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企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(下)「選択」2003年10月号
http://www.asyura2.com/2us0310/hasan30/msg/223.html
投稿者 小耳 日時 2003 年 10 月 09 日 22:54:46:1UddCTsVwSrOw

(回答先: 企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(上)「選択」 2003年9月号 投稿者 小耳 日時 2003 年 10 月 09 日 22:49:17)

「選択」 2003年9月号
企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(上)
http://www.sentaku.co.jp/top/200309/zenbun.htm

「選択」2003年10月号
企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(下)
http://www.sentaku.co.jp/keisai/zenbun.htm

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企業研究シリーズ恐るべき保険帝国「AIG」(下)

――国益を背負う「遺伝子」――

巨額賠償責任訴訟の嵐に備え、
「敵は社内にあり」と徹底した競争原理。
その強烈な使命感の原点は――。

   

 米国経済にとって最大の脅威」とは何か。テロ? 世界最大の保険帝国でリスク管理の総本山、AIG (アメリカン・インターナショナル・グループ)の二〇〇二年度年次報告で、会長兼CEOのモーリス(俗称 ハンク)・グリーンバーグは首を横に振っている。唯一の超大国をもってしてもなお制御が困難なリスクとは、ライアビリティー・クライシス(賠償責任危機)である、と。
 九月二十二日、その深刻さを考えさせられる一枚のニュース・リリースがヒューストンから流れた。世界第二の石油開発サービス企業、ハリバートンが、その関連子会社DIIインダストリーズやケロッグ・ ブラウン&ルーツ(KBR)などの会社更生手続きを開始したというのだ。
 テキサスを本拠とするハリバートンの名は、世界の石油・天然ガス資源を握る米「オイル・マフィア」と表裏一体である。副大統領ディック・チェイニーが政権入りする前まで会長兼CEOを務め、米国のイラク侵攻も「ハリバートンの利権拡大の先兵」などと陰口を叩かれたことは記憶に新しい。

イラク復興の先兵も躓くリスク

 その背景には、九・一一テロ以降、テロリストの影を追って全世界に派遣され、ロジスティクス(兵站)まで手が回らなくなった米軍の現状がある。KBRは、その作業を肩代わりすることで台頭してきたPMC(民間軍事会社、Private Military Company)の代表格で、イラク復興でも米国防総省の最大の受注業者と言われている。
 爆破されたパイプラインの鎮火と修復から、イラク全土に展開する米兵十四万人の食料や水、武器など備品の配送まで受注は幅広い。ビジネスウィーク誌九月十五日号が特集したように、社員は戦闘要員ではないから傭兵ではないが、「戦争のアウトソーシング(外部委託)」という形の戦場の軍民分担が定着、KBRはもはや米軍と切っても切り離せない存在なのだ。
 そのKBRが躓いたのはイラクの狙撃弾ではなく、米国のアスベストの粉塵だったのである。浮かびあがるのは、米国の脅威が外でなく内にあるという皮肉な構図だ。米企業社会をアスベスト公害や珪肺症 (シリコーシス)賠償訴訟の津波が襲っている。USシリカの訴訟件数は六月末までの一年で七倍に膨れあがり、ユニオン・カーバイド、ベクテル、ファイザー、アライド・シグナル、デュポンなど有力企業が賠償請求訴訟の嵐に見舞われているのだ。
 ハリバートンも標的の一つで、DIIやKBRの作業現場でアスベストを使ったため、二十万人以上を原告とする集団訴訟を起こされた。昨年十二月十八日に原告側と四十億ドルの賠償支払いで合意に達したが、巨額の支払いは猶予中。DIIやKBRなどを再編し、イラクなどで行う政府関連事業を分離したうえで、十一月にも連邦破産法一一条を申請するという。
 アスベストだけではない。製薬会社には薬害、医療機関には医療ミスなど訴訟が急増しており、米国は「ライアビリティー・クライシス」の重圧に喘ぎ始めた。ここが稼ぎ時と弁護士たちが訴訟をあおり、バグダッドの無政府状態より恐ろしいこのアナーキーな賠償のブラックホールが、保険業界をも呑みこもうとしている。
 誰がババをつかむか。CNAフィナンシャルなどの名が挙がるが、再保険やデリバティブなど見えざるリスク分散が進む保険市場では、どこで連座するか分からない。最大手AIGも無傷でいられるとは思えないのだ。
 現にAIGは昨年、企業格付けのトリプルAが危ぶまれるや、二十八億ドルの損害保険支払準備金(引当金)を積んでひとまず格下げの芽を摘んでいる。七十八歳の総帥グリーンバーグを悩ます最大の懸念は、米国の賠償請求関連の訴訟費用が現在、国内総生産(GDP)の一・八%に達していること。二〇〇五年にはこれが二・四%に膨らみ、家計に転嫁されれば一世帯あたりの負担は現在より一千ドル重くなると試算されている。
 英エコノミスト誌の昨年三月二日号は、AIGがそうした逆風をいち早く感じとり、高収益をあげてガードを固める経営を活写してみせた。
「共通の糸は攻撃的なアプローチである。AIGは強烈な実力主義(メリットクラシー)企業として知られ、早朝出勤、深夜残業の社員だらけ。基礎賃金は安いが、ボーナスはAIG株価に連動している。だから、社員の誰もがいつ何時でも自社株価を認識しているらしい。どの部門もグリーンバーグ氏本人に年間予算を提示しなければならない。その精査ぶりは過酷なほど厳しい。管理職は出費をもっと切り詰めろと求めることで知られる」
 何かに憑かれたような「敵は社内にあり」というモーレツは、深刻な危機感の裏返しだろう。日本では八月二十九日にGEエジソン生命(AIGエジソン生命に改称予定)の全株買収完了を発表し生保収入で国内六位となったが、すでにアリコ、AIGスター生命(旧千代田生命)があるのに、頑として「AIG生保」に一本化しようとしない。大手邦銀が一時はしゃいだ「メガロマニア(誇大症)」など見向きもしないところに、独特の企業統治がある。

互いに競わせる「分割統治」経営

 この帝国は中規模ユニットの集積からなり、互いに競わせることが原則。株式支配は複雑だが、報告する上司の系列は単純で、情報も決断も最後はグリーンバーグに集中し、たった一人の頭脳が支配する「分割統治」なのだ。
 確かに企業統合に伴うタスキがけ人事やブランド統一などに、一銭たりとも無駄ガネを使わずにすむ。
重複は徹底したコスト圧縮でそぎ落とせばいい。錦糸町の本部内勤部門は今秋から賃金を三割カット、バックオフィスはコストの安い長崎に移転させ、高収益でも飽かず乾いた雑巾を絞ってみせた。厳しい要求に応えられない社員が去っても、日本の金融機関でリストラされた予備軍はいくらでもいる。
 だが、緊縮だけではない。巨艦は大きく舵を切っている。それが生保へのシフト。二〇〇一年には日本で千代田生命、米国でアメリカン・ジェネラルを買収したばかりだ。十億人以上の人口を有する「将来の生保の巨大市場」中国とインドでも布石を打つ。北京、蘇州、東莞、江門で生保営業を開始、中国内に八拠点と外資生保では他の追随を許さない最大規模となったし、インドではターター財閥と提携して十一都市に販売網を築いている。
 いかにAIGが生保シフトを優先しているかは、GEエジソンと同時並行で交渉していたスイスのチューリッヒ・ファイナンシャル・サービシズ(ZFS)傘下のチューリッヒ保険をソデにしたことでも分かる。
 ZFSは損保総収入ではアリアンツ、AIG、ミュンヘン再保険に次ぐ世界四位(フォーチュン誌)。日本では自動車保険の電話販売がソニー損保に次ぐ二位(保険料収入)と健闘しているが、ZFS本体がウィンタートゥル保険の損失で窮地に陥り、日本部門の身売りに動いた。しかし生保部門は総資産が百九十八億円しかなく、旧東邦生命を母体とするGEエジソンとは比較にならないほど小さく、AIGの食欲をそそらなかった。
 一方、めでたく輿入れできたGEエジソンも、AIGの厳しいデューディリジェンス(事前資産査定)で裸にされた。外部の投資銀行を使わず自前で調べたが、千代田生命買収時にアドバイザーだった米投資銀行ゴールドマン・サックスに不満だったからだ。
 「投資銀行に保険は分からない」と豪語しての査定は、「GEは企業ファイナンスを知らない」という結論だったらしい。GEの高収益の秘密はトリプルA格付けを利用して低利で社債を発行、調達した資金をノンバンクのGEキャピタルで高利運用して利ざやを稼ぐことにあった。社債という他人資本(負債)が元手だけに、せいぜい五、六年でリターンを稼がなければならない。果敢に企業買収・売却を繰り返したのはむしろその制約があったからで、ジャック・ウェルチ流経営とは煎じつめればこの回転商いに過ぎない。


  

ペタジーニ効果でライバルなし

 それをAIGが見抜いたのは、GEと違って他人資本に頼らず、自己資本を元手にしてきたからだろう。GEのようなスプリンターは「長距離走の保険には向かない」と突き放したようなもの。が、なぜAIGは他人資本に頼らなくていいのか。それが前号で株式支配の一端を図示した理由だが、予想通り「租税回避によって負債に頼らなくていいわけだ」と財務・国税関係者は憤り、AIGには不興を買った。
 AIGがGEエジソンを買収する利点はもうひとつある。敵の四番打者を買い取って戦力を抱え込む「ぺタジーニ効果」だ。二〇〇〇年秋に破綻した千代田生命の保険業法に基づく更生特例手続きを見ればよく分かる。
 法律家管財人団のリーダーを務めた坂井秀行弁護士は、公的資金も使わず、枯渇しかけた生命保険契約者保護機構にも頼らず、予定利率を一・五%に切り下げるという最小限の痛みでAIGへの売却に成功した。最大のミソは、交渉過程でGEと東京海上を売却候補のダークホースに仕立て、本命AIGに揺さぶりをかけたことにある。ゴールドマンですら見下す誇り高きAIGは、ホゾをかんだかもしれない。
 それから二年半、ダークホースはもういない。GEエジソンは、ぺタジーニのように金銭トレードで今やAIG傘下。朝日生命のリターンマッチがあるとしたら、坂井弁護士も「今度は同じ手を使えないでしょう」と苦笑する。
 熟柿が落ちるのを待つ@@だが、そう簡単ではない。株価回復で金融庁も「喉もと過ぎれば」となった。しかも政府内に依然、外資に警戒心を緩めない「国粋」派がいるのは事実。AIGには「歴史問題」があるからだ。英エコノミスト誌はそれをこう皮肉る。
「(AIGでは)企業インテリジェンスも高度技能と見られている。グリーンバーグ氏自身、あらゆる階層の社員に自分の会社を徹底監視せよと呼びかけている。AIGはしばしば、他社がどう動いているかについて当の企業よりも情報を持っていることがある」
 大英帝国は忘れていないのだ。戦前の上海でAIGが何だったかを。
 当時の上海は、日本赴任前のリヒャルト・ゾルゲや、共産党工作機関を率いる若き周恩来らが暗闘、茅盾の「子夜」や横光利一の「上海」が描いた陰謀渦巻く都会だった。AIGの前身の瀟洒な本社は、湾曲する黄埔江西岸の外灘にある「バンド」(黄埔灘路)十七番地に建てられ、サッスーンハウス(現和平飯店北楼)やジャーディン・マセソンなどの洋館と並んでいた。創業者コーネリアス・V・スターもまた幾つもの顔を持つ男だったのだ。
 英公文書館(PRO)や米ナショナル・アーカイブの戦時資料を丹念にたどればいい。機密指定が解けるにつれ、スターの実像が歴史の闇から浮かびあがってくる。一言で言えば「スプーク」、つまりスパイである。
 彼は「上海イブニングポスト&マーキュリー」(SEPM)など新聞も経営していたが、そこで上海の暗黒街を仕切る秘密結社「青幇」と接点を持っていたようだ。青幇の大物、杜月笙も上海最大の新聞「申報」など四紙の総支配人で、裏には国民党特務機関「軍統」(軍事委員会調査統計局)の第二処長、戴笠がいたのである。
 蒋介石の独裁を支えた戴は、杜のために新聞人らの暗殺も請け負ったと言われ「国民党のヒムラー」の異名まである。日本の特務機関との対抗上、SEPMを中心とした情報網「スター機関」も、戴・杜ラインと重複していたろう。上海陥落後、杜らは香港に逃れ、さらに重慶に脱出して汪精衛傀儡政権に対する離間工作を続けるが、スター機関は上海に残って対日地下工作の拠点となる。
 米国は漢字を使った日本の暗号を解読するため戴の「軍統」に協力を求めた。そのかたわら米情報機関OSS(戦略情報局)が中国に地歩を築こうと戴と合作所を設け、スター機関を手足に使おうとする。英国の対外情報機関SIS(通称MI6)、破壊工作機関SOE(特殊作戦執行部)も、猜疑心の強い戴と反目してスターに頼った。
 戴と米国暗号班は、日本軍航空隊の暗号を突破口に解読に成功。真珠湾攻撃も事前に察知したが、その情報が米軍中枢に伝わらず、皮肉にも「軍統」に潜入した共産党スパイを通じて延安とモスクワに先に漏れてしまう。

DNA情報データベースの攻防

 この時期のスターについては、スタンフォード大学フーバー研究所所蔵のノーウッド・オールマン文書に、OSSが「C・V・スター氏とその仲間を活用」し、亡命朝鮮人を対日工作の先兵に仕立てようとしたドラゴン計画への言及がある。最近邦訳された英ノッティンガム大学教授リチャード・オルドウィッチの「日米英諜報機関の太平洋戦争」でも彼はちらっと顔を見せる。
 スター機関は四六年の戴笠の墜死(暗殺説もある)、四八年の国民党敗退で解体、AIGも中国を追われた。米中国交回復後、中国進出に執念を見せたのは原点回帰の本能の所産だろう。現在のAIGは反日どころか親日と言っていい。が、その組織原理や規律、使命感には上海時代のDNAが宿っている。
 遺伝子技術の進歩で国益を左右するフロンティアになろうとしている生保へのシフト自体、国家の興亡をかいくぐってきたAIGならではの先手ではないか。高齢化で市場が成熟してもガン発症時期を予見できれば風景は一変し、生保は契約者のDNA情報を握る巨大なデータベースになるからだ。
 そこまでAIGが、いや、米国が先を見越しているとすれば、一国の死命を制す「国民の寿命」の基礎データを他国に渡していいのかという議論になる。日本の中堅以上の生保は身を委ねられるか。つまり、あなたの遺伝子をアメリカに覗かせてもいいか@@。
 ムーディーズは九月十九日、朝日生命の格付けをまた一段階下げ、下から四番目の「Caa2」とした。

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