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海外の日本国債保有が過去最高 公的債務に関する歴史の教訓 最重要課題は「成長」の回復だ ユーロとスペインの分裂の危機
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/877.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 11 日 08:06:49: cT5Wxjlo3Xe3.
 

(回答先: 求められる国債の個人消化促進   投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 08 日 15:01:05)


海外の日本国債保有が過去最高


国民医療費 前年度比3.9%増 〜厚生労働省2010年度〜
 2010年度の国民医療費(国民が一年間に使った医療費の総額)は、前年から3.9%増加しました。医療費の増加が目立つ75歳以上のセグメント、いわゆる後期高齢化の問題ですが、民主党政権はこれを何とかすると言いながら何も手が付けられずにいます。

 実は国民所得に対する医療費の比率は各国とも上昇しています。特に日本の場合は、グラフのように10%を超えてしまっていて医療費の圧縮が課題となっています。
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/121010_1.jpg http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/121010_2.jpg  一方、医療費圧縮により医師への手当が薄くなるということでは逆効果で、やはり然るべき報酬は必要です。大学病院などの勤務医は給料の上昇がそれ程なくなり、貧乏ではないものの以前のようなメリットはなくなってきています。その一方で医者になるまでの費用はものすごくかかっているので、医療費削減に関しては削減する領域を正しく見極める必要があるでしょう。

 さらに、日本は検査をしすぎることから医療費が上昇しているのです。薬は高いもののジェネリックへの移行を図っています。全体の中でどこに費用がかかっているのか見極めなければいけません。

 例えば、私の知っている長野県のある地域には人口数千人の村に非常に立派な病院があります。それが近隣の各村に存在するわけです。それぞれに立派な医療装置があり、そのせいかCTの普及率は日本がダントツ一位で伸びています。そうした機械漬けの病院が日本各地にあることが問題な上に、さらに本当の過疎地には一人も医者がいないという現状なので、バランスを取るようにしていくべきなのです。


海外の日本国債保有残高 前年同月比2割増で過去最高
 4−6月の資金循環統計では、海外投資家が保有する日本国債の残高は、6月末に過去最高となりました。安全資産とされる日本国債に資金が向かい、海外投資家比率は上昇、グラフからは、中央銀行と同程度保有していることが分かります。保有額は以前40兆円程度でしたが、今では80兆円を超えています。
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/121010_3.jpg  この状況は、決して喜んでよいものではありません。海外投資家は非常に逃げ足が速いので、格付けの見直しなど、悪い情報が出るだけで、あっという間に資金を引き上げて逃げていきます。80兆円規模の国債にレバレッジをかけて売られてはたまりません。これまでは、海外投資家の保有比率が少なかったので、ある程度ハチャメチャにやっていても問題にならなかったのですが、実際はギリシャのようになっている実態がばれてくると、外国人保有分は非常に揮発性が高くなるので十分な注意が必要です。

 一方、6月末時点の家計の金融資産残高は前年比で増加しました。世界経済の減速や国内経済の先行き不透明感から、国内では手元の資金を増やしていると見られています。結果として日本国民は1500兆円程度の金融資産を持ち、そのうち現金が800兆円を超えていると言われます。

 しかしそれは間違いで、現金のほとんどは銀行に預けており、その資金で銀行が国債を買っています。つまり、国民が保有している800兆円以上の資金は、現金ではなく国債を保有していることになるのです。直接持っている国債は少ないですが、現金とされる部分のほとんどは国債なのです。

 逃げ足の速い外国人投資家の保有が増えていること、日本人は貯金していると思い込んで国債を保有していること、国債に関しては二重にまずい状態にあると言えます。このことをきちんと認識しておく必要があるでしょう。


東証REIT指数が1000台回復 オフィス系不動産投信が上昇
 東証REIT指数が、約5ヵ月半ぶりに1000ポイントを回復し、不動産投資信託への資金流入が話題となっています。しかし長期のグラフを見ると回復したとは言いがたい状況です。これは「底を打った」というのが正確な表現でしょう。東京の不動産は底を打ったと思われているので、REITがこれ以上下落することはなさそうです。

 ただ、REITブームと言われた5、6年前に比べるとすでに半分以下になっているので、相当ダメージを被った人たちはいるはずです。今後はどさっと大きく落ちることはないと思われますが、大きく上昇していく予定もありません。その理由は供給が相当多くなっているからです。

 千代田区六番町の辺りを見ても、マンションなら売れるが事務所ビルは全く売れず、建築途中でマンションに変更する物件も多いようです。ビル建設予定の土地がしばらくすると駐車場に変わっているケースも見かけます。そうした状況から見ても、REITは回復ではなく底入れと見ておくべきだと思います。


ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 学長
大前 研一

http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20121010_154859.html

公的債務に関する歴史の教訓
2012年10月11日(Thu) Financial Times
(2012年10月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 高水準の債務を抱え、為替レートが過大評価されたレベルで固定されている大規模な高所得国が公的債務の削減と競争力の回復を試みたら、一体何が起きるだろうか? これは今日の情勢に関連する重要な問いかけだ。なぜなら、これはイタリアとスペインが直面している課題にほかならないからだ。

 しかし、国際通貨基金(IMF)が最新の「世界経済見通し(WEO)」のある章で論じているように、これには前例がある。2度の世界大戦の間の英国の体験だ。

 これを見る限り、「内的減価」(賃金や物価水準の引き下げ)の試みと債務力学との相互作用は致命的な影響をもたらしかねない。しかも、イタリアとスペインの窮状は多くの意味で、当時の英国のそれより深刻だ。

 英国は最終的に金本位制を離脱できたが、ユーロ圏からの離脱はこれよりはるかに難しい。また、当時の英国には金利を引き下げる能力も意欲もある中央銀行があったが、現在の欧州中央銀行(ECB)がイタリアやスペインのために同じことをする能力と意欲はないかもしれない。

倒錯的な財政・金融政策に走った第1次大戦後の英国

 第1次世界大戦直後の英国では、公的債務の残高が国内総生産(GDP)比140%に達し、物価水準も戦前の2倍以上に跳ね上がっていた。政府は、戦前の等価での金本位制復帰(これは1925年に実現させた)と、信用力を維持するための公的債務返済を決意した。当時の英国はティーパーティーの主張にぴったりの国だった。

 政府はこの目標を達成すべく、緊縮的な財政・金融政策を実行した。プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の黒字は、1920年代を通じてGDPの7%に近い水準に保たれた。これは、エリック・ゲディス卿が議長を務めた委員会にちなんで「ゲディスの斧」と名付けられた歳出削減策の成果だった。

 委員会が勧告した政府支出の削減方法は、現在の「拡張的緊縮財政」論者が主張しているものと全く同じやり方だった。一方、イングランド銀行は1920年に政策金利を7%に引き上げた。第1次世界大戦前の等価回復を支援するのがその狙いだった。

 その結果生じたデフレと相まって、英国の実質金利は非常に高くなってしまった。英国の支配階級に属する独善的な愚か者たちは、凄惨な戦争を生き延びた不運な人々をこんなふうに扱ったのだ。

 では、この飢饉のような財政政策と屍体性愛のような金融政策に対する決意はうまくいったのだろうか? 

 結果は散々だった。1938年の実質GDPは1918年のそれとほとんど変わらない水準で、この間の平均成長率は年0.5%にすぎなかった。これは大恐慌のせいだけではない。1928年の実質GDPも1918年のそれを下回っていた。

 輸出はずっと低調で、失業率はずっと高止まりしていた。この高失業は、賃金水準を名目と実質の両方で引き下げる働きをした。しかし、賃金というものは決して、ただの価格ではない。政府の狙いは組合労働者の弱体化だった。一連の政策は1926年のゼネストにつながった。これにより、第2次世界大戦後も数十年にわたって続く苦々しさが広がることとなった。

緊縮による財政再建がうまくいかなかった理由


英国の債務比率が第1次世界大戦前の水準に戻ったのは、1990年になってからだった〔AFPBB News〕

 一連の緊縮策は、このように経済と社会に大変なコストをもたらしただけでなく、それ自体失敗していた。英国は1931年に金本位制から再び離脱し、その後も復帰することはなかった。

 さらにひどいことに、公的債務も減らなかった。GDP比の公的債務は1930年には170%に上昇し、1933年には190%に到達した(こうした数字を見ると、今の世界がこれよりかなり低い水準でパニックを起こしていることがはっきりする)。

 実際、英国の公的債務のGDP比は1990年まで、第1次世界大戦前の水準に戻らなかった。なぜそれほどまでに手間取ったのだろうか? 端的に言えば、英国は経済成長率が低すぎ、金利水準が高すぎた。その結果、プライマリーバランスが大幅な黒字でも、債務比率を抑制できなかったのだ。

 この物語は現在のユーロ圏に大いに関係がある。10年あるいはそれ以上の時間をかけて調整を進めていくのではなく、手っ取り早く競争力を回復しようとするのであれば、賃金水準は低下しなければならない。そのためには、失業率もかなり高くならねばならない。

 スペインの場合、失業率は既にかなり高い。だが労働力の25%もの人々が失業しているにもかかわらず、この国の名目賃金は危機勃発以降、ドイツを少し下回る程度の上昇を遂げている。

 一方、スペインの実質GDPは縮小している。財政政策を引き締めれば、この縮小はさらに進むはずだ。国内外の資本が国外に逃げ出すにつれて、高金利も同様にGDPをさらに縮小させるに違いない。

 こうした状況はスペインを債務の罠に陥れる恐れがある。この場合は、民間部門と公的部門の双方を脅かす罠だ。スペインと比べると財政赤字は小さいが公的債務残高は大きいイタリアも、金利が高止まりしGDP成長が鈍い状況が続けば、似たような罠に陥るだろう。

 だからこそ、両国の公的債務の金利を引き下げるECBの計画が、財政のデフォルト(債務不履行)と銀行崩壊が同時に起きる惨事を回避するための必要条件になるわけだ。だが、この計画は惨事を逃れる十分条件ではない。成長見通しも改善しなければならない。

拡張的な金融環境がなければ、財政再建は不可能


過去20年間の日本の経験は、1920年代、1930年代の英国と似ている〔AFPBB News〕

 IMFはほかにも多くの興味深い事例を検証している。

 1つは、第2次世界大戦後の米国の公的債務削減の例。もう1つは、過去20年間の日本の経験だ。日本の事例は特にデフレに関して、1920年代、1930年代の英国と類似点がある。このほか、1980年代のベルギー、1990年代のカナダとイタリアの事例がある。

 最も重要な結論は、超低利の実質金利と活気に満ちた経済という拡張的な金融環境がなければ、財政再建は不可能だということだ。

 英国が1920年代、1930年代に失敗したように、日本も1990年代、2000年代にこれに失敗した。英国政府が学びつつあるように、今の英国や米国など、民間部門が債務を抱えている国の金融政策の効果のなさは、似たような制約を生む。

 過去にはインフレも公的債務の負担軽減を加速させた。インフレが負担軽減を再び加速させなければ驚きだ。

 WEOのこの章に対する筆者の批判は、財政上の債務を削減する取り組みを、民間債務に何が起きているかという文脈に照らして捉えていない、ということだ。

 民間部門も自らの過剰債務を減らしたいと思っている時には、財政赤字を抑制するのはかなり難しい。一方の支出削減は他方の収入減少を意味するからだ。

 こうなると、力強い外需がなければ、デフォルトと恐慌を通じたデレバレッジング(負債圧縮)が行われる可能性が高い。これは想像し得る限り最悪の結末だ。

英国のような楽な選択肢がないユーロ圏


英国の場合と異なり、ECBにはイタリアとスペインのために金利を引き下げる能力や意欲がない〔AFPBB News〕

 それでも、これは極めて有益な論文だ。特に、現在のユーロ圏のために大戦間の英国の経験から教訓を引き出した点で意義がある。

 緊縮的な財政政策と厳しい金融情勢の組み合わせが、高金利と低成長の相互作用を通じてイタリアとスペインを債務の罠に陥れるリスクは高い。

 少なくとも英国は金融情勢を統制する力を維持していた。最終的には金本位制を離脱し、金利を引き下げた。

 ユーロ圏諸国には、このような痛みを伴わない選択肢がない。しかし、金融の絞殺に苦しむ国々における財政緊縮と賃下げ努力は、社会や政府、国家さえをも破壊しかねない。結束が強化されない限り、この物語がうまく終わることはなさそうだ。

By Martin Wolf

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36286

最重要課題は「成長」の回復だ

2012年10月11日(木)  J.ブラッドフォード・デロング

欧州中央銀行が南欧の国債を無制限に買い入れる方針を示し、当面の危機を回避した欧州。だが、真の危機回避には南欧諸国が競争力を回復し、成長を実現することが必要だ。それには賃下げなど痛みを伴う政策が不可避。政治家は今こそ有権者に説明すべき時だ。
 ユーロ危機は3つの段階に分けられる。最初の2段階は、公的部門と民間部門が過剰な債務を抱えたことに端を発した銀行危機と、それに続くユーロ圏加盟国の政府に対する信認の急速な失墜だった。これら2段階への対応は、少なくとも部分的には成功した。

課題は「失われた数十年」の回避

 だが、まだ第3段階が残っている。それはユーロ圏における南北の構造的な不均衡の問題であり、これがユーロ危機における最も長期、かつ最も危険な要因だ。

 好材料はある。まず、パニックに陥った投資家が安全資産への資金逃避を行うことにより、欧州が大不況に陥って欧州の銀行が崩壊するという不安はひとまず過ぎ去ったと思えることだ。同様に、欧州連合(EU)の政治的機能不全がユーロ圏加盟国の一部をデフォルト(債務不履行)に追い込み、欧州を深刻な混乱に陥れるとの懸念も今は後退しつつある。

 欧州が深刻な不況を回避できるかどうかは、この2段階に的確に対処できるか否かにかかっていた。だが、欧州経済全体が「失われた10年もしくは20年(あるいはそれ以上)」を回避できるかは依然として定かではない。欧州がこの困難なシナリオを避けられるか否かは、南欧諸国の政府が早急に競争力を回復させられるかにかかっている。

 そもそも南欧諸国の競争力はなぜ低下したのか。始まりは「起業家にとっては資金を借りた方が得だ」とのシグナルを市場が発したことだった。そのシグナルに合理的に対応した結果が、マクロ経済全体として見れば不合理な結果を招いたということだ。

南欧は30%の賃下げが不可避

 具体的にはこういうことだ。膨大な資金を抱え投資先を探していた北部欧州の国々は、様々な消費をしたがっていた南欧諸国に対し極めて緩い条件で積極的に融資をした。そして2007年までの消費ブームの中で、南欧諸国の企業は賃金も急上昇させていった。

 その結果、南欧諸国は12ユーロ稼ぐには13ユーロを投じる必要があるという賃金及び物価、生産性の水準の経済になってしまったのだ。ちなみに足りない1ユーロは常に北部欧州からの借金によって埋められた。そして、北部欧州は1ユーロ稼ぐごとに一定の利益を得られるという賃金と生産性の水準の経済を構築、その余剰資金を南欧への融資に回したのである。

 だがもし欧州が、南欧に収入以上の支出をしてほしくない一方で、北部欧州には支出を抑えてほしくないのだとすれば(どうも、それが欧州の意向と思われる)、賃金及び物価、生産性の水準を変える必要がある。

 我々が1世代後に過去を振り返って「失われた数十年だった」と嘆きたくなければ、南欧諸国は北部欧州と比べ相対的に生産性を引き上げると同時に、賃金と物価水準を30%ほど引き下げる必要がある。それ以外に、南欧諸国が北部欧州への輸出を拡大し、北部欧州にそうした輸出品を購入してもらう方法はない。

 ユーロを存続させ、ユーロ圏経済の停滞を回避すべく取り得る手段は次の5つだ。

 (1)北部欧州が高インフレを容認する。つまり今後5年間、インフレ率をさらに2%引き上げれば、北と南に必要とされる調整の3分の1は解決する

 (2)北部欧州が社会保障支出を拡大させ、社会民主主義化を一層進める

 (3)南欧諸国が税金を圧縮し、社会保障を大幅に切り詰める

 (4)南欧諸国が企業再編を進め、生産性の牽引役を果たす

 (5)南欧諸国でデフレを引き起こす

 (5)は、まさに欧州が避けようとしている失われた数十年とEUの崩壊を意味するため、最悪の選択肢と言えよう。

 (4)は実現できれば素晴らしいが、南欧企業の生産性を北部欧州の企業並みに引き上げられる方法が分かっていれば、とうの昔に実現していただろう。

 従って、現実的な方法は(1)〜(3)の3つの選択肢の組み合わせということになる。平たく言えばこれは「欧州経済の成長回復策」であり、最近のあらゆる国際的な声明にうたわれている文言だ。

 だが、どの声明もその具体的な内容、政策については記していない。欧州の官僚たちは「欧州の成長を回復するためには何をすべきか」を理解している。欧州の一部の政治家も理解している。だが、欧州の有権者は理解していない。政治家が、その点について明確に説明すれば、自分が次の選挙で勝てなくなると恐れて説明しないからだ。


欧州の政治家は有権者に打つべき政策を説明すべきだ(写真はスペインでのデモ)
(写真:ロイター/アフロ)
政治家は有権者に現実の説明を

 だが、今後5年間に政策目標として(1)〜(3)を何らかの形で組み合わせた政策を実施しない限り、欧州は過酷な選択肢に直面することになる。

 1つは南欧諸国が(恐らく北部欧州も)失われた数十年を余儀なくされるシナリオだ。もう1つは北部欧州と南欧の貿易不均衡が続き、結局、財政移転を通じて、つまり、北部欧州の税金をつぎ込む形で南欧の支援を続けることを余儀なくされるシナリオだ。

 北部欧州の政治家は「欧州の成長を回復する策」とは、実際には何を意味するのか国民にもっと明確に説明すべきだ。そうでなければ10年後には、現在の日和見的政策こそが北部欧州に膨大な税負担を強いた元凶だと、告白せざるを得なくなるだろう。そうなれば政治家は自分のキャリアに完全な終止符が打たれると考えた方がよい。

国内独占掲載:J. Bradford DeLong Project Syndicate


J.ブラッドフォード・デロング

米カリフォルニア大学(UC)バークレー校で経済学教授を務める。専門は経済史、マクロ経済学、経済成長。1987年、米ハーバード大学で経済学博士を取得。93〜95年、米財務省で政策担当の副次官補として活躍。ビル・クリントン政権における93年の予算編成のほか、ウルグアイラウンド、北米自由貿易協定などに携わった。


Project syndicate

世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。

Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。

Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。

その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。

先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121003/237604/?ST=print

ユーロとスペインの分裂の危機
2012年10月11日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年10月6日号)

スペインの首相は、ユーロおよび自国の分裂を食い止めようと戦っている。


スペインのマリアノ・ラホイ首相はガリシア生まれ〔AFPBB News〕

 階段の途中で出くわした時に、上と下のどちらに行こうとしているのか分からないような人がガリシア人だ――。スペイン人は、ガリシア地方の人のことを皮肉を込めてこんな風に表現するのを好む。

 スペイン語でレトランカと呼ばれるこうした曖昧さは、人を楽しませる風刺的な語り口に役立つとともに、慎重な態度、時には怪しい態度として表れることがある。

 ガリシア生まれのマリアノ・ラホイ首相にとっては、このような典型的なガリシアの人物像を演じることが、いくつもの矛盾した要求に対処し、切り抜ける術となっている。

 だが、スペインが目下の苦境を乗り越えるために必要な性格が果たしてこれなのかどうかは、疑問の余地がある。

謎めいたラホイ首相

 ラホイ首相はユーロ圏による新規の救済策を巡って言を左右にし、多くの人をいら立たせている。新たな救済策では、欧州中央銀行(ECB)が、スペインを窒息させかけている借り入れコストを引き下げる手助けをするという約束を条件付きで提示している。

 フランスはスペインに資金を受け取ってほしいと考えており、ドイツは受け取るべきでないと発言している。ラホイ首相は扉をくぐる前に、ドイツが閉める扉に指を挟まれないか、そして扉の先に何があるかを知りたがっている。

 ECBはどのような手助けをするつもりで、スペインにはどのような条件が課されるのだろうか?

 スペインが近々救済を要請するという情報が流れたことについて質問を受けたラホイ首相は、ガリシア流のレトランカで応じた。ラホイ首相によると、2通りの可能性がある。情報を報じた通信社が正しく、一国の首相より信頼のおける情報源が存在するか、それとも情報が間違っているかのどちらかだ。

 「私の答えは『ノー』だ。ただし、あなたたちの推測が正しい可能性もあるのだから、最善と思えることを考えるのはやはり自由だ」。結局、ラホイ首相の答えは本当にノーだったのだろうか? それともイエスだったのだろうか?

 多くの人が疑問を抱いているのは、ラホイ首相にはそもそも市場と国民の信頼を取り戻す戦略があるのかということだ。2011年の財政赤字は国内総生産(GDP)の約9%に達し、失業率は25%を超え、抗議運動では暴力ざたも起きている。スペインはギリシャのような死のスパイラルに陥りかけていると懸念する声もある。

 その一方で、スペインの公共部門には無駄な贅肉がたくさんあり、失業統計は誇張されており、スペイン社会の緩衝材である家族にはまだ力があると確信する向きもある。それでも、ラホイ首相が抱える問題は決して好転しておらず、むしろ状況が悪化していることは確かだ。

カタルーニャ州で高まる独立機運

 ラホイ首相は経済危機に加え、予想すらしなかった憲法上の危機にも直面している。スペインの各州政府は高度な自治を維持し、医療や教育といったカネが掛かる行政サービスを提供しているが、これら地方政府に対し、ラホイ首相が歳出の抑制を試みたところ、カタルーニャ州で独立運動が再燃する結果となった。


今年9月、カタルーニャの州都バルセロナで「カタルーニャの日」に行われた大規模デモでひるがえるカタルーニャ州旗と「独立」の文字〔AFPBB News〕

 カタルーニャ州は巨額の債務を抱えると同時に、スペインの経済と財政に差し引きで大きく貢献している州だ。

 9月には、州都バルセロナで驚くほど大規模な独立派の集会があり、カタルーニャは欧州連合(EU)の次なるメンバーだという内容の横断幕が見られた。

 同州のアルトゥール・マス首相は、財政上カタルーニャに有利な取引を中央政府に要請して拒絶された後、州議会選挙を今年11月25日に前倒しすることを決定。自治権について州民投票を実施するという選択肢をちらつかせて、国内情勢を一層緊迫させている。

 10月最初の週末に行われるFCバルセロナ対レアル・マドリードのサッカーの「エル・クラシコ(伝統の一戦)」は、かつてないほど感情的な試合になるだろう。独立運動のうねりがどこに向かうかは誰にも分からない。マス首相でさえ最終的な目標は明らかにしていない。


ラホイ首相はユーロ圏の解体とスペイン自身の分裂を食い止めるために戦っている〔AFPBB News〕

 このため、謎めいたラホイ首相は、2つのテールリスクを回避する努力をしなければならない。ユーロ圏がスペインの岩につまずいて分裂に至るリスクと、スペインそのものが分裂するリスクである。

 不動産登記官からキャリアをスタートし、大臣まで経験したラホイ氏は、2004年と2008年の選挙で、社会労働党を率いるホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ氏に敗れた。

 しかし、2011年11月の選挙で自身が率いる保守派の国民党が圧勝し、ついに政権を握った。

 サパテロ氏は長い間、膨れ上がった不動産バブルがはじけた事実から目をそらし続けてきた。しかし、ラホイ首相も修復を急いだとは言い難い。ラホイ首相は勝利を収めた選挙から1カ月後の首相就任ぎりぎりになって組閣を行い、しかも経済担当のトップが2人いる面倒な体制を作った。

 3月には、初参加となるEU首脳会議で突然、前政権が合意していた赤字削減目標は達成できないと発表し、各国首脳をいら立たせた(後に合意目標も緩和された)。最初の予算策定も4月までかかった。

 このようにまずいスタートを切った理由の1つは、社会労働党の本拠地アンダルシア州の地方選挙で、マタドールのようにライバル政党にとどめを刺したいという気持ちから、悪い知らせの公表を遅らせたことだ。結局アンダルシア州では左派が勢力を維持し、ラホイ首相は自身の信頼を串刺しする形になった。

ようやく立場が明確になった?

 この9月は、ラホイ首相がようやく立場を明確にする場面のはずだった。

 外部のコンサルタントの助けを借りて、国内の銀行に約400億ユーロの公的資金(ユーロ圏が提示していた1000億ユーロよりはるかに少ない)が必要であることを発表し、金融機関の整理計画を作成し、2013年に赤字をGDPの4.5%まで削減するための予算案を策定し、新たな一連の構造改革を開始したのだ。

 それでも、一部のアナリストは、銀行のストレステストが十分なものだったかについて疑問を抱いている。また予算についても、2013年の経済のマイナス成長率がわずか0.5%という数字に基づいていることについて疑念の声がある。独立したアナリストの大半は、この2〜3倍のマイナス成長率を予測している。

 10月には故郷のガリシア州で選挙が予定されているが、それに先立って、あるいは不可避となった救済に先立って、ラホイ首相は再び地方政治に走るのだろうか?

 そのような考えは捨てた方がいいと、スペイン政府の高官は口をそろえる。

 銀行にはもう秘密はないし、この明るい見通しは、予想されている最近の改革(労働市場の柔軟性を高めることなど)の成功に基づいており、2013年には新たな改革案がいくつも採用される予定だと言うのだ。

財政の指揮系統

 予算管理の制約は、ブリュッセルからマドリード、さらにバルセロナへと手を伸ばしている。しかし、現在のところ、この制約は欧州統合の基本思想に対する怒りを誘発してはいない。

 欧州の統合はスペインにとって、フランシスコ・フランコ将軍による独裁政治から民主主義への移行に不可欠なものだった。カタルーニャの民族主義者から見れば、欧州はスペインから痛みを伴わずに分離する希望を与えてくれる存在だ。

 マス首相は支持者に、恐れることなく投票するよう呼び掛けている。それを止めるために「武器を用いる」ことのできる者は誰もいないのだ。

 伝説によると、スペインで最も悪名高いガリシア人であるフランコ将軍は、2種類の問題しか見ていなかったという。時間が解決してくれる問題と、時間でさえ解決できない問題だ。

 ラホイ首相はこのような考え方をすべきでない。ラホイ首相の物静かな姿勢がスペイン人の激しい感情を冷ますのなら、それはスペインの役に立つだろう。しかし、困難の度を増すばかりの選択を先延ばしにするだけであれば、そのような姿勢は何の役にも立たない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36282

【第746回】 2012年10月11日 週刊ダイヤモンド編集部
スペイン最悪の事態は回避も
支援を要請できない“事情”

10月2日、ラホイ首相は「支援要請は間近ではない」と言明したが、要請できないのが実態だ
Photo:REUTERS/Juan Medina
 9月末に懸念されていた最悪の事態は、とりあえずは回避された。スペイン国債の格下げのことだ。

 スペイン国債の格付けをめぐっては、米格付け会社のムーディーズが9月中に投資不適格級まで引き下げる可能性を示唆していたが、10月中への延期を決定した。

 一方、9月28日に公表されたスペインの14銀行に対するストレステスト(健全性審査)結果も、資本不足合計額は前回の620億ユーロを下回る537億ユーロにとどまった。

 ただ、スペイン政府が資金繰り危機に陥るリスクが払拭されたわけではない。金融支援を獲得できるか、ひいてはECB(欧州中央銀行)がスペイン国債を買い入れるかが不透明なままだからだ。

 9月27日、スペイン政府は2013年予算案を発表、支援獲得を視野に新たな財政赤字削減策を盛り込んだ。昨年12月に発足したラホイ政権にとって、実に5回目の緊縮策である。

「スペインに勧告した内容を上回る措置だ」。欧州委員会のレーン委員が前向きな評価を示すと市場はこれを好感。「あとはスペインが支援を要請しさえすれば受けられる」(市場関係者)との見方が広がった。実際、米国株は反発し、ユーロもドル、円に対し上昇した。

 ところがである。この見方には「2つの誤解がある」(岸田英樹・野村證券シニアエコノミスト)。

 まず、欧州委員会が評価したのはスペインの緊縮策ではない。欧州委員会のステートメントによれば、(1)財政監視機関の創設と、(2)若年層の雇用促進といった労働市場改革、これら2つの措置を評価したにすぎない。

 さらにいえば、そもそもルール作成の官僚組織である欧州委員会には、支援を決定する議決権がない。支援主体はあくまでユーロ圏各国が拠出する基金、ESM(欧州安定メカニズム)であり、決定権はユーロ圏17カ国財務相にある。彼らの全会一致が原則なのだ。

 では、各国財務相はどんな見解か。スペインは既に7月までに360億ユーロ(13年分)の削減策を提示。足元の失業率は20%を超えており、さらなる景気悪化を懸念して、今回の追加赤字削減額はわずか44億ユーロ(GDP比0.6%)にとどまった。これに対しドイツのショイブレ財務相は9月21日に「スペインにプログラムは必要ない」と断言。それ以降、今回の緊縮策が出てからも支援に前向きな姿勢を示していない。

 だがドイツは、肝心の必要削減額すら明示していない。そのためスペインは、今の段階で支援を要請すれば突き返される可能性が高く、逆に市場で不安視されるリスクを抱えている。故に怖くて支援要請できないというのが実態だ。

 「いつでも支援を要請する用意がある」──。スペイン政府が“虚勢”を張って市場を何とか安心させる綱渡りの状況は、しばらく続きそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)
http://diamond.jp/articles/-/25987


S&P:スペインを格下げ−ジャンク級1段階上回る水準に

  10月10日(ブルームバーグ):米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はスペイン国債の格付けをジャンク級を1段階上回る水準に引き下げた。経済的・政治的なリスク増大を理由に挙げた。
S&Pの発表資料によると、スペイン国債の格付けは「BBBプラス」から「BBBマイナス」に2段階引き下げられた。格付け見通しは「ネガティブ(弱含み)」。
記事についての記者への問い合わせ先:Madrid Angeline Benoit abenoit4@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:麗英二 Eiji Toshi etoshi@bloomberg.net
更新日時: 2012/10/11 06:13 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MBP4AV6S972D01.html

野田首相:日中関係悪化は双方にマイナス、対話が必要−単独会見

  10月11日(ブルームバーグ):野田佳彦首相は、日中関係の悪化は双方にとってマイナスとして様々な外交チャンネルを通じた対話が必要との認識を示した。10日のブルームバーグ・ニュースとの単独インタビューで語った。
首相は日中関係について「世界で2番目と3番目の経済大国であり、お互いに相互依存の関係が深まっている」と指摘。両国の関係が特に経済的に冷え込むことは「どちらにとってもマイナスになるので、そうした大局に影響しないような様々なチャンネルを使った対話というものが必要だ」と強調した。
国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会が48年ぶりに東京で開かれているが、中国の謝旭人財務相と中国人民銀行の周小川総裁はともに出席を見送った。
首相は尖閣諸島に関して「国際法上も、歴史上も、間違いなく日本固有の領土。領有権の問題は存在しない、この基本的な認識、姿勢は堅持していきたい」と語った。その上で「アジア太平洋地域における安定のためには、両国の負っている責任は極めて大きい」と述べた。
RBS証券の西岡純子チーフエコノミストは、日中の対立は当初予想していたより深刻な状況になっていると分析している。
IMFの篠原尚之副専務理事も9日のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、日中の尖閣をめぐる対立がよりエスカレートすれば、日中双方の経済、ゆくゆくは世界経済にとってもリスク要因となるとの見方を示した。
不均衡是正
野田首相は、今回のIMF・世界銀行年次総会について「欧州の危機の問題を含め、諸課題について国際社会がきっちりと結束をしていく」ことを確認したい考えを示した。日本の役割に関しても「国際市場の安定のために、これからもしっかりと貢献していくということの確認をする、そういう総会として位置付けたい」と抱負を語った。
20カ国・地域(G20)が2009年に合意した世界経済の不均衡是正に向けた取り組みについては、「いわゆる対外不均衡は縮小されつつあると思うし、財政上の不均衡についても一定の進捗(しんちょく)が出てきている。これからも緊張感を持って加盟国がしっかり政策協調していく必要がある」との見解を表明した。11日には都内で主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)も開かれ欧州の債務危機などが議論される見通しだ。
断固たる措置
野田首相は1957年5月生まれの55歳。菅直人前首相の辞任表明に伴う2011年8月の民主党代表選で勝利し、翌9月、第95代内閣総理大臣に就任した。12年9月の民主党代表選で再選を果たした。インタビューでは、「国際社会に出て、サミットに出て、毎回出席する首脳が代わるというのでは安定感がないと思うので、頑張っていかなければいけない」と語るが、円高への対応やデフレ脱却など経済でも課題に直面する。
首相は欧州での債務危機後に資金の逃避先として円が買われる動きが出たことについて「相対的な評価として円の評価が高まったというのは一時的にはあった」としながらも、「日本経済のいわゆるパフォーマンスを正確に反映しているものではない。それはIMFもそういう評価をしていると思う」との認識を示した。
現在の為替市場の動向については「過度な変動があるかどうか、無秩序な動きはあるかどうか、よく注視をしながら必要な時には断固たる措置を取る」と語った。
デフレ脱却
代表選では「1年以内のデフレ脱却、2年以内の競争力回復」を経済再生への目標として掲げた。
首相はインタビューで、「1日も早くデフレから脱却しなければならない。政府としてやるべきことと日本銀行として金融政策を通じてやることと両方あると思うが、問題意識は共有している」と述べ、政府・日銀が協調してデフレ脱却に取り組む必要性を訴えた。
その上で、「需給のキャップは今、縮まってきたからデフレ脱却に向けての一つのチャンスが来ている」とも指摘。7月にまとめた「日本再生戦略」などに基づき、政府として切れ目ない経済対策を打っていく決意を示した。
日銀に対しては「中長期的な物価安定の目標1%と定めたが、それにのっとって適時、適切、果断な政策運営をしてほしい」との期待感を示した。
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net;Peter Hirschberg phirschberg@bloomberg.net
更新日時: 2012/10/11 00:00 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MBO7ZM6JIJWC01.html


エマニュエル・トッドの学説と中国の将来、
そして「9月の日記」のようなもの
2012年10月11日(Thu) 佐川 光晴
 このコラムは現在毎月1回の掲載である。前回が公開された9月10日頃は、韓国のイ・ミョンバク大統領の竹島訪問が引き起こした日韓の対立が人々の耳目を集めていた。

 1カ月後の現在は、尖閣諸島の国有化に端を発する日中の対立がのっぴきならない気配を漂わせて、東アジア情勢はまさに風雲急を告げる様相を呈している。

 秋から冬にかけて、日中韓に台湾を加えた諸国の対立関係がどのような展開を見せていくのか、私ごときに分かるはずがない。ただ言えるのは、ここまで激しくなった国家間の対立が平穏に復するには相当な期間を有するだろうということ。

 もう1つは、今のところ日本国内には反韓・反中の世論はそれほど目立っていないが、この泰然たる空気がいつまで維持できるのかということである。

 仏文学者の鹿島茂氏は、一連の事態を楽観的にとらえて、以下のように書いている。

〈尖閣諸島国有化をきっかけに爆発した中国の反日暴動は、中国の一人っ子政策によって生じた歪みで若年層の男子率が異常に高くなっていることに加えて、資本主義の加速で貧富の差が拡大し、都市部に貧しく若い男子が過剰につめこまれているために起きたものであり、ナショナリズムはじつはあまり関係がない。
 よって、この危機が乗り越えられれば、すでに女子が高学歴化し、少子化も加速している中国であるから、たとえ共産党政権が続いても、今後も大爆発は起きないと予想する。やがて、中国もまた少子高齢化によって日本と同じようにおとなしい国になるのである。>

(毎日新聞9月26日朝刊)

 【中国が日本並みのおとなしい国になる日】と題されたコラムで鹿島氏が予想する通りに、日中関係が穏やかなものになってくれればありがたいと、私も願わずにいられない。

 気がかりなのは、鹿島氏が自説の根拠として挙げている、フランス人の歴史学者エマニュエル・トッドの理論が中国にも当てはまるのかということである。

 〈問題はどのような条件下でこのような大爆発が起きるのかということだ。(中略)トッドによれば、人口と識字率が決定的な要因だという。人口爆発が起きると同時に男子の識字率が上がって若年層の生存競争が激化し、個人の不満が集団の無意識へと変化しているところならどこでも、国家や体制に関係なく爆発が起きるのだ。
 ただし、トッド理論によれば、男子に代わって女子の識字率が伸び、女子の多くが高等教育にアクセスするような段階に達した社会においては、どんなアジテーションを行なおうと爆発は起きなくなるという。いまの日本のように。〉
 トッド理論が中国・韓国だけでなく、日本にも当てはまり続けることを願わずにはいられない。

 もう1点、私はナショナリズムを軽視するのは危険だと思っている。このことについては、いずれ稿を改めて論じてみたい。

                ★     ★     ★     ★

 乱世の時、文人は日記をつけるのが倣いである。古くは藤原定家の『明月記』、新しいところでは永井荷風の『断腸亭日乗』をはじめ『高見順日記』や『伊藤整日記』がある。

 私は日記が苦手で、これまで1日としてまともに書いたことがない。文人を名乗るのもおこがましいので、2012年9月の近況報告でお茶を濁したいと思う。

 某日、左目にものもらいができた。まつげのほんの少し上の、まぶたの中央に、擦れたか何かで疵ができて、そこからばい菌が入ったらしい。眼科に行くと、目薬と塗り薬を出してくれた。これで治ると思ったら、完治するにはひと月はかかりますと言われた。

 診察の前に諸種の検査を受けた。視力検査では、右が0.9で左が1.2だった。裸眼での数値で、思ったよりもいい結果に喜ぶ。47歳にしてこの視力は、いかに仕事をしていないかの証拠のようだが、老眼も出ていないので、うまくすれば一生メガネのお世話にならずに済むのではないだろうかと期待している。

 某日、『牛を屠る』(解放出版社)の6刷りが決まったとの連絡があった。刊行は2009年7月で、初刷りは4500部だった。今回は1000部の増刷で、あわせて9500部になった。大台の1万部まであと少しである。

 担当編集者から、「ロングセラーです」と言われた。作家にとって、最上の褒め言葉をいただき、感激もひとしおだった。

 ただ、これまでカバーに使用していた紙が、東日本大震災の影響による生産の縮小で手に入らなくなった。そのため、デザイナーと相談して、別の紙をカバーに用いた。その紙もいずれ生産が打ち切られる予定で、次回の増刷時にはまた他の紙によるカバーになるかもしれないという。

 翌日届いた6刷りの本は、確かにこれまでとカバーの紙質が違っていた。初刷りから5刷りまでは平板な紙だったが、今回は細かな凹凸がついている。次の増刷ではどんな紙になるのか? そもそも7刷りがあるのか? それよりも、東日本大震災による被害が思わぬかたちで身辺に及び、軽薄のそしりをまぬがれないことを承知しつつ、私はしばし被災地に暮らす人々に思いを馳せた。

 某日、左右社よりメールがある。神田神保町の東京堂にて「左右社フェア」を行う。ついては、『作品集 静かな夜』のサイン本を並べたい。また、「佐川光晴が選ぶ5冊」というコーナーもつくるので、できればテーマを決めてお奨めの本を選んでもらいたい、とのことだった。

 さっそく編集部に連絡をして、「男の子に読んで貰いたい5冊」というテーマにする。1冊は、私の本からというので、増刷にあやかって『牛を屠る』にしてもらう。他の4冊は以下の通りである。

 『どくとるマンボウ青春記』(北杜夫著、中公文庫)

 『新編 同時代の作家たち』(広津和郎著、岩波文庫)

 『小出楢重随筆集』(岩波文庫)

 『ビートルズから始まるロック名盤』(中山康樹著、講談社文庫)

 「結婚のかたち」の読者へのおまけの1冊としては、最近再刊された『四百字のデッサン』(野見山暁治著、河出文庫)を挙げたい。

 前述の鹿島氏は、「男子が増えれば暴徒化する」というテーゼに則っておられるようだけれど、私としては「どうすれば、まっとうな男子が育つのか」の方に重点を置いて考えたいので、このようなラインアップとなった。

 東京堂でのフェアはすでに終了したけれど、いずれも好著なのでご一読をお勧めします。

 某日、小学3年生の次男が熱を出す。土曜日で、朝は元気にしていたのに、ごろごろしていると思ったら、具合が悪いという。額に手を当てると38度はゆうに超えている。体温計で計ると39度2分だった。

 数年ぶりの熱発で、もうすぐ9歳になるのだから大事には至らないと思いつつも心配がつのる。急いで病院につれていくと、インフルエンザではないとのことだった。一安心したものの、処方された薬とトンプクを飲ませるが、熱がなかなか下がらない。

 添い寝をしていると、こちらも夏の疲れが出て、いくらでも寝られてしまう。時々、息子がうなされる声で目を覚まし、水分を取らせたり、アイスノンを冷たいものに換えたりする。

 数年前までは毎年1、2度はしていた看病で、苦しむ息子には申しわけないが、なにやら懐かしい。

 日曜日の晩に熱は引いたものの、まだ食欲がないので、月曜日は学校を休ませる。日中はまた添い寝をして、寝床で本を読んでは居眠りをする。夕方、担任の先生より見舞いの電話がある。新任の男の先生で、息子はとたんに元気を取りもどす。「魔法の電話」だと感心する。

 いじめ問題で教員への不信がつのる昨今だけれど、子どもにとって先生は憧れであると痛感した。息子は火曜日から登校した。

 某日、ものもらいはまだ完治しない。一時の、小豆くらいの腫れはひいたが、小さな膨れが消えてくれない。10月末に、海外でシンポジウムに出席する予定があり、早くパスポートを作りたいのに、この顔で撮った写真が載るのは嫌だ。

 某日、午前9時過ぎ、風呂掃除中にぎっくり腰になる。いいのは視力くらいで、ものもらいの治りは悪いし、肉体の衰えに愕然とする。

 仕事はこなせていて、文章もテンポよく書けているのだが、そのあとの疲れがひどい。47歳というのは、こんなにもスタミナがないのか。主夫と作家を兼業しているとはいえ、今後の活動に不安を感じざるをえない。

 以上、近況報告でした。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36206

【第10回】 2012年10月11日 杉田浩一 [株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役]
突然賃金水準が50%上昇し、デモも発生!
民主化が進むと高まる工場運営の意外なリスク(4)
前回は、医療用精密器具のトップメーカーのマニー株式会社の、ミャンマー進出後に直面した進出後の工場での運営における労務管理や、それに伴う労働局とのやり取りについてご紹介した。今回は、電力事情や現地政府との付き合い方、最近の賃上げの状況等、現状の工場運営における基礎条件に焦点を当てたい。

海外展開の中のミャンマーの位置づけ

 現在、マニーは彼らの主力製品の一つである手術用縫合針や歯科用根幹治療機器の加工作業を、ミャンマー工場で行っている。いずれの製品も医療で使うものだけに不良品は許されず、微細な加工プロセスにおいて高いレベルの品質を常に維持する必要がある。マニーは、ミャンマーでそれを実現するために、どのように日々の工場のオペレーションを行っているのだろうか。

 今回も、松谷貫司会長、そしてそれを実務面からサポートしてきた高井壽秀副社長、榎本勲MANI YANGON LTD社長にお話を伺った。

 日本企業で最初の海外進出先にミャンマーを選択する企業は少ない。中国などの国々で既に事業を展開していく中で、第二、第三の海外拠点の一つとしてミャンマーを検討する場合がほとんどであろう。海外事業の展開戦略の中でどのようにミャンマーを位置付けることが妥当なのだろうか。他の海外工場と、どの程度、どのように連携を構築することが望ましいく、ミャンマーはどのような役割を担うべきなのだろうか。

*  *

――貴社の海外戦略の中で、ミャンマー工場の位置づけは。貴社は日本、ベトナム、ラオスに工場がある中で、現在ミャンマー工場での製造対象品目に、手術用縫合針や歯科用治療機器選んだ理由は。製造工程上の特徴等を考えてですか。

松谷会長 今まではどの工程もベトナムでやっていたのですが、より効率性を追求すると一部製造工程はミャンマーに移すほうが良いと分かりました。ミャンマーで製造している製品については、実はミャンマー工場を作る時にその製品の増産がどうしても必要だったからで、何をどこで製造すると最適かは、それほど考えていませんでした。

高井副社長 ミャンマーの場合だと、国の状況に鑑み、そこへ過度に依存するのはリスクが高いので、部分的な工程しか今までやってきませんでした。従って特定の製品の全ての工程というよりは、ベトナムの一部分の工程をミャンマーで、あるいはラオスに移管してやっています。

松谷会長 また最近は、重要度に鑑みこの製品であれば、全工程ミャンマーだけでいいのではというケースも出てきています。

――貴社の製品は、いわゆる検査、検品のプロセスで目の良さが問われると思いますが、その点でミャンマー、ラオス、それとベトナムと比較して何か違いはありますか。

榎本氏 そんなに差は無いと思います。歩留まりを見ていても、それほど大きな差はありません。最初はみな苦労しますが、しっかり教育するとレベルが上がっていきます。現在では、ミャンマーの社員もしっかり育ってきて、検査の水準も上がってきました。

松谷会長 どこの工場でも、みんな最初は「しっかり見えている」って言うんですよ。ただ、表面的には見えているんですが、本当は見えてないっていうことはよくあるんです。

――その場合、他の人が再度チェックする必要が出てくると思いますが、それだとプロセスが2倍かかってしまうということですよね。

松谷会長 そうですね。でも最初からどんなに良い目を持っていたからって、小さい物をルーペで見て、本当にきちっと見える人は今までいなかったです。私も初めて検品をやった時には、見えているつもりで話していて、1年くらい経ってから「ああ、彼が言っていたのは違うことだ」っていうことがあって、だんだん分かるようになりました。ですから、どこの国でやったとしても、そんなに簡単ではない。

――目の良さに加えて、特にベトナムが評価されるのは、「単純で細かい作業に対する集中力を持続できる」という国民性ですが、そういった点をミャンマーと比較してどうですか。

榎本氏 女性は同じくらいのレベルがあります。そこは大きな差がないのかと思います。逆に、男性はどうかなと思います。

松谷会長 東南アジアでは、男性のほうがのんびりしていますね。その点女性のほうが細かい作業もきちっとこなします。それはミャンマーも同じです。

*  *

 ミャンマーへの進出においては、リスクとメリットを織り込んだ進出プランが重要だ。マニーの場合も、ミャンマーのリスクを織り込みながら、重要度の低い部品や工程から少しずつ製造を開始し、徐々に拠点としての重度を高めていった。たとえミャンマーが、域内で安く製造できるからと言って、そこに過度に依存する形はリスク管理上好ましくない。特に製造拠点の数が限られている中小企業の場合は、製造拠点1カ所の問題が全社に大きく影響するので更なる留意が必要だ。

最近悪化した電力事情

 ミャンマー進出をする場合、インフラ面が障壁になることは第1回と第3回にもお伝えした。特に工場においては、安定した電力供給が不可欠だが、マニーの工場における最近の実情と対応について聞いてみた。

*  *

――電力事情が厳しいという話をよく聞くが、貴社の工場ではどうですか。

榎本氏 2年くらい前からかなり改善して、商用電源と一部ディーゼル発電を使って、24時間対応しています。2年前くらいからはその商用電源が95%近く、つまりほとんどの電力を商用電源で対応できる状況でした。これは他の工業団地に比べて非常に恵まれた状況だったのですが、今年4月から電力状況が悪くなり、今は商用電源が6割くらい、残り4割は発電機で回していうような状況です。

――貴社にとって、自家発電に伴う生産コストの上昇は相当大きいですか。また、電力事情の季節差はどの程度あるのですか。

榎本氏 ディーゼル発電のコストは高いため、弊社にとって、自家発電によるコスト上昇の影響は相当大きいです。また通常4月から8月ぐらいまで、電力状況はあまり良くないですね。 

高井副社長 ただ、他の製造業の会社と比較した場合、うちは製造工程のなかに手作業が比較的多くあるので、使用電力が少ないというメリットがありますね。

榎本氏 加えて、うちの工場は一般の家庭用の電源を引き入れているため、よっぽどの状況で停電しない限りはその供給も受けることが出来ます。ほかの工業団地エリアに比べるとかなり恩恵を受けているほうだと思います。それは、周りにあまり他の工場がない辺鄙な場所である故のメリットだと思います。

松谷会長 うちの工場がある工業団地は大きくはないのですが、同じ通り沿いには政府の機関があり、隣は軍専用の製薬会社があります。また、当社の工場がある敷地の中には軍専用の薬品原料の会社もあります。軍関係の敷地であることが電力事情の優遇につながっているか不明ですが、もしかしたら、そういう事情も影響しているかもしれません。もっとも、最初の工場立地選択の際に、業種は違うけども医療関係だから、どうせ借りるのなら薬品の原料を扱う軍関連の会社がある場所なら何か良いことあるかなって決めたのが実情です。

*  *

 第7回に、マニーのミャンマー工場の立地選定におけるポイントとして、人材確保の観点から都市部から離れた場所を選んだ旨をご紹介したが、電力の安定確保の観点からも、この場所はマニーにとって偶然にも優位に働いたようだ。ただし、そもそもマニー社の場合は製造工程に電力がそれほど必要ないという特徴があったからこそ、電力事情はそれほど鑑みずに人財確保や軍関連施設の近くを工場立地として選定できた。電力を大量に消費する業種は、慎重な検討が必要なことは言うまでもない。

 前回、労務面での現地政府との付き合い方についてご紹介したが、工場の運営においても現地政府と接する局面が多くある。それは、最初の工場誘致、現地での問題への対応、通関等、多岐にわたる。ミャンマーのように政治色が極めて強い国で、安定した事業を行うために、マニーはどのような距離感で現地政府と接してきたのだろうか。

*  *

政治面での影響はほとんどない

――進出の際のミャンマー政府のサポートどうでしたか。

松谷会長 ベトナムでは、我々が進出する際にベトナム政府は非常に歓迎してくれて、実際に政府は我々が土地を取得する際にも、すごく協力的にやってくれました。それから、我々にとんでもないことを言う地主が出てきても、しっかりと政府のほうで抑えてくれます。ミャンマーも歓迎してくれるのですが、どこまで本当にサポートしてくれるかが分かるのは、実際に問題が起きたときの対応だと思います。ミャンマーでは、今までは民間から土地を借りられなかったから、そういう問題はそもそも起きなかったのですが、これから法律が変わり、土地の賃借が自由化されると、そういう現地でのもめごとは起こるようになるでしょう。その時に、どの程度政府がサポートしてくれるかが、今後重要になってくると思います。

――土地代については、ベトナムと比較してどうですか。

松谷会長 ミャンマーはベトナムの何倍も土地代が高いんです。借地代が高いというのもあります。もう少し政府は、工場誘致に対して実質的に何かサポートを行ってくれればと思います。商業的な事業は、それほど工場と比較して土地を使わないから比較的問題ないかもしれません。うちなんかも製造業としては、比較的土地を使わないからやっていられます。一方で、もっと広大な土地が必要な工場の場合は、コストが高くなり大変だと思います。

――今ミャンマーでは、法律がいろいろなところで変わっており、役人の知識や対応が法律の変化に追いついていません。また、役人によって対応にブレがあるとの話も聞きます。事業を行っていて、実際それは感じますか。

榎本氏 私達から見て直接関係は無いのですが、その話はよく聞きます。実務が出来る役人が少ないので、各省庁の特定の人に業務が集中してしまって仕事が回っていない。ある意味燃え尽き症候群じゃないですけど、そういう傾向が見られるという報告もよく聞きます。

松谷会長 うちの場合は普段は問題無いのですけども、工場を設立する時は、昔の法律に依拠していて非常におかしな対応をされたことがありました。でも今度、工場を拡張する時に、また法律関連で問題がいろいろ出てくるかもしれないとは思っています。

――通関関係は、ミャンマーではスムースに進むのですか。原材料を国外から持ってくる時のスケジュールへの影響は出たりしませんか。

松谷会長 うちのミャンマー工場の場合、原材料のうち日本からの比率は70%くらいで、残りの30%くらいはベトナムからです。通関については、基本的には問題はないのですが、現地の担当官が書類などのミスを発見することがあります。従って、滞るときは、何らかのミスに関連してが多いですよね。

榎本氏 通関時のチェックは結構細かいですね。一字一句、例えばモデル番号までというようなところでチェックが入ります。

――政府とのつながりは実際どの程度大事ですか。

榎本氏 まあ、役人が特定の企業とつながって、肩入れしているということは無いです。通り一遍のことをやっているってことだけですね。お世話にならなければいけないっていう人には、それはやっぱりこちらから丁寧に応対はしてます。ただ、逆に言うとその程度です。

*  *

 新興国への進出の際には、現地政府との関係構築が重要なことは言うまでもない。ただ、その言葉が独り歩きして、現地政府との関係を過度に意識しすぎる傾向も見かける。一例として、「うちの会社は現地政府の誰々とつながっているから大丈夫」ということを得意げに語る人も見受けられる。

 忘れてはならないのは、現地政府との関係に力点を置きすぎるリスクも存在するということだ。今のつながりのある政府担当者が、何時まで政府でその地位にいるかは不明であること、またそれ以上に政変で政敵が力を握った場合、追い落とされた前任者と近い人や企業は、それだけで目の敵にされる。また、政府との関係はあくまで補完的なもので、本来力点を置くべきは、あくまで本業であって、地に足をつけて日々のオペレーションをしっかりやることだ。榎本氏のコメントにもあるように、きっちりと自社の運営を行って、自然体で政府と接していくのが肝要だ。

突然公務員の給料が大幅上昇

 ミャンマーでは、今年の4月に国家公務員の給与が一律で、月額3万チャット(約35ドル)引き上げられた。これは、原則すべての国家公務員に定額で適用され、従って低所得の下位の公務員ほど昇給率が高かった。また、3万チャットは、比較的賃金の低い工場での若手工員の約1カ月分程度、また一般の工員であれば1カ月の賃金の50%程度の金額だ。この給与引き上げは、国家公務員のみならず、ミャンマーの賃金水準に大きな影響を与えることになった。ミャンマー進出の大きな理由の一つに低い賃金水準があげられるが、足元ではどのような動きがあるのだろうか。

*  *

――公務員の給料が今年一気に上昇しました。それによる一般民間企業への給料のインパクトはどの程度ありましたか。

榎本氏 かなり大きかったですね。ミャンマーの人々は皆、「給料はそのくらいの額を貰えるんだ」というイメージとして受け取ってしまうわけです。ですから公務員とは働いている条件も全然違うことを説明しても理解されないですね。ただ単純に公務員がそれだけ貰ったのならば、自分たちの所でも貰えるはずという意識がある。3万チャットの上昇で、それは一般の工員にとって50%程度の上昇を意味します。今年の公務員の給与が4月30日に支払われた後、一般民間企業は相当苦労しました。その影響で、ミャンマーではストが頻発しています。そのため労働大臣がその説明に何カ所も回っていましたが、多くは経営側に協力を求める意味合いが強かったです。

――賃金が上がる時は、どれくらい前にそういう情報が分かるのですか。

榎本氏 賃金が上がったのが4月でしたから、2月くらいにもうその情報は出ていたかもしれませんね。一部日系の企業でも1月の段階で給与を引き上げるような動きを見せたところもありましたから。割と早い段階からありましたね。

――公務員の賃金が上がると分かった時は、それに備えて社内でも上げる用意があることを事前に社員に伝えたりするのですか。

榎本氏 いや、それは事前には言いませんね。ただ単に賃上げをやるからということで聞き取りを始めて、どういう形が一番いいのか社員と話し合いを持って、それで一旦賃上げの水準を決めます。その後、公務員の賃上げ発表を受けて、これじゃやっぱり上手くいかないかなというような時には、またみんなと話し合いを持ちます。会社の考え方はもちろん出さなきゃいけないし、彼らがどのように考えているかも聞いて、じゃあここが一番妥当なところだろうというところで通知を出します。今年はそうして対応しました。

――政府の役員、公務員の給料を上げる時期は同じなのですか。たしかその前にも、すごく上がったことがありましたね。

榎本氏 時期的には同じですけど、毎年賃上げを行っているわけではないですね。確か、このような大幅な賃上げは、3年以上前にもありました。

松谷会長 3年前の時はすごい上がり方で、たしか倍近くでしたね。倍になってあたふたしたのですが、結局は物価が倍になっちゃって。今回はそうならないですよね。それからチャットがドルレートに対して下落して、結局あんまり影響が当社には無い。もちろん社内では対応は大変だったんですが、最終的な影響はそれほど無かった。

――今年の4月頃、タイも最低賃金が40%上がっているが、ミャンマーは隣国の動向を見てその時期や上昇水準を考えていたりするのですか。

榎本氏 周りの状況を見てから動いていますね。今年は賃上げに動いた方が良いだろうというような事情もありました。かなり隣国でもストが出ましたから。なんでストが出るのかという状況も見て、当局は対応をとりましたよね。

松谷会長 中国が震源地みたいな気が私はしています。中国が上がると相対的に安くなるから、じゃあもっとうちらも上げられるって。実際ベトナムも上がりましたもんね。

*  *

 今年の初旬には、特にヤンゴン周辺の工場で、賃上げに関連するストライキが続発した。ミャンマーの賃上げは、ミャンマーだけの状況ではなく、域内での賃上げ等とも密接にリンクしている。従って、ミャンマーの賃金水準の絶対値もさることながら、近隣諸国との賃金水準との関連を合わせてみることが重要だ。

 また、現在ミャンマーでは、最低賃金法の導入も検討されており、今年の6月には労働大臣が最低賃金水準として、5万7600チャット(月額約70ドル)を示唆している。またその翌月の7月には、縫製業界団体や、労働組合、政府関係者も交えて、縫製業界の適正賃金水準の会議も行われており、約6万チャットで合意している。

 ミャンマーのように、今後の経済成長が望める国においては、賃金水準の上昇率も日本と比較して高いため、進出の際には現在の水準に加えて今後の想定賃金上昇率やインフレ率を織り込んだ検討が重要になってくる。安い賃金水準という言葉だけに踊らされて、進出してからこんなはずではなかったのにとなることは、避けなければならない。

民主化による労働者の変化

 加えて、長い社会主義時代を経ていたこともあり、ミャンマーの労働者の意識の変化にも、気を配る必要がある(詳細は前回を参照:第9回)。労働者は他国と比較しても保護されやすい点があることに加えて、最近の民主化の流れから、より労働者が自らの権利を声高に主張する傾向が強まっている。昨年の10月には労働組合法も成立しており、今後はより発言力を強めた労働者への対応が必要となる。

*  *

――今後さらに民主化が進んだ時に、労働争議のリスクが高まるとの見方もありますが、実際にどの程度リスクとして見ていますか。

榎本氏 当然あると思います。労働組合法が去年11月に施行されましたから、それに基づいて組合活動がオープンに認められてきている形で動きはあるでしょう。一方で、労働者の権利等の意識、教育は特に受けてきていないので、どこまで急に動くかは不明です。ただ、単純に物事を考えて、「要求を出せば通るんだ」と受け取られると、そうした動きが大きく広がる可能性はあると思います。そういう単純に要求を出せば通るような形にしないなど、労働監督省庁をはじめ国の方で正しく教育して、誘導するようなこともやってもらう必要があると感じています。

――今後の労働組合運動以前の段階として、労働局は何でも聞いてしまいがちな中で、今後その基準で民主化がさらに進んだら、とんでもないことになりかねないリスクがそこにあるということですか。

榎本氏 あると思います。

*   *

 最近は、ヤンゴン周辺に工場が多く進出してきたため、若年ワーカーを集めることがより困難になってきている。一部の進出工場は、労働力の確保のために、より地方での工場建設を検討している例もある。今後、欧米における経済制裁が撤廃され、さらに多くの外資企業が進出してきた場合、その傾向に一層拍車がかかることは間違いない。そうした中で、相対的に自らの価値の高まりを理解した現地の労働者が、より自らの権利を主張し、デモに発展する可能性は、当然のリスクとして織り込む必要がある。
http://diamond.jp/articles/print/26117

【第246回】 2012年10月11日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
「国債暴落」のあれこれを考える
 日本の国債が、近い将来、ギリシャ、イタリア、スペインの国債のように「暴落」するという議論をよく聞く。日本の政府債務残高は、GDPに対してギリシャよりも大きい。しかし、それだけで、危ないと考えるのは短慮だ。

 日本には、ざっと1500兆円に及ぶ個人金融資産があり、これが、預金、保険、年金などを通じて、一応は信用リスク上安全で、安定した利回りを提供するわが国の国債への投資に向かっている。

 短期金利が共にほぼゼロ金利である米国やドイツよりもわが国の長期国債の利回りは低い。同時に、わが国はデフレに悩んでいる。わが国の投資主体による日本円建てで信用リスクが(ほぼ)ゼロの確定利回りを提供する金融商品、つまり日本国債に対する需要が大変旺盛であることがわかる。

 一般に、大き過ぎる財政赤字残高の弊害は、(1)長期金利の上昇による投資・消費の低迷、(2)通貨への信認低下としてのインフレ、さらに(3)自国通貨安による国民の購買力低下だ。

 では、現実を素直に見よう。これらはいずれも起こっていない。特に、インフレと円安に関しては、むしろその逆のデフレと円高であることこそが目下のわが国経済にとって大きな問題だ。

 主に財務省による「日本の財政赤字は大変だ!」という増税のためのキャンペーンの効果によるものと思われるが、わが国の累積財政赤字の残高は「大き過ぎる」という見解が常識になっている。

 しかし、経済(インフレ率)と市場(金利と為替レート)の現状を見る限りでは、むしろ、財政赤字の残高は足りないのではないか。わが国は、潤沢な貯蓄を持つ一方で、社債など、国債に対して代替的な金融商品の市場が薄い。政府の債務残高の供給は、需要に対して過大ではなく、むしろ過小なのではないか。巨額の財政赤字と低金利・デフレ・円高の共存という常識的には矛盾する現状を解釈する鍵はこの辺にあるのではないか。

 もうしばらくの間、銀行預金にはお金が集まるだろうし、銀行にとって「貸せる!」貸出先は乏しい。預金を背景とした銀行の国債購入は続くだろう。

 したがって、今の時点で将来をインフレと決めつけて、株式・商品・外貨・不動産などでリスクを取って、力いっぱいインフレに備えるのは賢くない。デフレが続いたときの「裏目」の損が大きい。

 金融機関側から見ると、リスクの大きな商品とは、ほぼそのまま手数料(=粗利!)の大きな商品だ。「将来のインフレに備えて、貯蓄から投資へ……」といった話に簡単に乗ってはいけない。

 とはいえ、目下の環境条件がいつ変わるかは予断を許さない。近い将来をインフレと決めつけてこれに備え過ぎるのも愚かだが、インフレやその期待を背景とする長期金利上昇の可能性を全く考えないのは不用意というものだ。

 日本の将来の国債暴落とインフレのリスクに対応するには、どうすればいいのか。

 金利上昇に対しては、現金や短期金融商品が最強の運用資産だが、当面、これらは利回りが悪過ぎる。

 当面の利回りと将来の金利上昇のリスクのバランスを考えると、国債暴落(=長期金利上昇)のリスクに強い金融商品は、個人向け国債だ。個人向け国債の10年物、5年物は、購入から1年以上たてば1年分の利息を払うと投資元本で換金できる。加えて、財務省でも言いにくいだろうが、1000万円超なら銀行預金よりも信用リスク面では安心だ。意外かもしれないが、嘘ではない。
http://diamond.jp/articles/-/25999

#しつこい
 

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