真説異説 そこが聞きたい(日経新聞2001年11月17日 26面)

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投稿者 sanetomi 日時 2001 年 11 月 17 日 09:40:22:

民主主義の社会では多数説が幅を利かせる。しかし、それは常に正しいとは限ら
ない。異説は通説を鍛える。日本の混迷を切り拓(ひら)く知恵は意外な発想に潜
んでいるかもしれない。第一回は中前忠氏に滝田洋一編集委員が聞いた。

(中前 忠 氏 中前国際経済研究所代表 1938年生まれ。東京大卒、大和証券を
経て現在の研究所を設立。欧米の多国籍企業や金融機関のアドバイザーなどを務める。)

今こそ高金利が有効

 −−日本経済再生のために高金利が必要と唱えていますが、不況に直面している
のだから金利は低くて当然でしょう。
 「バブル崩壊後、日本は金利を下げ続け、ついに短期金利はゼロ%になってしまった。
十年物国債利回りでみた長期金利も一%台。いまや、お金の値段である金利がつかない
状態になっている。こんな状況では過剰債務を抱えた企業の整理は進まない。設備、生産
能力の過剰という日本経済の病根は解決しない」
 「ゼロ金利によって、市場を通じた産業と企業の整理・淘汰(とうた)を封じている。
新しいビジネスは育たず、日本は長期的な衰退の道を歩んでいる。市場金利が上昇する
条件を整え、ある程度の金利負担に耐えられるかどうかで企業をふるいにかけることで、
閉そくを破る必要がある」

 −−でも今はデフレです。中前さんもバブル崩壊直後には、金融緩和などによるデフレ
防止策を強調していたではないですか。
 「日本が直面するデフレの根っこには冷戦の終焉(しゅうえん)に伴う大競争時代の到来
がある。単なるバブルの調整にはとどまらないことがはっきりしてきたからだ。国内の物価
上昇を促すインフレ政策をとっても、中国から安価な製品の輸入が増えるだけで、問題の
解決にはならない」
                                                  「
1ドル=160円狙え

 −−どうやって金利の上昇を促すのですか。

 「円安だ。日本経済の実力に見合った一ドル=一六〇円程度まで円相場の下落を促す政策
を明確に打ち出すことだ。実力以上の円高が続きすぎたため投資家が対外投資を控えるよう
になった結果、低金利が可能になってきた。購買力平価に見合った一六〇円を目指すと日本
政府が宣言して、何が何でも円安にもっていく。そうすれば資本流出が起こり、低金利の
前提が崩れ、長期金利が自然に上昇する」

−−外債を大量に保有する日本の投資家は、これまでも円高で為替差損を被ってきました。
一度の宣言で流れが変わりますか。

 「ドル・ユーロに比べて円・ドルの取引は当局の意向を反映しやすい。だから政府の決意が
モノをいう。実務を担当する財務省財務官ではなく、最高責任者である首相が円安を宣言し、
日銀が外債を購入するくらいのことをすれば、市場心理も一気に円安に傾く」

デフレ下で可能か  円安誘導し企業を淘汰

−−円安誘導には「近隣窮乏化論」のような批判が予想できます。米国など海外は認めますか。

 「日本経済が外国の評判を気にしていられるような状況でないことは海外勢はよく承知
している。文句を言うかもしれないが、経済の実力に見合った為替相場は止めようもない」

10年物5%超す

 −−円安で長期金利はどのくらいに上昇しますか。
 「十年物国債の利回りでみて、五−六%くらい」

 −−金融システムが破たんし、日本発の世界恐慌を
引き起こしかねませんよ。

 「金利上昇で問題が出るような銀行は、一時国有化すれば金融システム
不安は一挙に解消する。銀行は今のままでも、不良債権を抱え立ち行か
なくなっている。なのに、銀行国有化によるリストラという外科手術を
ためらってきたから、ゼロ金利政策をとらざるを得ず、経済がゆがんで
しまった。市場を通じてメスを入れれば、金融不安はむしろ鎮静するだろう」
 「それに、長期金利が上昇するのは、円安で日本から資本が流出して
いる局面である。日本の投資家が海外資産を売却し、資本が日本に還流
するのなら、米国などにも動揺が伝わることもあろうが、この場合、資
本の流れはその逆なのだから、日本発の恐慌など心配する必要はない」


どうする国債利払い増 危機を逆手に歳出削減

 −−高金利による経済構造の改革は、どんなプロセスを経て進むのですか。
 「五−六%の長期金利を払える企業が勝ち残り、そうでない企業は退場する。
鉄鋼や自動車をみても、日本の供給力は三割の過剰といわれるが、その過剰部分
が金利メカニズハムによって整理されるということだ。生き残り企業のシェアや
利益は一挙に高まる。マイカルの民事再生法適用申請が伝えられた日に、株式市場
で小売業の時価総額が増えたのは、象徴的だ」
 「ゼロ金利政策のもとで奪われていた利子所得が復活する。住宅ローンなどの
負債を差し引いた正味の個人金融資産は約千兆円。金利が五%になれば五十兆円
程度の利子所得が生じる。これこそ個人消費回復のための唯一の処方せんだ」

 空洞化緩やかに

−−金利上昇で負債コストが増加し企業活動は妨げられます。倒産による失業も
増えるでしょう。

 「高金利は円安とセットになっている。円安が進めば日本企業の輸出採算が好転
する。中国での工場建設など直接投資にもある程度ブレーキがかかり、空洞化
のテンポは二−三年くらい緩やかになる。時間を稼いでいるうちに、日本は産業
構造の転換を図るべきだ」

−−高金利の打撃は中小企業にとって深刻でしょう。あえて切り捨てるべきだと
いうのですか。

 「中小企業は大企業に比べて柔軟な経営が可能だ。賃金や経営者の報酬をカッ
トするなど変化への対応力は高い。銀行からの借り入れも経営者が個人保証をし
ているケースが多く、銀行にとっても良い借り手のはずだ。中小企業にとっては
金利よりも融資の継続が重要だ。大企業向け融資を前提にした資産査定に合致し
ないからといって融資を止めてはいけない」

 −−なかなかそうはいかないような気がしますが。
 「問題は、銀行が自己資本不足に陥り、リスクをとれなくなっていることに由
来する。問題銀行が一時国有化されれば、中小企業向け融資を断ち切るような事
態への歯止めになる」

−−最大の借り手である政府も、高金利で音を上げてしまうでしょう。
 「超低金利によってからくも支えられた財政赤字が維持できなくなることは好機だ。
民主主義の下では危機が高まって初めて本格的な歳出削減が可能になる」

 −−過去十年問題を先送りしてきた日本が劇的に変われるのですか。
 「カギは市場を通じた経済規律を受け入れるかどうかだ。現在のような米国の貯蓄率
の上昇傾向が続き戦後平均の八%に達すれば、向こう二−三年で米国の経常収支赤字は
解消する。放っておいても円相場は一八〇−二〇〇円まで下落しかねない。経常黒字や
金融資産が残っているうちに、日本が変われるかどうか。今のままなら、市場が暴力的
に清算するだけだろう」

−−−−−−−−−−−
あとがき

現状打破の仕掛け

 金利機能と市場メカニズム。中前氏が繰り返した二つのキーワードに、日本経済を変
える仕掛けが組み込まれている。円安を引き金に、長期金利上昇をもたらし、企業を整理
する−−。
 不良債権とその裏側にある企業の過剰債務を温存してきた、円高と低金利の組み合わせ
を百八十度転換するというのだ。問題債権への引き当て積み増しや、銀行からの問題債権の
切り離しなど、正攻法である金融・産業の再生策には、当事者の抵抗がつきまとい、なか
なか前に進めない。
 これに対して高金利という市場の圧力は顔が見えない。だから、時間ばかりかかる当事
者の根回しも不要だ。市場メカニズムは中前流のトロイの木馬だが、当初描いたシナリオ
通りに市場が動く保証はない。
  (滝田)

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