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CT室で失われた命(日々是よろずER診療)
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投稿者 茶々 日時 2007 年 12 月 19 日 17:29:27: 6YmOfrLmcqc3Q
 

http://blog.so-net.ne.jp/case-report-by-ERP/20071218
より引用
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CT室で失われた命 [救急医療]  

医療を受ける方々の中には、CT室はただ単に検査をするだけの安全な場所と思っている方も多いのではないだろうか? 

一言、言っておく。大きな間違いであると。

検査なんかすぐ出来て、しかも安全・・・・・。こんな潜在意識を持っていれば、

「どうしてCTをとらなかったのか?」 

「あのときCTをとっていさえすれば、助かったはずだ」

こんな批判を、無配慮に無遠慮に、担当した医師に投げかけることであろう。

救急の現場の医師は、CT室が危険であることを、よくわかっていると思う。 CT撮影は、時に死のトンネルと化すこともあるのだ。

そんな自験例を本日は紹介する。

症例  48歳男性

自動車対自動車の交通事故。交差点で、直進中の車が左方から進入してきた車と側面衝突。搬入された傷病者は直進中だった車のドライバー。車は大破し、傷病者はシートベルトをしていなかった模様とのこと。来院時バイタル、sBP 108、HR124 KT35.6 RR 27 SpO2 100 (10L O2) 。意識は二桁だった。 バイタルは、プレショック状態だ。 

「おい、急げ! ラインをとれ、2本だ!」
「エコー、エコーを見るぞ、急げ!」
「気道確保も必要だ! 挿管の準備!」 こんな声を上げながら、複数の医師が患者に群がった。

搬送されるや否や、救急処置室は、戦場のようになった。 

当時、JATECなる日本の外傷初期治療など、まだ未確立の時代だった。
現場のリーダーの采配に、患者の命が握られている。 
リーダーの振る舞いは、その時、その時のリーダ次第・・・・・。
人によってやることがばらばら・・・・。
そんな時代だった。 

この患者の運命は、この日のERのリーダーだった私にゆだねれていたといっても過言ではない。

0分  バイタル 上記のごとく。 顔色不良。明らかな外出血はないが、右膝関節に変形あり。
     直ちに挿管の準備に入りつつ、一人はバッグで換気管理。
     二人は同時に左右からラインをとりに行った。
     ライン取れ次第、全開で輸液開始。

5分   腹部エコー。 脾、腎損傷が怪しい。 (今で、いうところのFASTに相当)
10分  ポータブルで、胸、頚部側面、骨盤 のレントゲンを撮影。 
              (JATECに準ずれば、ここでは頚部Xpは不要だったかも)
20分  気管挿管手技および確認作業完了
25分  レントゲン写真到着。 左血胸あり、恥骨結合に骨折あり。
              (ここで、トロッカーを入れなかったことは反省に値する)
30分  輸液が1000〜1500程度入ったところで、血圧128 HR109

当時の私は、少し悩んだ。 何を悩んだか・・・・・

そう、CTに行くかどうかだ。 プレショックであり、多発外傷は間違いがないことはすでに判明している。頭は未評価だ・・・・・ でも、バイタルは輸液には反応してくれたようだ・・・・・・・
急性硬膜外(または下)血腫だって、十分あるかもしれないのだ・・・・

こんなことが私の頭をよぎった。

一般に、各臓器の専門医は、専門外の問題点に対して不安を抱くものだ。
腹部外科医は、頭のことを心配する・・・・・ 一方、脳外科医は、胸、腹のことを心配する・・・・・・
あたりまえのことだ。自分の知らないところで急変があったときに、だれもその責任を負いたいとは思わないだろう。多発外傷のマネージメントの最大の難しさは、その科間の舵取りであるといっても過言ではない。

とは、いうものの、悩んでいる時間はないのだ。 本当に何分間悩んだのか、私には記憶がない。おそらく、数十秒から数分以内の私なりの決断だったと思う。

「よし、CTで評価できる。GO!だ。」

当時の勤務先の病院は、救急処置室とCT室の距離は、廊下一つ分だった。救急室設計の時点で、処置室とCT室が最短になるように配慮されているためだ。
この距離の問題も、私にCT GO!を判断させた一因であったといまさらながらに思う。

外科病棟当直医と脳外科当直医に、この時点で同時に緊急コンサルトするとともに、患者をCT室へ行けと2名の医師に指示を出した。CTが出来るころに、二人の医師が降りてきて、主科の決定と優先治療順位を検討するという私の算段のうえのコンサルトだった。

その時点でのERは、この患者だけでなかった。 救急処置室に3〜4名の診察が現在進行中の患者。やや離れたところの外来ブースでは、徒歩来院の患者の診察も進行中だ。
私の役割は、その全体の統括と管理だった。ERチームは、若手医師中心に私を含めて10名弱くらいだ。だから、私はこの患者だけにかまっているわけにはいかなったのだ。

CT室へ指示を出した時点で、私は、他の患者のマネージに走らざるを得なかった。こちらは、こちらで、またあれこれと指令をださないといけない・・・

ほどなくして、

「先生〜〜〜〜、心肺停止ですう〜〜〜〜!」

と先ほど指令を出したDrから、叫びにも近い連絡が入った。

55分 CT室から帰室。 脈が触れない。PEA(徐拍型)だった・・・・・・・・

唖然とした・・・・。 計算の上のCT GO!と判断したのに・・・・・・・あてが外れた・・・・・

降りてきてくれた外科当直医と脳外科当直医もこの患者の心肺蘇生処置に協力してくれた。私達は懸命にがんばった。しかし、患者の心拍が蘇ることはなかった。

122分  死亡確認。 

出来上がったCT像を見ると、左大量血胸、脾臓破裂、脳室内出血だった。

もし、これが今のご時世であったら、私の判断は、判断ミスとして糾弾され、訴訟にまで発展すれば、「CTをとらずに直ちに開腹術をすれば助かった。よって、○○○○円の損害賠償を命ずる」なんてなるだろうと思う。 本当に、恐ろしい世の中になったものだと思う。

CT室は死のトンネルという言葉はこういうことだ。 どんなに気をつけてもこんなことがあるのだ。

だから、現場を知らない人たちから、「CTをとりさえすれば助かったはずだ」なんて私は言われたくない。

シュミレーションで学ぶ救急対応マニュアル 千代孝夫先生編集 羊土社 P76〜79から引用する


「CT」撮影中に呼吸停止!-「死へのトンネル」の配慮

●CTは、得られる情報と全身状態とを総合的に判断し実施すること
●あくまで、病態を優先し、全身の把握に努めること
●急変時には、あくまで基本に忠実であること
この症例は、私自身、患者を助けられたかもしれない・・・といまだに悔いている症例である。自分で思い、自分で反省するからこそ、次の診療のためにがんばろうと思えるのだ。
だが、他人から同じことを言われても、私の心には決して響かない。
むしろ、「だったら、お前がやれよ」としか感じないだろう。 人の心とはそういうものである。

2007-12-18 22:23 コメント(8) トラックバック(1)
共通テーマ:日記・雑感
コメント 8
私はCT室でSAHの再破裂を経験しました。CTが終わると両側瞳孔は開いていました。十分ERで降圧、鎮静、鎮痛処置をしておけばよかったと悔やまれます。脳外科医は多分にDr.CT、Dr.MRIに頼る傾向があります。
何でもCTの前にやらなければならない事がないか?それ以降、いつも考えるようになりました。
by 筑紫の里 (2007-12-18 23:06)

 自分も胸部大動脈瘤の破裂で、撮影し終えた途端(左大量血胸でした)、そのまま心停止でお亡くなりになられた患者さまを経験しました。結局、「予見可能」とかそんなの法律家のたわごとだよな・・・って思います。
by skyteam (2007-12-18 23:33)

先だってJATECを受けてきたばかりですが、よく似たシナリオがたしかあったような・・
切迫するDがあって、骨盤骨折由来の後腹膜出血がFASTで認められて、整形と放科の先生をよんで、塞栓術をたのむんですが、その先生たち(インスト)が、口ぐちに、「脳外科の先生呼ぶのが先じゃないですか?」と受講生に問いつめるというものですが。
受講生は、循環不安定なので、Cの安定化が優先なことを、はっきりと説明できなければなりません。
ああいうシナリオは、なんちゃって救急医先生たち先人の苦い思いから、凝縮されて、できたんでしょうね。
1月には、PALSを受けることにしました。(だめもとで申し込んだら採用された。申し込んでみるもんですね)
若い先生がた、こういう時代だからこそ、救急の基礎のトレーニングはたいせつだと思います。訓練不十分なまま、現場前線に行けなどとは、決して言いません(むしろ、行くな、危険だ、撤退せよ、と申し上げたい)。しかし、状況変化して、安全にふつうの医療が施せる時代になったときに、いつでも戦列復帰できるよう、訓練は欠かしてはならないと思います。

わたしも、今の仕事、やりがいもあるし、順調なのですが、いつか、再び、戦地に立ちたいと思っています。。
いまは、難しいです。敵の弾に当たるのは何ら怖くありませんが、守っているはずの住民に後ろから襲われるなんてのは、やりきれないですからね。
by moto (2007-12-18 23:36)

読み返して、えらそうなこと書いてしまったと、ちょっと反省していますが・・わたしの場合、「再び戦地に立ちたい」の戦地は、救急というよりは、単に、病気を診るお医者さん、という意味ですね。。救急科の経験はないですから。
(しかし、わたしにとっては、懐かしい戦地です。。)
by moto (2007-12-19 00:08)

はじめまして。
いつも拝見させて頂いています。

私は全く医療関係者ではなく、むしろいつもお世話になっている立場の者ですが、本当に気力、体力的にも大変なお仕事だと感じられます。

医療を受ける私たちも、意識をもっとかえていかなければ、と先生のブログを拝見し痛感しております。

「当たり前」と思っていた気持ちを引き締め感謝しつつ、多くの先生方の活躍をお祈りいたします。

どうぞこれからも頑張ってください!
by ton (2007-12-19 00:09)

 motoせんせいがおっしゃるようにこのような症例を積み重ねてきた結果が現在のJATECであり、ACLSであると思います。

 今の訴訟事情のようにたまたま上手く行かなかったものを訴えることが続いていたら、訴えられた医者は前線から退き、これらの経験の蓄積によるJATECもACLSも生まれなかったでしょう。

 今の訴訟事情は患者が自分で自分の首を絞めているように思えます。
by 僻地外科医 (2007-12-19 09:16)

moto先生の
>再び戦地に立ちたい
という思いはすばらしいですね。
私は、そしておそらくはここを覗いている多くの先生方も今の医療現場に絶望しているのだと思っていました。
しかし、多くの先生方は強制されて医療をしているわけではないので、最終的には辞めてしまえばいいのだと思います。
(多くのというのは学費無料でお小遣いを学生時代にもらっていた辞めたくても辞められない先生もいるのかなぁと思いまして。保釈料を払えば良いようですが)
そして辞めないのはどうしてかなぁと自分でも不思議です。
医療訴訟があっても、過労死する医師がいてもおそらくまだ対岸の火事だと思っているからだと思います。
文句は言いつつ、絶望的に絶望はしてないから続けるって感じでしょうか。
私などは普段から普通のサラリーマンにあこがれていますから(やってみればそれはそれで苦労があるのでしょうけれど、少なくとも訴訟の心配はないかと)割のいい仕事があれば転職したいと思っています。
実際時給換算したら今よりいい仕事はいっぱいありそうですが。
労働環境改善の為には全員で辞めるしかないかと時々考えます。
メディアも医師を守るような記事は書きませんし、私達がアピールする方法はないものでしょうかね。
医師会は例えば診療報酬でも0.数パーセントのところのみみっちい攻防をしているような団体ですから期待できませんね。
医師からの世間へのアピールって足りないような気がしませんか?
エントリーとは関係なくなっていますね。
すみません。
by pon (2007-12-19 13:30)

5年ほど前、CTで、私も痛い経験があります。交通事故で緊急搬送された患者が左側血気胸で搬送されました。挿管後、胸腔ドレナージを挿入し、CT室へ。移動用の人工呼吸器につないで頭部から骨盤腔にかけて撮影。腹腔、骨盤内、頭部異常なし、胸腔ドレナージも効いている。ところが、ICUへ戻り人工呼吸器に繋ぎなおしたとたんに、低換気アラームが鳴る。アンビュウでも換気できず。挿管チューブが詰まったか、抜けたかと考えファイバーで確認指示を出すも、たまたま近くにファイバーが無い状態。血圧はどんどん下がり、徐脈になっていく。迷っている暇はないと挿管チューブを交換したが、換気はできず心停止。蘇生処置も全く効かず...。その後、患者さんは大学の法医学教室へ運ばれ剖検されました。結果は両側気胸。CTでは、ドレナージが十分に効いている画像を確認した直後だけに、あせって処置をしている時は気胸の診断が頭から抜けていました。おそらく、CT撮影のために何度か行ったベット移動時にドレーンチューブが胸腔内から抜けてしまったのだと思います。ご家族の方にはその旨を全てお話しして、ご了承いただきました。今なら、警察沙汰なのかな。
by ますいか (2007-12-19 13:54)
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引用終わり

※この記事はERの現場を知らせてくれる貴重な記事だと思っている。ただ、筆者の
 最後の言葉

>他人から同じことを言われても、私の心には決して響かない。
むしろ、「だったら、お前がやれよ」としか感じないだろう。 人の心とはそういうものである。

という言葉には残念なものを感じる。長年医師をやっているのなら、いくら現場を
知らない他人の言葉でも、全部が全部、無配慮で無遠慮な言葉だったわけではない
だろう。謙虚に受け止めるべき言葉もあったはずだ。あと「だったら、お前がやれよ」
という言葉は、基本的に相手が理解しようとする心を閉ざすおそれのあるものだと
こともわかってほしい。私は、いくら勉強をしたって、医学部には入れなかったし、
医師にもなれなかったよ。

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