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Re: ユーロ、国民国家、世界通貨 投稿者 あっしら 日時 2002 年 5 月 30 日 18:20:10:

(回答先: ユーロへの疑問 投稿者 楽観派 日時 2002 年 5 月 30 日 12:27:44)

楽観派さん、こんにちわ。

● ユーロに対する疑念

ユーロは、これまでの通貨が国家(政治的支配)領域の拡大で通用範囲を広げていったのとは異なり、通貨の通用範囲を先行的に拡大させるという“歴史的大実験”です。

ユーロについては、加盟国に所得格差・産業構造の差異・生産性格差があるなかで、それを調整する一つの手段である為替レート変動がなくなることを意味するので、大きな疑念を持っています。

労働力移動の完全な自由は実現できないなかで、資本移動の完全な自由は実現されます。
さらに言えば、土地の移動はできないし、農業資本の移動も難しく(家族経営と保護政策)、産業及び金融資本の移動が中心になります。
(労働力の移動は、労働者が言語的・文化的に異なる場所に移動したくないと考えることや言語的・文化的に異なる人を多くは受け入れたくないと考えること、そして、国家の社会政策の強い影響を与えるために、強い抑制がかかります)

産業資本は、労働者の質がそれほど劣っていなければ、賃金水準が低く失業率も高い地域(国)に生産拠点を造りたいと考えるはずです。(ドイツの自動車メーカーが東欧に生産拠点を移しているように)
金融資本は、拠点を増やすというかたちで既存の金融資本と競争を展開することになります。

このような変動がうまくいくのは、それにより、EU(ユーロ圏)からそれ以外への輸出が拡大していった場合のみです。
生産コストが低下することで北米・アジア・東欧などに輸出が増大していけば、EU全体がうまく循環します。そうであれば、金融資本も、パイの奪い合いだけではない競争を通じて拡大していくことができます。

しかし、輸出の拡大が実現できなければ、生産する場所(国)が移動しただけの話になります。
そうであっても、産業資本は、低コストというメリットを受け利益を享受したと考えるでしょう。しかし、これは一時的に通用する論理でしかありません。

同一メーカーが低コストを実現したということは、基本的に支払賃金が少ないということですから、EUの総需要を減らしてしまうことになります。
ドイツの自動車メーカーであれば、高賃金のドイツ人で生産することで、その労働者にも車を購入してもらうにとどまらず、他の商品も購入してもらうことで、他の商品を生産している労働者にも車を買ってもらっていたのです。
ドイツの生産拠点が減少していけば、そこで働いていた労働者が失業したり所得水準を下げてしまうことになったりします。これを通じて、他の産業やドイツ向け輸出国にも影響を与えます。(これがドイツや欧州に苦境をもたらした一つの要因です)

国債や債券の発行でも問題が生じます。
端的に言えば、同じユーロを政府が借り入れるにしても、ドイツとイタリアであれば、イタリアのほうが割高の金利を支払うことになります。(これまでであれば、名目金利は高くても、インフレ率や為替レートで調整することができました)


世界経済の現状に照らすと、ユーロがもたらすものは、EU圏の所得平準化でしょう。
所得水準が高い国民が所得を減らし、所得水準が低い国民が所得を増やすということです。
最も割を食うのは産業競争力で高水準の所得を実現してきたドイツ国民です。
今後加盟が予測されている東欧やスペインなどは、相対的に有利になります。

最悪の結果は、所得平準化が所得総和の低下で実現されることです。
東欧で生産される自動車が東欧地域でなく、ドイツなど先進国の需要をあてにして生産されたものであれば、思うように売れなくなります。(所得が増大した東欧諸国の国民は、高級自動車ではなく他の商品を購入するでしょう。そのような商品を生産している産業は成長することになります)

高級耐久消費財の不振は、総和の所得を低下させることになります。

ユーロ圏の行く末は、このようになる可能性が高いと考えています。


● 人は国家を捨てられるか

「人間は国を捨てることができるかどうか」という問題については、人は国家を捨てることはできると考えています。(生まれた地域や言語的文化的同一性から容易に離れられるという意味ではありません)

というのは、近代国家=国民国家という帰属意識や価値観が生まれたのは200年ほど前でしかないからです。(日本の場合は140年ほど前)
それ以前は、家族→共同体(ムラ)→国という重層的な帰属構造で、大多数の人々は、家族→共同体(ムラ)という帰属意識を支えに生活していました。

近代国家の歴史過程のなかで、家族(血縁共同体)と共同体(地縁共同体)の重みは減退し、国家と家族(個的血縁共同体)の関係性が重みを増すようになりました。

家族→共同体(ムラ)→国という重層的な帰属構造のなかで生活していた人たちにとって、その構造を捨てて国家に帰属するという考えは、現在のコスモポリタニズムと同じように、極めて特殊なものだったはずです。

家族(血縁共同体)がその意義を減らしていったのは、生産・消費・再生産の場であったものが、生産という側面を失い消費・再生産(この機能も減衰)の場になったからだと思っています。
共同体(地縁共同体)がその意義を減らしていったのは、その役割の多くが国家及び地方政府(自治体)に吸収されていったからです。

近代国家樹立の根源的な動機は、軍事的対外競争力の強化と市場の拡大的統一(外に対する壁の要素を含む)だと考えています。
先進国間の戦争が現実性を失い、様々な制約があるとはいえ世界市場が与えられている現状で、主要経済主体が国家にこだわる必要はありません。

一般国民にしても、個人と家族(核)がベースになっている現状では、現在の国家が現在の地方政府(自治体)の役割を担い、現在の国家の上に新たな統治形態が出現しても不都合ではありません。
このような変動があったとしても、現在の国が言語的文化的同一性を喪失させられるわけではありません。
主権が制限されるのは、対外軍事力の行使・国家間通商のルール・企業税制に絞られ、教育や民生政策は現在の国家の裁量に委ねられると考えています。

現在の主権国家の上位に立つ世界政府ができるよりも先に、“世界通貨”が導入されると考えています。それも、まずは、国際取引に使われる通貨としてです。
その“実績”をベースに、“世界通貨”が国内通貨として入り込み、その“実績”をベースに世界政府構想が打ち出されると考えています。

このようなシナリオが現実的に出てくるのは、「世界同時大不況」や「米国のデフォルト=ドル信認の急落」という世界経済の行き詰まり状況のなかだと考えています。
“世界のこの苦境を救うために!”という大義名分が掲げられて、世界通貨構想が打ち出されると思っています。(ここ2、3年後の話だと予測しています)

※ お断りしておきますが、このような動きには反対です。家族(“生産”・再生産の場)→地域共同体→国→世界(概念及び調整機能としての)という重層構造を選択します。


>まず日本やECがドルを崩壊させるでしょうか?崩壊したとしても世界通貨が現れる
>と考えるのは国連が世界政府になると同じ位非現実的な発想に思えます。それならむ
>しろ金や石油などの現物に向かうのでは?

日本やECがドルを崩壊させたくないと思っても、崩壊せざるをえないと考えています。
逆の言い方をすると、71年から30年間、よくここまで国際基軸通貨としてのドルを崩壊させなかったものだと考えています。(米国は、85年から対外純債務国になり、それを膨らませ続けています)

日本をはじめとする対米輸出で経済成長を遂げた国は、自分のお金を米国に貸し付け、そのお金で自分が造った商品を買ってもらうことで経済成長を遂げてきたとも言えます。

米国に貸したお金が返済されないことがわかってもお金を貸し続ける人は、投資家として失格です。そして、正しい選択をして米国にお金を貸さなくなったら、自分を造った商品が売れる量が急減します。

それでも経済成長をなお志向するのなら、ドルに代わる国際決済手段に飛びつくことになるでしょう。(ユーロを含めてドルに代われるような既存通貨はありませんから、新たな世界通貨を創設するしかないと思っています)

米国政府も、このような動きをこれまでの借金をチャラにできる好機だと考えるでしょう。米国の公的金保有は8700トンくらいあります。(EUは1万2000トン、日本は750トン、中国は1000トン)
米国は、強大な軍事力を背景に借金を踏み倒し、保有する金を“有効活用”できる世界通貨体制に入っていくことになると考えています。

世界経済の仕切り直しです。

米国に対して厖大な債権を抱えている日本などは、とんでもないバチを被ることになります。(この時点で日本の貿易収支が赤字であれば、公的金保有が750トンしかない日本は、苦しい経済運営を強いられることになります)


『米国の「デフォルト宣言」→新世界通貨体制』( http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/237.html )にも書いたように、“世界通貨”は金をベースにしたものになると考えています。


>なぜなら戦後”国”に対する意識が飛躍的に高まったからです。国連は世界政府に
>なったでしょうか?むしろ弱体化する一方です。

国連(連合国)は、強大な権限を持った常任理事国制度があるとはいえ、主権国家をベースにした国家間調整機関であり、“実験モデル”とは考えられたかもしれませんが、世界政府ではありません。

世界政府は、欧州委員会のようなものになるのか、議会制や選挙制が持ち込まれるのかはわかりませんが、主権国家から独立した機関になると考えています。その機関は、決定の強制力や懲罰権を確保するために軍事力を保有すると思っています。


>つまりこれからはますます細分化したナショナリズムに向かうと考えます。いわゆる
>グローバリズムはアメリカ的価値観の押し付けというと言い過ぎでしょうか?

「グローバリズム=世界新秩序」と「細分化したナショナリズム(地域主義や反グローバリズムを含む)」の激しいせめぎ合いになると考えています。
(彼らが意識しているかどうかは別として、反グローバリズムの前衛はムスリムが担うことになると思っています)

「グローバリズムはアメリカ的価値観の押し付け」というより、国際金融資本の利益追求を保証する価値観の押し付けだと考えています。
(米国政権や米国シンクタンクは、国際金融資本の代弁をしているに過ぎません)

日本を含む「文明諸国」は、口先は別として、国民生活の利益よりも国際金融資本の利益を重視する人たちによって統治されています。


※ 参考書き込み

● 世界新秩序のおぞましさ

『Re: 二極化というより三極化の厳しい世界』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/251.html


● 国際金融家の歴史的な生成発展に関する説明

長いので、(金本位制と中央銀行)・(戦後世界)・(現在の世界)をお読みいただければ幸いです。

『【経済学者のトンデモ理論】デフレーション・インフレーションそして通貨』
(デフレとインフレ:貨幣の成立)http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/111.html
(金融家の登場)http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/122.html
(金本位制と中央銀行)http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/135.html
(戦後世界)http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/151.html
(現在の世界)http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/189.html


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