Re: コンピュータ・プログラムとPL法(その2)


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投稿者 たけしくん 日時 1999 年 2 月 17 日 18:01:23:

回答先: コンピュータ・プログラムとPL法(その1) 投稿者 たけしくん 日時 1999 年 2 月 17 日 17:59:55:

西暦2000年問題メーリングリストより転載
http://www.y2kjapan.com/jp/docs/ml/index.asp


第11回 コンピュータ・プログラムとPL法(その2)
日野法律特許事務所 http://hino.wepro.com/
弁護士・弁理士 日野修男 nobuo.hino@nifty.ne.jp

要約
 前回、PLの概念と日本PL法の特徴をご説明致しました。今回は日本PL法のも
とで、コンピュータ・プログラムが「製造物」といえるか、日本PL法の適用がある
かについてご説明致します。


25 「コンピュータ・プログラム」は「製造物」?

 日本PL法は、第1条で「この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財
産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定める(後
略)」としています。そして、第2条1項は、「この法律において、「製造物」と
は、製造又は加工された動産をいう。」と規定しています。また、「動産」は民法に
定義されており、不動産以外の「有体物」をいうとされています(民法85条、86
条)。有体物とは、これまた難解な言葉ですが、空間の一部を占めて有形的存在を有
する物とする解釈があります。

 それでは、コンピュータ・プログラムは日本PL法が規定する「製造物」でしょう
か。コンピュータ・プログラムは、コンピュータに対する一連の指令です。コン
ピュータ・プログラムを保護する法律である著作権法は「電子計算機を機能させて一
の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現し
たもの」と定義しています(著作権法第2条)。これらは、コンピュータ・プログラ
ムを「指令」あるいは「指令を組み合わした表現」と定義しており、この定義から、
物理的な存在としての「物」とは言えません。すなわち、コンピュータ・プログラム
それ自体を「製造物」ととらえることはできないと考えられます。このような判断を
せざるを得ないのは、日本PL法が「製造物」を「製造又は加工された動産」と定義
しているからです。すなわち、「コンピュータ・プログラム」は日本PL法第2条1
項の「製造物」にあたらないので、日本PL法の適用はないという解釈に至らざるを
えません。

 ちなみに、21に述べたとおりアメリカにはPL法はありません。その既決とし
て、アメリカにはPL訴訟の対象となる"product"を定義し、その結果PLの対象を
限定したり制限する法的根拠はありません。アメリカのPL判例の要件を集大成した
リステイトメントにおいても、単に"any product"とのみ表現されています。

 日本PL法の解説本の多くはここで説明が終わっています。本稿では、コンピュー
タ・プログラムに欠陥があって、それが原因で被害を被った場合に、日本PL法を利
用する余地はないものか、コンピュータ・プログラムを「製造物」の枠内に入れ日本
PL法を使うことができないか、日本PL法が使えない場合にはどうするか、さらに
検討してみましょう。


26 コンピュータ・プログラムの欠陥を追及する方法

 「コンピュータ・プログラム」そのものは、25で述べたとおり、日本PL法が規
定する「製造物」に該当するということは、ほとんど不可能です。コンピュータ・プ
ログラムは物理的な存在としての「物」と言えないからです。

26−1 「コンピュータ・プログラムを記録した媒体」は「製造物」?
 「コンピュータ・プログラムを記録したフロッピーディスクやCD−ROM」は、
日本PL法第2条1項の「製造物」といえないでしょうか。これらフロッピーディス
クやCDなどを製造物ととらえる場合には、これらの媒体の製造者が製造物責任を負
うことになります。コンピュータ・プログラムの制作者とこれらの媒体の製造者とが
一致する場合が多いでしょうから、コンピュータ・プログラムを記録した媒体の製造
者の責任を追及することにより実質的にコンピュータ・プログラムの制作者の責任を
追及することもできそうです。しかし、媒体そのものの欠陥(たとえば、CD−RO
Mに傷があった場合)による被害の場合には、コンピュータ・プログラムを記録した
媒体の製造者の責任を追及することは可能です。しかし、媒体に記録されているコン
ピュータ・プログラムの欠陥は、コンピュータ・プログラムそのものの欠陥にほかな
りません。コンピュータ・プログラム自体が製造物とは言えない以上、コンピュータ
・プログラムを記録した媒体の製造者に、コンピュータ・プログラムの欠陥について
製造物責任を追及することは、まず不可能と考えるべきでしょう。

26−2 「コンピュータ・プログラムをインストールしたパソコン」は「製造物」

 それでは、「コンピュータ・プログラムをインストールしたパソコン」を日本PL
法第2条1項の「製造物」ととらえることはできないでしょうか。コンピュータ・プ
ログラムとパソコンが別売りとなっている場合には、コンピュータ・プログラムとパ
ソコンは別物と考えざるを得ず、コンピュータ・プログラムをインストールしたパソ
コンを一体として「製造物」と考えることは困難でしょう。それでは、特定のコン
ピュータ・プログラムをプレインストールしてあるパソコンはどうでしょうか。この
場合には、コンピュータ・プログラムとパソコンは一体として販売されるという社会
的実態があります。また、コンピュータ・プログラムの欠陥かパソコンのハードウェ
アの欠陥かの判断の責任をユーザや消費者に負担させることは日本PL法の趣旨にも
反すると考えられますので、「コンピュータ・プログラムをインストールしたパソコ
ン」と、一体にとらえて「製造物」と判断できる余地があると考えられます。


26−3 「家電製品などのマイクロ・チップに組み込まれたコンピュータ・プログ
ラム」は「製造物」?

 それでは、家電製品などのマイクロ・チップ(下段参照)に組み込まれたコン
ピュータ・プログラムに欠陥がある場合にはどうでしょうか。この場合には、家電製
品を一個の製造物ととらえることができます。したがって、マイクロチップに組み込
まれたコンピュータ・プログラムの欠陥で家電製品が誤作動を起こし、それが原因で
被害を被った場合には、家電製品に欠陥があったと主張して日本PL法に基づく請求
が可能と考えられます。

 この場合、マイクロチップは家電製品の部品にあたります。したがって、マイクロ
チップの製造業者は、日本PL法第4条2項が規定する「部品製造業者の抗弁」が可
能で す。すなわち、@他の製造物の部品として使用されたこと(部品性の要件)、A
その欠陥が他の製造物の製造業者の設計指示に従ったこと(設計指示従属性の要
件)、Bその欠陥が生じたことについて過失がないこと(無過失の要件)、以上の三
要件を満たす場合には部品製造業者は責任を負いません。

*「マイクロチップ」:マイクロ・プロセッサとも呼ばれています。小さなシリコン
・チップの上に、プログラムを容易には変更できないように組み込んでいます。本稿
でもご説明を予定している2000年問題では「埋め込みチップ」(embedded
chip)、「埋め込みシステム」(embedded system)とも呼ばれています。

参考文献:総合法令出版「よくわかるPL法」(第一東京弁護士会新進会PL実務研
究部会編」


コンピュータ・プログラムとPL法は、次回のpart 3で最終回です。
PL法が適用されない場合には、どのような対応があるかについて、
ご説明いたします。

☆本記事はセキュリティ専門メールマガジン"Scan"よりの転載記事です。
http://www.nifty.ne.jp/mguide/SCAN_sam.htm (NIFTY SERVE会員)
http://www.so-net.ne.jp/scan/ (一般)


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