死んだ「世界市民」の幻想 (アン・アップルバウム,Slate)

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投稿者 dembo 日時 2001 年 11 月 14 日 15:39:37:

死んだ「世界市民」の幻想(アン・アップルバウム,Slate)
2001 年 11月 12日

http://journal.msn.co.jp/articles/nartist2.asp?w=84706

同時多発テロ以降、米国や英国などの軍事大国が圧倒的な影響力を発揮する一方、まったく存在感が薄いのが国連やEU(欧州連合)などの国際機関だ。テロ以前人々は、国民国家という概念が終わりを迎え、国家を超えた枠組みが成長、人類は個別の国家意識を捨てて「世界市民」に変わっていくのではないかと、論じていた。しかし、9月11日後、この夢は幻想に変わってしまったかのようだ。


ロンドン大空襲(1940-41年)のさなかに使われた表現を借りて言えば、ジョージ・W・ブッシュ米大統領は「戦争の恩恵」を受けている。先ごろ相次いで訪米したトニー・ブレア英首相とジャック・シラク仏大統領も同様だ。軍事大国の指導者にとって、過去2カ月間の情勢はおおむね好ましいものだった。一方、国際機関にとっては悪夢の日々だったにちがいない。この2カ月間、国連やEUの存在感は絶望的なまでに希薄だった。
特にEUの威信は、9月11日の同時多発テロ以降、大きく傷ついた。
テロ以前、EUは戦略面でこれまでになく重要な役割を担うと見られていた。ESDI(欧州安保防衛統合)という用語は今年の夏まで、安全保障政策の分野で最も熱い注目を集めるキーワードの一つだった。EU加盟国は長年の懸案だった外交・安保政策を共通化する取り組みに本腰を入れはじめ、自前の緊急部隊や軍事作戦立案能力を保持する計画を発表。NATO(北大西洋条約機構)のハビエル・ソラーナ前事務局長を共通外交政策のスポークスマン役に指名するところまできていた。今後は世界に重大な事件が起きた場合、「ヨーロッパの声」はソラーナの口を通じて表明されるはずだった。
ところがニューヨークとワシントンを襲った同時テロ以降、ESDIの名を耳にする機会はほとんどなくなり、誰もソラーナのことを気にしなくなった。EUは共同声明をいくつか出したが、米政府が最初に頼りにした相手はソラーノではなく、ブレアやシラク、フランスのリオネル・ジョスパン首相やドイツのゲルハルト・シュレーダー首相だった。ブッシュは先週、対テロ同盟の拡大を訴えた(リンク1)が、おそらく大統領の念頭にあったのは、フランスの特殊部隊やイギリスの軍用機、ドイツの野戦病院であり、まちがってもEUの軍事力ではなかった。
「EU軍」が存在しない現状を考えれば、それも当然だろう。率直に言って、ESDIはあくまで机上のプランであり、現実的メリットはそれほど大きくない。だが欧州大陸諸国の外交官は、「EUの不可解な不在」の原因は別のところにあると主張する。彼らに言わせれば、元凶はトニー・ブレアだ。9月11日、真っ先にアメリカとの連帯を表明したブレアは――「ヨーロッパ」ではなく――「イギリス」はアメリカと一心同体だと宣言して、他のヨーロッパ諸国の指導者とEUを置き去りにしたというのである。
この仕打ちに対する恨みの感情が、滑稽(こっけい)な行動となって表れたのは11月初め。ヨーロッパの「中小国」の指導者たちが英首相官邸に電話を入れ、ブレアが軍事戦略を話し合うために開催を提唱した会議に自分たちも出席させろと要求したのだ。当初、ブレアが声をかけたのはシュレーダー、ジョスパン、シラクの3人。アフガニスタンに派遣できる軍備を保有しているのは、英独仏の3カ国だけなのだから、恣意(しい)的な選り好みというわけではない。だが会議の話を聞きつけたとたん、イタリア、スペイン、ベルギーの首相はすぐさま受話器を握りしめ、会議への参加を要求。オランダの首相と「懐かしの」ソラーナも抗議の列に加わった。「ブレアが『軍事クラブ』のメンバーを勝手に決めるのは、(ヨーロッパの)団結強化に役立たない」と、ある外交筋はフィナンシャルタイムズ紙で不満をぶちまけた。これに対して英政府当局者は、軍事作戦に参加する国々が自分たちの判断で集まれなくなるのは困ると反論。この動きに「懸念」を表明した。

●安全保障に対する国連の無力
一方の国連では9月11日以降も、この種の嫉妬心に根ざした内紛はめったに起きなかった。それどころか、コフィ・アナン事務総長は礼儀正しく表舞台から一歩下がり、世界平和を静かに訴えた。国連総会では、出席者がいっせいに立ち上がり、ニューヨークのルドルフ・ジュリアーニ市長に拍手を送る場面もあった。ただし、こうした毒にも薬にもならない対応が、国連のプラスになるかどうかは疑わしい。国連は世界中の政府が参加する機関だ。テロリズムが世界中に脅威を及ぼす災厄であることを考えれば、本来なら国連ほどテロと戦う枠組みの舞台にふさわしい組織はない。にもかかわらず、これまで国連がテロとの戦いで前面に出ることはなかったし、今後もないだろう。理由は簡単、誰もが安全保障問題に対する国連の無力ぶりを知っているからだ。たとえば、ボスニアの「平和維持」活動をめぐる悪夢は今も記憶に新しい(朝に緊急事態が発生したとき、国連部隊の司令官は誰にも指示を仰ぐことができなかった。ニューヨークの国連職員がまだ出勤していなかったからだ)。
しかも国連とその下部機関は、時間の浪費でしかないピントのずれた活動に無駄な労力を注ぎ込み、国連全体の評判を傷つけている。たとえば、2001年は国連が定めた「文明間の対話の年」(リンク2)だということを、読者はご存じだろうか。現在、こうした対話が必要なことは誰もが認めるはずだが、ユネスコ(UNESCO:国連教育科学文化機関)の会議の名称が「文明間の対話:21世紀の最優先課題?」(疑問符がついている点に要注目)になっていることや、アーンドラでルーマニアの写真展を開催するという話には、思わず首をかしげてしまう。このような試みが、オサマ・ビンラディンにグローバル資本主義の存在を認めさせる最善の手段だとは思えない。
戦後のアフガニスタンを、国連の暫定統治下に置くという話が出ているのは確かだ。さまざま国連決議が、事態の解決に役立つ可能性もある。だが実際には、アメリカが戦後のアフガンの最終責任を負わざるをえないことは周知の事実だ。将来、アメリカとヨーロッパがテロと戦う常設の警察組織や軍事機構の設立を決めたとしたら、こっそりと国連のシステムの枠外に作ることになるかもしれない。これ以上、国連の奇妙な組織文化や無気力な官僚主義に足を引っ張られるのはご免だと、誰もが考えているからだ。

●力を盛り返した「国民国家」の枠組み
以上の問題の背景には、もっと大きな哲学的テーマが隠されている。人々はつい最近まで、国民国家の終焉と「超国家的枠組み」の成長、政治家のリーダーシップと国家権力の死を本気で論じていた。現代のヨーロッパ諸国は「19世紀の遺物」とみなされ、21世紀には役割を失うと思われていた。一部には「ポスト愛国主義」や「ポスト・ナショリズム」の世界が到来するという議論まであった。国の国民ではなく、個々の政府に代わって超国家的な機関が徐々に国際社会を取り仕切るようになり、人類は個別の国民意識を捨て、やがて世界市民という「新しい種」に変化していくという説である。
言うまでもなく、こうした予測はすべて空振りに終わった。9月11日以降の世界では、政治家のリーダーシップが再び脚光を浴びる一方、超国家的枠組みは舞台裏に退き、世界市民の幻想は死に絶えた。どうやら時代遅れになったはずの国民国家が、さまざまな欠点を抱えたままで今後もしばらく存続することになりそうだ。


(アン・アップルバウムはロンドンとワルシャワをベースに活躍するジャーナリスト。ロンドン・サンデー・テレグラフ紙に記事を書いているほか旧ソ連強制収容所について執筆中)
(翻訳:杉浦茂樹、MSNジャーナル編集部)


関連リンク

http://www.nytimes.com/2001/11/07/international/07PREX.html
(リンク1)
http://www.unesco.org/dialogue2001/
(リンク2)
The Death of Multilateral Man
By Anne Applebaum
http://journal.msn.co.jp/articles/nartist2.asp?w=71633


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