コンピュータ・プログラムとPL法(その1)


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投稿者 たけしくん 日時 1999 年 2 月 17 日 17:59:55:

回答先: <2000年問題、富士通との攻防> 投稿者 たけしくん 日時 1999 年 2 月 17 日 17:54:56:

西暦2000年問題メーリングリストより転載
http://www.y2kjapan.com/jp/docs/ml/index.asp


第10回 コンピュータ・プログラムとPL法(その1)
日野法律特許事務所 http://hino.wepro.com/
弁護士・弁理士 日野修男 nobuo.hino@nifty.ne.jp
要約
 先頃、ソフトウェアの欠陥から生じた損害について、PL法に基づいた裁判が提起
されたことが報じられました。その報道をきっかけに、本稿の読者の方から「コン
ピュータ・プログラムとPL法」について説明願いたいとの電子メールをいただきま
した。そこで、急遽、頭書のテーマでご説明することと致しました。また、本稿の項
番号は便宜上第9回からの連続とさせていただきました。


20 PLとは?

 PLとはProduct Liability(製造物責任)のことです。製造物の欠陥が原因で被
害が発生した場合に、製造業者などが負う責任のことです。
 PLと言えば、超多額な損害賠償を課されるアメリカのPL訴訟が思い浮かぶかも
しれません。しかし、一口にPLといっても、アメリカのPL訴訟とヨーロッパのP
L法、そしてわが国のPL法は全く異質なものです。このことを十分に理解してなけ
れば、わが国のPL法についてとんでもない誤解をすることになります。


21 アメリカはPL法がない!

 PLの概念はアメリカで発達しました。1960年代に製造業者の責任を認める判
決が続き、その中でもGreenman 対 Yuba Power Products, Inc.の電動工具が原因で
負傷した事件で、カリフォルニア州最高裁は製品を製造した事業者に対し厳格責任を
認めました。この判決が製造物責任に厳格責任を認めたリーディング・ケースと解さ
れています。

 厳格責任の概念は、本稿の6−1のパブリッシャ(出版者)責任のところで既に説
明致しましたが、もう一度、復習してみましょう。厳格責任とは、アメリカ法におい
て被害者救済を図って判例上形成された法概念です。自ら危険を作り出したこと(こ
の場合では製造物を製造・販売すること)によって引き起こされた損害については、
危険を作り出した者が全面的に責任を負わなければならないとするものであり、故意
や過失を要件としません。

 わが国のPL法は平成6年7月1日に施行されました。それでは、アメリカ合衆国
はいつPL法を制定したのでしょうか。実は、アメリカにはPL法と呼ばれる法律は
過去に一度も存在したことはありません。現在もありません。いくつもの判例の積み
重ねの中でPLの概念、要件や効果が形成されてきたのです。それらの判例の背後に
はコモン・ローがあります。コモン・ローは辞書では慣習法と訳されることが多いで
すが、慣習法というよりも、社会を基礎づける法的な確信あるいは社会全般に浸透し
ている法的価値が法の次元にまで高められたものと言った方がいいかもしれません。
アメリカのPL訴訟でしばしば認められる非常に多額の懲罰的損害賠償は、このコモ
ン・ローに由来するものです。

 いささか古い記録で恐縮しますが、アメリカにおけるPL訴訟は1985年の連邦
地裁分だけで13,354件の新件受理が記録されています。アメリカにはPL法は
ありませんから、製造物責任はトウーツ(不法行為)の一類型として訴え提起されま
すが、トウーツ(不法行為)の基本的な管轄は各州の地方裁判所です。連邦地方裁判
所が管轄を持つのは、州の境界を越えた事件(ダイバスティーケース)と、連邦政府
に対する責任を問う事件(フェデラルクエッション)だけです。この管轄分だけで年
間1万件を越える製造物責任訴訟が提起されました。アメリカのPL訴訟では懲罰的
損害賠償として多額の損害賠償が課されたことがよく報じられます。このように損害
賠償額が多額であるのもアメリカPL訴訟の特徴です。泣き寝入りしないで責任を追
及する国民気質や、着手金なし成功報酬のみで受任できる弁護士報酬制度、90万人
の弁護士が身近にいること、弁護士広告が自由化されていることなど、整備された司
法環境がアメリカPL訴訟を支えていると言ってもいいでしょう。


22 ヨーロッパにおけるPL法

 ヨーロッパで、PLが脚光を浴びたのはサリドマイド薬禍事件です。この事件では
同じ製薬会社の薬が原因で、国境を越えて多数の被害者が発生しました。その後、P
Lが大きな社会問題となったのは1973年にパリで墜落した飛行機の設計ミスの問
題でした。これも被害者が国境を越えて発生しました。このように同じ事件が国境を
越えて問題となったとき、ヨーロッパ各国で責任の有無や損害賠償の範囲が異なるこ
とになっては、将来のヨーロッパ統合に支障が出ることになります。そこで、ヨー
ロッパ各国は統一した内容の立法を行う指針を作成しました。それが「EC指令」
(欠陥製造物についての責任に関する1985年7月15日付EC閣僚理事会指令
(Directive):現在はEUであるが当時はECでしたた)としてまとまりました。
その後、ヨーロッパ各国はこのEC指令に準拠してPL法を続々と制定しました。


23 わが国におけるPL法

 ヨーロッパではEC指令がまとまり、それに基づき各国は相次いでPL法を制定し
ました。このような機運の中、国際的ハーモナイゼーション(国際的な協調、調和)
の要請もあり、わが国においても細川護煕内閣が誕生したという時運のなか、難産の
末やっと製造物責任法が誕生したのです。

 「PL」という言葉や「製造物の欠陥が原因で被害が発生した場合に製造業者など
が負う責任」という意味だけは同じですが、アメリカにおけるPL訴訟、ヨーロッパ
各国のPL法、そしてわが国のPL法は、その要件や効果を異にするものです。特に
アメリカを始め英米法のコモン・ローを背景とする国々においては懲罰的損害賠償は
当然のものとして認められていますが、わが国の裁判所ではこれを認めておらずわが
国のPL法も明言していません。以上述べたように、「PL法」と一口で言ってもわ
が国のPL法とアメリのPL訴訟やヨーロッパ各国のPL法制と異なっており、これ
らを区別するため本稿ではわが国のPL法を「日本PL法」と呼ぶことにします。


24 日本PL法の特徴

 日本PL法は6箇条だけから成るきわめて条文の少ない法律です。日本PL法の詳
細については、私が編集・執筆に加わった「よくわかるPL法」(総合法令)をご参
考していただくことにして、本稿ではそのさわりだ けを簡単にご説明致します。

 日本PL法の特徴は、製造物責任を追求するには製造物に欠陥があることを立証す
るだけでよく、製造者などの故意・過失を立証することまではいらないこととしまし
た。これが日本PL法の中心的テーマです。この他にも、製造者と表示した者にも責
任を負わせること、製造業者が責任を免れる場合を「開発危険の抗弁」と「部品製造
業者の抗弁」の二つに限定したこと、時効期間なども条文化されました。また先ほど
の中心的テーマは、日本PL法が制定される以前でも、既にいくつかの判例では製造
物に欠陥がある場合には、製造業者の過失を認定していました。したがって、日本P
L法制定の意義は重要ではありますが、被害者救済の視点からはその前進はきわめて
わずかだったと言ってよいでしょう。製造物責任を追及するための弁護士報酬をどう
負担させるか(取締役の責任追及の局面では立法化されています)、欠陥製品を製造
した悪質な事業者に多額の損害賠償を負担させる(特許法などでは損害賠償について
の特則が規定されています)などの制度は採用されませんでした。結局、日本PL法
は、アメリカのPL訴訟とは全く異質なものとして制定されたのです。

 日本PL法施行以後、日本PL法に基づく訴訟件数は年間2、3件しかありませ
ん。アメリカにおいて年間1万件を超える訴訟件数とは雲泥の差です。この件数だけ
を見ても日本PL法がアメリカのPL訴訟とは全く別物であることがおわかり頂ける
と思います。日本PL法の訴訟件数の異常な少なさは、日本PL法が被害者救済のた
めに、いかに微力で貧弱な内容しか持ってないかを如実に示すものです。

 PL法についての概観してきましたが、次回は、本題の「コンピュータ・プログラ
ムにPL法が適用されるか」の問題についてご説明致したいと思います。

☆本記事はセキュリティ専門メールマガジン"Scan"よりの転載記事です。
http://www.nifty.ne.jp/mguide/SCAN_sam.htm (NIFTY SERVE会員)
http://www.so-net.ne.jp/scan/ (一般)


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