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緊急連載 「ユーロ危機と欧州合衆国の幻 2」 (日経ビジネス)
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/102.html
投稿者 BRIAN ENO 日時 2011 年 11 月 08 日 08:19:02: tZW9Ar4r/Y2EU
 

ギリシャはまだ序曲。債務危機の本編はイタリア

緊急連載 「ユーロ危機と欧州合衆国の幻 2」

熊谷徹

2011/11/08

ギリシャの一挙一動によって、全世界が振り回された一週間だった。デモクラシー(民主主義)という言葉は、元々ギリシャ語から来ている。今日の形態とは異なるものの、一種の民主主義を世界で最初に制度化したのは、古代ギリシャである。10月末に欧州連合(EU)がブリュッセルで開いた首脳会議の合意内容は、あと一歩で水の泡となるところだった。「民主主義の原点」である国の首相が、ユーロ危機解決の過程に、直接民主主義を持ち込もうとしたからである。
 パパンドレウ氏の首相退陣は決まったものの、この一週間でEUは質的に大きな変化を遂げてしまった。多くの人は気づいていないが、今日のEUは、「ユーロ圏から絶対に脱落者を出さない」と主張していた10月末のEUとは、異なる存在である。

国民投票騒動で、タブーを捨てたEU

 激動の一週間を振り返ってみる。EU加盟国の首脳は10月27日の未明に、ギリシャ政府の民間金融機関に対する債務を半分に減らすことなどを盛り込んだ、包括救済策について合意した。この結果を受けて、欧米の株式市場では、銀行株を中心に株価水準が回復した。だが「サミット相場」は、わずか4日間しか続かなかった。
 10月31日の夜に、ギリシャのパパンドレウ首相が突然「ブリュッセルで決まった支援策を受け入れ、構造改革を続けるかどうかについて、国民投票を行なう」と宣言したからである。この直後、欧州だけでなく米国の株式市場でも株価が下落した。
 各国首脳が国内に山積する仕事を放置してブリュッセルに集まり、ギリシャを救うために徹夜で練り上げた合意が、その「患者」自身の、国内事情を優先した発言によって、崩壊の瀬戸際に追い詰められたのだ。特にパパンドレウ氏が、救済プロジェクトの立役者であるメルケル首相やサルコジ大統領に事前に連絡せずに、国民投票の意向を一方的に発表したことは、彼らの堪忍袋の緒を切らせた。
 独仏首脳は、11月3日から2日間にわたり南仏のカンヌで開かれたG20サミットで、ブリュッセルでの合意内容を報告して、「ユーロ危機克服への重要な一歩が踏み出された」というメッセージを全世界に発信しようと思っていた。ところがその目論見はパパンドレウ首相の一言でご破算となり、G20サミットは、ユーロ救済サミットに変質してしまった。南仏のリゾート地に集まったEU首脳の表情は、硬かった。
 ギリシャはG20のメンバーではない。しかしパパンドレウ首相は、カンヌに呼び出されて、国民投票について説明を求められた。彼はそこで、独仏をはじめとするEU首脳から激しい抗議を受けた。さらにEUと国際通貨基金(IMF)は、11月中にギリシャに支払う予定だった、80億ユーロのつなぎ融資も、凍結した。ギリシャはこの融資を受けられなければ、12月中旬には国債の償還ができなくなり、破綻する。喉元にナイフを突きつけられたようなものである。四面楚歌の状態に追い込まれたパパンドレウ氏は、3日後に国民投票の方針を撤回した。
 だがEUには、いまも重苦しい空気が漂い続けている。国民投票をめぐる混乱は、EUに生じた深い亀裂を決定的なものにしたからだ。この2011年11月3日という日付は、EUが大きく変質した分水嶺として、歴史に残るだろう。
 EUの変質は、メルケル首相がカンヌで語った次の言葉にはっきり表われている。「ギリシャが国民投票の意向を表明したことは、我々のブリュッセル合意後の心理状態を一変させた。我々は、準備が出来ている」。彼女が言おうとしているのは、ギリシャがユーロ圏を脱退する事態に対し、EUの準備が整っているということだ。この発言には、歴史的な意味が込められている。
 2年前にギリシャの債務危機が問題化して以来、メルケル首相を始めとするEU首脳は、ユーロ圏に属する国を一国たりとも脱落させないことを、絶対条件としてきた。彼女はドイツ連邦議会での答弁の中で、何度も「ギリシャを救済する以外に、選択肢はない」という言葉を繰り返してきた。欧州通貨同盟を最も熱心に推進してきたドイツにとって、脱落者が出ることはユーロそのものに対する信用性を傷つけること、つまり一種の「敗北」だからである。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111104/223604/?mlh1&rt=nocnt

何が何でもユーロ圏の結束を維持するという姿勢について、彼女は国内の保守勢力や経済学者たちから批判され、満身創痍になっていた。多くの経済学者は「ギリシャがユーロ圏を抜けたからといって、ユーロ圏が崩壊するわけではない。重要なのは市場への悪影響を最小限にすることだ」と主張していた。それでもメルケル首相は、ユーロ圏から落ちこぼれは出すまいとしてきた。彼女にしてみれば、パパンドレウが国民投票を行なうと宣言したことによって梯子を外され、「飼い犬に手をかまれた」心境だろう。
 ユーロ圏の機関車役である独仏がカンヌで打ち出した態度は、「ユーロ圏加盟国・脱落」の可能性を初めて認めたものであり、これまでの姿勢とは一線を画すものだ。メルケル首相とサルコジ大統領は、カンヌでパパンドレウ首相に対して、「国民投票を実施するならば、EUの救済策を受け入れ、構造改革を継続するかどうかだけではなく、ギリシャがユーロ圏に残るべきかどうかについても、国民に決めさせるべきだ」と迫った。
 EUは、「ギリシャ人が国民投票の結果破綻し、ユーロ圏から脱退する道を選ぶならば、それもやむを得ない」という姿勢を打ち出した。つまり「ユーロ圏から一国も脱落させない」というタブーが、破られたのである。言い換えれば、EUは過重債務国の救済に限界があること、そしてユーロ圏が縮小する可能性を、カンヌで初めて公式に認めたのである。今後は、一部のユーロ加盟国が破綻し、ユーロ圏を去るというシナリオがこれまで以上に現実味を帯びる。EUはカンヌで白旗を掲げ、ルビコンを渡ったのである。
 金融関係者や経済学者の間では、これまでも「ギリシャの債務不履行は避けられないだろう。ユーロ圏を離脱する国が現われても仕方がない」という意見が有力だった。このためドイツでは、今回の「国民投票ショック」を通じて、独仏の首脳が楽観主義を捨て、ようやく現実を直視するようになったという見方が出ている。このためEUの過重債務国に対する姿勢は、今後一段と強硬な物になるだろう。

楽観できないギリシャ政局

 11月6日夜、ギリシャのパプリアス大統領は、「7日にパパンドレウ首相が野党のサマラス党首と新しい連立政権の樹立へ向けて会談する」と発表するとともに、パパンドレウ氏が新政権には属さず、首相の座から降りることを明らかにした。パパンドレウ氏は、新政権がEUの救済策と構造改革継続の要求を受け入れることを、辞任の条件にしている。
 だが連立政権が誕生しても、EUから押しつけられる歳出削減策の痛みが消えるわけではない。たとえばギリシャ政府は2015年までに、約70万人の公務員のうち、約15万人を解雇しなくてはならない。有力な輸出産業を持たないギリシャで、節減政策が不況に拍車をかけることは確実だ。
 ギリシャで10月27日に行われた世論調査によると、回答者の72.5%が「ユーロ圏に残るべきだ」と答え、50.1%が「構造改革の結果がEUによって監視されるのはやむを得ない」と答えている。その一方で、EUがブリュッセルで合意した救済措置については、回答者の58.9%が反感を抱くという、矛盾した結果が出ている。
 ギリシャ市民の不満と国内の混乱は、政府が巧みに舵取りをしなければ、今後高まるかもしれない。そのことを示唆する兆候がある。
 ギリシャでは、10月28日は「オヒ(ギリシャ語でノー)の日」と呼ばれ、国民が最も重視する祝日の一つである。10月28日は、同国が第二次世界大戦に巻き込まれた日であると同時に、ギリシャ人の愛国心と抵抗精神を象徴する日だ。
 イタリアのムッソリーニは、1940年10月28日に、当時ギリシャの最高指導者だったメタクサ将軍に対し、「イタリア軍のギリシャ駐留を認めろ。さもなければ攻撃を開始する」という最後通牒を送りつけた。しかしメタクサ将軍は「ノー」と答えてこの要求を拒否。イタリア軍はギリシャに侵攻して、両国は戦争状態に入った。しかしこの年の11月、ギリシャ軍は反攻を開始してイタリア軍を国外へ撃退した(その後より精強なドイツ軍がギリシャに侵攻したため、1941年4月にギリシャ軍は降伏する)。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111104/223604/?P=2


つまりオヒの日は、外国の不当な介入に対し、独立国として毅然とした態度を示すことの重要さを教える祝日なのである。私にはギリシャ人の知り合いが何人かいるが、彼らはみな愛国心が強く、祖国に対して誇りを持っている。彼らがオヒの日を重視するのはよく理解できる。
 毎年オヒの日には、ギリシャ各地で軍事パレードなどの記念式典が開かれるが、今年はいつもと様子が違った。同国北部のテサロニキで、パプリアス大統領が出席した軍事パレードが、市民の激しい抗議行動のために中止されたのである。大統領は市民から裏切り者と呼ばれて、演壇を去らなくてはならなかった。オヒの日の軍事パレードが中止されたのは、戦後ギリシャの歴史で初めてだ。この日抗議行動は全国で発生し、政権党PASOKの政治家だけでなく、野党である共産党の政治家まで市民の攻撃の的となった。愛国心を鼓舞するべきオヒの日に、政治家が攻撃の対象となったことは、市民の不満がいかに高まっているかを象徴している(ところでパパンドレウ氏が、国民投票を提案してEUの度肝を抜いたのは、オヒの日の3日後だった。彼はメタクサ将軍にならい、外国に「ノー」と言って一矢を報いるために、国民投票を宣言したのだろうか。パパンドレウ氏は独仏に造反する姿勢を見せることによって、自国民の意思をも尊重していることを示そうとしたのかもしれない)。
 新政権が、EUの救済策の受け入れと構造改革の継続を約束すれば、ギリシャが今年中に無秩序な国家破綻に陥る危険は、一応遠のく。だがギリシャ政府は「国民投票」という伝家の宝刀が、EU全体に予想外に強い衝撃を与えることを学んだ。市民の間にEUに対する根強い不満が残っていることを考えれば、ギリシャの長期的な政局について楽観することは禁物である。
 国民投票がキャンセルされたとはいえ、同国の政局について楽観することはできない。

天王山はイタリア

 ところで欧州では、「ギリシャは、まだ債務危機の序曲にすぎない」という見方が強まっている。
 ギリシャの国内総生産(GDP)はEU全体のわずか1.7%。これに対しスペインは8.4%、イタリアは12.6%である。欧州統計局によると、イタリアの2010年の債務比率は118.4%。ギリシャに次いで2番目に高い。スペインの2010年の債務残高は6418億ユーロ(67兆3890億円・1ユーロ=105円換算)にのぼり、ギリシャを95%上回っている。イタリアの借金は実に1兆8429億ユーロ(193兆5045億円)で、ギリシャの5.6倍に達している。
 このため10月末のブリュッセルの首脳会議でも、イタリアの債務が重要なテーマになった。ドイツでは「EUの未来をめぐる戦いは、ギリシャではなく、イタリアで決せられるだろう」という見方が出ている。債務危機の天王山は、イタリアだというのだ。EUにとっては、債務危機のスペインとイタリアへの飛び火が、最悪のシナリオである。
 だがすでに黄信号は灯っている。これらの国々が、市場で国債を売って借金をするために支払わなければならない利回り、つまりリスクプレミアムは、じりじりと上昇しているのだ。利回りが高いほど、リスクが高いことを意味する。ギリシャの10年物国債は、9月13日の時点で21.4%の利回りがついている。
 10月28日の時点で、ドイツの10年物国債の利回りはブリュッセル合意の後下がって、2.2%だったが、スペインは5.5%、イタリアは6.02%だった。特にイタリア国債の利回りは、ブリュッセルでの合意にもかかわらず、上昇する傾向を見せている。これは投資家がイタリアの債務返済能力に対して警戒感を強め、安全な避難港であるドイツの国債に資金を移していることを物語っている。
 ドイツとフランスは、イタリア政府に対して財政の健全化と構造改革を早急に実施するように要求した。独仏首脳は、ベルルスコーニ首相の政治的な影響力がスキャンダルによって急速に弱まっているため、改革がスムーズに行なわれず、すでに1兆ユーロを超えている債務残高がさらに増えることを危惧しているのだ。ベルルスコーニ首相は、まるで「宿題をやりなさい」と親に怒られた子どものように、ブリュッセルの会議で不機嫌そうな表情を見せていたが、構造改革の実施を約束した。具体的には、債務比率を現在の118%から3年後に113%に下げる。しかしこれを実現するには、毎年3%の名目経済成長率を維持し、財政赤字を3年間にわたりゼロにしなくてはならない。イタリアの2010年の経済成長率は1.5%。今年は1%に減速する見通しだ。そう考えると、イタリアがこの目標を達成できないことは目に見えている。
 またイタリア政府は、IMFによって財政状態や構造改革の進捗について監視下に置かれることについても、同意した。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111104/223604/?P=3

なぜEFSFの強化が必要なのか

 金融関係者の間では、マーケットがしばらく落ち着きを取り戻しても、数カ月も経てば、イタリアを主役とした、債務危機の本編の幕が開くのではないかという憶測が流れている。カンヌのG20サミットでも、参加国はイタリアの状況に強い懸念を表明した。メルケル首相は、「債務危機が他の国に拡大するのを防ぐために、一刻も早く防火壁を高くしなくてはならない」と述べた。
 ブリュッセルでEU諸国が欧州金融安定基金(EFSF)の強化について合意したのは、イタリアがギリシャと同じ状況に陥る事態に備えるためである。EFSFの強化は、EUサミットで最ももめた議題の一つだった。
 2010年5月に、EUは債務危機に対処するために、総額7500億ユーロ(78兆7500億ユーロ)の援助プログラムを打ち出した。その内訳は次の通りである。

(1)EFSF(欧州金融安定化基金) 4400億ユーロ
(2)IMF(国際通貨基金) 2500億ユーロ
(3)EU予算 600億ユーロ
 合計 7500億ユーロ

 EFSFは、この合意に基づいて2010年6月にEUが創設した緊急融資機関で、債券を発行することによって、資金調達が困難になった国を援助する。EFSF債は、EU加盟国の政府によって保証される。この救援基金は、債務危機に対する最も重要な「武器」である。2013年にはESM=欧州安定基金という機関が長期的にEFSFの任務を引き継ぐ。すでにアイルランドとポルトガルが、今年前半にEFSFから緊急融資を受けている。
 EFSFはこれまでも徐々に拡大されてきた。創設時には、基金の全体規模は4400億ユーロ(46兆2000億円)と発表された。だがEFSF債を保証するユーロ圏加盟国16カ国のうち、トリプルAの信用格付けを持つのは、6カ国だけ。このためEFSF債がトリプルAの格付けを維持するには追加的な保証金が必要になる。この保証金を差し引くと、基金額が大幅に目減りしてしまい、EFSFが実際に融資できる額は、2500億ユーロ(26兆2500円)にすぎないことが分かった。これでは救援資金の実効性がなくなる。
 したがってEUは今年3月、EFSFが実際に4400億ユーロの融資を行なえるように、基金の全体規模を4400億ユーロから7800億ユーロ(81兆9000億円)に増やさなければならなかった。これによって、保証金による基金の目減りが「補填」されたのである。
 EUで最大の経済パワーであるドイツの保証額は最も多かったが、今年3月の第一次拡大によって、その負担は1230億ユーロ(12兆9150億円)から、約72%も増えて2110億ユーロ(22兆1550億円)になった。ドイツ連邦議会は今年9月末に保証額の引き上げを承認したが、連邦憲法裁判所はEFSFの変更については必ず連邦議会の承認を事前に得るように、メルケル政権に釘を刺した。これは、首相がEU首脳会議の席で、ユーロ救済の拡大に賛成することにより、議会の予算決定権が空洞化されることへの危惧が、ドイツ人の間で強まっていることを示している。
 しかし、ブリュッセルの消息筋の間では、「7500億ユーロという額は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインの救済には十分だが、イタリアが危機に陥った場合には足りなくなる」という観測が流れていた。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111104/223604/?P=4

「梃子」をめぐる激論

 しかも今年後半に入ってスペインとイタリア国債の利回りがじりじりと上昇していることから、EUは10月末のブリュッセルの首脳会議で先手を打つことを決めた。EFSFが融資できる額を、金融業界でよく使われる「レヴェレッジ」つまり「梃子(てこ)」の原理によって1兆ユーロ(105兆円)まで拡大するというのだ。梃子は、小さい力で重い物を持ち上げることができる。 ユーロ圏加盟国が保証する額は、当初の予定から変わらないが(つまりドイツの保証額は2110億ユーロ)、融資できる額は1兆ユーロに増える。
 このレヴェレッジをどのように構築するかについては、ドイツとフランスの間で意見が真っ向から対立した。サルコジ大統領が主張したのは、「銀行方式」。つまりEFSFに銀行業務を行なう権限を与えることによって、他の民間銀行と同じく欧州中央銀行(ECB)から金を借りられるようにする。つまりEFSFは、債務危機に陥った政府の国債を買い取り、国債を担保としてECBに預けることによって、ECBから融資を受ける。この形式を取ると、EFSFはECBから無制限に融資を受けることが可能になる。だがこのことは、ECBが通貨発行量を増加させ、激しいインフレにつながる危険があるため、ドイツ連邦銀行は断固として反対してきた。同行のイェンツ・ヴァイドマン総裁は「危機に陥った国の資金調達のために、ECBの政治からの独立性がこれ以上侵されてはならない」と強く反発した。
 そこでメルケル政権は、「保険方式」を提案。加盟国の政府が借金を返せなくなった場合、EFSFが民間投資家の損失の一部を保証することによって、民間による国債購入を促進する。たとえばある国の国債への投資額が回収できなくなるリスクを、20%と想定する。その際にEFSFが「損失の20%、つまり100億ユーロを返済する」と保証すれば、投資家からその5倍の500億ユーロまで集めることが可能になる。これによって、EFSFの融資能力は5倍に高められるわけだ。
 EUは結局フランスの銀行方式を退け、ドイツが主張していた保険方式と、特別目的会社を設立して、公的・民間の投資家を集める方式を併用することにした。レヴェレッジは銀行業界では常識だろうが、政治家など金融の専門家ではない人間には、理解が難しい。EUは当初10月16日に首脳会議を開く予定だったが、1週間延期した。さらに10月23日(日曜日)の首脳会議では結論が出ずに、3日後の10月26日(水曜日)に再び首脳会議を開くという変則的なスケジュールとなった。この異例の日程の背景には、独仏の間でレヴェレッジの使い方について意見が対立したことの他に、融資能力の拡大方法に関する技術的な議論に時間がかかったという事情がある。
 ドイツの経済学者の間では、「レヴェレッジを使うことによって、ドイツが保証する2110億ユーロが実際に損失になる危険が高まる」という意見が強まっている。ジュネーブ大学のハラルド・ハウ教授らは、ドイツの有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ」紙に発表した論文の中で「国債の全額が返済不能になることはあり得ないが、その内の20%か30%が回収不能になる危険は高い。そう考えると、100億ユーロを100%保証するよりも、100億ユーロで5倍の金額つまり500億ユーロを保証する方が、リスクははるかに大きい」と主張。さらにEFSFのレヴェレッジの細部を検討する時間が、各国の議会に十分に与えられず、透明性が乏しいことは大きな問題だと批判している。
 ハウ教授らは、「救済基金の額とリスクを単に増やしていくことは、十分に練られた戦略とはいえず、むしろEUの無策ぶりを暴露している」と指摘する。ブリュッセルの合意も、病を根治するための大手術ではなく、対症療法にすぎないというのだ。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111104/223604/?P=5


また一部のEU加盟国からは、EFSFの拡大のためにIMFの支援を受け入れるべきだという声が出ているほか、中国による支援枠を拡大するべきだという意見も出ている。中国は、日本と並んでEFSF債をすでに購入している。EFSFのクラウス・レグリング事務局長は、10月末に北京を訪れて、投資額の拡大について打診している。しかし中国は、投資した元本の安全が保証されなければ、大規模な支援には慎重になるものと思われる。いずれにしても、IMFや中国の支援をあてにする声が強いということは、EUが自ら危機に対処する能力の限界を示しており、心もとない。

EFSFはバズーカ砲

 債務危機との戦いは、EUにとって一種の「戦争」である。じっさい最近ブリュッセルでは、債務危機をめぐって戦争に関する表現が使われるようになった。「Der Kampf um den Euro(ユーロをめぐる戦い)」という見出しは珍しくない。また、「レヴェレッジによってEFSFの火力(fire power)を強める」、「レヴェレッジによってEFSFををバズーカ砲にする」という勇ましい声も聞かれる。
 バズーカ砲は、第二次世界大戦中に米軍が使った携帯式の対戦車兵器で、兵士が肩に担いで砲弾を発射する。ドイツ軍は「パンツァー・シュレック(戦車の恐怖)」と「パンツァー・ファウスト(戦車の拳骨)」という2種類の携帯式対戦車兵器を使ったが、この内パンツァー・ファウストについては、ドイツ人には悪い思い出がある。ナチス・ドイツ軍は戦車や対戦車砲が不足した大戦末期に、十分に訓練を受けていない新兵や市民にパンツァー・ファウストを渡して前線に送り込み、ソ連や米軍の戦車を迎え撃たせた。いわば、圧倒的に優勢な敵に対する、最後の竹槍戦術である。だがこのような「やぶれかぶれ戦法」で、物量に物を言わせる連合軍に勝てるわけがない。この戦術は全く効果がなく、少年を含む多くの新兵、市民たちが敵の戦車のキャタピラで蹂躙(じゅうりん)されていった。
 このためドイツの金融専門家らは、EFSFが「やぶれかぶれ兵器」にたとえられていることに、いやな予感を抱いているのだ。
 11月3日に欧州中央銀行(ECB)は、突然政策金利を、2年半ぶりに0.25ポイント引き下げた。有力銀行のエコノミストたちも、ECBがこの時期に利下げに踏み切るとは予想していなかった。ECBの決断は、債務危機が欧州全体の景気に悪影響を与えるかもしれないという観測が強まっていることを象徴している。
 私は前回「現在EUが行なっている救済策は対症療法にすぎず、根本的な治療ではない」と述べた。この点をご理解いただくためには、私が1991年以来取材してきた、ユーロの成立過程に目を向ける必要がある。
 次回からは、ユーロ危機の根源を解明するために、欧州通貨同盟が抱える構造的な問題について詳しくお伝えしたい。
(次回に続く)


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111104/223604/?P=6

ギリシャ危機が持つ第二次大戦以来の破壊力 1 (日経ビジネス)
http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/886.html
投稿者 BRIAN ENO 日時 2011 年 11 月 04 日 09:16:09: tZW9Ar4r/Y2EU

<投稿者のコメント>
連番としてのタイトルは、上記「ギリシャ危機が持つ第二次大戦以来の破壊力」ではなく、「緊急連載 ユーロ危機と欧州合衆国の幻【1】」でした。訂正してお詫び申し上げます。

 

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コメント
 
01. 2011年11月08日 10:37:18: COIYxcuwIA
緊急連載?
「周回遅れ」「後出しジャンケン」のネタだ。
そんなんじゃ、日経記者さんよ、社長賞は無理だn

02. 2011年11月09日 11:12:11: DyuIIO5nE6
貸し手側の、都合だけで書かれている脅しの記事にしか見えない。

貸し手の責任も問わずに一方的に書かれている記事に何の価値もない。

そんな借金なんか、全額踏み倒してしまえ、びた一文返済する必要は無いよ。

馬鹿な、金融機関の目が覚めるまではね。


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