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変貌する長期金利 低金利が覆い隠すもの 利子率革命 期待に働きかける量的・質的金融緩和
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/531.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 13 日 00:28:04: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 為替動向で金融政策は変更しない=黒田日銀総裁 社会主義が最も成功したのは、日本 米予算教書 FOMC議事録 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 10 日 23:29:04)


変貌する長期金利 
水野 創[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 4月4日、日本銀行は「異次元の金融緩和(量的・質的金融緩和)」を決定した。以降、円高修正、株高に弾みがつき、長期金利(10年新発債流通利回)は乱高下(特に5日は一日で0.315%から0.620%まで変化)している。

 今回の決定のうち、こうした長期金利の急変に最も影響を与えたのが、長期国債買い入れ対象の拡大である。これまでの平均残存期間3年の国債買い入れから、平均残存期間7年、40年超長期国債まで含む買い入れが始まる。これまでごくわずかしか買い入れられていなかった残存期間10年前後の国債の買い入れも格段に増加することが予想される。

 今後の運用を注視する必要があるが、これまでの、日銀は、「短期金利はコンロトール出来るが、長期金利はコントロール出来ない」との考え方から「長期金利もコントロールできる」との考え方に実質的に変化すると思う。逆に言えば、今後市場が落ち着いても、市場を通じた長期国債の評価がこれまでより分かりにくくなる。

 このことは、心配されている国債暴落、長期金利急騰を防ぐ効果を持つが、反面、状況によっては日銀が果てしない国債買い入れを迫られる可能性も強める。また、債務者である国の財政再建に向けた取り組みの真剣さを損なう可能性もある。

 6月を目途にまとめられる予定の骨太の方針ではそうした懸念を払拭する財政再建策を提示してほしい。また日銀は国債買い入れにあたり、そうした疑念が生じないような運用を祈りたい。

http://www.crinet.co.jp/message/archive/20130411.html



2013/04/11 08:21 2013/04/11 08:21
◎低金利が覆い隠すもの=日本総研・・・・河村氏〔円債投資ガイド〕(11日)

河村小百合・日本総合研究所主任研究員=4月4日、黒田新総裁の下での初めての金
融政策決定会合の結果、日銀が打ち出した「量的・質的金融緩和」の内容は、市場の予
想を上回るものであった。とりわけ、長期国債を当面、毎月7.5兆円程度(4月は
6.2兆円)買い入れる、とした点が目を引く。
「アベノミクス」を掲げる安倍晋三政権のもと、黒田新日銀が「量的・質的金融緩
和」によって目指すのは、長年にわたる「デフレ経済からの脱却」、「2%の物価目標
達成」である。ただ、その際、供給するベース・マネーを倍増させるのにあたり、日銀
が買い入れる資産の主力は案の定、国債、とりわけ長期国債ということになった。
日銀が今回発表した国債買い入れのペースは、今年度としてみれば、約89兆円の長
期国債を買い入れることを意味する。今年度当初予算案のもとでの国債発行計画をみる
と、一般会計の新規財源債は、年金特例国債を含めて45.5兆円、借換債は112.
2兆円発行されることになっている。このうち、日銀がいうところの「長期国債」、す
なわち年限2年以上の利付国債と物価連動債の発行、および流動性供給入札による市中
発行分は126.6兆円だ。要するに日銀は、国債の政府からの直接の引き受けこそし
ないものの、今年度の新規財源債の全額相当にとどまらず、その2倍相当の額の国債を
買い入れる、というのだ。その規模は、借換債をも含めた「長期国債」の市中発行額の
実に7割相当に達する。
しかも今回の決定で日銀は、「国債売買基本要領」も一部改正し、従来の「発行後1
年以内のもののうち発行年限別の直近発行2銘柄を除く」という制約を外した。わが国
の国債市場においては、直近の発行銘柄が指標銘柄として扱われ、市場金利の指標とな
る。日銀がこのような国債買い入れを行うのであれば、その間、政府としては、新規財
源債の調達に何ら不安はない、ということになろう。同時に、わが国の国債市場金利
は、日銀が極めて強く関与しつつ、形成されるものとなろう。わが国の財政運営を、国
内外の市場参加者がどのように評価しようとも、その結果を金利形成で表現することは
困難になるのではないか。
このような展開になると、持続可能性を問う声も多い財政状況を抱えたわが国当局の
政策運営について、欧州と比較した際の考え方や取り組み姿勢の差がいよいよ大きくな
ってきたように見受けられる。
欧州においてもリーマン・ショック前の段階で、さまざまな形での「金融的な不均
衡」が発生していた。低金利が持続している間は、問題は覆い隠されてしまい、実際に
表面化することはなかったが、リーマン・ショックによって、その歯車が一気に狂い始
めた。その後、ソブリン危機が立て続けに発生し、長期化する展開となっているが、当
局は、市場メカニズムによる圧力を最大限に利用しつつ、各国が「不均衡」の是正に取
り組み、経済・財政が持続可能な姿を取り戻せるように促す対応をとっている。

http://www.nxweb.jiji.com/gweb/View 2013/04/11

ソブリン危機に端を発する金融危機に際しても、民間金融機関の保有国債は時価評価
継続を貫き、その財務内容をオフ・バランス分も含めて徹底的に開示させたうえで、自
力増資ないし公的資金注入等で対応した。その過程では当然ながら、民間金融機関によ
る資産売却や貸し渋りの動きもみられた。
中央銀行であるECBの政策運営をみても、危機の初期段階において、問題国の国債
買い入れを一時期実施したものの、ごく小規模にとどめ、それをいったん打ち切った。
その後、ギリシャやキプロスがユーロ圏内に残留できるか否かの瀬戸際に立たされた際
にも、ECBは与信の条件を厳格化して大きく絞り込み、期限を切って、当該国をギリ
ギリまで追い詰める形で、身を切る形での財政再建を断行させている。2012年9月
に導入した短・中期国債の買い入れプログラムもまたしかりだ。問題国がこのプログラ
ムの適用を申請してECBに短・中期国債を無制限で買い入れてもらうには、先にユー
ロ圏が要求するレベルでの厳しい財政再建策を実行することが条件であり、今のところ
申請国は皆無だ。当該国が厳しい財政再建を実行するよりも先に、ECBが国債を買い
入れることはない。また、市場金利は民間参加者に形成させ、ECBは極力関与を控え
るのだ。
このような欧州当局の厳格な政策運営の結果、欧州各国には、実体経済に深刻な影響
が及んでいる国が少なくない。しかしながら、各国の財政運営指標をみると、すでにプ
ライマリー収支均衡ないし黒字化を達成した国も少なくなく、近年中に財政収支均衡が
視野に入っている国も存在する。このように各国の財政運営には、間違いなく改善傾向
が認められ、徐々にではあるが持続可能性が回復される状況となっている。不動産バブ
ル等を含めた不均衡も、いや応なしに是正される過程にある。
これに対し、わが国では、財政運営の実情は欧州各国よりも数段悪いにもかかわら
ず、危機感は国全体としていまだに乏しい。安倍政権としても、中長期的な財政再建策
が、6月に予定される「骨太の方針」にどこまで具体的に盛り込まれるのか、今夏の参
院選挙後にどの程度、本格的に取り組まれることになるのかも、いまだよく見通せない
状況にある。財政再建どころか、債務残高規模の増加傾向に歯止めをかける見通しすら
立ってないのがわが国の現実だ。
そうした状況下で、日銀は今年度、新規財源債の発行額の2倍相当、借換債も含めた
国債の市中発行額の7割相当の国債を買い入れることになった。「デフレ脱却」を目標
に、財政再建よりも先に、多額の国債を中央銀行が買い入れるのだ。欧州の経験からも
いえることではあるが、「低金利」はともすれば「不均衡」の問題を覆い隠しがちにな
る。今回の空前の規模での金融緩和がわが国の経済・財政にいかなる影響を及ぼすこと
になるのか、それはひとえに、安倍政権の今後の中長期的な財政再建への取り組みにか
かっているといっても過言ではなかろう。(了)
[/20130411NNN0048]
(c)Copyright Jiji Press Ltd. All rights reserved
NX-Web −時事通信社− 2/2 ページ
http://www.nxweb.jiji.com/gweb/View 2013/04/11
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/other/pdf/6716.pdf



http://www.murc.jp/thinktank/economy/easy_guide/haya_130411.pdf

2013 年4 月11 日
期待に働きかける量的・質的金融緩和
【目次】
Q1.新しい金融政策の目指すものは何ですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p.1
Q2.物価目標の達成は可能でしょうか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p.3
Q3.物価が上がると景気はよくなるのでしょうか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p.4
Q4.追加で金融緩和が行なわれる可能性はありますか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p.5
Q5.量的・質的金融緩和の副作用はないのでしょうか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ p.6

Q1.新しい金融政策の目指すものは何ですか?

・ 4 月 4 日、黒田新体制の下で行なわれた初めての金融政策決定会合で、量的・質的金融緩和の導入
が決定されました。安倍政権から要請されていた大胆な金融緩和に対応するものであり、消費者物
価の前年比上昇率2%という物価安定の目標(インフレターゲット)を、2年程度の期間を念頭に置
いて、できるだけ早期に実現することが最大の目的です。
・ 主な内容は、@マネタリーベースを操作目標とする、A長期国債買入れ額を拡大し、年限も長期化
する、BETF、J-REITの買入れ額を拡大する、C物価安定の目標の達成まで緩和を継続する、
の 4 点ですが、その中身をみていくと、黒田総裁自ら異次元の政策と呼ぶほど、従来の金融政策と
比べて思い切った緩和策がとられています(図表1)。

・ 金融政策の直接のターゲットは、これまでの無担保コール翌日物金利からマネタリーベースに変更
されました。マネタリーベースとは市中に出回っているお金である流通現金(日本銀行券発行高+
貨幣流通高)と日本銀行当座預金の合計で、ハイパワードマネー、ベースマネーと呼ばれることも
あります。日本銀行が供給する通貨であり、金融市場調節によりコントロールすることができると
されています。量的・質的金融緩和の下では、このマネタリーベースが年間約60〜70兆円に相当す
るペースで増加するよう金融市場調節を行う計画であり、具体的には2012年末の138兆円から2013
年末には 200 兆円に、2014 年末には 270 兆円に増加する見通しです(図表2)。なお、2001 年 3 月
に導入された量的緩和政策では、日本銀行当座預金の残高がターゲットとなっていました。
図表1.金融政策比較表ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
2/7

・ マネタリーベースの増加は、銀行が保有している金融資産の買入れを通じて行なわれます。中でも
買取りの対象の中心となるのが長期国債です。それまでの包括的な金融緩和政策の下では、毎月1.8
兆円を買入れていた「金融調節上の必要から行う国債買入れ」とは別枠で「資産買入等の基金」を
設定し、この基金における長期国債の残高が 2013 年末に 44 兆円(基金総額では 101 兆円)になる
ように買入れが進められていました。この時、両者の枠の合計買入れ額は毎月4 兆円程度でしたが、
今回の金融政策では、両者の枠を取り払ったうえで毎月7兆円強が買入れられることになります(図
表3)。また、「金融調節上の必要から行う国債買入れ」によって日本銀行が保有する長期国債の残
高については日本銀行券発行高を上限とするという、いわゆる日本銀行券ルールは一時的に停止さ
れることになりました。
・ こうした量的な拡大に加えて、@長期国債の買入れ対象を全ゾーンの国債に拡大し、買入れの平均
残存期間を、それまでの 3 年弱から国債発行残高の平均並みの 7 年程度に延長する、AETFおよ
びJ−REITの買入れ額を拡大する、という質的な面からも金融緩和の強化がはかられました。
図表3.毎月の国債購入金額の実績と予定


Q2.物価目標の達成は可能でしょうか?

・ 日本銀行は、今回の緩和が以下の3つの波及経路をたどって物価を押し上げると説明しています。
・ 1 つめは、長めの金利や資産価格のプレミアムへの働きかけによるものです。買入れる国債の年限
を長期化することで長い期間の金利を低下させ、設備投資や住宅購入の増加を促すとともに、株価
などの資産価格の上昇を通じて景気を押し上げ、それが物価上昇につながっていくとするものです。
・ 2 つめは、リスク資産運用や貸出を増やすポートフォリオ・リバランス効果です。大量に供給され
た資金の一部が、株式への投資や銀行の貸出増加などに振り変わることによって景気を刺激し、物
価の押し上げにつながることを狙ったものです。
・ 3 つめは、市場、経済主体の期待の抜本的転換によるものです。日本銀行がインフレターゲットを
設定し、ターゲットを達成するためにあらゆる手段を使って積極的に金融緩和を進めていけば、物
価が上昇するとの期待(期待インフレ率)が高まっていくというものです。
・ 最初の 2 点については、包括的な金融緩和政策においても一部が実践されていましたが、それをさ
らに強化・拡充していこうとするものです。一方、期待に働きかける政策は、今回の金融政策で初
めて導入された考え方であり、デフレ解消に大きな効果が発揮されるとの意見が以前から根強くあ
ったものです。また、期待感の醸成を阻害しないために、政策変更の説明において言及されること
が多かった構造問題の解決の必要性や緩和によるリスクなどの指摘が見送られたり、手法が複雑過
ぎて期待感拡大の妨げになることのないよう説明に工夫がなされるなどの対応策が練られています。
・ それでは、どういったロジックで実際に物価が上昇すると一般には考えられているのでしょうか。
まず、物価が上がると消費者が信じると、値上がりする前に物を買っておこうとして買い惜しみを
しなくなります。デフレ下では時間がたてばたつほど値段が下がりますので、購入を先送りする人
が増えますが、そうした状態を解消する狙いです。こうなると物が売れ始めるので、企業の売上高
が増加し業績が改善することになります。その結果、企業は従業員の賃金やボーナスを増やすこと
ができるようになり、人手不足になれば雇用も増やす可能性があります。こうして雇用・所得情勢
が好転すると、値上がり前に買っておこうという消費者の行動に弾みがつき、物価が上昇すること
になります。さらに、企業において物価が上がるとの予測が強まると実質期待金利が低下すること
になり、設備投資を喚起する要因となります。また、個人消費の拡大によって業績が改善すること
も、設備投資の拡大を促していきます。
・ こうして景気が上手く回り始めると、当初は期待に過ぎなかったはずなのに、需給の逼迫を受けて
物価が上昇し始め、これがさらに消費を増加させ、設備投資を拡大させるというサイクルに入るこ
とになります。
・ 実際に、このようにうまく回るのでしょうか。回るとすれば、そのための条件は何なのでしょうか。
まず、消費者の立場からは、インフレ期待が高まると同時に、賃金が継続的に上昇するとの期待が
高まっている状態になっていることが必要です。一方、企業の立場からは、価格を引き上げられる
ほど販売が好調で、同時に賃金の引き上げが可能なくらい十分に業績がよくなっていなければなり
ません。言い換えれば、景気回復が続き、販売価格(物価)と賃金や企業業績がバランスよく上が
っている局面です。

・ こうした状態が実現することは、しばらくは難しいのではないでしょうか。今年に入って、一部の
大手企業で賃上げの動きがありますが、経済全体への影響は小さく、毎年上昇すると約束されてい
るわけではありません。また、2%の物価上昇は現在の日本経済にとってハードルが高過ぎるといえ
ます。年度で消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の伸びが 2%を越えたのは、1997 年度の消費
税率引き上げの影響を除けば、1991年度にまで遡る必要があります。物価上昇率と失業率との関係
を示したフィリップス曲線によると、2%の物価上昇率を達成するためには失業率が2%台半ばまで
低下する必要があるとの関係がみてとれます(図表4)。

図表4.物価と失業率の関係(フィリップス曲線)


Q3.物価が上がると景気はよくなるのでしょうか?

・ 昨年11月半ば以降の円安・株高の影響もあって、景気の回復期待が高まっています。実際、公共投
資が順調に増加しているほか、自動車の増産などを背景に生産が持ち直しているなど、景気に持ち
直しの動きがみられていることは確かです。しかし、安倍政権の経済政策、いわゆるアベノミクス
の効果が本格的に出てくるのは今年度からとなりますので、足元は期待が先行している状況といえ
ます。それでは、そもそも 2%の物価目標が達成されれば、景気はよくなると期待してもいいので
しょうか。
・ まず、消費者の場合はどうでしょうか。インフレ期待が高まったと仮定すると、消費者は必要なも
のは買い控えしなくなるので、耐久財などの一部の製品では販売ペースが増すでしょう。いずれ賃
金も上がると信じるなら、企業が販売価格を多少引き上げても売れる可能性があります。しかし、
賃金が上がらないと思うなら、必要なものを買ってしまうと、今度は将来の物価上昇に備えて貯蓄
を始める可能性があります。期待インフレ率の上昇と同時に、期待実質可処分所得も減少するため
です。こうして消費者が生活防衛に走ると消費活動が鈍り、いったん高まったインフレ期待がしぼ

5/7
んでしまうことになります。こうなると販売不振を背景に再び価格に下落圧力がかかり、企業業績
は悪化するでしょう。
・ 次に、企業についてはどうでしょうか。仕入れ価格が上がる(期待インフレ率の上昇)と考えると、
企業は将来のコスト増加に備えて予めコスト削減を進める可能性があります。コスト増加に先んじ
て販売価格に転嫁することはないでしょうし、先行して賃金を引き上げたり、設備投資を行なうこ
とも考えられません。賃金を上げないとすれば、それは消費者の行動にマイナスの影響を及ぼすこ
とになります。
・ 一方、大胆な金融緩和の実行を織り込む形で円安が進み始めましたが、量的・質的金融緩和の導入
を受けてそれに拍車がかかり、円安によって景気が押し上げられるとの期待感も高まっています(た
だし、為替操作は金融政策の目的ではなく、金融緩和の結果として円安が進んでいるだけであると
日本銀行は説明しています)。実際、円安が進めば、外貨建てで輸出を行なっている企業の業績を改
善させる効果は見込まれます。しかし、企業が儲かっただけでは景気に影響はありません。業績が
改善した企業が、国内において設備投資や雇用を増やしたり、賃金を引き上げるといった利益の還
元を行なわないと、景気にはプラスに寄与しないのです。逆に、円安によってコストが上昇するこ
とが、企業業績や家計の負担増加となってしまい、景気を悪化させる要因となる懸念もあります。
・ このように、インフレ期待や円安の進行だけで景気がよくなるというわけではありません。なお、
現実的な問題として、2014 年度に消費税率が 8%に引き上げられれば、消費者物価指数が 2%ほど
押し上げられることが見込まれています。もし、日本銀行の物価目標が達成されれば2014年度中に
消費者物価指数は4%を超えることになります。2014 年度にこれを上回って賃金が上昇しなければ、
消費税引き上げ前の駆け込みの反動減も加わって需要が大きく落ち込み、物価は上がるが景気は悪
化するという状態が実現してしまうリスクが高まります。


Q4.追加で金融緩和が行なわれる可能性はありますか?

・ 白川総裁のときの包括的な金融緩和が資産買入等の基金の金額を徐々に拡大させていった手法
であったのに対し、量的・質的金融緩和では、資産買取り残高の最終目標額、毎月の資産買入れ
額を最初から提示するという手法をとっています。これは、期待に働きかける効果を最大限高め
るためにとられた措置です。このため、今とれる政策は全て出し尽くしたと黒田総裁が発言して
いるとおり、短期間での追加の可能性は小さいと思われます。
・ それでも、2 年以内に物価目標に達することが難しいとの見方が強まるようであれば、追加で緩
和していく状況に追い込まれるかもしれません。その場合には、ターゲットとなっているマネタ
リーベースの目標額の引き上げが行なわれると思われます。さらに、買入れる金融資産のうち、
ETF、J-REIT、社債といったリスクの高い資産の比率を高めていくことも考えられます。
・ また、インターバンク市場金利の低下を抑制するために、現在でも日本銀行当座預金の超過準備
には利息(現行 0.1%)がつけられていますが、日本銀行当座預金から貸出などに資金が流出す
ることや一段の金利の低下を狙って、付利を撤廃すべきとの意見があります。その一方で、付利

6/7
を撤廃すると、銀行が長期国債売却後に資金を日本銀行当座預金に滞留させるインセンティブが
なくなるため、長期国債の売却に応じなくなることや、マネタリーベースの目標を達成すること
が難しくなることも想定され、撤廃することは簡単ではないと考えられます。


Q5.量的・質的金融緩和の副作用はないのでしょうか?

・ これまでに実施されたことのない政策であり、多くの不確定要素があるのは確かです。その中で最
も懸念される副作用が、大量の長期国債の買入れが財政ファイナンス、すなわち国債の直接引受と
とられることです。日本銀行は、長期国債の買入れは銀行(公開市場操作)を通じて間接的に行な
うため財政ファイナンスではないと説明しています。政府が財政赤字削減に前向きな姿勢を示して
おり、消費税率引き上げも予定されていることから、現時点では長期国債の買入れ額の大きさにも
かかわらず、金融市場では財政ファイナンスであるとの見方は出ていません。しかし、今後、財政
赤字の削減の取り組みに向けた政府の姿勢が後退するようなことがあれば、量的・質的金融緩和の
導入によって財政のたがが緩んでいると評価され、事実上の財政ファイナンスとみなされるリスク
は否定できません。また、追加の金融緩和が行なわれ、それが行き過ぎであると評価された場合に
も、同様のリスクがあります。
・ また、資産バブルを引き起こすリスクもありそうです。実際、市場規模がそれほど大きくないJ−R
EITでは、日本銀行の買入れを見越して価格が急騰しています。日本銀行の量的緩和の目的のひ
とつであるポートフォリオ・リバランス効果は、大量に供給された資金が、貸出などの手段によっ
て銀行を通じて流れ出し、株式市場や不動産市場といったリスクが高い市場に流入することを狙っ
ています。こうした動きが行き過ぎてしまうと、一部の資産価格の上昇が一般物価の上昇と比べて
高くなり過ぎる可能性はあります。
・ さらに、銀行から長期国債を買入れる入札(公開市場操作)が円滑に進むかどうかという問題もあ
ります。量的緩和の導入時や資産買入等の基金による買入れ時においても、札割れ、すなわち金融
調節のためのオペレーションをオファーした際に、金融機関から申し込まれた金額が入札予定額に
達しない状態が発生し、ターゲットの達成に苦心した経緯があります。日本銀行もこうした事態が
発生することを憂慮しており、国債買入れを円滑に行うために、取引先金融機関の積極的な応札が
必要であり、金融市場調節や市場取引全般に関し、これまで以上に密接な意見交換を行う場を設け
るとしています。
・ そのほか、金融市場にショックが発生した際に機動性に欠けるというリスクや、量的・質的金融緩
和を打ち切る際の出口戦略が難しくなっているというリスクも挙げられます。
お問合せ先 調査部 小林 真一郎


包括的な金融緩和 量的・質的金融緩和


導入時期 2010年10月5日 2013年4月4日

概要
リスク・プレミアムの縮小を促すことを目標に資産買入等の基金を設立し、金融緩和の強化に合わせて買取り額を増額(買取は一定期間内に達成させる)

物価安定の目標(2%)の早期実現(2年程度の期間を念頭)のために、マネタリーベース・長期国債・ETF等の保有目標額を予め示し、購入を進める

ターゲット 無担保コール翌日物金利(実質ゼロ金利政策)
マネタリーベース(2年で2倍)
国債買入れ手段
金融調節上の必要から行なう国債買入れ(輪番
オペ、毎月1.8兆円)と資産買入等の基金による
買入れ(2013年末に残高44兆円まで増加させる
予定)が並存
金融調節上の必要から行う国債買入れは、既存
の残高を含め、長期国債の買入れに吸収
国債買入れ残高 2012年中に約23兆円増加
(2012年末残は89兆円)
2013年、2014年に50兆円ずつ増加
(2014年末残は190兆円)
毎月の買入れ額 4兆円程度 7兆円強
国債残存期間 3年弱
40年債を含む全ゾーンの国債としたうえで、買入
れの平均残存期間を国債発行残高の平均並み
の7年程度に延長
日銀券ルール 金融調節上の必要から行なう国債買入れを対
象とし、資産買入等の基金は対象外 一時的に停止
ETF残高 2012年末1.5兆円を
2013年末に2.1兆円まで拡大
2013年末に2.5兆円、
2014年末に3.5兆円まで拡大
J-REIT残高 2012年末1100億円を
2013年末に1200億円まで拡大
2013年末に1400億円、
2014年末に1700億円まで拡大
期限 物価の安定が展望できる情勢になったと判断す
るまで継続
物価安定の目標を安定的に持続するために必
要な時点まで継続
(出所)日本銀行ホームページなどから作成


http://www.shinsei-sec.co.jp/pdf/SSnote117-130411.pdf


利子率革命の最盛期を生き延びる資金運用

民間証券化商品と住宅金融支援機構SB 15 年債に着目する理由

先週来の日本国債(ひいては、円建て債券)のボラティリティは凄まじい。先週金曜日(4月5日)に
は、10年国債の流通利回りが0.3%台から0.6%台の間を激しく動き、0.5%台に落ち着いた。それより
も注目されることは、ここ数日で短中期ゾーンの国債利回りが急上昇し、0.1%前後に収斂しつつある
ように見えることだ。こうした国債市場の混乱は、日銀の「量的・質的金融緩和」の影響を見定め切れ
なかった市場参加者の狼狽をそのまま反映したものだと考えることができる。

注: 上掲のグラフに表示した期間、日銀の当座預金超過準備に対する付利利率は0.1%で不変。 出所: 新生証券

短中期ゾーンの金利が急上昇

今年1月頃から 0.1%を下回るようになった短中期ゾーン(短期から3〜4年程度の年限まで)の金
利が急上昇し、0.1%前後の水準に収斂しようとしている動向は、日銀による超過準備への 0.1%の付
利(リーマンショック直後の2008年11月に開始)が当面は現状の水準で継続されるだろうとの市場関
係者の観測を反映していると思われる。

日銀当座預金の超過準備に対する付利は、開始されてほぼ4年半が経過する(その間、付利の利
率は 0.1%で不変であった)。昨年 12月 19日・20 日に開催された日銀の金融政策決定会合(議事要
旨は、今年1月25日公表)では、審議委員のひとりが付利撤廃を提案したことがある。もっとも、この動
議は、反対多数で否決された。付利を撤廃するべき(または利率を引き下げるべき)との議論が完全に
消滅した訳ではないものの、4月4日に発表された「量的・質的金融緩和」を実施するためには、今後
少なくとも約2年間にわたり、金融機関が積極的に日銀に国債を売却し、マネタリーベースの拡大に資
するために、資金を日銀当座預金に積み上げねばならない。日銀が4月4日に金融政策決定会合の
結果として発表した文書の末尾には、2012年末の当座預金残高47兆円に対して、2014年末の見通
しとして 175 兆円と記載されているのである。当座預金残高を増加させるには、付利利率をむしろ引き
上げる方が有効であることは論を待たない。こうしたことを踏まえれば、今後当面の間、日銀は、当座
預金の超過準備に対する不利を撤廃または引き下げることは困難になったと考えられる。

日銀の新政策に基づくオペが既に開始されており、ここ数日の国債市場に見られたボラティリティは
収束して行くことになろう。そして、収束した状態―短中期 0.1%前後、長期 0.5%前後―が今後しばら
くの間、常態化することが予想される。

利子率革命―そして、金融政策による人為的な金利水準抑制

本稿のタイトルに用いた「利子率革命」とは、水野和夫氏によるものである。筆者は、2010 年 12 月
の証券経済学会関東地区部会にて、水野氏と前後して報告1を行い、水野氏の「利子率革命」につい
てご本人から伺ったことがある。利子率革命とは、先進国において2%以下の長期金利が(一時的な
現象ではなく)長期間にわたり持続する現象を指しており、当時(2010 年)の水野氏によれば、紀元前
3000 年頃から現代までの約 5000 年の間、3回しか起きなかったとのことだ。古代ローマ、16 世紀末
〜17世紀初頭のイタリア・ジェノバ、そして、1997年以降の日本である。その後、2011年後半からは、
アメリカ、ドイツ、イギリスといった国々の長期金利(10 年国債利回り)が2%を割ってきており、利子率
革命を引き起こしてしまった主要先進国が日本以外にも出現している可能性もあろう。
先月までの利子率革命は、過剰な資本蓄積とデフレを背景とするものだとして、今月からは、金融政
策によって人為的に金利水準が抑えられる要因が加わった。わずか2年前―東日本大震災の前後―
には、公的債務問題を指摘し、金利高騰(国債暴落)の可能性を指摘する論者もいたが、そうした論考

1
報告要旨はその翌年の証券経済学会年報に掲載された。 水野和夫「グローバリゼーションとデフ
レ」・江川由紀雄「格付会社規制と格付け利用見直しの動向」『証券経済学会年報』第46号(2011年7
月) 証券経済学会 pp. 311?315

も目にしなくなった。長期金利が持続的に2%割れとなる利子率革命は 1997 年から続いているが、長
期金利が 0.5%前後という利子率革命の「最盛期」2がしばらく続くことになろう。

発想の転換が必要に―利子率(金利)は、お金に付けられた価格である

「時は金なり」(Time is money)という英語の諺がある。利子率(金利)とは、お金に付けられた価格
であるが、利子率(金利)が低いということは、金融市場において、時間の流れが遅くなったと考えるこ
ともできなくはない。金利の低下は、資本の拠出者の観点からは、資本の利潤獲得力が低下したこと
を意味するとも考えられるが、同じ額の利潤を得るために要する時間が長くなったと解釈することも可
能である。金融市場という仮想の世界で、時間の流れが遅くなったのであれば、従来よりも、より長い
ホライズンで資金運用を考えるという発想もある。日銀の「量的・質的金融緩和」が少なくともあと2年
継続するとすれば、従来比、プラス2、3年の運用は、自然な発想としてあり得る。つまり、従来の5年
債に代えて7年債、7年債に代えて 10年債をという発想である。

円建て債券の発行年限は、伝統的に、3年、5年、7年、10 年、20 年といった年限であり、8年や 15
年といった年限での債券発行は極めて限られている。こうした年限での債券運用は、流通市場で既発
債を拾うことが中心となろうが、住宅金融支援機構は、定期的に年限 15 年の SB を発行している点に
着目したい。
国内の債券市場・クレジット市場では、従前から、そして現在もなお、地方債や財投機関債、高格付
け(概ねダブル A 格以上)の民間企業の事業債などが国債流通利回りをベースに価格設定と価格評
価が行われ、中低格付け社債と民間証券化商品は、スワップレートをベースに「スプレッド」が語られる
慣行が定着している。証券化商品のプライスを市場関係者が口にする際に、国債流通利回りとの比較
で論じられるのは、住宅金融支援機構 MBS と財政融資貸付金の証券化商品などに限られている。民
間主体による証券化商品は、社債と違って、どんなに格付けが高くても、スワップレートをベースに、発
行市場でも流通市場でも、「スプレッド」が語られ、価格設定されている。
スワップレートと国債流通利回りの関係を改めて確認したい。近時は、5年程度の年限だと、スワッ
プレートが国債利回りを約 20 bp も上回っている。ということは、「スワップレート+0.20%」で価格設定
される年限5年の証券化商品の利回りは、視点を変えて、国債利回りをベースに見れば、スプレッドは
40 bp 前後もあることになる。国債や地方債では利回りが出ないと嘆くばかりではなく、短め(といって
も、5年前後以下)の年限の運用では、スワップレートをベースに価格が決まる民間証券化商品に着目
できそうである。

2
水野和夫氏の「利子率革命」との表現を、筆者の勝手な解釈の元に本稿で使用したことにつき、水野
氏に対してこの場を借りてお詫び申し上げる。


リスク管理と運用方針の調整について

一般的に、金融界では、金利リスクについては、過去一定期間の市場価格を元に、一定の確率分布
を想定する(分散共分散法)か、過去のデータセットを直接参照する(ヒストリカル法)ことで、VaR を算
出する。利用目的によって、過去データを参照する期間、VaR の保有期間・信頼区間を数通り計算す
ることになろう。また、規制目的や、対外的なディスクロージャーに、過去一定期間の1パーセンタイル・
99 パーセンタイル値を算出したり、イールドカーブの上方平行移動に伴う損失額を算出する。このよう
な様々な手法で計量化された数値を、日常的に「金利リスク」と呼んでいる訳だが、イールドカーブ平行
移動(つまり、一律金利上昇)に伴う損失額以外は、最近の過去データに照らしてリスク量を計量化し
ようとした結果に過ぎない。言いかえれば、VaR には、過去に関する情報が反映されているものの、未
来についての情報は織り込まれていない。また、イールドカーブ2%の上方移動に伴う損失額は、イー
ルドカーブの2%上方移動の蓋然性を何も語っていない。こうしたことも踏まえて、利子率革命最盛期
におけるリスク管理と資金運用の方針の調整を図って行く必要があろう。

(調査部長 江川 由紀雄)



http://www.goldmansachs.com/japan/gsitm/funds/pdf/flash_mkt_20130411.pdf

日銀の異次元緩和を円債市場はどう捉えるか


? 日銀の金融緩和強化により、長期金利は一時的に史上最低金利を更新。国債先物価格は乱高下。
? 弊社の金利見通し: 短期的には金利低下(価格上昇)の可能性もあるが、中長期では金利上昇を予想。
? 日本における期待インフレ率は、欧米に迫る水準まで上昇。
? 金融危機前と比較すると、日本国債のソブリン・リスクに対する懸念は高止まり。

? 2012年末以降、安倍政権による経済政策「3本の矢*1」の一つである、大胆な金融緩和に反応する形で、金利低下が進行してきました。
? 2013年4月4日、日銀の異次元緩和を受けて金利低下の動きはさらに加速し、翌日の取引時間中に長期金利は過去最低水準である0.315%を更新しました。その後、足元4月10日時点では0.58%まで上昇しています。
? 弊社の金利見通しとしては、短期的には変動性の高まりから金利低下(価格上昇)の可能性も含むものの、中長期では安倍政権の経済政策効果もあり金利上昇へ転じるとみています。
出所:ブルームバーグ


? 2007年以降、日本国債の先物価格は上昇傾向にありましたが、日銀の金融緩和発表後、国債先物価格は短期間で大きく乱高下しました。
? 金融緩和が発表された後、先物価格は一時史上最高値を更新しましたが、市場では「日銀による大規模な国債購入」のタイミング等を模索する動きから売りが優勢となる局面もあるなど、日中取引の値幅が3円を超す振れ幅の大きい相場となりました。
? なお、東京証券取引所は連日でサーキットブレーカー*3を発動しており、このことからも市場の変動性の高まりが伺えます。

*2 日本国債先物中心限月の6月限

*1 「3本の矢」とは、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」を基本方針とした安倍政権の経済政策。特に金融緩和については、日銀に2%のインフレターゲット導入を求めるなど、デフレ脱却に積極的な姿勢を示している。

*3 サーキットブレーカーとは、先物価格の急変動時に取られる取引の一時中断措置のこと。投資者の不安心理を鎮め冷静な投資判断を促すことを目的として、証券取引所が一定のルールに基づいて発動。

長期債中心に金利低下傾向
金融緩和発表を受けて短期間で乱高下


2%のインフレターゲットに反応する期待インフレ率

? 金融危機以降から2012年1月まで、日本の期待インフレ率*4はマイナス(市場はデフレを予想)で推移してきましたが、2012年2月にプラス圏へと転じました。
? 2013年1月に日銀がインフレターゲットを2%に設定して以来、期待インフレ率は1.0%を超えて推移し、2013年4月10日時点では1.47%をつけています(市場はインフレを予想)。
? 足元、日本の期待インフレ率はドイツと同程度の水準まで上昇しており、米国の2.2%にも近づきつつあります。
? 2008年の金融危機以降、日本の金利は低下傾向を示していた一方で、CDSプレミアム*5は上昇傾向にありました。
? この乖離の背景は投資家層の違いにあります。日本国債は国内投資家を中心に強い需要に支えられているのに対し、CDS市場は海外投資家も多く、CDS市場参加者の間では日本国債のソブリン・リスクに対する悪化懸念があると考えられます。
? 2011年末にピークを付けたCDSプレミアム水準はその後徐々に落ち着き、足元では70bps程となっています。

しかしながら、金融危機前と比較するとCDSプレミアムは依然として高い水準にあります。
*5 CDSプレミアムとは、デフォルト・リスクを示す指標の一つ。

なお、CDSとはクレジット・デフォルト・スワップの略称で、国・企業等の債務不履行に伴うリスクを対象とした金融派生商品。対象となる国

・企業が破綻し金融債権などの支払いが出来なくなった場合、CDSの買い手は金利や元本に相当する支払いを受け取ることが可能。

市場はインフレを織り込み上昇傾向
金融危機以降上昇

*4 期待インフレ率については、5年物国債利回りと5年物物価連動債利回りの差(ブレークイーブン・インフレ率)を参照。

なお、物価連動債とは、物価上昇率に応じて元本が調整され、インフレ時においても実質的な価値が低下しない債券のこと。
 

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コメント
 
01. 2013年4月13日 02:04:21 : xEBOc6ttRg

「日銀理論」は健在である 「異次元緩和」を考えるヒント

2013 年 04 月 12 日
広告審査番号 MG5900-130412-17

理事長 吉國 眞一

「器の中の水が揺れないやうに、 器を持ち運ぶことは大切なのだ。 さうでさへあるならば モーション
は大きい 程いい。」(中原中也)


「2年の物語(a tale of two years)」は、レジーム・チェンジというより進化

4 月 4 日、黒田新総裁が就任した日本銀行新体制の下で最初の金融政策決定会合は、「2」年で「2」%(イ
ンフレ率)、「2」年で「2」倍(マネタリーベースと長期国債の買い入れ額、平均残存期間)という「2」を
強調した「量的・質的金融緩和」政策を決定、その「次元を越えた」大胆な内容は内外の金融市場の事前
の予想を大きく上回り、円安、株高、債券高が一段と進展した。アベノミクスの目玉である、「第 1 の矢」
は、標的に向かって順調に飛んでいるようにみえる。
これを「白」から「黒」へのレジーム・チェンジと表現する向きが多いが、筆者はやや異なった見方を
している。今回の政策はすでに日銀によって取られてきたさまざまな「非伝統的」金融政策を強化ないし
修正したものであり、全く新しい政策手段が編み出されたわけではない。金融政策の操作目標が、オーバ
ーナイト金利からマネタリーベースに変わったのは、実質的にはかつて日銀が行っていた「当座預金目標」
への回帰である(マネタリーベースは、日銀当座預金と銀行券<コインを含む>の合計であり、日銀が能
動的に操作できるのは前者のみだ)。当座預金からマネタリーベースに変えたことで新しさを強調してい
るのは、かつて、「ゼロ金利」への復帰でなく、「量的緩和」を導入したことを想起させる日銀流の巧みな
演出であり、「包括的緩和」から「量的質的緩和」への呼び変えも同様だろう。以前にも指摘したように、
今回の措置は、チェンジ(変化)というより、エボリューション(進化)と呼ぶ方が相応しいのではない
か。 .


「白から黒へ」でなく、「バラ色」志向の新政策

実際このマネタリーベース目標への切り替えや、長期国債の「輪番オペ」と「資産買入基金」の統合な
どは、BOJウオッチャーの想定範囲であり、そうした意味でのサプライズは全くなかったと言って良い。
では、何が「異次元」緩和とされたのか。それは、黒田総裁自身が記者会見で強調されたように、想定さ
れた施策が最初の会合ですべて盛り込まれ、かつその規模が予想を大幅に上回っていたからだ。
その意味では、白(日銀理論)から、黒(リフレ論)への全面的な転換という見方も正確ではない。筆
者がオーソドックスなリフレ論として想定するのは、マネタリーベース→マネー・サプライ→(予想)イ
ンフレ率という安定的な因果関係の存在を前提として、マネタリーベースを操作することで望ましいイン
フレが実現できるという考え方である。そしてリフレ論者からは、実証分析を踏まえた、2%を実現する

ための具体的な数字が喧伝されていた。たとえばリフレ派の岩田副総裁自身が、就任直前に行った講演(資
本市場研究会主催)のなかで、「日銀当座預金 10%の増加が、予想インフレ率を 0.44%押し上げる」とい
う試算を明らかにしている。この試算を前提にすると、2%インフレを実現するために必要な日銀当座預
金の増加率は 45%程度ということになる。マネタリーベース、長期国債買い入れ額等についても大同小異
の数字が市場関係者の間で独り歩きしていたのであり、その範囲内であれば、「材料出尽くし感」で市場
は一旦調整していただろう。
ところが、今回合意された当座預金の増加率は、何と 272%(47 兆円→175 兆円)、当初 1 年間でも 127%
というまさに「異次元の」伸びである。これは、正統なリフレ論からすればむしろ許容し難い高過ぎる数
字ではないのか。実際、代表的なリフレ論者である、中原伸之元日銀審議委員は、今回の決定に対して行
き過ぎた緩和ではないかと懸念を示されたとの報道もある。
日銀新体制は、「白」も「黒」も超越した、いわば「バラ色」の世界を目指しているのだろうか。


「日銀理論」と整合的な「異次元緩和」

皮肉なことに、リフレ論からすれば行き過ぎた緩和とも思われる今回の決定は、「日銀理論」によって
無理なく説明できる。「日銀理論」では、金融政策の基本的な波及経路はあくまで金利を通じるものであ
る。今回決定の主眼を長期金利の一段低下と考え、国債市場の厚みを勘案すれば、長期国債買い入れの大
幅な増加は当然の帰結である。結果として生じるマネタリーベースの急増が高過ぎるインフレに結びつく
おそれは高くない。日銀理論では、マネタリーベースが急増しても、金融機関のバランス・シートにおけ
る同等の資産(準備預金とゼロ金利の国債)の交換という、「ブタ積み」であって、マネタリーベースと
インフレ率の間に安定的な関係は想定していないからだ。
ただ、それは、あくまでゼロ金利が前提の話である。仮に緩和政策が奏功してインフレ率が有意なプラ
スになった時、所要準備の十数倍に達しているであろう巨額の準備預金を抱えて、出口政策を如何に実行
するかは未知数だ。量的緩和からの出口に際しては、保有国債の満期構成を巧みに調整して、スムーズな
準備預金の減少を図った日銀執行部のオペレーションが功を奏した。長期国債の保有が急増すれば、そう
した「職人芸」に頼ることは難しくなるだろう。
この間興味深いのは、先日公表された旧体制下での最後の政策決定会合で、ある委員が以下のような発
言を行っていることだ。
・・・・一人の委員は、1%の「当面の物価安定の目途」から2%の「物価安定の目標」に変更した分、
テイラー・ルールからみた政策金利水準は相対的に金融の緩和度合いが後退していると指摘した。・・・
(政策決定会合議事要旨:3月6、7日分)
ここから、長期金利の一段低下が必要というロジックが導き出され、今回の決定につながることになる。
すなわち今回交替しなかった審議委員が「白から黒に」宗旨替えしたという見方も不正確だ。もちろん、
リフレ派を副総裁に抱く現在の執行部は、リフレ論の枠組みでのロジックを用意しているだろうが、筆者

には、「2」%と「272」%の関係を説得的に説明するのは相当難しいのではないかと思えてならない。


「前衛アート」の金融政策が抱えるリスク

あえて、「レジーム・チェンジ」を探すなら、新体制の特徴は以前に筆者が指摘した、「サイエンスから
アート」へという流れに沿ったものだと解釈できる。市場の予想を裏切る大胆な措置で、経済主体の不確
かで計量しがたい「期待」に働きかけるという手法は、アートそのものだ。日銀理論でも、マネーの増加
などが持つアナウンスメント効果の存在とその重要性を否定していなかった。ただ、これまでの日銀は、
積極的に期待を変えるというより、期待を安定化させるような政策運営を心がけていたと言えよう。
その意味では、日銀の旧体制をアートはアートでも「古典派」とすれば、新体制は前例のない実験に踏
み出した「前衛アート」に例えられるかもしれない。ただ、前例のない実験には、多くのリスクが伴って
いる。とりわけイールドカーブを力ずくで押し下げるような政策を、中長期的な財政再建の展望がないま
まに継続すれば、いずれ長期金利の急上昇を通じて財政破綻の引き金を引くことは明らかである。また、
国債のみならずさまざまな資産を大量に購入することが、市場の流動性不足、価格発見機能の低下を通じ
て相場のボラティリティを上昇させ、思わぬ結果を招く可能性にも留意すべきだ。実際、長期債市場では
すでにボラティリティの高まりがみられている。
2%を 2 年、かつそれを「国民経済の健全な発展」という日銀法の理念と整合的な形で達成することは、
決して容易ではない。「白でも黒でもないバラ色」を目指した政策が、「灰色」の結果に終わることを避け
るためには、前衛アートの実験を精緻なサイエンス(日銀が市場との対話を通じて培ってきたノウハウ)
で支えていくことが必要だ。そして、いうまでもなく、「第 3 の矢」が言葉だけでなく、具体的な政策と
して、かつ「痛みを伴う改革」として示され、国民の理解を得なければならない。
人類史上屈指の前衛アーティスト、パブロ・ピカソのキュービズムが、一見対照的にみえる具象画家セ
ザンヌの科学的絵画論に立脚したものであることは、美術史家の常識だ。そしてピカソがキュービズムの
後、「新古典派」に変わるなどレジーム・チェンジを繰り返したことは良く知られている(その中には、「バ
ラ色の時代」も含まれていた!)。日銀の金融政策も、サイエンスとアートの両立を図りながら、場合に
よっては「君子豹変」を厭わない勇気が求められる。本当に大事なのは、「2 年間、2%」でなく、「国民経
済の健全な発展」である。
http://www.mizuho-msrc.com/dynmc/gcnt.php/DL0000007332/01/01/20130412.13-04.pdf



 

安倍首相と黒田総裁、ワオ!

昨年の秋に東京を訪れる直前、私は「安倍氏に期待(We want Abe!)」と題したViewpointsで、安倍氏の選挙で
の勝利が日本、その金融市場、そしてそれ以外のところにも影響の及ぶ大きな出来事となりそうな理由について
概説しました。来週また1日だけ東京に行くことになりましたが、皆さまがお考えの通り、過去5ヶ月の変化は、
まことに目覚ましいものでした。日本で街の雰囲気に接するのが楽しみです。
日銀の黒田新総裁とそのチームが行った先週の発表は、かなり劇的なものでした。日本の政策立案者が市場をこ
れほど驚かせたことは、長い年月を思い起こしても、そしておそらく私の32年間のキャリアを通しても初めての
ことだと思います。まずこの話題に進むべきでしょうが、その前に、たくさんある興味深いトピックスを取り上
げてみましょう。
アフリカ訪問
皆さまに、このViewpointsが届く頃には、私は、3日間のアフリカの旅に出ています。これについては、これか
ら訪れるエキサイティングな2都市から戻り次第、来週のViewpointsでご紹介します。
米国は再び減速か?
好調な住宅市場、低いエネルギーコスト、そして国内製造業の国際競争力の向上によって、米国経済が上向きに
なっているかに見えた矢先、今週は、主要データのすべてが、市場が考え始めたほどには楽観視できない状況で
あることを示す内容となりました。米サプライマネジメント協会(ISM)による調査では、製造業景況感指数も
非製造業指数も3月は予想を下回る数字となり、週次の新規失業保険申請件数は大幅な上昇を見せ、3月の非農業
部門就業者数も、大きく予想を下回りました。市場もこれを受けて下落し、国債市場は、第1四半期の高値水準
を維持することとなりました。突然のように、債券から株式へのシフトの話題は消え去り、10年国債利回り水準
での借入れを考える人たちさえ出てきているようです。4月も同じようなデータが出てくるようであれば、こう
した状況が現実のものになり、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長やイエレン副議長、そのチームが、
黒田総裁の真似をして、FRB以上にFRBのような動きをすることを考え始めるかもしれません。もちろん、3月
の減速が結果的に一時的なものに終わる可能性はありますが、そうならない可能性もあります。どなたか「4月
に売って旅に出る」を実行する意欲はありませんか?2
異常な欧州
先週は、米国、英国、日本、そして北朝鮮で多くの出来ごとがあり、欧州の話題は、やや忘れられた感がありま
したが、週末のポルトガルのニュースで、その様子も一変しました。憲法裁判所が、トロイカ(欧州委員会、欧
州中央銀行、国際通貨基金の3者チーム)とポルトガル政府が合意した財政緊縮策の一部が違憲であると判断し
たため、欧州全体に静かに広がりつつある財政緊縮策への抵抗運動が、新たな局面を迎えそうです。ポルトガル
の連立政権が連立を維持できるかは、大いに興味深いところですが、一方で、ブリュッセルでの次の長時間会合
が予定されているようです。
こうした状況下、イタリアでは、フィレンツェ市長のマッテオ・レンツィ氏が、民主党党首の更迭を求める動き
に参加し、このニュー・スターの人気は五つ星運動を凌ぐ可能性ありと多くの人々が考えているようです。イタ
リアでは、退屈している暇はありません。この国のことを紹介していると、(先週のViewpointsで紹介した)「プ
ロの泣き屋」は、千年も前から南イタリアに存在することを、指摘されました。ガラヴォグリア氏と、ゴールド
マン・サックスの同僚であるアルベルト・シリリョ、ガリア・ロヤが教えてくれたのです。
先週水曜日は、マドリードで1日過ごしました。無情にも、当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・
マネジメントを指します)の同僚たちは、ガラタサライがチャンピオンズリーグの準々決勝でマドリードへ来て
レアル・マドリードと対戦する日に、私の予定を組んでいました。会議の場では、聴衆の人々に、「あなた方は、
マンチェスターにいるべきでした」ともちろん申し上げましたが、知りたかったのは、何人くらいの人々が、マ
ンチェスター・ユナイテッド対レアル・マドリード戦で、レフリーが賄賂を受取っていたと思ったかでした。そ
れから、数週間前にミラノでも行った質問をしました。スペインの聴衆の皆さんに、スペインが2020年までにユー
ロ圏を脱退しているか、そして、ユーロはまだ存続していると思うかという質問をしたのです。それぞれの質問
に手を上げたのは、わずかひとりでしたが、これは、ユーロに対するマドリードの人々の支持がまだ強いことを
示唆するものでした。当社のスペイン向け投信営業部門の統括者ルシア・カタランが後で教えてくれたところで
は、今回お会いしたお客さまは、みなさん、外交辞令が上手だったようです。ただ、「スペシャル・ワン」(ジョ
ゼ・モウリーニョ)が、今シーズン後に引退するかをたずねた際には、多くの手が挙がりました。最後には、何
の質問もありませんでしたが、これは極めて珍しいことのようでした。おそらく、初めてではなかったのではと
思います。数名の地元金融業界首脳との昼食会では、多くのマドリードの人々が、政策に関しては「ドイツ人的」
であり、現在スペインが行っていることは、合理的であり、信頼のおけるものであると考えているとうかがいま
した。こうした話は、サッカーチームのアトレティコ・マドリードについての話や、スペインは投資先としてブ
ラジルやメキシコよりも魅力的か等という話の間に出てきたものです。バリュエーションと、予測を上回る成長
という面では、確かにそうかもしれないと思った次第です。
いずれにしても、次の「欧州の狂気」がどこかに現れるのでしょう。そして、私は、ユーロの将来と欧州連合に
ついて、変わらず心配しています。
英国という名の狂気
先週のViewpointsで、私が、英国の地方都市によるBRICs「プロジェクトチーム」と、しばしば世界の中心であ
ると認識されているある英国北西部の都市についてコメントしたところ、ゴールドマン・サックス・オーストラ3
リアのデービッド・ノーランが、大胆にも私がリバプールのことを指して言ったのだとからかってきました。彼
といえば、私が前職からゴールドマン・サックスへ転職する前にとっていたガーデニング・リーブ休暇(有給休
暇)を中断させた人物ですが、何故か18年も経って未だに彼と話をしています。よくお聞き下さい。数週間ある
いは数カ月のうちに、我々の多くが、彼に電話をして、豪ドルを売るべきと言うことになると思います。豪ドル
が対米ドルでパリティ以上の水準が持続可能とは思えないからです。
先週、米国とは対照的に、英国のデータは若干好調で、3月の非製造業購買担当者景況指数(PMI)は、52.4と目
覚ましい上昇を示しました。マスコミのスポットライトは、専ら連立政権が行った福祉支出の削減提案に当てら
れていました。巨額の福祉支出の恩恵を享けていた受益者に関する味気ない事件(訳注:福祉の支払を受けるた
めに、何人もの自分の子どもを殺した人物に終身刑が下された裁判のこと)と時を同じくしたため、この提案が
多くの見出しを飾っていました。私は、保守党が、こうした見出しを見て、福祉支出を削減する提案を行う最良
のタイミングだと思ったのではないかと考えています。彼らの提案は、特に今のように社会情勢が厳しい中では
議論を呼び起こしそうではありますが、世論調査を見ると、有権者には歓迎されているようです。そしてもちろ
ん、問題の根本原因である財政赤字を減らすためには、この提案は、明らかに有効な集票材料にはなると思いま
す。しかし、再度申し上げますが、これはかなり物議を醸しそうな動きです。
常軌を逸した北朝鮮
数週間前に、中国の北朝鮮に対するスタンスを察知した際に、韓国について言及しましたが、先週の北朝鮮の動
きは、どんなことをしてでも、すべての国を挑発しようとするものでした。もちろん、脅威を感じる部分もあり
ますが、よくよく考えると、これは2つの朝鮮が終わる前触れではないかと思うようになってきました。こうし
た状況下、結果として起きている現在のウォン安が、容赦ない円安の影響を多少は緩和することになり、韓国の
輸出業者は安堵するのではないでしょうか。
わくわくする日本
最後に日本に戻って来ました。先週の日銀の驚くべき動きについて触れましょう。冒頭にご紹介した通り、かつ
て日銀がこれほど大きなプラスのサプライズをもたらした記憶がありません。前ゴールドマン・サックスのエコ
ノミストであるギャビン・デービス等多くの人が指摘している通り、この発表によって、日銀の金融緩和は、資
金放出量においてFRBの2倍に達することになりました。ギャビンは、金曜日のフィナンシャル・タイムズに素
晴らしい記事を載せています。私は、日銀がとった行動を、あらゆる手段を用いて、かつ外国政府にとっても受
入れ可能なかたちで(直接の円売りと外国資産の購入は行わないので)日本の金融環境を意図的に緩和しようと
する力強い意思表明であると読みました。これは、非常に大きな動きです。もしあなたが、こうした行動が取ら
れる前にすでに円に対し弱気だったならば、今は当然それ以上の円安を考えていらっしゃるのではないでしょう
か。昨秋私が申し上げたのは、「アベノミクス」がもたらす水準は、おそらく1米ドル=105?110円のレンジで、
あるいは120円も、必ずしも米国での変化が起こらなくても、思った以上に早く実現するかもしれません。とは
言うものの、米国経済の減速が現実になれば、この先どうなるかはよく分かりません。ここからは、国内株式の
短期売買が、より興味ある投資テーマになるのではないでしょうか。
幾分相場反転の兆しを見せた木曜日と金曜日の乱高下を受けて、今週、日本国債がどのような動きをするのか、4
非常に興味深いところです。もちろん、それは黒田総裁の望むところではないと思いますが、評論家の何人かが
発言している通り、日銀の今の動きにリスクがないわけではありませんし、事態が日銀のコントロールを超えた
ところまで進展することも、わずかながら考えられます。最近の欧州のように、奇妙なことがいつでも起こる可
能性があるのです。
さて、これから良いバーを見つけて、マンチェスター・ユナイテッドが、「うるさい隣人」(マンチェスター・
シティ)相手に、20回目のリーグ制覇に向けて優秀の美を飾る戦いを観なければなりません。勝てば勝ち点差18
となり、残り7試合全勝して勝ち点21の追加を目指すのみです。残りの試合は(優勝が決まったようなものなの
で)あまりエキサイティングなゲームにはなりそうもありませんが、ユナイテッドの勝ちに賭けましょう。良い
週末を。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:4月 8日)
http://www.goldmansachs.com/japan/gsitm/report/pdf/viewpoints_114.pdf



02. 2013年4月13日 02:06:52 : xEBOc6ttRg


2013 年 4 月 1 2 日
日本銀行総裁 黒田 東彦

量的・質的金融緩和

── 読売国際経済懇話会における講演 ──1

1.はじめに

日本銀行の黒田でございます。読売国際経済懇話会でお話しする機会を賜
り、誠に光栄に存じます。本席は、私にとって総裁就任後初めての講演です。
本日は、先週決定した「量的・質的金融緩和」についてお話しします。

2.基本的な考え方

日本銀行の総裁を拝命するにあたり、私は、いくつかの基本的な方針を考
えていました。

第1は、15 年近く日本経済を劣化させてきたデフレから脱却するため、「で
きることは何でもやる」ということです。日本銀行はこれまでも、ゼロ金利
政策、量的緩和政策、さらには包括緩和政策など、様々な金融緩和を行って
きました。しかし、こうした政策の積み重ねによってもなかなか結果が出な
かったことを踏まえ、私はここで、戦力の逐次投入、あるいは gradualism
は採らずに、日本銀行の持つすべての力を一挙に動員することが必要だと強
く思っていました。

第2に、日本銀行が「物価安定の目標を責任を持って実現する」と強く明
確にコミットすることの重要性です。この点、日本銀行は、1月の金融政策
決定会合において、自らの判断で「物価安定の目標」を消費者物価の前年比
上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという画期的な約束を
しました。その達成期限についてですが、諸外国の事例をみると、多くの中
央銀行は、金融政策の効果が浸透する期間として2年程度のタイムスパンを
考えながら、中期的な物価安定を実現する努力をしています。私は、日本に
おいても、この「2年程度」の期間を念頭に置いて物価安定目標を実現する
とコミットすることが適当だと考えました。

第3に、こうした日本銀行の強い姿勢を市場や企業、家計にわかりやすく
伝え、「期待」を抜本的に変えるということです。15 年のデフレの間に、人々
の行動パターンは「物価は下がる」あるいは「上がらない」ことが前提にな2
っています。「強いコミットメント」と「わかりやすい説明」を通じて、人々
のデフレ期待を払拭していくことが必要です。

そして第4に、こうしたコミットメントを裏打ちする量的にも質的にもこ
れまでとは次元の違う金融緩和を行うことです。「量」だけでなく、「質」も
重視することには理由があります。日本銀行や先進国の中央銀行は、短期金
利の低下余地が乏しい中で、非伝統的な政策として、バランスシートを拡大
する政策を行っています。こうしたバランスシート政策の効果についての評
価は概ね固まってきました。それは、中央銀行が市場から国債やその他の資
産を買い上げることで、市場から金利変動などに伴うリスクを吸い上げ、長
期金利の低下を促したり、資産価格のプレミアムに働きかける効果だという
ことです。したがって、「量をどれだけ供給するか」ということと同時に、「ど
のように量を供給するか」が重要になります。同じ金額であっても、短期の
国債を買うのと、満期の長い国債やETFなどのリスク資産を買うのでは、
効果は全く違います。量と質の両面が大事だということです。


3.「量的・質的金融緩和」の導入

私はこうした基本的な考え方を持って、総裁に就任し、4月3日、4日の
政策委員会・金融政策決定会合に臨みました。そして、委員会の他のメンバ
ーの方々との議論や事務方の実務的な検討を踏まえて、成案を得ました。今
回導入した「量的・質的金融緩和」は、その名前が示すとおり、量と質の両
面においてこれまでとは次元の違う金融緩和政策です。

強く明確なコミットメント

まず、その内容の第1は、さきほどお話しした強く明確なコミットメント
です。今回の決定で、日本銀行は、「消費者物価の前年比上昇率2%の「物価
安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現す
る」と明確に表明しました。これは委員会における決定、すなわち、組織と3
しての日本銀行の意思ということになります。

量・質ともに次元の違う金融緩和

次に、このコミットメントを裏打ちする手段として、量・質両面の金融緩
和を行うことを決めました。

具体的には、まず、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の
操作目標を、これまでの無担保コールレート・オーバーナイト物という「金
利」から、マネタリーベースという「量」に変更し、これを年間約 60〜70
兆円のペースで増加させることにしました。マネタリーベースとは、日本銀
行が経済全体に供給する通貨(お金)の総量のことであり、具体的には、市
中に出回っている銀行券(お札)と貨幣(コイン)の残高に、金融機関が日
本銀行に預けている当座預金の残高を加えたものです。昨年末のマネタリー
ベースは 138 兆円ですが、これが今年の年末には約 200 兆円、来年末には約
270 兆円と、2年間で約2倍になります。これは、名目GDPの6割に迫る
ものであり、先進国の中でも群を抜いて大きな額です。

マネタリーベースを増加させる具体的な手段として、日本銀行は、長期国
債の保有残高が年間約 50 兆円のペースで増加するよう買入れることとしま
した。この結果、長期国債の保有残高は、昨年末の 89 兆円から、来年末で
190 兆円と2倍以上になります。市場からの買入れ額は、これまで買入れた
国債の償還に見合う分も買う必要があるため、毎月7兆円強に上る見込みです。

質の面では、長期国債の買入れ額を増やすに当たり、買入れ対象を超長期
の 40 年債を含めて全てのゾーンの国債に拡大したうえで、買入れの平均残存
期間を、現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長しまし
た。これまでのような短めの金利だけでなく、イールドカーブ全体の金利低
下を促すことにより、経済・物価への働きかけを強めていくためです。さら
に、資産価格のプレミアムに働きかける観点から、ETF(指数連動型上場4
投資信託)とJ−REIT(不動産投資信託)の保有残高が、それぞれ年間
約1兆円、年間約 300 億円のペースで増加するよう買入れを行うことも決定しました。

わかりやすい金融政策

「量的・質的金融緩和」の実施に当たっては、先ほど申し上げたように、
市場や企業、家計に対する「わかりやすさ」という点も意識しました。
これまで、日本銀行による長期国債の買入れは、2010 年 10 月に導入され
た「資産買入等の基金による買入れ」と、それ以前からあった「金融調節上
の必要から行う国債買入れ」(いわゆる輪番オペ)という2つの方法を通じて
行われていました。これは、これまで日本銀行が、経済情勢の変化に対応し
ていろいろと挑戦してきた結果という面があります。実際、両者は、その目
的に応じて、買入れ対象となる国債の種類も、買入れの方式も異なっていま
した。しかし、こうした仕組みはやや複雑でわかりにくく、金融緩和に対す
る日本銀行の本気度が市場や国民になかなか伝わらないという問題がありま
した。このため、今回、「資産買入等の基金」を廃止したうえで、長期国債の
買入れ方式を一本化しました。また、先行きの買入れ目標を年間約 50 兆円と
いう国債保有残高の増加分で示すこととしました。こうした工夫によって、
私どもの金融緩和の意図が、よりストレートに市場に伝わるようになったと考えています。

先ほど申し上げたように、今回の決定では、量的な緩和を行う場合の指標
として「マネタリーベース」を選択しました。これも、日本銀行が経済全体
に供給する通貨(お金)の総量であるマネタリーベースが、私どもの積極的
な金融緩和姿勢を対外的にわかりやすく伝えるうえで、最も適切であると判
断したからです。5

金融緩和の継続期間

以上のような内容の「量的・質的金融緩和」は、「2%の物価安定目標の実
現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」継続します。
もちろん、今後の経済や物価には上下双方向の様々なリスクが生じるでしょ
う。それをよく点検し、必要な場合には、躊躇なく必要な調整を行います。
こう申し上げると、私どもが念頭に置いているとした「2年程度の期間」
との関係はどうなっているのか、という疑問がすぐに湧いてくると思います。
日本銀行としては、2年程度で2%を達成するために必要なことは、今回の
措置にすべて盛り込んだと思っています。しかし、だからといって、金融緩
和の継続期間を「2年限定」とすることは適当ではありません。経済には不
確実性があり、人々の予想には幅がある以上、「2年では2%に達しない」と
考える人は必ずいます。そうした人も含めて金融緩和が十分行われると確信
してもらうには、継続期間はあくまで2%の実現との関係で「必要な時点ま
で」とすることが必要です。そうしたコミットメントを行うことが、結局は、
2年での目標達成をより確実なものとすると考えます。
また、やや細かい点ですが、「必要な時点」の意味について若干お話しして
おきます。日本銀行は、単にある時点において2%を達成すればよいと考え
ている訳ではありません。2%の水準は安定的に維持されることが重要です。
したがって、ある時点において物価上昇率が2%となっていても、それを安
定的に持続するために必要と判断すれば、「量的・質的金融緩和」を続けるこ
ともありますし、その逆もあり得ます。要するに、物価の基調的な動きを判
断しながら、必要な時点まで金融緩和を継続するということです。


4.「量的・質的金融緩和」の効果

金融緩和効果の波及経路

次に、「量的・質的金融緩和」が、どのようなメカニズムによって2%の目
標を達成するのかということをお話しします。日本銀行では、金融緩和の効6
果は、主に3つの経路を通じて経済・物価に波及すると想定しています。
第1に、長期国債やETF、J−REITの買入れは、長めの金利の低下
を促し、資産価格のプレミアムに働きかける効果を持ちます。これが、資金
調達コストの低下を通じて、企業などの資金需要を喚起すると考えられます。
第2に、日本銀行が長期国債を大量に買入れる結果として、これまで長期国
債の運用を行っていた投資家や金融機関が、株式や外債等のリスク資産へ運
用をシフトさせたり、貸出を増やしていくことが期待されます。これは、教
科書的にはポートフォリオ・リバランス効果と言われるものです。長期国債
の買入れの平均残存期間を思い切って延長したのは、この効果を意識したも
のです。また、第3に、物価安定目標の早期実現を約束し、次元の違う金融
緩和を継続することにより、市場や経済主体の期待を抜本的に転換する効果
が考えられます。先ほどお話ししたデフレ期待の払拭です。予想物価上昇率
が上昇すれば、現実の物価に影響を与えるだけでなく、実質金利の低下など
を通じて民間需要を刺激することも期待できます。

経済・物価の状況

最近の経済・物価動向をみると、今申し上げた3つの波及経路を通じて、
「量的・質的金融緩和」の効果がうまく発揮される環境が整ってきているよ
うに思います。わが国の景気には、持ち直しに向かう明るい動きがみられて
います。先行きも、堅調な国内需要と海外経済の成長率の高まりを背景に、
緩やかな回復経路に復していくと考えています。また、ここ数か月は、グロ
ーバルな投資家のリスク回避姿勢の後退や国内の政策期待によって、金融市
場の状況は大きく好転しています。
消費者物価の前年比をみると、ここ数か月は、概ねゼロ%ないし小幅のマ
イナスで推移していますが、先行きについては、需給バランスの改善などを
反映して前年比上昇に転じ、その後も前年比プラス幅が拡大していくとみて
います。物価連動国債を用いて計測したブレーク・イーブン・インフレ率や、7
エコノミストや家計に対するアンケート結果をみても、このところ予想物価
上昇率の上昇を示す指標が増えてきました。それをもたらしたのは金融政策
を含む政策に対する期待です。この事実は、政策で期待が動くことを示唆しています。

日本銀行としては、今回の「量的・質的金融緩和」が、実体経済や金融市
場に表れ始めた前向きな動きをタイミングよく後押しするとともに、高まり
つつある予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を、15 年近く続いたデフレか
らの脱却に導くと考えています。


5.金融政策運営を巡るいくつかの論点

これだけの金融緩和を行う中、「本当にできるのか」、あるいは「そこまで
やって良いのか」といった心配の声も聞かれます。また金融政策と政府の他
の政策との関係についてご質問を受けることも?なくありません。最後に、
そのいくつかにお答えしたいと思います。

量と質の実現

長期国債残高を年間 50 兆円積み増すという新たな買入れ計画は、市場参加
者の常識を超える巨額なものです。また、2014 年末のマネタリーベース 270
兆円を実現するためには、金融機関が日本銀行に 175 兆円の当座預金を持つ
必要があり、これも極めて大規模なものです。さらに、平均残存期間を現在
の3年弱から7年程度(幅をもって見て6〜8年程度)に延ばすためには、
20 年債、30 年債を含む長めの期間の国債を買入れる必要がありますが、これ
ら超長期のゾーンは、機関投資家による長期保有目的での購入が中心で売買
はそれほど盛んではありません。こうした中、市場の一部には、日本銀行に
よる買入れが実務的に可能なのかという声もあります。
この点、基本的には、幅広いゾーンの国債を入札方式によって買入れる以
上、可能です。必ず実現します。ただし、これまでの常識を超える規模の買8
入れですので、「整斉と」とはいかない可能性があります。もともと金利低下
を促すための措置ですから、市場に対するある程度の影響は不可避ですが、
それでも、できるだけ円滑に進めたいと思います。そのためには、金融機関
による積極的な応札など、市場参加者の協力が欠かせません。日本銀行では、
市場参加者との間で、金融市場調節や市場取引全般に関し、これまで以上に
密接な意見交換を行う場を設けることにしました。先週以降、様々な市場関
係者との間で、こうした取り組みを始めています。

財政ファイナンスとの関係

さて、「量的・質的金融緩和」のもとで、日本銀行が大規模な国債買入れを
行うとなると、どうしても、「日本銀行が財政赤字の穴埋めをするのではない
か」という心配を呼び起こします。現状、国債市場は安定していますが、日
本銀行による多額の国債買入れが、内外の投資家から、ひとたび「財政ファ
イナンス」と受け取られれば、国債市場は不安定化し、長期金利が実態から
乖離して上昇する可能性があります。これは、金融政策の効果を減殺するだ
けなく、金融システムや経済全体に悪影響を及ぼしかねません。
もちろん、「量的・質的金融緩和」による長期国債の買入れは、金融政策上
の目的で日本銀行自身の判断で行うものであり、財政ファイナンスではあり
ません。また、日本銀行による国債買入れが増加する中、それが、財政ファ
イナンスではないかといった議論をそもそも惹起しないためにも、政府が、
今後の財政健全化に向けた道筋を明確にし、財政構造改革を着実に進めてい
くことは極めて重要です。この点、政府も、1月に公表した「共同声明」に
おいて、「日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する
観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」と
明確に述べており、私どもとしても、そうした取り組みに強く期待しています。


日本銀行は、今回、国債買入れ方式を一本化したことに伴い、いわゆる「銀9
行券ルール」を一時停止しました。このルールは、「金融調節上の必要から行
う国債買入れ」を通じて保有する長期国債の残高について、銀行券発行残高
を上限とするというものです。もっとも、2010 年に「資産買入等の基金によ
る国債買入れ」が加わったため、日本銀行が保有する長期国債は、全体とし
て、既に銀行券発行残高を上回っています。こうした現状を踏まえ、「量的・
質的金融緩和」を行うに際し、一時的な措置として、「銀行券ルール」を適用
しないこととしました。もちろん、「量的・質的金融緩和」を行う期間中も、
その後も、日本銀行が財政ファイナンスを行わないという方針は明確であり、
この点ははっきりさせておきたいと思います。

為替相場への影響

最近の円安方向の動きを受けて、金融政策と為替相場の関係に関する議論
も聞かれます。この点、日本銀行が、為替をターゲットとして金融政策を運
営することはありません。日本銀行の金融政策は、あくまで国内物価の安定
を目的としています。
確かに、金融緩和を行った場合、その国の為替レートは下落する傾向があ
りますが、これはあくまで、他の事情を一定と仮定したうえでの一般論です。
例えば、金融緩和を通じて、さらには、適切な財政政策や成長戦略を通じて
経済の成長力が高まれば、当然のことながら、その国の通貨は逆に上昇する
可能性もある訳です。
いずれにせよ、日本銀行の金融政策は、あくまで日本経済のデフレからの
脱却という国内目的を達成するものです。そして、わが国経済がデフレから
脱却することは、世界経済全体にも好影響を与えていくと考えており、こう
した点は、既に国際的にも理解を得られていると思います。
「三本の矢」
現在政府は、「三本の矢」、つまり大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民10
間投資を喚起する成長戦略という3つの政策の組み合わせにより、デフレか
らの脱却を始め、日本経済が抱える課題を解決しようとしています。これは
極めて適切な政策パッケージだと思います。このうち、第1の矢である金融
緩和を通じて2%の物価安定目標を早期に実現することは、日本銀行の役割
です。これまで述べてきたとおり、日本銀行は責任を持って実現します。
そのうえで、これと並行して、政府が「実需」を作り出し、消費・投資の
拡大を通じて賃金・雇用を増加させることができれば、実体経済が改善する
中で、物価上昇率が徐々に高まっていくという好循環が生まれます。その意
味では、「三本の矢」の他の2本、すなわち、当面の「機動的な財政政策」や
「成長戦略」の実行によって成長見通しを引き上げていくことは、よりスム
ースに物価安定目標を達成することに繋がると考えています。その着実な実
行を大いに期待しています。
6.おわりに
私は日本銀行総裁に就任する前の8年間、アジア開発銀行総裁として、こ
の国を外から見てきました。15 年近くもデフレに苦しんでいる国は、他には
ありません。日本の金融機関や企業、個人が、アジア各国において大活躍し
ているだけに、その落差に戸惑うことも?なくありませんでした。
デフレ圧力を跳ね返し、日本経済が再び活力を取り戻すことを、世界中が
待ち望んでいます。これを実現していくことが、国際社会における日本の影
響力を取り戻すことにも繋がると信じています。
ご清聴ありがとうございました。

6.おわりに基本的な考え方

・デフレから脱却するため、できることは何でもやる。

・「物価安定の目標(2%)を責任を持って実現する」ことを強く明確にコミットする。

・日本銀行の強い姿勢をわかりやすく伝える。

・コミ トメントを裏打ちするため ミットメントを裏打ちするため、量的にも質的にもこれま 量的にも質的にもこれまでとは次元の違う金融緩和を行う。

2
「量的・質的金融緩和」の導入(1)

強く明確なコミットメント
・ 2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。

量 質ともに次元の違う金融緩和 ・質ともに次元の違う金融緩和
・ マネタリーベース:年間約60〜70兆円の増加(2年間で2倍)
・ 長期国債の保有残高:年間約50兆円の増加(2年間で2倍以上)
・ 長期国債買入れの平均残存期間:7年程度へ(2年間で2倍以上)
・ ETFの保有残高:年間約1兆円の増加(2年間で2倍以上)
・ J−REITの保有残高:年間約300億円の増加


「量的・質的金融緩和」の導入(2)
わかりやすい金融政策
・「資産買入等の基金」を廃止し、長期国債の買入れ方式を一本化。
・ 量的な緩和を行う場合の指標として「マネタリーベース」を選択。

金融緩和の継続期間

・ 2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続。

・ その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。

「量的・質的金融緩和」の効果

長めの金利 や資産価格 のプレミアムへの働きかけ
リスク資産運用や貸出を増やす
ポートフォリオリバランス効果
市場・経済主体の 期待 の抜本的転換




林秀毅の欧州経済・金融リポート

4月11日 【新連載】キプロスは第2のギリシャになるか―スロベニア救済問題にも注目

 3月25日、キプロス救済が合意に達した。しかし、EU、ECBにIMFを加えた通称「トロイカ」三者による100億ユーロの救済決定までには、紆余曲折があった。

EU・ECBの対応:今後の先例にはならないことを強調

 EUなどは当初、救済の条件として、国内大手銀行の整理に加え銀行預金者に対する課税を要求した。しかし最終的には、預金額10万ユーロに満たない小口預金者は対象外とすることで決着した。キプロスは人口90万人に満たない小国であり、金融業中心の立国である。優遇税制により海外からの資金に依存しており、今回仮に国内の大手二大銀行のうちいずれかが破綻するような事態に陥れば、海外への資金流出により国全体の危機に直結するような事態も想定された。

 今回の救済決定については、以下の2点に留意すべきだろう。

 第1に、EU主要国の強硬な姿勢だ。特にユーログループのダイセルブルーム議長が、今回の預金者への課税は今後の先例になるかのような発言をしたことだ。同氏はオランダ財務相であり、ドイツに代表される富裕な「北の国」の意見を代弁したともいえる。かつて、ギリシャ救済にあたり、EUの資金(ひいては市民からの税金)によるべきか、民間投資家の負担(PSI)も要求すべきか、ということが問題になった。今回もその延長線上にある議論と考えることができるが、一時小口預金者も例外なく課税対象とする可能性があった点には行き過ぎ感があった。前議長のユンケル氏であれば、市場への影響も考慮しつつバランスの取れた発言を行ったのではないか。

 第2に、その後、この点についてECBのより柔軟な姿勢が注目されることになった。4月4日のECB政策理事会では、キプロス救済について、当事者であるECBに質問が集中した。ドラギ総裁は、本件は今後の救済スキームのひな型(Template)とはならず、小口預金者への課税を巡る議論は「スマートな動き」ではないと述べた。その上で、キプロスがユーロ圏を離脱することを明確に否定し、逆に、今回のような小国の銀行セクターを巡る混乱は、共通の銀行救済機構作りを含む「銀行同盟」の必要性を示唆しているという認識を示したのである。

ギリシャとの比較@:デフォルトは回避も他国への波及には警戒

 今回のキプロス救済をギリシャ救済と比較するとどうなるか。キプロスはギリシャよりもさらに国の規模は小さく、両者とも当初はEUの富裕国から反発を受けたものの、混乱を回避するため最終的に救済されるという結論に至った、という点で共通している。一方、今回、キプロスについては、比較的短期間で救済合意に至った。これはギリシャの場合、EUなどが交渉を行いながら救済の仕組み作りを模索したため時間がかかったことに加え、ギリシャ救済時の経験をふまえ「交渉に時間がかかると市場の期待感を損ない事態が一段と悪化する」という一種の学習効果が働いた面もあったろう。

 それでは、今回の救済措置を受け、他国への波及は食い止められるだろうか。まず問題になるのは、キプロスと同様に問題を抱えるEUの小国である。スロベニアは人口約200万人でキプロスの2倍程度の国である。2004年5月、他の旧共産主義国やキプロスなどと同時にEUに加盟した。加盟当時から西欧諸国との経済関係が深く「旧ユーゴスラビア連邦の優等生」と呼ばれていた。しかしこのことが逆に欧州危機により、隣国のイタリアをはじめとする西欧諸国の経済悪化の影響を受けやすくなり、国内で銀行の不良債権が増加する事態に至った面がある。キプロスが今回の救済によっても自力で経済の回復を図ることは依然難しいことを考慮すれば、国内銀行部門に同様の問題を抱えるスロベニアへの波及は現時点ではやむを得なくなっているのではないか。

 この場合、スロベニアに対し、EUなどにより救済交渉が迅速に進められるかどうかが焦点になってくる。スロベニアはキプロスとは異なり本来製造業を持つ先進工業国であるため、救済後の経済回復には、より期待が持てる。スロベニアの早期救済に目途が立てば、キプロス危機の波及はそこで食い止められるという道筋も見えてくるだろう。

 一方、危機がポルトガルなどに対する懸念の再燃につながった場合は要注意だ。ポルトガルは緊縮財政下で景気回復の目途が立たないという意味では、ギリシャや今後のキプロスと類似しているうえ、スペイン・イタリアなど近隣の諸国に波及するという市場の連想が働きやすいためだ。ギリシャ救済時と比較すれば、さまざまな救済の枠組みが出来ている、という違いはあるものの、当時と同様の経過により危機が波及するリスクには注意が必要になってくるだろう。

ギリシャとの比較A:ロシアが“最後の砦”に

 キプロス政府は今回の救済交渉で預金者への課税に反発し、ユーロ圏を離脱する可能性を示したとされている。しかし、海外からの国内金融業への資金流入に依存しているキプロスにとり、現状ユーロを離脱する選択肢が現実的でないことは、冒頭のドラギ総裁の発言からも明らかだ。

 キプロスの強硬な発言の背後には、ロシアの存在がある。伝えられるように、ロシアから大量の資金がキプロスに流入し大口の預金になっている、ということだけではない。さらに遡れば、ロシアは歴史的・宗教的につながりの深いキプロスを地政学的にも重要な拠点と位置付け、特に中近東情勢を把握する重要拠点と位置付けてきた。これらの点で、ロシアがキプロスから大量に資金を引き揚げる可能性は低い。この点は、EU・ECB・IMFに頼らざるを得ないギリシャと比較すると、キプロスの交渉力を強めた面があるだろう。

 一方、ロシアの立場からすれば、今後、キプロス救済に一定の役割を果たすことにより、EUとの関係を如何に有利にしたいという意図が働くことになるだろう。ロシアは資源輸出により立国しているが、主力の欧州向けエネルギー輸出はユーロ危機により低迷している。そこでアジア向け輸出に活路を見出そうとしているが、中国が経済発展により交渉力を強めている上、日本との関係も政治面で改善途上にある。こうした状況から、ロシアの経済運営には行き詰まり感があるためである。

(2013年4月11日)

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欧州債務危機は未だ予断を許さず、今後は緊急対応から中長期の制度構築に焦点が移っていくと考えています。本レポートでは、引き続き最近のグローバルな金融市場動向を踏まえつつ、欧州の新興国動向等を含むより広い視点から、的確な展望をご提供します。 (毎月1回 10日頃掲載予定)

※「欧州債務危機リポート」はこちらからご覧いただけます。

(特任研究員 林秀毅)
http://www.jcer.or.jp/column/hayashi2/index471.html

「マネタリーベース」とは、
@ 流通現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)=世の中に出回っているお金 と、
A 日本銀行当座預金=金融機関が日本銀行に保有している当座預金(以下、日銀当座預金)
を合わせた金額、つまり日本銀行が供給した通貨の総額を指します。


日銀による金融市場の調整に関する方針が、金利の水準からお金の量そのものになりました。
「金融市場調節」とは、日銀が金融市場に出回るお金の量を調整することです。
日銀が市場に直接参加して国債の取引を行なうことなどにより、資金の供給や吸収を行ないます。
「操作目標」はこの調整活動の方針のことで、今回の会合では無担保コールレート(オーバーナイト物)
の「水準」からマネタリーベースの「増加額」に操作目標が変更されました。


欧米では、マネタリーベースの増加とともに物価が上昇しました。日銀も「物価安定の目標」を
早期に実現するため、マネタリーベースを操作目標とすることを決定しました。

日銀は、2013年1月に「物価安定の目標」として、消費者物価の前年比上昇率2%を掲げました。
今回の決定は、その目標を2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に実現するためのものです。
米国や欧州ではマネタリーベースの増加とともに物価も上昇しました。
一方で、日本の消費者物価は下落傾向が続いています。そのため、マネタリーベースの大幅な拡大が、
物価の上昇につながることが期待されます


マネタリーベースの増加が、なぜ物価の上昇につながるのですか?

マネタリーベースの増加が長期国債の買入れを伴うことで、長期金利が低下すると考えられます。
その結果、他の資産や消費活動に資金が移り、物価が上昇することが期待されます。

日銀は、今回の決定で長期国債やETF、J-REITの買入れの拡大も合わせて発表しました。
金融機関から国債を買入れると、金融機関の保有する日銀当座預金が増加し、マネタリーベースも拡大します。
日銀が長期国債を購入することで長期金利をはじめとした金利全体が低下し、株式やREITも同時に購入する
ことで、投資家が資金を株式や外債、REIT、または貸出等にシフトすることが期待されます。
そのような変化が起きると、企業や家計の物価予想も変化し、経済活動が活発になり、物価が上昇すると
考えられます。上記のような場合は、デフレを前提とした投資行動は変化を求められる可能性もあります。

金融機関等からの国債買入れ

国債等の利回り低下

株式や貸出等への資金シフト

物価上昇期待の広がり

需要拡大

物価上昇
http://www.daiwa-am.co.jp/doc/news/news_20130411_2.pdf


痛みの配分
2013年4月11日
理事 木村 浩一
国家債務が膨大に膨らんだ先進各国の政治家は、難しい役回りを負っている。先達の政治家が借金の山を作ったにしても、国民に国家財政の厳しい現実を説明し、「痛みの配分」を国民に説得しなければならないからだ。また、経済の活力を復活させるために、既得権益を奪う構造改革という痛みもその中に含まれる。

ヨーロッパ周辺各国の過剰消費のつけは、ドイツ国民がサンタクロースにならない以上、各国の国民、企業が応分に負担せざるをえない。選挙においてポピュリストが当選しても、国家債務が消えてなくなるわけではなく、地道に債務の解消に努めていくしかない。

我が国も、高度成長期には、政治の役割は、都市から地方へ、製造業から第1次産業へ、利益の配分をすれば国内での利害調整が終わったが、先進国では、最悪の財政状況の下、政治の仕事として、痛みの配分を行わざるをえなくなっている。戦争による軍事費なら一過性の支出ですむが、世界最速のスピードで進む超高齢化社会に突入している我が国の場合、社会保障支出は放っておけば構造的に増加していき、そのままでは国家財政の破綻は免れがたい。

政府保証債務を含めれば1,000兆円を超える国家債務の返済は先送りされ、実質上借金のつけは、現在の若者やまだ生まれてもいない将来世代に負わされようとしている。若者は、長引く低成長経済の下、借金のつけを回され、更に就職難により雇用と所得の獲得の機会も奪われている。

経済のグローバル化により、コモディティ化した仕事は先進国から新興国に流出し、日本では考えられないほど、ヨーロッパ、アメリカの若者の失業率は異常に高い。我が国が欧米のようにならないためには、景気回復を急ぐだけでなく、コモディティ化しない報酬の高い新たな職種を多く作り出すために構造改革を急ぐ必要がある。また、若者に偏った痛みの配分を是正するため、@所得税、相続税の引上げなどの配分政策の見直し、A社会保障支出の削減、は避けて通れないだろう。構造改革と併せ痛みを伴う政策の実行は、政治の仕事である。

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執筆者紹介

木村 浩一
Koichi KIMURA
日本の現状は、バブル崩壊後の「失われた20年」への対応に追われ、高成長、人口増加を前提に作られた制度の見直しを怠り、「日本化」という制度疲労が起きている。低成長、少子高齢化、経済のグローバル化の中で、日本経済は衰退に向かっているが、将来世代に豊かな社会と夢を残していくために、一刻も早く日本の現状を改革していく必要がある。

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日本版ISAの普及を願う
金融調査部 研究員 鳥毛 拓馬
2013年4月8日
アジアの力を日本の力に
経済調査部 エコノミスト 井出 和貴子
2013年4月4日
人々による賃金の現実の見方と理想
調査本部 主席研究員 市川 正樹


http://www.dir.co.jp/library/column/20130411_007034.html


03. 2013年4月13日 02:10:10 : xEBOc6ttRg


経常収支の黒字縮小の要因と最近の円安の影響 


2011 年の東日本大震災(以下、「大震災」という)を契機に貿易収支が赤字に転じて
以降、我が国の経常収支黒字は縮小傾向で推移している。2012 年秋以降、円安基調に転
じた為替レートはこうした傾向に影響を与えると考えられるが、その影響はどの程度か、
それによって貿易収支はいつ黒字に転じるのかなどの論点については論者によって見方
が分かれている。
本稿では、2011 年以降の経常収支の黒字縮小の要因を整理するとともに、最近の円安
が当面の貿易収支や経常収支に与える影響について試算を通じて把握を試みる。

1.経常収支の推移とその要因 (経常収支の黒字は2年連続で縮小)

我が国の経常収支黒字は 2007 年をピークに縮小傾向にあり、このところ2年連続で急速に縮小した(図1)。以下では 2011 年以降の経常収支の黒字縮小の要因を貿易収支、サービス収支、所得収支に分けて点検する。

1
経常収支の中長期的な動向の分析には、経常収支が家計・企業・政府の各部門の貯蓄投資差額の合計に等しいという関係に着目したアプローチもある。本稿では為替レートの変動が経常収支に与える短期的な影響を把握するため、貿易、サービス、所得の各収支に着目した分析を行う。

図1 経常収支の推移 (備考)財務省「国際収支統計」により作成。 2


(鉱物性燃料の輸入価格上昇と輸入数量増加、輸出数量の減少で貿易赤字が拡大)

2011 年以降は貿易収支が赤字となっている。品目別のデータが存在する貿易統計(通関ベース)を用いて、貿易収支の赤字拡大要因を価格と数量に分けると、2011 年は鉱物性燃料等の輸入価格上昇(5.3 兆円)の寄与が6割程度を占め、輸入数量増加(1.9 兆円)と輸出数量減少(2.0 兆円)もそれぞれ2割程度寄与した。2012 年も引き続き輸入価格上昇と輸入数量の増加が赤字拡大に寄与したものの、輸出数量減少の寄与が約3兆円と最も大きくなっている(図2)。

輸入価格要因の内訳をみると、2011 年は鉱物性燃料価格の上昇が約4兆円と最大の寄与となった。鉱物性燃料価格の寄与は 2012 年に約1兆円と大幅に縮小したものの、引き続き最も大きい(図3)。鉱物性燃料価格の内訳をみると、2011 年は原油及び粗油価格が約2.3 兆円と大幅に上昇し、2012 年は原油価格の上昇(0.6 兆円)と原油価格に連動しているLNG価格の上昇(0.6 兆円)が同程度の寄与となっている。

図2 貿易収支の要因分解
図3 輸入価格要因の寄与 図4 鉱物性燃料の内訳(輸入価格要因)
(備考)財務省「貿易統計」により作成。


輸入数量要因の内訳をみると、2012 年は鉱物性燃料の輸入数量の増加が 1.2 兆円と最大の寄与となっている(図5)。

鉱物性燃料の輸入数量の内訳をみると、原子力発電所の停止に伴う火力発電量の増加により、2011 年4月から 2012 年3月にかけてLNGの輸入数量が大幅に増加した。ただし、2012 年5月の泊原子力発電所の停止を最後に、火力発電への代替が一巡したこともあり、LNGの輸入数量は高水準で横ばいとなっている。一方、原油や石炭の輸入数量はこの間、横ばい圏内で推移しており、大震災後の鉱物性燃料の輸入数量増加(1.5兆円)の6割強をLNGが説明している(図6)。
輸出数量要因の内訳をみると、2011 年は電気機器(1.2 兆円)と輸送用機器(0.9 兆円)の減少が主に寄与した(図7)。電気機器では半導体等電子部品の減少が大きく、この背景には世界的なパソコン需要等の低迷がある。輸送用機器は、大震災後に生じたサプライチェーンの寸断による生産の滞りの影響により 2011 年は減少したが、2012 年は小幅ながら増加(0.5 兆円)した。2012 年は一般機械の減少が2兆円程度と最大の寄与となっているが、この背景には欧米諸国や中国等の設備投資の低迷があると考えられる。

図7 輸出数量要因の寄与
図5 輸入数量要因の寄与 図6 鉱物性燃料の輸入数量の推移
(備考)財務省「貿易統計」により作成。

以上を整理すると、貿易赤字拡大の主因は、2011 年は原油・LNGの輸入価格の上昇(3.1 兆円)、2012 年はそうした影響が引き続き残る中での一般機械を中心とした輸出数量の大幅な減少(3.0 兆円)とまとめられる。2010 年から 2012 年までの変化では、鉱物性燃料の輸入価格の上昇(5.0 兆円、1月当たり4千億円強)、輸出数量の減少(5.0 兆円、1月当たり4千億円強)、鉱物性燃料の輸入数量の増加(1.5 兆円、1月当たり1千億円強)の順に寄与している。


(サービス収支の赤字は仲介貿易等の減少に伴い2年連続で拡大)

サービス収支の赤字は 2010 年まで縮小傾向にあったものの、2011 年以降は2年連続で赤字が拡大している(図8)。鉱物性燃料等の輸入増加の影響により、2011 年以降、輸送サービス収支の赤字が拡大したほか、特に 2012 年はその他サービスの収支が8年ぶりに赤字に転じたことが赤字拡大に寄与した。

その他サービス収支が 2012 年に赤字に転じた要因としては、タイの洪水被害に伴う日本の保険会社の保険金支払いにより一時的に保険の赤字幅が拡大したこと、その他営利業務が大幅な赤字となったことがあげられる(図9)2。その他営利業務の内訳をみると、第三国間の貿易に係る手数料等を計上する「仲介貿易・その他貿易関連」の黒字が縮小する一方、法務・経理関連サービス、広告・市場調査等に係るサービスを計上する「その他業務・専門技術サービス」の赤字が拡大している。前者は世界景気の減速等に伴う仲介貿易等の減少による影響、後者は日本企業による海外企業のM&Aの増加を含めて対外直接投資が堅調に推移していることの影響などが考えられる。
他方、日本企業の海外生産比率の高まりによる海外子会社からのロイヤリティ等を背景とした「工業権・鉱業権使用料3」の受取増加に伴い、「特許等使用料」の黒字は拡大基調で推移している。

2
最近のその他サービス収支の動向の詳細については、佐藤(2013)を参照。
3
特許権、商標権等に関する権利の使用料を計上する。


図8 サービス収支の推移 図9 その他サービス収支の内訳
(備考)財務省「国際収支統計」により作成。 (備考)財務省「国際収支統計」により作成。 5


(所得収支の黒字は直接投資収益と配当金の増加により拡大)


所得収支の黒字は 2007 年をピークに3年連続で縮小したが、2011 年以降は直接投資収益と配当金の増加により2年連続で黒字が拡大している(図 10)。その背景としては、経常収支の黒字を背景に対外資産の増加が続いているほか(図 11)、対外資産からの収益率がリーマンショック後に回復傾向にあることが指摘できる(図 12)。


図 10 所得収支の推移 (備考)財務省「国際収支統計」により作成。

図 11 対外資産・負債の推移 (備考)財務省「本邦対外資産負債残高」により作成。

図 12 対外資産の収益率(主要地域) (備考)
1.財務省「国際収支統計」、日本銀行「直接投資・証券投資等残高地域別統計」、「直接投資残高(地域別か つ業種別)」、「証券投資残高(地域別かつ業種別)」により作成。2012 年の値は推計値。
2.直接/証券投資収益率=(当年直接/証券投資収益(受取))÷((前年直接/証券投資残高+当年直接/証券投資残高)÷2)。

2.最近の円安が経常収支に与える影響

(為替レートは 2012 年秋以降、円安傾向で推移)

2012 年9月末以降、ドル円の為替レートは円安基調で推移している。円は対ドルで9月 28 日の 77.6 円(東京市場ドル・円スポット・17 時時点)から 99 円半ば(4月 11 日現在)まで約 22%下落している。主要貿易相手国の貿易額で各通貨間の為替レートをウェイト付した名目実効為替レートでも、2012 年秋以降円安基調に転じている(図 13)。

図 13 円ドル為替レート、名目実効レートの推移
(備考)日本銀行により作成。 7

以下では、こうした最近の円安が貿易収支に与える影響について検証する。円安は、輸出入価格に影響を与え、我が国の現地での輸出財と競合財との相対価格(外貨建て)、国内での輸入財と競合財の相対価格(円建て)の変化を通じて輸出入数量にも影響を与える。輸出入価格の変動に対して、輸出入数量の調整は遅れを伴うため、円安が貿易収支に与える影響を把握するには、時間の経過に伴って円安が輸出入の価格と数量にどのような影響を与えるかをみる必要がある。

(円安が輸出入価格に与える影響)

最初に、円安が輸出入価格に与える影響を整理しよう(図 14)。

当初(契約価格変更前) その後(契約価格変更後)
契約価格 円ベース 現地価格 契約価格 円ベース 現地価格
(備考)1.矢印は、円安が生じ、以後その水準で推移した場合とベースラインを比較した場合の価格変化の方向と大きさのイメージを示したもの。
2.契約価格変更の際の実際の企業の価格設定行動は、各企業が置かれた環境によって異なると考えられるが、ここでは一般的と考えられるケースについて点線で示した。

図 14 円安が輸出入価格に与える影響(概念図)


契約価格の変更が行われない短期では、円安を反映して外貨建てで契約された財の円ベースの輸出入価格が上昇する。その際、輸出の外貨建て契約比率が約6割であるのに対し、輸入の外貨建て契約比率が約8割であることから、輸出価格よりも輸入価格の上昇幅が大きくなる(図 15)。同時に、円建てで契約された財の現地価格が下落するため、現地での価格競争力はこの段階から高まる。


図 15 我が国の貿易取引通貨別比率(平成 24 年下半期)
(備考)財務省「貿易取引通貨別比率」により作成。 8
(円安は9ヶ月後以降に貿易赤字縮小に寄与)


契約価格の変更が行われる段階に入ると、円建てで契約された輸出価格については、現地価格の低下に伴う売上減を受けて契約価格の引上げが行われるが、円安前と比べれば現地価格は低下すると見込まれる。一方、外貨建てで契約された輸出価格については、当初の円ベースの輸出価格の上昇を原資として、契約価格の引下げが行われると考えられる。円建てで契約された輸入価格については、外貨建てでみた売上減を受けて、契約価格の引上げが行われると考えられる。外貨建てで契約された輸入価格については、当初の円ベースの輸入価格の上昇を受けて、契約価格の見直しが行われると想定されるものの、我が国の輸入財の約5割が国際市況で決まる一次産品のため、価格引下げが行われたとしても、その程度は限定的になると見込まれる。この結果、輸入価格は契約通貨の如何にかかわらず、円安前と比べて上昇する。


(輸出入の数量には価格要因のほか、所得要因も影響)

輸出入の数量には、価格要因(輸出入の相対価格)のほか、所得要因(輸出については輸出先の景気、輸入については国内景気)も影響を与える。これまでの様々な推計では所得要因の影響が大きいことが確認されている5。輸出入価格と輸出入数量への円安(価格要因)と所得要因の影響をあわせて整理したのが図 16 である6

4
売上高の増加は、現地価格の引下げのほか、販売促進活動に充てられることも想定されるが、
簡単化のためすべて現地価格の引下げにつながると想定している。
5
例えば、堀(2009)を参照。
6
円安によって貿易収支の赤字縮小や黒字拡大につながるための条件は「マーシャル=ラーナー条件(輸入の価格弾力性と輸出の価格弾力性の和が1より大きい)」として知られている。岡部


上で整理した考え方に沿って、円安が輸出入の価格や数量、貿易収支に与える影響を定量的に把握する。具体的には、@輸入価格関数、A企業物価関数、B輸出価格関数、C輸入数量関数、D輸出数量関数を推計する。その上で、2012 年 11 月の水準で円ドルレートを一定とした場合の貿易収支をベースライン、2012 年 12 月から 2013 年3月まで実際の為替水準(11 月の水準から 14 円、約 15%の円安)を与え、4月以降は3月の水準で一定とした場合の貿易収支をインパクトケースとして、その差から最近の円安の貿易収支への影響を試算した(図 17)7

(2012)は、当初の貿易収支が不均衡である場合等を含む一般化されたマーシャル=ラーナー条件を理論的に導出し、貿易収支が不均衡の下でも我が国の輸出入数量の長期的な価格弾力性が同条件を満たすことを示している。

7
推計の詳細については、付注を参照。輸出入数量関数の推計式の係数を確認すると、海外現地生産比率の上昇が輸出を下押し 、輸入を上振れさせているほか、リーマンショックや大震災を経て構造変化が生じている。また、海外現地生産比率の高まりに伴い、為替レートの変動に伴う
価格弾力性が低下しているとの見方もあるが、統計的に有意な結果は得られなかった。


11月から3月まで14円円安が進行したことの影響

図 16 円安と所得要因の輸出入価格、輸出入数量への影響(概念図)
図 17 最近の円安の貿易収支への影響(試算)
(備考)財務省「貿易統計」、内閣府「景気動向指数」「企業行動に関するアンケート調査」、
日本銀行、IMF、OECDにより作成。季節調整値。 9
試算によれば、当初は輸入価格の上昇が赤字拡大に寄与する8ものの、輸出数量の押上げ効果が次第に高まり、2013 年8月に貿易収支の赤字縮小に寄与すると見込まれる。ただし、赤字縮小に寄与に転ずる時期やその大きさ(約2千億円)については幅をもってみる必要がある。

貿易収支の赤字は 2012 年の月平均で約6千億円となっており、本試算は円安だけで2012 年の貿易収支の赤字を埋めることは難しいことを示唆している。また、一段の円安が生じた場合には、貿易収支の赤字縮小に寄与する時期が後ずれすることにも留意が必要である(図 18)


(企業やエコノミストの見方)

貿易収支や景気の先行きをみる観点からは、輸出数量が増加に転じる時期が特に重要である。こうした問題意識の下、輸出企業へのヒアリングを行ったところ、企業により状況に違いはあるが、輸出への影響はすでに出始めており、価格競争力の改善に伴い、今後一層の輸出増加が期待される。しかしながら、輸入価格上昇に伴う価格転嫁に時間を要すること等を背景に、短期的な収益悪化の可能性も指摘された(表)。
また、上記の試算では、円安の影響だけを取り出したが、先に述べたとおり貿易収支8 輸入の外貨建て比率(約8割)は、輸出(約6割)に比べて高いため(図 15)。

↑赤字幅縮小に寄与
↓赤字幅拡大に寄与 合計すると
時間
時間
赤字幅縮小寄与に
転換する時期が後ずれ
○A社:採算がとれず輸出を控えていた製品の輸出を再開したため、輸出はすでに増加。現地販売価格の値下げ等も予定せず。
○B社:すべての輸出を円建てで行っており、現地通貨建ての価格競争力も向上。円安を受けた価格変更の予定はない。
○C社:輸出数量は増加傾向。4月から6月にかけても増加が見込まれる。
輸出価格はアジア全体で回復傾向にあり、ドル建て価格を引き上げる方向。
○D社:円安転換時には短期的に損益悪化する部門もあるが、定常的に輸出
をしている製品では円安による収益改善がすでに見られる。
○E社:主要製品は主に受注製品であり、足下での円高是正の即時かつ直接の影
響はない。円高是正により収益改善も見込まれるが、価格競争力は上が
るものの、製品価格にそのまま転嫁することは難しい。
表 円安の輸出への影響
(備考)ヒアリングにより作成。

図 18 一段の円安が貿易収支に与える影響(イメージ図) 10

には所得要因がより大きな影響を与えると考えられる。実際、今回の推計結果でも輸出
の所得弾性値は大きいことが確認されている。世界経済の先行きについては、当面、弱
い回復が続くものの、次第に底堅さを増すことが期待される。ESPフォーキャストに
よれば、エコノミストによって世界景気の見方には差があるものの、世界景気の回復と
円安の効果によって、輸出は徐々に持ち直しに向かい、貿易収支の赤字幅も縮小に向か
うとの見方が多い。また、貿易収支が黒字に転換する時期は「2015 年 4-6 月以降」との
見方が多い(図 19)。


(経常収支への為替レート変動の影響)

円が外貨に対して 15%減価するという貿易収支と同様の前提を置いて、円安のサービス収支、所得収支への影響をみてみよう。
サービス収支、再投資収益を除く所得収支についてはすべて外貨建て取引であると仮定し、さらにサービス収支について数量に変化がないとして、機械的な試算を行った9。
この場合、2012 年の経常収支をもとに試算すると、約 1.7 兆円(1月当たり 1.4 千億円)の黒字要因となる(図 20)。サービス収支は 0.4 兆円の赤字、所得収支は 2.1 兆円の黒字要因となる。ただし、円安に伴いサービス収支の受取が増加し、支払が減少すると見込まれるため、サービス収支の赤字要因は本試算よりも縮小する可能性がある。 Jカーブ効果による貿易収支への影響と組み合わせると、2012 年 11 月から 2013 年3月までの為替レート変動の効果が出尽くした場合、経常収支に対して1月あたり約3千億円の黒字寄与となる。
9
所得収支のうち証券投資収益、再投資収益を除く直接投資収益は、外貨建ての金額を当該月の為替レートを用いて円ベースの金額に換算していることから、円安の影響はただちに現れる。一方、再投資収益(2012 年は 2.1 兆円で直接投資収益の約4割を占める)は、海外現地法人の内部留保金額を当該決算後、約6ヶ月後から 1/12 ずつ毎月計上されることから、円安の影響は6ヶ月程度の遅れを伴って、少しずつ表れる。

図 19 貿易収支の黒字転換の時期 (備考)ESPフォーキャスト調査(2013 年4月)により作成。 11

図 20 サービス収支、所得収支の価格面からの当初の経常収支への影響(機械的試算) (備考)
1.財務省「国際収支統計」により作成。
2.平成 24 年の値について、円が外貨に対して 15%減価したときに、外貨建て価格が変化しない場合の増減額。サービス収支、再投資収益を除く所得収支は、すべて外貨建て取引と仮定。 12


3.むすび

2011 年以降の経常収支の黒字縮小には、鉱物性燃料の輸入金額の増加と一般機械を中心とした輸出数量の減少による貿易収支の赤字拡大が寄与している。

鉱物性燃料の輸入金額の増加は、数量の増加要因と比べて原油及び粗油、LNG等の輸入価価格上昇の要因が大きい。仮に 2010 年と同水準の輸入数量であったとしても1月当たり1千億円強の赤字縮小要因にとどまるのに対し、同水準の輸入価格とした場合には4千億円強の赤字縮小要因となる。しかしながら、原子力発電所の停止に伴い、火力発電量は高止まりしており、輸入価格の上昇による輸入数量の調整は期待できない。再生可能エネルギーの導入、電力システム改革に伴う効率的な電力システムの構築等により、特定資源の輸入にあまり依存する必要のないエネルギー構造の実現を図ることは、鉱物性燃料の輸入数量の減少や貿易赤字の縮小につながると考えられる。

輸出数量の減少は海外景気の減速の影響が大きい。2010 年と同水準の輸出数量と仮定すると、4千億円強の赤字縮小要因となる。つまり、鉱物性燃料の輸入価格の上昇と輸入数量の増加、輸出数量の減少をあわせると、この2年間で貿易収支の赤字要因は1月当たり約1兆円拡大したことになる。

サービス収支は、貿易収支と同様に2年連続で赤字が拡大しているが、海外M&Aの増加を含めて対外直接投資が堅調に推移している影響がみられることから、今後の所得収支の黒字寄与につながることに留意が必要である。

所得収支は、最近2年間では経常収支の唯一の黒字項目であり、今後の経常収支の推移を占う上で重要である。対外資産の収益率はリーマンショック後に回復傾向にあるが、企業の効果的な海外事業展開を後押しすること等により、さらに高めていくことが求められる。

 円安が経常収支に与える影響の試算結果についてまとめると、貿易収支については、2012 年 11 月以降の円安の効果は9か月後に黒字寄与へと転じるが、輸出数量の押上げと同時に輸入価格の上昇もあり、1月あたり2千億円弱と限定的なものになる。2012 年の貿易収支の赤字は月平均で約6千億円であり、円安の効果のみで赤字を埋めることは難しい。なお、輸出数量は価格弾力性と比べて所得弾力性が大きいため、輸出の増加や貿易収支の改善テンポには世界景気の動向がより重要である。ただし、推計式の係数を確認すると、海外現地生産比率の上昇が輸出を下押し、輸入を上振れさせているほか、リーマンショックや大震災を経て構造変化が生じている点には注意が必要である。

サービス収支、所得収支に最近の円安が与える影響は、1月当たり2千億円弱の黒字寄与と試算された。貿易収支への影響とあわせると、1月当たり約3千億円の経常収支の黒字寄与となる。 13


付注1 為替レートの変動が通関収支に与える影響
為替レートの変動が貿易収支に与える影響を、以下の方法によって試算した。輸出価格関数、輸入価格関数、輸出数量関数、輸入数量関数及び企業物価関数の推計結果は、付注2のとおり。


(参考文献)
市川雄介(2010)、みずほ総合研究所「みずほ日本経済インサイト 円高が景気に与える影響の整理」
岡部光明(2010)「為替相場の変動と貿易収支:マーシャル=ラーナー条件の一般化とJカーブ
効果の統合」SFC ディスカッションペーパー、SFC-DP 2010-001
http://gakkai.sfc.keio.ac.jp/dp_pdf/10-01.pdf
國峯孝祐(2012)「貿易赤字に関する考察」マンスリー・トピックス No.004(2012)、内閣府
http://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2012/0216/topics_004.pdf
佐藤亮洋(2013)「赤字幅の拡大傾向が続くサービス収支」今週の指標 No.1062(2013)、内閣府
http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2013/0318/1062.html
白川浩道、塩野剛志(2013)、クレディ・スイス証券株式会社「日本経済分析 第 37 号」
住友信託銀行(2012)「円安で我が国貿易収支は改善するか」『住友信託銀行調査月報』2012 年 4
月号
http://www.smtb.jp/others/report/economy/stb/pdf/732_1.pdf
内閣府(1993)『平成5年度 年次経済報告』
内閣府(1997)『平成9年度 年次経済報告』
内閣府(2002)『平成 14 年度 年次経済財政報告』
内閣府(2004)『平成 16 年度 年次経済財政報告』
内閣府(2012)『平成 24 年度 年次経済財政報告』
堀雅博(2009)「アジアの発展と日本経済―外需動向・為替レートと日本の国際競争力」『第1巻
マクロ経済と産業構造』シリーズ「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」、内閣府経済社
会総合研究所
http://www.esri.go.jp/jp/others/kanko_sbubble/analysis_01_06.pdf
吉野直行編著(2012)「中長期的な経常収支の見方について」有識者会議レビューNo.1、内閣府
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/houkoku/pdf/keijoshushi_
1.pdf)


http://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2013/0412/topics_018.pdf


04. 2013年4月13日 05:14:50 : xEBOc6ttRg

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51851958.html
2013年04月13日 00:44 経済 テクニカル
黒田総裁のPKO
PKOというのを覚えている人がいるだろうか。国連の平和維持活動のことではない。90年代に株価バブルが崩壊したとき、郵貯の資金で株価の買い支えをやったことをPrice Keeping Operationと呼んだのだ。結果的には、年金福祉事業団は数兆円の評価損を出して解散した。

山崎元氏も指摘するように、黒田日銀総裁の「異次元緩和」にはPKOのような株価操作のにおいを感じる。彼自身が「[ETFの]リスクプレミアムにはまだまだ圧縮できる余地がある」と言ったという。

これはちょっとわかりにくいが、たとえば国債のようなリスクフリー資産の金利が0.6%のとき、日経平均の益回り(PERの逆数)が5%だと、リスクプレミアムは4.4%になる。このプレミアムを、たとえば2%圧縮すると2.4%になるので、益回りは3%、つまりPERは33%まで上がっていいということになる。これは日経平均でいうと2万2000円ぐらいだ。

黒田氏が「リスクプレミアムを圧縮する」というのは「PERがもっと上がってもETFをどんどん買う」という意味で、「日銀はどんどん株価を上げる」というPKO宣言とも解釈できる。これは岩田副総裁の「株価を上げてインフレにする」という「資産インフレ理論」と符合するので、岩田氏が黒田氏に進言したのだろう。

黒田氏は官僚には珍しい理論派で、オクスフォード大学に留学したときは、ハロッドやヒックスにケインズ理論を学んだという。マネタリーベースを倍増して金利や為替や株価を全面的に統制しようという彼の手法は、ケインズ主義を超えた一種の国家社会主義であり、安倍首相とは相性がいいだろうが21世紀に通じるとは思えない。

岩田氏や浜田宏一氏の依拠している本多・黒木・立花が実証したように、量的緩和の時期の株高は、結局インフレにも成長にも結びつかなかった。80年代と同じく、成長率が上がらないのに株価だけ上がっても、黒田PKOは株バブルが崩壊したら悲惨な結果になるおそれが強い。
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http://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list5/r99/r99_059_081.pdf
<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成22年第1 号(通巻第99 号)2010年2 月>

量的緩和政策―2001年から2006年にかけての日本の経験に基づく実証分析― *1

本多 佑三*2
黒木 祥弘*3
立花 実*4

*1 本稿はHonda 他(2007)を加筆修正した上で,日本語訳したものである。本稿の作成に当たっては,浅子和美,荒木幹夫,白塚重典,滝口勝行,田口博之,中林真幸,花崎正晴,福田慎一,福田祐一,宮尾龍蔵,柳沼寿,渡辺努の諸氏から有益なコメントをいただいた。また,日本経済学会(大阪学院大学で開催),研究セミナーあるいは研究会議(大阪大学,日本政策投資銀行,財務省で開催)に参加し本論に貴重なコメントをくださった皆様方にお礼申し上げる。さらに,鵜篭貴之氏および早瀬明穂氏に研究を補助していただいた。ここに謝意をもって記したい。

*2 大阪大学大学院経済学研究科教授
*3 中央大学経済学研究科国際経済専攻教授
*4 大阪府立大学経済学部准教授


要  約
多くのマクロ経済学者および中央銀行関係者は,短期金利がゼロの際のベース・マネー
の増加が効果を持つか否かについて議論を重ねてきた。本論は,2001 年から2006 年にか
けて日本で実施された量的緩和政策の効果を検証する。特に,量的緩和政策がマクロ経済
変数である生産や物価に及ぼす影響を計測し,その波及経路を検討する。手法は,ベクト
ル自己回帰(VAR)モデルによる。推定の結果,量的緩和政策が株価経路を通じて生産
高を増加させ,経済活動を刺激したことが明らかとなった。このことは,短期金利がゼロ
であったとしても,ベース・マネーの増加が政策効果を持つことを示唆している。
キーワード:ポートフォリオ・リバランス効果,株価経路,ベクトル自己回帰(VAR)モデル
JEL: E44,E52


I.はじめに

米国の金融機関の高いレバレッジに加え,住宅市場バブルの崩壊が引き金となり,2008 年に米国において金融システムの危機が生じた。
この金融危機は,米国における金融市場を非常にひっ迫させた。米国の金融市場における混乱は,2008 年9月のリーマン・ブラザーズの破綻後に急激に実体経済に波及し,世界経済は劇的に悪化した。こうした経済状況の悪化に対処するために,連邦準備理事会(FRB)は2008年12 月16 日に操作目標のフェデラル・ファンド・レートを0%−0.25%に設定した。FRBはさらに多額の政府機関債(agency debt)および住宅ローン担保証券(mortgage-backed securities)を購入し,住宅市場を支援することを決めた。

政府機関債および住宅ローン担保証券は,FRBのバランス・シートでは資産側に計上されることから,今回のFRBの金融緩和策はバランス・シートの資産側を重視したものと言える。これに対し,2001 年3月から2006 年3月にかけて実施された日本銀行の量的緩和政策では,バランス・シートの負債側に計上される当座預金勘定が操作目標とされた。ゆえに,FRBが今回実施した金融緩和策は日銀の量的緩和政策とは少し異なり,FRB自身も「信用緩和」と呼び区別している。

しかしながら,これらの2つの政策は,いずれの場合も短期金利が0%もしくは0%に近い状態で多額のベース・マネーを経済に注入している点で共通している。本稿では日本の量的緩和政策の効果を実証的に分析しているが,上記の理由により,本稿の実証結果は,米国における今回の信用緩和の効果を考える上でも有益となろう。以上の点を踏まえて,本論では米国の信用緩和策と日本の量的緩和政策を区別することなく,短期金利が0%もしくは0%付近での多額のベース・マネー注入を「量的緩和政策」と呼ぶことにする。

金融当局にとって量的緩和政策の実施を決断する際のもっとも重要な関心事は,短期金利がゼロあるいはほとんどゼロになった時に,ベース・マネーを増加させることが効果を持つかどうかという点にある。この点に関する理論研究には,相対立する2つの見解がある。最初の見
解は,少なくともHicks(1937)まで遡ることができる。Hicks は,IS-LMモデルにおいて,金利が下限に到達した状況では貨幣は国債の完全な代替資産となるため,この状況下の貨幣供給の増加には効果がないことを示した。このことをHicks は「流動性の罠」と呼んだ。また,Eggertsson and Woodford(2003)も,動学的一般均衡モデルを分析することによって量的緩和政策には効果がないことを示している。

これに対して,第二の見解はBernanke andReinhart( 2004),Bernanke他(2004)およびClouse 他(2003)によるものである。彼らによれば,短期金利がゼロであったとしても,ベース・マネーの増加は「ポートフォリオ・リバランス効果」および「シグナリング効果」を
通じて効果を持ち得る(ポートフォリオ・リバランス効果およびシグナリング効果については後で詳しく説明する)。

これら2つの見解は,それぞれの仮定の下では論理的に一貫しており正しいと思われる。しかしながら,両者は全く相対立する結論に到達
した。したがって,量的緩和政策に効果があるか否かという問題は,実証分析によって明らかにされるべき問題である。不幸なことに,これ
ら2つの理論を検証する経験データはこれまでほとんどなかった。しかし,2001 年3月から2006 年3月にかけて日本で実施された量的緩和政策が,我々に検証の機会を与えてくれることとなった。そこで本論は,2001 年から2006年の日本の経験を実証的に分析することによって,金利がゼロであった時にベース・マネーをさらに注入することが効果を持つか否かを検証する。

本稿では,ベクトル自己回帰(VAR)モデルという手法を使用する。本論の目的は量的緩和政策の効果を評価することにあり,ゼロ金利
下におけるマクロモデルを構築し,それを推定・評価することではない。したがって,近年盛んに実証研究に取り入れられている動学的確
率的一般均衡(DSGE)モデルによるアプローチではなく,標準的なVARの手法を用いることにする。VARの手法はマクロ経済モデルの構造に最小限の制約を加えるだけで,量的緩和政策の効果の計測を可能にすると考えられるからである。

分析にあたり, 最初にできるだけ小さいVARモデルを考え,生産高,物価,金融政策変数からなる3変数VARモデルを検討する。
この最小限のVARモデルでは,量的緩和政策が2つのマクロ変数,つまり,生産高と物価の2変数に与える影響を計測する。その結果,量的緩和のショックは物価にはあまり影響を与えなかったが,生産高を増加させたことが明らかになった。

そこで次なる問題は,量的緩和政策がどのような波及経路を通じて生産高に影響を与えたかという点である。もし,量的緩和政策がポートフォリオ・リバランス効果もしくはシグナリング効果を通じて働くとすれば,金融・資本市場がこれらの効果を伝えるのに重要な役割を果たすことになるはずである。したがって,金融・資本市場に関連するいくつかの変数を最小の3変数VARに加える。具体的な変数は,様々な満期の金利,株価,外国為替レート,および銀行貸出である。これらの金融変数を既述の3変数に一つずつ加えた4変数VARを考え,量的緩和政策の波及経路を調べる。その結果,量的緩和政策は株価の経路を通じて,実体経済に影響を及ぼしたことが明らかとなった。

さらに,株価を通じた波及経路の頑健性を調べるために,その他の変数もVARモデルに付け加える。追加する他の変数とは,日銀による長期国債の買入額,日銀による民間銀行保有株式の購入額,輸出額,銀行部門における不良債権残高の4変数である。これらの4つの変数は,ベース・マネーの増加とは独立して実体経済に影響を及ぼし得る変数なので,こうした変数の影響をコントロールする必要がある。そこで,4変数VARにこれらの変数を一つずつ入れて再推定することで,モデルの頑健性を検証する。その結果,依然として量的緩和政策が株価を通じて生産高に効果を持つことが示された。

論文の構成は以下のとおりである。第U節では,2001 年から2006 年にかけて日本で採用された量的緩和政策の概略を説明し,関連する実証研究を展望するとともに,量的緩和政策の理論的な効果についても議論する。第V節では,我々が分析に用いたVARモデル,政策ショックの識別方法,さらにデータについて説明する。第W節においては,3変数および4変数VARモデルの推定結果を報告する。第X節においては,4変数VARの推定結果の頑健性を検証する。第Y節では,本稿で得られた結論を要約する。

U.量的緩和政策:展望

U−1.量的緩和政策の概略

1990 年代初頭にそれまでの資産価格バブルが崩壊し,日本経済は長期の景気低迷に陥った。この間,日本銀行は政策金利であるコール・レートを下げ続け,ついには1999 年2月にゼロ金利政策を採用した1), 2)。しかしこの一連の金融緩和にも関わらず,日本経済は資産価格バブルの崩壊に起因する深刻な景気後退とデフレから脱却することができなかった。そこで2001 年3月に,日本銀行は量的緩和政策を導入した。日銀は,その操作目標をコール・レートから日本銀行当座預金(日銀当預)残高に変更し,コール・レートがゼロになるのに必要な額を超えて潤沢な流動性を供給し続けた3)。

1)コール・レートは,米国におけるフェデラル・ファンド・レートと同様,短期のインターバンク・レートである。日本銀行は,量的緩和期間を除き,無担保翌日物コール・レートを操作目標として用いてきた。
2)2000 年8月に,日銀は経済が回復しデフレ圧力が和らいだと判断し,ゼロ金利政策を解除しコール・レートを0.25%に引き上げた。しかしながら,世界的なITバブルの崩壊およびその後の日本経済の景気後退に直面し,2001年2月に日銀はコール・レートを再び0.15%に引き下げた。

−61−
金融政策決定会合が終わるとすぐに,日銀は日銀当預残高の目標水準を公表した。表1は政策変更の日付(左端の欄)および日銀当預残高の目標額(中央の欄)を掲載している。量的緩和政策が導入された当初の5兆円から2004 年1月の30 − 35 兆円まで,8回にわたって日銀当預の目標残高は引き上げられた。
当初日本銀行は,消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に0%以上になるまで量的緩和政策を継続すると約束していた。なお,日本銀行が重視した消費者物価指数は,生鮮食品を除く消費者物価指数(コア消費者物価指数)である。2003 年10 月には,日銀はその約束に関して,より詳細な内容を公表した。即ち,次の2つの条件が満たされるまで量的緩和政策を続けることを約束した。第一の条件は,コア消費者物価指数に基づくインフレ率が単月で0%以上となるだけでなく,基調的な動きとして0%以上であると判断できる,という条件である。第二の条件は,コア消費者物価指数に基づくインフレ率が,先行き再びマイナスとなることが見込まれない,という条件である4)。日本銀行は2006 年3月に5年に及ぶ量的緩和政策を解除したが,それは上記の2つの条件が満たされたからに他ならない。即ち,2005 年10 月以降,コア消費者物価指数に基づくインフレ率が0%を上回り続け(第一の条件の充足),さらに当時の堅実な経済回復を鑑みて,将来のインフレ率が正の値を取り続けると判断したことから(第二の条件の充足),2006 年3月に量的緩和政策に終止符を打った。

(注) 日本郵政公社の発足に伴い,2003 年4月1日に日銀は,当座預金残高目標を17 兆円から22 兆円の間に引き上げた。
3)日銀当預残高は,準備預金制度の適用を受ける金融機関の準備預金だけでなく,同制度の適用を受けない他の
金融機関(例えば証券会社)の預金も含む。
4)日銀は,これら2つの条件は必要条件であって,これらの条件が満たされたとしても,経済・物価情勢によっ
ては量的緩和政策を継続するのが適当と判断する場合も考えられるという文言も付け加えた。

−62−


U−2.量的緩和政策の理論的効果および関連
文献
本節では,日本における量的緩和政策の効果を計測したいくつかの実証研究を紹介するとともに,量的緩和政策の効果について理論的な側面から議論する。Bernanke 他(2004),Okinaand Shiratsuka (2004),Oda and Ueda(2007)の3つの研究は,量的緩和政策がイールド・カーブを下方にシフトさせるのに有効であったと報告している。特に,Okina and hiratsuka
(2004)およびOda and Ueda(2007)は,イールド・カーブの下方シフトは「時間軸効果」によってもたらされたとしている5)。時間軸効果とは,政策金利をゼロに据え置くという中央銀行のコミットメントが短期金利の先行きに関する市場の期待を安定化させ,その結果,長期金利が下がり経済が刺激される効果を指す。彼らの研究に従えば,ある条件が整うまではゼロ金利政策を維持するというコミットメントを通じて,量的緩和政策は有効に機能するということになる。

しかしながら,量的緩和政策の効果を理解するには,時間軸効果を計測するだけでは十分ではない。日銀が採用した量的緩和政策は,短期金利が既に下限の0%に到達していたにも関わらず,日銀当預残高の目標額を数回にわたって引き上げ,大量のベース・マネーを経済に供給するものであった。Bernanke and Reinhart(2004),Bernanke 他(2004)およびClouse 他(2003)によれば,このさらなるベース・マネーの供給は,「ポートフォリオ・リバランス効果」および「シグナリング効果」を通じて実体経済に影響を与える。

ポートフォリオ・リバランス効果の考え方は,Brunner and Meltzer(1963)やTobin(1969)といった古典文献に依拠している。ポートフォリオ・リバランス効果が生じるには,貨幣との代替が不完全な資産が存在するという仮定が必要となる。中央銀行が公開市場操作によってベース・マネーを追加的に供給すると,公開市場操作の性格上,貨幣以外の資産が代わりに減少する。もし減少した資産が貨幣と不完全代替ならば,投資家はポートフォリオを元に戻そうと,減少した貨幣以外の資産を購入しようとする。このような投資家のポートフォリオの再調整が,貨幣との代替が不完全な資産の価格を上昇させ(あるいは利回りを低下させ),その結果,経済活動が活性化することになる。
ポートフォリオ・リバランス効果は,短期金利がゼロの状況下でも発生し得る。なぜなら,短期金利がゼロとなったために短期債券と貨幣が完全代替資産となったとしても,その他の資産(例えば長期国債)も直ちに貨幣と完全代替とはならないからである。よって,ポートフォリオ・リバランス効果が前提とする不完全代替資産の仮定は,量的緩和期に日本が経験した,短期金利がゼロの状況下でさえも満たされている可能性がある。なお,短期金利が正の値をとるような通常の場合であってもポートフォリオ・リバランス効果は起こり得るが,短期金利がゼロあるいは限りなくゼロに近い場合の方が,ポートフォリオ・リバランス効果はより重要な意味を持つことになる。なぜなら,短期金利が低い状況においては,一般に金融政策の主要な波及経路と考えられる流動性効果が非常に小さくなるか,ほとんどなくなってしまい,ポートフォリオ・リバランス効果が流動性効果を上回ると考えられるからである6)。

一方,シグナリング効果とは,日銀が日銀当預残高の目標額を引き上げ,その新たな目標額を実現することによって,市場が抱いている短期金利の将来経路に対する期待を低下させる効果をいう。シグナリング効果は,コミットメントによって市場の期待を変化させる時間軸効果とよく似ている。しかしながら,シグナリング効果は,日銀当預残高目標額の引き上げとその達成という,市場関係者にとってより目に見えて分かりやすい形で,ゼロ金利を継続するという中央銀行の意図を市場に伝える点で異なる。

5)Fujiki and Shiratsuka(2002),Okina and Shiratsuka(2004)およびOda and Ueda(2007)の3論文は,ゼロ金利政策期間(1999 年2月〜2000年8月)にも時間軸効果が存在したという実証結果を報告している。
6)中央銀行が民間部門に貨幣を供給すると,名目利子率は貨幣の需給が一致するまで下落する。この効果を「流動性効果」と本論では呼ぶことにする。

−63−
そして,シグナリング効果が発揮されれば中長期金利が低下し,実体経済が活性化することになる。

以上のようなポートフォリオ・リバランス効果やシグナリング効果を念頭に,短期金利がゼロの時にベース・マネーを経済に注入した場合
に効果があるか否かを実証分析した先行研究には,Kimura and Small(2004),Oda and Ueda(2007),Kimura 他(2002),Fujiwara(2006)などがある。

Kimura and Small(2004) およびOda andUeda(2007)は,量的緩和政策の金融市場に対する影響のみに分析を絞っている。Kimura and Small(2004)はポートフォリオ・リバランス効果を検証し,日銀当預残高が増加すると,信用力の高い社債のリスク・プレミアムは下がるが,株式および信用力の低い社債のリスク・プレミアムは逆に上がるという結果を得ている。Oda and Ueda(2007)は,日銀当預残高の増加が日本の中長期国債の利回りを下げる効果を持ち,その効果はシグナリング効果を通じ
たものであると報告している。また,ポートフォリオ・リバランス効果を通じた効果はないとも結論付けている。しかしながら,これらの2つの研究は,いずれもマクロ経済変数に対する影響を調べていない。

Kimura 他(2002)およびFujiwara(2006)は,VARに基づく手法を用いて,ベース・マネーの増加が,2つの重要なマクロ経済変数である生産および物価に与える影響を検討している。これらの研究では,金利がゼロの時にベース・マネーを拡大しても,生産および物価に対してはほとんど効果がなかったことを示している。即ち,彼等が得た実証結果は,量的緩和政策のマクロ経済に対する有効性を支持するものではなかった。

本論においても,ベース・マネーの増加が生産および物価に与える影響をVARの手法を用いて調べることにする。しかしながら,われわ
れの分析方法は,Kimura 他(2002)およびFujiwara(2006)の論文とは2つの点で異なる。

第一に,本論の標本期間は,量的緩和政策の実施期間と完全に一致している。これに対して,Kimura 他(2002)は1985 年第3四半期− 2002年第1四半期を,Fujiwara(2006)は1985年1月− 2003 年12 月を標本期間として採用しており,量的緩和政策の実施期間である2001 年3月− 2006 年3月と完全には一致していない。
本論のように量的緩和政策の終了期間まで標本を拡大することによって,量的緩和政策の効果をより正確に測ることができる。
また,本論では量的緩和政策の実施以前の標本を含んでいない。なぜなら,量的緩和政策がそれ以前の金融政策運営とは全く異なるからである。即ち,日銀の操作目標として,量的緩和政策以前はコール・レートが採用されていたが,量的緩和政策の実施期間中は日銀当預残高に変更された。その意味で大きな構造変化があったと考えられ,本稿では量的緩和期間以前の標本は分析に含めていない。もちろん,先行研究ではそうした構造変化の問題を回避するために,Kimura 他(2002)は係数の変化を許すVARを推定し,Fujiwara(2006)はマルコフ・スイッチングVARを推定している。こうした彼らの努力は理解できるが,量的緩和政策の効
果を評価する最初のアプローチとしては,量的緩和政策の実施期間のみを標本期間とするのが適切であると考えられる。

本論の分析方法が2つの先行研究と異なる第二の点は,量的緩和政策の波及経路をより注意深く,また,包括的に調べている点である。
Kimura 他(2002)では,物価,生産および金融政策変数(マネタリー・ベースおよびコール・レート)だけがVARに含まれており,波及経路に関係すると思われる変数は全く考慮されていない。また,Fujiwara(2006)においても,10 年物の国債利回りだけが追加されているだけである(これら先行研究では,量的緩和政策はマクロ経済に対してあまり効果がなかったという結論が得られたため,波及経路についてまでは検討する必要がなかったかもしれな

−64−
い)。第I 節で述べたように,もしポートフォリオ・リバランス効果もしくはシグナリング効果があるならば,これらの効果を実体経済に伝達するうえで金融変数が重要な役割を果たすはずである。シグナリング効果の場合には,短期および中長期の名目金利が波及経路として重要な変数となる。また,ポートフォリオ・リバランス効果については,貨幣と不完全代替資産となっている資産はすべて波及経路変数の候補となる。そこで本論では, 様々な金融変数をVARに追加することによって波及経路を検討する。


V.VARモデル,識別およびデータ

本節では,量的緩和政策の効果を評価するために2つのモデルを推定する。第一のモデルは,生産高,物価および金融政策変数の3変数だけからなるVARモデルである。この3変数VARモデルを用いて,量的緩和ショックが2つの重要なマクロ経済変数,即ち生産および物価に対して与える影響を評価する。後で示すように,推定されたインパルス応答関数によれば,量的緩和ショックは生産高水準を持続的に増加させることになる。
量的緩和ショックがどのように実体経済に伝わるのかについては,3変数VARだけでは確認できない。そこで,波及経路を明らかにする
ために,次にいくつかの4変数VARを推定する。具体的には,先述の生産,物価,金融政策変数の3変数に加え,波及経路の候補となる金融変数を一つずつ追加する。付け加える金融変数としては,様々な満期の金利,株価,外国為替レートそして銀行貸出である7)。ポートフォリオ・リバランス効果やシグナリング効果を通じて,量的緩和は名目金利を引き下げ,株価を上昇させ,円を減価させるかもしれない。このような金融変数の反応はすべて実体経済を刺激することになる。さらに,日本銀行の公開市場操作によって得られた追加的なベース・マネーを利用し,民間銀行は貸出を増加させるかもしれない。こうした理由から,これらの金融変数を波及経路の候補として採用し,それらを一つずつ含めた4変数VARを推定する。
VARにおけるラグの長さは,2ヵ月間に設定されている。この2ヵ月という長さは,標準3変数VARにおいて,赤池情報量規準(AIC)
に基づき選択されたラグの長さである(最大ラグは6ヵ月と設定した)8)。

金融政策ショックを識別するために,同時点の変数間に逐次的(リカーシブ)制約を課すことにする(即ち,コレスキー分解によって金融
政策ショックを識別する)。これは最も簡単な識別方法であり,多くのVAR文献で用いられてきた。前節で説明したように,本論は量的緩和政策の実施期間を全てカバーし,また波及経路を包括的に調べた最初の研究である。したがって,量的緩和政策の効果についてのベースとなる結論を得るためには,この広く用いられた単純な識別方法を用いるのが最適と考える。


7)日本の金融政策が金融市場に与える影響を,VARの手法を用いて実証的に分析した文献としては,Brown andShioji(2006)やMiyao(2000,2002)が挙げられる。Brown and Shioji(2006)は,金融政策とイールド・カーブの関係を調べている。Miyao(2000)はVARモデルに外国為替レートを入れて分析しており,Miyao(2002)は株価を入れて分析している。ただし,これらの研究はいずれも,短期金利が正となっている正常な期間が分析対象である。
8)1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月のラグの長さを用いても,得られた結果は本質的には変わらなかった。しかしながら,ラグの長さが6ヵ月の場合には,滑らかな形状のインパルス応答関数が得られなかった。これは,推定すべきパラメータの数が標本数に比べてあまりにも多すぎるためだと考えられる。

−65−

3変数VARにおける変数の順番については,生産高,物価,金融政策変数の順に並べる。この順番は,日銀が政策変数を決める際には同時点の生産高と物価を観察しているが,生産高および物価は,金融政策ショックに対して1期遅れて反応するという仮定に基づいている。また,4変数VARにおいては,付け加えられた金融変数を最後に置いている。このことは,金融市場が政策ショックに対し即座に反応することを仮定している。このマクロ経済変数,金融政策変数,金融変数という順番は,Christiano他( 1996),Edelberg and Marshall( 1996),Evans and Marshall (1998),Thorbecke (1997)と同様である9)。

本論では月次データを用い, 標本期間は2001 年3月から2006 年2月までとする10)。生産高のデータとしては,鉱工業生産指数(IIP)を用いる。物価のデータとしては,量的緩和の実施期間中,日銀が物価指数の中で最も重視していたコア消費者物価指数を用いる11)。金融政策変数としては,日銀当預残高の目標額を用いる。この変数の値については,表1の右端の欄を参照されたい。日銀当預残高の目標額が,水準ではなく幅をもって公表された場合(9回公表されたうち6回の場合がそうであった),幅の中間値を金融政策変数の値とした。2001 年9月から2001 年11 月については,日銀当預残高の目標額は「6兆円を超える」という内容であった。この場合,日銀当預残高の実績値の日次データを月次平均した値を用いた(2001 年9月:8兆円,2001 年10 月:8.7 兆円,2001 年11 月:9.3 兆円)12)。VARで推定する際に,初期値として2001 年3月以前のデータも必要となるが,その初期値にも日銀当預残高の実績値の日次データを月次平均した値を用いた(2001年1月:4.8 兆円,2001 年2月:4.3 兆円)。名目金利については,満期が1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月,12ヵ月のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)と,満期が2年,3年,5年,7年,10 年のスワップ・レートを用いた。株価は日経平均株価を用いた。外国為替レートについては,実質実効為替レートを用いた。銀行貸出額としては,銀行(信用金庫を除く)の総貸出平均残高を用いた13)。名目金利以外のすべての変数については,対数に変換し100 を乗じた14)。
これらのデータに関する詳しい情報は,すべて補論にまとめた。最後に,図1は本論で用いたデータの時系列グラフである。

9)4変数VARを他の6 通りの変数順序で推定したとしても同様の結果が得られた。6通りのケースとは,(P,Y,M,F),(Y,P,F,M),M,Y,P,F),(M,F,Y,P),(F,Y,P,M),そして(F,M,Y,P)である。Pは物価,Yは生産高,Mは金融政策変数,そしてFは金融変数をそれぞれ表している。
10)2006 年3月期の標本は除外した。なぜなら,量的緩和政策は2006 年3月には非常に短い期間しか実施されなかったからである(量的緩和政策は2006年3月9日に解除された)。
11)総務省は,2006 年8月より,2000 年基準の消費者物価指数に変えて2005 年基準の消費者物価指数を公表し始めた。2005年基準を用いると,2006年7月のインフレ率が大幅に下方修正されることになり,市場関係者を驚かせた。この2000 年基準と2005 年基準の指数の違いは,量的緩和政策の実施期間においても大きいものと考えられる。例えば,量的緩和政策の解除直前である2006 年2月のインフレ率は,2000年基準(コア消費者物価指数,季節調整済)で計算すると0.6%となるが,2005 年基準のそれは0.0%となってしまう。この点を踏まえ,本論では2000 年基準の消費者物価指数データを用いた。なぜなら,日銀および市場参加者は,リアルタイムでは2000年基準を量的緩和期間の本当の物価指数だと認識しており,そして,その認識に基づいて行動していたからである。(例えば,もし日銀が2005 年基準の消費者物価指数を真の物価指数として用いていたならば,2006 年2月のインフレ率は0.0%となり,量的緩和政策は2006年3月には解除されなかった可能性が高い。)
12)日銀当預残高の日次データは,日経NEEDSのFinancial QUESTから得たものである。
13)他のデータを用いて,本論の結果の頑健性をチェックした。他のデータとは,日銀当預残高の実績値,10 年物の国債利回り,東証株価指数(TOPIX),実質株価(コア消費者物価指数によってデフレート),名目実効為替レート,実質貸出額(コア消費者物価指数によってデフレート)である。こうした様々な変数を用いてVARを推定し直したとしても,同様な結果を得ることができた。

−66−


W.実証結果
W−1.3変数VAR

最初に,鉱工業生産,コア消費者物価および日銀当預目標残高の3変数からなる最も単純な3変数VARを推定する。図2は,推定された全てのインパルス応答関数を表している。1列目は生産ショックの各変数に及ぼす動学的影響,2列目は物価ショックの影響,3列目は量的緩和ショックの影響をそれぞれ示している。各ショックの大きさは,すべて1標準偏差である。実線はインパルス応答関数の点推定を表し,また点線は上下2標準誤差の幅の信頼区間を表している。なお,信頼区間の推定は,モンテカルロ・シミュレーションの500 回の繰り返し計算による。


14)推定にあたっては,変数の水準を用いてVARを推定した。この方法にしたがえば,個々の変数が仮に非定常であったとしても,推定の一致性は保証される。もうひとつの代替的な方法として単位根検定を用いて各時系列の非定常性を検定することが考えられる。しかし,この手法には重大な欠陥がある。本論が想定しているように仮に観察値がVARシステムから生み出されたとすると,単位根検定を検定する式には定式化に誤りがあり,正しく検定することができないことになる。たとえば,本論の3変数VARモデルにおいて鉱工業生産の単位根の存在を検定する場合,VARモデルにおける鉱工業生産は,一期前の鉱工業生産だけでなく,コア消費者物価や日銀当預目標残高のラグ付き変数にも依存する。コア消費者物価や日銀当預目標残高のラグ付き変数を無視して一期前の鉱工業生産だけで単位根の存在を検定すれば,検定結果にはバイアスが入ることになる。いくつかの代替的な接近法のメリット,デメリットを十分に考慮した上で,すべての変数について変数の水準を用いてVARを推定するのが最も真実に迫れると判断し,変数の水準を用いることとした(詳しくは,Hamilton, 1994,pp.651-653を参照されたい)。

図1 時系列データ
(注) 図1は,本稿の推定で用いられたデータの時系列グラフである。縦線は,日銀が当座預金残高目標を変更した時点を示している。
 
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図2においては,次の3点が興味深い。第一に,量的緩和ショックは,生産高を持続的に増加させている。量的緩和ショックに対して,鉱工業生産はショックの2ヵ月後から増加し始め,8ヵ月後にピークを迎える(ショックの1ヵ月後における鉱工業生産の反応はマイナスとなっているが,非常に小さく有意ではない)。特に注目すべき点は,鉱工業生産の正の反応は7ヵ月後および8ヵ月後には有意にゼロから離れている点である。そこで次項においては,量的緩和ショックが生産高水準を増加させるまでの波及経路を調べることにする。
第二に,量的緩和ショックに対する消費者物価の反応は非常に小さく,全期間を通じてゼロから有意に離れていない。即ち,日銀はデフレを回避するために量的緩和政策を採用したが,量的緩和政策が一般物価を上昇させるのに成功したという統計的な証拠を得ることはできなかった。
第三に,負(正)の物価ショックに対して日銀当預目標残高が増加(減少)している。一方で,日銀当預目標残高は生産ショックに対してはほとんど反応していない。このことは,日銀が生産高よりも物価により力点を置いて政策運営を行ったということを示唆している。日銀が公表した量的緩和政策を解除する際の2つの必要条件では,(将来予想も含めた)インフレ率に言及しているだけで実体経済については触れていない。よって,本論の実証結果は日銀の公式声明とも合致していると言えよう。

W−2.波及経路

前項において,量的緩和政策が生産高の水準を増加させる上で有効であったことが明らかになったが,それがどのような波及経路を経て実体経済に及んだかについては定かではない。そこで,本項ではいくつかの4変数VARを推定することによって,その波及経路を調べる。4

図2 3変数VARのインパルス応答関数
(注) グラフは,3変数VARのもとで推定されたインパルス関数を表している。3変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,日銀当預残高目標からなる。点線は,上下2標準誤差の幅の信頼区間を表している。

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変数VARは,前項の3変数VARに金融変数を1つずつ加えたものである。
図3は,量的緩和ショックに対する金融変数のそれぞれの動学的反応を示している。図AからI までは,様々な満期の名目金利のインパルス応答関数である。図J からLまでは,株価,為替レート,銀行貸出のインパルス応答関数である。これらのグラフを見ると,ほとんどのグラフにおいて,ある期間以降は信頼区間の幅が著しく大きくなっていることに気付く。本論では,5年という比較的短い標本期間を対象に4変数VARを推定している。したがって,信頼区間の幅が大きくなるのは,推定するパラメータと比較して標本数が少ないためと考えられる。しかしながら,政策ショックが起こってから約1年間は,信頼区間の幅が比較的狭い。このことは,少なくとも量的緩和政策の1年以内の短期的効果に関しては,本稿の推定結果は信頼性があることを示唆している。したがって,量的緩和政策の短期的効果に焦点をあてて,以下では議論を進める。
図3において最も顕著な結果は,量的緩和ショックが一貫して株価を押し上げている点である(図J)。株価の正の反応は,2ヵ月から8ヵ月にかけて有意にゼロから離れている。したがって,量的緩和政策は株価の経路を通じて効果があったとみられる。後ほど,株価を含んだ4変数VARのすべてのインパルス応答関数の結果を報告し,株価経路の存在に関して詳しく検討する。
次に,図AからI までの結果を見ると,量的緩和ショックに対して名目金利は下落していない(1ヵ月物の短期金利が最初の2ヵ月間だけ下落しているだけで,その場合も負の効果は非

図3 量的緩和ショックが金融変数に与える効果
(注) それぞれのグラフは,量的緩和ショックが金融変数に与える動学的な効果を示している。インパルス応答関数は4変数VARを用いて推定されている。4変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,日銀当預残高目標,金融変数からなる。用いられた金融変数は,様々な満期の名目利子率,株価,外国為替レートおよび銀行貸出額である。点線は,上下2標準誤差の幅の信頼区間を表している。

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常に小さく有意ではない)。むしろ,長期金利に関しては正の反応が観察される。さらに,満期が長ければ長いほど正の反応は大きくなっている。図Kにおいては,量的緩和ショックは円を減価させている(実効為替レートの下落は円の減価を意味する)。しかしながら,円の減価は期間を通じて有意ではない。最後に,図Lにおいては,量的緩和ショックに対して銀行貸出は減少している。
以上の結果を要約すれば,量的緩和政策は株価を有意に上昇させ,円を若干減価させる。これら2つの効果は,ともに経済に拡張的な影響
を与えると考えられる。他方,量的緩和ショックは名目金利を上昇させ,銀行貸出を減少させるが,これらは経済に拡張的な刺激を与えるものではない。
図3の結果は,一見すると奇異な印象を与えるかもしれない。なぜなら,量的緩和ショックに反応して名目金利は下がるどころか上がっているし,銀行貸出も増えてはいないからである。しかしながら,これらの結果はポートフォリオ・リバランス効果の考えと整合的なものと考えることができ,次のように解釈することができる。即ち,図3の結果より,日銀からの追加的な貨幣を手にした(民間銀行を含む)投資家達は,ポートフォリオにおける(銀行貸出を含む)利子生み資産の構成割合を減少させ,株式の構成割合を増加させ,そして外国資産の構成割合を若干増加させた,と解釈できる。こうした投資家の行動は,当時の国内金融市場の状況によって説明できる。量的緩和時の金融市場は,@利子生み資産の利回りは,ほとんどゼロに近かった(利子生み資産の価格は非常に高い水準にあった),A株価は1980 年代後半以来,最低水準にあった,B国内の金融資産の利回りは,海外の金融資産の利回りに比べて低かった,C銀行は多額の不良債権を抱えていた,という状況であった。当時のこのような状況下では,(銀行貸出を含む)利子生み資産は高いリスクを抱え,株式あるいは外国資産を保有した方がリスク対リターンの観点から有利である,と投資家は考えたかもしれない。したがって,日銀からさらなる流動性の供給を受けた際に,投資家達は自身の資産構成を再調整し,株式および外国資産をより多く保有し,他方で利子生み資産を減らす行動をとった可能性が高い。そしてその結果,図3が示すように,量的緩和政策が株価の上昇,(僅かな)為替レートの減価,金利の上昇,貸出量の減少をもたらしたと考えられる15)。

さらに,満期の長い金利の方が満期の短い金利よりも反応が大きかったという実証結果(図A〜I)についても,ポートフォリオ・リバランス効果の解釈に従えば次の通りとなる。即ち,投資家達が将来の金利上昇を懸念し,短期の利子生み資産よりも長期の利子生み資産の保有に対してリスクを高く見積もったために,長期の利子生み資産の方をより多く売ろうとしていたと解釈できる。
また,図3の結果は,ポートフォリオ・リバランス効果が,流動性効果およびシグナリング効果の両効果を凌駕していることも示唆している。流動性効果やシグナリング効果が大きければ,名目金利は量的緩和ショックに反応して低下するはずである。しかしながら本論の実証結果では,名目金利は量的緩和ショックに対して上昇した。このことは,ポートフォリオ・リバランス効果が量的緩和期間中には支配的だったということを示唆している16)。

15)利子率および銀行貸出の反応に関しては,以下に述べるような別の解釈も可能である。まず,利子率が正の反応を示したのは,インフレ期待が上昇していることを反映しているのかもしれない(フィッシャー効果)。他方,銀行貸出が負の反応を示したのは,量的緩和政策は銀行貸出を増加させなかったが,銀行貸出の減少を軽減していたという解釈が成り立つかもしれない。実際,銀行貸出は量的緩和期間を通じて減少し続けていた(図1)。
銀行貸出の減少は,銀行貸出に対する需要と供給がともに弱かったために引き起こされていた可能性がある。弱い需要とは,借手である企業の過剰負債,過剰設備,過剰雇用によるものであり,弱い供給とは,貸手である銀行の不良債権問題および低い自己資本比率によるものである。

−70−

本論の実証結果は,Kimura and Small( 2004)やOda and Ueda (2007)とは異なるものとなった。Kimura and Small(2 004)では,量的緩和政策はポートフォリオ・リバランス効果を通じて,株式のリスク・プレミアムを上昇させるという結果であった(したがって量的緩和策は株価を下げると解釈できる)。また,Oda andUeda (2007)は,日銀当預残高の増加はシグナリング効果を通じて中長期の金利を下げるという結果を得ている。これらの結果は本論の結果と異なるが,その要因は,標本期間,データの期種,推定方法が異なるという点に求められる。Kimura and Small( 2004)は,日次データを用いて,株式のリスク・プレミアムを日銀当預残高および他の関連する変数で回帰している。彼らの標本期間は,2000 年1 月21 日−2003 年6月30 日もしくは2000 年1月21 日−2004年3月31日である。Oda and Ueda (2007)は,1980 年第1四半期− 1999 年第1四半期のデータを用いてマクロ経済モデルを推定した上で,マクロ・ファイナンスの手法を用いて,1995 年第1四半期− 2005 年第1四半期の名目利子率を期待部分とリスク・プレミアム部分に分解している。さらに,その2つの構成要素に及ぼした時間軸効果の大きさを表す変数を,日銀当預残高および他の関連変数で回帰している。その際の標本期間も,1995 年第1四半期− 2005 年第1四半期,もしくは1996 年第3四半期−2005年第1四半期である。

以上の推定結果より,量的緩和政策の実施期間における日本経済の動学的側面を捉えるためには,VARモデルに株価を入れた方がよいと
いうことになる。図4は,4変数VARのすべてのインパルス応答関数である。4変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,日銀当預目標残高,株価からなる。
図4の3列目を見ると,量的緩和ショックに対して,鉱工業生産の反応は株価の反応よりも遅くなっている。鉱工業生産は2ヵ月後から上昇し始め,9ヵ月後にピークを迎えるのに対し,株価は1ヵ月後から上昇し始め,6ヵ月後にピークを迎える。この結果は, 量的緩和ショックがまず株価を引き上げ,その株価上昇によって生産高が増加するという,株価経路のシナリオと整合的である。

株価が上昇すると生産高が増加する経路としては,次の4経路が考えられる。第一の経路は,株価が上昇することによって家計の富が増加し,その富の増加が消費を増加させるという経路である(資産効果)。第二の経路は,Tobinのq が高くなることによって企業の投資が増加するという経路である。第三の経路として,借手の外部資金プレミアムが低下することによって銀行貸出が増加するという経路である(クレジット・チャネルのうちのバランスシート・チャネル)。第四の経路は,銀行の自己資本比率が改善することによって銀行貸出が増えるという経路である。本論の実証結果では,量的緩和ショックが銀行貸出を増やしていないという結果となったが(図3のL),このことは,4つの経路のうち第三,第四の経路は非常に弱く,第一,第二の経路の双方あるいは一方が強く働いていたことを示唆している。

以上の解釈は,株価から鉱工業生産への真の因果性が存在していることを前提とした議論である。これに対し,株価も鉱工業生産も実は同
時点の同じ情報に反応しているのであるが,株価は数ヶ月先の景気動向を現在の情報として織り込んでいるので(forward-lookingなので),株価があたかも鉱工業生産に影響を与えているように見えるという解釈もありうる。あるいは,上述の真の因果関係とみせかけの因果関係
の両者が混在している可能性もある。両者を識別するのは難しい。図4においては,以上の結果に加えてさらに

16)名目金利が量的緩和ショックに対し負の反応を示さないという実証結果は,時間軸効果の存在を示したOkina and Shiratsuka(2004)およびOda and Ueda(2007)を否定するものではない。なぜなら,時間軸効果は日銀当預残高の増加とは独立して生じるものであり,ゼロ金利下での日銀当預残高の増加の影響を調べている本稿では,時間軸効果の有無までは検証していないからである。

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3つの注目すべき結果が得られている。第一に,量的緩和ショックはコア消費者物価を上昇させるが,3変数VARの場合と同様に,その反応は非常に小さく期間を通じて有意ではない。このことは,量的緩和政策が物価水準に対してはほとんど影響を与えなかったことを示唆している。第二に,日銀当預目標残高は,負(正)の物価ショックだけでなく,負(正)の株価ショックに対しても上昇(減少)している。第三に,正の株価ショックは鉱工業生産を増加させており,この点も株価経路の存在と整合的である。
次に,分散分解による分析結果を述べる。表2は,株価を含めた4変数VARの分散分解の結果を示している。表の値は,2ヵ月,6ヵ月,12ヵ月先の予測誤差分散のうち,金融政策ショックによって説明される割合を示したものである。括弧内の数値は標準誤差だが,それは500 回の繰り返し計算によるモンテカルロ・シミュレーションによって求めている。金融政策ショックは,鉱工業生産および株価の予測誤差分散の多くの部分を説明している。例えば,6ヵ月先では,鉱工業生産の予測誤差分散のうち16%,株価の予測誤差分散のうち34%を金融政策ショックが説明している。他方,コア消費者物価の予測誤差分散については,わずかな割合しか金融政策ショックは説明できない。例えば,6ヵ月先では,予測誤差分散のうち3%しか説明できない。したがって,量的緩和期間中,金融政策は生産高や株価の変動の多くの部分に影響を及ぼしたのに対し,一般物価の変動にはほとんど影響力を持たなかったことが分かる。

図4 4変数VARのインパルス応答関数
(注) グラフは4変数VARのもとで推定されたインパルス応答関数を示している。4変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,
日銀当預残高目標,株価からなる。点線は,上下2標準誤差の幅の信頼区間を表している。

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以上の結果は,図4のインパルス応答関数による実証結果を補完するものと言えよう。

最後に,株価を含んだ4変数VARについて,Grangerの因果性検定を行った結果を報告する。
表3は,Granger の因果性検定(F検定)の結果である。左側の欄には,日銀当預目標残高が,鉱工業生産,コア消費者物価,および株価にGranger の意味で因果性を持たないという帰無仮説に対するp値を示している。右側の欄には,株価が,鉱工業生産,コア消費者物価,および日銀当預目標残高にGranger の意味で因果性を持たないという帰無仮説に対するp値を示している。左側の欄においては,日銀当預目標残高が株価に対してGranger の意味で因果性を持たないという帰無仮説が1%の有意水準で棄却されており,日銀当預目標残高から株価へのGranger の意味での因果関係が示唆される。また,右側の欄においては,株価が鉱工業生産に対してGranger の意味で因果性を持たないという帰無仮説が6%の有意水準で棄却されており,株価から鉱工業生産へのGranger の意味での因果関係が示唆される。したがって,分散分解の結果と同様,Granger 因果性検定の実証結果も,株価経路の存在を示唆したインパルス応答関数による実証結果を補完するものとなった。

表2 金融政策ショックによって説明される予測誤差分散の割合
(注) Granger因果性検定は4変数VARに対して行われている。4変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,日銀当預残高目標,
株価からなる。表の数値は,Granger 因果性検定のp値を表している。左側の欄は,日銀当預残高目標が鉱工業生産,コア
消費者物価,株価にGrangerの意味で影響を与えないという帰無仮説に対するp値である。右側の欄は,株価が鉱工業生産,
コア消費者物価,日銀当預残高目標にGrangerの意味で影響を及ぼさないという帰無仮説に対するp値である。

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X−1.他の金融政策手段の影響をコントロール

量的緩和政策の実施期間において,日銀は当座預金残高を増加させた以外に,2つの非伝統的な政策手段を実施した。第一に,長期国債の買入額の増額であった。1ヵ月あたりの長期国債の買入目標額は,2001 年8月に4千億円から6千億円へ,さらに2001 年12 月には8千億円に,2002 年の2月には1兆円に,2002 年10月には1兆2千億円に次第に増額された。第二の政策は,民間銀行が保有している株式を購入することであった。この政策は,2002 年12 月から2004 年9月にかけて実施された。購入された株式の総額は,2004 年9月時点で約2兆円に達した。
日銀の見解によれば,これら2つの政策の導入は,経済活動を直接的に刺激することを必ずしも意図した訳ではなかった。実際のところ日銀は,増額した当座預金残高の目標額を円滑に達成するために,長期国債の買入額を拡大させた。また,日銀が民間銀行の保有する株式を購
入し始めたのも,銀行が保有している株に関わるリスクを軽減するのが目的であった。当時すでに民間銀行は深刻な不良債権問題を抱えてお
り,株式保有による株価下落リスクは,金融システムにさらなる追い討ちをかけると日銀は懸念したのである。しかしながら,日銀の意図は別にしても,これら2つの政策が,日銀当預目標残高の増額の効果とは独立して,生産高,物価,株価に影響を及ぼしたかもしれない。したがって本項では,国債買入額の増額と銀行保有株式の買い取りという2つの金融政策手段の効果をコントロールした上で,前節の結果が成立するか否かを検証する。
以上の目的のために,株式を含んだ4変数VARモデルに,さらに長期国債買入額の1ヵ月あたりの目標額もしくは銀行保有株式の購入総額を追加する(両変数とも対数に変換し100を乗じる)17)。変数順序については,長期国債の買入目標額もしくは購入株式の総額を,日銀当預残高目標の直後とした。
図5における(A)欄は,長期国債の買入目標額を加えた5変数VARにおいて,量的緩和ショックに対する各変数の動学的反応を示している。これらのインパルス応答関数の形状は,図4の3列目とほぼ同じである。つまり,長期国債の買入目標額の影響をコントロールしても,量的緩和策が株価経路を通じて生産高に影響を及ぼすことが依然として確かめられた。
図5における(B)欄は,銀行保有株式の購入額を含めた5変数VARの推定結果である。
このモデルで推定されたインパルス応答関数の形状は,これまでのモデルとは少し異なる。特に,鉱工業生産および株価の正の反応が小さくなった。しかしながら,それでも鉱工業生産および株価の反応は,ある一部の期間においてゼロから有意に離れており,株価は鉱工業生産よりも早いタイミングで反応している。したがって,日銀による株式購入の影響をコントロールしても,やはり株価経路の存在が示唆された18),19)。

X.頑健性の検証

17)日銀は,2002 年12 月− 2004 年9月の購入株式総額を報告している。それ以前の値については,0(対数値)と設定した。日銀は,量的緩和政策期間中には株式を売却しなかったので,2004 年10 月以降の全期間については2004年9月の値を設定した。
18)これら2つの金融政策手段が,生産高,物価,株価に影響を与えたことを示す明らかな証拠は得られなかった。

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図5 長期国債の買入目標額もしくは銀行保有株式の購入額をVAR モデルに加えた時の量的緩和ショックの効果
(注)( A)欄は,5変数VARから推定された量的緩和ショックの動学的効果を表している。5変数とは,鉱工業生産,コア消費
者物価,日銀当預残高目標,株価,日銀による長期国債買入目標額からなる。(B)欄は,やはり5変数VARモデルから推
定された量的緩和ショックの動学的効果を示したものである。こちらのモデルの5 変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,
日銀当預残高目標,株価,日銀による株式購入額からなる。点線は,上下2標準誤差の幅の信頼区間を表している。
19)紙面の制約上,分散分解およびGranger の因果性検定の結果を表に示すことは省略するが,いずれの分析にお
いても株価経路の存在を支持する結果となった。即ち,分散分解においては,量的緩和ショックが鉱工業生産お
よび株価の12ヵ月先の予測誤差分散の20%以上を説明している。Grangerの因果性検定においては,日銀当預残
高目標額がGranger の意味で株価に影響を与えないという帰無仮説を,通常の有意水準で棄却することができる
し,また,株価が鉱工業生産にGranger の意味で影響を与えないという帰無仮説も,通常の有意水準で棄却する
ことができる。

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X−2.輸出額および不良債権残高の影響をコントロール

量的緩和期に経済は回復基調に反転したが,
それは日銀の量的緩和政策のみならず,他の2
つの要因も重要であった。即ち,諸外国の顕著
な経済成長を背景とした輸出額の大幅な増加,
および銀行部門の不良債権残高の大幅な減少で
ある。そこで本項では,これまで得られた本論
の実証結果の頑健性をチェックするために,こ
れら2つの要因の効果をコントロールすること
にする。そのために, 株価を含めた4 変数
VARモデルに,輸出額もしくは不良債権残高
を加えた5変数VARを推定する(両変数とも
対数に変換し100 を乗じる)20)。変数順序につ
いては,輸出額を最初に置く。なぜなら,輸出
は海外の経済状況に依存しており,最も外生的
だと考えられるからである。また,金融変数で
ある不良債権残高変数は最後に置く。
図6の(A)欄は,輸出額を加えた5変数
VARについて,量的緩和ショックに対する各
変数の動学的反応を示している。(B)欄は,
不良債権残高を含んだケースを示している。両
ケースとも,推定されたインパルス応答関数は
図4の3列目とは若干異なっている。即ち,
(A)欄においては,図4よりもコア消費者物
価の反応が大きく,株価の反応はより持続性が
ある。(B)欄においては,鉱工業生産,コア
消費者物価,株価の反応はいずれも小さい。し
かしながら,(A),(B)欄とも,鉱工業生産お
よび株価の反応はいずれも正の値であり,ある
期間ではゼロから有意に離れている。しかも,
株価は鉱工業生産よりも早く反応していること
が見てとれる。したがって,輸出額および不良
債権残高の影響を考慮に入れても,株価経路の
存在を示唆する実証結果を依然として得ること
ができた21)。

図6は,他にも2つの興味深い結果を示して
いる。第一に,(A) 欄において, 量的緩和
ショックは輸出を持続的に増加させる(ただ
し,輸出の反応は最初の1ヵ月間を除くと,期
間を通じて有意ではない)。図3のKから分か
るように,量的緩和ショックは円を減価させる
(この円の減価もやはり有意ではない)。した
がって,量的緩和政策は,外国為替レートを通
じた効果がある可能性を完全には否定できな
い22)。第二の興味深い点は(B)欄にある。量
的緩和ショックは不良債権残高を持続的に減少
させるが(その反応は期間を通じて有意ではな
い),その減少のタイミングは,鉱工業生産が
増加するタイミングよりも遅い。このことは,
量的緩和政策が,実体経済を活性化させること
で不良債権残高の削減に貢献したことを示唆している。

20)不良債権残高のデータは各年の3月末および9月末しか存在しないので,月次データを作成するために本稿で
は線形補間法を用いた。
21)分散分解およびGranger の因果性検定の結果は,1つの例外の場合を除いて,すべて株価経路の存在を支持す
るものとなった。例外とは,輸出を含めた5 変数VARのケースで,株価が鉱工業生産にGranger の意味で影響を
与えないという帰無仮説が,10%の有意水準でも棄却できなかったことを指す。
22)輸出を含めた5変数VARに外国為替レートを追加した6変数VARでも,同様な結果が得られた。


−76−
短期金利がゼロの際に,中央銀行がベース・
マネーを経済に注入することが効果を持つか否
かについて,世界の多くのマクロ経済学者およ
び中央銀行関係者が議論を重ねてきた。本論
は,2001 年から2006 年にわたって日本におい
て実施された量的緩和政策の効果を検証するこ

図6 輸出額もしくは不良債権残高をVARモデルに加えた時の量的緩和ショックの効果
(注)( A)欄は,5変数VARから推定された量的緩和ショックの動学的効果を表している。5変数とは,鉱工業生産,コア消費
者物価,日銀当預残高目標,株価,輸出額からなる。(B)欄は,やはり5変数VARモデルから推定された量的緩和ショッ
クの動学的効果を示したものである。こちらのモデルの5変数とは,鉱工業生産,コア消費者物価,日銀当預残高目標,
株価,不良債権残高からなる。点線は,上下2標準誤差の幅の信頼区間を表している。


Y.むすび

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とにより,この問題について実証的な見地から検討した。VARの手法を用いて検証した結果,量的緩和政策が株価経路を通じて経済を活性化したという実証結果を得た。具体的には,インパルス応答関数の分析において,量的緩和ショックはまず株価を上昇させ,その後,生産高を増加させた。また,分散分解においては,生産高および株価の変動の多くを量的緩和ショックが説明していることが明らかになった。Granger の因果性検定においては,日銀当預残高目標が株価にGranger の意味で影響を与え,株価が生産高にGranger の意味で影響を与
えているということが分かった。これらいずれの実証結果も,量的緩和政策の効果に株価経路が重要な役割を果たしていたことを示唆してい
る。
さらに本論では,株価経路の存在に関する証拠が頑健であることを示した。即ち,当座預金残高の拡大以外に日銀が実施した2つの政策手
段(長期国債の買入増額および銀行保有株式の購入制度の導入)の効果をコントロールしたとしても,株価経路が存在することが示された。
また,量的緩和期において金融政策以外に景気回復に貢献したと思われる2つの要因(輸出額の大幅な増加および不良債権残高の大幅な減少)について,その影響をコントロールしても,やはり株価経路の存在を見出すことができた。

本論において得られた結果から,次の2つの政策的な含意を導くことができる。

第一に,低金利下の金融政策の有効性を議論する場合には,多資産モデルを想定することが有益である。IS-LMモデルのような,資産が貨幣と国債だけの2資産モデルでは,(貨幣以外の)あらゆる資産の利回りが金融政策ショックに対して同じ方向に動くと暗に仮定されている。しかしながら,実際には量的緩和ショックに対して資産ごとに異なった反応を示すことが,本論の実証結果から明らかになった。この事実は,低金利下の状況では,ポートフォリオ・リバランス効果が非常に重要になることを示唆している。

したがって,低金利の期間において金融政策の効果を検証するためには,ポートフォリオ・リバランス効果を考慮した多資産モデルを用いる必要がある23)。

第二に,量的緩和期において,日本経済がいわゆる「流動性の罠」に陥っていたとまでは断言できない。流動性の罠とは,利子率が下限に到達し,人々が貨幣以外の資産を購入しない状況,即ち貨幣需要が無限に弾力的になる状況と定義される。本論の実証結果は,当時の日本が流動性の罠に陥っていたという仮説に,一部では矛盾しない結果となった。

即ち,人々は日銀によって注入された貨幣を使って利子生み資産を購入しなかったという点では,流動性の罠に必ずしも矛盾しない。一方,注入された貨幣で人々が株式を購入したことが本稿の実証結果から示唆され,この点では流動性の罠と矛盾する。以上のことから,短期金利がゼロになっても,経済が直ちに流動性の罠に陥って金融緩和の余地がなくなる訳ではないと言える。

短期金利がゼロあるいはほぼゼロに到達してもなお金融緩和が必要となる局面は,バブル崩壊後の日本に特有の稀な現象では決してない。2008 年のリーマン・ショックに端を発する世界的な景気後退の経験が,そのことを如実に示してくれた。その意味で,2001 年から2006 年
まで日銀が採用した量的緩和政策の効果の有無を,実証的に検証する意義は非常に大きい。
本稿は,量的緩和政策の実施期間を全てカバーした標本を用い,そして波及経路を包括的に検証した初めての実証研究である。本稿の実
証結果は,日本だけにとどまらず,多くの先進国で現在問題になっている(あるいは将来問題になるであろう)「短期金利のゼロ制約」の課題を克服するための有益な情報を提供している。本稿では標本数が少ないなどの課題が残されているが,今後,筆者も含め多くの研究者が23)Andres 他(2004)は,短期債券と長期債券の両方を含む多資産モデルを展開している。

−78−
さらなる実証研究を積み重ね,量的緩和政策の効果に関する理解を深めることができるならば,世界経済の発展と安定に大きく貢献できよう。

データに関する補論

−79−
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