでしょうか。
トッド先生はお優しいので、あくまで私たちへの問いかけにとどめましたが、実際には実に厳しい内容のご指摘をされたと思います。
つまり、「日本とアメリカは本当に同盟国と言えるのか?」という問いです。私たちが直視したくない現実についての非常に重たい問題提起です。
私たちは「同盟」という言葉を使うことで、実態としてはまったく対等ではないという日米関係の現実から、目を背けてきたのではないか。私はそのような問いかけだと受け止めました。そして、おそらくそのとおりという他ないと思います。
たとえば防衛費の問題。高市政権は、アメリカによるさらなる防衛費増額要求を想定した上で、バイデン・岸田政権のときに約束されたGDP比2%の防衛費の実現時期を前倒しすることで、先手を打ったと考えているようです。しかしアメリカ側は、既にNATO諸国並みの3.5%を突きつけるつもりだと言われています。2%ですら、財源の目処が立っていないのに、いまアメリカに3.5%を突きつけられたら、それに応じるのでしょうか。「より強固な日米同盟のために」と言われてしまうと、どんな無理難題も、国内への負担が大きいことでも受け入れざるを得ない、日本はそのような状況に置かれています。
国際的な場でも、日米同盟が足枷になって、自律的な判断ができていません。9月の国連総会では多くの国がパレスチナ国家承認に踏み切り、G7の中でもイギリス、フランス、カナダが承認に踏み切りました。本来日本はこの問題について、欧米とは異なる歴史や背景を持つアジアの一国として、欧米とは異なるパレスチナとの関わりを積み上げてきた平和国家として、独立した判断ができたはずなのに、日本はおそらくアメリカへの配慮もあり、承認に踏み切らなかった。
アメリカはイスラエルによる虐殺を黙認し、幇助しているだけではありません。トッド先生が著書などでも指摘されたように、イスラエルは核兵器を持っていますが、これも不問に付されている。2025年6月、イスラエルがイランの核施設を攻撃し、アメリカも続いて核施設を攻撃しました。国際法違反であり、危険な軍事行動です。
イスラエルによる攻撃があった直後、日本の石破首相(当時)は、「イラン核問題の平和的解決に向けた外交努力が継続している中、イスラエルにより軍事的な手段が用いられたことは到底許容できるものではない」と批判しました。しかしその後ほどなく開催されたG7サミットで、アメリカを中心に「核兵器開発を続けていたイランが悪い」「イスラエルの攻撃は自衛のためのものだった」との空気が形成されると、日本はイスラエル批判を封印し、G7と歩調をあわせてイランのみを批判した。
既にガザをめぐる欧米の倫理基準の「ダブルスタンダード」を見せつけられてきたグローバルサウス諸国や欧米の市民社会でも、「イスラエルは核を持っていて何ら咎められていないのに、なぜイランが核を持とうとすると攻撃されるのか」という疑念や批判が広がっています。
私たち日本も、アメリカへの依存状態によって、国際法違反が指摘されるイスラエルによるイランの核施設への先制的な軍事行動への懸念すら満足に表明できない。150を超える国々が、イスラエルになんとか圧力をかけよう、国際正義を維持しようと、パレスチナ国家承認に踏み切っても、日本はそれすらできない。
アメリカへの依存が、これほどまでに外交的な選択肢や態度表明の幅を狭めている。「同盟」という言葉は、これほどまでの従属状況を覆い隠す都合のよい言葉になっているのではないか、トッド先生からの指摘は、きわめて重たく、しかし向き合わなければならない提言だと感じます。
⇒この続きは、ぜひ『2030 来たるべき世界』を手に取ってご確認ください。
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