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竹森教授キンドルバーガー論最終回:「ユーロ金融危機」とドイツ・「ユーロ共同債」・ECBについて
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/288.html
投稿者 あっしら 日時 2011 年 11 月 25 日 03:45:15: Mo7ApAlflbQ6s
 


 竹森俊平慶応大教授がキンドルバーガー理論を基軸に、「大恐慌」とそれからの脱却をめぐる様々な経済理論を紹介している日経新聞の「やさしい経済学」からの転載である。

 今回が最終回である。
 竹森教授は、キンドルバーガー氏の考え方を「ユーロ金融危機」に援用し、「今回のユーロ危機も中国マネーに頼るようでは決意の弱さが見透かされる。強国のドイツが必要な金を出す決断が不可欠だ」と締めくくっている。

 残念ながらというか、当然というべきか、現在進行形の「ユーロ金融危機」を収束させるために、リーダー国としてドイツが必要な資金を出すことはない。

 結論を先に言えば、「ユーロ金融危機」を収束させようとするのなら、後始末の方式はともかく、欧州中央銀行(ECB)が債務履行に懸念を持たれている国の国債を買うしかない。

(現在のECBは、銀行への資金供給に励んでいるだけであり、独・仏・伊の三首脳も、ECBに介入せずECBに委ねることで合意した。裏ではいろいろな協議がなされているだろうが)

 ドイツのメルケル首相は、欧州委員会が提案した「ユーロ共同債」についても反対の姿勢を変えていない。
 ドイツがユーロ同盟の最大受益者であることは衆知でも、外国の公的債務履行危機とそれによる銀行毀損を収束するために、ドイツが資金を出すことをドイツ国民が認めることはない。
 問題はそれだけにとどまらず、ユーロ同盟におけるドイツの位置が飛躍的に上昇し、ユーロ同盟が“固定化した覇権国をいただく神聖ローマ帝国”になりかねない。
 フランスも、公的債務危機に苛まれている諸国家も、ドイツに隷従するかたちになるような収拾策に乗ることはないだろう。

 一昨日あたりから具体的なかたちで俎上にのぼっている「ユーロ共同債」だが、3つのアイデアがあるという。

●「第1の案は、ユーロ圏各国の資金調達手段を現在の国債から共同債に全面的に切り替え、各国が連帯して債務を引き受ける方式」


[コメント]:これは、財政統合(財政主権放棄)をさらに超えるレベルでの政治的統合=「ユーロ合衆国」が実現しない限り無理なアイデアである。財政のみならず税制・社会保障制度・労働規制などが個別国家の手に委ねられた状況であれば、財政が不安定な国の債務を財政が健全な国が保証することを意味するからだ。


●「第2の案は国債から共同債への切り替えを一部に限り、国債と共同債を併用する方式」


[コメント]:「財政協定」で規制されているGDP比60%以内の借り入れは共同債で、それを超える借り入れは個別国家が国債で行うというものだという。これは、今回のような危機の繰り返しか、多重債務者のように高金利でしか借り入れができない(実質借り入れ不能)の国家が出現しユーロ圏ミニマムの生活ができない人々があふれることになるか、それら両方を引き起こすアイデアなのでダメだ。


●「第3の案は、共同債として一本化するものの、各国が債務を分担して引き受ける方式」

[コメント]:ECBへの出資比率などに応じて各国の政府保証割合を決めている欧州金融安定基金(EFSF)債と同じ仕組みだという。この考え方がベースになって、「ユーロ共同債」が具体化されていくだろう。EFSFの金額が、ドイツの債務残高を除く、他の国々の総債務残高(与信範囲)ということになりかねないが、救済される国家に対する「財政干渉」が行われることでその壁は低くなっていくだろう。

 「ユーロ共同債」構想が具体化しなければ、現状の国債制度が続くため「ユーロ危機」の再発は避けられず、今後厳しい「財政干渉」だけを行えば国民生活が困窮した国でユーロ離脱運動が起きユーロ同盟自体が崩壊の危機を迎えることになる。

 欧州委員会が上げたアドバルーンは行くべき方向を指し示してはいるから、あとは、「財政統合」の道筋をどう具体化するかにかかっている。

 「ユーロ共同債」と「財政統合」はセットの政策であり、独立心旺盛な諸国民の反発を考慮しながら「財政統合」を進めることになるだろう。

 これが政策化されたときに、ECBが、金利の統一(一体化)を旗印に、金利が跳ね上がっている国債の購入に動くだろう。

 ともかく、金融家の利益のために、強いユーロを低い金利で調達できたことで実現できたこの10年の生活に終止符が打たれることになる。

 EUは良いが、ユーロは悪夢でしかないと多くのヨーロッパ人が思うようになるだろう。


※ これまでの「危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー」

「「今こそ知ったかぶりを改めよ」:非現実的モデルによる量的予測におぼれる経済学者に対する戒め」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/148.html

「第2回危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー(2)鋭い理論的洞察」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/184.html

「キンドルバーガー第3回:自由貿易の利益は普遍ではなく「その国にとってプラスかどうかは状況に依存する」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/202.html

「「大恐慌」研究の第2世代としてのキンドルバ−ガー(第4回)」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/206.html

「(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第5回):「通貨切り下げ競争」はデフレ要因か」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/227.html

「(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第6回):「リーダー国の役割」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/250.html

「[危機・先人に学ぶ]キンドルバーガー理論で「ユーロ金融危機」を考察:付録「21年欧州合衆国」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/260.html


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やさしい経済学

危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー

(8)「強国」の指導力

慶応義塾大学教授  竹森 俊平

 青春期に遠洋航路の貨物船でアルバイトをしたキンドルバーガーは、常に経済問題の国際面に視線を注いだ。1985年の米国経済学会会長就任記念講演で、米国はリーダー国なのに、最近は経済学までが国内問題の議論に集中し、自国の政策の国際的影響を軽視していると嘆いた。今年、連邦政府債務の上限引き上げが遅れ、米国債の不履行が取り沙汰された。彼ならどう発言しただろう。

 講演の演題は「世界政府が不在の中での国際公共財の供給」である。国内公共財の供給は政治過程により決まるが、国際公共財の供給はどう行われるか。政治学における「現実主義者」は、世界の「強国」(リーダー)が長期的視野から短期的犠牲を覚悟して行うという。「制度主義者」は出発点での強国の貢献を認めるものの、強国はやがて「制度」(レジーム)、すなわち基本ルール、標準、慣習をつくり、その制度に従って諸国が協調して行うという。キンドルバーガーは、自分は現実主義者だという。

 かつて「強国」だった英国のレジームは国際機関に頼らず、政府間交渉が重視された。「強国」となった米国は国際通貨基金(IMF)のような国際機関に依存したレジームをつくる。
 いずれの場合も国際問題では国内問題以上に「タダ乗り」の誘惑が強いので、平時でさえも強国が指導権を握らなければ制度は機能不全となる。ところが危機となると、強国が指導権を握る以外に緊急な決定ができない。1930年代の大恐慌は「輸入市場の開放」「最後の貸し手」といった国際公共財を提供できる強国の不在から起きたのだ。

 「一人の判断によってではなく、ルールに基づき経済が運営されるべきだというのが最近の経済学の考えだ。たしかに平時は人が後退し、ルールが前に出るのが望ましい。だが危機は必ず発生する。その時に必要なのは一人の人間の決断だ」という言葉で講演は結ばれる。連載の第3回で触れた彼の自伝中で、大戦時のブラッドレー中将の逸話が一番生彩を放つ理由がこれで分かる。危機管理者の理想が中将なのだ。今回のユーロ危機も中国マネーに頼るようでは決意の弱さが見透かされる。強国のドイツが必要な金を出す決断が不可欠だ。

[日経新聞11月23日P.27]
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欧州全体で信用補完 共同債、ドイツ慎重論強く

 【ブリュッセル=瀬能繁】欧州委員会は23日、「ユーロ共同債」について3つの案を選択肢として示した。問題国の信用を補完する試みだが、実現にはそれぞれハードルがある。当面は他の経済・財政統合策と併せて中長期の導入手順を示す行程表(ロードマップ)で合意できるかが焦点となる。

 欧州委の第1の案は、ユーロ圏各国の資金調達手段を現在の国債から共同債に全面的に切り替え、各国が連帯して債務を引き受ける方式だ。

 第2の案は国債から共同債への切り替えを一部に限り、国債と共同債を併用する方式。例えば、安定・成長協定(財政協定)に基づき債務の国内総生産(GDP)比60%以内の資金調達は共同債を活用、残る部分は各国が自力で調達する。

 第3の案は、共同債として一本化するものの、各国が債務を分担して引き受ける方式。欧州中央銀行(ECB)への出資比率などに応じて各国の政府保証割合を決めている欧州金融安定基金(EFSF)債と同じ仕組みだ。

 第1と第2の案は、ギリシャなど信用力の低い国の資金調達コストを抑えられる効果が大きい半面、放漫財政の国も資金を得やすくなるモラルハザード(倫理の欠如)の弊害が危ぶまれる。

 さらに最も高いハードルは大国ドイツの反発だ。メルケル独首相は22日「金融危機の渦中のいま議論するのは適切ではない」とくぎを刺した。ドイツが反発を続ければ、欧州連合(EU)で加盟国の債務引き受けを禁じた条約の改正などの手続きも進まない。

[日経新聞11月24日朝刊P.5]

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仏独伊、ECBに対する絶対的信頼を確認=サルコジ大統領

2011年 11月 25日 01:08 JST

 [ストラスブール(フランス) 24日 ロイター] サルコジ仏大統領は24日、モンティ伊首相、メルケル独首相と会談し、独仏伊の3カ国は欧州中央銀行(ECB)、およびECBがユーロ圏債務危機に対応する能力に対する絶対的な信頼を持っており、ECBに対し何も要請しないとの見解で一致したと述べた。

 サルコジ大統領は会談後の共同記者会見で「われわれはECB、およびECB幹部に対する信頼を確認した。この重要な機関の独立性を踏まえ、ポジディブであれ、ネガティブであれ、何らかの要請を行うことを控える必要があることも確認した」と述べた。

 また、ECBの役割拡大の代替案とみなされている欧州連合(EU)条約の修正案について、12月9日のEU首脳会議前に提示されることを明らかにした。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-24329720111124

 

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コメント
 
01. 2011年11月25日 04:58:23: Pijo5v1olc
「ユーロ共同債」構想で欧州が救われるのか疑問だ。財政統一にまで発展するこの構想を支持する人たちはドイツの経済、特に金融界を甘く見ている。ドイツでさえ銀行中心の金融はかつての日本並みに脆弱だ。これから先の長期的な欧州と世界経済は見通はどうしても縮小均衡化し、株価も低迷する。債務不履行の規模はこれから先も解消できないそうにない。一時しのぎだけを考え、国民負担の先延ばしになることは日本の1000兆円の国債残高が証明している。

欧州は絶対にユーゴスラビア解体の悲劇を忘れてはいけない。ユーロ圏が強く結びつくほど、圏内のそれぞれの国家や民族が耐えてきた鬱憤がやがて頂点となって爆発する。このまま財政統一まで進むと、あまりにも大きい犠牲を出した後に、国家が疎遠であることが一番良いことだと気づくことになる。


02. 佐助 2011年11月25日 08:42:27: YZ1JBFFO77mpI : FHT6T6dWVU
ユーロは各国が保有する金合計の約25%のユーロ通貨の発行高&ユーロ共通債券とリンクさせざるをえません。最初からドルとユーロが一緒に、債券や通貨発行高を金とリンクさせれば、より長期間安定できるのですが、ユーロは「ドルの寿命を延命させるだけだとか、自己責任をとらない国は除名脱退すればよい」と、お互いのテレトリー(縄張り)の既得権益擁護が障害となり、簡単に収束できないのです。

欧米が不安定で円の独歩高は、日本と中国がため込んだ巨額のドルが、間接的に金と等価と連想されているためです。ですから、中国の元が政府管理下でなければ、世界の通貨投機は元に集中します。だから中国は元の管理が破れないように、香港の銀行(国有・私有)に元建て国債を発行追加させる手もある。しかし元は中国解体とバブル作裂と、シーラカンス銀行のデフォルトの三つの危機に直面している。多民族国家・部族国家がネックになるだろう。


ユーロも金とリンクさせれなければ収束しないしドル・ユーロ・円が、世界の75%の金とリンクしないと収束沈静化しない


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