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企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(上)「選択」 2003年9月号
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投稿者 小耳 日時 2003 年 10 月 09 日 22:49:17:1UddCTsVwSrOw

企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(上)

――朝日生命買収の最右翼――

昨年二月、掌中にしかけた「獲物」。
生保シフトの使命を帯びた日本担当は
会長後継レースでも先頭を走る――。


「会長室の7人(左端がグリーンバーグ会長、右から3人目がケナック執行副社長、
 同2人目がサリバンCOO)」

 いつのまにかウヤムヤになってしまった。七月一日、民主党の大塚耕平参院議員が暴露した金融庁による東京海上火災保険に対する「恫喝」――朝日生命との合併を白紙に戻したら、保険業法による免許一時取り消し処分にするとちらつかせた一件である。
 大塚議員が暴露した金融庁・高木祥吉監督局長(現長官)と東京海上・森昭彦副社長の会談記録からおさらいしよう。会談は昨年一月二十一日夕に行われ、五日前に森昭治長官(現住宅金融公庫副総裁)が東京海上の樋口公啓会長に告げた「業法処分」について森副社長が問い質すところから始まる。高木局長は居丈高に言い放った。
「朝日生命とミレア保険グループを結成しておいて、一定期間付き合って人も出して相手方の内容も把握し、昨年(二〇〇一年)十一月時点で本件(合併交渉)を発表した。そこまでの間、朝日生命をよく知ったはずだ。世間に合意確率が高いと思わせておいて、一月末になってダメでしたでは世の中に対してマイナスが大きい。その結論は銀行にも響き、信用システムの崩壊につながり大変なことになる。東京海上にあるまじき軽率な経営判断だ。行政として放置するわけにはいかない」
 保険行政を混乱させたことは公益に反するから、保険業法一三三条五項を適用して免許を取り消せる――行政に盾突く奴は懲らしめて当然、という恐るべきオカミの論理である。

「官邸で手打ち」の寸前まで行く

 ミレアはもともと東京海上と日動火災の損保連合だが、そこに生保の朝日が加わる構想は金融庁の懸命の後ろ盾にもかかわらず結局、今年一月の提携解消で白紙に戻った。この会談記録も過去の水掛け論となり、もみ消された経緯はすでに報じられた。が、問題は、なぜ金融庁がこれほど焦って「伝家の宝刀」を抜こうとしたかだ。
 実は朝日買収へ動く世界最大の保険グループ、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)が影を落としていたのである。「ミレアが脱落すれば、保有契約高で国内第五位生保の朝日がAIGの手に 落ちる」という焦慮が、外資嫌いの森や高木を苛立たせ、逃げ腰の東京海上を脅しつけても国内合併につなぎとめようとしたのだ。
 この時点で、朝日の選択肢はミレアかAIGしかなかった。朝日は旧古河系だから、本来みずほを駆け込み寺とすべきだが、三行合併に合意した杉田力之第一勧業銀行頭取が、みずほ系生保として第一生命と
富国生命を選んでしまった。これで「漂流」を運命づけられた朝日は、系列を超えてミレア入りに望みを託すことになった。第一生命が朝日救済に消極的だったのはお荷物を背負う余裕がないうえ、今さら捨て子を拾うわけにもいかないからだ。みずほグループも「生保は自ら生きる道を探していただくしかない」と今も冷ややかな姿勢を変えていない。
 ミレアに見限られたとなると、受け皿は外資しか残らないが、保有契約高八十兆円規模(当時、今年三月期は六十九兆五千億円)の生保を買える候補はそうない。独アリアンツや仏アクサなど欧州勢は今や本 体の経営立て直しに躍起で、日本で買収など考える余裕はない。朝日の若原泰之会長(当時)らが推した米プルデンシャル生命も、藤田譲社長ら現執行部が若原派役員を駆逐するに及んで候補から消えた。
 そして昨年二月、AIGは朝日買収の一歩手前まで行く。首相官邸の飯島勲総理秘書官らを通じて、日本・韓国担当のドナルド・ケナック執行副社長を官邸に招き、小泉純一郎首相と握手させ、「朝日救済」を華々しく印象づけて喝采を浴びるパフォーマンスの準備が密かに進められた。が、不穏な動きに気づいた森長官が猛然と巻き返し、柳沢伯夫金融担当相(当時)を突き上げてつぶしてしまう。
 結局、朝日は「冷凍庫」入りとなった。株価が持ち直し、解約の波も小康を得ていたせいでもあるが、今年三月決算でも危篤状態は変わらなかった。保険料収入、基礎利益とも前期比三割近い大幅減、実質純資産は四〇%減、自己資本にあたるソルベンシーマージン(支払い余力)比率は三六〇%と大手で最低、S&Pの格付けではCCCマイナスと「どん底」である。
 早晩、この「ゾンビ生保」を放置できなくなるのは目に見えており、八月二十四日に施行された改正保険業法の予定利率引き下げ第一号として「私的整理」の道を歩むのか、更生特例法か保険業法の手続きを経て「公的整理」を選ぶのか、いずれにせよ、いったんお蔵入りした「AIGへの身売り」が出口に再浮上することは間違いない。
 が、AIGという「静かな巨人」の内幕は意外に知られていない。敵を知り己を知れば百戦危うからず――厚いベールに包まれたAIGを徹底分析すれば、そこに自ずと対日戦略が浮かび、朝日生命の命運も見えるはずだ。

会長のクシャミひとつで株価急落

 武田信玄ではないが、AIGの動きは常に「静かなること林の如し」。それが昨年二月、朝日買収直前で動きが鈍ったのは、AIG側にも理由があったのかもしれない。ニューヨークでAIGの株価が急落したのだ。理由は七十六歳(現在は七十八歳)の総帥、モーリス(俗称ハンク)・グリーンバーグ会長兼CEOの「健康不安」説。毎年開かれる保険アナリストとの「炉辺談話」の会を風邪でドタキャンしたからだ。
 マンハッタンに聳えるAIG本社のアールデコ調の摩天楼が、総帥のクシャミひとつで震撼させられるとは、冷戦時代のクレムリンのようだが無理もない。エンロンに端を発した企業会計不信で、GEのウェルチ前会長やシティグループのワイル会長ら一九九〇年代のエクセレント経営者が次々に「落ちた偶像」となっていくなかで、AIGは未だにトリプルAを維持、グリーンバーグは「ウォール街の伝説」であり続ける。全世界に三百部門、社員八万五千人を擁し、時価総額ではシティに次ぐ巨大金融資本。そこにたったひとりで君臨するのが彼なのだ。
 ユダヤ人創業者のコーネリアス・スターが第一次大戦直後の「魔都」上海で創業して八十五年。AIGの経営トップはまだ二代目である。グリーンバーグもユダヤ系だが、スターの縁戚ではない。早くに父を失い、ニューヨーク北部の搾乳牧場から身を起こした孤独な彼にとって、子のないスターは父代わりだったのかもしれない。
 六八年にスターからAIGの経営を任され、六九年に上場したが、以来三十五年間でこの海外専門の小さな保険会社を、地球全体を呑みこむ「保険の巨鯨《リヴァイアサン》」に大化けさせた中興の祖なのだ。取締役には前世界銀行総裁のバーバー・コナブル、元米通商代表のカーラ・ヒルズ、前米国連大使リチャード・ホルブルック、ハーバード大学教授マーティン・フェルドスタインらそうそうたる名士が並び、国際顧問にも元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー、オリックス会長宮内義彦、インドのターター財閥の総帥ラタン・ターター(本誌38〜39ページ参照)らが名を連ねている。
 グリーンバーグ在任中の年平均リターンが一七%という高収益は、年次報告書で「世界のいかなる他の保険会社よりも稼ぎ、米国の二〜十九位の損保が束になってかかっても、欧州保険会社大手が総ぐるみでも収益ではかなわない」と豪語する根拠となった。もちろん日本生命ですら連結総資産では三分の一程度と小兵に見えてしまう。
 その緻密な頭脳には、AIGの全てが詰まっている。いや、彼こそ「鋼鉄のグリップ」でAIGを隅々まで支配している帝王だ。その組織がどれほど複雑怪奇かは、本誌が入手した98〜99ページの組織図が示している。租税回避のためとはいえ、よくぞここまでと思える迷宮のような株式支配だ。
 企業統治(コーポレート・ガバナンス)なぞクソくらえ。これが米国資本主義の正体なのかもしれない。
この図はAIGを前に「隔靴掻痒」の歯軋りをしている世界の国税当局にとっては垂涎の的だろう。細字で恐縮だが、必要なら拡大コピーをお願いしたい。この半導体回路のような細密図(これでも半分にすぎない)をそっくり記憶し、思いのまま操れるのはグリーンバーグただ一人だろう。彼が万一倒れたら……と市場は空白を恐れた。
 彼は曾祖母が百八歳まで生きたという長寿の家系で、肉体はまだ五十代前半の若さを保っているという。週六日はジムで汗を流し、社有ジェット機で世界を飛び回りながら、空の上では愛犬マルチーズの「雪《スノー》玉《ボール》」が見守る前で、フィットネス用の足踏み機を踏んでいる。昼食はヘルシーなシーフード、趣味はテニスとスキーというから、楽なゴルフなど歯牙にもかけないらしい。老害とは無縁の彼に「引退」の二文字は存在せず、後継者選びなどは考えたくもない余計な戯れ言なのだ。



「ダークホース」のケナック浮上

 かつては後継候補にグリーンバーグの息子たちが有力視された。だが、「仕事の鬼」の父に耐えられなくなったのか、次々とAIGから去っていった。十七年間もAIGに勤めた長男ジェフリーは、九五年に突然執行副社長を辞め、今は最大手保険ブローカーMMC(マーシュ&マクレナン)の会長に収まってい る。
 その後は次男エヴァンがお世継ぎと目されたが、彼も二〇〇〇年に執行副社長を辞めてしまう。翌年十一月、グリーンバーグに二十一年間も仕えながら九四年に去った腹心ブライアン・デュペローが、急成長している保険大手エースの社長に次男をスカウトした。愛憎が絡むのか、グリーンバーグは「宿敵」エースについて聞かれると「それは絆《ばん》創《そう》膏《こう》かい」と鼻であしらう。
 それどころか、AIGとエースはサンフランシスコの法廷で激突した。エースは九九年にシグナ保険からINAを買収した際、保険契約の一部を子会社に移したが、巨額賠償金支払いの恐れのあるアスベスト訴訟のリスクを過小に見せる粉飾だとしてAIGに糾弾された。謹厳なる家長グリーンバーグが、袂を分かった子と腹心に振るうムチは鞭撻の域を超えて苛烈だ。
 かくてAIG会長の後継レースは振り出しに戻った。だが、さすがに健康不安説と株価急落はこたえたらしい。仕事に復帰するや、日焼けした肌を誇示し、バミューダで静養中も働いたと強がったが、保険というリスク管理の本職が、自社の危機管理――「後継不在」というリスクをなおざりにしては顔が立たない。では、誰がこの「ウォール街最強の頭脳」を継げるのか。
 グリーンバーグは昨年五月、ヒントを与えた。自分を含む七人の執行役員で構成する「会長室」(95ページの写真参照)を新設、いざという時にも予備の人材が豊富なことを示そうとした。ウォール街はこの会長室チームの顔ぶれに目を凝らし、共同COO(最高執行責任者)に指名された二人――香港駐在の中国人エドマンド・ツェー(六十五歳)とニューヨーク駐在のマーティン・サリバン(四十九歳)のうち、若いサリバンの方を本命と見た。
 だが、この七月二十三日、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のモニカ・ラングレー記者が、世界の耳目を聳動せしめる記事を書いた。本命は意外なダークホース――日本駐在のケナック(五十歳)だというのだ。彼も会長室チームに選ばれているが、米国ではほとんど無名だけに衝撃だった。
 日本にとっても他人事ではない。グリーンバーグに高く評価されたのが、〇一年の千代田生命(現AIGスター生命)買収と、この六月に発表したGEエジソン生命(旧東邦生命)買収の二大M&Aで発揮した辣腕だとすれば、後継の座を確実にするためにもケナックは朝日生命という「大きな獲物」を逃すまいと思えるからだ。
 ただ、WSJの報道によれば、グリーンバーグが渋々決めたのは、まだ後継指名の「手はず」 (arrangement)に過ぎない。この「手はず」のミソは、取締役会執行委員会の長に指名されたフランク・ザーブだという。いざというときは、ザーブが暫定会長に就き、グリーンバーグの遺言に従って後継指名の「戴冠式」を進めるのだ。
 ザーブの顔は日本でもお馴染みだ。一昨年まで米店頭市場ナスダックを運営する全米証券業協会会長として、孫正義ソフトバンク社長が鳴り物入りで大阪に誘致したナスダック・ジャパンで笑顔を振りまいていたからだ。ITバブル崩壊でナスダックは日欧から撤退、彼の戦略は無残に崩壊したが、しぶとくAIGで後見人の座を得た。
 ユダヤ人機械工の家に生まれ、ウォール街では下積みからのしあがった苦労人という境涯が似ているせいか、ザーブは今やAIG本社十九階の会長室でしばしば将来を語り合うほどグリーンバーグに信頼されているらしい。
 さて、急浮上したケナックだが、ワシントン州スポケーン生まれ、ノースカロライナ大学を出てハーバード・ロースクールを卒業、経営コンサルタントとして働いた後、エクイタブル生命保険(日本信販に売却されて現在はニコス生命)日本代表の職を得て来日した。九二年にAIGに移ったが、転職当時を知る関係者によると、ワシントンへ一時帰国、発足当初のクリントン政権で公職に就こうともしたという。
 妻は日本人の佐藤久美で、子は二男一女。彼女はマッキンゼーのコンサルタントだったが、現在はコスモPR社長である。その母は戦前の衆議院議長、故松田竹千代の三女で、日本ホームズを設立して住宅業界の「女傑」と呼ばれ、現在は生涯学習開発財団理事長の松田妙子だ。「アメリカで恋と仕事を」「私は後悔しない」など彼女の本を読んだ人も多い。ユニークな母娘に挟まれ、ケナックの日本語も上達したらしい。しかし在日米商議所会頭で日本通であっても、それで後継レースの先頭に立てるほどAIGは甘くない。


後継指名の「後見人」役となったフランク・ザーブ氏

AP/WWP


損保から生保へ戦略シフト急ぐ

なぜケナックか? そこにAIGの戦略シフトが反映している。グリーンバーグは保険の未来をはっきり透視して、リスクが高まる損保や企業保険から生保へ軸足を移そうとしているのだ。ケナックはその生保シフトの旗手。先細りの損保部門を統括するサリバンCOOよりも有利な立場と言える。
 確かに米国の訴訟社会化が進むと、アスベスト賠償やたばこ健康被害などの巨額賠償で、メーカーだけでなく保険会社も窮地に立つ。最大手だけにAIGは危機感が強い。二〇〇〇年のピーク時に比べ三〇%もAIGの株価が下がった原因は、後継問題だけでなく、そうした構造的脆さにどこまで蝕まれたかが不透明なことも絡む。膨張するデリバティブ取引(想定元本ベースで五百四十億ドル)で深手を負っているのでは、と市場も疑う。
 だからAIGはシフトを急ぐのだ。米国でも積極的に生保を買収、〇二年度決算では連結営業利益(一般保険の損失引当金二十八億ドルを除外せず)のうち、生保部門は全体の五五・九%と過半を占めた。
 だが、戦略シフトと言っても下手に高値づかみしたら、グリーンバーグが許すはずがない。ケナックは一度逃した朝日生命の魚影をどう網に追い込み、買い叩こうとしているのか――。

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