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投稿者 にゃにゃ 日時 1999 年 1 月 09 日 20:56:18:

 しかし、ヘンリエッタの癌の一部は生き残った。手術の際に、彼女の悪性腫瘍の小片が、組織細
胞培養を専門にする研究所に送られたのである。当時、組織細胞は挫折につぐ挫折を繰り返してい
た。ヒトの細胞を体外で増殖させる試みはたいてい失敗に終わり、まれにいくつかの細胞が短い期
間生き残ったとしても、しばらくすると死に絶えてしまった。
 ところがなぜか、ヘンリエッタの癌細胞は活発に増殖を続けた。そしてついに彼女の悪性腫瘍細
胞は、医学の歴史において、ヒトの「細胞系」の組織培養で最初の成功例となった。これが現在
ヒーラ(HeLa)」細胞として知られるもので、この名称は、今や伝説となったヘンリエッタ・ラ
ックス(Henrietta Lacks)の名前に由来する。
 ヘンリエッタの癌細胞を生かし続けるのに使われた培養基は、実験室で配合されたものというよ
りは、魔女の秘薬とでもいったほうがいい代物だった。にもかかわらず、この配合物の成功が、現
代ウィルス学の新時代の到来を告げることになった。
 マイケル・ゴールドによると、ヘンリエッタの癌細胞の培養に用いられた混合物は、以下のとお
りである。


 (1) 人間の胎盤から採った血液(胎盤は大事に栄養を補給する嚢で、強力なホルモンと、まだ完全にはわ
  かっていないさまざまなウィルスや細菌を有している)

 (2) ウシの胎児の抽出物(牛の胎内から取りだした妊娠三週間の胎児をすりつぶした残り物)
 (3) 生きている雛ドリの心臓から採った新鮮な血漿


 雛ドリとウシと人間の血液と組織を与えられたヘンリエッタの不死身の癌細胞には、いったいど
れほど大量の雛ドリとウシと人間のウィルスが混じりこんだことであろう。だが、そんなことに心
を煩わす者は、ウィルス学者にも微生物学者にもいないようだった。ヒーラ細胞には感染因子はい
っさい入りこまなかったと、彼らが固く信じていたのは疑いなかった。
 それはともかくとして、ヘンリエッタの細胞がこの混合物によって生き永らえたばかりでなく、
きわめて丈夫であることもわかったので、その後の二、三〇年にわたって、あちこちの研究室を回
されることになった。そしてその際、この「不死身」のヒーラ細胞系は、癌ウィルスの研究に使わ
れている他の培養細胞系を頻繁に汚染したのである。
 1960年代の終わりになって、ヒーラ細胞による汚染が広範囲に及んでいることが明らかにな
ったとき、科学者たちは、何百万ドルもかけて実験をし発表もしてきた癌研究が無に帰したことを
知って、愕然とし、狼狽した。たとえば、癌の実験で用いた「肝細胞」と「サルの細胞」が、実は
ヘンリエッタの子宮頚管の癌細胞が姿を変えたものだということがわかった。さらに、良性の細胞
が悪性の細胞に突然「自然発生的に変化」したものを、あとで調べなおしてみると、これもやはり
なにかの拍子にヒーラに汚染された細胞培養であることが判明した。
 1970年代後半から80年代にかけて、「新しい」ヒト癌ウィルスとエイズ様ウィルスの「発
見」として発表されたうちのいくつかは、実は「古い」汚染ウィルスの変身したものであることが
明らかになった。
 ヒーラ細胞の汚染の場合がそうであったように、癌研究にたえずつきまとうウィルス汚染の問題
に関して、ウィルス学者は申し合わせたかのように一様に口をつぐんでいる。そのいい例が、ヒト
白血球細胞から培養した「新しい」ヒトレトロウィルス、「HL23」の分離である。この「新し
い」ウィルスは、後になって、一種類ではなく二種類の「古い」サルの汚染ウィルスであることが
明らかにされた。
 ウィルス学の専門家を別にすれば、こういった深刻なウィルス汚染の問題を知る者はほとんどい
ない。いったいエイズは、実験室のウィルスがなにかのはずみで「外に漏れた」のが始まりなのだ
ろうか。あるいはひょっとして、サルのエイズ様ウィルスに汚染したワクチンを接種することによ
り、アメリカのゲイとアフリカの黒人の間へ「持ち込まれた」のだろうか。そしてそれを「隠蔽」
するために、アフリカミドリザルに罪が着せられたのだろうか。
 エイズのおかげで、ウィルス学者たちは、癌の原因がヒトのウィルスであることを証明したかの
ようにみえた。しかし、ストレッカーや私のように、深い疑いを抱いている者もいた。なるほどウ
ィルス(と細胞)をある種の癌細胞から分離し増殖するのが可能なのは、疑問の余地がないだろう。
だが、この癌ウィルスは癌の原因なのだろうか。それとも結果なのだろうか。ウィルスが実際に癌
を誘発したのだろうか。あるいは、癌性細胞が何らかのかたちでウィルスを引き寄せて「捕らえ
た」のではないのか。これは昔からよくいう「どちらが先か」――卵か鶏か――の謎解きと同じだ
った。
 動物とヒトの癌ウィルスで問題なのは、多くの癌ウィルスが本来的に「外因性」であることだっ
た。動物や人間がふつう体内に持っているものではないのである。「獲得」しなければならないも
のなのだ。自然界には存在せず、実験室でつくりださなければならないものだった。ストレッカー
と私は、何人かのウィルス学者が、癌ウィルスは基本的には実験室でつくられた人工産物であるこ
とを臆面もなく認めているのを読んで、びっくりした。
 それに加えていえば、癌ウィルスを動物から分離するのはきわめて難しいことなのだ。たしかに
いくつかの癌ウィルスは増殖させることが可能だが、それは、主として同系交配させた免疫不全の
実験動物に生ずる、ある種の癌腫瘍から取ったものだけである。
 癌を誘発するいくつものウィルスが人工的につくられている。それらを動物に注射すると、しば
しば癌を引き起こし、死に至らしめる。しかしそれでも、それが自然に癌を誘発した証拠にはなら
ない。
 このような実験はどれも、ウィルスが動物の癌の原因であることを「証明」しようとするものだ
が、批判者の目には、自然界では癌がそのようなかたちで生じることは絶対にないのは明らかであ
る。

 ヒーラ細胞による汚染のほかにも、癌ウイルス研究にはいろいろと大きな困難が伴ったが、それ
はともかく、一九七〇年代初期にウイルス学者が直面していた最大の難題は、ウイルスがヒトの癌
の原因であるということをはっきり証明することだった。何百万ドルもの金を注ぎこみ、何年もの
歳月を費やしながらも、残念ながら彼らはいまだに、ウイルスとヒトの癌とのつながりを示す確か< br>な証拠を提出できないでいた。しかも時間は刻々と過ぎていく。
 しだいに募っていく癌ウイルス学者たちの焦燥感は、 一九七三年に南カリフォルニアのパシフィ
ック・グロープに近いアシロマで開かれた会議の参加者たちの表情にも、はっきり表れていた。
「生物学研究におけるバイオハザード」と題するこの会議を主催したのは、ニューヨーク州コール
ド・スプリング・ハーバーにあるコールド・スプリング・ハーバー研究所である。
 会議に集まったのは、政府管韓の有力な医療機関をはじめ、 一流大学医学部、大きな影響力を有
する大製薬会社の代表者たちだった。アシロマ会議の参加者は、アメリカで最良最高の頭脳をもつ
癌ウイルス学者たちであった。
 バイオハザード(生物災害)は、医学における深刻な問題である。会議には、アメリカでも最高
の設備と技術を備えた研究所の責任者が参加していたが、これらの研究所は、癌ウイルスを研究し、
それをつくりだすことを目的とする。
 そのため、これらの研究所には多くの危険がつきまとう。職員がウイルスにさらされる危険がつ
ねにあるが、それもこれまで知られているウイルスだけでなく、実験室で新たに合成された危険な
ウイルスの可能性がある。
 癌研究者たちは、細胞培養に際してあらゆる種類のウイルスを扱っていた。そのうえ、癌や免疫
不全、日和見感染、その他死に至らしめる病気を発症させるだけの目的で、さまざまなウイルスを
動物に注射したり食べさせたりしていた。
 彼らは、ある種から別の種へ強制的にウイルスを「飛び越え」させて、動物に新しい病気を発生
させた。雛ドリのウイルスをヒツジの腎細胞に植えつけることも行った。ヒヒのウイルスをヒト癌
細胞に接合したり、サルのウイルスをヒトの血球の中で増殖させた。サル白血病ウイルスをラット
の組織細胞に植えつけることもした。つまり、考えられるかぎりありとあらゆる組合せの実験を行
ったのである。
 しかし、こうしたさまざまな生物発生学的実験を行ったにもかかわらず、ウイルスがヒトの癌の
原因である確かな証拠は見つからなかった。
 国立癌研究所(NCI)のロバート・ミ一フーはこの点を強調して、会議の参加者にこう語った。
「人間の癌はウイルスによって引き起こされるのだろうか。これまでの調査ではウイルスが関係じ
ていることを示す証拠は見つかっていない。……ウイルスによって誘発される人間の癌が存在する
ことを示す疫学的方法を、われわれはまったく持っていない」。
 他の参加者たちはもっと楽観的な見方をしていた。ハーヴァード大学公衆衛生研究室の疫学者、
フイリップ・コールは、慎重な実験と最高の疫学調査が結びつけば、ウイルスと癌の関連を証明で
きると確信していた。 く
 コールは、並列して遂行できる二つの疫学調査のビジョンを展開してみせた。 一つは「遡及的」
コホート調査で、もう一つは「予期的」コホート調査である(「コホート」というのは疫学用語で、統計
学的調査の目的で集められた、ある性質を共有する個体集団をさす)

 「遡及的」調査は、癌の原因とみられるウイルスに過去においてさらされたことのあるグループ
を対象にする。このコホートの「通常の」癌発生の「期待値」は、癌腫瘍登録所が集めた統計から
割りだすことができる。もしウイルスに「さらされた」グループがこれより高い癌発生率を示せば、
ウイルスと癌とのあいだに原因結果の関係があると見なすことができる。
 「予期的」調査は、「将来において」癌ウイルスにさらされるかもしれないグループを対象にす
る。このコホートはウイルスにさらされる以前に前もって検査をしておき、将来に向けて「追跡調
査」を行う。 一定期間ごとにコホートのメンバーから血液を採取して、ウイルスの抗体検査を行う
のである。この血液試料はストックしておき、ときどき検査をする。癌ウイルスにさらされる前と
後の血液試料を検査することで、いつ感染したのかを特定することができる。
 このような疫学調査を行うにはまた、「監視システム」と、さらにはコホート内の癌発症と死亡
を報告する中央管理局が必要になる。
 コールは二つの点を強調した。
 その第一は、「この疫学調査は、必ずしも(ウイルス)研究所の研究者に限る必要はない」こと。
 コールの挙げた第二の点は特に強調するに値する。「私がいま述べた疫学調査は、ことにそれが
肯定的なものである場合は、単にわれわれの健康上の問題にとどまらず、はるかに大きな意味をも
ちうる。必ずや、ウイルスがヒトの癌の原因であることの強力な証拠の一つとなるに違いない
チック部分
は筆者)
。……とにかく私には、ヒトの癌と、水平伝播の腫瘍原性(癌)ウイルスとの関連
を調べるのに、これ以上優れた疫学調査は思いつかない」。
 (コールがこう述べてから一〇年を経ずして、彼のビジョンは現実のものとなった。B型肝炎のゲイのコホート
が、アメリカにおけるエイズの疫学モデルに姿を変えたのである。コールの所属するハーヴァード大学公衆衛生研究
室は、エイズウイルス発見で大きな役割を果たすとともに、アフリカにおける「新しい」ヒトとサルのエイズレトロ
ウイルス発見の立役者になる。)

 アシロマ会議のいちばんの焦点は、研究に伴う危険性についてであった。ハーヴァード大学医学
部のマイケル・オクスマンは、ウイルス研究におけるバイオハザードの可能性についてこう語った。
「われわれは実験から自分自身と他人を守るために、何らかの防壁を建てる必要がある。…‥そし
て、不自然な経路による感染か、あるいはウイルスが物理的ないし遺伝的に変化した結果によって、
この防壁が破られたときの危険性を認識しておく必要がある。……なかには個人的野心を抱く研究
者がいて、ある種の危険を冒そうとするかもしれない」。
 イエール大学医学部のフランシス・プラックのような科学者は、どうやら進んで危険を冒すたぐ
いの人間らしかった。彼はきっぱりとこう言った。「癌征服の使命をわれわれが心底感じているな
ら、ある程度の危険を引き受ける義務がある。先ほど言われたように、かりにそれで五人や一〇人
の生命が失われることになろうとも、それによって救われる人の数を思えば、小さな代償ではなか
ろうか」。
 会議の終わりに、将来、危険なウイルスが外部に「逃げた」場合に備えて「監視手続」を開始す
ることで、科学者たちの意見は一致した。監視システム と中央管理局を設置することにより、ウイ
ルスがヒト癌の原因であることを証明するという命がけの使命を遂行しているウイルス学者に、重
要な疫学データを提供することができるだろう。
 アシロマ会議の議事録を読みながら、私は気にかかる問題を探したが無駄であった。わが国の健
康をコントロールしている赫々たる科学者たちのだれも、その問題を提起していなかった。
 研究所が完全には安全でないのは明らかである。最先端技術を備えたその研究所のどれかから有
害なウイルスが漏れた場合、専門家たちはそれを食いとめるためにどのような手を打つのだろうか。
遺伝子工学が生んだ癌ウイルスによって引き起こされる死病から、どうやつて国民を守るつもりな
のだろうか。そのウイルスは瞬く間に大勢の人の生命を専ってしまうかもしれないのだ。

 残念ながら、こういつた疑間に対する答えは一つも見つからなかった。そもそも、こういう問題
提起がなされていなかった。科学者たちの関心はひたすら、自分の研究所のウイルスが人間の癌を
誘発することをなんとしても証明する、という「使命」にあるようだった。
 一九七六年に至っでも、ウイルス学者や「癌との戦い」にとって、時間は相変わらずいたずらに
過ぎていくだけだった。政治家たちは、いつまでたつても癌の原因と治療法を見つけられないウイ
ルス学者にいらだっていた。政治的圧力がかかって、一九七六年一一月にラウシャーがその地位を
辞任した。
 一九七七年に、環境問題専門家のアーサー・アプトンが、全国癌対策プログラムの新しい責任者
に任命された。アプトンの指揮のもとに、癌研究の力点は、癌における環境要因の評価に置かれる
ことになる。その時点を境に、癌におけるウイルスの役割はあまり顧みられなくなった。
 一九七八年になって、政府機関所属の科学者の監視の下に、ゲイのコホートが形成された。その
年の一一月、ニューヨーク市マンハッタンで、B型肝炎の実験用ワクチン試験が開始する。
 志願したゲイたちは、みな若くて健康だった。実験材料としてまさに申し分なかった。特に彼ら
が選ばれた理由は、その生活様式と、性的に乱交であることにあった。しかも彼らは非常に協力的
だった。彼らは、政府所属の科学者と疫学者の厳しい「監視」下に置かれることになった。
 一九七九年になると、マンハッタンの医師たちは、若くてそれまで健康だった男性同性愛者たち
のあいだに、新しい死病が流行っているのに気づいた。気の毒に多くの者が、手の施しようのない
重い感染症で死んでいった。彼らの顔や体には、カポジ肉腫特有の奇妙な紫色の斑点が現れていた。
この新種の癌性「緋文字」は、これらの男たちが不治の病で死にゆく倒錯者であることを示す熔印
であった。


 何千というゲイやその他不運な者たちの恐ろしい死によって、科学者たちは、使命を達成するの
に欲しくてたまらなかった証拠を手にすることができた。
 まったくの偶然から、起源不明の奇妙な新しいウイルスが、若いゲイの男たちの間に「持ち込ま
れた」のである。注目すべきことは、この新しいウイルスは癌を――そして免疫不全を――そして
日和見感染を――そして死を――もたらすことができたことだ。
 ゲイのこの奇妙なウイルスのふるまいは、癌研究所の構に閉じこめられて恐怖に鳴き叫んでいる
数知れぬ動物たちに注射した癌ウイルスのふるまいにそっくりだった。
これはまったくの偶然、
思いがけぬ幸運がもたらした出来事だった。ウイルス学者の「使命」は完遂された。といって、彼
らは使命を達成するのに何をしたのでもない。エイズウイルスは自然の不幸な事故によるものであ
った。アフリカで生まれ、種を「飛び越え」て、ミドリザルから人間の体に入りこんだウイルスだ
った。
 思いがけない巡り合わせによって、政府機関の疫学者たちは、B型肝炎の実験のために政府の要
請で形成されたゲイのコホートに、完壁な「モデル」を見いだした。数年前にアシロマで仮想のも
のとして描かれた計画が、不思議にも実行に移されたかたちになったのである。
 マンハッタンの若いゲイたちは、「癌とウイルス」の結びつきを証明するための、完壁な「遡及
的」コホートであり、また完壁な「予期的」コホートだった。七〇年代半ば以降、いくつかの大都
市で、ほかにも何千というゲイたちが「監視」下に入っていた。これらのゲイはみな、癌ウイルス
学者と政府の疫学者の実験に役立たせるためのものだった。
 疫学者はゲイの血液試料を採取し、「将来に向けて」彼らを「追跡」できるよう、名前と住所を
記録した。ゲイたちはきわめて協力的で、三ヵ月ないし六ヵ月ごとに血液試料を提供した。
 マンハッタンでエイズが発生すると、このゲイたちのB型肝炎のコホートは、たちまちエイズの
コホートヘと早変わりした。エイズウイルスがゲイから一般市民へと広がるようすを追跡する疫学
モデルとして、このコホートは完壁な役割を果たした。サンフランシスコやロサンゼルスなど、他
の大都市のゲイ・コホートも、事態はまったく同じだった。
 やがて時とともに、このB型肝炎のコホートは死のコホートヘと変わるのである。


 エイズウイルスの発見がこれほど早くなされたのは、近代医学の歴史において前例のないことで
ある。
この新しい「ゲイの疫病」は、ウイルスが癌と免疫抑制の原因であることの確かな証拠にな
った。
 一九八四年のエイズウイルスの発見は、医師たちにとってまさに驚嘆すべき事件だった。彼らの
多くは、エイズを引き起こすのはサイトメガロウイルス(CMV)であると誤って思いこんでいた
のである。もっとも、そういう誤解を抱いていたのも理解できなくはない。CMVは体液に混じっ
て、性行為によって感染するウイルスである。CMV感染症は性的に乱脈なゲイのあいだに蔓延し
ていて、精液によってうつった。
 エイズの初期のころ、医師たちはウイルス学者、免疫学者、疫学者らによって、エイズの原因は
CMVの可能性がもっとも高いと教えられていた。だが、エイズウイルスが発見されると、CMV
原因説は急速に時代後れになった。それ以後、政府の科学者たちは「新しい」ウイルスと、それが
引き起こす「新しい」疫病について必要なことを、慎重に医師たちに教えるようになった。
 ストレッカーは、ウイルス学者と免疫学者は最初からエイズウイルスの本当の「起源」を知って
いたのだ、と主張した。たしかにそう一言われれば、彼らが知らないはずはなかったように思われる。
七〇年代の初めにウイルス学会誌に載った実験結果は、動物の癌ウイルスが、癌や免疫抑制や日和< br>見感染の原因になりうることを明らかにしている。経験豊富なレトロウイルス学者にとって、八〇
年代の「新しい」エイズの華々しい発見は、明らかに一〇年前の実験の焼き直しだったのだ。
 わが国で最高の頭脳を備えた科学者たちは、聡明なはずであるにもかかわらず、いったん人間界
に「持ち込まれた」エイズウイルスをどうやって食い止めたらいいのか、かいもく見当がつかない
でいた。しかしこれは、「癌との戦い」の代表格であった動物癌実験が、本当はどんなものであっ
たかを知っている者にとっては、何ら驚くべきことではなかった。
 結局、動物実験や細胞実験の第一目的は、遺伝子の死の小包によって癌をつくりだすことにあっ
たのだ。実験を行った科学者たちが癌の治療法も考えだすべきだなどと、だれも要求していなかっ
た。それはこの科学者たちの仕事ではなかった。
 ストレッカーは私に、きみは癌専門家のことをもっと知るべきだ、と力説した。たしかにそれは
もっともな考えに思われた。というのも、多くのエイズ専門家は死にゆく患者の手を取ることなど
めったになかったにもかかわらず、エイズについて私の知らないことをいっぱい知っているようだ
ったからだ。
 どうして彼らはこんなに急に賢くなったのだろう。私は不思議でならなかった。




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