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2023年5月27日05時30分 〜
記事 [政治・選挙・NHK290] 権力私物化で軍拡へ きわめて危険 この首相と一族の暴走(日刊ゲンダイ)

※2023年5月26日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大


※紙面抜粋


※2023年5月26日 日刊ゲンダイ2面

※文字起こし


権力私物化やらかし放題、この一族にも選民意識(岸田首相、裕子夫人、長男・翔太郎首相秘書官)/(C)共同通信社

 なぜ、この親子はかくまで馬脚を現してしまうのだろう。「脇が甘い」では説明がつかない。

 岸田首相の長男の翔太郎秘書官をめぐる醜聞がまた世間を騒がせている。発売中の週刊文春が報じた公邸での大ハシャギ問題だ。父親の欧米歴訪に随行し、公用車で物見遊山する2週間ほど前にもヤラカしていた。

 文春によると、暮れも押し詰まった昨年12月30日、岸田親子が暮らす公邸に親族10人以上が集って忘年会を開催。翔太郎氏が上座に座るテーブルいっぱいに寿司やケータリング料理、缶ビールなどを並べて宴に興じ、玄関ホールにある赤じゅうたんが敷かれた「西階段」に並んで記念撮影。首相が記者会見に使う演説台でポーズを決める親族もいた。海外賓客を招くスペースなども存分に使って「組閣ごっこ」「首相会見ごっこ」を楽しんでいた写真がいくつも掲載されたのである。

 首相動静によると、公邸の主である岸田はその日、マッサージを受けて午後5時46分には戻っていた。松野官房長官は25日の会見で、文春砲について「年末に親族が来訪した時のもの。首相も私的な居住スペースでの食事の場に顔を出し、あいさつしたと聞いている」と説明。その後、取材に応じた岸田は公邸での宴会を容認していたくせに、「報道されているような行為は適切さを欠くものであり、国民の不信を買うようなことであるならば誠に遺憾だ」などと、取って付けたように言っていた。岸田が顔を出した時だけは、翔太郎らが折り目正しく過ごしていたとは思えないが、「私から本人に対して厳しく注意した。緊張感を持って対応してもらいたい」と、またも更迭を否定した。

親譲りのチャランポラン

「バカな子ほど可愛い」とは言うが、あくまで私的な親子関係に限定した話だ。年間維持費に約1億6000万円が投じられる公邸は、迎賓や執務機能を備える公的施設。首相秘書官は行政の長を支える特別職の国家公務員だ。品性を疑う振る舞いが再び表沙汰になっても、親子ともどもシレッとしているのは、選民意識のなせる業なのだろう。

 政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。

「翔太郎氏をめぐる一連の騒動は、岸田家の体質を象徴しています。儒教の基本的な政治観に『修身斉家治国平天下』という実践倫理がある。意味するところは、『天下を治めるには、まず自分の行いを正しくし、次に家庭をととのえ、次に国家を治め、そして天下を平和にすべきである』。対極にあるのが岸田首相です。憲法にある通り、公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。にもかかわらず、長男を後継者にすべく要職に抜擢し、一族で公邸を私物化。護憲リベラルを掲げる自民党宏池会の会長として歩んで来た道とは真逆の方向に突っ走っている。翔太郎氏はそんな父親の背中を見て育ったのでしょう。なるほど、チャランポランなわけです」

 こんな連中が地元の広島にG7サミットを引っ張って世界のリーダーを気取り、憲法を踏みにじり、軍事大国への道を突き進む危うさに、なぜ国民は鈍感なのか。

頭にあるのは自民党改憲草案の憲法論理

 6月21日の会期末まで1カ月を切った今国会では、歴史的な増額となる防衛費を裏付ける財源確保法案を自公与党が押し通そうとしている。岸田が年末の安保関連3文書改定で安保政策を大転換し、防衛費倍増を決定したことに伴うもので、税外収入などあらゆる余り金をかき集めて貯める「防衛力強化資金」の創設が柱だ。

 岸田の思惑通りにコトが運べば、世界3位の軍事大国に躍り出るばかりか、専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力を保有することになる。財確法案は憲法の平和主義を蹂躙し、何よりも軍事を優先し、大増税に道を開こうとするトンデモない法案だ。成立を許していいわけがない。

 野党各党は防衛増税については反対で一致。衆院では立憲民主党と共産党で財務金融委員会委員長の解任決議案を、立憲単独で財務相の不信任決議案を相次いで提出して抵抗。法案採決まで約1カ月半かかり、24日に参院で審議が始まった。

「2027年度までの5年間で約43兆円の防衛費を調達するため、つまり軍費に回すための増税を一体どれほどの国民が許容できるというのか。戦争被爆地の広島で初めて開催されたG7サミットでは、期待された核廃絶に向けた取り組みは前進どころか後退し、岸田首相は核抑止力の正当化に一役買った。平和を実現するための議論ではなく、軍事支援が飛び交う詐欺的なサミットをよくも広島で挙行したものです。こんな政権が憲法改正に手をかけ、緊急事態条項を押し込まれたら、『首相大権』が現実になってしまいかねない。それほど恐ろしい内閣ですよ」(本澤二郎氏=前出)

集団的自衛権行使で正当化

 日経新聞(25日付朝刊)が〈米艦補修、日本の造船所で 戦闘用、基地外で初〉と見出しを打った1面トップ記事にも目を疑った。米国のエマニュエル駐日大使の旗振りで、在日米海軍が日本の民間造船施設で自国戦闘艦を補修する見通しだというのだ。日経によると、米海軍が日本に展開する駆逐艦、巡洋艦、揚陸艦など攻撃を主任務とする20隻強が対象。米本土で実施していた本格的な補修や分解修理などを日本が請け負い、将来的には日米共同による日本での戦闘艦製造も期待されているという。バイデン政権の中国敵視政策を下支えするため、米軍と自衛隊の一体化があの手この手で推し進められている。

 軍拡財源法のデタラメ、米艦船の民間ドック補修、防衛装備移転三原則を骨抜きにするウクライナへの自衛隊車両支援など、見過ごせない動きが一気に加速している。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。

「岸田首相は安保関連3文書に盛り込んだ内容を着実に実行しようとしている。一言で言えば、日米同盟に基づく準軍事体制の確立です。岸田首相の言動を見る限り、憲法9条は歯止めになっていない。頭の中にあるのは、自民党が2012年に発表した改憲草案に基づく憲法論理なのでしょう。だから、『国民の安全』を盾にし、集団的自衛権の行使を理由にして軍国化に突き進んでいる。防衛装備移転三原則を形骸化して殺傷能力のある武器輸出に舵を切ろうとし、ODA(政府開発援助)を軍事化させたOSA(政府安全保障能力強化支援)をひねり出したのも、同じ文脈です。岸田政権による安保政策の転換はどれも憲法違反。立憲主義をないがしろにする岸田首相の存在そのものが違憲なのです」

 スッパ抜かれた首相のドラ息子と一族のバカ丸出し写真は、権力私物化で軍拡に走る極めて危険な首相の暴走体質を浮き彫りにもしている。一事が万事。笑って済ませたら、笑えない未来が待っている。

http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/541.html

記事 [政治・選挙・NHK290] 「異次元の少子化対策」は的外れで空振り必至…国民負担増で結婚・出産意欲ますます低下(日刊ゲンダイ)

「異次元の少子化対策」は的外れで空振り必至…国民負担増で結婚・出産意欲ますます低下
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/323593
2023/05/27 日刊ゲンダイ


どれも“少子化対策”ではなく“子育て対策”じゃないか?(小倉将信少子化担当相)/(C)共同通信社

 岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の概要が見えてきた。総額3兆円規模となる。

 目玉である児童手当の拡充に1.2兆円。支給対象を高校生まで拡大し、1人あたり1万円を支給。多子世帯を支援するため、3歳から小学生の第3子以降の額も、現行の1万5000円から1人3万円へと倍増する。

 加えて、保育サービスの充実に8000億〜9000億円程度、育児休業給付など働き方改革に7000億円程度充てる。

 どれも“少子化対策”ではなく、“子育て支援”に見える。これで少子化に歯止めがかかるのか。日本総研上席主任研究員の藤波匠氏は言う。

「子育て支援は重要ですが、少子化は結婚・出産に至らない世帯が増えていることが最大の問題です。有子世帯の所得分布を見ると、低所得者が減り、中高所得者が増えています。低所得者が結婚・出産を諦める傾向が強まっているのです」

 低所得者は子どもを持てても、第2子、第3子を産むハードルは高い。第3子以降、児童手当が3万円に倍増されても、恩恵を受けるのは多子を養える高所得者だ。

「児童手当の多子加算は低所得者に恩恵が少なく、さらなる所得格差の拡大を助長しかねません。少子化に歯止めをかけるには、結婚・出産の意欲が湧くように、若い世代の賃上げや、正規雇用を増やすなど雇用を安定させることが重要です」(藤波匠氏)

保険料6000円アップは序の口


どのみち国民に大増税、その負担がのしかかるからこそ…(C)日刊ゲンダイ

 しかも、財源を捻出するため、新たな国民負担も生じる。必要な追加予算、年間3兆円(事業ベース)のうち、1兆円程度は医療保険料などの引き上げで捻出する。国民1人あたり月500円、年間6000円の負担増だ。残りの2兆円は社会保障費の歳出削減などで賄うとするが、立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏(税法)は首をかしげる。

「社会保障費は年々増え続けます。2兆円も削減する余地はありません。最終的には、税か社会保険料の引き上げで国民に負担させるのでしょう。社会保障費の中だけで議論するから、国民負担が増えたり、どこかにしわ寄せがくるのです。倍増する防衛費を含めて、予算全体で少子化対策をどうするのか議論する必要があります」

 残り2兆円も保険料に乗せられれば、月1500円、年額1万8000円の負担増だ。これではますます結婚・出産意欲は低下する。 

http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/542.html

記事 [政治・選挙・NHK290] <政界地獄耳>自公どうする 萩生田の失敗(日刊スポーツ)

※補足 2023年5月25日 日刊ゲンダイ1面


【政界地獄耳】自公どうする 萩生田の失敗
https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202305270000089.html
2023年5月27日7時43分 日刊スポーツ

★冷静に考えれば自民党政調会長で都連会長、そして次期安倍派会長有力候補・萩生田光一では公明党が納得する選挙区調整はまとめきれなかった。公明党は10増10減で選挙区が5増える東京で2つの選挙区に候補者擁立を考えていて、その1つが東京28区だったが折り合いがつかず決裂、公明党は都議会での協力関係も解消するとしており萩生田の調整力が問われている。

★うまくいかなかった28区は練馬区。萩生田とどんな縁があるのか。萩生田が公明党と決裂してまでもこだわったのは民主党公認候補だったこともある安藤高夫。八王子の総合病院の理事長だ。自民党関係者が言う。「萩生田は都連会長の立場を使い、当選する候補だからとか、いい候補がいるからとかいうよりも、立候補したい人に『俺が押し込んでやる』という感じの駆け引きに持ち込む。つまり特別に公認を出してやったからと恩着せがましくいく。当選すればもうけもの、落選しても関係ないという立場で都連管轄の調整をしていた」。今どき“昭和の政治”を東京で実践しているとは信じがたいが7区、9区、15区あたりは、党都連関係者でも首をかしげるという。公明党もこの不可思議な擁立の背後に萩生田の存在があることは承知のようで、今後は都連の公認調整は再調整になりかねない。

★東京15区は話題の「日本一予約が取りにくい」とされる都立ゴルフ場「若洲リンクス」(江東区)をめぐって、前江東区長で先ごろ亡くなった山崎孝明と息子で元都議・一輝が私物化しているといわれているが、萩生田と近いといわれ、自民党入りした柿沢未途の公認が宙に浮いているといった問題も表面化しつつある。20年続く自公関係を萩生田の利害で自民党が辞めるとはいい難く、選対委員長、幹事長はだんまりを決め込んでいるが、萩生田の失敗をどう取り繕うか。(K)※敬称略

関連記事
<公明、東京では「自民候補を推薦せず」>自公決裂の“戦犯”萩生田政調会長が頑なに…「太客」の擁立に固執し“自爆”まっしぐら(日刊ゲンダイ)
http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/525.html

http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/543.html

記事 [政治・選挙・NHK290] 昭恵夫人が“安倍後継”議員の後援会会長に就任の切実事情…選挙区喪失、比例でも冷遇の可能性(日刊ゲンダイ)

昭恵夫人が“安倍後継”議員の後援会会長に就任の切実事情…選挙区喪失、比例でも冷遇の可能性
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/323592
2023/05/27 日刊ゲンダイ


吉田真次衆院議員を全面的にバックアップしていたが…(右が、安倍昭恵元首相夫人)/(C)共同通信社

 しかし、これで公認争いに勝って「候補者」になれるのか。

 故安倍元首相の昭恵夫人が、4月の補欠選挙で当選した吉田真次衆院議員(38)の後援会長に就任する方向で最終調整に入ったことが分かった。時事通信が報じた。

 下関市議だった吉田氏は「安倍後継」として衆院山口4区補選に出馬し、初当選している。吉田氏は、昭恵夫人が担ぎだし、選挙中、昭恵夫人が全面的にバックアップしていた。街頭に立ち、選挙カーから手を振り、「主人の最後の選挙です」とマイクをにぎっていた。

 昭恵夫人が政治に深く関わるのは、夫の“弔い合戦”となった4月の補欠選挙が最後、という見方もあった。なのに、吉田後援会の会長に就任するのは、このままでは吉田氏は、次回の衆院選では選挙区から出馬できず、さらに比例でも優遇されない可能性があるからだとみられている。

 衆院小選挙区の「10増10減」の区割り変更に伴い、山口県は定数が4から3に減る。現在、山口県には1区から4区まで現職の自民党議員4人がいる。現4区で当選した吉田氏は、「新3区」をめぐって、現3区選出の林芳正外相と公認争いをすることになりそうだが、岸田派の大物である林氏に軍配が上がるのはほぼ確実。選挙区を失う可能性が高い。

比例名簿の6位にランクされる恐れ

 深刻なのは、比例でも優遇されない恐れがあることだ。

「通常、公認争いで選挙区を譲った現職議員は、比例名簿の単独1位や2位に載せられ優遇されます。ところが、次回の衆院選の中国ブロックの比例は、これまでとは事情が違います。山口県だけでなく、広島県と岡山県も減員区になったため、3人の自民党議員が比例区への転出を迫られる。さらに中国ブロックでは、優遇する必要のある自民議員が3人もいる。要するに、吉田議員は最悪、比例名簿の6位にランクされる恐れがあるということです。前回、自民党の中国ブロックの議席確保は6でした」(政界関係者)

 昭恵夫人が後援会会長に就任する効果は発揮されるのか。

http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/544.html

記事 [政治・選挙・NHK290] 全部ゼレンスキーに持って行かれたG7広島“自己満足”サミットを総括する  きっこ(まぐまぐニュース)
全部ゼレンスキーに持って行かれたG7広島“自己満足”サミットを総括する
https://www.mag2.com/p/news/576697
2023.05.25 『きっこのメルマガ』 まぐまぐニュース


自身の地元広島で開催したG7サミットを、見事政権支持率アップにつなげた岸田首相。ゼレンスキー大統領の電撃来日や各国首脳の広島平和記念資料館の視察などが大きな注目を集めましたが、はたしてこの国際会議は実のあるものだったのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、国内からG7に対して発せられたさまざまな意見を紹介。その上で、共同声明「広島ビジョン」については厳しい評価を下しています。

せいぜい2.5点。岸田の自己満足のため開かれた広島サミットの評価

広島市で開催されていた「G7広島サミット」が、3日間の日程を終え、21日、閉幕しました。取りあえず、大きなテロなどが起こらずに無事に終了したことだけは良かったですが、その評価は様々です。政権に極めて近いスタンスのメディアが諸手を挙げて「大成功!」と報じた一方で、広島の被爆者たちからは厳しい批判の声が相次いでいます。

カナダから広島市に帰郷している被爆者のサーロー節子さん(91)は、岸田首相が主導した「広島ビジョン」の核軍縮に関する声明について、「国際社会には核兵器禁止条約がありますが、声明ではひと言も触れていないので驚きました。広島に来て被爆者と会い、資料館に行って考える機会もあったのに、これまで議論されて来たようなことしか書けないのかと、失望しました」と述べました。そして、「自国の核兵器は肯定し、対立する国の核兵器だけを非難する内容の声明が、被爆地から発信したのは許されないことです」と厳しく批判し、今回のサミットを「失敗」と結論づけました。

15歳のときに被爆し、広島を訪れる修学旅行生などに被爆体験を伝える語り部を続けている広島市の切明(きりあき)千枝子さん(93)は、「核保有国を含めたG7の首脳が原爆資料館を訪れて核兵器の悲惨さを目の当たりにすることで、核廃絶の糸口になることを願っていましたが、その気配がないのが残念です。広島が利用されたのなら悲しいことです」と肩を落としました。

日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の木戸季市(すえいち)事務局長(83)は、「核廃絶を正面に据えた議論を求めて来たのに、核の傘の下で戦争を煽るような会議となってしまったことに怒りを覚えます。核兵器廃絶への希望を完全に打ち砕かれました」と厳しく批判しました。

浜住治郎事務局次長(77)は、「核兵器禁止条約には一切触れず、核の抑止力や核の傘を強調した内容には、被爆者の一人として憤っています。広島で開催した意味があったのでしょうか?」と疑問を呈しました。和田征子事務局次長(79)は、「『核なき世界を目指す』という文言だけはありますが、具体的なプロセスが一つもありません」と失望した様子で述べました。

また、被爆者ではありませんが、2017年にノーベル平和賞を受賞した「ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)」の国際運営委員をつとめる川崎哲(あきら)さん(55)が、閉幕後にメディアの取材に応じました。川崎さんは「世界の多くの指導者が原爆資料館を訪れたことは良かったが、実際の核兵器廃絶の行動が伴わないといけない。その意味では成果がなく、とても失望している」と述べました。そして、「広島ビジョン」については、「相手の核兵器は悪いが自分たちの核兵器はいい、と核保有各国が言っている限り、起きることは核軍拡競争であり、最終的にはわれわれ全員の破滅だ」と厳しく批判しました。

ゼレンスキーを支持率稼ぎに利用した岸田の強か

…そんなわけで、リモート参加の予定だったウクライナのゼレンスキー大統領の訪日によって、完全に主役の座を奪われてしまった岸田文雄首相でしたが、岸田首相も十分にゼレンスキー大統領を支持率稼ぎに利用できたと思います。それは、岸田首相らしからぬ強気の発言の数々から伝わって来ました。

議長の岸田首相は、「G7とウクライナの揺るぎない連帯を示すとともに、法の支配に基ずく自由で開かれた国際秩序を守り抜く決意を新たにするとのメッセージを力強く示せた」などと、ウクライナとの連携、つまり、ロシアとの対決姿勢を強調したのです。閉幕後の会見でも、「対ロシア制裁を維持・強化し、その効果を確かなものとするために、(ロシアによる)制裁の回避・迂回防止に向けて取り組みを強化していく」と、ロシアを名指しで敵対視しました。しかし、本当にこれで良かったのでしょうか?

ゼレンスキー大統領としては、G7の強い援護射撃を再確認できただけでなく、バイデン大統領から「EUの同盟国からのF16戦闘機の供与を容認する」という言質が取れたのですから、これだけでも大成功でした。その上、グローバル・サウスを束ねるインドのモディ首相と対面できたのですから、これも棚ボタです。

ロシアとのパイプも大切にしているモディ首相ですから、「紛争の解決方法を見出すために協力する」、つまり、「ウクライナの味方をする」ではなく、あくまでも「和平の仲介に寄与する」と述べただけですが、G7という場がなければ実現できなかった対面ですから、これは大きいです。

ま、インドの外交は、ヒンドゥー教の最高神シヴァの三面神のように、1つの顔はアメリカや日本を始めとした西側諸国の方を向きながら、別の顔はロシアの方を向いており、3つめの顔が周辺のグローバル・サウスに向いているのです。これが一番賢いやり方でしょう。

しかし、G7以外の招待国がどのように動こうとも、主役はG7であり、所詮は「西側諸国の西側諸国による西側諸国のためのサミット」なのです。議論は西側諸国の利益を最優先したシナリオに沿って進められ、その結果、「休戦や和平のための橋渡し」を模索したのではなく、ロシアを名指しで煽って火に油を注いだのです。「ドラクエ4」の作戦コマンドで言えば、「いのちだいじに」ではなく「ガンガンいこうぜ」を選択したわけです。そして、岸田首相が掲げた「核なき世界」というご立派なお題目とは、完全に正反対の方向へ進んでしまったのです。

2016年5月の「G7伊勢志摩サミット」の時、当時のバラク・オバマ大統領は、現職のアメリカ大統領として、初めて被爆地の広島を訪問し、広島平和記念資料館などを視察しました。そして「歴史的な出来事」だと報じられました。しかし、オバマ大統領が広島平和記念資料館に滞在したのは僅か10分だけ。それも、東館の「導入展示」を見ただけで、本館の「被爆の実相展示」は見なかったのです。

しかし今回は、イギリスのスナク首相が、3歳で原爆の犠牲になった鉄谷伸一ちゃんの焼けた三輪車やボロボロになった学生服などを見たと明かし、「ここで起きたことを忘れてはならない」と述べました。これは本館の「被爆の実相展示」なので、今回の各国首脳らは、本館へも足を運んだようです。この点だけは、表面を取り繕うだけの安倍晋三元首相とは違い、きちんと仕事をした岸田首相を評価したいと思います。

ただし、「被爆の実相展示」を見たのに、それでも核軍縮への具体的な道筋を示せなかったどころか、自分たちの核だけを正当化してロシアを挑発する始末。絶対に逆らえないバイデン大統領がいるだけでなく、ゼレンスキー大統領の訪日で舞い上がっちゃったのかもしれませんが、今回、終始コーフン気味の岸田首相を見ていたら、ジャイアンの後ろに隠れて相手にケンカを売るスネ夫の姿が重なりました。

西側以外には「寝言」でしかないG7共同声明「広島ビジョン」

…というわけで、評価が様々な今回の「G7広島サミット」ですが、閉幕翌日の5月22日(月)のTBSラジオ『スタンバイ!』の「トーク・ファイル」は、「G7サミット、5段階で評価してください」というテーマだったので、その結果を紹介したいと思います。

森本毅郎さん 「たくさんメールをいただきましたが、結果から言っちゃいますと、5点満点が4%、4点が15%、3点が30%、2点が36%、1点が15%、平均すると2.55点でした。けっこう手厳しいですね。それでは、いただいたメールを紹介していきます」

横浜市の田中さん70代の女性 「4点ですかね。結局は全部、ゼレンスキーさんが持って行った感じですが、演出は上手だった。出迎えの場面、記念植樹、記念撮影の場所、かなりの費用を使っての選挙運動に見えましたけどね」

埼玉県の宮園さん66歳 「1点ですね。核なき世界という言葉とはかけ離れた宣言でした。ロシアは核を使ってはダメ、でも私たちは脅し続けるために核を持つよ、だってそれが現実だもん。原爆資料館を見学したというのに、こんな結論でいいんですか?広島をうまく利用しましたね、岸田さん。広島市民の怒りが分かりますよ」

三鷹市の76歳の男性 「非常に残念な結果だと思います。5段階の評価なら、せいぜい2点ですね。ロシアや中国に対して、結束して対抗することばかりが全面的に打ち出され、ウクライナ戦争の終結や核兵器廃絶への具体的な道筋については議論もされず、何も打ち出されませんでした」

匿名希望の方 「開催できたことで3点。見栄えのいい映像がいっぱい撮れたし、皆さん、満足できたんじゃないんですか?広島を自己満足のために利用し尽くしたこと、(G7の)存在意義が失われてしまう可能性まで残したことが減点だと思います」

…そんなわけで、結局のところ、ロシアによる核の威嚇を徹底的に批判しつつ、自分たちの核保有は世界平和のための大切な抑止力だと公言した今回のG7共同声明「広島ビジョン」は、西側諸国という団地の中だけでしか通用しないゴミ出しのルールであって、この団地に住んでいない人たちの耳には、単なる「寝言」にしか聞こえなかったことでしょう。

プーチン大統領と習近平主席も招待して、世界のステージの上でバイデン大統領やゼレンスキー大統領と握手でもさせていたら、いつも辛口なあたしでも岸田首相に5点をつけてあげたのに…なんて思いました。

(『きっこのメルマガ』2023年5月24日号より一部抜粋・文中敬称略)

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http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/545.html

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5月の東京消費者物価指数でインフレ加速が鮮明…「減速したとの評価は大間違い」と専門家(日刊ゲンダイ)

http://www.asyura2.com/23/hasan136/msg/179.html



http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/546.html
記事 [政治・選挙・NHK290] 立憲の腰砕け。野党第一党が聞いて呆れる「岸田軍拡」擦り寄り姿勢の醜態  高野孟(まぐまぐニュース)
立憲の腰砕け。野党第一党が聞いて呆れる「岸田軍拡」擦り寄り姿勢の醜態
https://www.mag2.com/p/news/576524
2023.05.23 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース


先日報道各社により行われた世論調査で、「自民党の補完勢力」と揶揄される日本維新の会に支持率を逆転された立憲民主党。しかし今や彼らこそが、補完勢力への道筋を辿っていると言っても過言ではないようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、岸田政権の軍拡路線に対決する気もないかのような立憲民主党の存在意義を疑問視。むしろ自民党に擦り寄るかの姿勢を見せる野党第一党を厳しく批判しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年5月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

存在意義ナシ。岸田の大軍拡と対決できぬ立民党の体たらく

5月11日に立憲民主党内の旧赤松広隆グループ「サンクチュアリ」の勉強会で講演した。時間の関係で省略した部分を含め若干増補しつつ以下に再現する。

米誌『タイム』報道でも明らか。日本は世界からどう見られているか>

岸田政権は未曾有の大軍拡に向かおうとしている。単に軍事費が今の1.5倍に膨れ上がるという量的な拡大にとどまらず、その予算を用いて「反撃能力」といいながら実は「敵基地先制攻撃能力」を取得し、「専守防衛」原理を葬り去るという質的な転換に進もうとしているという意味で、まさに大軍拡なのである。米誌『タイム』が近々発売の5月22日号のカバー・ストーリーに岸田を取り上げ「日本の選択/首相は数十年来の平和主義を捨て、自国を真の軍事大国にすることを望む」という標題と前書きを付ける予定であることが報じられた。〔後に外務省が抗議し、若干表現が和らげられたものの〕世界から見れば今の日本がそう見えているのは疑いのない客観的な事実であるのに、日本国民だけが何の危機感も持たずにボーっとしているし、国会でも維新を除く全野党が公明党をも引き込んでこれと対決する戦線を張らなければならないという時にその気配さえ見えない。

他国へのミサイル攻撃を容認するかの姿勢を示す立憲民主党

とりわけ問題なのは、野党第一党=立憲民主党が、他国領域へのミサイル攻撃を容認するかの姿勢を示していることである。同党の外務・安保戦略PTは22年12月20日に、政府・与党の安保3文書の閣議決定を受けてそれに対する見解「外交安保戦略の方向性」を打ち出した。この日の会合には、いわゆる左派系の議員も多く押しかけて大いに議論を仕掛け文言の修正を図ったと聞いているが、出来上がったものを読むと、びっくり仰天せざるを得ない。

まず、自民党が「敵基地攻撃能力」を途中から「反撃能力」と言い換えるようになったのは、敵基地攻撃能力では「先制」攻撃をするかの印象を与えるのを避けるためだったが、野党としてはこのような言葉遊びによる本質隠しを暴き、実際には「敵基地先制攻撃能力」であることを正しく指摘することから議論を始めなければならない。が、同党は「反撃能力」の言葉を当然であるかに認めてしまっている。これが《腰砕けその1》である。

次に、「反撃能力の行使は専守防衛を逸脱する可能性があるので賛同できない」と言っている。これを正しい日本語で書けば「反撃能力の行使はもちろん保有も専守防衛を逸脱するので反対する」となるはずである。「反撃能力の行使は」という言い方は「保有するのは仕方がない」という前提に立ってその「行使」の仕方だけを問題にしているように聞こえる《腰砕けその2》。

さらに、「専守防衛を逸脱する可能性があるので」というのは特に欺瞞に満ちた文章で、これでは「反撃能力の行使に専守防衛を逸脱する可能性がある場合とそうでない場合とがあるので、前者の場合は賛同できないが、後者の場合は賛同する」という意味になる《腰砕けその3》。

島嶼防衛のためならば必要のないミサイルの長距離化

文書はまた、「一方で、……我が国島嶼部などへの軍事的侵攻を抑止し、排除するためのミサイルの長射程化などミサイル能力の向上は必要である」と言っている。自民党が「ミサイル能力の長射程化」を目論んでいるのは、次項でも明らかなように、「敵基地」を含む「他国領域」をミサイル攻撃したいがためである。それに対してこの文書は、「島嶼部への侵攻を抑止し排除する」、すなわち専守防衛的な使い方のためであればミサイル能力の長距離化は賛成だと言っている。しかし、島嶼防衛のためであればミサイルの長距離化は特に必要がない。この訳の分からぬ文章は、専守防衛のためと称してミサイル能力の長距離化を図ろうとする自民党の誤魔化しに寄り添っているだけである《腰砕けその4》。

それに続くのは「しかし、他国領域へのミサイル打撃力の保有については、それが政策的な必要性と合理性を満たし、憲法に基づく専守防衛と適合するものでなければならない」というものである。これも以上と同じ虚偽レトリックで、「他国領域へのミサイル打撃力の保有」には、「政策的な必要性と合理性を満たし、憲法に基づく専守防衛と適合するもの」とそうでないものとがあり、前者には反対するが、後者には賛成するという意味である。「専守防衛と適合する他国領域へのミサイル攻撃」などというものがあるとすればどういうものなのか、是非とも教えていただきたいものである《腰砕けその5》。

これはもう、腰痛でも深刻な腰椎多重変性すべり症を患っているような有様である。

「武器輸出3原則」見直しの扉をこじ開けた野田政権

外務・安保戦略PTの文書はまた、こう言っている。「真に必要な予算について積み上げた結果、防衛費の一定の増額につながったとしても理解できる」「しかし、GDP比2%や5年で2倍という増額目標については、最初から数字ありきにすぎず合理性に欠ける」「政府が防衛費のベースを大幅に上げるのであれば、恒久財源を充てるのが財政規律上、当然である」と。

これ、一体何のことか分かりますか。まず、防衛費の増額は理解する。しかしその増額は、いきなり「2%、2倍」と中身抜きで大枠の数字から決め込むのはダメで、「一定」でなければならない。しからば「一定」とはどのくらいのことなのか。

その次の一文は謎めいていて、「立憲としては『一定』で止めるべきだと思うが、それでも政府が……大幅に上げるのであれば」と、仮定の話のような言い方で、しかしそれに反対するのではなく、仕方なく(?)容認し、ただしその財源は「恒久財源を充てるのが当然」と条件を付けているだけである。

さらに「防衛産業の衰退が顕著なので、国内調達比率の増加、長期安定契約など調達のあり方と適正価格のあり方の検討、研究開発費の支援を行うなどすべきである」とも言っている。自民党は武器禁輸3原則を改めて殺傷兵器の輸出を解禁しようとしているが、防衛産業を救済しようとすれば国内需要だけではどうにもならず、必ずそこへ辿り着く。立憲はそれに反対する姿勢を持っているのかどうか。昔、同盟傘下の金属労組が「武器輸出を解禁して賃上げを」という春闘スローガンを掲げて世間を驚かせたことがあるが、その体質を受け継いでいる連合労組がこう言い出したら立憲は拒めないのではないか。

ちなみに、佐藤・三木内閣以来の「武器輸出3原則」見直しの扉をこじ開けたのは、他ならぬ野田政権である。2011年12月に当時の藤村修官房長官が「包括的な例外協定」を結ぶことで武器輸出を事実上解禁する案を発表、それを受けて安倍政権が14年4月、同3原則を廃止しそれに代わる「防衛装備移転3原則」を閣議決定した。

自民党の「抑止力」という罠に見事に嵌った立憲民主党

野党第一党がこういう腑抜けのようなことになってしまう原因の第1は、自民党側が仕掛けた「抑止力」という罠に見事に嵌ってしまっているからである。実際、先日、同党の幹部と懇談した際に、私がなぜ同党の防衛政策がどんどん曖昧化しているのかという趣旨のことを問うと、彼は即座に「いや一定の抑止力は必要だから」と答えた。さあ、ここでもまた「一定」だ。一定とはどのくらいなのか?それには答えがなかった。それは当然で、軍事的抑止力には「一定」などあるはずがない。それはお互いに相手を軍備で脅し合い、より深く疑心暗鬼に陥った側が侵略を躊躇うようになるかもしれないと想定する心理ゲームであるから、どこまでやったら相手は必ず折れてくるという基準はない。だから必ず際限のない軍拡競争に陥るのである。

一般論としてそうである上に、法理的に言っても「武力による威嚇」は国連憲章でも日本国憲法でも禁じられている違法・違憲行為である。そのどちらでも「武力による威嚇または武力の行使」と言われているように、行使可能な武力でなければ威嚇にならないし、また威嚇するつもりが相手の予想外の反応によって偶発的な戦闘に発展する可能性も大いにあって、両者の間に垣根がないので、両者はワンセットで禁止されているのである。こんなことは国際法と憲法の理解の初歩の初歩だと思われるが、「抑止力」と言われるとそんなことは頭からスッポ抜けて、野党第一党の幹部も「あ、一定程度は必要ですね」と口走ってしまうのである。

しかし抑止力は軍事的ばかりとは限らない。蟻川恒正=日本大学教授は「憲法9条の『陸海空その他の戦力はこれを保持しない』という規範は、日本が武力行使以外の選択肢を考え抜く知性を鍛えてきた。……軍事化への道を封じたからには、政治や外交で局面を打開する方法を決死の覚悟で探し出さなければならない」と指摘している(5月4日付朝日)。

その通りで、リベラルな野党第一党は自民党に対して、抑止力と言えば軍拡による相手へ威嚇という無効で不法な手段しか思い浮かばないことの愚を説くのでなければならない。そしてそれに説得力を持たせるには、まさに政治的・外交的、経済的、文化的等々の軍事的以外のすべての抑止力を総動員して局面の打開を成し遂げるための「知性」と「決死の覚悟」を発揮しなければならない。なのに、自民党から「抑止力は必要だ」と言われて「あ、そうですね、一定程度なら」と言っているようでは、野党第一党として全くの役立たずということになる。

以上に関連して、野党第一党の腑抜けの原因の第2は、米日好戦派から繰り出されてくる「中国脅威論」「台湾有事切迫論」の心理操作に対して、この党が戦えないどころか、完全に巻き込まれてしまっていることにあるが、これは話せば長いことになるので、今日は省略し別の機会に譲ることとする。

自民党の補完勢力になり下がりながら衰退していく立憲民主党

野党第一党の腑抜けの原因の第3は、この党がなかなか抜け出ることができない「中道」という幻想にある。上に引用した文書を作った責任者である玄葉光一郎=元外相は、「安全保障政策はもう少し中道に寄る必要がある。少数だが国際情勢に関する現状認識が甘すぎる人が党内にいることは事実だ」と語っている(3月23日付朝日)。

しかし私に言わせれば、「中道」という言葉自体がすでに死語である。なぜなら、世界が西と東の両陣営に分かれて激しく対立した冷戦時代には、国内政治もまたそれを反映して右と左、保守と革新に分かれてイデオロギー的な対立に終始した。その時代には、左右とも両極端に偏りがちで、現実的な諸問題を解決するための建設的な対話さえろくに成り立たない有様だったので、その両者を批判する「中道」という位置どりがありえ、日本の場合それは例えば旧民社党だった。しかし、左右があればこその中道というのは、自らの確固たる立脚点を持たない浮遊的な中点にすぎず、せいぜいが足して二で割る折衷主義。結局のところは自民党の補完勢力になり下がりながら衰退していくしかなかった。今頃になって「中道」だなどと言っている立憲は、旧民社党化の道筋を辿っているのだと言える。

旧民主党の結党に関わった人間たちの思い

冷戦時代が終わって、1990年代以降は「日本政治でも、右と左でなく、保守とリベラルという対立構図が語られることが多くなった」と宇野重規は『日本の保守とリベラル』(中央公論新社、23年刊)で述べている。

保守もリベラルも、時代によって国・地域によって、さらには論者によっても意味やニュアンスが様々で、簡単に定義するのは難しい。しかも、「保守とリベラルは次元の異なる話で、必ずしも対にならない」と宇野が言うのはその通りで、その証拠に、「小日本主義」を掲げた石橋湛山やその継承者とも言える自民党内の宏池会などは「保守リベラル」と呼ばれたりしてきた。にも関わらず、冷戦が終わり社会主義体制が崩壊、国内でも社会党を中心とする「革新」イメージが後退すると「それに代わる政治的ラベルとして『リベラル』が復権することになった」(宇野)。

1993年の細川護煕政権(日本新党、新生党、さきがけ、公明党、社会党、民社党、社民連)、94年の羽田孜政権(社会党とさきがけが閣外へ)と村山富市政権(自民、社会、さきがけ)、95年の新進党結成と96年の民主党結成などが「革新に代わるリベラル」が台頭する動きとして大雑把にくくられた。とはいえ、新進党は「新保守」を自認し旧保守=自民党との保守2大政党制を目指すかのようなことを言い、「リベラル」という対抗軸を立てるという自覚はなかった。そのことに批判的だった(1)それこそ保守リベラル的なさきがけの中の鳩山由起夫を筆頭とする一団、(2)社民党系の横道孝弘=元北海道知事はじめ山花貞夫=元委員長や赤松広隆=前書記長、団塊世代中心の仙谷由人らニューウェーブの会のメンバー、(3)社民連の江田五月と菅直人、(4)日本新党でありながら新進党に合流しなかった海江田万里――といった人々が、保守に対抗するのはリベラルだという思いから結成したのが96年民主党だった。

この結成過程に理念・政策面から関与した私は、〔保守リベラル+社民リベラル+市民リベラル=民主リベラル→民主党〕という図柄を描いて、「リベラルにも色々あるが、それらが大きく合流して自民党に拮抗しようというのが民主党で、これが出来て一定の力を持ち始めると、『新保守』という曖昧理念しか持たない新進党は必ず分裂して、その中の良質部分はこちらに合流してくるだろう」と見通しを語っていた。

見当違いで方向音痴の立憲民主党の末路

それでも、当時は「リベラル」という言葉の意味はよく理解されず、取材に来る記者たちの多くは「革新」の衣替えにすぎないと推測していた。欧州社民の「第3の道」模索などを例に出して、地球的な環境問題とか成熟社会ゆえのジェンダー問題とかを重視するので、旧来の社会主義派だけでなく保守の一部や市民運動とも共通基盤が出来るんだといった説明をしたこともあるが、そういう説明の仕方も我ながらまだるっこしくなって、途中からは、日本語で言うと、要するに、「明治以来の国権vs民権の原理的戦いで、ついに民権が勝利して『百年目の大転換』を成し遂げる」ということだと言うようになった。そして、民主党結成前夜に参加表明した全国会議員・候補者・秘書を都内ホテルに集めて行われた政策議論では、その「大転換」のイメージを図に描いて配布し、討論の素材とした(図1)。

歴史の教科書では、薩長中心の維新が成功して藩閥政府が出来、たちまちのうちに「大日本帝国主義」に突き進んで破滅し、しかし戦後もまた大日本経済主義で成功して……という国権側からの勝利の歴史が描かれているが、実はこの図の裏側には、保守リベラル的な公武合体&開国論や民衆リベラル的な植木枝盛らの自由民権運動、中江兆民の「民約論」と小日本主義、美濃部達吉の「天皇機関説」、北一輝の社会主義、吉野作造の民本主義=社会民主主義、石橋湛山の「小日本主義」、鈴木義男の平和憲法草案など、民権主義の連綿たる歴史があった。戦後の「保守vs革新」図式はその国権vs民権の歴史の或る時期の姿であり、その「革新」が意味を失ったという場合に改めてこの時代における「民権」をどう表現するかということになって「リベラル」という言葉の包摂性が選ばれたということなのだろう。

それで、96年民主党の理念文書には、次のような「国権」と「民権」を対照する文章を盛り込んだ。

        《国権》←→《民権》
     官僚主導による←→市民主体による
      強制と保護の←→自立と共生の
   上からの民主主義と←→下からの民主主義と
  中央集権垂直統合型の←→多極分散水平協働型の
   国家中心システムは←→市民中心社会のシステムを
すでに歴史的役割を終えた←→築き上げなければならない

大日本主義から小日本主義へ、中央集権国家から地域主権社会へ、脱亜入欧から脱米入亜へなどの根本的な転換がここから発するのである。

話がだいぶ遠回りしたが、右と左の間には〔善かれ悪しかれ〕中道がありえた。しかし保守とリベラルの間には中道などというものはありえない。リベラルは徹底的に民権主義を追求することを通じて無関心層や無党派層を惹きつけなければならないが、その努力方向を「中道」と呼ぶのは見当違いの方向音痴である。ないものをあると錯覚してそちらに寄っていくと、あるはずの限界を知らず知らずに通り越して自民党に擦り寄って行ってしまうのは当然の成り行きなのである。

今回の立憲の外交安保文書はそのことを示している。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年5月22日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/547.html

記事 [政治・選挙・NHK290] マイナ保険証に反対署名67万筆 トラブル続出「メリットどころか」(個人情報国家管理の問題は?)
「名前と住所だけだから問題ない」などと言いつつ、個人の情報すべてが国家管理に晒されるのが「国民背番号制」。その証としての「マイナンバーカード」。一応民主主義を掲げる政府は「選択しない自由」を歌うが。健康保険を受けられなければいざと言うとき命にかかわる。メリットがあると言いつつあまりに好い加減な管理が明らかになった今、もう一度個人情報をカード管理する意味を問い直すべきでないか。
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マイナ保険証に反対署名67万筆 トラブル続出「メリットどころか」
https://www.asahi.com/articles/ASR5L5VF2R5LUTIL02S.html
後藤遼太2023年5月18日 18時14分

*会見で話す荻原博子さん=2023年5月18日、東京・永田町の衆院第2議員会館 https://imgopt.asahi.com/ogp/AS20230518003088_comm.jpg

 いまの健康保険証を廃止して、マイナンバーカードに統一するための関連法案に対し、反対の声が異例の広がりを見せている。頻発するマイナカードのトラブルも背景にあるようだ。

 医師らでつくる全国保険医団体連合会(保団連)などが18日、東京・永田町の議員会館で会見し、ネットなどで計約67万人分の反対署名を集めたと明らかにした。関係省庁に提出するという。

●「弱い人ほど、社会保障からこぼれ落ちる」
 会見では、経済ジャーナリストの荻原博子さんが「介護を受ける人や障害のある人など、マイナカードの申請や管理が難しい人がいる。保険証が廃止されてマイナ保険証に一本化されたら、蚊帳の外に置かれてしまう。弱い人ほど、社会保障からこぼれ落ちる」と指摘した。

 障害者団体の家平悟さんは「介護施設がカードや暗証番号まで管理するのは、リスクが大きく難しい。そうなると、結局は障害者や高齢者が置き去りにされ、無保険にならざるをえないという状況だ」と話した。

●本人とは違う情報、7千件以上
 マイナンバーカードのトラブルは、今年に入って相次いでいる。

 マイナ保険証に他人の情報がひもづけられたりしていた事例が全国で発生。厚生労働省によると、本人とは違う情報が登録されていた問題が、7千件以上起きていた。

●署名、トラブルを受けて伸びる
 保団連の住江憲勇会長は「誤登録は氷山の一角では」と疑問を呈した。誤登録やマイナカードを使ったコンビニの証明書サービスの誤交付が今年になって相次いで明らかになり、署名数が伸びたという。

 オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で今年3月に始まった署名には、およそ2カ月で13万筆以上が集まった。サイトの広報担当は「10万超えは、東京五輪反対の時などごく一部だ」と話す。

 署名の賛同者からは「トラブルの連続。メリットどころか不安ばかりだ」「現在なんの問題もない保険証を廃止するとは愚策」といった声が寄せられている。

 政府は「マイナンバーカード1枚で様々なことができる社会」を将来像に掲げる。保険証を廃止してマイナ保険証に一本化する動きもその一環だ。現在、関連法案の国会審議が進んでいる。(後藤遼太)
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http://www.asyura2.com/23/senkyo290/msg/548.html
記事 [政治・選挙・NHK290] 長周新聞 > 記事一覧 > 政治経済 > 世界でも問題続出の個人情報一元化 管理能力なし、責任は現場へ マイナンバー保険証導入で7000件の別人情報紐付け 世界でも問題続出の個人情報一元化 管理能力なし、責任は現場へ マイナンバー保険証導入で7000件の別人情報紐付け
登録すれば2万円分貰える、との餌につられて、国民の8割が登録したという国民背番号こと「マイナンバー」カード。国が個人情報を一括管理すれば、いろいろ取りこぼしが無くなり良い事ばかりのような報道が目立つが。先に実施した国で失敗した例は、地デジ大マスゴミであまり報じられていない。
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世界でも問題続出の個人情報一元化 管理能力なし、責任は現場へ マイナンバー保険証導入で7000件の別人情報紐付け
政治経済2023年5月26日
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/26639

 マイナンバーカードの利活用拡大を図る改定マイナンバー法案が4月27日に衆院本会議で可決され、政府は、紙の保険証を廃止しマイナ保険証への移行、年金受給者を皮切りにした「公金口座との紐づけ」などを開始しようとしている。医療機関で今年4月からマイナ保険証への対応が義務化されて対応を開始した矢先、マイナカードで別人の住民票が発行されるトラブルや、マイナ保険証に別人の情報が紐づけされる事例が7000件超発生していることがあいついで発覚するなど、個人情報を収集するだけで保護する体制はきわめて脆弱であることが明らかになっている。海外でも類似の制度を導入した後、国民の反発によって廃止したり、情報流出・なりすまし被害が深刻化している実態がある。海外のマイナンバー事情とともに問題点を見てみた。

■     ■
*マイナンバーカードの見本  https://www.chosyu-journal.jp/wp-content/uploads/2023/05/07aa2d0bf25c28a6b3219d93ad3f8a18-400x251.jpg 

 日本でマイナンバー制度が始まったのは2016年1月。今から7年前のことだ。1968年、佐藤政府の時代に「国民総背番号制」の導入が検討されて以降、同制度の導入は何度も頓挫。途上で導入された住基ネットも失敗(普及率はわずか5%だったといわれる)しており、マイナンバー制度の導入はじつに50年近い歳月を費やして政府の悲願を叶えたものだった。しかし同年にICチップ入りのマイナンバーカードの発行を開始し、さまざまな普及策をとってもなかなかカードを取得する人は増えなかった。なぜなら国民にはとくに必要なかったからだ。2020年4月時点でカードの普及率は約16%と低調そのものだった。

 この状況に業を煮やした安倍政府は、2019年にマイナンバーカードを健康保険証として使えるようにする健康保険法改定案、行政手続きでカードを利用する場面を増やす「デジタル・ファースト」法案、戸籍とマイナンバーを紐づける戸籍法改定案を立て続けに通し、国民がカードを持たざるを得ない状況をつくり出してきた。

 そこにコロナ禍が到来。政府は緊急事態をも利用して「10万円給付がオンラインで申請できる」などと宣伝し、カード普及率を上げようとした。この政府の施策は、コロナ禍という非常事態への対処に追われる地方自治体の窓口にカード申請者が殺到する「密」状況を生み出し、自治体側は「郵送申請の方が早い」と呼びかけたり、カードの申請を停止するなどの対処をとらざるを得なくなった。「行政の効率化」といいながら政府の願望が先行し、現場に混乱を生み出した典型的な事例だ。だがそれでも懲りずに「給付に時間がかかったのはマイナンバーカードの普及率が低かったからだ」といい、現在、全国民に持たせるための目玉施策である紙の健康保険証の廃止や、マイナンバーカードの利用範囲を閣議決定だけで拡大できるようにする法案を成立させようとしている。

●トラブル増で信頼失墜 整わぬ管理体制

 ポイント還元策に次いで昨年10月に紙の保険証廃止の方針がうち出されたことは、カード取得に拍車をかけており、2023年5月14日時点で普及率は約77%と急激に取得者が増加している。そのなかで続々と発覚しているトラブルとその対応は、日本政府が国民の膨大な個人情報や機微情報を保護し、管理する能力を有していないことを浮き彫りにしている。

 まず発覚したのがコンビニで証明書を受けとれるサービスでのトラブルだ。「市役所まで行かなくても住民票などを取得できて便利」というのが宣伝文句だったが、別人の住民票や印鑑証明書が発行される事例が、横浜市、東京都足立区、川崎市、徳島市でのべ14件確認された。システムを提供している富士通Japanにシステムの一時停止と再点検を要請する事態となり、このシステムを使う約200自治体に影響が拡大した。本人確認証として最も信用度が高いはずの公的証明書で別人のものが発行されたのだから致命的だ。

 続いてマイナ保険証に別人の情報が紐づけされたケースが7312件(2021年10月~2022年11月)あることが判明し、このうち医療機関でマイナ保険証を使用したさいや「マイナポータル」にアクセスしたさいに医療情報が他者に閲覧されていたケースが少なくとも5件あることが明らかになった。

*マイナカードへの対応が義務づけられたものの対応できない医療機関も多い。写真は未対応の医療機関に掲示されているポスター https://www.chosyu-journal.jp/wp-content/uploads/2023/05/2071c02ff4453949bcea155a37ed6a26-445x600.jpg

 マイナ保険証をめぐっては、政府が昨年10月に2024年秋までに紙の健康保険証を廃止する方針を示してから急ピッチで準備が進められ、医療現場が対応する期間もほとんどないまま今年4月にマイナ保険証への対応が義務化された。「紙の保険証の廃止」という施策は、マイナカードをつくらない人が医療から排除されるという大問題を抱えている。同時に医療機関など現場がもっとも懸念しているのは、こうした情報漏洩などのトラブルだ。

 医療機関には患者の情報を漏洩してはならないという守秘義務がある一方で、患者が来院するたびに医療情報が紐づけされたマイナ保険証を持参するのが日常になる。高齢者などで危険性を認識していない患者も多いなか、「カードを院内で紛失したときにどう対処するか」「高齢者が暗証番号やマイナンバーをスタッフに伝えてしまった場合はどうするのか」「カードリーダーやシステムの不具合で本人確認できないときは窓口で10割負担を求めるのか」「介護施設や高齢者の長期入院の場合、緊急対応のために保険証を預かっていたが、マイナ保険証は情報が多すぎて預かることができない」など、さまざまな疑問や不安がある。しかし、政府から方針が示されることはなく、すべて現場任せだ。

 今回発覚したトラブルにさいしても、「富士通が悪い!」「健康保険組合が入力ミスをした!」と、デジタル庁、総務省、厚生労働省それぞれが責任を現場に押しつけて、政府のどの機関も責任をとらない姿を見せている。「もし小さな診療所でトラブルが起こったとき、“お前のせいだ”と責任を押しつけられるのだということを改めて実感している」とさめざめと語られている。

 国民を統制・管理したいという願望に対して、能力・実力が追いついていないのが日本の実態ともいえる。日本だけでなく世界的に見ても、国民に共通番号を付与して管理する国では情報漏洩やなりすまし被害が社会問題になっており、「生涯変わらない一つの番号に個人情報を紐づける」という行為が危険きわまる政策であることがすでに明らかになっている。

●なりすましや漏洩が多発 アメリカ

 アメリカでは、社会保障番号(Social Security Number/SSN)が使われている。1943年の大統領令により、連邦機関がこの番号を個人システムに用いることが義務づけられている。

 このSSNは、1936年にニューディール社会保障計画の一環として導入された。当初は単に労働者個人の生涯所得を把握し、年金等社会保障の給付に利用するために創設されたものだった。しかし1960年代以降、段階的に利用範囲が拡大され、今では福祉・医療の補助金や税の還付などの行政手続きに加え、ローンの申請やクレジットカードの発行、銀行口座開設、携帯電話の契約、運転免許取得などあらゆる場面においてSSNが身分証明書として使われている【表】。
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 アメリカでは、建前上、番号の取得は「任意」とされている。しかし、SSNは医療・福祉の補助金申請などに必要で、銀行口座開設やクレジットカード取得のさいにも提示が求められる。そのため事実上の「義務化」であり、どの国民もSSNを取得しなければ行政サービスが受けられない仕組みになっている。

 こうしたなかアメリカでは、従業員の不正などによって盗まれたSSNによる「なりすまし」が横行し大問題になっている。1960年代以降、個人情報の流出やなりすましなどの犯罪が社会問題化し、クレジットカードを勝手に作られたり、ローンを組まれたりする被害が後を絶たない。

 2005年には、データブローカー(保有する消費者の情報を使って身元調査や転売をする企業)が、消費者情報の購入者になりすました架空企業に対して、SSNや住所、クレジットカード情報などの個人情報約14万5000人分を流出させる事件が起きた。

 2021年には、ミズーリ州の初等中等教育局のウェブサイトで、10万人以上の教員のSSNが閲覧可能な状態になっていた事件も起きている。

 また、SSNをめぐるなりすましのなかでとくに多いのが、他人のSSNを使ってクレジットカードを作って金を借りたり、税金の還付金をだましとるなど金銭がかかわる事件だ。アメリカでは暗証番号や顔写真などの認証をクリアすれば銀行口座も開設できる。そのためローン地獄に直面した大人が子どものSSNで金を借りて、その子どもが大人になり銀行口座を開設したときにはすでにブラックリストに載っていたという事例もある。他にも、患者が病院で職員に提示したSSNが漏洩してなりすまし犯罪に使われていた例もある。

 2017年には、3大信用調査会社の一つエキファックスから1億4300万人分の情報漏洩が発表され、米国史上最悪の情報漏洩事件となった。同社は消費者の信用度を測る信用調査会社であり、アメリカ人の成人ほぼ全員に関する膨大な個人データや財務データにアクセスできる立場にあった。ここを何者かがハッキングし、氏名や社会保障番号、生年月日、住所、一部の運転免許証番号と20万9000件近くのクレジットカード番号、18万2000件の「紛争文書」などが盗まれた。最終的に被害者の数は1億4700万人、アメリカの人口の約44%にのぼった。とくに一生変わらない社会保障番号は闇市場で転売され、当分のあいだ価値を持ち続けることになると指摘されている。

 大規模な流出事件としては、2015年に保険会社アンセムがサイバー攻撃を受けて約8000万人分の社会保障番号を含む個人情報が流出した事件、米連邦政府の人事管理局(OPM)が発表した約2150万人分の社会保障番号の流出事件(2015年)もある。

 2012〜2016年にかけては、不法移民の就職のために390万件もの大量のSSNが盗まれ不正に使用される事件も発生した。社会保障局は、普段からむやみな個人番号の開示を避け、開示を求められたさいには何に基づいて求めているのか根拠を問うよう勧告している。しかし事実上SSNの所有が義務化され、あらゆる手続きにおいて提示が強いられるのが現実であり、その管理や防犯について基本的には「自己責任」のようなスタンスでいるのがアメリカ政府だ。

●口座紐づけが生む不正使用 韓国

 韓国では、個人を識別する番号として、「住民登録番号」が幅広い行政分野と民間分野で利用されている。この番号は出生届出のさいに付番がなされ、生涯を通じて変わることがない。

 韓国では、1962年に住民登録法にもとづいて住民登録番号の付番が始まったが、当初対象は希望者だけだった。しかし1968年に、北朝鮮のスパイが大統領府を襲撃したとされる「青瓦台襲撃未遂事件」が起きたのを契機に、住民管理・スパイ防止の名目で全国民が付番の対象となった。この時から住民登録証が発行されるようになり、カードには徴税や社会保障、クレジットカード情報などあらゆる個人情報が紐づけされている。

 また韓国では1987年に「情報通信ネットワーク法」が制定され、行政機関の業務におけるコンピュータネットワークの普及拡大と利用促進がおこなわれた。住民登録や不動産登記、自動車登録などにかかわる業務の電子化が進み、その過程で何度も住民登録法の改定がおこなわれてきた。こうして、住民登録番号は、官民の電子サービスにおける社会インフラといわれるほど個人情報が詰め込まれ、利用が促進されてきた。

 民間分野でも1990年代から2000年代にかけて、携帯電話やインターネットの契約、銀行口座の開設、インターネットバンキングやネットショッピングなどあらゆる場面において本人確認のためのツールとして利用されていた。

 こうしたなか、住民登録番号の盗用によるなりすまし事件が頻発するようになった。悪用を防ぐため、2006年にはインターネットで利用できる仮想的な住民登録番号である「IPIN」が導入され、2011年には個人情報保護法が制定・施行された。それでもハッキングによる住民登録番号の流出などがあいつぎ、2014年には個人情報保護法が改正され、民間企業による住民登録番号の収集・利用は原則として禁止された。

 だが同年、韓国では一億人分をこえるクレジットカードや預金口座の情報が流出する事件が発生した。この事件では、クレジットカード会社の社員が顧客情報を持ち出してそれを業者に販売し、さらにそこからマーケティング会社などに転売されていたことが発覚した。

 さらに、人口の約70%にあたる2700万人分の個人情報2億2000件が流出する事件(2014年)が起こり、情報を不正利用して利益を上げていたとして16人が逮捕された。24歳の容疑者は、オンラインゲームで知り合った中国人ハッカーから2億2000件の情報を入手したとされている。この情報を使って他人のゲームアカウントに不正侵入してゲーム内通貨を盗んで換金し、4億ウォン(約4000万円)を稼いで中国人ハッカーに一部を渡していた。また、個人情報の転売でも稼いでいた。中国人ハッカーはゲームやチケット販売などのウェブサイトからユーザーの氏名や住民登録番号、パスワードなどを盗んでいたという。

 現在、韓国では住民登録番号の利用の範囲は大幅に縮小されており、おもに金融、教育機関に限定されている。だが個人情報流出は今年も起きており、移動通信会社「LGユープラス」の利用者18万人の名前と生年月日、電話番号などの個人情報が流出した。

●制度浸透も悪用が頻発 スウェーデン

 スウェーデンでは1686年から住民登録制度があり、古くから教会区ごとの住民記録管理に関する統一規則が制定されていた。そして1947年には、統一的な個人認証番号である個人識別番号(PIN)が導入され、従来の世帯単位から、個人単位での管理に移行した。さらに1966年には住民登録事務の所管が教会から国税庁へと移管され、現在の個人識別番号制度となっている。

 スウェーデンで生まれた子どもは、名前より先にPINを手に入れる。病院から税務署経由で出生の連絡を受けた同国の国税庁が、一人一人に10桁の番号をつけ、国税庁からの書類に、親が子どもの名前を記入して返送すると登録が完了する。

 個人識別番号は行政・民間で広く利用されている。行政分野では利用目的に正当性が認められれば、本人同意は不要とされており、住民登録や納税、年金、医療、雇用、失業保険、徴兵、運転免許、統計調査等幅広い分野で利用されている。さらに民間分野でも金融機関の口座開設や保険会社との保険契約、賃貸契約、携帯電話契約などに用いられる。このように、行政事務等が適法におこなわれる範囲内であれば、個人識別番号の利用に制限はもうけられていない。

 スウェーデンでは、1680年代から長きにわたる住民管理制度の歴史があることから、国による個人情報管理に対する国民の危惧が少ないといわれている。ただ、スウェーデンでもPINを介したなりすまし被害は多く、年間約6万5000人が被害を受けているという。携帯電話を勝手に契約して国外の有料電話サービスに接続し、高額の使用料を請求する例もあり、個人向けの「なりすまし詐欺保険」を提供する会社も登場している。それでも個人番号がなければ生活できないほどに制度が国民生活に浸透している状況がある。

●共通番号導入が頓挫  独・英・仏・豪
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 一方で、政府が共通番号を導入しようとしたものの、国民の抵抗によって頓挫した国も多く、こうした国々では、行政分野ごとに異なる番号の導入・運用に落ち着いている。

 ドイツでは1970年代に、行政事務の効率化を目的として行政分野で共通して個人を識別する番号の導入(連邦住民登録法案)が検討されたが、国民のプライバシー侵害の懸念が大きく成立に至らなかった。それは、かつてナチス政権がユダヤ人たちを管理するために番号を割り振っていたことから、国民に番号を割り振る行為そのものが憲法違反だとみなされているという側面もあるからだ。実際に1983年には汎用的な個人を識別する番号を利用することは、連邦憲法に違反する可能性を示唆する判決も下されている。

 そのためドイツでは、長らく共通番号の検討はされておらず、現在は行政分野ごとに異なる番号を用いて行政事務をおこなっている。現在、行政分野別に利用されている番号は、税務識別番号、医療被保険者番号、年金保険番号、介護保険番号等がある。

 また、ドイツでは連邦の最高機関として位置づけられた「連邦データ保護情報公開コミッショナー」を設置しており、同局は公的機関を監督する権限を有している。そして公的機関には「データ保護責任者」の配置が義務づけられ、責任者は公務員に対して情報とアドバイスの提供や、連邦法及びその他のデータ保護立法の遵守を監視する任務を負う。ドイツではこうした何重にも及ぶ監視体制の下で個人情報のとり扱いがおこなわれている。

 イギリスでは、2000年代に入ってテロ対策や犯罪予防等の観点から、厳格に本人確認できる手段として国民IDカードの導入が議論された。2006年には「IDカード法」が成立したものの、費用対効果やプライバシー侵害等が問題視され、2010年の政権交代とともに同法は廃止された。

 その後、2016年に公共サービスの共通認証プラットフォーム「GOV・UK Verify」が導入された。これは、オンラインで行政サービスが受けられるデジタルIDの仕組みだが、普及率は1割台と低迷している。

 イギリスでは、第二次世界大戦中(1939年)に、「非常下」であることを理由に、国民登録法に基づき身分証明書として利用できるIDカードが導入されていた。しかし1951年に、警官に止められ理由もなく身分証明書の提示を求められ、その提示を断った男性が訴追され有罪判決を受ける事件(Willcock vHuckle事件)が起きたのを契機に、個人の身元を証明する行為は強制されるべきではないといった世論の高まりを受け、1953年に国民登録法及びIDカードは廃止されている。

 このような背景もあり、イギリスでは行政分野ごとに異なる個人識別番号を用いて行政事務がおこなわれてきた。1948年に導入された「国民保険番号」は社会保険分野と税務分野において共通的に利用されているが、これは複数の行政分野を所管する一つの官庁(歳入関税庁)に閉じて利用されている形であり、複数の行政機関で同一の識別番号を利用しているわけではない。

 フランスでは、第二次世界大戦中ナチスの影響力が強く及んでいた時代の1941年、ヴィシー政権下の内務省において、人口動態に係る統計調査や徴兵の調査のために、「全国自然人ID登録簿」(RNIPP)が作成され、この登録簿の識別番号として社会保障番号(NIR)の付番が開始された。

 その後、1972年には個人の情報を集約・管理する「SAFARI計画」の検討が政府内でおこなわれ、行政分野を横断して個人情報を識別するために社会保障番号を活用することが予定されていた。しかし、国内では反対意見が強くなり「フランス人を狩るためのプロジェクト」などと批判が拡大。社会的な大反対によって政府のSAFARI計画は撤回に追い込まれた。

 このような背景もあり、フランスではこれまで行政分野ごとに異なる個人識別番号を用いて手続きがおこなわれてきた。現在、行政分野別に利用されている番号は、前述の社会保障番号の他、税務登録番号、国民健康識別子等がある。

 政府は1978年に「情報処理と自由に関する法律」を制定した。同法では、公的機関・非公的機関が保有する個人情報に「不正・違法な個人情報収集の禁止」「情報提供義務の有無や対象等についての通知」「本人の同意なしでの人種・政治的信条等の収集の禁止」など、厳しい制限をもうけている。その監督機関として「情報処理と自由に関する全国委員会(CNIL)」を設置し、国内における個人データ処理に関して強い規制を求めるなど影響力を持たせている。

 一方、フランスでは個人認証のための電子的手段として、ある行政機関サイト等のログインID・パスワードを利用して他のサイトへのログインを可能にする、「France Connect」がある。このシステムは今後、より高レベルのセキュリティが要求される金融・医療関連のサービス等に利用範囲が拡大される予定となっている。だが昨年夏、フランスではFrance Connectを経由した詐欺や不正なアクセス、なりすましが急増し、同サービスが一時停止するなどの問題も起きている。健康保険の名前とロゴを盗用し、「アカウント確認」を求める偽のメールが届くケースが多く、利用者からIDを入手して不正にログインして他人の銀行情報にアクセスしたり、公的扶助を不当に受けとるなどの手口だ。デジタル局も「毎月100件をこえる詐欺」を報告している。

 オーストラリアでは、1983年の連邦総選挙により、それまで政権を担ってきた自由党から労働党に政権が移った。新政権は1985年に、課税逃れや社会保障の不正受給の防止等を目的とした「国民背番号」の導入や、統一的な身分証「オーストラリア・カード」の導入等の提案を含む「連邦税制改革白書案」を発表。さらに86年には「オーストラリアカード法案」を提出した。同法案では、国民背番号によって課税や社会保障給付などの行政事務で共通的に利用可能とした。そして導入することで年間約8億j税収が増加し、社会保障の充実等の効果を宣伝した。だが、プライバシー保護を優先する国民による反対世論が圧倒し、同年12月に同法案は廃案となった。

 こうした経緯から、現在オーストラリアでは行政分野ごとに異なる個人識別番号が導入されている。納税者の識別を目的とする納税者番号や、医療機関で保管される患者の情報を統一管理する個人ヘルスケア識別番号などがある。

●情報紐づけで被害規模拡大 目的は監視と統制

 このような世界の事例からわかるように、古くからどの国の為政者も行政手続きに横断的に使用可能な「共通番号」の導入を図ってきたが、ことごとく国民の反対の声を受けて廃案に追い込まれている。また、アメリカや韓国のように共通番号を導入した結果、詐欺やなりすましが急増して、個人のプライバシーが脅かされたり、金銭的な被害の元凶となるケースは少なくない。行政手続きの「利便性」は、裏を返せばその制度を逆手にとって悪用しようとする人間の「利便性」を格段に向上させる。インターネット上の利用となれば、自国内のみならず世界中どこからでもハッキングを受ける可能性があり、実際にそのような事件も多発している。

 あらゆる情報を紐づけすればするほど、一度に流出する個人情報の量は増え、規制を厳しくしたり、法改定をおこなっても、まるでいたちごっこのように次から次へと流出事件が起きている。こうしたことから、一つの番号に余計な情報を紐づけすることなく、その場の行政手続きのみにおいての利便性を求め、行政分野ごとに異なる個人識別番号を導入して運用する形態に落ち着いているケースが多い。

 また、こうして個人番号制度をめぐるこれまでの各国の動きを見てみると、「第二次大戦」「徴兵」「非常時」などのキーワードが出てくるのも特徴だ。個人番号による監視・統制を強めることと、国による戦時体制準備が深くかかわっていることを色濃く反映している。

 各国ですでに失敗が明白となっているマイナンバー制度をこれから本格的に導入しようとしているのが日本だ。このまま保険証や運転免許証、口座情報などさまざまな情報を紐づけすれば、先行するアメリカや韓国のように、もしくはそれ以上に犯罪のターゲットになりかねない。「国民の生命や財産を守る」のであれば廃止するほかない。

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記事 [政治・選挙・NHK290] ジャニーズ事務所と自民党の共通項は、メディアを掌握し、批判を徹底的に抑圧したこと 適菜収「それでもバカとは戦え」(日刊ゲンダイ)

ジャニーズ事務所と自民党の共通項は、メディアを掌握し、批判を徹底的に抑圧したこと 適菜収「それでもバカとは戦え」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/323596
2023/05/27 日刊ゲンダイ


ジャニーズ事務所(C)日刊ゲンダイ

 ジャニーズ事務所創業者で前社長のジャニー喜多川(2019年死去)による児童虐待事件が注目を集めている。今年3月にイギリスの公共放送「BBC」が邦題「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」と題するドキュメンタリーを放送。4月には日本外国特派員協会で、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が記者会見を開き、未成年のときにジャニーから15回から20回の性被害を受けたことを告発した。また、ジャニーのマンションに泊まった100人から200人のほぼ全員が性被害を受けているはずとの見解も示している。

 告発者に共通するのは無力感だ。日本テレビ系「真相報道バンキシャ!」では元ジャニーズJr.の二本樹顕理氏が性被害について「一個人は声を上げたところでどうにもならない」と苦しんでいたと告白。

 1999年、「週刊文春」がこの問題を取り上げると、ジャニーと事務所は文芸春秋に名誉毀損の損害賠償を求めて提訴。その後、ジャニーのセクハラ行為を認めた東京高裁判決が2004年の上告棄却により確定する。

 それにもかかわらず、ジャニーの性犯罪が野放しになってきた理由は、ジャニーズ事務所がメディアを掌握していたからだろう。ジャニーズのタレントを使えなくなるのを恐れたメディアは、過剰に忖度を行っていたのだと思う。

 この構図、既視感があると思ったら、今の自民党だった。

 広告代理店と結託し、メディアの掌握を試み、不都合な事実は闇に葬り、内部からの批判は徹底的に抑圧する。

 94年の政治改革により、党中央に権力が集中した結果、党内は挙手要員やイエスマンばかりになってしまった。党中央に逆らえば次の選挙で公認をもらえなくなるばかりか「刺客」を送られる。その結果、いびつな王国が出来上がった。こうして、あらゆる問題がうやむやになってきた。

「安倍チルドレン」と呼ばれた連中もいたが、要するに金玉を握られているわけだから、自由に動くことができない。

 5年ほど前だったか、某国会議員は私に向かって「僕たちは安倍さんのおかげで政界デビューできたんです。だから表だって安倍さんの批判はしたくないんです」と言い放った。

 これジャニーズの構図とどこが違うの?


適菜収 作家

近著に「ニッポンを蝕む全体主義」「日本人は豚になる」「思想の免疫力」(評論家・中野剛志氏との対談)など、著書45冊以上。「適菜収のメールマガジン」も始動。詳細は適菜収のメールマガジンへ。本紙連載が書籍化「それでもバカとは戦え」好評発売中

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記事 [政治・選挙・NHK290] もう化けの皮が剥がれてきた 薄っぺらパフォーマンスは続かないぞ(日刊ゲンダイ)

※2023年5月27日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大


※紙面抜粋

※文字起こし


ドンチャン騒ぎの長男もおとがめなし(C)日刊ゲンダイ

 しょせん、薄っぺらいパフォーマンスの効果は、長く続かないということだ。はやくも化けの皮が剥がれ始めている。

 広島サミットが閉幕した翌日(22日)、自民党の役員会に出席した岸田首相は、「国際社会の結束を高める、歴史を刻むサミットになった」と、サミットの成果を誇らしげに報告。岸田周辺によると、サミットを終えた首相は、高揚しているように見えたそうだ。

 実際、岸田は得意の絶頂だったに違いない。広島サミット後、内閣支持率は急上昇し、株価も3万円を軽く突破。自民党内からは「いますぐ解散すべきだ」との声が上がり、一気に“解散風”が吹きあがった。

 しかし、あれから1週間、もう馬脚をあらわしている。いかにも岸田政権らしい失態、失策が次々に明らかになっているのだ。

 その最たるものが、岸田の秘書官をつとめる長男(32)が、首相公邸で乱痴気騒ぎの「忘年会」をしていた一件だろう。さすがに自民党幹部も「言語道断だ。こういうのが政権にとって一番ダメージになる」と早期更迭を求めているほどである。

 さらに、政権をあげて普及を急ぐマイナンバーカードも欠陥が続出。「マイナ保険証」では誤登録が相次ぎ、「マイナポイント」では、ポイントを受け取れなかった住民と、二重に受け取る住民がいるなど実害まで出始めている。強引に普及させようと、保険証廃止という“ムチ”と、2万円分のポイント配布という“アメ”を使ったことが、完全に裏目に出た格好である。

 ここまでデタラメが続くと、せっかく上昇した内閣支持率も元に戻るのではないか。

 そもそも、大マスコミと岸田が「歴史に刻まれる」と絶賛した、あの広島サミットが本当に成功だったのか怪しいものだ。

 なにしろ、昨年11月にインドネシアで開かれたG20サミットでは、すべての核保有国を念頭に「核兵器の使用・威嚇は許されない」と宣言しているのに、広島サミットで発表された「広島ビジョン」には、「核廃絶」の文字はなく、あろうことか「防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争や威圧を防止すべきとの理解」などと、核兵器の正当性を主張する始末である。

 これでは、カナダに住む被爆者のサーロー節子さん(91)が「サミットは失敗だった。死者に対する侮辱だ」と失望したのも当然だろう。

 立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。

「岸田首相は、本気で『核なき世界』を訴えるのではなく、どうすれば支持率がアップするかを最優先したのだと思う。さもないと『広島ビジョン』で核兵器を正当化したりしないでしょう。重視したのは、G7の首脳が揃って慰霊碑に献花する絵だったのではないか」

 もし、岸田が各国首脳を説得し、「核廃絶」を宣言していたら、広島サミットは歴史に刻まれ、日本国民の心に深く残っただろう。しかし、しょせん薄っぺらいパフォーマンスにすぎなかったサミットのことなど、多くの国民は忘れているのではないか。

少子化対策は“やってる感”ミエミエ

 岸田政治の中身のなさを象徴しているのが「異次元の少子化対策」だ。岸田は「少子化への対応は待ったなしだ」などと口にしているが、対策の中身はどれもこれも小粒で的外れ。とても少子化を解消できるとは思えない内容だ。

 岸田政権は来年度からの3年間を少子化対策の「集中取り組み期間」として、年間3兆円規模の追加予算を確保。うち、1兆2000億円を目玉の児童手当の拡充に充てる方針だが、ハッキリ言ってセコいバラマキでしかない。

 支給対象を高校生まで拡大し、1人当たり1万円を支給。また、第3子以降の支給額を現行の1万5000円から1人3万円に倍増させる案を検討している。しかし、この程度で「子どもを持ちたい」と思う国民がどれだけいるのか。「少子化対策」ではなく「子育て支援」でしかない。

 子どもが増えない最大の理由は、経済的な不安から若者が結婚に二の足を踏んでいることだ。経済的な不安が払拭されなければ、少子化が解消されることはないだろう。

 だいたい、児童手当の支給拡大が少子化対策の目玉とは、いつもの“やってる感”がミエミエである。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏がこう言う。

「対策の中身からは、岸田首相の本気度がうかがえません。子どもを増やすには、誰もが安心して結婚でき、子どもを持とうと思える社会をつくるしかない。まず、すべきことは高等教育の無償化でしょう。北欧では無償化が進んでいるおかげで優秀な人材が育ち、新しい産業も生まれている。新産業が出てくれば結果的に経済が好循環し、誰もが安心して結婚できる社会をつくることにつながるでしょう。岸田首相の対策からはそうしたビジョンが見えない。目玉政策の児童手当の拡充は、来たる選挙向けのパフォーマンスとしか思えません」

自民への不満が拡大中

 こんな男に総理大臣を任せていたら、日本の将来は真っ暗だ。さすがに国民も口先だけで空っぽの岸田の正体に気づき始めているのではないか。

 なにしろ、物価高は止まらず、足元の生活は苦しくなるばかりだ。実質賃金は12カ月連続で前年同月を下回っている。

 総務省の家計調査によると、とうとう年収550万円未満の世帯は、食費などがかさみ、教育費まで削り始めている。教育費の削減は最後の手段だ。これでは、経済無策の岸田に批判が向くのも当然だろう。

 実際、岸田自民に対する不満は確実に広がってきている。先月の統一地方選の都内区議選では、自民候補の大量落選が相次いだ。杉並区、渋谷区で7人、大田区は6人、江戸川区で5人が落選──といった具合だ。21日投開票の東京・足立区議選でも、自民は19人擁立したが、現職5人、新人2人の7人が落選。選挙前の17議席から5議席も減らした。無党派層が多い東京で岸田自民への不信感が高まっているのは間違いない。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏はこう言う。

「内閣支持率は上がっていますが、世論調査を精査すると、個別の政策への反対は根強い。国民は選択肢がないから仕方なく岸田政権を支持しているのが実態です。消極的支持というのは、ちょっとしたきっかけで一気に離れるもの。これから、防衛費倍増や少子化対策の財源を巡る議論が始まる。今後、問題が噴出し、支持率が急落することも考えられます」

「早期解散」説が流れているが、いま選挙をやれば国民から「NO」を突きつけられるに違いない。しかも、連立を組む公明党との関係に亀裂が入り、これまでの選挙協力態勢がどうなるか見通せない。解散すれば、岸田に鉄槌が下るのは確実だ。

「一見、誠実そうに見えて、岸田首相が国民に真摯に向き合おうとしないことに国民は気づき始めていると思います。大軍拡に道を開いた安保関連3文書の改定を巡っても、野党からの追及を免れた昨年の臨時国会閉会後に閣議決定し、その後、国民に説明することなく、米国への手土産にしている。国会での質問には『手の内を明かす』との理由で説明を拒否するありさまです。さらに、広島サミットでは被爆者に寄り添う姿勢は皆無で、公邸でドンチャン騒ぎした長男はおとがめなしときています。岸田首相の不誠実さに国民が気づくのも当然でしょう」(政治評論家・本澤二郎氏)

 薄っぺらなパフォーマンスで国民をだませると思ったら大間違いだ。

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