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いま改憲論とどう向き合うか (渡辺治)
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投稿者 外野 日時 2005 年 6 月 11 日 05:33:42: XZP4hFjFHTtWY

今日本の政治で何が進んでいるかを知るには、法律関係の文献や雑誌などを参考にするとよいと思いますが、これには二つの側面があります。一つは、意図された「新自由主義社会」に向けて、着々と法整備が進められていること。二つめは、大メディアが多くの場合にそれを知りつつ、市民に対しては解説をくわえず、従って新聞・テレビではそれを知り得ないということ。特にこれに関しては、文中の日経新聞を語った次の箇所をみれば、彼ら大メディアが如何に明瞭に現在進行している事態を意識しつつ、粛々と政官財にくみしているかがわかることと思います。
≪たとえば日経新聞は、かつて日本の改憲派が誰も手をつけようとしなかった25条の生存権規定の廃止に言及しています。これが福祉バラマキ政治の梃子になっている、構造改革のためにはこんなものは要らないと言っているのです≫

どんな社会に向かうのであれ、それはその国に住む市民の総意、一人一人が判断した結果でなくてはなりません。しかし、現在おこなわれている日本の社会の”改革”は、これまでの日本の社会構造を一変させるものでありながら、なおかつ大多数の人々が未来にわたって継続的に痛みを受け続けることで成り立ってゆくものでありながら(小泉首相の「痛みを伴う改革」というのは、平等な、また一時的なものではなく、不平等で、また多くの人々にとってはずっと負い続けなければならないものだったということです)、一人一人の判断による総意どころか、一体何が起こっているのかわからないという状況に多くの人は置かれています。
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 『法学セミナー』2005月4月号

 いま改憲論とどう向き合うか
 ──民科法律部会市民講座「いま戦争と平和を考える」(2)

 現代の改憲は、軍事大国化の完成という焦眉の狙いと、構造改革と銘打たれた新自由主義改革の遂行という長期的な狙いの二つがある。この背景を検討し、これに対してどう立ち向かうべきかを考える。

 渡辺治(一橋大学教授)

 1 改憲論登場の「画期」性

 今の日本が、「戦争をする国」という方向を目指して提起している改憲論の問題について、私たちはどう対決していけばよいのかを考えたいと思います。
 もともと、日本国憲法が制定されて以来、日本の保守政党はこれを大切なものとして捉えてはきませんでした。できれば改正したいと思っていたことはいうまでもありません。しかし、戦後保守政党はほとんど政権を独占してきたにもかかわらず、憲法を明文で改正するという動きをそう何回も行ってきたわけではありません。そこにはいろいろな理由があったと思われます。一つには、憲法を改正しようという動きに対して、国民が大きく反発し、こういう声を背景にさまざまな運動がこれを阻止してきたことです。保守勢力が無理に憲法改正しようとすれば、政治を危機に瀕せざるを得ない覚悟が必要だったのです。そして、第二は、日本の保守政治が、憲法特
に9条を改正しなくとも国際社会での安定と発展を維持できたということです。これら二つの要因があげられると思います。
 今、新たな改憲の動きが活発化しているということは、ですから政治の安定を少々犠牲にし、そして憲法を擁護する運動から大きな抵抗を受けても、それを突破しなければならないという新しい要請が保守政治の側に生まれた結果だと思われます。逆に運動の側から見ると、政治的な力の減退、変化が現れているといえるのではないでしょうか、
 その意味で、自民党による保守政治が、憲法改正を政治課題として掲げたこと自体、戦後史の中で非常に「画期的」な出来事であるということを、まず確認しておきます。

 2 改憲案のラッシュとその特徴

 近年憲法改正案がたくさんでています。最近では自民党の憲法改正草案大綱、日本経団連の改憲案、中曽根康弘の率いる世界平和研究所の改憲案、そして鳩山由紀夫の改憲案などなど改憲案ラッシュといえるほどです。「憲法を変えよう」という主張のみではなく、具体的な改正案が提出されていることは、ある意味では改憲論の目標が煮詰まって現実味を帯びたことを示しています。
 これまでの経緯をふり返れば、1950年代の半ばから60年代の前半に至るまでに、17個の改憲案が出ていました。これは改憲の第一の波と考えられます。過去、最も大きな改憲の可能性があった時代です。
 ところがその後20年ばかりは、ほとんど改憲案は見られませんでした。この間、自民党政治はその安定を維持するため、憲法に手を付ける政治ができなくなったのです。中曽根康弘氏が総理大臣となった80年代前半には第二の波が見られますが、実際には三つしか改憲案が出ておらず、大きな波とはなりませんでした。
 しかし、90年代に入って以降、現在に至るまで、実に28個の改憲案が提起されています。すなわち、現在の波は、戦後政治のなかで最も大きな改憲の動きを示していると言えるでしょう。特に注目すべきは、99年に周辺事態法が成立して以降、17個もの案がわずか5年の間に出ているということです。これは、90年代末葉からの5年間に、改憲問題が切迫した課題として浮上していることを示しています。
 これら90年代以降の改憲案を見ると、焦点は明らかに9条にあるものの、改憲案そのものは全面的である点が特徴的です。90年代以降の改憲案では9条はもちろんのこと、例えば自民党改憲プロジェクトチームの論点整理案では、24条の改正という「恐ろしい」議論も含めて全面的に憲法の見直しを図っています。2004年11月にでた自民党による「憲法改正草案大綱(素案)」でも、9条のみならず、天皇の元首化、家族に対する法的保護の規定の追加、教育の目的の規定、さらにプライパシー権、知る権利、環境権といった新しい権利、憲法裁判所の設置など、国家の全体的な改編の構想が提起されています

 3 焦眉の狙い──軍事大国化の完成

 では一体、なぜいま改憲論が浮上したのでしょうか。現代の改憲には、せっぱ詰まった目的と、より長期の国家改造という、二つの狙いがあるように見受けられます。焦眉の狙いは、軍事大国化の完成のためにその障害となっている9条を改変することです。軍事大国化という目標にとって、9条は大きな障害物になっています。これを突破することが切羽詰まった政治的要請です。それと同時に、「構造改革」と銘打たれた新自由主義の改革の遂行につれ、新自由主義国家とでも言うべき新しい国家モデルを憲法のなかに規定したいという欲求もでてきました。今の改憲論を見ると、自民党や民主党などの保守支配層、そして財界が、どのような国家をつくろうとしているのか、その基本骨格が鮮明に打ち出されています。
 ですから、現代の改憲論と付き合う第一の課題は、軍事大国化の背景と是非を検討することです。同時に、彼らが目指す新自由主義的国家像、その問題点を検討することも今の改憲論と付き合うもう一つ大きな課題であるように思われます。
 そこで、こうした改憲論の二つの狙いに焦点を絞り、この二つの狙いがでてきた背景をまず検討してみます。
 まず第一の点です。戦後日本では、保守政権がずっと続いてきたにもかかわらず、軍事大国化を目指す保守支配層の試みは、何度も挫折を余儀なくされてきました。その結果、戦後日本では「小国主義」の政治とでも言える政策が行われてきました。それを転換して、今の軍事大国化の動きが起こってきたのは90年代に入ってからです。
 もちろん、それまでも、安保条約のもとで、日本全土には米軍が駐留し続けたのみならず、自衛隊の増強も繰り返され、日米共同の軍事行動をとるための措置もとられてきました。にもかかわらず、たとえば1967年には政府は非核三原則を声明せざるを得ず、それは「国是」となってきました。武器輸出禁止の三原則も、野党や平和運動の攻勢のなかで保守政府自らが声明し定着してきました。自衛隊についても「自衛のための最小限度の実力」であるから海外派兵をしないということを政府が国会の場で再三にわたり言わざるを得ませんでした。このように、単に9条を変えないだけでなく、9条を具体化する小国主義の政治が行われてきたのです。それが大きく変えられ、軍事大国化に大きな一歩が踏み出されることとなったのが90年代です。

 4 軍事大国化の要因──経済のグローバル化

 この要因は大きく二つあると思います。一つは90年代以後の経済のグローバル化のもとで、アメリカが日本の軍事分担の増大を求め強い圧力をかけてきたことです。海外への輸出に加え海外に生産拠点を設けて展開するという経済のグローバリゼーションは、1970年代の末、本格的に始まりました。
 さらに冷戦の終焉によって、ソ連、東欧圏が崩壊し、中国の経済政策の転換のなか、グローバル経済の大拡大が起こりました。それまでのグローバル経済市場はほぼ10億人の規模でしたが、冷戦の終焉によって、ソ連東欧圏の6億が加わリ、当時10億以上、現在は13億という中国市場が自由市場経済に参入しました。これは世界のグローバル企業の活動領域と競争を一挙に広げることとなったのです。
 それでは、グローバル企業同士の競争環境は、一体誰が守るのか。たとえば途上国の政権が、国内への資本参加を制限するなど保護主義政策を採ろうとしたり、あるいは地域紛争やクーデター、さらに戦争が起こった場合、市場での安定した企業活動は保証されません。こうした市場秩序維持に携わる警察官の中心にはアメリカが座ることになりました。アメリカは、そうした秩序維持のための軍事的分担を、NATOや日本に求めました。特に日本は、自由市場の経済的恩恵を享受しているにもかかわらず、憲法との関係で自衛隊を海外に出さないままアメリカ経済を急追していることに対し、アメリカの怒りもあり、軍事分担の増大への圧力は強まったのです。
 これが軍事大国化への第一の要因です。
 二つ目に、日本の企業自身も積極的なグローバル展開を始めた点が挙げられます。もともと、日本の企業は海外展開に対して非常に消極的でした。日本企業は国内で活動してこそ競争カがあったからです。「過労死」をも引き起こす企業の労働者支配、生産性向上に対してきわめて協力的な労働組合、親企業を支える膨大な下請け企業の存在、さらに自民党政治による企業優遇の経済政策などがセットとなり、日本企業は類い希な競争力を持ってきました。
 そのため、なかなか海外展開をしなかった日本企業ですが、80年代中頃に円高と経済摩擦が起こるなか、ヨーロッパやアメリカにグローバルな展開を見せ始めます。しかし、80年代に海外展開した日本企業は利益を得られず、赤字を抱え込みました。そこでの赤字はなかなか克服することができません。そのため90年代の前半、日本の製造業はアジア地域に向かいました。アジアでは日本語もあまり通用しませんが、安価な賃金と労働者を酷使しやすい環境が、日本企業をアジアに向かわせたのです。しかし、そこでまたもや、日本企業の安全と特権を誰が守るのかという点が問題となったのです。これが、日本が軍事大国化を求めるもう一つの要因となりました。
 しかし、注目すべきは、そうした軍事大国化の要請が、直ちに憲法改正の動きをもたらしたわけではなかったという点です。軍事大国化と憲法改正には時間的なずれがあったことを強調しておきたいと思います。そこにはやはり、憲法と平和運動の大きな力がありました。軍事大国化の要請を受けた日本の保守政権は、平和運動の力、憲法の力を前提にしつつ、それを回避しながら軍事大国化を考えざるを得なかったのです。9条は確かに大きな障害であるけれど、これに手を付けると大変なので、日本の軍事大国化は憲法改正には触れずに、むしろ憲法前文すら活用して軍事大国化を進めていきました。

 5 新ガイドライン体制の成立と改憲論の昂揚

 憲法のもとでの軍事大国化、その正当化の根拠とされたのは「国際貢献」と「後方支援」でした。そこで編み出された方式が、日米同盟に基づく防衛協力の体制、いわゆる新ガイドライン体制です。つまり、日本の自衛隊は単独で戦争を行うのではなくて、アメリカが行うグローバル秩序維持のための軍事行動の後方支援を分担するというものです。アメリカはこれを喜んで受け入れました。日本が憲法改正にいきなり手をつけて、大きくつまずかれるくらいならば、憲法には手を付けずに可能なところに着手してもらうことが得策だったからです。ところが、1999年に新ガイドライン体制を国内的に実行するための周辺事態法ができた後、事態は一気に転換しました。大量の憲法改正案が保守政党から出されるのはそれ以降です。この転換には二つの理由があります。
 一つは、周辺事態法ができ、保守勢力が最低限の目的を達成したということです。これにより、改憲論が出されて、国民が大騒ぎしても周辺事態法そのものは壊れないという、最低限度の軍事大国化の土台を確保したという安心感があったように思います。
 もう一つは、新ガイドライン体制というものが、憲法をすり抜けながらつくった軍事大国化の体制であったために、ある種の「欠陥商品」であったという点です。2000年に発表された、いわゆるアーミテージレポートのなかで、アメリカは、新ガイドライン体制の三つの欠陥を指摘しています。一つは、周辺事態法が、あくまで日本の安全保障を前提としているために、米軍の後方支援も世界どこででもやるのではなく日本「周辺」でのみ行うという地域的な限界を抱えていること。二つ目は、日本の政府が憲法9条のもとで「集団的自衛権はあるけれども、行使はできない」と言ってきた手前、後方支援の中身に重大な限界があったこと。これは非常に大きな限界となっていました。三つ目に、後方支援にとってアメリカが切望していた民間企業を強制動員できる規定がなかったことです。
 これら三つの限界を突破する、そうした要請のなかで登場したのが小泉政権でした。最初に行ったのが9・11テロを口実とした「周辺」地域以外への自衛隊派兵です。小泉政権は、テロ対策特措法やイラク特措法によって、自衛隊をインド洋やイラクに派兵したのです。それから次に、民間企業をアメリカの戦争に強制的に動員するために有事法制を制定しました。残る最大の障害物は延ばしに延ばしてきた憲法9条の改正だけとなりました。これによって日本が名実ともに「普通の国」として完成します。
 国民は、自衛隊のイラク派兵がなされてしまったためにがっかりしていますが、実は、保守政治の担い手側の方が、軍事大国化の進行の遅れに対して苛立っていることもきちんと知っておく必要があります。イラクに派兵はしたものの、自衛隊は依然武力行使はできず「普通の国」の軍隊とはなれていません。イランや北朝鮮への派兵の場合には、そのつど、特措法その他さまざまな派兵のための国会審議が必要となります。また自衛隊の海外派兵によって、戦死者が出ることはほぼ必定であるにもかかわらず、公的慰霊施設は整っていません。靖国神社への首相の参拝すらままなりません。武器輸出の禁止三原則、非核三原則についても、ほとんど手つかずで生き残っています。これを一気に突破するには9条を改正しなければいけない、そうした要請が、保守政治の側に現れているのです。

 6 9条改正の中身

 それでは、9条を一体どのように改正するのでしょうか。いろいろな改憲案が出ていますが、大きくは三つのタイプに分類できるでしょう。
 その一は、自民党の憲法改正草案大綱素案や憲法改正プロジェクトチームの論点整理案、さらに読売新聞の第三次案に見られるように、今の自衛隊が戦争をするために出動できる場合、大きく言えば二つの場合を、両方とも明文で明記するタイプです。二つの場合とは、国連決議に基づいて軍事力の行使が行われる場合であり、もう一つは、国連決議がない場合でも日米同盟に基いて「集団的自衛権」により、日本の自衛隊を海外に出動させる場合を指します。
 しかし、これは実際にはなかなか難しいでしょう。特に、イラクの状況を多くの国民は見ていますから、「集団的自衛権」を明記することについては、自民党議員のなかでも批判的な意見があります。
 その二は、民主党の岡田代表がアメリカで演説した際に見られた案です。9条については改正をして、国連決議があれば自衛隊を武力行使目的で出動させる。しかし、国連決議がない場合には出動させないという改正案のタイプです。94年に読売新聞が出した最初の改正案は、そうした国連決議に基づく派兵だけを認めるというかたちを取っていました。これは国民に呑んでもらいやすい案と言えるでしょう。しかしこの案は、アメリカが軍事力行使を必ずしも国連を使わないでやっている現在、あまり現実的でない案です。
 三つ目の案は、二つの場合分けをせず、「国際貢献」のために自衛隊を武力行使目的で出すことができるとだけ書く案です。「あいまいタイプ」とでもいうべきものです。国際貢献目的であれば国連決議があろうとなかろうと出動させる。その具体的な場合分けについては安全保障基本法で書くというものです。山崎拓氏の案がこれであり、この辺りが落としどころになってくるようにも思えますが、いずれになるかは改憲に対する反対運動の強さ、それに対する世論の攻勢により決定されることになります。第一の案が実現できなければ日米同盟で自衛隊が出動できない、といったことにはならないでしょう。いずれにせよ、9条の改憲は自衛隊を海外に出動させることを正当化するためにのみ行われるものであり、それをどのように国民に呑ませるかというのがポイントになっていると思います。

 7 もう一つの長期的な狙い

 しかし現代改憲には、より長期的なもう一つの狙いがある、という点は先ほど指摘した通りです。この第2の狙いが浮上するに伴って、全面改正案の中身が、90年代の前半から中盤と、90年代の末葉以降では明らかに異なってきていることに注目すべきです。
 90年代初めの全面改正論は、基本的には戦術的な要請に基づくものでした。9条一本の改正案で国民投票に挑んだら国民にXをつけられてしまう危険がある。そこで、9条という毒薬を「新しい人権」などという甘い皮で包むかたちで全面改正論が展開されました。国民投票も一条一条是非を当う方式ではなく、改正案全体をイエスかノーかで答えてもらう。新しい人権を含めて、「全体として新しい方向に行くのだから呑んでください」というのが戦略でした。それまで改憲反対の人が多かったのに、90年代に入って憲法については変えたほうがいい、という意見が若い人たちに支持されるようになった理由には、こうした全面改正論が、ある程度の効果を持ったのではないかと思います。
 しかし90年代末葉以降の全面改正案は、こうしたオブラートのための改正案とは明らかに異なります。「甘い皮」というには余りに強烈すぎる内容が含まれているからです。たとえば日経新聞は、かつて日本の改憲派が誰も手をつけようとしなかった25条の生存権規定の廃止に言及しています。これが福祉バラマキ政治の梃子になっている、構造改革のためにはこんなものは要らないと言っているのです。また、自民党改憲プロジェクトチームの「論点整理」では、24条なども見直せと言っています。女性が社会に進出した結果、子どもたちの凶悪な犯罪が増え、社会の安定が損なわれている。だから24条に「家族を大切にする」ということを明記しろというものです。このように、24条とか、25条に手を付ければ、大きな反対が起きるのは目に見えています。案の定、24条の改正論に対して、女性たちが大きな反対の声を上げています。現在の改憲案はそれを承知で展開されているのです。

 8 新しい改憲案の背景

 こうした改憲案が出される背景には何があるのでしょうか。そこには、企業の競争力を拡大するために推進された構造改革の問題が横たわっています。政府や財界は一方で軍事大国化を推進しながら、90年代の中頃から、やみくもに構造改革を推進してきました。その成果が現れるか現れないかといううちに、財界や保守勢力が予想していなかった深刻な社会問題が噴出しはじめます。98年頃から2000年代に入りさまざまな問題が生じているのです。
 たとえばホームレスの問題があげられるでしょう。2004年の全国調査によると、ホームレスの人数は2万5000人と言われています(そのほぼ2倍が実数だろうと言われています)。また、自殺者の人数は90年代末から2000年代にかけて急速度に増えています。高度成長期には年間2万人ほどで推移してきましたが、99年には3万人台に突入しました。現在は年間3万4000人ほどが自殺で命を絶っています。そのうちの2万人くらいは50代以上の男性です。
 ホームレスや自殺者のうち、企業のリストラによる失業や中小企業の倒産により職を失った男性が多くを占めているのは明らかです。さらにはドメスティックバイオレンスや児童虐待など、これまで隠蔽されていたものが噴出したというだけではすまされない、さまざまな問題が現れています。それぞれに固有の原因があるものの、その背後にあるものは貧困、低所得者層の増大による社会の階層間格差の拡大です。それに構造改革による福祉の切り捨てが合流しているのです。
 こうした事態の背景には、経済のグローバル化の進展が考えられます。日本の海外生産比率は製造業においては顕著であり、海外雇用比率もどんどん上がっています。それに伴い、今まで企業の業績の拡大に伴って大量の雇用をしていた正社員労働者、とくにブルーカラーの人たちは不要扱いとされてくるわけです。同時に、日本の場合には親企業が海外展開してしまうことで、下請け企業に大きな空洞化をもたらすこととなります。また大企業は、新たな雇用を求めるときも賃金の安い非正規雇用しか求めません。さらにグローバル化の進展のもとで、農産物やサービス産業などの日本進出の動きは加速化し、規制緩和のような構造改革の措置を取らざるを得ません。その結果、農産物が大量に流入し、国内の農業が破壊されています。
 そうしておいて、「生活保護の適正化」と称して生活保護の切り捨て、雇用年金の切り捨てが行われています。こうして、多くの困難を抱えた人々が社会保障でカパーされず、ホームレスや犯罪といったかたちとなり社会問題が発生することになります。
 これは財界や政府にとっても深刻な問題です。犯罪が増大したり、ホームレスや自殺者が増えては構造改革を進めるにも障害となります。かといって財界はこうした構造改革や、グローバル展開をやめるでしょうか。グローバル企業の競争力を強化する方向で不況を克服し経済成長を回復しようというのが現在の方向性であり、世界でグローバル企業が安心して展開するために軍事大国化も追求しているのですから、軍事大国化も構造改革もグローバル化もやめるわけにいかないでしょう。
 そのために考えたのが、今までとは違うやり方で社会統合の破綻を取り繕うという方策です。その一つが、アメリカ型の階層型社会に転換するという構想です。もう一つはネオナショナリズムによって共同体を再建して、共同体型社会を再建するという構想です。
 アメリカ型の社会は、上層市民には福祉、特権を与え、これを中心にして階層的な統合を行っている社会です。今の社会保障制度の構造改革も、単なる財政削減目的だけでなく、こうした階層型統合をつくることが目指されています。たとえば医療制度で「混合診療」を解禁しろという声が高まっています。これは、保険による診療と私的な診療を並存させるというものです。もしこうした混合診療が解禁されれば、保険によらない診療部分が増大し、保険医療しか受けられない低所得者層は大きな困難に陥ります。厚生労働省は抵抗をしていますが、その厚生労働省も「特定療養費制度」というかたちで保険によらない治療を広範に認めようとしています。
 自民党の草案大綱では国民の責務という部分で、「社会保障その他の社会的費用の負担義務」というものが記されています。これは社会的費用を負担した人だけが、たとえば年金の掛け金を払った人だけが権利を得られるという思想を表明したものです。しかし、そもそも社会保障とは、失業や病気という理由により自己努力では生活ができない人々の生活を国家が保障するという考え方です。憲法改正草案大綱は、こうした考え方を根本的にひっくり返すことを狙ったものです。これは、明らかに25条の改正論であり、日経新聞が言っていることとも同じです。
 しかし、こうした階層型社会とは異なる構想もあります。伝統や共同体による社会統合の再建構想です。自民党の改憲草案のなかでは天皇の元首化、家族の法的保護、教育における伝統の注入、などで共同体を再建しようという構想も表明されています。

 9 まとめ

 それでは最後に、お話してきた改憲案の二つの狙いに対し、どう立ち向かうべきかを検討したいと思います。今の改憲案は、90年代以降の日本の経済のグローバリゼーションのなかで大企業本意の社会をつくっていくため、軍事大国化と構造改革の帰結として登場しています。したがって、焦眉の課題である9条の改正に反対するためにも、より長期の展望である不平等な階層型社会の構築に対抗するためにも、軍事大国にならない、構造改革をやらない社会を具体的に構想することが求められています。それは、憲法9条や25条に沿った新しい社会づくりの構想であるという点を、まず強調したいと思います。
 改憲案の狙いのなかで焦眉の課題となっているのは、軍事大国化を完成させるための憲法9条の改正にあります。私たちの連動もこの阻止に全力をあげねばなりません。新しい人権などについて多様な意見があっても、構造改革に意見の相違があってもなお、憲法9条の改悪によって日本の軍事大国化、戦争をする国家にしていくことを許さないというその一点で、私たちが大きな反対の輪をつくっていくことが、私たちの新しい国家づくりの第一歩を踏み出すための政治的な結節点だと思われます。9条の改正が保守支配勢力のなかでも焦眉の課題であるだけに、これを阻止することで新しい政治的な可能性が開かれるからです。
 率直に言って、国会の状況は非常に厳しいものがあります。2003年の衆議院選挙と、2004年の参議院選挙を受けて、改憲推進・容認の政党は、改憲の発議に必要な3分の2の議席をはるかに上回って95%にのぼっています。国会議員の改憲賛成派と反対派の比率は圧倒的なものに見えるわけですが、しかし、それでも展望の目はあると思います。たとえばNHKの世論調査では、52%の人たちは9条の改正には反対しています。自衛隊は認めるという人が多いのですから、この数字は「自衛隊は災害派遣などで意義が認められるが、海外派兵や軍事大国には反対」、という人たちの意思が表れた数字だと考えられます。これを前回の参議院選挙における投票者の数、6000万人に対応させると、そのうちの3000万人は9条改正には反対していることになります。ところが、参院選で憲法改正に反対することをはっきり明示している政党に投票した人は、社民党に300万人、共産党に400万人でした。つまり投票者数6000万のうち700万の人たちが護憲政党に投票している。そして、2300万人は9条の改正には反対だが自民党や民主党、公明党に投票しているという計算になります。この人たちが何らかのかたちで9条擁護で政治的に固まれば、憲法改正は不可能です。
 50数年間にわたってできなかったことを、自民党は今こそやろうとしていますが、この3000万の人たちが手をつないで一つの政治的な力となれば、状況を覆すことは可能です。それをどのようなかたちで演出するか、市民の皆さんが知恵と力をふり絞ってこれから立ち向かっていくべき課題です。改憲を阻止することで軍事大国、新自由主義国家とは異なる、それに対抗するような、新しい福祉国家をつくる運動の第一歩を築くことができるのではないでしょうか。その点を強調して、私の話を終わりたいと思います。(わたなべ・おさむ)
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自己負担7割に 医療給付費の抑制試算 厚労省 (産経新聞)
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投稿者 外野 日時 2005 年 3 月 19 日

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