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格差の急拡大は社会保障基盤崩壊の元凶(1)―「一億総中流」が消失した日本 2011/12/10(土) 11:49:56
http://www.asyura2.com/11/senkyo123/msg/462.html
投稿者 sotsukunangu 日時 2011 年 12 月 11 日 18:43:41: po0fGh9Z8QQ76
 

格差の急拡大は社会保障基盤崩壊の元凶(1)―「一億総中流」が消失した日本 2011/12/10(土) 11:49:56 [サーチナ]
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=1210&f=column_1210_002.shtml
【コラム】 2011/12/10(土) 11:49
 所得格差の急激な拡大はすでに世界規模の大問題になっており、かつて「一億層中流」と言われていた日本は比較的平等な社会から格差社会へと大きく様変わりし、また、長年も続いた高度経済成長の中国もあらゆる分野で格差の拡大が顕著に進んでいる。
 そうしたなか、所得税制度および社会保障制度の整備と改善により格差の拡大に歯止めをかけることは先進国のみならず発展途上国でも大いに求められている。
 所得税制度はさておき、社会保障制度の機能として一般に認識されるのが、所得再分配の機能が備わっている社会保障制度は健全で包括的なものであればあるほど、より大きな所得格差の縮小効果をもたらすということである。言い換えれば、所得格差の拡大にブレーキをかけようとすれば、社会保障制度の整備と健全化を図らなければならないのである。ところが、所得格差の拡大は実は一方で社会保障制度の整備と健全化を大きく妨げるような側面がある。この点は意外と見落とされやすいもので、研究者や政府関係者の間でもほとんど注目されていない。
 このシリーズでは、日本と中国を例として、それぞれの格差拡大の実態を明らかにしたうえ、社会保障制度の整備と所得格差の拡大との相関関係を分析することとする。
 近年、市場経済システムの広範な浸透、アメリカをはじめ西側諸国に見られる新自由主義の台頭、発展途上国も巻き込まれたグローバリゼーションなどの影響で、所得格差や貧富の差の拡大はすでに世界規模の問題になっており、その深刻さを増すばかりである。
 日本の経済情勢もグローバリゼーションの進展とともに急激な変貌を遂げてきており、かつて「一億総中流」と言われていた比較的平等な社会もいつの間にか「格差社会」へと大きく様変わりした。
 1992年からのバブル経済の崩壊、1997年のアジア通貨危機(金融危機)に端を発した長引くデフレと景気低迷により、ここ十数年間、日本経済は激動の時代を経験してきた。「失われた10年」、最近は「失われた20年」とも呼ばれる。
 一方、同時に世界情勢は大きく変わり、ヒトだけでなく、モノもカネも国境を越えて自由に動けるようなグローバル経済が形成されていったのである。特に中国やインドなどの新興国が自由貿易市場へ参入したことにより、安い人件費で製造された製品を調達することが可能になった。その結果、国際競争は新しい段階を迎え、ますます激しくなっていった。
 このような状況の中で、長い間世界市場に君臨していた日本の製造業でも、デザインや性能といった付加価値では競争できない、つまり低価格競争しかできない分野は、国際市場での競争力を急速に失っていった。こうして日本の企業はやむなく工場を海外移転することによってコストダウンで生き残りを図る。そしてその結果、日本国内では産業空洞化が生じ、多くの若者が働く場を失い、またはフリーターなど非正規労働者にならざるをえなくなる。
 ところが、製造業と対照的に、日本のサービス産業はここ十数年でむしろ大きく成長した。サービス業は「商品」ではなく「サービス」を売るため、消費者の希望に応じて柔軟に対応しなければならず、必然的にそこで働く人の労働は細切れになる。そのため企業はより柔軟な働き方を求めるようになっていった。こうした産業界の要望が政府の規制緩和策を促す格好となり、その結果、派遣労働の急増をもたらし、現在大きな社会問題になっている「ワーキング・プア」を大量に生み出すことになる。
 さらに、1990年代から始まったIT産業の拡大や情報技術の浸透も、学歴が十分でない人たちには不利に働いた。というのは、アイデア、知識、情報技術といった点での能力の差が、これまで以上に就職時に影響を与えるようになったからである。結果、これらの能力で優位に立つ高学歴者の賃金は上昇したが、未熟練労働者の賃金はいっそう引き下げられることになった(駒村康平著『大貧困社会』角川SSコミュニケーションズ2009年、14−16頁)。
 非正規労働者とは、雇用期間を定めた短期契約の雇用形態で、パートタイム、アルバイト、契約社員、派遣といった働き方である。
 日本では正規労働者の数は徐々に減少し、反対に非正規、派遣の数が増えていった。具体的には、1997年から2006年の間に正規労働者数は472万人減少、逆にアルバイト・パートは176万人、派遣・嘱託その他は335万人増加した。結果、2006年時点で、雇用者5393万人のうち33.6%がパート、10.8%が派遣等となった。
 また、非正規労働者数は1984年には604万人、雇用者数に占める割合が14.4%であったのが、2007年には1732万人、31.1%にまで上昇した。つまり、雇用者の3人に1人が非正規労働者となっているということである。なかでも女性労働者の非正規化は著しく、女性雇用者に占める非正規労働者の割合は、1984年の27.9%から2007年には51.3%にまで上昇している。
 『平成22年版厚生労働白書』によれば、パートタイム労働者は増加し、2009年には1431万人と雇用者総数の約26.9%にも達し、従来のような補助的な業務ではなく、役職に就くなど職場において基幹的役割を果たす者も増加している。有期契約労働者は、1985年の447万人から2009年には751万人(雇用者総数の13.8%)に増加している。
 非正規労働者の雇用条件は劣悪なもので、社会保険や労働法の保護を受けない労働者や、低賃金で働くワーキング・プアの増加という問題に広がっていった。
 このように、一部の発展途上国が持続的な高度経済成長を謳歌する時代に、日本において労働者の置かれる環境はむしろどんどん悪化し続け、正規労働と非正規労働、高所得層と低所得層の格差は急速に拡大の一途を辿るようになった。
 近年、日本では『不平等社会日本―さよなら総中流』(佐藤俊樹著、中公新書2000年)、『希望格差社会』(山田昌弘著、筑摩書房2004年)、『下流社会―新たな階層集団の出現』(三浦展著、光文社新書2005年)、『ワーキング・プア― いくら働いても報われない時代が来る』(門倉貴史著、宝島社2006年)といった書物やテレビ番組が話題となり、「格差」や階層化が問題として前景化させられていく。
 日本の生活水準は第二次世界大戦後の高度経済成長を経て、大幅に向上し貧困は格段に減少した。実際、「一億総中流」とさえ広く言われるようになった。しかし21世紀も最初の10年が過ぎた今日、状況は再び大きく変化し、格差社会の進行という新しい局面を迎えつつある。
 朝日新聞社が2005年12月から2006年1月にかけて実施した全国世論調査では、国民の格差をめぐる意識が浮かび上がった。
 「所得の格差が広がってきていると思うか」との問いに「広がってきている」と答えた人は74%、「そうは思わない」が18%であった。格差が拡大しているとみる74%の人に「広がっていることをどう思うか」と聞いたところ、69%が「問題がある」と答えた。この結果、全体の51%の人が「所得格差が広がってきており、問題がある」と認識していることが明らかになった。また、世帯収入に満足していない人ほど格差拡大を強く感じている。
 厚生労働省の調査では、この10年で1世帯当たりの平均年収は80万円減って580万円になったそうだ。仮に580万円が最多層とすれば、その半分は290万円。「年収300万円」に近いから、食うや食わずの貧民が溢れているという状況ではない。
 それにもかかわらず、格差拡大が深刻なテーマとして取り上げられるのは、「一億総中流」を自他ともに認めてきた日本の、格差の小さかった良き社会が崩れてきたことに対する強い危機感が生じたためである(橘木俊詔著『格差社会 何が問題なのか』岩波新書2006年、8頁)。
 発展途上国の格差拡大はともかくとして、先進国はアメリカなど一部の国を除いてもともと格差が比較的小さい。日本もかつて平等度の高い国であった。しかし、いまはなぜ先進国でも格差の拡大が進むのか、やはり急速なグローバリゼーションの進展がもたらした結果だと見るべきであろう。
 もともと世界経済のグローバリゼーションは、経済成長とともに各国の国内総生産(GDP)を増加させ、国民生活全体を豊かにし、貧困を減らしていくと期待されてきた。しかし現実には必ずしもそういった期待が実ったものばかりではない。逆に、世界のいたるところで、所得と貧富の格差、富の偏在が拡大し、不平等化が進んでいる。
 グローバリゼーションはなぜ人々の期待通りにならないのか。それは国々や人々が全地球的規模でより開かれた市場に参入し、そこでの競争に参加することを意味する。そして競争に勝った者は成功者として富を手に入れる。意欲と能力があるだけでなく、チャンスをつかむ能力、広範囲の情報を瞬時に得て利用・活用する力、新しいものを生み出す力などを持つ人やグループは、まさに、成功に導かれより大きな所得を得ることになる。一方で、富の源泉にアクセスできない人々、情報へのアクセスも少なく、社会的仕組みの中で力を十分に発揮できない状況におかれている人々は無情に淘汰されてしまう(西澤信善・北原淳編著『東アジア経済の変容―通貨危機後10年の回顧』晃洋書房2009年、91−92頁)。
 所得格差の形態は多種多様であり、それゆえそれぞれをもたらす原因も決して一律ではない。近年の格差拡大の背景には具体的にどのような要因があるのだろうか。それをめぐってはいろいろな指摘があり、議論の分かれるところである。これまでの主な説は渡辺雅男編『中国の格差、日本の格差』(彩流社2009年、37−39頁)によれば、以下の四つであろう。
(1)「脱工業化・ポストフォーディズム」説
 フォーディズム(Fordism)とは、大量生産、大量消費を可能にした生産システムのモデルである。現代の資本主義の象徴の一つである。イタリアの思想家アントニオ・グラムシの命名による。また、フォード社の経営理念を指すこともある。一方、ポストフォーディズムは、工場や事務所などで雇用されている賃労働者だけでなく、社会全体を剰余価値生産に総動員させる体制のことである。
 本田由紀氏によれば、工業化が進む段階においては、産業の中核を占めていた製造業の比率が低下し、代わってサービス業や金融などの比率が向上していく。それに伴い、労働者に求められる条件も大きく変化する。標準化・規格化された労働に対する適応力が重視されたフォーディズムに対し、ポストフォーディズムの下では、需要の変化に小刻みに対応するため雇用期間の短期化、雇用形態の柔軟化・不安定化が進み、労働組合によって組織化された熟練労働者の数が減少していく。またIT化の進展は業務処理の定型化・大量化を可能にし、事務職などホワイトカラーの減少も引き起こす。その結果、製造業だけでなく、サービス業などの部門も待遇面で専門職とサービス職へと二分化され、格差がますます強まっていく (『多元化する「能力」と日本社会―ハイパー・メリトクラシー化のなかで』NTT出版2005年)。
(2)「グローバリゼーション」説
 前述したよう、グローバリゼーションは1980年代以降、世界市場の統合が一段と進むにつれてますます広範囲に及んだ。厳しい国際競争を強いられた企業は、販路の拡大と生産コストの削減を目指し、厳しい人員削減と雇用のフレキシブル化を進めていく。とりわけ1990年代以降、中国をはじめ多くの発展途上国が世界市場に本格的に組み込まれていった結果、安価な労働力が世界規模で大量に供給されることになり、先進国では賃金抑制に向かう圧力が強まっていった。
(3)「新自由主義」説
 国際競争が激化していくなか、企業ばかりでなく政府や地域社会、個人も変化への対応を迫られるようになる。自由な競争の機会を用意することを目指して政府による各種規制が緩和・撤廃されていった結果、労働者の保護、環境の保全、国内産業の保護などを目的とする政策が大きく後退させられる。また、公共政策に市場原理が導入されていくなか、福祉、住宅、医療などの領域から政府が撤退していく傾向が強まる。
(4)「人口構成の変動」説
 大竹文雄氏によれば、少子高齢化の急速な進行によって、人口構成全体に占める高齢者の割合が高くなる。高齢者においてはもともと収入格差が大きいため、この層の相対的な増大は人口全体における格差を構造的に拡大していく効果をもつ(『日本の不平等―格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社2005年)。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授  編集担当:サーチナ・メディア事業部)
参考文献
駒村康平著『大貧困社会』角川SSコミュニケーションズ2009年
橘木俊詔著『格差社会 何が問題なのか』岩波新書2006年
渡辺雅男編『中国の格差、日本の格差』彩流社2009年

【関連リンク】

派遣業界が金権攻勢/骨抜き交渉の民自議員らに
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速報 : 労働者派遣法案、今国会では継続審議に
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全力でこの骨抜き派遣法改正案を許さず、徹底審議で抜本改正を求める運動を!
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コメント
 
01. 2011年12月11日 23:02:42: HsaH5jRqGg
まず、年金制度に最低保障年金を導入せよ。
次に、生活保護制度を抜本改正し、負の所得税型にせよ。
格差を是正し、貧困を撲滅するにはそれしか方法はない。

日本の生活保護捕捉率は他の先進国に比べてきわめて低い。
■生活保護の捕捉率
ドイツで稼動年齢層に対応する「失業手当U」の捕捉率は85〜90%、
イギリスの「所得補助」の捕捉率は87%と言われています。
日本については、上記各研究のうち最も低い数値は9%、最も高い数値でも、19.7%にすぎません。
困窮者のうち、8割以上の者が放置されているのが現状です。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/publication/booklet/data/seikatuhogohou_kaisei_youkou_leaflet.pdf
ドイツ:85〜90%
イギリス:87%
日本;9〜20%
■「年越し派遣村」後の生活保護、入りやすく出やすい合理的な制度設計を(東洋経済)
http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/e7af0fe01d0f796f45f3ee108b447500/page/1/
■貧困層をより貧しくする日本の歪んだ所得再配分 (東洋経済)
http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/a7a46973b48f0cf47a3a4b47e7024ac5/page/1/
■「日本の奇妙な生活保護制度」(原田泰=大和総研 常務理事チーフエコノミスト)
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/harada.cfm?i=20071101c3000c3&p=2
■NHK時論公論 「生活保護で失業者を守れ」
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/16768.html
■ワーキングプア対策に「労働補助金(≒負の所得税)」を
http://japan.cnet.com/blog/tamon/2007/12/18/entry_25003112/
■国民生活の最低水準を守るものとして、「生活保護」「最低賃金」「基礎年金」が挙げられるが、
本来はそもそもの最低生活水準を適切に決め、それをベースにこれら三者の水準が設定されるべき。
しかるに、わが国の場合、これらが別々の考え方に基づいて決められている。
その結果、最低賃金でフルタイム働いても生活保護水準の所得が得られない「貧困の罠」が発生し、
また、基礎年金が生活保護水準を下回る状況にあり、老後は年金保険料を払って基礎年金で暮らすよりも、
生活保護に頼ったほうが収入が多くなるため、年金保険料の納付インセンティヴを減じる形になっている。
こうした意味で、これら三者の水準の整合性を採ることは喫緊の課題。
さらに、セーフティーネットを「就労促進型」に改革していくことも不可欠。
「最後の砦」である生活保護制度では、現行、給付を受ける際に極めて厳しい条件が課せられており、
その結果、いったん適用を受けると「出にくい」制度に。
これを、何らかの理由でフルタイムで働けなくなり、一時的に稼得所得のみで生活ができなくなった人が、
フルタイムで働けるようになるまで利用できる「入りやすく出やすい」制度へと変える必要がある。
同時に、「負の所得税」の考え方に基づく給付つき税額控除制度を導入するとともに、
きめ細かいワンストップ型の就業支援策を手厚くすることで、高い賃金が得られる能力の習得を促すことが不可欠。
(日本総研)(11p)
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/other/pdf/2906.pdf

■「ドイツの派遣労働者は解雇されても、路上に放り出されることはない」〜ドイツ労働総同盟(DGB)法務担当幹部に聞く
http://diamond.jp/series/worldvoice/10043/
ドイツでは、失業給付が切れても再就職できなかった人や
最初から失業給付のない人などを対象に「失業給付2」が設けられている。
食費や家賃など最低生活を維持するための扶助で、仕事が見つかるまで支給される。
単身者で月350ユーロ(約4万6000円)だが、
これがあれば日本のように非正規社員が仕事を失っても路上生活を強いられることはなさそうだ。
【参考文献】矢部武著「世界で一番冷たい格差の国日本」

■生活保護の急増は本当に“不正受給”が原因か?
■蔓延する「受給者悪玉論」の死角と真に論ずべき課題
厚生労働省の発表によれば、今年7月時点での全国の生活保護受給者は、205万495人と過去最多になったという。
この報道とセットで語られるのが、「不正受給」の問題だ。
「不正受給が増えているから、生活保護費が膨れ上がり、国や自治体の財政を圧迫しているのだ」という論調が、世間に広まっている。
しかし、生活保護受給者の増加は、本当に「不正受給」や受給者の怠慢ばかりが原因なのだろうか。
報道の裏に隠された受給者の実態を探ると、これまで定説のように語られていた「受給者悪玉論」が、一面的なものの見方に過ぎないことがわかってきた。
(取材・文/プレスラボ・小川たまか)
「戦後最大」「過去最多」の生活保護
不正受給報道の裏に隠れた興味深い議論
「生活保護受給者、戦後最大の205万495人に」
厚生労働省の発表によれば、今年7月時点での全国の生活保護受給者は、205万495人に達し、過去最多となった。
「戦後最大」の4文字に、眉をひそめた人も多いだろう。
追い打ちをかけるように、今月6日には、8月時点での受給者がさらに9376人増え、2ヵ月連続で過去最多を更新したことも発表された。
それに関連して、とりわけ問題視されているのが、各自治体が発表する「不正受給」の件数が増えていることだ。
「不正受給が増えているから、生活保護費が膨れ上がり、国や自治体の財政を圧迫しているのだ」という論調が、世間に広まっている。
この論調を裏付けるかのように 12月1日には「生活保護を受けているのに高級車に乗っている人がいる」と通報を受けたことから、
ある受給者が生活保護費を搾取していたことが発覚し、逮捕に至った事件が報道された。
これらの報道に関する街の声を聞くと、生活保護受給者へ向けられる視線は、日に日に厳しくなっていることがわかる。
「真面目に働いている人が損をして、生活保護を受給する人が得をするような仕組みはおかしい」(20代男性)
次のページ>> 高級車を乗り回すような「不正受給者」は、実はごくわずか
http://diamond.jp/articles/-/15267
「役所は、受給するべき人なのかどうか、しっかり見極めて欲しい。現状では見極めが不十分なのではないかと感じる」(30代男性)
不況が続き、上がらない給料に頭を抱える納税者らにとって、
「働かずに保護を受けている」ように見える生活保護受給者は、疎ましい存在かもしれない。
また、「不正受給」がこれだけ報道されれば、「行政の管理がずさんなのではないか」という疑いも生まれる。
しかし、こうした「不正受給」は本当に増えているのだろうか。
また、これほどまでに大きく取り沙汰されるべきものなのか。
一連の報道の陰で、「不正受給」に焦点を当てずに、生活保護問題を扱う報道もある。
11月24日付けの読売新聞「急増『生活保護』緊急座談会」では、
「本当に困っている人たちが受給できるようになった」という発言があり、
急増の背後にあるのは、医療、雇用、介護、年金などの社会保障制度のほころびと指摘された。
また、「生活保護「受給者最多」のカラクリ――本当に問題なのは貧困の放置」(オルタナ・オンライン)と題されたネット記事では、
全人口に占める生活保護受給者数の割合である「保護率」は、
これまで受給者数が過去最多だった1951年の2.4%に比べ、今年7月時点で約1.6%と、
むしろ少なくなっていることを指摘している。
▼高級車に乗るような受給者はごくわずか
▼実は国際的に見ても低い日本の「捕捉率」
「日本の捕捉率は国際的に見て非常に低い」と指摘するのは、
『絶対にあきらめない生活保護受給マニュアル』(同文館出版)の著者で、社会福祉士の田村宏氏。
捕捉率とは、生活保護を受けるほど生活が困窮している人の中で、
実際に生活保護を受けている人の割合のことで、日本は20%程度と言われる。
生活保護受給者の増加で、誰も彼もが生活保護を申請しているかのような印象を受けるが、
実際のところ、保護を受けるべき環境で暮らしていても申請しなかったり、
申請しても役所の窓口における「水際作戦」で受け付けられなかったりするケースは多いという。
次のページ>> 働いても収入が同じでは頑張る気が起きない制度にも、問題が
http://diamond.jp/articles/-/15267?page=2
「家族がいる場合、子どもが学校の給食費を免除されたり、区役所の職員が定期的に訪れることなどがあり、
近所に生活保護を受けていることが知られやすい。
『恥ずかしい』と感じ、申請しない人は多いと考えられる」(田村氏)。
本当の問題は、生活保護受給者の増加ではなく、むしろ「まだ受給しなければならない層がいること」と田村氏は指摘する。
しかし、生活保護受給者の増加により、「財政の圧迫」を叫ぶ声は多い。
震災や雇用状況の悪化により、受給者がさらに増えることが予想される今後、財政再建のためには何が必要なのか。
「現在の問題点は、生活保護が、年金や雇用保険、児童扶養手当、障害者年金などの
社会保障でカバーし切れていない人のセーフティネットになってしまっていること。
本来ならば、他の社会保障制度で助けなければいけない人が、制度の不備によって、
生活保護を受けるしかないところまで追い込まれているのが実態だ」(田村氏)
これは、前出の読売新聞の座談会記事と重なる内容だ。
▼働いても収入が同じでは頑張れない!
▼国会議員も指摘する生活保護の問題点
それでは、不正受給の実態についてはどうだろう。
各自治体の不正受給の件数を報じる記事は、地方新聞で多く読むことができる。
11月20日の茨城新聞で報じられた内容によれば、
2010年度の生活保護の不正受給は前年比37%増、1億922万円に上ったという。
信じられないような額だが、記事をよく読むと、
「極めて悪質なケースは少ないが、年金の遡及(そきゅう)があった場合や、
高校生の子どものアルバイト収入などを申告しないままにしているケースが目立つ」という、
県福祉指導課のコメントがあることがわかる。
収入を申告しないで生活保護費を受け取る「不正受給」の実態については、
「受給者の問題とばかりは言えないところもある」と話すのは、
民主党生活保護ワーキングチーム事務局長でもある、初鹿明博・衆議院議員。
次のページ>> 生活保護の扶助に「後見扶助」を加え、役所の不備を補うべき
http://diamond.jp/articles/-/15267?page=3
「たとえば、生活扶助で10万円もらっている受給者が、
月給5万円のアルバイト収入を得た場合、控除はあるがほぼ同額が減らされる。
働いても働かなくても、得られるのは10万円ちょっと。
頑張って働いてももらえる金額はほぼ同じなわけで、これでは就労する意欲がなくなってしまう。
これが生活保護の一番の問題点だ」(初鹿議員)
事務局では現在、受給者が働いた分を少しずつでも貯金できる仕組みができないかを、検討しているという。
冒頭で紹介したような「生活保護をもらっていながら高級車を乗り回す」といった例は、実際はごくわずか。
制度の不備が、不正受給の増加を招いている一面もあるのではないか。
受給者のお金を管理する第三者の不在
生活保護の扶助に「後見扶助」を加えるべき
また、前出の田村氏は「生活保護の使途」についても指摘する。
現在の生活保護制度は、申請がなかなか受け付けられないという現実がある一方で、
いったん受給が決まると、その使途を管理されることは少ない。
「20年ほど前までは、アルコールなどで金銭管理に問題のある人は、役所の窓口に毎日来てもらい、1日2000円ずつ渡す……
などというようなこともあった。
今は申請が多いので、そんなことはやっていられないだろう。
受給者のお金を管理する第三者の存在が必要だ」(田村氏)
田村氏の提案は、生活保護として認められる扶助(現在は、生活扶助・住宅扶助・教育扶助など8つ)に「後見扶助」を加えることだという。
「後見扶助をつけ、受給者のお金を管理する成年後見人などを付ける。
保佐や補助人も含め、後見人などを付けることで、生活保護が貧困ビジネスなどに渡ってしまうことを防ぐことができるし、
後見扶助は後見人などに渡ることになるので、そこに小さな雇用が生まれることになる」
生活保護の介護扶助は介護保険を、医療扶助は医療制度を支える。
「後見扶助」は、受給者の金銭管理の手助けになると共に、雇用のかたちにつなげることで、所得の再分配につながるというのだ。
次のページ>> 受給者に自己責任を問うよりも、「生の声」を聞くことが第一歩
http://diamond.jp/articles/-/15267?page=4
▼背景には社会保障制度そのものの不備も
▼自己責任を問うより受給者の生の声を聞け
厚生労働省の発表によれば、生活保護者受給世帯のうち、最も多かったのは「高齢者世帯」(42%)だが、
目立つのは10年前に比べて4倍に増えた「その他の世帯」(17%)だ。
「その他の世帯」は、「高齢者世帯」「母子世帯」「傷病・障害者世帯」以外の受給世帯で、働ける年齢層を含む。
この「その他の世帯」の受給については、「怠けているのではないか」「困窮は自己責任ではないか」という批判がある。
これについて、田村氏と初鹿議員の双方が口にしたのが、
「生活保護受給者の問題を自己責任と考えるのであれば、一度、実際に生活保護受給者に会った方がよい」という意味合いの言葉だった。
「周囲に馴染めなかったり、いじめられたり――。
社会がずっと排除してきた人たちが今、雇用の場をなくしている。
健康状態が良いからと言って、仕事に就くことができるわけではない」(初鹿氏)
大卒でも就職が厳しいと言われる現況がある。
指摘しづらい問題ではあるが、受給者の中には、これまで社会に上手く適応できなかった人も多い。
「その気になれば働けるはずだ」と言うのは酷ではないのか。
IT化による単純労働の減少や、核家族化により就労能力のない層を身内がカバーしなくなったことも、
社会への適応能力が低い層が生活保護に走る遠因となっている。
「自己責任」と決めつけることは簡単だが、高齢化が進む中、就労人口を少しでも減らさないためには、
貧困層への教育制度を考え直す必要があるのではないだろうか。
これまで述べてきたことは、生活保護に否定的な読者からすれば、「甘すぎる」のかもしれない。
しかし、「生活保護は怠け者が受けるもの」「不正受給が横行している」といった一面的な見方では、
生活保護制度の本来の意味での不備や、その背景にある社会保障制度の未整備を見落とす恐れがある。
客観的な視点は忘れてはならないものの、生活保護受給者に理解を寄せることは、
生活保護につながる社会問題に改めて向き合うことにつながるはずだ。
http://diamond.jp/articles/-/15267?page=5


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