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≪関岡英之 著『国家の存亡―「平成の開国」が日本を滅ぼす』 より抜粋(4)≫TPPと医療・薬品 その2
http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/819.html
投稿者 Roentgenium 日時 2011 年 11 月 08 日 03:22:07: qfdbU4Y/ODJJ.
 

≪関岡英之 著『国家の存亡―「平成の開国」が日本を滅ぼす』 より抜粋(3)≫TPPと医療・薬品 その1 Roentgenium
http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/776.html


(前回、3頁からの続き)


■TPP傘下に懸念を表明した日本医師会

日本医師会は従来自民党の支持基盤であったが、原中勝征会長就任以来、民主党支持に転じた。しかし菅総理が党内コンセンサスを得ないまま、唐突に「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定してから僅か1カ月後の2010年12月1日、逸早く「日本政府のTPP参加検討に対する問題提起―日本医師会の見解」を発表した。

日本医師会は「日本が今後TPPに参加した場合の懸念事項」として次の4点を挙げている。


(1)日本での混合診療の全面解禁(事後チェックの問題を含む)により公的医療保険の給付範囲が縮小する。
(2)医療の事後チェック等により公的医療保険の安全性が低下する。
(3)株式会社の医療機関経営への参入を通じて患者の不利益が拡大する。
(4)医師、看護師、患者の国際的な移動が医師不足・医師遍在に拍車を掛け、更に地域医療を崩壊させる。


(1)の混合診療の全面解禁と、(2)の事後チェックへの転換については既に述べてきた通りで、全く以て同感である。(4)は、規制改革分科会の医療分野の主な規制改革案の「医療の国際化」〔※「表1 医療分野の主な規制改革案」を参照〕に対する懸念で、これも極めて正当な批判である。

何よりも先ず、小泉政権の悪政で交配した医療現場や市域医療を立て直すことこそが最優先されるべきである。自家用ジェット機で乗り着けて来るような外国の富裕層が検診に殺到するようなゴージャスな病院が乱立しても、日本国民の幸福には繋がらない。

医療機関を安定させるなら、先ずマクロの問題として財源を含めて医療費の増加の必要性についての国民的議論を喚起し、合意の形成を急ぐべきだ。国民の為の医療の現場が崩壊しているというのに、外国人の懐を当てにして外国人仕様、外国語サービスを充実させるなど本末転倒も甚(はなは)だしい。

(3)の株式会社の医療機関経営への参入に伴う患者の不利益について、日本医師会は次の5点を挙げている。


@営利重視の合理化は医療の質の低下を齎す。
A不採算部門等からの撤退は患者に皺寄せされる。
B採算性の高い自由診療が横行し、公的保険が空洞化する。
C採算によって患者の選別、囲い込みが横行する。
D自由診療が拡大すれば医療費が高騰し、患者負担が増大する。


株式会社による医療機関経営への参入は、かつて米国が日米投資イニシアティブで要求し、小泉総理の指示によって「構造改革特区」に限って認められたという経緯は前述した。それが何故、今になって再び問題となっているのか。

■M&Aのターゲットにされる病院

≪≪規制・制度改革分科会は「医療法人の再生支援・合併における諸規制の見直し」という改革案を挙げている。今回は特区に限った話ではない。要するに経営が悪化している全国の病院のM&Aによるスクラップ・アンド・ビルドだ。私達が生命を預ける病院が、経営再建の名の下に、医療とは縁も所縁(ゆかり)も無い企業によってモノのように売買されるということだ。≫≫

日本の医療政策研究の第1人者であり、最初の単著『医療経済学―臨床医の視角から』(医学書院 1985年刊行)以来、一貫して医療分野への市場原理の導入を批判的スタンスから研究している日本福祉大学副学長の二木 立(にき りゅう)教授は、これについて次のように指摘している。

「これがいったん認められると、将来それが医療法人全体に拡張され、結果的に営利法人による医療機関経営の解禁に繋がる危険がある」

「たとえ部分的にせよ株式会社の参入が認められると、医療の非営利原則が弱まり、既存医療機関(特に大規模病院チェーンや『保健・医療・福祉複合体』)の営利的行動・『企業化』が強まることは確実である。それにより、国民医療費が不必要になると共に、国民の医療不信更に強まる危険性が大きい」

〔資料〕『二木 立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻80号)』 - 総研いのちとくらし 2011年3月1日
http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/20110301-niki-no080.html

二木教授は「医療倫理の最大の脅威は営利企業の参入そのものではなく、企業家的に行動する医師や非営利病院が増えていることである」という米国の医療経済学者の見解を紹介し、警鐘を鳴らしている。

二木教授が指摘している通りだと思うが、私はどうしてももっと穿(うが)った見方をしてしまう。何故なら、規制・制度改革分科会は「医療法人の再生支援・合併における諸規制の見直し」の具体的内容に関して次のように説明しているからだ。


○現在、窮境に陥っている地域の医療法人は極めて多く、経営ノウハウは不足しており、またスポンサー候補は限られている。
○そこで、一定の要件を満たした再生事例であり、かつ非営利性維持を妨げない範囲において、営利法人の役職員が医療法人の役員として参画することや、譲受(ゆずりうけ)法人への剰余金配当等を認めるべきである。
○一定の事例の要件としては、例えば、事業再生ADR(引用者注:裁判外紛争解決制度)手続きや民事再生などの法的手続きを経る場合などが考えられる。


■不良債権ビジネスの病院版?

≪≪こんな文章を読むと私は、第2章で取り上げたハゲタカ・ファンドの不良債権ビジネスを想起せざるを得ないのである。

「役員として参画」させろと言うが、「窮境に陥っている地域の医療法人」に目を着けるような営利法人は、そもそも診療報酬が厳しく国家統制されているこの日本で、本気で病院経営をしたいと思っているのだろうか。

二木教授は「現在の企業立病院が『効率的な経営』や『効率的な医療の提供』を行っているとは言えず、株式会社参入による医療の効率化や医療の質の向上が幻想に過ぎないことが分かる」と指摘している。だとすれば、本当の狙いは何だろうか。

これに関連して、少し古いが極めて興味深い報道がある。「病院不動産ファンド始動 資本の論理、医療にも」と題した2007年4月18日の日本経済新聞・太田康夫編集委員も著名記事である。

これは、ドイツ証券や伊藤忠商事などが共同で病院不動産ファンドを設立したというもので、ファンドは病院から土地・建物を買い取り、それを病院に賃貸して運用すると言う。病院は毎月賃貸料を払わなければならないので、それ以上の収益を上げなければならない立場に追い込まれる。

不動産ファンドは病院の収益を高めさせる為の助言もすると言う。恐らく、小児科のような採算性の低い診療部門は切り捨てられることになる。それでももし期待通りの収益を上げられなかったら、病院はどうなるのか。タンポの土地だけ差し押さえられて廃業するしかないだろう。

要するに狙いは土地ではないのか。第3章でも触れたが、農業改革と称する農地の集約化にも同じ危険が潜んでいる。規制改革の主たるターゲットとされる農業と医療。その真の狙いは、農地や病院の敷地を、新たな土地転がしの玉として捻り出そうとということではないのか。

これではまたしてもあの不良債権処理ビジネスという悪夢のリバイバルに付き合わされることになるのではないか。だが、今回狙われているのはオフィスビルやゴルフ場などではない。私達の食糧を支える農地と、健康を支える病院なのだ。

ゾンビ(新自由主義)バスターをもって任ずる二木教授は、医療への市場原理の導入は、日本社会の統合性と安定性を損なうだろうと警告している。≫≫

〔資料〕伊藤忠商事がドイツ証券、スクウェア・ワンの企業連合と病院不動産ファンド運用会社設立へ|伊藤忠商事株式会社 2007年4月4日
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000000000.html

〔資料〕医療崩壊の危機(3) 病院ファンドの行方 - 縁側でちょっと一杯 2007年5月21日
http://blog.goo.ne.jp/engawadetyotto/e/2eb282e2c8c913454833fa863a6b9671

〔資料〕日経・CSISバーチャル・シンクタンク - Wikipedia ※、玄葉光一郎、石破 茂、他
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B5%8C%E3%83%BBCSIS%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%AF

〔資料〕≪「対日年次改革要望書」とTPP:日本語翻訳 PDFファイル(1996年〜2011年)≫|MelancholiaT
http://ameblo.jp/antibizwog/entry-11066706411.html

〔資料〕Google books - 関岡英之 著『国家の存亡―「平成の開国」が日本を亡ぼす』(全240頁) ※第1章、第3章を御覧になりたい方はこちらを参照。
http://books.google.com/books?id=zgjPGla0UBYC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false


■「日米経済調和対話」とドラッグ・ラグ問題

第1章でも触れた通り、「日米経済調和対話」の米国側関心事項10分野の中にも医療分野が含まれている。そこに掲げられている具体的な要望事項は表2の通りだ。とてもではないが、全てを取り上げるのは私の手に余る。


<表2 「日米経済調和対話」の医薬品・医療機器分野>

(1)医薬品・その他
※@新薬創出・適応外薬解消等促進加算
A市場拡大再算定:
B外国平均価格調整(FPA)ルール:
C14日の処方日数制限
※Dドラッグ・ラグ:
※E行政審査期間:
※F手数料:
G血液製剤:

(2)ワクチン
@ワクチンに対するアクセス:
A透明性:
Bワクチンに関する意見交換:

(3)医療機器
※@外国平均価格調整(FAP)ルール:
A対外診断薬(IVD)に関する保険償還:
※B大型医療機器に対するC2保険適用プロセス:
※Cデバイス・ラグ及びギャップの解消:
D企業に対する役磁気性負担の軽減:

(4)化粧品
@医薬部外品:
A広告・表示:
B化粧品・医薬部外品の輸入:
Cその他透明性・規制問題:

(5)栄養補助食品
@規制分類と表示:
A健康食品安全規制:
B食物添加物:

※は規制・制度改革分科会のライフ・イノベーション・ワーキング・グループが掲げる「ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグの更なる解消」に係る項目。

http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20110304-70.html


≪≪一方、規制・制度改革分科会のライフ・イノベーション・ワーキング・グループが掲げた規制改革案は表1に掲げた通りだが、対比してみると「日米経済調和対話」での米国側の要望事項は、「ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグの更なる解消」に集中していることが分かる。

また、2011年3月6日〔※東北大震災及び福島原発事故の5日前〕に行われた規制仕分けでも、これに関連する「医薬品及び医療機器の審査手続き」という項目が俎上に載せられた。≫≫

〔資料〕規制仕分け:規制仕分け詳細と結果速報|内閣府 2011年3月6日
http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-shiwake/detail/2011-03-06.html

http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-shiwake/schedule/2011-03-06.html

私もその仕分けを一部始終、傍聴した。そこで、本稿ではドラッグ・ラグ、デバイス・ラグ、特に前者に絞って考えてみたい。

先ず、言葉の意味だが、「ドラッグ」は医薬品、「デバイス」とは医療機器のことで、医療機器は更に診断用機器(MRIやPETなどの画像診断装置など)と、心臓ペースメーカー、カテーテル(医療細管)、ステント(血管拡張器具)のような治療用機器に分かれる。「ラグ」はタイムラグのことで、海外で承認されて使えるようになった薬が、日本で使えるようになる迄待たされる期間、つまり遅れのことである。

現状どれ位待たされているのか。かつては4、5年と言われていたが、規制仕分けの時に傍聴者に配布された厚生労働省の資料によると次の通りである。


医療品ラグ:30カ月(平成16年度)→24カ月(平成21年度)
うち、申請ラグ:18ヶ月(平成16年度)→18カ月(平成21年度)
審査ラグ:12カ月(平成16年度)→6カ月(平成21年度)


近年、若干改善されてきたとはいえ、未だ2年の遅れが残っている。その間、その薬は日本では未承認薬、適用外薬という扱いになる。個人輸入することは法的には問題無いが、混合診療のところでも取り上げたように全額自己負担になってしまう。米国製の薬は薬価(やっか)自体が非常に高い為、経済的な理由から個人輸入出来る患者は限られる。

これは余命が限られた再発・転移癌患者にとっては文字通り、生きるか死ぬかの問題である。それ故、多くの癌患者団体がドラッグ・ラグの解消を訴えて活動を展開している。

■「年次改革要望書」とドラッグ・ラグ問題

日本では、新しく開発された医薬品や医療機器の品質、有効性、安全性を審査し、承認の可否を決定するのは、かつては厚生労働省であったが、現在では2004年に設立された厚生労働省所管の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(以下、PMDAと略称)がその任に当たっている〔※ちなみに小泉も管も厚生大臣を務めた経歴がある〕。

前節で紹介した平成16年度と平成21年度の比較にあった申請ラグというのは、新薬などを開発した製薬会社がPMDAに申請する迄の遅れで、審査ラグはPMDAの審査が長引くことによる遅れである。

厚生労働省が規制仕分けで提示した資料は、PMDAによる審査ラグは大幅に改善されてきており、現在のドラッグ・ラグの主たる原因が申請ラグ、つまり製薬会社側の申請の遅れにあると主張する内容になっている。

これは厚生労働省による手前味噌の面もあるが、一定の事実として認めて良い。厳しい行革の流れの中で、PMDAは予算や人員の増枠が認められてきた数少ない独法の1つである。未だ、米国の審査機関である食品医薬品局(FDA)とは比較にならない規模ではあるものの、審査体制が整備増強されてきたことは確かである。

≪≪かつて米国は「年次改革要望書」を通じて、新薬の承認審査の迅速化を再三、日本に要求してきた。実はPMDAが設立されたこと自体、米国の要望に応じたものだったのである。≫≫

そのことは、例えばPMDA設立前の2002年版の「年次改革要望書」にある「薬事法の改定と、医療機器・医療品の承認審査を行う新たな審査機関の設置は、日本の薬事制度のスピードと効率を向上させる」という記述や、

設立の翌2005年版の「年次改革要望書」にある「2004年に設立された医薬品医療機器総合機構(PMDA)と大幅に改正された薬事法の施行は、医薬品と医療技術の承認審査時間を改善することを1つの目的と行われた」という記述で裏付けることが出来る。

〔資料〕日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府の年次改革要望書 2002年10月23日
http://japan2.usembassy.gov/j/p/tpj-jp0260.html

〔資料〕日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 2005年12月7日(PDF、全49頁)
http://aboutusa.japan.usembassy.gov/pdfs/wwwfj-regref20051207.pdf

審査を迅速化する見返りに、承認を申請する製薬会社がPMDAのコストを一部負担するという審査手数料制度も、米国の要求により、米国のユーザーフィー制度を日本に導入したものである。

その事実も、2002年度版の「年次改革要望書」に「ユーザーフィーが、新たな審査機関の予算を補完する為に使われ、それが新製品やその使用法のより迅速な承認に利用される資源となることを保証する」とはっきり書いてある。

米国は何故、日本に対して審査の迅速化を求めていたのか。米国の製薬会社は、新薬を開発すると直ぐに特許を押さえる。特許の有効期間中は独占価格で販売出来るので、期間内に出来るだけ多くの売り上げを得ようとする。承認が遅れればそれだけ販売期間が短くなってしまうので、審査を迅速化するよう圧力を掛けていたわけだ。

混合診療のところで、私は「未承認薬や適用外薬の問題についても、患者にとって真に望ましい解決策は、混合診療の拡大ではなく、新薬の保険収載の促進であると考える」と書いた。

ならば米国の圧力は、日本の癌患者の利益にプラスになったと言えるだろうか。確かにそれは否定出来ない。米国が審査の迅速化を要求したのはあくまでも米国の製薬会社の利益の為だったが、日本のドラッグ・ラグの短縮化にも結果的に貢献し、日本の多くの再発・転移癌患者に福音を齎したのは否定出来ない事実である。

■ドラッグ・ラグと薬害は二律背反

≪≪しかしそれは事実の1面である。薬の審査に関しては、もう1つ忘れてならない視点がある。それは薬害の問題だ。≫≫

最近では肺癌治療薬イレッサの薬害訴訟がよく知られている。イレッサは2002年に日本が世界に先駆け、申請から5カ月という異例の早さで承認した分子標的薬である。当時は副作用の少ない「夢の新薬」と期待されたが、その後、副作用によると思われる死者が800人以上報告され、死亡した患者の遺族などが損害賠償訴訟を起こしていた。

2011年1月7日、東京地裁と大阪地裁は共同で、国と製薬会社の法的責任を認める内容の和解を勧告した。厚生労働省は「薬の有効性により副作用が重視されるならば、薬事行政の根幹に係る」と反論し、最終的に国は勧告を拒否した。

これを受けて大阪地裁は、2月25日に判決を下した。製薬会社に約6000万円の賠償を命令する一方、国への請求は棄却した。判決では、国に国家賠償法上の責任は認められなかったもの、「必ずしも万全な規制権限の行使だったとは言い難い」と指摘した(産経新聞 2011年2月26日)。3月23日には東京地裁が国の責任を認める判決を下した。

厚生労働省の反論にも一理ある。副作用の無い薬はない。

とりわけ抗癌剤は、「毒を以て毒を制す」という設計思想に基づいて開発された薬であり、その重篤(じゅうとく)な副作用は想像を絶するものがある。経験した者にしか分からないだろう。その苦痛に耐えたとしても、再発・転移ともなれば完治する見込みは限りなく低い。それが解っていても、多くの患者は生き延びる為に抗癌剤を受け入れる。

一方、患者の延命よりもQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を重視する立場から、抗癌剤を否定する医師や評論家も出てきており、最近も雑誌の誌上で論争が起きている。延命とQOLのどちらを重視するか。これは最早個々人の価値観の問題、哲学の領域の問題である。

≪≪薬の審査は、こうした有効性と安全性、薬効と薬害の微妙なバランスの上に成り立っている。あらゆる副作用を見極めるには長期の経過観察と症例の蓄積が必要である。

PMDAが薬の審査を迅速化させればドラッグ・ラグは短縮化されるが、承認後に想定外の薬害が顕現するリスクが高まる。逆に審査を厳格化させれば薬害は減るかも知れないが、ドラッグ・ラグは間違いなく深刻化する。そのどちらも多くの患者を苦しめる。

薬害撲滅を掲げる患者団体と、ドラッグ・ラグ解消を掲げる患者団体が求めることは、本来、二律背反である。≫≫

■規制仕分けで語られなかったこと

≪≪私は2011年3月6日に行われた規制仕分けで「医薬品及び医療機器の審査手続」に関するセッションを傍聴した。PMDAの審査の迅速化を促進する為の規制改革を検討することが目的とされていた。

先ず驚いたのは、規制改革に対する慎重派側の参考人が出席していなかったことである。規制仕分けのルールでは、推進派、慎重派、双方から1名ずつ参考人が出席することになっており、私が傍聴したもう1つ別の農業関連のセッションではそれが担保されていた。

更に驚いたのは、「評価者」と呼ばれるいわゆる「仕分け人」が、与党国会議員、外資系証券会社と生命保険会社の社員、大学教員、弁護士、民間医療機関の関係者のみで、薬害反対の立場はおろかドラッグ・ラグ解消推進の立場さえ、患者団体の代表が1人も出席していなかったことである。

薬の審査について論じるならば、有効性と安全性のバランスに対する慎重かつデリケートな配慮が不可欠だ。ドラッグ・ラグ解消を重視するのであれ、薬害を重視するのであれ、それは最終的には患者の利益の為になされるものでなければならないはずである。

だがそこで語られたのは、薬の審査を如何に迅速化するかということばかりで、安全性の担保についてはまともに議論されることはなかった。これでは米国の論理と変わらないではないか。

仕分け人の1人(大学教員)は「PMDAがジャイアンのように製薬会社をイジメている」という趣旨の発言を繰り返していた。

別の仕分け人(民主党国会議員)は「製薬会社出身の審査官が、採用後5年間は出身元の案件の審査を担当出来ず、退職後2年間は審査と密接に関係ある職務に就けないといった就業規則が、人材採用上の制約となっている。これを規制緩和出来ないか」と真顔で問い質したときには唖然とした。公務員でありながら、利益相反(コンフリクト・オブ・インタレスト)のイロハも知らないのだろうか。

また、PMDAの現行の内規では、希少疾患と重篤(じゅうとく)な疾患向けの薬を優先的に審査することになっているが、これについて、外資系証券会社社員の仕分け人などに至っては「もっと売れる薬を優先的に審査するように出来ないのか」と真顔で質問する始末だった。

2時間のセッションで一言も発言しない仕分け人も3名いたが、発言した仕分け人の殆んどは製薬会社の立場を代弁していたとしか思えない。ドラッグ・ラグの解消と言っても、それは患者の利益ではなく、製薬会社の利益という観点からの規制改革を検討する場であったわけだ。

結局、仕分けの結果は次の通りとなった。民主党議員が発言したPMDAの就業規則の緩和も反映された。


改革の方向性:審査手続の一層の明確化、透明化を図る。
留意点:審査手続だけでなく、医薬品、医療機器の開発、商人のあり方全体を検証する必要がある。
取り纏め内容:従来の薬事法を見直し、開発の在り方から、また医学の臨床の在り方、姿勢を含めて、法の運用の仕方を根本的に改善し、見直す必要がある。PMDAの有為(うい)な人材の獲得に向けた就業規則の見直しも含めて改善を図る。


そもそもこの規制改革は「新成長戦略」の一環として位置付けられており、「日本初の革新的な医薬品・医療機器の創出」が唯一最大の政策目的であり、殆んどの仕分け人の念頭には、産業育成の論理しかないことは明白だった。弁護士出身の仕分け人も、どうやら薬事法が専門ではなかったようだ。

開発推進派の参考人の発言に対しては傍聴席から拍手が上がったが、私の目には安全性の問題を提起して奮闘していた厚生労働省の官僚のほうが、余程まともな議論をしているように見えた。

「日本初の革新的な医薬品・医療機器の創出」という目的自体を否定するつもりはない。治療用機器の8割が米国からの高価な輸入品となっている現状は打開すべきだ。医薬品や医療機器の国産化を国策として支援すべきだと私も思う。だが、PMDAの審査を迅速化し、審査ラグに手を着けるだけで、医薬品・医療機器の国産化が前進するわけがない。

何故なら、ドラッグ・ラグのもう1つの大きな要因である申請ラグ、即ち製薬会社の申請の遅れには、PMDA側の問題だけでなく、製薬会社の様々な思惑、臨床研究より基礎研究を偏重する日本の医学界の体質、病院における治験インフラの不足、その背後に広がる歴年の医療費抑制政策の失敗など、様々な問題が複雑に絡み合っている。

民主党議員や民間人の仕分け人達の攻撃的な姿勢が目立った中で、「これはPMDAだけの問題ではないですね」と、唯一真っ当な見識を示したのは国民新党の亀井亜紀子参議院議員ただ1人であった。

こうした制度的要因に加え、医薬品の審査業務や治験・臨床試験の意義に対する国民の無理解や偏見という根本的な問題がある。これには、ひとたび薬害が起きると国や製薬会社をひたすら叩くだけで、本質的な問題を掘り下げようとしないマスメディアの責任が最も大きい。

それらに手を着けずに、PMDAの審査だけを規制緩和してしまえば、結局、米国の製薬会社の思う壺ではないか。民主党政権が医薬品・医療機器の国産化推進を本気で考えているとは思えない。そして何よりも、薬事行政に関する規制改革の方針を決定するのに、患者の視点を一顧だにしないという民主党政権のスタンスは、どう考えても間違っている。

規制・制度改革に対しては、やはり国民による厳しい監視の目が必要である。そもそも規制は何の為にあるのか。誰の為のものなのか。「既得権益にしがみ付く役人の為」と言うのは、余りにも単純で1面的な思い込みである。

現実には、悪徳業者によるトラブルを未然に防いでいる面もある。「規制は悪だ」という決め付けは、規制されて困る側が振り撒いたプロパガンダに過ぎない。

規制というものは空気と同じで、普段はその有難味が分からない。だが、マスコミが規制の必要性を叫ぶのは、決まって深刻なトラブルや社会問題が表面化した後だ。いったんことが起きると、それ迄規制緩和の大合唱を繰り広げていたことなど忘れたかのように、掌を返して「役所の怠慢」や「行政の責任」を糾弾する。定見を欠いたマスコミこそ無責任極まりない。

もう一度、「事前規制型社会」と「事後調整型社会」のどちらに住みたいか、比べてみて欲しい。そしてどちらの社会を子供や子孫に残したいか、熟慮してみて欲しいのだ。≫≫


     ◇


【TPP:CSIS繋がり】


〔資料〕CSISのトモダチ作戦報告書のサマリーを読む。 - ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報 2011年11月4日 ※原発事故とTPP
http://amesei.exblog.jp/14883170

http://csis.org/program/partnership-recovery-and-stronger-future-task-force-us-japan-cooperation-after-311


〔資料〕米国の対中東政策を左右するシンクタンク事情〜影の主役の興亡〜 By 菅原 出(東京財団)
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_txt.pl?id=632

〔資料〕日経・CSISバーチャル・シンクタンク - Wikipedia ※、玄葉光一郎、石破 茂、他
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B5%8C%E3%83%BBCSIS%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%AF

〔資料〕≪「対日年次改革要望書」とTPP:日本語翻訳 PDFファイル(1996年〜2011年)≫|MelancholiaT
http://ameblo.jp/antibizwog/entry-11066706411.html

〔資料〕TPPを推進したいのは、この人です - 三橋貴明オフィシャルブログ 2011年10月11日
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11044104801.html

〔資料〕宗像直子 - 独立行政法人 経済産業研究所 ※―CSIS
http://www.rieti.go.jp/users/munakata-naoko/index.html

〔資料〕TPPの最大の問題点は「拙速」にあり―急いてはイニシアチブを取れない - ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報 2011年11月5日
http://amesei.exblog.jp/14889419

〔資料〕民主党吉良州司議員、「日本が国家主権を主張するのは50年早い」 - 私的憂国の書 2011年11月2日
http://yukokulog.blog129.fc2.com/blog-entry-733.html

〔資料〕吉良州司 - Wikipedia ※小沢グループ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E8%89%AF%E5%B7%9E%E5%8F%B8

〔資料〕衆議院議員 吉良州司 - 野田新政権への期待 ※―CSIS、前原誠司政調会長の下、政調副会長を務める
http://www.kirashuji.com/report/page/page_id/022011091200015001/


     ◇


(後日、5頁へ続く)

※尚、これ迄TPPに関する資料(対日年次改革要望書含む)や見解などを下記投稿の本文及びコメント欄に纏めてありますので併せて参照して下さい。全体像が見えてくると思います。

≪TPPについて危険認識する為に全国民がこれらの動画を見るべきだ(2011年10月28日)≫ Roentgenium
http://www.asyura2.com/11/senkyo121/msg/380.html

〔資料〕如何にして富が世界に貧困を齎すのか By Michael Parenti - Anti-Rothschild Alliance
http://www.anti-rothschild.net/material/12.html  

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コメント
 
01. Roentgenium 2011年11月08日 18:26:14: qfdbU4Y/ODJJ. : TICYvl3qBg
≪追加≫

〔資料〕日経・CSISバーチャル・シンクタンク:日本側アドバイザー ※前原誠司、石破 茂、他
http://www.csis-nikkei.com/adviser.html


02. Roentgenium 2011年11月08日 18:55:34: qfdbU4Y/ODJJ. : TICYvl3qBg
※1つ上の投稿、訂正。


≪追加≫

〔資料〕日経・CSISバーチャル・シンクタンク:日本側アドバイザー・米国側アドバイザー ※前原誠司、石破 茂、Richard Armitage、Joseph Nye、他
http://www.csis-nikkei.com/adviser.html

〔資料〕日経・CSISバーチャル・シンクタンク::メンバー ※吉良洲司、玄葉光一郎、近藤洋介、長島昭久、古川元久、岩屋 毅、小泉進次郎、斉藤 健、西村康稔、林 芳正、浅尾慶一郎
http://www.csis-nikkei.com/forum.html

〔資料〕日経・CSISバーチャル・シンクタンク:研究員 ※日本経団連、他
http://www.nikkei.com/topic/20110822.html


03. 2011年11月09日 00:55:00: TICYvl3qBg
≪追加≫

Roentgenium:タイミング(TPP)から見て、狙いはオリンパスの医療機器部門か?

〔資料〕OLYMPUS|会社案内:医療事業
http://www.olympus.co.jp/jp/corc/profile/mesg.cfm

〔資料〕「オリンパス刷新、医療・イメージ事業守る」 大株主の米ファンドが声明 - ITpro 2011年11月8日
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20111108/373361/

〔資料〕オリンパス:大株主 - Ullet(ユーレット)
http://www.ullet.com/7733.html#stock

→コメント欄:「日本の大企業の殆んどの大株主である“日本トラスティサービス信託銀行”は、郵貯・簡保機構の保有する約130兆円の債券管理業務を行っているのですが、TPPが如何に危険かが分かります」

〔資料〕郵貯・簡保の国富の保全問題を国会焦点に・・・ - コロンブスの卵を産む 2009年3月30日
http://blogs.yahoo.co.jp/hatukome6hana/28655050.html

〔資料〕≪宋 鴻兵 著『通貨戦争―影の支配者たちは世界統一通貨をめざす』 より抜粋(20)≫|MelancholiaT
http://ameblo.jp/antibizwog/entry-11028633661.html

〔資料〕技術過信で傷ついた内視鏡メーカートップの名声 オリンパス−集中|MEDICAL CONFIDENTIAL 2010年9月7日
http://medical-confidential.com/confidential/2010/09/post-141.html


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