
※2025年8月2日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
どこへ消えた? 消費税減税と物価対策…政治空白で犠牲は庶民に
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/375631
2025/08/02 日刊ゲンダイ ※後段文字お越し
石破政局は国政の停滞そのもの(C)日刊ゲンダイ
選挙期間中は給付か減税かであれだけもめたのに、今や、どの政党も政局次第と様子見の構え。この間にも物価は上がり続け、日銀無策で庶民の暮らしはへたる一方。改めて、石破政局は国政の停滞そのものだ。
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先の参院選を受けた臨時国会が1日、召集された。国会議事堂には新人議員が次々と登院。集まった報道陣に無難な抱負を語るのは毎度の光景だが、晴れがましい姿に共感できる庶民はどれだけいるのか。
与党が衆参両院で少数となって初の国会。5日までの極めて短い会期内に、衆参両院で予算委員会の集中審議を行い、石破首相が日米関税交渉合意を説明する。立憲民主党など野党7党はガソリン税の暫定税率(1リットルあたり25.1円)廃止法案を共同提出。当初は自民提案の会期5日間に反対したが、秋の臨時国会で廃止法案成立を図る方針を与野党で合意したため、受け入れた。今国会で同法案の審議予定はない。
野党で唯一、内閣不信任案を単独で提出できる立憲の野田代表は、参院選の結果の総括を優先すべきだとして、今国会での提出に及び腰。「対決姿勢は秋でもいい」「(総括を)途中で放り投げて不信任案を出すのがいいのか」と言い訳した。
参院選で民意が「自公政権ノー」を突きつけたわりには緊張感に欠ける国会だが、無理もない。参院選の最大争点がすっかり話題にならず、後景に退いてしまったからだ。選挙期間中には「給付金か消費税減税か」で与野党が真っ二つ。あれだけもめた物価高対策のことである。
今や、どの政党も自民党内の「石破おろし」の政局次第と様子見ムード。炎天下で繰り広げられた減税の可否と物価対策を巡る議論は、どこへ消えたのか?
値上げラッシュに猛暑の食材高騰が追い打ち
「給付」を訴えた与党も、「減税」で足並みを揃えた野党も、秋の臨時国会が「本番」。それまで法案提出の準備を進めればいいと悠長な構えだが、庶民生活にそんな余裕はどこにもない。歴史的な値上げラッシュに見舞われ、もはや家計の苦しみは限界を突破している。
帝国データバンクによると、8月の飲食料品の値上げは前年同月比1.5倍の計1010品目に上る見通しだ。
今年に入って値上げ品目数は8カ月連続で前年同月を上回り、記録的な値上げラッシュとなった2023年2〜7月を超え、22年の統計開始以来、過去最長を更新中だ。10月にはTVの番組改編期じゃあるまいし、今年4月に続き、3000品目超の値上げラッシュが襲いかかる見込み。通年では2年ぶりに2万品目の大台を突破することが確実だ。
原材料費の高騰に加え、光熱費の上昇や人手不足による人件費増も幅広く影響し、生産コストを押し上げている。各メーカーとも躊躇せず、コスト増を本体価格へ反映させる値上げ戦略も定着しつつある。
加えて連日の猛暑だ。ヘトヘトなのは読者だけじゃない。日照りと少雨によってトマトやピーマン、キュウリなど夏野菜の生育がへたり、価格は高騰中だ。この暑さで鶏もエサを食べず卵の生産量が減少。JA全農たまごの7月の平均価格(東京・Mサイズ)は1キロあたり329円と前年同月から129円も跳ね上がり、鳥インフルエンザで高騰した2年前の同時期を上回るほど。「価格の優等生」も形無しだ。
家畜も夏バテしてやせ細り、出荷量が激減。日本食肉市場卸売協会によると、東京市場で7月の豚肉1キロ(「上」等級)の平均卸売価格は866円と過去最高値を更新した。あらゆる食品の値上がりは止まらず、庶民の食卓は脅威にさらされっぱなし。昨年の「エンゲル係数」は43年ぶりの高水準(28.3%)に達したが、今年は家計逼迫に拍車がかかりそうだ。
物価の番人は機能せず政治は空白の異常事態
日銀はてんで機能しない(C)日刊ゲンダイ
それなのに「物価の番人」たる日銀はてんで機能しない。7月末の金融政策決定会合で政策金利を据え置き。インフレ抑制効果のある利上げを4会合連続で見送った。
米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ見送りも相まって、日米金利差の開きが続くとの見方から円売り・ドル買いが加速。1日は一気に1円以上も円安に振れ、4カ月ぶりに1ドル=150円台半ばまで逆戻りだ。
円安が値上げ要因となる原材料費・光熱費の高騰につながるのは言うまでもない。ところが、日銀の植田総裁はのんきなものだ。会合後の会見で「為替が物価見通しにただちに影響するとはみていない」と余計なことを言って、円安を猛プッシュだから「もうカンベンしてよ!」だ。
「為替の影響を軽視し、値上げラッシュを放置する日銀総裁に『物価の番人』を名乗る資格はありません」と断じるのは、経済評論家の斎藤満氏だ。こう続ける。
「消費者物価指数は3年もの間3%を超え、すでに利上げの環境は整っています。しかも日銀は今年度の物価見通しを前回5月の前年度比2.2%から2.7%に上方修正したにもかかわらず、植田総裁は『基調インフレは2%に届いていない』との屁理屈をこね、物価高をあおってばかり。値上げは売り上げ減に直結し、本来、飲食料品メーカー側はためらいがちです。かつては内容量減の『価格据え置き』で対応していましたが、これだけ日銀がインフレを放置すれば『赤信号、みんなで渡れば怖くない』との意識が働く。一斉にコスト増を価格に転嫁し出したのも当然です」
同じ日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(6月)では、1年前に比べ物価が「かなり上がった」との答えが75.3%に達し、上昇の実感値は19.5%(平均値)にも上った。それでも「今後インフレ率は低下に向かうと予想している」と言い張る植田総裁は何サマなのか。その根拠を示してほしい。
ガキのケンカの「石破おろし」ファースト
物価高騰への関心が乏しい日銀の無策で、庶民の暮らしはへたる一方だ。こうした時こそ政治の出番なのだが、永田町の関心は目下のところ、「石破おろし」政局ファースト。庶民生活は二の次、三の次である。
参院選の街頭演説で、石破は公約に盛り込んだ2万円の給付について、「物価上昇が賃金上昇を上回る時期がある。その間、困っている人に重点的に手当てするのが給付金だ」と繰り返し、支給が1回に限らない可能性を重ねて強調していた。
それが選挙が終わったらどうだ。自公両党の幹部同士が、具体的な制度設計を進めるよう政策責任者に指示する方針で一致したきり。給付実現に向けて何ら手を打とうとしない。石破本人も総理のイスにしがみつくことに汲々とするのみだ。
旧安倍派の裏金幹部ら“汚れた実力者”が裏で糸引く退陣要求の大合唱に押され、自民党執行部は両院議員総会を今月8日に開催すると決めた。今度はその日程を巡って、党内はひともんちゃく。事実上の「お盆休み」の開催に、石破退陣を求める党内の中堅・若手は「出席者を減らす作戦だ」と不満タラタラだ。どっちもどっちの低レベル過ぎて、まるでガキ同士のケンカである。
「空前の物価高騰に庶民が困窮する中、石破おろしにかまけている暇などないはず。石破首相は『政治空白は許されない』と続投に意欲を示していますが、今の政局は国政の停滞そのもの。どう考えても政治空白が生じており、その犠牲となるのは庶民の暮らしです。野党も野党で民意がノーを示した以上、自公政権に退陣を求めるのが憲政の常道。曲がりなりにも野党第1党の立憲は不信任案を突きつけ、下野を迫るのが筋です。石破おろしに高みの見物を決め込んでいる場合ではない。国民生活置き去りの政局を許してはいけません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
各野党とも参院選の公約がウソじゃないなら、サッサと「減税政権」の樹立を目指し、連携する覚悟を示してほしい。
http://www.asyura2.com/25/senkyo297/msg/784.html