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為替動向で金融政策は変更しない=黒田日銀総裁 社会主義が最も成功したのは、日本 米予算教書 FOMC議事録
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/510.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 10 日 23:29:04: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 経済思想としてのアベノミクス論  「量的・質的金融緩和」のドル円への影響 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 06 日 14:25:21)

為替動向で金融政策は変更しない=黒田日銀総裁
2013年 04月 10日 21:09 JST
[東京 10日 ロイター] 日銀の黒田東彦総裁は10日、ロイターなどとのインタビューに応じ、4日に打ち出した大規模な「量的・質的金融緩和」政策への市場反応は「基本的にポジティブ」との見方を示し、長期金利が乱高下していることについては「新しい均衡点を模索していく動き」と語った。

為替市場で円安が加速しているが、為替政策の権限と責任は政府にあるとし、為替相場の動向によって「金融政策を変えることはない」と明言した。

あらためて今回の緩和策は、2年程度を念頭に置いて2%の物価安定目標を達成するために「必要な措置はすべて講じた」と強調し、「あくまで目標が達成されるまで必要な措置はとる」と物価動向に応じた追加措置にも含みを持たせた。

<緩和策受けた市場反応は「ポジティブ」、長期金利は均衡探る動き>

黒田総裁は、就任して初めての金融政策決定会合で、長期国債の大規模購入を柱に、今後2年でマネタリーベースや長期国債などの保有額を2倍にする大胆な金融緩和策を打ち出した。これを受けて市場では株高・円安が一段と進行しているが、総裁は市場の反応について「基本的にポジティブ」との見方を示した。一方、長期金利が連日、乱高下していることには「新しい均衡点を模索していく動き」とし、これまでと次元の違う緩和策を講じた中で「こうした市場の動きはある程度、あり得る動きだと思っている」と語った。その上で、市場の動向を「十分に注視し、市場の反応を点検していくことは引き続きやっていきたい」と述べ、市場関係者と対話の場を定期的に設けていく考えを示した。

<為替が目的ではない、権限と責任は政府にある>

緩和策を受けて、為替市場では1ドル=100円に迫る円安が進行している。総裁は「中銀として為替の特定の水準や方向について具体的に申し上げることは適当ではない」としながら、今回の緩和策は、物価安定目標の達成という国内目的の政策であり、「為替を目標にしたものではまったくない」と強調。今回の措置で日本経済が回復すれば「周辺国を含めて世界経済にもプラス」と述べ、4月中旬にワシントンで開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で「量的・質的緩和の目標、目的を十分に説明したい」と語った。

しかし、一段と円安が進行すれば、他国から通貨安誘導の批判を受けるなど弊害が出てくる可能性がある。総裁は「為替レートがどうなるのか、それが経済にどのような影響を与えるのかは、十分にモニターはしていく」としながら、「日銀が為替レートを目標にしたり、それをみながら金融政策を変えるということはない」と断言。「為替レートについて権限と責任があるのは政府だ」とし、為替相場の過度な変動には政府が為替市場介入などで対応すべきとの認識を示した。また総裁は、一般論として他の需要が一定であれば金融緩和をした国の通貨は下落する傾向にあるとしたが、「それがいつまでも続くわけではない。経済が高い成長を遂げれば、逆に通貨が強くなる可能性もある」と語った。

<実体経済への効果波及に自信>

今回の緩和策については「2年間を念頭に置いて2%の物価安定目標を達成するために、現時点で必要な措置はすべて講じた」と説明。大胆緩和への期待も反映して企業や家計のマインドが改善し、インフレ期待も高まりつつあるが、総裁は緩和効果について「資産効果が出てきている中で、実体経済が徐々に回復し、物価上昇率も徐々に上昇していくと思う。今回の政策は十分に持続力がある」と述べ、実体経済への効果波及を通じて「物価目標の達成につながっていく」と自信を示した。

<追加緩和を排除せず、必要に応じて上下の調整あり得る>

今後の経済・物価動向によっては追加緩和が必要になる可能性もあるが、これに関して総裁は「目標は2%の物価安定目標。2年というのは、2年程度を念頭に置いてやるということ」とし、「あくまで2%の物価安定目標が達成されるまで必要な措置をとる」と追加緩和の可能性を排除しなかった。リスク要因には上振れ・下振れ双方が存在することから、「その時々に応じて必要な上下方向の調整はあり得る」とも述べたが、「現時点では、2%の物価安定目標が達成するのに必要な措置をとるというのが一番大きなコミットメントだ」と繰り返した。

<物価見通し引き上げを示唆>

追加策の是非を判断する上で、日銀の物価見通しが重要な材料になるとみられる。日銀は毎年、4月と10月の年2回、先行き2年程度の経済・物価見通しを示す「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を公表しており、次回は4月26日の金融政策決定会合で議論される。今年1月の中間評価では、2014年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)はプラス0.9%(政策委員見通しの中央値、除く消費税率引き上げの影響)と見込んだ。総裁は展望リポートにおける物価見通しについて「これだけ思い切った量的・質的緩和を実施したので、それを踏まえて足元の経済をみながら見直す必要がある」と引き上げを示唆。見通し期間自体を2015年度までの3年間に延長する考えについては「3年について見通しを検討するかどうかを含めて、政策委員会で十分に議論していきたい」と語った。

<大きな副作用もたらす恐れはない>

従来にない大規模な緩和策に踏み切った事で、資産バブルの発生など副作用を懸念する声もあるが、総裁は「現時点でこの政策が大きな副作用をもたらす恐れが高いとは思っていない」と明言。残存期間の長い国債の大量購入によって、出口政策が困難になる可能性もある。総裁は「出口戦略を具体的に議論するのは時期尚早」としたが、米国では連邦準備理事会(FRB)の出口戦略において債券を償還まで保有し続けることや、超過準備に対する付利の引き上げなどが議論されていることに言及し、「十分に参考になる」と語った。

<ETFなど損失発生時の政府との分担、取り決めは必要ない>

今回の緩和措置では、ETF(指数連動型上場投資信託)と不動産投資信託(J─REIT)というリスクの高い資産の増額も決定した。その分、市場価格が下落した場合に損失が膨らむ可能性があり、日銀内でも政府との損失分担を議論すべきとの声がある。総裁は、こうした資産が「国債などに比べてはるかにリスクが大きいことは事実」としたが、損失が発生した場合の対応については「具体的に政府とリスクシェアすることを決めなくても、仮にリスクが実現すれば、(日銀の)利益が減って、政府に対する納付金が減る。その意味では、リスクはシェアされる」とし、あらかじめ分担方法を取り決めておく必要はない、との認識を示した。

(ロイターニュース 伊藤純夫:編集 石田仁志)


黒田総裁:物価目標達成に「必要かつ十分な措置」−政策効果見極めへ 
  4月10日(ブルームバーグ):日本銀行の黒田東彦総裁は10日午後、ブルームバーグ・ニュースなどのインタビューに応じ、4日の金融政策決定会合で打ち出した「量的・質的金融緩和」について、日銀が掲げる「物価安定目標」を達成するために、「現時点では必要にして十分な措置を取った」と述べた。その上で、今後必ずしも毎回の決定会合で政策調整が行われるわけではないとの見通しを示した。
総裁は今回の金融緩和に関して「これだけ大きな転換をしたので、その効果をじっくり見極める必要がある」と指摘。「基本的に2年間を念頭に置いて2%の物価安定目標を達成するために必要な措置は全部取ったと思っているので、毎月、毎月点検はしていくが、毎月、毎月調整があるということにはならない」と述べた。
日銀は4日、黒田総裁の下で初めての決定会合を開き、消費者物価 の前年比上昇率2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現すると表明。そのための手段として、2本立てだった長期国債の購入を一本化するとともにマネタリーベースを新たな政策目標に据え、保有する長期国債や指数連動型上場投資信託(ETF)を2年間で倍以上に拡大することを決めた。
金融緩和が予想を大きく上回る大胆な内容だったことを受けて、市場では円安・株高が進行。会合前に1ドル=92円台後半だった円相場は同日中に4円近く急落。その後も円安は止まらず、100円の大台乗せをうかがっている。株式相場 も会合直後に大幅続伸。4日の日経平均株価は前日比272円34銭高の1万2634円54銭を付けた。
長期金利(10年物国債利回り)も会合後に過去最低水準の0.425%を記録。翌5日にも一時0.315%と同水準を更新したが、直後から水準を切り上げ、0.62%まで急上昇する乱高下の展開を見せた。
「狙い通りの効果」
総裁は金融市場の動きが「基本的にポジティブな反応」だったとした上で、乱高下した長期金利については「今回の金融緩和は量的にも質的にもこれまでの緩和とは相当違ったものだった」ため、「ある程度あり得る動きだ」と指摘。その上で「市場がそういう形で新しい均衡点に向かっていく動きは十分注視し、市場の反応を点検していく」と述べた。
今回の政策効果に関しては「マネタリーベースという国際的に最も通用している量的な指標を金融政策の操作目標にして、2年で2倍にするという形で分かりやすく説明したことは、ある意味で狙い通りの効果を持った」と言明。国内の金融市場や企業、家計だけでなく、世界中の市場や政策当局を含め、「よく今回の政策の内容を理解していただけたのではないか」と述べた。
政策が実体経済に及ぼす影響については「マインドの改善や物価上昇期待がだんだん上がってきている状況、資産効果が出てきている中で、実体経済が徐々に回復していき、物価上昇率も徐々に上昇していくだろう」と指摘した。
物価見通しは見直す必要
日銀が1月会合で示した14年度の消費者物価(生鮮食品を除く)前年比上昇率の見通しは、消費税率引き上げの影響を除きプラス0.9%。黒田総裁は「今回これだけ思い切った量的・質的緩和をしたので、それを踏まえて、足元の経済を見ながら、こういった金融緩和が続いていくことを前提に、もう一度見通しを見直す必要がある」と述べた。
2年で2%の物価安定目標を実現できなかった場合の責任については「今回のような思い切った量的・質的金融緩和を取ったことで、われわれとしては当然、物価安定目標が達成されると思っているので、達成されない時のことを申し上げる立場にない」と言明。一方で、「上下のリスク要因があるので、その時々に応じて必要な上下方向の調整はあり得る」と語った。
納付金減少で政府とリスク分担
為替相場については「金融緩和すれば通貨が下落する傾向があることは一般的に認められている」としつつも、「そういったことを通じて経済が高い成長を遂げることになれば、逆に通貨が強くなる可能性もある」と説明。さらに「為替レートに権限と責任があるのは政府なので、日銀が為替レートを目標にしたり、それを見ながら金融政策を変えることはない」と語った。
ETFなどリスク資産の購入では日銀に損失が生じる恐れもある。政府との損失の分担について何らかの合意が必要ではないか、との質問に対しては「具体的に政府とリスク分担という形を取らなくても、仮にリスクが実現すれば、日銀の利益が減り、政府に対する納付金が減ることになるので、そういう意味ではリスクは分担される」と指摘。そうした合意は当面必要ないとの見方を示した。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/10 21:00 JST

日銀「異次元の緩和策」で「円は崩壊する」 ソロス発言の信ぴょう性
J-CASTニュース 4月9日(火)19時42分配信

ソロス氏は「日銀の金融政策は危険だ」と指摘した。

 米国の資産家で著名な投資家のジョージ・ソロス氏が、黒田日銀が打ち出した「異次元の緩和策」によって、「円は雪崩を打って下落する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。

 アベノミクス効果で、円は2012年11月以降の6か月で約20%も下落。2013年4月9日の円相場は1ドル98円後半〜99円台で推移しており、さらに下落しそうな勢いだ。

■海外投資家、「国債の7割買い入れ」に警戒感

 日銀の黒田東彦総裁は2013年4月4日、「現時点で必要な措置すべて講じた」と述べ、2%のインフレ目標を2年で達成し、その目標に向けて毎月の国債購入額に7兆円強を投じる「量的・質的金融緩和」を発表した。

 月々7兆円強といえば、年換算で85兆〜90兆円。新発国債のじつに70%(従来は30%)を日銀が買うのだから、まさに「異次元」の金融政策。これには世界中が驚いた。

 米ブルームバーグによると、ジョージ・ソロス氏はニュース専門放送局のCNBCの「黒田総裁の采配をどう思うか」との問いに、「これはセンセーションだ。金融政策のタブーを打ち破っている。すごく大胆なことで、とても果敢な試みだ」と評価しながらも、「彼らが行っていることはとても危険だ。彼らがやっていることで何かが起こり始めれば、彼らはそれを止めることができないかもしれない」と話した。

 「円が下がって、日本人が自分たちの資金を海外に移したいと考えれば、円は雪崩のように下落するかもしれない」と語り、海外への資金流出を制御できなくなると懸念している。

 外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は、「国内では円安が進めば、株価が上がるので歓迎ムードが強いですが、やはり(国債の)発行残高の7割も買い入れるというのは異例ですし、ヘッジファンドを中心に、円安への期待よりも警戒感をもっている海外投資家は少なくありません」と、国内外で黒田日銀への評価は微妙に違うと指摘する。

 実際に、「国内機関投資家にも、外債投資を増やそうという動きはあります」(神田氏)と、日銀が国債を買い入れることで手持ちの資金運用先を探すのに腐心する機関投資家も現れたようだ。

次ページは:円暴落「まだ、気が早い」
 もちろん、ジョージ・ソロス氏はヘッジファンドを率いる投資家だ。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ソロス氏は2012年11月以降の3か月間に、円安を見込んだ取引で約10億ドル(約940億円)の利益を得たという。

 他にも「安倍相場」の円安で儲けたヘッジファンドは少なくなく、ヘッジファンドによる円売りがこのところの円安に拍車をかけたとの見方もある。ソロス氏の「円の崩壊」発言が、自らの投資を有利に運ぶ「ポジション・トーク」の可能性がないとはいえない。

 みずほコーポレート銀行国際為替部の唐鎌大輔マーケット・エコノミストは、「円安傾向が続くことに異論はありません。ただ、円の暴落はまだ気が早い話です」という。というのも、「国債を売る投資家がいない」からだ。

  「これまで機関投資家は運用先に困って国債を買っていましたし、国債がほしい状態はいまも続いています。(外債の購入などで資金が海外へ流出する)理屈はわかりますが(それがきっかけというのは)現実的ではありません。そもそも、日本は経常黒字国です。黒字が確保できているあいだは(円の暴落は)起こりません」

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デフレ退治に挑む黒田東彦氏の過去の著作が人気 アマゾン1位の書籍も
政府への「不満」の多さは「依存心」の裏返しである
働く女性に悲報 退社時には5歳以上老けて見えることが発覚
最終更新:4月9日(火)22時39分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130409-00000008-jct-bus_all&p=2

「社会主義が最も成功したのは、日本」と皮肉られているワケ
Business Media 誠 4月9日(火)11時32分配信

「終身雇用」を支持する者が増えている(出典:労働政策研究・研修機構)

●窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。

【拡大画像や他の画像】

 日本銀行が金融政策決定会合を行い、“異次元”の金融緩和策を発表した。やるだけやった。後は企業ががんばれよみたいなムードのなか、成長戦略の柱である「成長産業への労働力移動」として「クビの規制緩和」議論が活発化している。

 その端緒になったのは、3月15日の「産業競争力会議」で、民間議員の長谷川閑史(はせがわ・やすちか)・武田薬品工業社長が解雇を原則自由にするよう労働契約法を改正することや、再就職支援金を支払うことで解雇できるルールづくりなどを提案したことだった。

 会社を見渡すと、「正社員」という座にあぐらをかいて、定年までの十数年をどうにかやりすごすというオッサンがゴロゴロいる。そういう人たちの人生まで面倒をみるのが会社のつとめだったわけだが、世界と競争するうえで、かなりハンデとなっている。

 50歳といっても高齢化社会ではまだまだハナタレ小僧なわけだから、景気のいい産業へ移ってやりなおしたらどうでしょう、お金も差し上げますし、と会社から勧められるようにしようというわけだ。

 といっても、これはなにも長谷川氏が思いついたことではなく、もうずいぶん前から言われていることだ。例えば、金の支払いで解雇を可能とする「金銭解決ルール」などは、2003年の小泉政権が法案化寸前までもっていったが、断念した過去がある。

 なぜ断念したか。容易に想像がつくだろうが、「札束でクビができるなんてけしからん」と連合(日本労働組合総連合会)なんかがワーワー騒いだからだ。当然、今回もそういう流れになっている。

 といっても、この手の人たちは、ホームレスを「派遣切りされた労働者だ」なんてインチキもやった前科もあるので、ただ騒ぐだけでは説得力がない。そこで持ち出したのが、「OECD(経済開発協力機構)の雇用保護指標」だ。確かに、朝にクビを宣告されたら昼には出ていく米国や英国なんかと比べたら雇用が保護されているほうだが、ドイツやフランス、そして北欧に比べるとちっとも優しくない。「クビの規制緩和」なんてとんでもない、もっと雇用保護したっていいぐらいじゃないか、と。

 ただ、この理屈もちょっとおかしい。日本の雇用はもうずいぶん昔から米国や欧州なとと比べられない「異次元」の世界に突入しているからだ。

 それは「終身雇用」である。

●「終身雇用」発明したのは

 いろんな方面で言われているように、こういう雇い方をしている国はほとんどない。いろいろ叩かれた中国の国営企業ですら、1990年代には終身雇用をやめたほどだ。

 なんてことを言うと、終身雇用が「日本の強さ」のヒミツだった、とか言い出す人たちがいる。先週、某情報番組でもやっていたが、「企業は人なり」というお約束の格言と、松下幸之助が登場して、日本企業は社員を大切にして社員は会社に人生を委ねたので、一体感ができてみんな汗水たらして働いた。身分保障されていたので、心置きなく消費もできた、なんて話である。

 だが、終身雇用というのは、なにも経済人のみなさんがやりだしたわけではない。1939年に制定された「国家総動員法」のなかにある「会社利益配当及資金融通令」や「会社経理統制令」で株主や役員の力が剥奪され、国のコントロールのもと、とにかく生産力をあげるために企業という共同体に国民を縛り付けておくひとつの手段として始まった。

 ついでに言えば、これはなにも日本人の発明ではなく、世界恐慌をのりきったソ連の「計画経済」をまんまパクったものである。国が経済発展を計画的に進めて、国民は国が規制をする企業に身を投じて一生涯同じ仕事をする――。そんなソ連モデルが日本人にはフィットした。日本が「世界で最も成功した社会主義」なんて揶揄(やゆ)されるのはそれが所以だ。

 要するに「終身雇用」は日本式経営でもなんでもなく、単に戦時体制につくられた社会主義的システムをズルズルとひきずっていただけだ。だから、小泉改革みたいな新自由主義経済が流れ込むと、ソ連のように崩壊していく。さらには、そういう思想をもとに築き上げられたインフラなんかも音をたてて崩れていく。日ソ両国がともに原子力を制御できず、どでかいヘマをしたのは単なる偶然ではない。

 そういうガレキの山を見れば、もうとっくに「終身雇用」が終わっているのは明らかだ。

 ただ、世の中にはそれを認めたくない人たちが案外多い。例えば、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が昨年5月に発表した調査では「終身雇用」を支持する者の割合は過去最高の87.5%となったという。「組織の一体感」「年功賃金」を支持する割合もそれぞれ過去最高になっており、特に20〜30代がグーンと伸びたんだとか。

 子どもは親の背中を見て育つ。「ネトウヨが増えている」とか「右傾化している」なんて心配している人も多いらしいが、そこは安心してほしい。社会主義の教えは、今もしっかり日本人に刷り込まれている。

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最終更新:4月9日(火)14時6分

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130409-00000014-zdn_mkt-ind

 


米予算教書、富裕層の税負担強化などで赤字削減目指す=政府高官
2013年 04月 10日 21:51 JST

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[ワシントン 10日 ロイター] 米政府高官は10日、オバマ大統領が議会に提出する2014年度予算教書について、富裕層への税負担を重くし、先月発効した強制的な歳出削減に代わって社会福祉プログラムなどの歳出削減を実現することで、今後3年間で大幅な財政赤字削減を目指すものだと述べた。

具体的には、年収が100万ドルを超える富裕層には、30%の最低税率を課すという。

米政府高官は記者団に対して述べた。こうした富裕層増税と歳出削減に加えて、高所得者の税額控除に28%の上限を設けることにより、財政赤字を16年度までに国内総生産(GDP)比2.8%に削減する。

予算教書は、米東部時間10日午前11時15分(日本時間11日午前零時15分)に正式に公表される。

共和党は増税への反対姿勢を崩さないと予想されるため、予算教書の内容が立法化される可能性は小さい。しかし政府高官は、予算教書が財政赤字削減に関する合意につながることを期待している、としている。

政府高官は記者団に対して「少なくとも上院では、合意への道があることに期待を抱かせる発言をしている人が、共和党にいる」と述べた。

今回の予算教書では、社会基盤(インフラ)整備や幼児教育などを優先政策と位置づけ、新たな税収でまかなうほか、雇用・賃上げ対策として中小企業を対象に10%の税額控除を認める方針。大統領側の試算では、今後10年間で1兆8000億ドルの赤字削減につながり、これまでの取り組みによる2兆5000億ドルの削減とあわせ、全体で4兆ドルを超える削減が可能としている。
 
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情報BOX:2014年度米予算教書、予想される税制改革の内容
2013年 04月 9日 15:24 JST
[ワシントン 8日 ロイター] オバマ米大統領は10日に、2014会計年度(13年10月─14年9月)予算教書を提出する。予算教書に盛り込まれるとみられる税制改革の概要は、以下の通り。

<個人税>

控除の制限:オバマ大統領は、慈善事業への寄付金控除など、個人所得税の項目別控除や、地方債の利子への減税など一部の控除について制限を設けるという、長年の方針をあらためて打ち出す見通し。税率区分が上がっても、控除率を28%に抑制することを提案するとみられる。

例えば、税率35%区分で、10万ドル分の控除対象がある納税者は現在、3万5000ドルの控除を受けることができる。これが28%に制限された場合は、控除は2万8000ドルに縮小されることになる。

個人退職勘定(IRA)に上限設定:税金のかからないIRAの額に上限を設定し、300万ドルを超えて積み立てることを禁止する公算。

たばこ税:たばこ製品にかかる税率引き上げを提案する見通し。増税に伴う税収拡大分は、未就園児の教育プログラム拡大に充てるという。

成功報酬:プライベートエクイティ会社やその他投資ファンドの幹部が受け取るキャリード・インタレスト(成功報酬)への課税強化。こうした所得の大半は現在、通常の所得にかかる最高税率の39.6%ではなく、キャピタルゲイン税の最高税率である20%が適用されている。

バフェットルール:年収が100万ドルを超える富裕層に最低30%の税率を課すという提案(バフェットルール)を再び打ち出す見通し。

個人所得税の税率:オバマ大統領は当初、年収が25万ドルを超える世帯への増税を目指していたが、今年年初の「財政の崖」回避合意の一環では、年収が45万ドルを超える世帯への増税で決着した。オバマ大統領が今回の予算教書で、当初の提案を復活させるのかどうかは不明。

<法人税>

法人税率:最高税率の35%から28%への引き下げを訴える公算。

石油・ガス会社への減税:オバマ大統領はこれまで長らく、エネルギーセクターへの減税廃止を求めてきた。現在は油井やガス井の減耗控除、石油・ガスの国内生産控除、無形掘削費の費用算入、などがある。

社用ジェット機:オバマ大統領は、社用ジェット機のオーナーらが利用する、保有機の減価に伴う税額控除の廃止を提案する可能性がある。

後入先出(LIFO)法:オバマ大統領は、石油やガスなど一部業界が利用するこの会計手法の廃止を求めてきた。企業側は、変更されれば、古い在庫を高い価格で再評価せざるを得なくなると抵抗している。

利子の控除:企業は現在、債務の利払いは控除できるが、株式配当の支払いは控除できず、借り入れによる資金調達が有利になっている。オバマ大統領の法人税引き下げ計画には、企業債務の控除を縮小することが盛り込まれているが、大統領の提案では詳細には触れられていない。

海外利益の最低税率:海外利益の最低税率を再び提案する可能性がある。これに伴う歳入の増加分は、米国に投資する企業への支援に使う。

未公開企業への課税:「C株式会社」に該当する企業は、法人税を支払っている。これらの企業は、企業レベルに加えて、配当への課税を通じて投資家レベルでも課税されることから、二重課税との指摘もある。

一方、「パス・スルー」に該当する企業の場合には、個人のオーナーが利益を手にし、その所得に対して課税される。これに該当する企業には、多数の中小企業や法律事務所、投資ファンド、一部大企業がある。

オバマ大統領の以前の法人税改革案には、この2種類の企業形態の扱いを近づけることが盛り込まれていたが、詳細には触れていなかった。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93803I20130409?rpc=188


FOMC議事録:メンバー数人は年末までの債券購入停止を支持

  4月10日(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)が10日公表した連邦公開市場委員会(FOMC、3月19−20日開催)の議事録によれば、メンバーの数人は年内に債券購入プログラムの縮小を開始し、年末までに停止するのが適切だと考えている。
議事録によると、同メンバーらは「労働市場の見通しが予想通りに改善した場合は年内に購入を減速し、年末までに停止することが適切であろう」との考えを示した。
原題:FOMC Minutes Show Several Members Saw QE Ending by Year-End(抜粋)
更新日時: 2013/04/10 22:15 JST


アトランタ連銀総裁:債券購入の縮小を検討するのは時期尚早

  4月10日(ブルームバーグ):アトランタ連銀のロックハート総裁は、労働市場に減速が見られるからといって金融当局が債券購入の縮小を検討するのは時期尚早だと述べた。
ロックハート総裁はジョージア州ストーンマウンテンで記者団に対し、「今の段階でそのことに集中するのはやや時期尚早だと考える」と述べ、「今後発表される経済統計や景気動向を見極める必要があるとの考えはこれまでにも強調してきた」と続けた。
ロックハート総裁は今年の米連邦公開市場委員会(FOMC)での議決権は持たないが、毎月850億ドル相当の住宅ローン担保証券(MBS)と米国債を購入する量的緩和は支持している。
同総裁は「今年下半期か2014年初めに状況が展開し、ある程度の量的緩和の縮小が可能になるということはあり得る」と述べた。
原題:Fed’s Lockhart Says Premature to Consider Slowing BondBuying(抜粋)
更新日時: 2013/04/10 22:08 JST

 

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01. 2013年4月11日 19:35:43 : xEBOc6ttRg
焦点:急浮上する国債の価格操作懸念、「国を挙げた地上げ」の声も
2013年 04月 11日 17:10 JST

トップニュース
1月のギリシャ失業率、2006年以来で最悪の27.2%に
消費環境、心理的にはバブルの状態=岡田イオン社長
韓国のLG電子、スマートフォン販売シェアで初の3位=調査会社
日本株は上値追いに弾み、海外勢の強気センチメント継続
[東京 11日 ロイター] 日銀が異例の国債購入日の通告に踏み切った。これまでは日本証券業協会の基準気配が操作されては適正な価格が維持できないとの理由から明らかにすることはなかったが、国債取引が連日不安定になったことでその開示を余儀なくされた。

「まるで国を挙げた地上げ」(邦銀)との声も聞かれ、今後、日銀が高コストで国債を購入するだけでなく、不透明な金利形成を誘発しかねないと懸念する見方も出ている。

日銀は11日、総額4.3兆円を市場に供給すると同時に、長期国債を12日に買い取ると発表した。黒田日銀による異次元緩和の対象から外された短期国債を安定化させるため、国庫短期証券を買い取る公開市場操作(オペ)も合わせて実施すると発表した。

資金の供給額そのものは、1日の資金供給額としては東日本大震災後の2011年3月23日に計5兆円通告して以来の規模。貸し出す期間も、一部を初めて1年に延ばし、「(日銀は)金利安定へ『不退転の決意』をみせた」(邦銀の資金担当者)との見方が広がった。また、日銀が長期国債2.5兆円余りを一気に買い取るとの異例の発表は、その効果がはっきり表れた。

大手銀行の一角が5年物の国債でまとまった売りを出したことが、相場が不安定になった一因とされる。購入日が新発5年物の入札前に前倒しさたことが明らかにされ、これまでの需給不安はひとまず後退、「売り注文を受けて在庫を抱えていた証券会社の買い戻しや、高値で日銀に売却できると先回りで国債を買う動きが広がり、一転して金利は軒並み下がった」(別の邦銀)という。

実際、この日の取引で一時0.320%に上昇していた新発5年物利回りは午後に低下し、0.190%と前日より0.085%下がった。先物相場は急反発し、東京証券取引所の長期国債先物は一時144円77銭と、前日より61銭高値で取引された。

ある証券会社の売買担当者は「銀行の売りが出たときは(2003年に史上最低金利から一転2%の金利上昇となった)『VaRショック』の悪夢が脳裏をよぎったが、異例の日程通告に正直、安どした」と明かす。

同時に、市場からは「日銀の焦りを浮き彫りにした」(外銀幹部)との声も漏れる。国債購入の規模から「実際にいつ買い取るのかの日程を巡る思惑が相場を不安定化させるなら、いっそのこと日程を開示したらどうか」(大手行幹部)との声もあったが、一方で「事前の価格操作を誘発しないか」(市場筋)と、その副作用を懸念する声は根強い。

前出の邦銀関係者は「もはや『国を挙げた地上げ』のようなもの。基準気配を意図的に釣り上げるような動きは日銀が高いコストを払う(高値で国債を購入する)だけでなく、不透明な金利形成を誘発しかねない」と話す。

(ロイターニュース 山口貴也 編集:久保信博) 

日銀は異例の長期国債買い入れ日程事前公表、市場不安定化で
2013年 04月 11日 13:03 JST
[東京 11日 ロイター] 日銀は11日、長期国債を買い取る日程を事前に公表する異例の措置に踏み切った。黒田日銀による異次元緩和で国債市場が不安定化したことに配慮する。

日銀が公表したのは4月に予定していた5回のオペのうち、2回目と3回目の日程。それぞれを同時に12日に通告する。2回目は残存5年超10年以下を1兆円、10年超を3000億円買い取り、3回目は1年以下を1100億円、1年超5年以下を1兆1000億円買う。1回目は8日に通告していた。

また、国庫短期証券の買いオペについても12日に通告するとしている。

市場では「短期ゾーンが政策コミットから外れ、銀行の現物売りから需給が崩れ、(財務省が16日に予定している)新発5年物の国債入札が不安視されていた。さらに相場が不安定化するのを配慮するのが狙いだろう」(外銀)との声が出ている。

日銀の発表を受けた午後の円債相場では、東京証券取引所に上場する長期国債先物が急反発した。


 

ドル99円後半、日銀「期待」から「現実」に目線シフトへ
2013年 04月 11日 15:57 JST
[東京 11日 ロイター] 東京外為市場午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べてドル安/円高の99円後半。利益確定売りに押される場面もあったものの、日経平均株価が上げ幅を拡大させる中で、ドル/円、クロス円ともに買い戻された。

日銀が不安定な国債市場の鎮静化に乗り出したことで、長期金利が低下に転じたことも意識された。ドル/円は100円を目前に足踏みしているが、市場では今後は日銀に対する「期待」から「現実」の動きに目線がシフトするとの見方が出ていた。

<JGB市場に注目集まる>

ドル/円は99円台で取引された。前日のニューヨーク市場では99.88円と2009年4月以来となる100円台に迫ったが、東京市場では利益確定売りに押される中で99.35円まで下落した。

ただ、午後に入り、日経平均株価がジリ高の展開になると、ドル/円、クロス円ともに買い戻された。日銀が不安定な国債市場の鎮静化に乗り出したことで、上昇圧力がかかっていた長期金利が低下に転じたことも意識されたという。

市場では「一部参加者はJGB(日本国債)を見ながら取引をしている」(大手邦銀)との声が出ており、これまで以上に日本国債市場に注目が集まっている。

ある大手邦銀関係者は「JGBも手掛けている人はそこでやられている(損失が出ている)と思うので、為替で積極的にドル/円のロングを作るのは厳しい人もいるかもしれない」と指摘する。

日銀は11日、固定金利方式の共通担保資金供給オペ3本を実施した。期間は1カ月物1本と1年物2本で、計4兆円を供給した。1年物は初めてで「やや長めの金利の急激な上昇に対応するために実施した」(金融市場局)という。

日銀はこのほか、長期国債を買い取る日程を事前に公表する異例の措置にも踏み切った。

<日銀が示したパス確認へ>

ドル/円は100円を目前に足踏みしているが、今後の展開について、三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト、瀬良良子氏は「100円台に乗せたら、いったんは達成感が出てくるだろう」と予想する。

同氏は「いまはユーフォリア、日銀のニュースを受けて上がっているが、実際にはまだお金が出ていない。これまで期待先行で上げてきたが、今後は日銀が示したマネーが増えていくというパスをしっかり評価していかないといけない」と指摘。その上で「インフレ期待が上がって、デフレ脱却への確信が高まってくれば、100円台が定着し、もう少し上昇期待も出てくると思うが、期待ですでにここまで来てしまった。期待だけで相場を長続きさせるのはしんどいのではないか」との見方を示した。

<北朝鮮への反応は見方割れる>

北朝鮮のミサイル発射が警戒されているが、市場では、ミサイル発射が強行された際のマーケットの反応について見方が分かれている。「円売りモメンタムが強まっている場合には円安がさらに強まる展開もありうる」(外銀)との声がある一方で、「ミサイル発射で株安になれば、利益確定の円買いが強まりやすい」(国内金融機関)との指摘も出ていた。

(ロイターニュース 志田義寧)

 


日本株は上値追いに弾み、海外勢の強気センチメント継続
2013年 04月 11日 16:53 JST
[東京 11日 ロイター] 日本株が上値を追っている。ドル/円は100円手前で足踏みを続け、円債市場も依然不安定であるが、日経平均は約4年9カ月ぶり高値を回復。短期的な過熱感は強いものの、強気な海外勢の買いが継続し、上昇に弾みがついている。

米金融緩和の早期縮小観測の強まりにも、米景気が上向いているためとポジティブに受け止めるセンチメントの強さがある。

<米国の「ゴルディロックス」継続か>

海外勢の強気センチメントが依然として続いている。キプロスなど欧州への不安は短期間で収束。中国経済への減速懸念や北朝鮮情勢などネガティブ材料を横目に米株などリスク資産を購入している。10日の米市場でダウとS&P500は過去最高値を更新した。

強気ぶりが表れたのが米連邦準備理事会(FRB)が10日に公表した3月19─20日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録への反応だ。FOMCメンバーの一部が年内の資産買い入れ終了を視野に入れていたことが分かったほか、議事録では「メンバー2人は、現在の買い入れペースが少なくとも年内は続くと見込んでいる」とされた。市場では「2人しか年内の緩和継続を見込んでいないのかと驚きが走った」(国内証券)が、ネガティブ材料とはならなかった。

市場予想を大きく下回った3月米雇用統計が発表される前のFOMCであり、議論は陳腐化している可能性もあるとみられたこともあったが、市場では早期緩和縮小観測の強まりを「景気が持続的成長軌道に乗った証拠であると強気に受け止めた」(大手証券・海外市場担当者)という。

T&Dアセットマネジメント・チーフエコノミストの神谷尚志氏は金融緩和と緩やかな景気回復が共存する米国の「ゴルディロックス」(心地いい状態)がしばらく続くとみている。「欧州経済や中国経済など、不安があることが金融緩和期待を継続させている。一方、米景気は緩やかながら回復している。少しずつでも米企業のEPS(一株利益)が増加し、金融緩和でPER(株価収益率)が上がるなら、株価は上昇する」と話す。

<海外勢の日本株買いは再加速>

グローバル投資家のリスク選好度上昇は日本株にも波及する。海外勢の買いは昨年11月以降、約5兆円を超えているが、途切れる気配はまだない。

3月31日―4月6日の対内株式投資(指定報告機関ベース)は8686億円の資本流入超となった。3月3─9日に05年1月の統計開始以来最大となる1兆1219億円の資金流入となったあと、17─23日は「安倍相場」入り後、初の資金流出超となったが、ここにきて再び資金流入ペースが拡大している。

立花証券・顧問の平野憲一氏は、日本株のパフォーマンスが高く、年金など海外の長期投資家も否が応でも組み込まざるを得なくなっていると指摘する。「日本株をアンダーウエートからニュートラルに戻すだけで5兆円の買い需要が発生すると試算されていたが、いまの日本株のパフォーマンスからはニュートラルではなくオーバーウエートまで引き上げざるを得なくなるパフォーマンスだ。リアルマネーの買いはまだ五合目といったところではないか」という。2005年の郵政解散時の上昇相場では、海外勢は日本株を約10兆円買い越している。

日経平均は250円を超える大幅続伸。2008年7月24日以来約4年9カ月ぶりに1万3500円台を回復した。「海外勢は中心銘柄を買ってきている。過熱感も警戒されるが、国内勢の売りも一巡し、売り手が乏しい中、日本株は上値を追っている」(大手証券トレーダー)という。トヨタ自動車(7203.T)は前日比310円高(5.82%)の5640円まで上昇し、約4年10カ月ぶりの高値となった。

<国内勢の外債投資に大きな関心>

また市場関係者の大きな焦点となっている国内機関投資家の外債投資だが、今回の対内対外証券投資では、国内勢(居住者)の対外中長期債投資は1兆1449億円の資本流入超(外債を売り越し)と、一部の思惑に反する結果となった。

ただ日銀による「異次元緩和」で国内低金利が一段と低下する中、「国内機関投資家は頭を悩ませている」(国内投資顧問)という。為替ヘッジ付きの外債投資では為替への影響は中和されてしまうが、ヘッジなしであれば円安要因となる。

生保協会によると、2011年度末時点の生保が保有する有価証券は257兆5603億円。内訳は国債が約55%の141兆円、株式が約6%で14兆円、外国証券が約18%の46兆円となっている。仮に1%比率を上昇させるだけで約2.5兆円のマネーがシフトすることになる。

三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長の今井健一氏は「国内機関投資家の動向は現在、マーケットの最大の関心事だ。生保や銀行は巨大であり、わすかにポートフォリオのバランスを変えるだけで兆円単位のマネーが動くことになる。日計りのトレーダーではない売り切り・買い切りの主体が動けば市場への影響は大きい」との見方を示している。

(ロイターニュース 伊賀大記;編集 佐々木美和)

消費環境、心理的にはバブルの状態=岡田イオン社長
2013年 04月 11日 19:10 JST
[東京 11日 ロイター] イオン(8267.T)の岡田元也社長・グループCEOは11日の決算会見で、消費環境について「現在は明らかに良くなっており、心理的にはバブルの状態。久しぶりに忘れていた感覚を思い出している状態」と述べた。ただ、恩恵を受けているのは高齢者が中心で、若者に及ぶかどうかは、分からないとした。

また、2014年4月の消費増税以降は「相当厳しい状況になる」とし、準備が重要な課題になるとの認識を示した。


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「日本は金融政策により依存を」 G20を前にIMF専務理事
産経新聞 4月11日(木)8時51分配信
 【ワシントン=柿内公輔】国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は10日、ニューヨーク市内で講演し、先進国の金融緩和策は適切で、日本はデフレ脱却と成長の加速に向け、「金融政策により頼るべきだ」との見解を示した。

 ラガルド氏は、世界経済の回復は地域によってばらつきがあると指摘。成長が続く新興国や改善途上にある米国と比べ、信用不安が広がるユーロ圏とデフレが長引く日本を出遅れたグループに位置づけた。

 ラガルド氏は先進国の金融緩和について、インフレ懸念に配慮する必要はあるが、「景気回復に大きな役割を金融政策が担うことは理にかなう」と支持。日銀の新たな緩和策を「野心的な金融緩和の枠組みで正しい一歩」と評価し、デフレ脱却のため緩和策への依存を強めるべきだとした。


IMF専務理事、日銀の緩和は「前向きな一歩」と評価
ロイター 4月11日(木)2時31分配信

4月10日、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、日銀の大胆な緩和強化策は「前向きな一歩」と評価した(2013年 ロイター/Brendan McDermid)

[ニューヨーク 10日 ロイター] 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は10日、世界経済は今年も引き続き低成長となる公算が大きいとして、中銀は金融緩和の継続を通じて、景気を下支えるべきとの見解を示した。ニューヨークでの講演で述べた。

日本については、成長の勢いに弾みをつけるため、一段と金融緩和に頼る必要があるとした上で、日銀の大胆な緩和強化策は「前向きな一歩」と評価した。

ラガルド専務理事は「金融当局者の行動によって、経済情勢は半年前ほど危険な状況にないようにみえる」と言明した。

同時に、金融状況が改善しつつあるものの、依然として実体経済の改善につながっていないとし、「現状では、緩和的な金融政策の維持によって景気を押し上げることが理にかなっている」と述べた。

さらに「インフレ期待はしっかりと抑制されており、中銀には景気支援に向けた措置を講じる一段の余地が存在する」と述べた。

日本の財政については「ますます持続不可能となっているようだ」と指摘。「日本は明確で信頼の置ける中期的な財政再建策の策定が必要」とし、「景気活性化に向け、包括的な構造改革に着手すべき」と語った。

新興市場国では、先進国での超緩和的な金融政策を背景とした資本フローの突然の反転をめぐる懸念が根強い。

専務理事は「現時点でこのリスクは制御されているようだ」としつつも、各国中銀が緩和解除を開始するようであれば、新興市場国は起こり得る影響に対処する措置を整えるべきと述べた。

米国は「財政の崖」を回避したものの、オバマ政権が信頼の置ける中期的な債務削減計画を打ち出すことが不可欠との見方を示した。

欧州については「資本増強や事業再編、必要であれば銀行の閉鎖を通じ、銀行システムの改善に向けた取り組みを継続することが優先事項」と強調した。

銀行改革に加え、欧州の大半の国が債務削減に向けた厳格な財政政策を維持することが必要としつつも、緊縮策が過度に厳しく、急激なものではあってはならないとの見解も示した。

対キプロス支援に関する質問に対しては、他の多くの国とは異なるため、今後の救済策の「ひな型にはならない。基準を設定するものでもない」との見解をあたらめて示した。

IMFは19─21日の日程で、ワシントンで春季会合を開催する。

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日銀の緩和策「正しい一歩」=IMF専務理事(時事通信)6時27分
IMF報告書 日銀の大規模緩和策を支持(SankeiBiz)10日(水)8時15分
<IMF>「インフレ恐れず緩和を」分析で黒田日銀を支持(毎日新聞)10日(水)0時55分
(朝鮮日報日本語版) IMF専務理事は親日派? 金融緩和策を支持(朝鮮日報日本語版)9日(火)9時31分
この記事に関連するニュース一覧を見る(11件)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130411-00000006-reut-bus_all

<黒田日銀総裁>追加緩和当面せず…物価目標達成へ「順調」
毎日新聞 4月10日(水)22時14分配信

毎日新聞などのインタビューで笑顔を見せる日本銀行の黒田東彦総裁=東京都中央区の日本銀行本店で2013年4月10日、山本晋撮影

 日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は10日、毎日新聞などのインタビューに応じた。4日に導入した「量的・質的金融緩和」について「2%の物価上昇目標の達成に必要で十分な措置を決めた。追加策を次々に打つことは考えていない」と、追加緩和は当面、想定していないことを表明した。その上で「(株高・円安の)市場の動きが企業や家計心理の改善とともに景気を上昇させながら、中長期的に物価を引き上げていくことを期待する」と述べ、物価目標達成に向け、順調なスタートを切ったとの認識を示した。

【金融緩和】暮らし変える黒田相場

 黒田氏が報道機関のインタビューに応じるのは総裁就任後初めて。日銀は4日の金融政策決定会合で、市場に供給するお金の量(マネタリーベース)と、長期国債や上場投資信託(ETF)の保有額をそれぞれ2年で2倍とすることを柱とする緩和策を導入した。

 導入後、円安・株高が進んでいることについて黒田氏は「予想していた方向に向かっている」と強調。長期金利が乱高下していることに関しては「金融緩和が従来より大規模だったため、市場が消化するまで時間はかかるだろう」と、一時的な動きとの認識を示した。

 緩和策で国債買い入れを大幅に増やすことで「財政赤字の穴埋めと受け止められかねない」との見方が出ていることには、「国債購入は(世の中に出回るお金の量を増やす)金融調節の手段」と改めて否定。先進国で最悪水準の日本政府の借金残高について「財政の持続可能性が疑われている。債務残高を減らすことは重要で政府も約束している」と財政再建の重要性を強調した。

 新たな緩和策導入に伴い、日銀の国債保有残高を銀行券(お札)の発行残高までとする「日銀券ルール」を一時停止したことについては「2%の物価上昇が安定的に達成されればいずれは(金融緩和からの)出口となるので、将来的には日銀券ルールは復活する」とした。同時に「大規模な金融緩和を行っている時に特別なルールを作ることは考えていない」と述べ、量的・質的緩和の実行中、国債購入の歯止めとなるルールは設けない考えを明らかにした。【工藤昭久】

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【クローズアップ】黒田日銀、新政策決定 緩和、異次元の量と質
<黒田・異次元緩和をポイント解説>マネタリーベース倍増
<コラム>経済観測:日銀に必要なミクロ政策=清華大学米中センター高級研究員・酒井吉廣
<IMF>「インフレ恐れず緩和を」分析で黒田日銀を支持
<社説>黒田日銀始動 危険伴う大きな一歩だ
最終更新:4月11日(木)1時28分

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130410-00000102-mai-bus_all

 

小宮一慶の「スイスイわかる経済!“数字力”トレーニング」
日銀が新たな緩和策を決定!経済指標からアベノミクスの成否を探る
? 2013年4月5日

 日銀は4月3日、4日に開いた金融政策決定会合で、「量的・質的金融緩和」と名付けた新たな緩和策を発表しました。2014年末までにマネタリーベース(資金供給量)を12年末比で約2倍の270兆円に拡大するとともに、長期国債の購入量も同2倍強の190兆円に増やしていきます。上場投資信託(ETF)などのリスク資産についても、保有残高が年1兆円ずつ増えるよう買い入れを進める方針です。
最も大切なポイントは、名目GDPと製造業の数字が回復するかどうか
 いよいよアベノミクスが本格始動します。今は期待だけが先行している状況で、実際のところ、安倍政権はまだほとんどのことは具体的には着手しているとは言えない状況です。これからアベノミクスがどのような成果を上げていくのか見極めるには、私たちの生活が本当に豊かになっていくのかどうかを確かめなければなりません。今回は、アベノミクスと景気回復を評価するための指標をピックアップしていきます。
 国内景気が実質を伴って回復しているかを見極めるためには、最終的に国内総生産(GDP)が上がるかどうかを確かめる必要があります。国内総生産とは、企業の付加価値の合計です。特に、GDPの実際の金額を表す「名目GDP」は給与の源泉であり、この7割程度が皆さんの給与として支払われていますから、重要な指標です。
 アベノミクスでは、「名目成長率目標3%」と「物価目標2%」を設定しています。見方を変えれば、名目成長率3%からインフレ率2%を差し引きますと、実質的に1%の成長率となります。1%国民の生活が実質的に豊かになるということです。もし、アベノミクスの目標が達成されたとしても、この実質的な1%成長を維持できるのかどうかに注意しなければなりません。つまり、インフレ率を1%上回る名目の成長率を確保できるかどうかということです。インフレだけが起こったら、生活は貧しくなるだけです。

 GDPとあわせて見ておきたいのが、景気と密接に連動する「鉱工業指数 生産指数」です。これは、国内の製造業の動向を示す指標です。日本は、なんだかんだ言っても製造業が元気でないと発展しない国ですから、国内景気の強さは製造業の指標に現れやすいのです。
 「鉱工業指数 生産指数」を見ますと、2012年12月、2013年1月は改善を続けていましたが、2月は89.0(※速報値)と微減で、足踏み状態です。出荷に対する在庫の割合を示す「製品在庫率指数」は、2月も120を超える高水準が続いています。生産が伸びず、在庫が積み上がるという「悪い在庫」を持っている状況が続いているわけです。以上のことから、必ずしも国内景気は一本調子で回復しているわけではないと言えます。
 今後を見通す上でポイントとなるのは、企業の設備投資が増えてくるかどうかという点です。設備投資として利用される機械の受注額を示す「機械受注」の数字を見てみましょう。2012年12月は前年比マイナス3.4、2013年1月前年比マイナス9.7と、2カ月連続でマイナスとなっており、あまり伸びていないことが分かります。「法人企業統計 設備投資」も10-12月は前年比マイナス7.2と落ち込んでいます。これらの数字がいつから改善するのか。ここにも注目することが大切です。
金融政策を見極めるために注目すべき指標は
金融政策を見極めるために注目すべき指標は
 4月3日、4日に、日銀金融政策決定会合が黒田東彦新総裁のもとで初めて行われました。会合では、日銀が購入する資産内容の範囲を広げることについて議論されました。今まで日銀は、償還まで3年以内の国債を購入していましたが、これから行われる追加金融緩和では、より長期の国債を買い始めるということです。長期国債の購入量は12年末の89兆円から13年末には140兆円、14年末には190兆円に増やしていきます。さらに上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)などのなどのリスク資産の買い入れも増やそうとしています。
 これは、「日銀のバランスシートの資産サイドを増やす」と言い換えることもできます。国債やリスク資産を買い入れることで資産を増やし、その一方、買入れ代金は、それらを売った金融機関などの保有する「日銀当座預金」に振り込まれます。これは日銀の負債になります。結果的にバランスシートの左右をともに増やしていくのです。

 このような日銀のオペレーション、つまり金融緩和の取り組みは、「マネタリーベース」に現れます。「マネタリーベース」とは、日銀券(日銀が発行することのできるお金)と日銀当座預金残高(金融機関が日銀に預けている資金)の合計です。金融緩和とは、このマネタリーベースを増やすことだと言い換えることもできます。日銀は、金融機関から国債などの資産を購入して、お金を金融機関に供給しているのです。
 マネタリーベースの推移を見ますと、2012年後半から、前年比2桁の伸びをしています。すでに白川前総裁の時から増やし続けていたのです。今後、マネタリーベースはこれよりも増えていくことは間違いないでしょう。しかし、問題は「M3(現金通貨と民間銀行・ゆうちょ銀行の預金残高の合計)」が反応するかという点です。
 景気が良くなると、企業の資金需要が増えます。企業からの借入は一時的に銀行の預金口座に入るので、預金残高、つまり「M3」が増えます。日銀が金融緩和を行ってマネタリーベースを増やし、その結果、M3が増えるかどうかが、金融政策の成果を評価するポイントとなるのです。
 もう一つ、あわせて見ておきたいのが、「銀行計貸出残高」です。一般的に、景気がよくなって資金需要が旺盛になると、企業からの借入が増えて「銀行計貸出残高」が増えます。ですから、日銀の金融緩和がうまく機能しているかを判断するためには、「M3」と「銀行計貸出残高」が増えているかどうか、に注意する必要があるのです。
 一部で、「アベノミクスの影響で、大手銀行の貸し出しがが増えている」という報道がありますが、上の表を見てもお分かりのように、傾向としては昨年夏あたりから微増し続けています。この理由はなぜでしょうか。
 「鉱工業指数 生産指数」を見ると、昨年夏あたりが景気の底でした。つまり、この時期から景気が自立反転しだしたという背景があると思います。また、円安の影響で、輸入決済のための資金需要が増えていることも考えられます。さらに、金融円滑化法の終了を見据えて、連鎖倒産を防ぐ意味からもキャッシュポジションを上げておいた方がいいと考える企業が増えたことも影響しているかもしれません。
 アベノミクスへの期待がないわけではありませんが、それだけで資金需要が順調に増えているわけではないのです。
円安で本当に輸出は伸びるのか?
2013年4月2日時点で、1ドル=93円まで円安が進んでいます。この影響で輸出がどこまで伸びるかどうかも、景気の先行きを見極める上で重要なポイントになります。

 「貿易・通関」を見てください。震災が起こった2011年度は、約4兆4千億円の貿易赤字に転じました。12年以降もこの傾向が続き、特に円安が加速した2013年1月は、1兆6000億円という単月で過去最大の貿易赤字となりました。2月も約8000億円の赤字です。円安に振れたことで、今後は輸出が伸びるだろうと言われていますが、実際はどうなのでしょうか。
 「Jカーブ効果」という言葉をご存じでしょうか。円安になると、輸入額の方が先に増えるために、最初は貿易赤字が増えます。その後に輸出が増えて、貿易赤字が減少していくのです。こうした状況を、縦軸を輸出額、横軸を時間とした場合に、アルファベットの「J」の形になることから、「Jカーブ効果」と言われています。今後、本当に輸出が増えて「Jカーブ効果」が現れてくるのでしょうか。
 大方の予測では、輸出が好転するだろうと考えられています。一部の輸出企業、例えばトヨタ自動車は、4月あたりから輸出が伸びると見越して生産を拡大しています。しかし、日本全体で輸出が伸びて貿易赤字が減り始めるのかどうかは、今後も指標の動きに注意しながら見極めなければなりません。
 また、貿易赤字が拡大しているということは、実需で円が売られているということですから、当然、この分円安に振れやすくなります。「貿易・通関」とあわせて「円相場」の動向にも注意しておくと良いでしょう。

 もう一つ、貿易収支や所得収支などを含む「経常収支」の動きにも注目することが大切です。
 企業の海外進出が増えたことで、配当や金利のやりとりの額である「所得収支」が増加し、今ではひと月に1兆円程度の黒字となっています。しかし、貿易収支の赤字額が増えていることから、2012年11月以降は経常赤字が続いています。
経常赤字が続くと、日本国債の信任が失われる恐れがありますから、非常に大きな問題なのです。貿易収支の改善によって、経常収支がいつ黒字に戻るかどうかにも、注意しなければなりません。

金融緩和策なくとも、物価が上昇する恐れも
 冒頭でもお話ししましたが、アベノミクスでは「物価目標2%」を掲げています。ここでいう「物価」とは、「消費者物価指数 前年比」のことです。これを、2年で2%まで上昇させると言っているのです。

 ここで、大きな問題があります。表を見てもお分かりのように、「輸入物価指数」が円安の影響と資源価格の上昇によって跳ね上がっているのです。2013年1月は前年比11.0%、2月は前年比13.2%と大幅に増えています。金融政策がなくとも、物価が上昇しやすい傾向があるということです。
 輸入物価が上昇し、企業間の物価(国内企業物価指数)も上昇し、その結果、消費者物価指数も上がってしまうと、単に日本から海外にお金が出ていくだけです。
 これで物価目標が達成されても、何の意味もありません。実質的に景気が良くなって、給与の源泉である名目GDPが伸びた上で、消費者物価が上がるかどうかという点を考えなければならないのです。
 消費者物価だけ上がって名目GDPが増えない、という最悪パターンに陥ったら、安倍政権だけでなく日本経済が後退することは間違いありません。物価の動向と名目GDPの伸びの双方に注意が必要です。
 3月末あたりまでは、アベノミクスに対する期待値が先行していました。しかし、円相場や日経平均株価を見ますと、そろそろ期待も一服しているようにも感じます。これからは、経済が本当に期待に応えるのかどうかという点がポイントになるでしょう。
 私たちの身近なところから考えますと、「現金給与総額」が上がって、なおかつ、「有効求人倍率」や「完全失業率」が改善するということが、実際に起こるかどうか。ここをきちんと見極めなければなりません。
 これらが順調に起こればいいのですが、うまくいかなかったら最悪です。給与が上がらないまま来年4月1日から消費税増税が行われることとなり、日本経済の“終わりの始まり”がスタートするのです。
 結局は、経済だけでなく、国民生活が豊かにならなければ意味がありません。ですから、一部の指標だけを見て「経済が良くなりました」と言っても仕方がないのです。最終的には、経済がプラス成長になった上で皆さんの給与が上がり、生活が実感として豊かになったかを見極めなければなりません。期待だけで現状を判断するのではなく、今回指摘してきた指標をきちんと見ておくことが大切です。(つづく)
小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』』(日経BP社)――絶賛発売中!
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皆様からお寄せいただいたご意見(11件)
1. 猫も杓子もアベノミクス。
黒田日銀の唐突なる金融緩和で面を食らったエコノミクス諸兄の両極端の
意見が面白く見えてしょうがない。今は何とでも言えるでしょうね。
マスコミも異口同音のことを跋扈して何か的を得ていない感じもしますね。
日銀は多かれ少なかれ限りなくお札を供給し続け物価を制御し経済活動の
活性維持に努めなければならないが、潤沢な資金がどのように市中にまわり
企業の投資に反映され、生産、消費へと回転していくのは、政策次第であり
一部の経営者の意図次第になる。そんなに短期に循環するわけがない。
ややもすると外債購入やら残存不良債権の償却で吸収されてしまう。
直近では円安により輸入価格の増大と消費税増税が景気に覆いかぶさるのは目に見えている。
900兆もある個人金融資産は益々防衛に走ってタンスに置かれたままになる。
デフレで財布の口をゆるめていた優雅な高齢年金生活者も逆に財布の口を閉じるかもしれない。
ここはウォッチングしかないのでしょうか。
潤沢なお札の供給でお金の価値が減ずれば、株、債権、不動産投資だけが活況づく感じを
受ける。証券会社、投資銀行のみが小躍りしているが、外国投資、ヘッジファンドが
7割も関与している状態の市場がなぜか不気味です。
一部の偏屈なエコノミストが言う過度な円安、国債暴落も覚悟が必要か。 (ytk) (2013年04月10日 10:42)
2. 低所得層や貧困層は、たしかに物価高で困るかもしれない。しかし、株高や不動産価格上昇などの資産効果による消費拡大(プラス)と物価高(マイナス)を見比べれば、日本経済全体では圧倒的にプラスが上回る。低所得者や貧困層の方が人数的には多いので、政治的には色々な対応が必要となるが、経済面でのマイナス面を強調するのはミスリードを言われても弁解の余地はない。 (山田一太郎) (2013年04月09日 14:28)

1. 日銀の大胆な金融緩和策は本来は日本の金融機関が総力を挙げて行うべきものであろう。1500億円以上の金融資産が日本国内の金融機関に死蔵されており、適正に民間市場に流れていかない異常な状況が長期に渡って続いている。日本の金融機関は多量な預金を国債を購入することで、安易な金利稼ぎをしていると同時に市場への金の流れを堰き止めている元凶となっている。反面、日銀が国債等の購入は死蔵されずに資金が市場に流れていく。日銀の国債の購入は金融機関の購入と逆の作用を及ぼす。今回の日銀の金融緩和策は正に国内の金融機関が果たさねばならない役目を引き受けたわけである。
こうでもしなければ景気の劇的な回復は不可能なほど日本の金融機関の創造性と責任感が衰退ししてきている事が、日本の経済力悪化の根本要因の一つなのであろう。全てを日銀任せにせず今回の金融緩和を契機に、日本の金融機関が1500億円もの巨大な資金を死蔵せずに有効活用して日本の経済再生、活性化に向けて日銀と協調して、全力を尽くすことを期待したい。 (クスリ) (2013年04月08日 17:38)
2. 毎週、経済指標を引用した解説を掛かれる小宮さんのご苦労は大変なものだと思う。私は、毎週発表される小宮さんのブログを楽しみにして読み、この2年間、毎回欠かさず意見を書かせてもらっている。
80歳の暇な老人は、バックナンバーを2009年から拾い読みし、小宮さんの解説も皆さんのコメントも自分の意見も、随分変遷しているなと思った。最近私は、円安が大事だといっているが、2009年頃は、金融緩和は意味がないようなコメントを書いている。読みの浅さを思い知って恥ずかしい。
2009年頃、小宮さんが取り上げられるテーマは幅広く、かつ多数の方がコメントを寄せられていた。しかし最近、直接間接にアベノミクスに関連するテーマに絞られてから、かってたくさんお見受けしたペンネームが見つからず、コメント欄がさびしい。経済金融問題については、意見が書きづらいのだろうか。
2度の政権交代を経て、TPP交渉のテーブルに着くことは確定したし、日本社会は変革に差し掛かっている。今後諸般の情勢変化は加速するだろう。小宮様の問題提起を種に大勢の方のご意見を読みたいと思う。人間の智恵は、連想で発達する。大勢が意見を交わすほど良い結論が出る。コメントを許すブログは貴重な存在だ。小宮様、毎週ご苦労様ですが、種となる記事をよろしくお願いします。 (富士 望) (2013年04月08日 14:21)
3. 実体経済の長期的な推移に着目したお銀様とAG様に大賛成。ストックのことばかりでGDP15%分の輸出金額が20%以上増額することに全く言及のないクスリ様のご意見には賛同できない。 (富士 望) (2013年04月08日 12:25)
4. アベノミックスの発表から円安、株高で世の中少し、明るくなっているように見えます。日銀の黒田総裁の発表は英国のFTはバズーカ砲と比喩していたが、20年に及ぶデフレ脱却には副作用を恐れず、今回の果敢な金融政策は評価されてよいと考えます。しかしこの20年でグローバリゼーションの進展、特に中国はじめ途上国の目覚しい発展、人口減少社会と高齢化、円高から多くの製造業の疲弊はシャープ、パナソニックの苦境をみてもわかります。一方サムスンは半導体や、液晶テレビだけでなく、最近はスマホで大発展を遂げ営業利益は二兆円ともいわれ、電機大手の合計より
多いのが昨今の現実です、自動車、建機と一部の製造業を除き、円安のメリットを受け、利益を拡大、従業員の給与をアップさせるには数年を要すると考えます、結果、物価だけがアップするスタグレーションを心配します。やはり消費税アップは一年間遅らせるべきでしょうか? (川崎のゴリさん) (2013年04月08日 12:04)
5.  筆者は一番重要な点を見落としています。
それは、異常な円高の是正により、存亡の危機にあった日本の製造業が息を吹き返したという点です。この3月期決算を見れば分かるでしょう。企業収益が改善されれば、報道されているように満額ボーナスやら設備投資に回り日本経済の復活の一歩になるでしょう。経済のパイが拡大していく状況で、筆者の言う最悪シナリオは、あまりに心配性に見えます。「パイの拡大」にも疑問を呈しているようですが、「金は天下の回りもの」ですから、金融政策と円レート双方により、これは間違いはないと思います。まだ統計数字には表れていないのでしょうね。
 過去の数字を見ることは大事ですが、このような変化の激しい時代に、時間遅れのある数字それだけをベースに議論することに危うさを感じます。 (AG) (2013年04月08日 10:21)
6. 単なる経済指標の解説記事が今時どれほどの役に立つというのか。更に不安要素を論い何の解決策も述べていない。4年にも及ぶ100円を切る異常な円高を当たり前のように受け入れ,そこを出発点にして物事を見るからおかしくなる。それ以前の100円を超す為替相場が何10年も続いていた時をベースに考えるべきである。 (お銀) (2013年04月08日 09:36)
7. 印刷機能を付けてください.きちんと理解したい記事はPDF化して後からじっくり読みます.全てを表示して印刷できる機能がないと不便です. (読者) (2013年04月06日 16:34)
8. アベノミックスの効果が国民全般に及ぶまでには、最低半年〜1年程の時間を要することと思う。株高、不動産価格の上昇による資産押し上げ効果は、多くの資産を抱える金融業界、大手企業、資産家等に資産効果をもたらし、そこに大きな資本、資金が生まれるからである。元々、多くの資産を持たない大多数の国民にとっては資産効果は直ぐには起こりえず、円安による輸入物価高騰による物価高の方が先行せざるを得ない。大手企業の資産効果、円安による製造業の景気回復や企業利益が増えてから社員、従業員の給料がアップする条件が整って、それが実施可能となるからである。逆の流れである、社員、従業員の所得アップが企業利益アップに先行することはあり得ない。給与アップにしても、大半の企業では毎年一回の4月の給与改定時期にしか行われない為に、利益を向上できた企業では夏、冬のボーナスで利益を従業員に還元することになる。従って今年は、アベノミックスの効果による給与効果はボーナスの支給状況で判断するのが妥当であろう。アベノミックスの経済効果は、水の流れと同様に高きから低きへ流れて行き次第に大きな水の流れを生み出し、大きな河の流れとなって行くと思われる。当面の資産効果に浮かれず、それが続く内に第3の矢である成長戦略を何とか正常軌道に乗せること経営者、政治家には強く願いたい。 (クスリ) (2013年04月05日 16:17)
9. 小宮様の、生産指数、輸出金額、マネタリーベース、銀行貸出残高の統計値を引用した説明は納得できる。しかし円安の影響は今後注視が必要だとされている。そこで、ドル円レートと輸出金額について2008年以降の推移をグラフ化し、次を読み取った。コメントにグラフを載せられないのは残念。
1. 2008年のドル円相場は110円台で輸出額は現在より30%程度多い。
2. ドル円相場は、2009年4月の100円から2012年9月までほぼ一定の低下トレンドが続いたが、同月のマネタリーベース増加を受けて下げ止まりとなり、2012年11月の日銀政策の変更後は円安が急激に進み、4月5日の相場は97円近くである。
3. リーマンショックの2008年末から1年間は輸出が急減し、2009年末にやや戻した。
4. 2010年以降昨年まで3年間の輸出金額は、月額±8千億円程度変動するが、月額平均は2008年の30%減の54千億円程度で横這いである。輸出額減少はリーマンショックの後遺症というより円高影響だと推察できる。
小宮様の短期分析を契機に2008年からの経済統計値をグラフ化し、円高の影響で円の輸出金額が30%程度減少していたことが改めて認識できた。しかし、輸出は一般的に契約時に為替予約する。今の売上は円高時の契約だから、円安効果が輸出金額、生産指数、機械受注に現れるのは大部遅れる。小宮様の言われる通り、今後の輸出金額等の推移には注目が必要だ。
アベノミクスの主な狙いではないが、金融緩和は明らかに円安を招いている。しかしまだリーマンショック前のドル円相場までは戻っていないから、一層の金融緩和で更なる円安を期待したい。諸経済指標に円安効果が現れるのは今後だし、小宮様が心配される物価高は、円安で輸出が2008年頃のレベルに戻った後で考えて充分間に合うだろう。 (富士 望) (2013年04月05日 13:52)

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20130404/346411/?ST=career&P=4

 

 

 

【第33回】 2013年4月11日 山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]
「原発」に学ぶ「異次元」の死角
アベノ日銀はリスクが満載
?黒田日銀が打ち出した大胆な金融緩和策は、人体に例えれば心臓を2倍にして2倍の血液を送りだすようなものだ。日本経済は興奮し株式市場は大商いである。たいした効果だが、強い薬には副作用がある。異次元の金融政策は異次元のエネルギーとされた原発と重なる部分がある。リスクを軽視した「強者の慢心」は危うい。

?景気好転で世間の関心が「経済」に移っている最中、福島第一原子力発電所では放射能汚染水が漏れ、制御不能の事態に陥っている。政府の収束宣言にもかかわらず、フクシマの現場ではいまも危機の綱渡りが続いている。

「出口戦略」の不在

?金融政策と原発政策は意外にも共通点がある。違和感を持つ人もいると思うが、「危機管理」の観点から見ると、両者には共通する欠落点がある。

?第一は「出口戦略」の不在。原発はすさまじいエネルギーを発生させる代償に放射性廃棄物を生み出す。「核のゴミ」といわれるが捨てられないゴミである。人体や生態系を破壊する猛毒の処理方法さえ決めず、発電を始めた。長い時間軸で考えるべき経営が短絡的採算を重視し、先のことは考えない。事故はその中で起きた。

?黒田日銀の大胆緩和は、株式・債券・外国為替の市場に大きなインパクトを与えた。目先の利益を追う人には嬉しいことだ。しかし、こんなことはいつまでも続かない。株式市場の最大のテーマは、どこまで上がるか、いつ売ればいいのか、である。

?資産価格の膨脹は「適正水準」でピタリと止めることができない。ハンドルさばきを誤ると破裂するまで膨脹する。「異次元」とまで総裁自らがいう過激な金融膨脹は副作用を覚悟すべきだろう。その副作用を見据えて「出口戦略」が用意されているとは思えない。

「デフレ脱却に着手したばかりなのに、出口を云々する時ではない」と麻生財務相は国会で答弁したが、お膝元の財務省では、「国債バブル」が心配のタネになっている。

?今は国債が買われ、長期金利がどんどん低下しているが、いつもでも続かない。金利の反転が急激に起きたら大変なことになる。困ったことに、それがいつ起こるか、何がきっかけになるか分からない。その時、どう対処するか。「出口戦略」を持たないまま「異次元の金融政策」に突入した。

「政府が新規に発行する国債の7割は日銀が市場を通じて買うことになる」と黒田総裁は明言した。そこまでやるのか、という大胆な金融緩和だ。本来、国債市場には「大量発行の歯止めをかける自律的機能」がある。消化能力を超える大量発行になれば、国債が売れなくなり(金利は上昇し)「警鐘」を発する。だが日銀がどんどん吸い上げれば、その機能が損なわれ、ある日突然、金利はね上がる(価格暴落)という事態が起きかねない。

「有事」になってわかるコスト

?第2は「有事」になってはじめて政策コストが明らかになることだ。

?原子力は安全運転が続く「平時」なら、一番コストの安い発電方法とされてきた。だが運転をやめて廃炉にする時のコストや、突然の事故で賠償やら汚染対策などの費用が発生する「有事」になると、とんでもなく割高の発電方法であることが分かる。

?異次元の金融政策は、アナウンス効果が絶大で、何も始まっていないうちから株価は上がり、円は安くなり、金利が低下した。極めて効果的な政策に見えるが、「事故」が起きた時、どうなるのか。首尾よく安全運転を続ける可能性はゼロではないが、「資産価格」を膨脹させる政策だけに、「暴落」という事故と隣り合わせの政策である。

?黒田総裁は「現時点では資産バブルの心配は全くない」と強調する。危ないことを承知の上で「安全神話」を煽ってはいないか。

?政策のコストは、失敗の可能性を織り込んで計算した方がいい。

?リスクが大きい政策はなるべく避ける、というのが日銀の伝統的手法だった。だが、白川前総裁は「リスクがあるからやらない」ということではなかった。国債を買い上げて市場に資金を流し込む、株を買い上げる、J−REITを買う、という「非伝統的」な政策は、白川時代に始まった。黒田総裁との違いは「リスクある政策だから、市場の様子を見ながらやる」という姿勢だった。

?そんなやり方を黒田総裁は「戦力の逐次投入」と批判した。「政策は小出しにせず、有効と考えることは全て投入する」という。危険承知で突き進む、という蛮勇のコストはどれほどになるのか。リスクが現実化して分かる、という事態になる恐れは十分ある。

日和見主義

?第3は、御用学者・日和見エコノミストの跋扈だ。

?原発の安全神話を振りまき、怠慢なリスク管理の温床となったのが、「原子力ムラ」で権勢を振るう御用学者たちだった。有名大学の偉い先生は原発推進の「お飾り」になっていた。金融政策に「御用学者」がいないのか。
?
?白川方明前総裁の政策に不満だった安倍首相は、「私の政策に理解がある総裁を選ぶ」と宣言し、お眼鏡にかなった正副総裁を選んだ。だが、金融政策は総裁だけで決まらない。金融政策決定会合という場で多数決で決まる。メンバーは総裁と副総裁二人、そのほか6人の審議委員がいて、計9人の多数決で政策を決める。白川総裁の時も同じである。

?ということは3人代わっただけでは政策は変わらない、はずだ。

?黒田日銀の初会合で、「異次元の金融緩和」は全員一致で決定された。白川総裁の時と正反対の決定がトップが代わっただけで実現した、ということである。

?日銀の審議委員は大学教授、企業経営者、民間のエコノミストなど金融の専門家によって構成される。それぞれご自分の意見をもった人であるはずだ。それが白川が黒田に代わった途端、クロがシロになったというのか。

?3月に行われた金融政策決定会合の議事録に、興味深い事実が載っている。

?白井さゆり審議委員が「2014年から始まる無期限の金融緩和をすぐに始める」など、黒田日銀の政策を先取りしたような提案をしていた。ところが審議の結果、多数の委員は「様々な選択肢の一つだが、現状維持が適当」と反対し、提案は退けられた。

?一ヵ月後に開かれた黒田総裁の初会合で、ほぼ同じ提案は全員一致で決まった。この一ヵ月で大多数の委員の意見が代わるような市場変動は起きていない。総裁が代わっただけだ。日銀の政策決定会合も政府の審議会と同じように、官僚が決めた政策を追認する「儀式」で、高名なセンセイたちは「イエスマン」なのか、と思わせる風景である。

?今回、副総裁に就任した金融学者の岩田規久男氏は独自の金融論で日銀を批判していたので、これまで審議委員になることはなかった。6人の審議委員は穏当な意見で、日銀の意向に沿う「空気が読める人」が選ばれてきたと思わざるを得ない。

?政治主導で白川氏が黒田氏に代わり、委員たちは「空気」を察知したのだろうか。それにしても前月に反対した委員は、今月どんな理屈で賛成に回ったのか。来月公開される4月の議事録が興味深い。

?審議委員は官庁の審議会委員と違い、常勤である。日銀の内部関係者によると2000万円前後の年俸が支払われているいう。たんなる名誉職ではない。その実態が「ゴム印を押すだけ」というのでは預金者に対する背信である。

?問題なのは御用学者の人格云々でなく、制度を空洞化させるからだ。専門の有識者が決定に加わることで多重のチェックを働かせ、システムのリスクを軽減する。それが委員会方式の使命である。

?原発が御用学者によって杜撰な管理に置かれ、取り返しの付かない悲劇を招いた教訓は他人事でない。

?審議委員だけではない。銀行や証券会社などのエコノミストやアナリストにも「空気を読む」が広がっている。

「当局に批判的はコメントは出しにくい」と銀行の広報担当者はいう。アベノミクスの危うさを指摘すると、「こんなに巧くいっているのに、景気に冷や水を浴びせるのか」
という批判にさらされる、というのだ。

?参議院選挙まで「ともかく景気を」という政権の意向を、金融界は十分に感じ取っている。

「株高や円安など市場が賑わっている時に、敢えてネガティブな見方は出しにくい。自民党が選挙に大勝し、これからも力を持つだろう、ということは無視できない」

?銀行の人たちは言う。当局から免許をいただき、理念より利益の金融界は体質的に日和見なのかもしれない。危ないと思いながらも口を拭う金融界の空気が、アベノ日銀を暴走させることにならないか。

責任を負いきれないほどのリスク

?第四は、責任を負いきれないリスクを抱えていることだ。

「日銀総裁は原発を運転する電力会社の社長と同じ覚悟がいる」

?日銀OBの一人はそう言った。原発のリスクに平然としていた東京電力の経営者は、フクシマで大変な責任を負った。その自覚があるかは不明だが、個人が一生をかけても償いきれない犠牲を社会に与えたのである。

「私の責任で再稼働します」などと首相が言っても、もし事故が起きたら、責任を負いきれるものではない。日銀総裁も「なにも起こらないで経済が順調に進む」ことが最良の仕事で、狂乱物価やバブル経済を発生させた総裁は、責任を負いきれない打撃を世間に与える。

?アベノミクスは政治的野心を伴った政策である。「中央銀行の政治的独立」に疑義を唱え、政治力で金融政策を変えた。そのとっかかりが「緩和政策」をバナナの叩き売りのように競わせた総裁選びだった。

?御用学者や安全神話に寄りかかり、やみくもに異次元にのめり込むことで大丈夫なのか。アベノ日銀は、一見無関係な原発事故から学ぶべきことが多いはずだ。事故が起きたときは手遅れである。
http://diamond.jp/articles/print/34505


第178回】 2013年4月11日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授]
「次元の違う金融緩和」が秘めた危険性
?貸手が気前よくなったら経済は要注意。

?これは経済を観るときの私の重要な視点の1つだ。

?故・速水優氏が日銀総裁に就任した直後にも私は同氏にそう言った。

「気前が良すぎる貸手が現れたらそれは大きな異変です。貸手が借手に頭を下げて借りてもらうのは経済法則に著しく反する行為だからです」

?速水氏は細川政権当時、経済同友会の代表幹事をしていて、細川政権の改革全般を強力に支援してくれていた。日銀総裁としても「円高」と「規制改革」には一家言を持つ硬骨漢であった。2006年の量的緩和の解除により景気後退のA級戦犯のように言われるが必ずしもそうではない。私はその直後に、規制改革を進めない政府に記者会見でボールを投げ返す必要があったと感じて彼にそう言った。政府が必要な経済政策を推進して、はじめて金融政策を転換できるという意味であった。

?さて、素人同然の私が日銀総裁に前述のようなことを言って実に失礼だと反省したが、彼は私の話を真剣に聞いてくれた。

?日銀という高台から見張っていて、貸手が金を持って借手を追いかけている。私のイメージはそんなところであった。もしそんな現象を発見したら半鐘を鳴らして警告すべきだと言いたかった。

「借りてくれる」は危険なサイン

?私は80年代末のバブル最盛期に、ある農協役員にこう頼まれた。

「金を借りてくれる人がいたら紹介してください」

?このとき私は「借りてくれる」という言葉に強い違和感を持ち、その後幾日も考え込んでしまった。

「貸してくれる」ならわかるが、「借りてくれる」はおかしい。「貸してくれる」は古代の人でもわかるが、「借りてくれる」は理解できないだろう。

?私はつねづね、経済がどんなに大規模になり、複雑になっても、経済を支配する基本的な法則は不変であると信じている。それは他でもない「人々の暮らしを良くする」という目標は時代にかかわらず変わらないはずだからだ。

?正常な経済状況の下では、金を借りる必要のない人は借りない。そして、借りたい人でも返す力のない人は借りないし、貸手もそんな人には貸さない。

?問題は借りる必要がない人が借りたり、返す力のない人が借りる現象が起きることだ。

?リーマンショックの契機となったアメリカの住宅バブルの崩壊もその典型であった。中流家庭に住宅が行き渡ると、バブルを維持するためには低所得者層に拡大せざるを得ない。返済困難な人にまで融資をすればバブルの崩壊は時間の問題となる。

?また、貸手が借手に「借りてもらう」ようになると深刻なモラルハザードが発生する。「あなたが借りてくれと必死に頼んだから借りてやった」のだから返済する気持ちが極度に弱くなる。結局それが不良債権として蓄積するのだ。

?1980年代バブルが弾けた後、宮沢喜一元首相に「何とかならなかったですか」と聞くと、「みんなが歓んでいるときに水をかけるのは難しいんだな」とつぶやいた。

「80年代バブル」の二の舞にならないために

?私の念頭にあるのは、言うまでもなく、「次元の違う」金融緩和策。特に日銀が市場に供給する資金量を2年間で2倍にするという破天荒な政策だ。資金需要のないところに供給すればその金はどこに行くか。結局はまず土地や株に向かい、資産バブルを起こさざるを得ない。銀行も旨味の少ない国債から離れて借手を探すことになる。そうすれば、逃げる借手を追う貸手という不条理な風景が再発するかもしれない。

?黒田日銀はもちろんその対策を考えているだろう。また、金融当局も学界も、何よりも企業や個人も、80年代バブルで多くを学んでいる。今のところ絶好調なアベノミクスをどう着地させるか。官民挙げて知恵を絞らなければ元来た道を再び辿ることにもなりかねない。

?もしも、この絶好調を堅実な成長過程につなげることができれば、アベノミクスの大実験は経済史に深く刻まれよう。
http://diamond.jp/articles/print/34506


日本の政策転換、やり残した「革命」
2013年04月11日(Thu) Financial Times
(2013年4月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


黒田日銀は金融政策の革命に着手した〔AFPBB News〕

 日銀の黒田東彦新総裁が金融政策の革命に着手した。日銀にはデフレを終わらせる力はないと日銀自身が明言していた、20年に及ぶ慎重な政策運営に幕を下ろした格好だ。

 2%の物価上昇率を2年以内に実現するという安倍晋三首相の目標は野心的で、黒田氏はそれを達成する大胆な政策を手にしている。

 問題は、その政策がうまくいくかどうかだ。これだけではダメだと筆者は考える。日本政府が抜本的な構造改革でこれに続かなければならない。

「量的・質的金融緩和」の限界

 日銀は4月4日、「量的・質的金融緩和」なるものを打ち出した。マネタリーベースを倍増させ、買い入れる日本国債の平均残存期間をこれまでの2倍以上に延ばすという。

 実行されれば、マネタリーベースは年間60兆〜70兆円(米ドル換算で6000億〜7000億ドル、日本の国内総生産=GDP=の13〜15%に相当)増加し、購入する国債の平均残存期間は現在の3年から7年に延びる。日銀はさらに、「『量的・質的金融緩和』は・・・必要な時点まで継続する」と述べている。

 これはいわゆる「ヘリコプターマネー」ではない。なぜなら、景気が回復したら金融緩和政策を転換するつもりでいるからだ。また、これはスイス国立銀行が行ったような外国資産の買い切りでもない。

 フルクラム・アセット・マネジメントのギャビン・デービス会長の言葉を借りるなら、これは「内的バランスシート操作という薬の大量投与」であり、資金の運用先を日本国債からほかの資産にシフトするよう金融セクターに促すと同時に、実物資産の価格を引き上げることを狙った措置だ。とはいえ、円相場の下落は間違いなく望ましい結果だろう。

 この政策がうまくいく可能性があるのはなぜなのか? それは、日本が民間部門の構造的な貯蓄超過に苦しめられているからだ。日本企業は現金を過剰にため込んでいる。今回発表された政策は、この構造を少なくとも一時的には変える可能性がある。

 その経路は2つある。第1の経路は、実質為替レートを下落させることにより、経常黒字の拡大を通じて過剰な貯蓄を輸出する能力を高められるかもしれないというもの。第2の経路は、実質金利をマイナスにし、かつ資産の実質価値を高めることにより、投資が増えて貯蓄が減少するかもしれないというものだ。

 ただ、最もうまくいった場合でも、この政策は短期的にしか機能しないだろう。最悪の場合には、インフレ期待を危険なほど不安定にし、日本をデフレからあっという間に超高インフレに追いやる恐れがある。

 従って日本の国民は、政府の狙いは国民の(明らかに持続不能な)貯蓄の実質価値を引き下げて国民を著しく疲弊させることにあると考えるかもしれない。

 もし国民がこの恐怖に駆られて円を見捨て、資産を外国に移したら、政策当局は途方に暮れることになる。金利を引き上げてこれに対応すれば、政府の財政に壊滅的な打撃を与えることになるからだ。実際、当局は為替管理まで導入せざるを得なくなるかもしれない。

機能不全に陥っている企業部門

 では、今回の金融政策の変更を成功させるためには何をすればよいのか? その答えは、最大の障害物が構造的なものであることを認識することにある。問題は、機能不全に陥っている企業部門にあるのだ。

 スミザーズ・アンド・カンパニーのアンドリュー・スミザーズ氏とロンバード・ストリート・リサーチのチャールズ・デュマ氏は先日、ほとんど同じことを主張していた。日本の民間部門における貯蓄超過――そのほとんどが企業部門によるもの――は、妥当と見られる投資機会に比べて、あまりに大きすぎるという。

 そのため2011年には、内部留保と減価償却費の合計のGDP比が29.5%という信じ難い高水準に達していた。やはり企業の貯蓄超過に困っている米国でさえ、この値は16%にとどまっている。

 日本の経済システムは、多額の民間貯蓄を生み出すマシンだ。人口動態が芳しくない成熟経済は、こうした貯蓄を生産的に活用することができない。デュマ氏が指摘するように、米国の設備投資総額は過去10年間、平均してGDP比10.5%なのに対し、日本は13.7%に上る。にもかかわらず、米国の経済成長は日本のそれを大きく上回ってきた。

 日本企業の投資は少なすぎたのではなく、過剰だったに違いない。企業の過剰貯蓄をもっと吸収するために投資率を引き上げることが無駄を増やさないとは思えない。

 短期的には、マイナスの実質金利は投資を多少増やすかもしれない。貯蓄から得られる収入が減るからだ。だが、中長期的には、日本企業の設備投資は減っていくはずだ。家計の貯蓄は少なく、借り入れ意欲も低いため、企業部門の莫大な過剰貯蓄を吸収できる部門は2つしか残らない。外国人と政府である。

 実際には、この20年間、政府が主にこの仕事を引き受けてきた。財政赤字が巨額で、公的部門の債務が上昇し続けるトレンドを描いているのは、このためだ。一方、対外黒字は縮小した。これは交易条件の悪化と輸出量の不振によるものだ。ここでもやはり、円安が助けになるはずだが、ごく小さな助けにしかならないだろう。

 企業部門の過剰貯蓄を吸収し、公的債務比率を引き下げるために必要な財政黒字を生み出すためには、少なくともGDP比10%の経常黒字が必要になる。いまだに経済がかなり閉鎖的な日本は、そのような黒字を生み出せない。仮にできたとしても、諸外国はそれを吸収しないだろう。

日本に必要な構造改革とは

 となると、当然、日本には是が非でも構造改革が必要だということになる。だが、どんな構造改革でもいいわけではない。日本に必要なのは、企業の貯蓄超過を減らすと同時に経済のトレンド成長率を高める改革だ。日本の1人当たりGDP(購買力平価ベース)は米国の水準の76%、労働時間当たりのGDPは71%まで下がっているため、この組み合わせは可能なはずだ。

 政策の選択肢には、減価償却引当金の大幅な削減、場合によっては投資拡大の奨励策とセットにした内部留保に対する重税の実施、株主の権限を強めるためのコーポレートガバナンス(企業統治)改革などがある。その狙いは、非効率性を助長してきたキャッシュフローのクッションを企業から奪うことだ。

 考えられる限り最悪の増税は、現在計画されている消費税の増税だ。というのも、日本は消費が少なすぎるからだ。むしろ、企業の貯蓄に課税すべきだ。

 こうした改革は本当に抜本的なものになるだろう。では、安倍首相がこの方向に動く可能性はほんの少しでもあるだろうか? 答えはノーだ。だが、この種の改革がなければ、日銀の新しい政策はよくても短期的な対症療法で終わり、最悪の場合、インフレの惨事を招く。

 一方、中国はこれが、投資を優遇し、消費を抑えることで築かれた経済の最終結果であることに留意しなければならない。先進国に追いつくための戦略としては素晴らしいが、高度成長が終わった時には、極めて大きな頭痛の種が残るのだ。

By Martin Wolf

http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37561


【第57回】 2013年4月11日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]
アベノミクス三本目の矢・成長戦略に
「痛みを伴う」大胆な外資参入を
?マーガレット・サッチャー元英国首相がお亡くなりになった。元々、私が英国留学を志した理由は、サッチャー氏の指導力へのあこがれであった。また、会社を辞めてから競争社会に身を置いた私にとって、「サッチャリズム」という個人主義・自由主義の思想は、生き方の指針であった。私の人生に最も影響を与えた人物であったといっても過言ではない。謹んでご冥福を祈ります。

?サッチャー氏逝去のさまざまな記事を読んでみた。興味深かったのは英ガーディアン紙だ。この記事からは、世界のさまざまな国が、サッチャー氏に対して「偉大な指導者」と称えるだけでなく、複雑な感情を持っていたことがわかる。

?例えば、南アフリカではサッチャー氏がアパルトヘイト(人種隔離政策)を支持していたことに触れ、それでも「英国の他の指導者より、まだマシだった」という微妙な評価をしている。また、東西冷戦終結に関しても、ロシアや東欧圏のサッチャー評は単純ではない。チリでは、サッチャー氏がピノチェト軍事独裁政権を高く評価していたことを称えている。

?残念なのは、日本の反応を紹介した部分だろう。まず他国に比べて非常に短い。そして安倍晋三首相が、中国との領土問題を念頭に、サッチャー氏を「フォークランド紛争を解決した偉大な政治家」と評価したとしている。相変わらず一国の首相とは思えないほど、物の見方が狭いことを海外に示してしまった。せめて、中曽根康弘元首相の東西冷戦期の首脳外交の思い出話でも紹介してもらいたかった。

アベノミクス三本目の矢・成長戦略スタート:
だが「日本企業の支援=日本の経済成長」ではない

?安倍晋三内閣の経済政策・アベノミクスの三本目の矢「成長戦略」が動き出している。既に、二本の矢「公共事業」「金融緩和」で急激な円安・株高を生じ、日本国内にある種の高揚感が生まれている。一方で、二本の矢はあくまで「時間稼ぎ」に過ぎず、最も重要なのは、「成長戦略」であるという、冷静な見方も広がってきた。

?安倍首相は成長戦略の重要性をよく認識している。成長戦略は、日本経済再生会議のもとにできた産業競争力会議で議論されているが、首相は積極的に指示を出している。今後5年間を緊急構造改革期間として、産業再編、企業の事業再構築、起業や投資を促進するための法人減税の拡充、海外M&A支援策、イノベーション支援策など「日本企業の国際競争力強化」を支援する方針を打ち出したのだ。

?これらの政策は、一言でいえば「日本企業に対する支援策」である。だが、それだけでは、日本経済の「三本目の矢」としては不十分ではないだろうか。「日本企業の支援=日本の経済成長」ではないからだ。もはや斜陽産業となった輸出産業の保護や、国内空洞化を防ごうと、無理に企業の海外進出を引きとめようとする支援策は、結果として経済の停滞を長引かせてしまう。日本の経済成長のためには、日本企業にとって「痛みを伴う」ことになる政策も必要なのではないだろうか。

「痛みを伴う」外資参入が日本を救う(1):
外資の研究開発と高品質製品の製造拠点を日本へ呼び込む

?以前この連載で取り上げた、英国の事例を三度紹介する(第43回を参照のこと)。英国では、インド・タタ財閥による、ブリティッシュ・スチールやジャガー買収など、新興国の企業による英国製造業の積極的買収と、英国内工場の操業によって、製造業が拡大している。

?タタ・モータースは、ジャガーの買収によって、「有名ブランド」を手に入れ、「知識・情報の集積」「高い技術力」があり、「政治的リスクの低い」英国に研究拠点を設けた。そして重要なことは、日本同様に労働コストが高いにもかかわらず、ジャガーの英国工場をそのまま維持して操業している。エンジンや高品質の自動車部品を英国工場で製造し、インドに送って組み立てて、アジア地域に販売しているのだ。また、北米・欧州への輸出は、買収後も英国の工場から行っている。一方。英国からすれば、インド、中国など新興国など外資の進出によって、国内の自動車工場が廃業に追い込まれずに済んだ。不況下でも英国内の雇用は下支えされてきたのだ。

?重要なことは、タタが英国に進出した「有名ブランド」「地理的条件の良さ」「知識・情報の集積」「高い技術力」「質の高い労働力」「政治的リスクの低さ」という諸条件を、日本も十分に備えているということだ。つまり、新興国にとって、日本は英国に劣らず魅力的であるはずなのだ。

?そこで、この連載では諸外国の製造業の「アジア地域向け研究開発拠点」や「高品質部品の製造拠点」を日本に誘致するという主張を打ち出した。そもそも、「研究開発と高品質製品の製造拠点の国内維持」は、日本企業の一般的な戦略である。その戦略を日本企業に限定せず、世界中の企業の「研究開発と高品質製造」も日本に呼び込むことで、日本経済の成長につなげようという発想だ。

「痛みを伴う」外資参入が日本を救う(2):
外資からの中小企業受注増が「デフレ対策」になる

?ここからが、今回の新たな論考である。現在、欧米の製造業は、研究開発と高品質製品の製造を欧米の工場で行っている。そして、部品を中国、インドなどアジア諸国へ輸送して、最終製品の組み立てを行っている。この研究拠点と高品質製品の製造拠点を日本に移転すれば、欧米企業にとって、輸送費などコスト削減が可能になる。なぜなら、高い技術力を誇る日本の中小企業を下請けに起用できる範囲が広がるからだ。更に、研究開発拠点を日本に置けば、よりアジア市場に近いところで、顧客ニーズを汲み取った開発が可能にもなる。競争力強化にさまざまなメリットがあるということだ。

?一方、日本側からすれば、欧米企業の製造拠点が日本に進出すれば、国内の労働者の雇用機会が増えることになる。また、日本企業の下請けだった中小企業が、欧米企業からの発注も受けられるようになる。これまで、中小企業は親会社からタダ同然の安売りを強いられてきた。欧米企業からの受注が増えれば、親会社の理不尽な安売り要請を断ることができる。そして、親会社は中小企業への発注金額を上げざるを得なくなるだろう。中小企業は売上・利益拡大となり、労働者の給与も挙げられる。これは、まさに「デフレ対策」ではないだろうか。

?もちろん、欧米企業の日本進出が、日本企業のアジアでのシェアを奪う可能性はある。競争相手をわざわざ市場に参入させるというのだから、日本企業は激しく抵抗するだろう。だが、外資参入の経済効果は、日本企業が受ける「痛み」を上回るはずだ。また、厳しい技術競争や販売競争は日本企業を鍛え上げ、より成長させるものである。

「痛みを伴う」外資参入が日本を救う(3):
航空機産業の工場誘致を考える

?自動車産業以外の欧米企業の日本誘致を考えてみる。例えば航空機産業である。今後20年間にアジア太平洋地域の航空会社に引き渡される新造旅客機と貨物機数が約9870機になるという予測がある。金額にすると1兆6000億米ドル(約145兆6000億円)である。これは、世界の航空機引き渡し機数の35%を占め、北米と欧州を追い抜く巨大市場となる見込みである。この需要を日本に取り込もうということだ。

?まず、ボーイング社である。起死回生をかけた新鋭中型機「ボーイング787」が、バッテリー発火トラブルで運航停止となった。そのトラブルの原因を巡り、バッテリー周辺の不具合が焦点となり、日本メーカー・GSユアサに国土交通省と米連邦航空局の立ち入り検査が入った。

?日本にとってはネガティブなニュースだった。だが、一方でボーイング787の機体の多くの部品が「メイド・イン・ジャパン」であることが広く一般に知られることとなった。最新鋭のハイテク航空機の開発には、日本の技術力が欠かせないということだ。それならば、ボーイング社の「研究開発拠点」と「最終組み立て工場」に、日本に来てもらってはどうだろうか。

?ボーイング社は、航空機をイタリア、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、韓国、中国などの約900社で国際共同開発している。日本からも、機体製造において、三菱重工が主翼、川崎重工が前方胴体・主翼固定後縁・主脚格納庫、富士重工が中央翼・主脚格納庫の組立てと中央翼との結合を、エンジン製造では三菱、川崎、IHIが参加している。また、東レが一次構造材料向けに2006年から2021年までの16年間の長期供給契約をボーイングと締結し、使用される炭素繊維材料の全量を供給している。日本企業の担当比率は、米国以外では最大なのである。

?現在、ボーイング社が航空機の最終組み立てを行うのは、米ワシントン州シアトル郊外のエバレット工場である。各国のメーカーで製造されたさまざまな機体部品は、専用の輸送機によってエバレット工場に搬送されている。日本では、中部国際空港に輸送機が定期的に飛来して、部品を米国に運んでいるのだ。そこで、ボーイング社がアジア向け航空機需要を獲得するために大幅なコスト削減を考えるならば、最大の部品供給国である日本に航空機の最終組み立て拠点と開発拠点があればいいという発想が出てくる。

?そして、この発想をもう一歩進めてみる。ボーイング社のライバルである「エアバス社」の最終組み立て工場と研究拠点も日本に誘致するのだ。エアバス社は、日本ではボーイング社に比べてなじみが薄いが、民間航空機部門では次々と新型機を販売し、世界的なシェアではボーイング社に大きく水を開けている存在だ。

?現在、エアバス社の最終組み立て工場のラインは、欧州にはフランスのトゥールーズに2本、ドイツのハンブルクに1本、スペインのセビリャに1本の合計4本である。そして、アジアの需要増に対応するために、中国の天津において組み立て工場を設立している。だが、このところ中国の「政治的不安定」「技術流出」「環境問題」などのリスクが高まっている。日本は思い切って、工場の移転を働き掛けてはどうだろうか。

円安のメリットを受けるのは、日本企業だけではない
真の日本経済再生のために、既得権に切り込む蛮勇をふるうべき

?現在、円安が進み、1ドル100円に迫る勢いだ。個人的なイメージであるが、円レートが1ドル100円程度で落ち着くなら、外資が日本に拠点を置いて研究開発をし、ハイテクの部品や製品をアジア諸国に輸出することを検討する余地が出てくると思う。円安の恩恵を受けるのは、日本の輸出産業だけではないのである。外資の研究開発拠点・工場の進出こそ、もはや縮小を続けるだけと考えられてきた日本経済を劇的に拡大させる可能性があるのではないだろうか。

?もちろん、これには日本企業が徹底的に抵抗すると容易に予想される。安倍首相の強力な政治的リーダーシップが必要だ。これまで、安倍首相は「国民の望む政策」をずらっと並べて支持率を高めてきた。だが、指導力も政治力も必要ない、誰でもできる政策を羅列するだけでは、日本経済を成長させることはできないのだ。安倍首相は今こそ、「日本企業の支援=日本の経済成長」という固定観念を捨て、真の日本経済再生のために、既得権に切り込む蛮勇をふるうべきだろう。
http://diamond.jp/articles/print/34438

JBpress>日本再生>日本経済の幻想と真実 [日本経済の幻想と真実]
規制改革の本丸は労働者の会社からの自立だ 雇用調整助成金を廃止し、労働移動を促進せよ
2013年04月11日(Thu) 池田 信夫
 安倍政権の「3本の矢」のうち、第1の金融政策は黒田東彦総裁の「異次元の金融緩和」で華々しくデビューし、第2の財政政策は通年で100兆円を超す大型予算ですでにスタートしたが、第3の矢となるはずの成長戦略は、いまだに姿が見えない。
 産業競争力会議で議論は始まっているが、6月をめどに取りまとめを行なうというスケジュール以外は、ほとんど何も決まっていない。そんな中で、競争力会議の民間議員である長谷川閑史氏(経済同友会代表幹事)から「解雇ルールの見直し」という話が出てきて注目を集めている。
解雇ルールを巡って迷走する論争
 こういう主張が出てくるのは初めてではない。小泉改革の経済財政諮問会議でも、民間議員から日本の雇用規制は過剰で不透明だという批判が出て、改正の論議が行なわれた。
 しかし日本の解雇規制は、法律の条文としては必ずしも強くない。民法では雇用契約は一方からの申し出によって打ち切ることができるとされ、労働基準法では解雇の30日前に通告するよう定めているだけだ。ただ判例で「整理解雇の4要件」など司法的なハードルが高い。
 これが問題になったのだが、逆に2008年の労働契約法改正で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効」と「解雇権濫用法理」が明文化されてしまった。
 このため派遣社員で雇うケースが増えると、厚生労働省は労働者派遣法の規制を強化し、このためパート・アルバイトなどの契約社員が増えると、厚労省は「非正社員を5年雇ったら正社員として雇用せよ」と労働契約法を改正してしまった。
 このように財界が「解雇の自由」を求めると厚労省が規制を強化し、結果的に正社員の既得権が強められる一方、非正社員が増える「逆コース」をたどってきたのだ。
大企業のほとんどは希望退職
 雇用改革を巡る議論がこのように迷走する原因は、財界から「解雇の自由化」という形で要請が出てくるためだ。労働組合にとっては解雇を許したら組織は立ちゆかないし、連合の関連団体に多くのOBが天下りしている厚労省も労組と一体だ。
 しかし現在の規制で、労働者は守られているのだろうか。中小企業ではかなり自由に解雇が行われているので、労働法に関係するのは大企業の正社員に限られる。この場合も、整理解雇や指名解雇のような形で行われることは少なく、ほとんどは希望退職の募集である。
 例えば経営不振の半導体大手、ルネサスエレクトロニクスは、昨年から今年にかけて社員の3割近い1万人以上を削減したが、すべて希望退職であり、雇用規制とは関係ない。大企業では経営者が「人員整理=経営悪化」というイメージを嫌うため、経営不振になっても一時帰休などでしのぎ、ルネサスのように絶体絶命になってから大量にクビにすることが多い。
主な上場企業の希望・早期退職者の募集実施推移(募集人数で募集枠を設けていないケースは応募人数をカウント)、出所:東京商工リサーチ
 その結果、希望退職者の数は大きく変動し、東京商工リサーチの調べによると、上の図のようにふだんは数千人なのだが、2002年の不良債権の最終処理や2009年のリーマン・ショック後のような業績悪化のとき激増する。このときは会社そのものが破綻することが多い。
労働者が企業と心中する社会
 大企業は日常的には社内失業が増えても要員には手をつけないで、企業が破綻に瀕してから人員整理を行うのが日本的経営の倫理とされている。だから日本の正社員は手厚く守られているように見えるが、それは会社の経営が順調に行っているときだけで、経営が行き詰まると労働者は企業と心中するしかない。
 これが日本の企業収益を悪化させているばかりでなく、労働者の人生を大きく狂わせる。日本以外の国では、例えば溶接工は溶接工場に採用され、溶接が必要なくなったら他の会社に移って溶接工をすればよいが、日本では「何でも屋」のサラリーマンを雇っていろいろな仕事に使い回すので、他の会社では使い物にならない。
 だから問題は解雇ルールよりも、仕事がなくなったら一定の割増金を払って希望退職を募集する退職ルールをつくることだ。これは法律より社内の労使慣行の問題で、外資系企業は日本でもやっている。仕事がなくなったら労働者が辞めるのは、日本以外の国では当たり前である。
 もちろん、こういう働き方の変更は容易ではないが、日本の会社もいつまで存在するか分からない。労働者は自分の身を守るためにも会社から自立し、自分の人生を自分で決める必要がある。
 ところが厚労省の政策は逆で、社内失業者の休業手当を政府が最大9割も補填する雇用調整助成金が今年度も2100億円も支給される。これは実質的に破綻している「ゾンビ企業」を延命するばかりでなく、仕事のない「ゾンビ労働者」を増やし、日本経済の停滞の大きな原因になっている。
 雇用調整助成金は廃止し、それに使われている予算は、仕事のなくなった労働者が新たな仕事につけるような「労働移動助成金」のような制度に使うべきである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37566


02. 2013年4月11日 19:37:56 : xEBOc6ttRg


10年で財政赤字178兆円削減=富裕層増税、社会保障費は抑制―米予算教書
時事通信 4月10日(水)19時5分配信
 【ワシントン時事】オバマ米大統領は10日、2014会計年度(13年10月〜14年9月)の予算教書を議会に提出した。富裕層の増税や社会保障費の抑制などで財政赤字を10年間で1兆8000億ドル(178兆円)削減、23年度までに対国内総生産(GDP)比で1.7%に抑制するとした。13年度の財政赤字は9729億200万ドルとし、5年ぶりに1兆ドルを下回ると予想した。また、中間層の雇用創出に向けた投資策も盛り込み、3月に発動した強制歳出削減を停止させたい考えだ。
 今回の予算教書は、赤字削減策の取りまとめ作業を今後本格化させる与野党に対し、大統領自らが「譲歩案」を提示したものと位置付けられる。ただ、野党共和党が富裕層増税に反対する一方で、与党民主党も社会保障費抑制を拒否する構えを示しており、歩み寄りは容易ではない。 

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米空軍、太平洋共同演習を中止=政府緊縮財政の影響−同盟国も参加予定
最終更新:4月11日(木)7時5分

米大統領、予算教書を議会に提出 記者リポ映像(日本テレビ系(NNN))8時24分
米予算教書 10年で赤字1兆8000億ドル減 増税に共和反発 実現至難(産経新聞)7時55分
米国防予算の要求額5266億ドル、国内基地縮小など盛り込む(ロイター)7時45分
米財政赤字、22.9%減=「財政の崖」合意で歳入増―13年度上半期(時事通信)6時33分
米予算教書、10年で財政赤字1.8兆ドル削減へ(ロイター)6時32分

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130410-00000130-jij-n_ame

 

【第47回】 2013年4月11日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員]
英キャメロン首相を激怒させたスタバ
国家vs.多国籍企業の租税戦争が始まる
スターバックスが
火をつけた租税回避問題

?英国キャメロン首相は、スターバックス英国法人(以下、スタバ社)の英国政府に支払う法人税額が少ないことに驚いた。それは98年に事業を開始して以来、30億ポンド(1ポンド150円で4500億円)の売り上げがあったにもかかわらず、法人税の納税額はわずかに860万ポンド(12億9000万円)、利益を計上した年はわずか一年間、という驚くべき実態であった。

?一般大衆もこれには怒りをぶつけて、不買運動や「フェアな分担をすべきだ」とプラカードを掲げたデモ騒ぎにつながっている。

?このような中で、英国議会もこれを取り上げ、スタバ社や、同様な租税回避をしているアマゾン、グーグルの幹部を議会に呼んで追求をした。英国では、多国籍企業の租税回避が、大きな社会問題となっているのである。

?租税回避をもたらしている要因は、米国をはじめとする世界の一流多国籍企業の行う「タックス・プラニング」である。その仕組みは、決して複雑なものではない。

スタバが実行した
タックス・プランニングの中身

?スターバックス社のプラニングはこうである。

?まず、スターバックス英国法人は、ローストしたコーヒー豆をスイスの関連法人から仕入れている。その価格をいろいろな理由をつけて、市場価格より高く購入すれば、英国法人の利益は圧縮され、スイス法人にその分だけシフトすることになる。

?次に、英国法人は、オランダの関連法人に、スターバックスの使用する商標や特許、さらには接客マニアルなどのロイヤルティーを払っている。これは相場があるわけではないので、多めに払えば英国法人の所得は圧縮でき、オランダにシフトされることになる。

?さらに、米国の関連法人から借金をして利子を返済している。これも、必要以上に借り入れれば、利払いを通じて英国法人の利益は圧縮でき、米国法人にシフトされる。

?このように、プラニング自体は決して複雑な取引ではないし、基本的に「合法」である。プラニングのミソは、いずれも取引の相手がみずからの関連法人なので、「取引価格に自由裁量の余地がある」ということである。

?オランダやスイスは、一般的な意味でのタックスヘイブン国である。そこに所得を移転できれば、税負担を大幅に軽減するプラニングが可能になる。

市場価格が存在しないため
適正な価格が判断しにくい

?先進諸国は、このようなタックス・プラニングに、手をこまねいているわけではない。英国も、わが国も、いろいろ対処できる法律を持っている。

?例えば、関連会社からの仕入れ価格を市場価格より高く仕入れたり、関連会社に安く売ったりして所得を圧縮することに対しては、移転価格税制というツールがあり、その取引価格が市場価格に引き直されるのである。

?商標権や特許権(無体財産権)の支払額が、必要以上に多い(結果として所得は圧縮される)場合や必要以上の借り入れを起こす場合にも、当局は、それを通常の取引価格に引きなおして課税することが可能である。これらの規定は、OECD諸国でほぼ統一されている。

?そうすると問題は、スターバックスの仕入れ価格や使用料の支払いが、「通常の価格」と比べて高いのかどうかということになる。しかし、同じ資本系列の関連会社間での取引について、その取引価格が市場価格と比べて高いかどうかといっても、商標権や特許権などには相場があるわけではないので、判断はきわめて難しい。

?このように、今回のスタバ社のような、税負担回避のために行うさまざまなプラニングは、法を犯す脱税ではなく、倫理的な要素の入ってくる分野であるといえよう。

?結局、そこはグレーにしたままで、英国税制当局との間で、「2013年、14年の2年間、自発的に1000万ポンドの税金を英国政府に対して支払う」ことで合意した。

?この背景には、「税金のフェアな分担をすべき」という大衆のナイーブな感覚がある。法律の問題ではなく、道徳の問題だ、ということである。

?問題は、スターバックス英国法人のようなプラニングは、米系を中心に多くの多国籍企業が日常的に行っているということである。わが国でも、アマゾン社をはじめ、多くの米系多国籍企業が、そのプラニングをめぐって東京国税局ともめている。

?彼らには、プラニングを通じた租税回避は知恵を働かせた結果で、むしろ誇りにすべきだ、という風潮すら見受けられる。

?翻って日本企業には、米国多国籍企業のように税金をコストと考えてぎりぎりまでプラニングするという考え方は、今のところ限定的である。しかし、グローバル競争のもと、外国人の株主比率も多くなり、プラニングをせざるを得ない状況に追い込まれる可能性もある。

今夏のサミットでも
租税回避措置が議論に

?スタバ社の事例は、キャメロン首相を激怒させた。彼は、自らが議長を務めるG20モスクワ会合(本年2月)の場で、OECD租税委員会(議長は日本人)に対して、「各国の税源を浸食するような多国籍企業の利益移転への対応」についての行動計画(Action Plan)を、6月までに策定することを求めたのである。

? 夏に開催予定の英国サミットでも、議長として取り上げることが予定されている。

?すでに、OECD租税委員会から「Addressing Base Erosion and Profit Shifting」(通称BEPS)と題する報告書が公表され、その手法や対応案など具体的な議論が始まっている。報告書には、租税回避を防ぐ様々なアイデアが記されている。

?企業のグローバル化と、これに伴うタックス・プラニングは、高齢化に伴う費用高騰に悩まされている先進諸国にとって、貴重な税財源を損なう結果となるので、なんとも阻止したいところである。

?オランダやアイルランドは、OECD加盟国であるので、彼らを交えた議論が進み、何らかのルール作りができることは、先進諸国にとってきわめて重要なことだ。また、そのようなルールは、ビジネスにとっても、タックスリスクを軽減するというメリットもある。

?スターバックスは、絶好の機会を与えてくれたといえよう。
http://diamond.jp/articles/print/34503

 

 


キプロス救済劇は、ユーロ危機の質を変えた

銀行経営破綻の責任は誰が負う

2013年4月11日(木)  熊谷 徹

 あなたが銀行に預けていたお金の一部が政府によって没収され、国家の政策実施ために使われる―――。読者の皆さんは、「社会主義国家ではあるまいし、そんな事態はありえないとお思いになるかもしれない。だが今年の3月以来、欧州通貨同盟に属する国で、銀行口座に10万ユーロ(1200万円・1ユーロ=120円換算)以上のお金を持つ市民や企業の間では、このシナリオは決して夢物語ではなくなり、強い現実性を帯びた。

異例の自己負担金

 欧州連合(EU)によるキプロス救済措置は、ユーロ危機の質を変えた。ユーロ圏の銀行リスクに対する投資家の見方も変わるだろう。救済コストを負担させられるリスクが、預金者にまで忍び寄ってきたからである。

 今年3月25日、ユーロ・グループ(ユーロ圏・財務相会合)はキプロス政府に100億ユーロ(1兆2000億円)の緊急融資を行うことを決めた。その条件として、同国政府が58億ユーロ(6960億円)の「自己負担金」を拠出することを義務づけた。

 ユーロ危機をめぐる救済劇で、債務危機に陥った国がこれほど多額の自己負担を求められた例はない。一体、地中海の島で何が起きたのだろうか。

 キプロスの人口は、約112万人。欧州で最も小さい国の1つである。同国の2012年の国内総生産(GDP)は、約179億ユーロ(2兆1480億円)で、マルタ、エストニアに次いでEU27カ国の中で3番目に小さい。これはドイツのGDPの148分の1、EU全体のGDPの0.14%にすぎない。

 元々キプロスは、欧州市民の間ではバカンスを過ごす島として知られる程度だった。その超ミニ国家は、身の丈を超えた銀行バブルに踊り、ギリシャ危機の火の粉を浴びて挫折した。

EU主要国とキプロスのGDP比較(2012年)

資料・欧州連合統計局
「地中海の金融センター」をめざしたミニ国家

 キプロスは、中東諸国に地理的に近いため、1970年代に始まったレバノン内戦の頃から、アラブ地域に住む裕福な市民や企業が、資金を避難させる場所として使ってきた。この国は1914年から1960年まで英国の植民地だったため、西欧の法制度が導入されていた。中東諸国に比べて経済インフラが比較的整っていたことが、富裕層に安心感を与えたのである。1970年代にトルコ系住民とギリシャ系住民の間でキプロス紛争が勃発し、国土の分割に至ったことを除けば、政情も比較的安定していた。

 この島は、ロシアや東欧諸国からの資金の逃避先としても利用されてきた。キプロスの人口の約72%はギリシャ系住民。彼らの多くは、ロシア正教会やセルビア正教会と同じ流れを汲むギリシャ正教会の信者である。キリル文字を使用することもあり、ロシアやセルビアとは深い関係にある。

 ドイツ在住のあるユダヤ人A氏は、テルアビブの友人を訪れるためにドイツからイスラエルへ飛ぶ際に、セルビアの国営航空会社がキプロスのニコシア経由でベオグラードとテルアビブを結ぶ便を頻繁に利用していた。航空券の値段が割安だったからである。この時A氏は、ベオグラードで乗り込んだ乗客の大半がニコシアで飛行機を降り、その一部の乗客がアタッシュケースを鎖で手首に結び付けているのを目撃している。このセルビア人たちは、現金をキプロスの銀行に運んでいたのであろう。

 2004年にEUに加盟したキプロスは、「地中海の金融センター」となるべく、外国からの資金流入を促進しようとした。

 外資企業にとって、外国企業に対する同国の法人税率が10%と低いことが大きな魅力だった。さらに有価証券取引で上げた利益が非課税だったこと、また資金の出所に対する政府の監視が弱かったことも、外資をひきつけた。たとえばドイツの税務署は、国外からの多額の資金の振り込みや、多額の現金の預け入れなどを、銀行の協力を得ながら厳しく監視している。キプロスの税務署は、これほど厳しいチェックは行っていない。

 富裕層だけでなく、中間層もキプロスの銀行を節税のために使っていた。ミュンヘン出身のあるドイツ人は、毎年6カ月以上キプロスで過ごすことによって、ドイツよりも低い税率の恩恵を享受した。彼はこの方法で、100万ユーロ(1億2000万円)貯めることに成功した。彼は、キプロス銀行かライキ銀行に預金を持っていたのだろうか。もしも事前に預金を国外へ移していなかったら、今は大変困っているに違いない。

 またキプロスの銀行は、投資家に比較的高い利率の金融商品を提供した。たとえばキプロス中央銀行とドイツ連邦銀行によると、2013年1月の時点で、キプロスの銀行は、個人顧客向けの2年物の定期預金に、年率4.45%の利息を提供していた。ドイツでは同種の定期預金の利息は1.51%にすぎない。

ギリシャ債務減免が命取りに

 キプロスの銀行預金口座の37%は外国人が持っており、そのうち3分の1がロシアなどユーロ圏に属さない名義人のもの。バークレイズ銀行は、外国人がキプロスに持つ預金額を256億ユーロ(3兆720億円)、信用格付け機関ムーディーズは、その金額を310億ユーロ(3兆7200億円)と推定している。

 キプロスの銀行の預金額は自国民と外国人を合わせて684億ユーロ。同国のGDP(179億ユーロ)の約3.8倍に膨れ上がっていた。どう見ても、バブルである。

キプロスの銀行預金の分布(2013年1月)

資料・バークレイズ銀行、キプロス中央銀行など
 欧州の一部のメディアは、「この中に資金洗浄のための預金や、課税を回避するための資金が含まれている可能性がある」と見ている(キプロス政府は、「資金洗浄に関する全てのEU指令を法制化している」として、こうした疑惑を否定している)。この問題を調査するため、欧州委員会の「資金洗浄調査委員会」は3月19日に、キプロスに調査団を派遣した。

 さらに、ギリシャ経済との密接な結びつきが、キプロスにとってアキレス腱となった。キプロスにはギリシャの金融機関の子会社が多い。ギリシャにもキプロスの金融機関が進出している。キプロスの銀行業界で首位にあるキプロス銀行と第2位のライキ銀行が経営難に追い込まれたのは、多額のギリシャ国債を保有していたからである。

 ライキ銀行は、35億ユーロ相当のギリシャ国債を購入していた。これは総資産の9%にあたる。欧州の金融関係者の間では、ギリシャが借金を返済できる見込みが薄くなっていたにもかかわらず、ライキ銀行が同国の国債を買い続けたことを不審に思う向きが少なくない。

 2012年3月にEUは、ギリシャの国家破綻を回避するために、民間銀行などが持っていた1070億ユーロ(12兆8400億円)の債権の減免を決定。この「ヘアカット」のために、キプロスの銀行は多額の損失を抱え込むことになった。これを救うために、同国政府は2012年7月にEUに対して支援を要請したのである。

 キプロスの銀行危機は、ギリシャの債務危機が飛び火したものなのだ。

10万ユーロ超の預金者に多額の損失

 キプロスが58億ユーロの自己負担という特別な条件を課された理由は、同国の経済規模が極めて小さいことにある。キプロスの累積公的債務が国内総生産(GDP)に占める比率は、2012年末の時点で約89.7%。EUから救済資金として100億ユーロを借りると、GDPが少ないために、債務比率が145%にはね上がってしまう。

ユーロ圏の公的債務残高 (2012年)

資料・欧州連合統計局
 EUは、キプロスがギリシャの二の舞いとなることを恐れている。ギリシャは、約177%の公的債務比率に苦しんでおり、債務減免や度重なる緊急融資にもかかわらず、いつになれば自力で借金と利息を返済できるか、見通しが立っていない。

 このためEUはキプロスに対し、「2020年までに債務比率を100%に減らす」という条件も課した。同国はこの目標を達成するために、58億ユーロの自己負担金を払わなくてはならないのだ。これは、同国のGDPの3分の1に相当する額であり、国庫からの支出は不可能。したがって政府は、銀行に積み上がっている企業や個人の預金に手を伸ばさざるを得なかった。

 EUとキプロス政府の合意によると、58億ユーロの自己負担金を拠出させられるのは、危機の主因となったキプロス銀行とライキ銀行において10万ユーロを超える預金を持つ企業と個人だ。

 彼らの預金のうち10万ユーロを超える金額の一部が、政府によって「没収」される。没収される比率はまだ確定していないが、40%から60%にのぼると推定されている。

 これまでギリシャ国債を買った投資家が、債権を放棄させられて損失を受けたことはあった。しかしユーロ圏加盟国の政府が、銀行そして国家の破綻を回避するために、銀行顧客が持つ預金の一部まで没収するのは、キプロス危機が初めてである。

 ロシアのプーチン大統領とメドヴェージェフ首相は「今回の措置は、所有権を剥奪することに等しく、不公平で危険である」とユーロ・グループの決定を批判した。

キプロス方式が手本に?

 キプロス危機をきっかけに、ユーロ圏の銀行預金が持つリスクは大幅に高まった――こうした見方は、ユーロ・グループのイエロン・デイセルブルム議長の発言によって増幅された。

 デイセルブルム氏はEUとキプロス政府が支援策について合意した直後、報道機関に対して「株主や債権者だけでなく、大口預金者にも銀行救済のためのコストを負担させる方法は、今後、ユーロ圏における銀行救済の手本になりうる」と公言したのだ。彼は「金融機関の関係者の耳には不快に響くだろうが、銀行が破綻の危機に陥った場合、ユーロ・グループが常にすんなりと救いの手を差し伸べるわけではない」と述べ、キプロスのケースが将来の銀行救済の方向を指し示すという見解を打ち出した。

 デイセルブルム氏は、オランダの財務大臣である。オランダやドイツなど欧州の北部の国々では、リーマン・ショック以降、銀行救済に市民の血税が使われることについて、不満が高まっている。

 銀行が黒字を出した場合には、その一部が株主や取締役のポケットに入る。だが巨額の赤字を出して破綻の危険が高まった場合は、投資家や経営者以外も責任を負わされる。EU域内の多くの大銀行は、「銀行が倒産すると世界の金融システムに悪影響が及び、他国でも連鎖倒産を引き起こすかもしれない」という理由で、公的資金の注入によって救済されてきた。デイセルブルム氏の発言には、「銀行の利益は私有化されるのに、損失は公共化される。納税者にツケが回る」というこれまでの悪しき図式を変えようという意図が感じられる。

 他の欧州諸国の政治家の発言からも、将来、銀行救済のコストを大口預金者に負担させるという方向性がはっきりと読み取れる。

 たとえば、欧州委員会で市場統合を担当するミシェル・バルニエ委員は、「域内の銀行の破綻処理に関する指令を作り、その中に『大口顧客の預金のうち、10万ユーロを超える部分については、破綻処理のための資金として使える』という1文を盛り込むかもしれない」と述べ、大口預金者の負担を増やすことに賛成している。

 フィンランドのイルキ・カタイネン首相も「市場経済では、銀行が破綻する場合に投資家も損失をこうむるのは当然だ」と発言。ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務大臣も「キプロスの銀行は、ドイツの銀行を上回る金利を顧客に提供していた。高い金利がリスクを伴うのは、避けられない」と述べ、大口預金者にコストを負担させることは正しいという態度を示した。

 デイセルブルム氏は、その後、金融市場への悪影響を懸念して最初のコメントを和らげた。「キプロスでの銀行救済は、特殊なケースである」。欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁も、同様の声明を発表している。

 だが政治家や通貨当局者たちが「キプロスで使った手法は、将来の銀行救済の手本にはならない」といくら約束しても、預金の一部に手を伸ばす前例が今回できたこと――これは否定できない事実だ。2009年末に表面化したユーロ危機において、事態が悪化したために、政治家たちが以前にした約束をあっさりと破った例を、我々はすでに何回も目にしてきた。

当初は小口預金者も含めていた

 ユーロ危機をめぐって、これまですでにギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランドがEUなどの救済・支援措置を受けている。だがキプロス危機がこれまでの救済劇と大きく異なる点は、銀行預金の没収が最大の焦点となったことだ。しかも、この問題をめぐるユーロ・グループの当初の対応は混乱を極め、欧州のエリート政治家たちの危機管理能力の低さを改めて露呈した。

 混乱が頂点に達したのは、100億ユーロ融資の合意に至る10日前のことである。ユーロ圏の財務大臣たちとキプロス政府は、3月15日から翌日にかけて、ブリュッセルで同国の救済方法について協議した。

 3月16日の土曜日に、ユーロ・グループが10時間に及ぶ徹夜の会議の末に発表した「救済プラン」の内容は、欧州全体に強い衝撃を与えた。銀行を破綻の危機から救うために、欧州の歴史で初めて、全ての銀行預金者の口座から「特別税」を強制的に徴収する方針だったからだ。

 この日の発表では、銀行預金額が10万ユーロ以上の口座からは9.9%、この額を下回る口座からは6.75%を徴収することになっていた。しかも、この措置をどの銀行に適用するのか、明確にしていなかった。ニュースを聞いた多くの預金者は、危機の主因となったキプロス銀行とライキ銀行だけでなく、全ての銀行口座が対象になると思ったはずだ。

 当初ユーロ・グループが小額預金者をも「部分的な国有化」の対象に含めたことは、キプロス市民だけでなく、ユーロ圏に住む全ての市民、そして金融業界にとって「青天の霹靂」だった。もしもこの特別税が発動されていたら、キプロスの銀行に3万ユーロ(360万円)の貯金がある顧客は、2025ユーロ(24万3000円)を「没収」されるところだった。

 ユーロ・グループがこの措置に踏み切ったのは、預金の部分的な没収措置を10万ユーロを超える口座に限った場合、企業や富裕層がキプロスから資本を逃避させる動きが加速する懸念があったからだ。また、3月に入ってから、キプロスの銀行で10万ユーロを超える預金を持つ顧客が、預金を小額の口座に分散させる動きも見られた。

 キプロス政府のミカリス・サリス財務大臣(当時)は、小額預金者を含めることに反対したとされる。しかし3月15日から16日未明にかけてブリュッセルで開かれた財務相会議で、ユーロ・グループのデイセルブルム議長は、サリス氏に「あたかもピストルを頭に突きつけるような態度」(ある会議参加者の発言)で、ユーロ・グループの提案を呑むように迫ったと伝えられている。10時間の徹夜会議で疲労困憊したサリス氏は、小額預金の部分的没収を含む救済プランに同意せざるを得なかった。

 キプロス政府は市民に対して今年2月、「個人の銀行預金に影響を与えるような救済プランは、絶対に受け入れない」と説明していた。だが、その口約束はユーロ・グループの強い圧力の前にあっさりと破られた。怒涛のように押し寄せる債務危機・銀行危機の前に、南欧の小国の政治家は、その言葉に木の葉一枚の重みを与えることすらできなかった。

欧州全体で激しい反発

 私は3月16日にこの発表を聞いた時、ユーロ・グループがEU法に違反する「超法規措置」に踏み切ったことに大変驚いた。

 EU域内の全ての銀行預金は、2010年12月31日に施行された法律によって、1預金者あたり10万ユーロまで保証されているからだ。EU域内では銀行が倒産しても、預金者は最高10万ユーロの補償を受けられる。ユーロ・グループは、この規則を施行から3年も経たないうちに反故にする政策を打ち出したわけである。3月16日の時点では、多くの市民が「ユーロ圏の預金は安全ではない」と痛感したはずだ。

 マンハイム大学のティルマン・ラウフート教授は、「ユーロ・グループの決定はEUの預金者保護規定に反する。銀行が倒産した場合には10万ユーロが補償されるのに、キプロスの市民にとっては、この保護規定が通用しないことになる」と述べ、政策の矛盾点を指摘した。

 さらに16日から17日の週末にかけて、一部のメディアが「キプロスの一部の現金自動預け払い機では、預金を下ろすと、すでに6.75%が差し引かれていた」というデマを確認しないまま報じた。これが混乱に輪をかけた。このような特別税は、議会が法案を承認しない限り通常徴収されない。今回のように人々の不安が高まっている時こそ、メディアは情報の確度を十分チェックして、無責任な報道を控えるべきだろう。

 週明けの金融市場は、「キプロスをめぐる決定によってユーロの不安定性が高まった」と判断。主要な通貨に対するユーロの交換レートは3月18日、1%から2%下落した。またこの日、ロシアのVTB銀行の株価が5.31%、イタリアのバンカ・モンテ・デル・パスキ銀行の株価が4.65%下落したのをはじめとして、英国やイタリア、ロシアで銀行銘柄の株価が下がった。投資家たちは少なくとも一時的に、「預金の部分的な没収措置により、ユーロ圏で顧客の銀行離れが始まるかもしれない」と判断したのだろう。

 モルガン・スタンレーの主任エコノミスト、ヨアヒム・フェルス氏は「全ての預金者から特別税を徴収する計画は、金融システム全体に悪影響を及ぼし、ユーロ圏の不安定要因を増やす」と批判した。米国の金融コンサルタント会社カンバーランド・アドバイザーズのデビッド・コトク氏は、「信じられない政策だ。ユーロ・グループは、自分の足を撃つようなものだ」と酷評した。

 ドイツの保守系日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」紙のホルガー・シュテルツナー記者も、「ユーロ・グループの杜撰な救済プランは、当初小口預金をも部分的な没収の対象に含めたことで、ユーロ圏の銀行口座の信用を破壊した。これ以上の信頼失墜があるだろうか」と財務大臣たちの失策を厳しく批判している。

 リーマン・ショックの余波で欧州の金融界が動揺していた2008年10月に、ドイツのメルケル首相は当時の財務大臣と並んでビデオカメラの前に立ち、「ドイツの全ての預金は安全だ。預金者は1ユーロも失わない」と保証した。メルケル政権のスポークスマンは、今年3月18日の記者会見で「当時の保証には、何の変更もない」と強調した。これはキプロスをめぐるユーロ・グループの決定について、ドイツで不安感が高まっていたことを示している。

 ドイツなどユーロ圏加盟国の市民の多くは、それまで、キプロス危機を遠く離れた地中海の島の出来事と感じていた。ところが「預金者全員に負担させる」というユーロ・グループの発表によって、キプロス危機は彼らにとって、突然身近なものになったのだ。

キプロス議会の反抗

 ユーロ・グループがこの決定を発表して以降、キプロスでは、多くの市民が預金を引き出すために、現金自動預け払い機に列をなした。だが1人が引き出せる額は300ユーロ(3万6000円)に制限された。特に危機の主因となったキプロス銀行とライキ銀行は取り付け騒ぎを恐れて、週明け直後、店を開くことができなかった。

 キプロスだけでなく欧州全体で、ユーロ・グループが部分的な没収措置の対象に小額預金者を含めたことに対する批判の声が強まった。16日のブリュッセルでの会議に出席した蔵相たちからは、「10万ユーロ未満の預金者を含めるよう求めたのは、私ではない」と他国の政治家に責任を押しつける発言が相次いだ。

 週明けの3月19日には、事態はさらに紛糾の度を増した。この日、キプロス議会が政府の「強制徴収案」を事実上の全会一致で否決したのだ。棄権した議員はいたが、政府案に賛成した議員は1人もいなかった。議会が否決したことで、ユーロ・グループの救済プランは宙に浮いた。キプロス政府が58億ユーロを拠出しない場合は、EUや国際通貨基金(IMF)は100億ユーロの緊急融資を行わないことになっていた。

 キプロスはEUで最小の国の1つである。であるにもかかわらず、その救済劇は、2009年のユーロ危機の表面化以来、最も緊迫したものとなった。それは、ユーロ・グループがキプロス政府と合意できない場合、キプロスが無秩序な破綻に陥る可能性があったからだ。

 3月末の時点で、キプロス銀行とライキ銀行の唯一の生命線はECBによる緊急流動性支援金(ELA)だった。これは、銀行を破綻させないための、最後の「生命維持装置」だ。ECBは両行が流動性を失わないように、94億ユーロ(1兆1280億円)のELAを注入していた。ただし、「キプロスがEUの救援パッケージを受け入れない限り、3月25日の月曜日にELAを打ち切る」と宣言していた。

 ELAがカットされた場合、2つの銀行は破綻し、キプロス政府も債務不履行に陥る。3月最後の週にユーロ圏内では、「キプロスがユーロ圏から脱退する可能性」が真剣に議論されていたのだ。

 事態がここまで悪化した理由は、ユーロ・グループが小口の預金者まで部分的な預金没収の対象としたことで、同国市民と議会の怒りを買ったことにある。この意味で、ユーロ圏の財務大臣たちの危機管理、特にコミュニケーション戦略は大失敗だったと言わざるを得ない。

ユーロの信用性に打撃

 3月25日に、ユーロ・グループは部分的没収の対象を、キプロス銀行とライキ銀行の、預金額が10万ユーロを超える口座に限ることを決めた。預金額が10万ユーロ未満の口座は除外する。ライキ銀行は解体され、10万ユーロ未満の預金口座は、キプロス銀行に移される。2つの銀行の大口預金者、株主らは多額の金を失う。

 キプロスが国家として破綻する事態は、EUの緊急融資によって回避された。欧州のメディアは今回の事態を「タンカーが氷山にぶつかる直前の、ぎりぎりの所で衝突が避けられた」と形容している。

 キプロス政府が銀行に対する規制や監視をこれまで十分に行なってこなかったことのツケは重い。低い法人税と高い利息によって「地中海の金融センター」になるというキプロスの夢は、水面に浮かぶうたかたのように崩壊した。今回問題となったライキ銀行の頭取だったこともあるサリス財務大臣は、4月2日に引責辞任した。同国議会の調査委員会は、ギリシャ、キプロス、そしてロシアの間で何が起きていたのかを解明する作業に乗り出す。地中海のマネーゲームの実態解明と責任者の追及は急務だ。

 急激に肥大したキプロスの銀行部門は、大幅に縮小される。このためEUとECBは、キプロスの今年のGDPが3.5%減少すると予測している。キプロスの議会関係者からは、不況が深刻化することによって、成長率がマイナス8〜9%に達すると危惧する声が出ている。

 ユーロの信用に加えられた打撃も大きい。EU市民は、ユーロ・グループが、小口預金者を部分的没収の対象に一度は含めたことを忘れないだろう。

 ドイツでは現在、不動産投資が大ブームとなっている。「ユーロ危機のために将来インフレが激化して、預金や生命保険など金融資産の価値が下がる」との懸念からだ。ユーロ危機が預金の部分的な没収にも発展し得ることを示したキプロス救済劇は、ドイツ人、そして欧州市民の不動産への傾斜に拍車をかけるに違いない。

 さらに、肝に銘じなくてはならないことがある。キプロスのような小国の救済でも、これだけの混乱と紛糾をもたらす。

 そう考えると、万一、イタリアで深刻な銀行危機が発生し、救済が必要になった場合、どれほどの混乱が生じるのか? イタリアはユーロ圏で3番目に大きな経済規模を持つ。その公的債務比率は約127%とギリシャに次いで高い。救済劇の混乱は、キプロスとは比較にならない規模に達するだろう。

 EUの緊急融資機関の融資枠が足りなくなった場合、ユーロ・グループは域内に住む庶民の小口預金にまで、手を伸ばすだろうか? キプロスの前例を見てしまった私は、この問いに確信を持って「ノー」と答えることができなくなった。

 しかもイタリアでは、前回お伝えしたように、総選挙から1カ月以上たった今もなお政府が誕生せず、混乱が続いている。欧州では、イタリア政治の混迷状態について、日一日と懸念が強まっている。

 2年前にこの連載を開始した時、筆者は「ユーロ危機の天王山はイタリア」と書いた。ユーロ圏の銀行にささやかな(10万ユーロよりもはるかに少ない)額の預金口座を持つ一外国人としては、イタリア救済が必要にならないことを切に願っている。


熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。早稲田大学政経学部経済学科卒業後、日本放送協会(NHK)に入局、神戸放送局配属。87年特報部(国際部)に配属、89年ワシントン支局に配属。90年NHK退職後、ドイツ・ミュンヘン市に移住。ドイツ統一後の変化、欧州の安全保障問題、欧州経済通貨同盟などをテーマとして取材・執筆活動を行う。主な著書に『ドイツ病に学べ』、『びっくり先進国ドイツ』『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』『顔のない男―東ドイツ最強スパイの栄光と挫折』『観光コースでないベルリン―ヨーロッパ現代史の十字路』『あっぱれ技術大国ドイツ』『なぜメルケルは「転向」したのか――ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。ホームページはこちら。ミクシィでも実名で日記を公開中。
 


03. 2013年4月11日 19:49:51 : xEBOc6ttRg
2013/04/11 6:46 pm
ドル100円は序の口、「異次元のレベル」へ=藤巻氏

フジマキ・ジャパン社長の藤巻健史氏は11日午後、日銀の「異次元緩和」を手掛かりとする円安基調について、目先1ドル=100円台に下落しても「序の口」で、さらに円安が進んで「異次元のレベル」になるとの見通しを示した。JRTのインタビューで述べた。


Bloomberg
「アベノミクス」は参院選まで持たない

11日午後の東京外為市場で、1ドル=99円台で取引されており、目先100円台に乗せたとしても、「まだ序の口で、さらに円安に振れる」との見方を示す。

その上で日銀の黒田東彦総裁が4日に打ち出した「異次元緩和」に関し、「いわば『ハイパーインフレ宣言』だ。為替相場は異次元レベルになるだろう。1ドル=1万円かもしれないし、10万円かもしれないし、想像がつかない」と述べた。

これまでの日銀の金融緩和でマネーはすでにジャブジャブにあり、黒田総裁がさらにマネーの流動性を増やしても国内で滞留するだけだ、と指摘する。「日本経済にとって円安は必要だが、(流動性を増やしても)国債にしかマネーが向かわない」と話す。

しかし、最近の債券相場の乱高下に「買い手の不安心理は強まっただろう」としている。黒田総裁は「異次元緩和」で打てる手をすべて使ってしまったとの認識で、「今後、国債市場が崩れてもさらに買い増すことはできないのではないか」との見方を示す。

一方、米国経済をみると、今後は緩和姿勢から引き締め方向に転換する可能性が指摘されている。

藤巻氏は「米国はシェールガス革命で原油の輸入や中東への軍隊派遣の必要性がなくなり、財政赤字と経常赤字がそれぞれ黒字に転換するだろう。つまり米国は双子の黒字になる」との見方を示す。対照的に日本は世界でも突出した財政赤字国で、加えて今後経常赤字が定着すれば、さらに円安が進みやすくなる。

債券の買い手が離れていく事態やファンダメンタルズの悪化などが債券や円の暴落を招くとの見方から、自身のブログに「アベノミクス」は参院選まで「持たない」と書いている。

記者: 吉池 威

(吉池記者をツイッターでフォロー: @WSJYOSHIIKE )

 


 

資産買い入れ、一部参加者は年内終了を視野に=米FOMC議事録
2013年 04月 11日 04:04 JST
[10日 ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)が10日に公表した3月19─20日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録によると、一部参加者が年内の資産買い入れ終了を視野に入れていたことが分かった。

資産買い入れを続ける期間で、引き続き大きく意見が分かれているものの、規模縮小を始める決定に近づきつつあることを示した。

ただ先週末公表された3月の雇用統計は市場予想よりも弱い内容となった。FRB当局者には驚きをもって受け止められた可能性がある。

議事録によると、月額850億ドルの資産買い入れ継続をめぐり、参加者の間で激しい議論が交わされ、複数の項目で意見の一致を見なかった。

一部参加者が年央までに資産買い入れのペースを落とし年内に終了すると予想する一方、他の複数のメンバーはそれよりやや遅くにペースを緩め、プログラムを年末までに停止するとの見通しを示した。

今回の議事録は、予定より5時間前倒しで公表された。FRBは議会側近や業界団体に対し、誤って事前に送付してしまったためと説明している。

FOMCは、3兆ドル超に膨らんだFRBのバランスシートを数年後により正常の規模に戻す最善の方法についても討議したが、出口戦略で確固とした決定を下さなかった。

リバーフロント・インベストメント・グループ(バージニア州)のマイケル・ジョーンズ最高投資責任者(CIO)は「(3月の)雇用統計が弱くなければ、実際に注意を喚起する内容」と指摘。これまでの議事録よりも出口戦略について注意を喚起するもので、表現がより明確になったと話した。

メンバーの1人は、買い入れペースを直ちに緩めるべきと主張したとしており、3月のFOMCで唯一反対票を投じたジョージ・カンザスシティー地区連銀総裁の見解である可能性が高い。

一方で、議事録では「メンバー2人は、現在の買い入れペースが少なくとも年内は続くと見込んでいる」とし、「また見通しが悪化すれば、買い入れペースを増大することもあり得るとの考えを示した」としている。

雇用市場の見通しが堅調に改善し続ければ、向こう数回のFOMCのある時点で、買い入れペースを落とすことが促される可能性もあると、多くの参加者が見通した。

一方数人の参加者は「少なくとも今年の終わりごろまで買い入れプログラムを現在のペースで続けることが経済状況によって正当化される公算が大きい」との見解を示した。

TD証券のミラン・ミュレイン氏は顧客向けノートで、全体のトーンはハト派色が後退しており、FOMC声明やバーナンキFRB議長の記者会見の内容と一致していると指摘した。

その上で「このところ国内経済成長の勢い鈍化が裏付けられており、資産買い入れ期間は3月の議論時と比べて、さらに長引く方向にバイアスが掛かっているだろう」と分析した。

FRBのバランスシートは量的緩和第3弾(QE3)が続けば、年末までに4兆ドルに膨らむ可能性がある。買い入れた債券を長期金利の上昇局面で売却すれば、損失が出る恐れがあると指摘される。

一部のFOMC参加者は、将来の資産売却は「より困難となる恐れもある」との見方を示した。

住宅ローン担保証券(MBS)を極めて緩やかなペースで売却するとの決定などで、金融安定へのリスクが和らぎ、国庫納付金減少を抑えられるとの見方を一部参加者が示した。


1月のギリシャ失業率、2006年以来で最悪の27.2%に
2013年 04月 11日 19:06

[アテネ 11日 ロイター] ギリシャ統計当局(ELSTAT)は11日、同国の1月の失業率が27.2%となり、過去最悪を更新したと発表した。12月の改定値は25.7%。

ELSTATが失業データを公表し始めた2006年以来で最悪の失業率となった。

ユーロ圏の平均失業率は12%となっている。


 

 


個人売り越し7年ぶり多さ、海外勢買い拡大−4月1週日本株

  4月11日(ブルームバーグ):4月第1週(1−5日)の日本株市場では、個人投資家の売越額が7年ぶりの高水準に膨らんだことが東京証券取引所の公表データで明らかになった。相場の流れに逆らう「逆張り」の動きを強めた。
東証が11日に発表した第1週の投資部門別売買動向によると、東京、大阪、名古屋3市場の1・2部合計で、個人投資家 は差し引き6518億円売り越した。売り越しは2週連続。売越額は前の週(755億円)を大幅に上回り、2006年4月1週(6949億円)以来の大きさとなった。
野村証券エクイティ・ストラテジー・チームの柚木純ストラテジストは、急ピッチな相場上昇で過熱感が漂う中、日本銀行による異次元金融緩和の決定をきっかけに「海外勢の買いがけん引する格好で株価が一段高になった局面で、個人は特有の逆張り姿勢から利益確定や戻り待ちの売りを膨らませた」と見ている。3月には新規株式公開(IPO)や公募・売り出し(PO)案件が多く、「こうしたファイナンス銘柄の株式を手に入れた投資家からの売りが出やすかった面もある」と言う。
第1週の日経平均株価 は前の週に比べ3.5%(435円)高の1万2833円と、2週連続で上昇。週前半は米国景気の改善足踏みや為替の円高が警戒され続落、昨年11月中旬以降で初めて25日移動平均線を下回ったが、日銀の金融政策決定会合で決定した「量的・質的金融緩和」が評価され、後半は一気に切り返した。
一方、市場全体の売買代金シェアで6割を占める海外投資家 は2週連続で買い越した。買越額は7148億円と、前の週(2725億円)の2.6倍に拡大。野村証の柚木氏は、「週前半はイースター休暇で動意薄だったが、日銀決定を受けた後半2日間で買い意欲を強めた。週後半からの本格的な買いで、買越額がこれだけ大規模になったのは、海外勢のサプライズの大きさを示唆する」と話す。
このほかの部門別動向は、買い越しが投資信託(253億円)、証券自己(2298億円)。売り越しは、年金基金などの動向を反映する信託銀行 (1622億円)、事業法人(286億円)、生保・損保(395億円)、都銀・地銀等(124億円)など。信託銀の売り越しは24週連続だ。

更新日時: 2013/04/11 17:01 JST

 


04. 2013年4月11日 20:12:52 : xEBOc6ttRg
肥田美佐子のNYリポート2013年 4月 11日 18:17 JST
米中流層受難の時代―IT化で減るパイに学歴インフレで競争激化
記事
 ポスト金融危機元年ともいうべき今年、米国では住宅市場の改善と歩を合わせ、消費者の景況感もまずまずだ。しかし、雇用なき回復への懸念が、その明るさに影を落としている。

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Bloomberg
 4月5日に発表された米雇用統計によれば、3月の失業率は、2月より0.1ポイント下がって7.6%になったものの、非農業部門の雇用者数は、市場の予想を大きく下回り、前月比で8万8000人の増加にとどまった。

 米シンクタンク、経済政策研究所の労働経済学専門エコノミスト、ハイディ・シアホルツ氏の予測では、雇用統計は月ごとにバラつきがあるため、第1四半期(1-3月)の平均増加数16万8000人が、2013年通年の雇用トレンドになる見込みが高い。だが、そのペースでも、景気後退前のレベルに戻るのは、19年後半になるという。

 失業率が微減したのも、仕事探しを諦めて労働市場から脱落する人が増えているからだ。労働参加率は63.3%と、景気回復後も下がり続けている。これは、ベビーブーマー世代の引退などによるものではなく、雇用機会、つまり、労働力需要の不足によるものだというのが、シアホルツ氏の分析である。25―54歳の「働き盛り」の世代の労働参加率は81.1%と、34年ぶりの低水準に落ち込んでいる。

 なかでも、減っているパイを奪い合う形になっているのが、大卒の中流層だ。3月26日付ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、安定した仕事に就けず、コーヒーショップや小売店で、低賃金労働に甘んじる大卒者は何百万人もおり、景気が本格的に回復しても、状況はさほど好転しないかもしれない。大卒被用者の半数近くが、本来なら学士号を必要としない仕事に就いている。

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Getty Images
 最低賃金で働く大卒者も、昨年には28万4000人に達した(大学院レベルの学歴を持つ3万7000人を含む)。

 大卒の多くがまともな仕事に就けない理由は、不況で失われた職の大半が、管理職など中流層レベルのものである一方、生まれた雇用の半数以上が低賃金労働だからだ。

 3月22日、米連邦準備理事会(FRB)のサラ・ラスキン理事も、米労働市場の低賃金労働化に警鐘を鳴らしている。「金融政策は、雇用創出には効果を上げうるが、どのような『タイプ』の仕事が生まれるかについては、ほとんど影響を及ぼさない」(ロサンゼルス・タイムズ紙3月22日付電子版)。

 深刻なのは、景気回復に弾みがついても、かつて中流層が行っていたような仕事に対する需要は十分に戻らない可能性が高い、という点だ。前出の3月26日付のWSJの記事も報じているように、米国は、IT化やロボットの導入で、大卒者への需要が減っているという長期的問題を抱えている。

 たとえば、米労働省による昨年の職業別失業率を見ると、コンピュータ・ハードウェア・エンジニア(1.9%)、コンピュータ情報システムマネージャー(3.2%)、データベース管理者(3.6%)など、IT関連の仕事は、軒並み低失業率だ。

一方、一般事務員は9.8%、商品の注文受け付けを担当する事務員は9.2%、ファイリング担当事務員8.5%と、文書事務の減少やオンラインショッピングなどの影響を受け、事務職は総じて失業率が高い。

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Bloomberg
 また、ネットの台頭により、校正者も9.4%と、高率だ。11年は12.8%だった。社内の通信システムのハイテク化で、受付・案内係も減る傾向にあり、昨年の失業率は8.7%だった。ネットによる航空券やホテルの手配が普及したことで、旅行代理店の従業員も、11年の7.9%から12年には8.4%と悪化している。

 米労働省の別の統計によれば、IT化により、文書作成事務員は、2010〜20年の10年間で12%減、ファイリング担当事務員も5%減の見込みだ(全職種の平均の伸び率は14%)。

 ニューヨーク市の中流層も逆風にさらされている。クイン市議会議長が2月に発表した中流層の苦境に関する報告書によると、昨年の中流層の失業率は、6.2%だった。市全体の失業率(9.7%)よりは低いものの、01年(2.7%)や08年(2%)に比べ、ハネ上がっている。

 なかでも衰退ぶりが際立つのが、中流の下層の仕事だ。一般的にコミュニティーカレッジ(短大)卒や大学中退などの学歴に相当するが、1980年には同市の雇用全体の47%を占めていた、この層の仕事は、2010年には34%にまで落ち込んだ。そのうち減少率が最も高い事務職は、1980年には雇用全体の25%に上っていたが、2010年には15%にまで減っている。

 一方で、学歴インフレが加速するニューヨーク市では、大卒者や大学院卒者が増加中だ。1989年には半数が中流層レベルの生活を享受していた高卒の人たちは、現在では、大半が低所得層の生活を余儀なくされている。中流レベルの収入を得ているのは、3分の1にすぎない。

 高学歴化は、ニューヨークに限ったことではない。11年には、全米で大卒者数が最多を記録。10人に3人が学士号を持つまでになった。ワシントン・ポスト紙によれば、全米で最も学歴が高い首都ワシントンでは、10年の時点で大卒者が46.8%に達した。IT化で誕生した高スキル・高収入の仕事が集中する、不況知らずのシリコンバレーがそれに続く(45.3%)。

 中流層のパイが減り、高学歴者が増えて競争が激化すれば、賃金は抑制される。

 2000年から10年にかけて平均収入が増加したのは、MD(医学士)やJD(法学士)、MBA(経営学修士を持っているグループとPH.D(博士)保有者のみだ。どちらのグループも、それぞれ全米の1.5%ずつを占めるにすぎない「マイノリティー」である。大卒はもちろん、修士号を持っていても、MBAでなければ、平均賃金は下がっている。

 テクノロジーの進化で特定の仕事の価値が下がったり、需要が減ったりしていることに加え、IT化で、リサーチや事務補助などホワイトカラー職のオフショアリング(外国への業務委託)が可能になり、需要低下に拍車がかかる中流層の仕事――。生き残りへの階段の傾斜は険しくなる一方だ。

*********************

肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト

東京都出身。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などに エディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・ト リノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘され る。現在、『週刊東洋経済』『週刊エコノミスト』『ニューズウィーク日本版』『プレジデント』などに寄稿。ラジオの時事番組への出演や英文記事の執筆、経済・社会関連書籍の翻訳も行う。翻訳書に『私たちは"99%"だ――ドキュメント、ウォール街を占拠せよ』、共訳書に 『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも岩波書店刊)など。マンハッタン在住。 www.misakohida.com

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2013年 4月 11日 06:59 JST
現在の円安は過度な円高の是正過程、資本逃避はない=黒田日銀総裁

By TATSUO ITO AND TAKASHI NAKAMICHI

 【東京】日本銀行の黒田東彦総裁は10日、ダウジョーンズ通信などのインタビューに応じ、現在の円安については過度な円高の是正過程との認識を示し、最近打ち出した大胆な金融緩和を受けて莫大(ばくだい)な資本が日本から逃避する恐れがあるという懸念を一蹴した。その一方で、現在の円相場や円安が今後も進行する可能性に関してはコメントを控えた。

 ただ、緩和策が発表されてから株高が継続していることや、円が対ドルで約4年ぶりの安値を付けたことには明らかに満足しているようだ。

 財務省の元財務官で市場対応にも熟知している黒田総裁は「これまでのところ、市場の動きはある意味で言うと、予想していたというか、予想していた方向に向かっている」と語った。

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AFP/Getty Images
日銀の黒田総裁(10日)
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 黒田体制下での初の金融政策決定会合が先週3、4日に開かれ、大規模な緩和策が発表されて以来、日経平均株価が急騰する一方で、対ドル円相場は7円以上下げて100円の大台に迫るなど、2009年4月ぶりの水準になった。

 黒田総裁は現在の為替レートに対する見方として、「確かにリーマン・ショック後、非常に行き過ぎた円高があった。それの是正過程にあるという考え方も十分成り立つ」と述べた。麻生太郎財務相も9日の閣議後会見で同様な発言を行い、円安に向かう余地のあることを示唆している。また為替相場の方向については、中央銀行として判断する立場にないとしながらも「一般論として、他の条件が等しければ、金融緩和をした国の為替レートが当面下落する傾向があるということは広く認められている」との考えを示した。

 緩和と財政出動、成長戦略の「3本の矢」で経済再生を図ろうとする安倍晋三首相にとって、戦後最高値を記録した円高の是正は不可欠だ。最近の円安は株高をもたらし、家計や企業の心理改善を促しているばかりでなく、日本経済が長期化している不景気から脱却していることを示す雰囲気づくりに一役買っているところもある。

 ただ、米国の著名投資家ジョージ・ソロス氏などの一部の投資家は、日銀の大胆な金融政策の影響で円が暴落し、弱気な投資家が資本を国外市場に逃避させる可能性もあると懸念を示した。

 これに対し、黒田総裁は日銀の最新施策の効果として、銀行や投資家が資金の一部をリスク資産に移すことも予想されるとしながらも、「雪崩的な資本逃避が起こるとは思えない」と述べ、日本からの資金流出が心配される水準になるとは考えていないようだ。

 日銀は新たな緩和策の下、主に広範囲な国債購入を通じて、2014年末までにマネタリーベースを現在の2倍に当たる270兆円に増加することを決めた。さらに毎月の国債買い入れ額を従来の3兆8000億円から7兆5000億円に引き上げる。これは、新規に発行される国債の約70%を日銀が市場で購入することを意味する。

 このような日銀の決定は既に国債市場に動揺を与えている。新発10年債利回りは金融政策決定会合の翌日5日、史上最低水準の0.315%に下落した直後、一転して急上昇した。グリニッチ標準時10日午前11時(日本時間同日午後8時)現在の利回りは0.615%となっている。トレーダーらによると、通常安定している国債市場がこのように急きょ乱高下したことは今までなかったという。

 黒田総裁はこれについて「今回の量的・質的金融緩和というのは、従来のものに比べると相当違ったもので大規模なものだったため、そういったものをマーケットが消化するのにはある程度の時間がかかる」との見解を示した。その上で、追加的な緩和措置については「何か追加策を次々に打っていく、ということは考えていない」と述べ、これまで日銀が行ってきた小出し的な緩和は考えておらず、2%という物価安定目標を2年で達成するために必要な措置を全て一気に打ち出す方針を再確認した。

 ただ、「必要であれば、ちゅうちょなく調整する」と語り、状況に応じて臨機応変に対応する構えであることも付け加えた。

 日銀は大量の国債を買い入れるために、長期国債保有額を日銀券の発行残高以内に抑える「日銀券ルール」を一時停止する決定をした。黒田総裁はこれに関して、2%の物価安定目標が達成されて緩和の出口が見えてくればルールが復活するだろうとの考えを示すとともに、「何か特別なものを作るというようなことは今のところは考えていない」と述べた。

 また、米連邦準備制度理事会(FRB)が導入したような雇用目標の設定については、雇用や賃金の指標も注視していくが特別な目標を決める必要性はないとして、反対する考えを明らかにした。

 今月18、19日には米ワシントンで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれるが、黒田総裁は日本の大胆な金融政策が会議中に批判されることは予想していないと語った。

 

 

 

2013年 4月 11日 20:10 JST 更新
2%の物価目標達成は「柔軟」なもの=黒田日銀総裁
 
By PHRED DVORAK, JACOB M. SCHLESINGER

 日銀の黒田東彦総裁は11日、2年間で2%の物価安定目標を達成する日銀の狙いは、世界の他の中央銀行の姿勢と同様に「柔軟な」ものとの見解を示した。ウォール・ストリート・ジャーナルをはじめとする海外メディアとのインタビューで語った。

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AFP/Getty Images
日銀の黒田総裁(10日)
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黒田日銀総裁インタビュー一問一答
 これは日銀が経済成長や雇用、資産市場といった諸要因の状況次第で、この目標達成に向けた政策を調整したり控えたりできることを示唆している、と黒田総裁は述べた。

 黒田総裁は、他の多くの中銀の物価目標と同じように日銀の物価目標も、「機械的にこの目標に固執するという意味ではない」と表明、「中銀当局者は他の経済要因も検討し、中期的に物価安定目標を達成するために適切な政策を取る」と続けた。

 例えば、日銀は資産バブルが形成されていると認識したり、日本経済がしっかり成長したりしているにもかかわらず、物価がまだ2%に達していないといった場合には政策を調整できる、と説明した。

 しかし、黒田総裁は、現在は国内に資産バブルの兆候は見られず、日銀が2年間で2%の物価目標を達成するよう取り組む意向に変わりはなく、達成できると確信していると力説した。

 総裁は「2年で達成できると考えている。われわれはそう予想している」と述べた。


 


 


2013/04/10 5:00 pm
ラフを恐れずグリーンを直接狙い始めた日銀

日本銀行にようやく刻まずにグリーンを直接狙って打つ指導者が登場した。内閣官房参与を務める浜田宏一米エール大名誉教授(77)は、ゴルフの果敢なプレースタイルにたとえてこう語った。


European Pressphoto Agency
1月18日、都内で行われた記者会見で話す浜田宏一氏
長年日銀の政策が消極的過ぎると批判してきた浜田氏は、黒田東彦・新総裁が先週大胆な金融緩和策に踏み切ったことを称賛した。新政策は金融市場に驚きを与え、それをきっかけに円は急落し、東証株価は数年ぶりの高値に達した。黒田氏は新政策の発表に当たって、「現時点で必要な政策を全て講じた」と述べた。

浜田氏は、主に国債買い入れ額を2倍に引き上げることで2年で2倍の資金を経済に注入するという日銀の措置は、既に資産価格を押し上げていると指摘。年内には、雇用情勢をはじめ実体経済も改善に向かうだろうと述べた。

浜田氏は過去の日銀政策を、グリーンの先に崖があると恐れ、グリーンを狙うことをためらうゴルファーにたとえた。

だが、先週の日銀の措置を受け、浜田氏とやはり長年の日銀批判派で現在日銀副総裁を務める岩田規久男氏は日銀が変わったと認める。

「グリーンに向かって打つプレーヤーが日銀にも現れたと話した」。浜田氏は、ゴルフ好きの岩田氏と最近そう言葉を交わしたことを明かした。

浜田氏は政策委員会が新政策の採択を決定した翌日に黒田氏に会ったという。黒田氏は浜田氏に、新たな職務は「大変な仕事」で、2年で2%という日銀のインフレ目標についても「実現は大変だ」と語ったという。

だが、日銀が1月に2%のインフレ目標を採択する以前から2%−3%のターゲットを提唱してきた浜田氏は自分は楽観的だと述べた。

日銀の措置は「アセットには明らかに効いている」と指摘し、「それが財・サービス価格や消費や投資に伝わるか見ていかないといけない」と話した。

さらに、雇用の改善につながる相当な効果が年内に期待できると述べ、既に地方経済の雇用情勢には幾分改善が見られると付け加えた。

また、株や不動産投資信託(REIT)などの「リスク」資産の買い入れ拡大を含む現在の措置に効果がなければ、単に買い入れ額を増やせばいいだけだと述べ、「効かなければ強い薬がある」と語った。

米著名投資家ジョージ・ソロス氏をはじめとする新政策の否定派は、日銀は危険な道に突き進みつつあると警鐘を鳴らす。日本は国内総生産(GDP)の2倍を超える巨額の公的債務を抱えているにもかかわらず、過剰な流動性の供給でインフレや金利の上昇が誘発される可能性があるとの理由からだ。

また、日銀が「出口戦略」を取るべき時期が到来し、国債の買い入れ額を減らなければならないときに、債券価格の下落防止に苦慮する可能性があるとも主張する。債券価格の低下は日本国債の40%以上を保有する日本の銀行や証券会社にとって大きな痛手となり得る。

だが、浜田氏は出口戦略の心配をするのはまだ早いと反論する。インフレ期待が高まれば債券価格は下落する可能性があるが、金融機関は株価上昇の恩恵を得られるはずだと指摘、「それ(債券価格の下落)の何倍もの株でキャピタルゲインが生じているはず」だと述べた。指標となる日経平均株価は8日、2012年8月以来の高値で引けた。

浜田氏は円の下落スパイラルも懸念していない。円は8日、1ドル=99円を突破し、09年5月以来の安値に達した。

だが浜田氏は、金融政策はインフレ期待に影響を及ぼすことが可能だと強調する一方で、期待によって金融市場が過剰に反応する可能性があることも認め、「市場は通常安定するもの。ただ、期待の影響を考慮すると行き過ぎることも否定できない」と述べた。

記者: George Nishiyama

原文(英語):BOJ Beat: No More Laying-Up, BOJ Goes for the Green
http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2013/04/09/boj-beat-no-more-laying-up-boj-goes-for-the-green/

インフレ目標, 金融緩和, 黒田東彦, 日本銀行, 浜田宏一


05. 2013年4月11日 21:59:44 : xEBOc6ttRg

コラム:壁に近づく「黒田円安相場」、ドル95円に反落も=村田雅志氏
2013年 04月 11日 11:44

為替フォーラム
焦点:急浮上する国債の価格操作懸念、「国を挙げた地上げ」の声も
焦点:リチウムイオン電池の技術革新に停滞色、コストと安全面で
アングル:操業停止の開城工業団地、南北労働者の絆も「分断」
焦点:中国に「北朝鮮ジレンマ」、米軍のアジア展開に根強い不信

村田雅志 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン シニア通貨ストラテジスト(2013年4月11日)

スポーツでも何でもそうだが、勝負の始めに圧倒的な力で相手をねじ伏せることは、その後の展開を有利に運ぶために有効である。上品と揶揄された白川方明前総裁下の日本銀行の動きに市場は慣れ切っていた。そんな市場に対し圧倒的な力を見せつけた黒田東彦新総裁は、勝負の勘所を的確に理解しているのかもしれない。

日銀は4月4日の金融政策決定会合で、2014年末までに270兆円の資金供給を行うことを決定。国債購入は40年債を含む全年限を対象に毎月7兆円強に拡大され、保有国債の満期までの平均期間(デュレーション)は現状の3年弱から7年程度に延長される。また、長期新発債の7割をグロスで買い入れるという。

今回の緩和強化策(量的・質的金融緩和)がこれまでと大きく違う点は、緩和の規模が拡大されただけではなく、買入対象国債の年限を一気に全て40年までとしたことだ。これにより10年を超える年限の長期債利回りが低下し、日本の金融機関は円債市場での運用がより難しくなるとの思惑が強まりやすくなる。

市場では円債市場からマネーが流出し、その一部は対外資産に向かうとの見方も加わり、ドル円はわずか1日で92円台後半から96円台前半に上昇。その後も円売りの流れは続き、ドル円は09年5月以来となる99円台後半を記録した。

黒田総裁は決定会合後の会見で、量的・質的金融緩和でポートフォリオ・リバランス効果が期待できると指摘した。同効果は、日銀が市場に潤沢な資金を供給することにより、金融機関がより高いリターンが期待できる運用先を求めてポートフォリオを再構成することを期待するものだ。この結果、貸出が増加すれば設備投資などが促進されることになる。

しかし、日銀短観の設備判断DIが示すように日本企業の設備過剰感は続いたままだ。マクロで見た設備投資ニーズが大きく強まるとは見込みにくく、日本の金融機関が企業向け貸出を拡大させることは期待できない。日銀からの緩和マネーの多くは当面、実体経済ではなく金融市場に流れ込むと考えた方がいいだろう。緩和マネーを手にした日本の金融機関が、どのような金融資産への配分を高めるかは見極めにくいが、外債を中心とする対外金融資産により振り向ける可能性は高い。

<「酒は飲むとも飲まるるな」>

日銀の資金循環統計によると、金融資産全体に占める対外証券の割合(対外証券比率)は、量的緩和政策が実施された03年第1四半期から06年第1四半期までの3年間に、日本の銀行(預金取扱機関)で1.4パーセントポイント、保険・年金基金で3.6パーセントポイント上昇した。仮に量的・質的金融緩和を機に対外証券比率が同程度上昇したと仮定すると、3年間で計45兆円、年間約15兆円の円売り圧力が発生する計算となる。12年の日本の経常黒字が4.8兆円だったことを考えると、実需の円買い需要は十分吸収されることになる。

一部のメディアが決定会合後のドル円の急ピッチな上昇を「黒田相場」と称するなど、日銀の緩和強化策を称賛する声が強まっている。この勢いならドル円が100円を突破し、さらに上値を目指すのは時間の問題との見方を示す市場関係者も増えている。

ただ、こうした期待に水を差すようで恐縮だが、たとえ一時的に100円台に乗せたとしても、早晩伸び悩む動きが強まり、場合によっては95円台まで下落するリスクもあると筆者は考えている。日銀の緩和強化による対外投資の拡大期待はすでに市場に十分織り込まれており、短期的に円売りの動きが大きく強まることは期待できないからだ。

現に決定会議後、日本マネーの流入期待を背景に上昇したフランス債、ベルギー債などの欧州債は、週明けの8日以降、日本からの買いがさほど強くないことが明らかとなり、売り優勢の展開となっている。前述した通り、日本の金融機関は対外資産への配分を高める方向にあるとしても、市場の期待は過剰すぎるのだろう。

また、黒田総裁自らが決定会合後の会見で「現時点で必要と考えられるあらゆる措置を取った」と述べたように、日銀は26日の次回会合で追加緩和に動くとは考えにくい。5月以降の会合でも、追加緩和の可能性を示しながらも当面、様子見の姿勢を続けるだろう。こうした動きは一部で盛り上がっている黒田総裁に対する過度な期待を後退させる。

これまで円売り材料とされてきた日本の貿易赤字が縮小する可能性も意識しておくべきだ。3月の中国輸入が前年比14.1%増と市場予想を上回る伸びを記録したように、中国の内需回復ペースは徐々にではあるが強まっている。米国景気が底堅い動きを続けていることから中国の輸出も増勢を維持する見込みで、日本の輸出は中国向けを中心に底打ちが見込まれる。原油・天然ガス輸入の拡大もようやく落ち着きを見せつつあり、日本の貿易赤字は縮小に向かうだろう。

さらに、急激な円安の進展で円売りポジションが積み上がっている点にも注意が必要だ。核実験やミサイル発射予告など北朝鮮の威嚇姿勢は強まるばかりである。いわゆるテールリスク(予期せぬイベントが発生する可能性)の高まりによって、積み上がった円売りポジションを解消する動きが続く展開も想定すべきだ。

黒田総裁の勝負にかける執念が実ったのか、日銀の緩和強化を受けて円売りは進展。ドル円は100円の大台が視野に入ったこともあって、さらなる上昇を期待したくなる気持ちは理解できないわけではない。ただ、期待先行の上昇相場は、期待の後退とともに終焉を迎えることが多い。「酒は飲むとも飲まるるな」との格言があるように、金融緩和を根拠としたドル円上昇期待には当面、距離を置くべきと思われる。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYE93A00T20130411?sp=true


 

富裕層は「日本脱出」をあきらめる
成毛眞インスパイアファウンダーに聞く
2013年3月28日
大増税時代に突入した日本。外資系企業や富裕層が海外に脱出する動きは加速するか。インスパイア取締役ファウンダーの成毛眞氏に聞いた。
──外資系企業の間では日本の税金をどう見ているのでしょう?
マイクロソフト時代、ストックオプションを行使して得た利益に対し、それを給与所得課税にするか、(課税対象が半分になる)一時所得にするかの解釈で裁判になった。そんな事件があった2000年前後から、外国人スタッフが簡単に海外に逃げていくようになった。
こんな話もある。ある外資系企業のストックオプション保有者が1株50ドルで権利を得て、1株90ドルになったときに権利行使した。しかし、そのまま持っていたら、株価が30ドルくらいに下がってしまった。にもかかわらず税務署から、「90ドルで行使して40ドル儲かっている。その分の税金を払いなさい」と言われた。それで自己破産した人が何人もいた。
外資系の人間は下手したら税金で全財産没収になってしまうのではと恐れている。普通、税金で破産しないと思うが、実際に破産する人が出た。ゼロになるならいいが借金までできてしまう。だから、「しゃれにならない。逃げよう」というのが合言葉だ。みんな経済情勢で日本を見限ったと思っているが、税金が高いから支店長を筆頭に逃げていっただけ。本国の指示ではない。
税務当局は富裕層の資産をどこまでも捕捉
──課税強化で富裕層が日本から逃げようとする動きがあります。
税金を払う人の年齢の問題が大きい。高度成長の名残がある1990年代は、ベンチャー企業の経営者などはみんな若く、所得の半分を課税されても関係なかった。海外に行って節税するより、国内で自分の資産を倍にするほうが簡単だったからだ。しかし、その金持ちが70、80歳代になり、資産を倍にするのが難しくなってきた。さらに相続税があることを考えれば脱出しようかという気になる。

成毛眞(なるけ・まこと)
インスパイア取締役ファウンダー
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業後、自動車部品メーカーやアスキーを経て、86年、マイクロソ フト日本法人に入社。91年、同社社長に就任。2000年に退任後、投資コンサルタント会社インスパイアを設立。著書に『本は10冊同時に読め!』、『大人げない大人になれ!』など。
環境もある。デフレ下ならカネの価値がどんどん上がるから、金持ちは日本にとどまる。何もしなくても10年で倍になるから10年後に資産の半分を相続税で払っても、結局一緒になる。
しかし、これがインフレに転化する局面になれば、どんどんカネの価値が落ちるから海外へ行こうとする動きが出てくる。
でも国税庁は国籍転換しないかぎり、所得を捕捉すると言っている。さすがに国籍まで捨てるほどの金持ちは日本にはいない。移住なら私でもするかもしれないが、国籍となるとさすがに厳しい。外国で国籍を取るのは、カネさえあれば簡単だけど、日本は元に戻すのが難しい。
国税庁が捕まえると言っているから、誰も海外に行かないだろう。富裕層の人々はみんなあきらめて国内で使ってやろうという気持ちになっている。経済政策という意味ではちょうどいいかもしれない。
──成毛さんが海外に出ていく可能性はありますか?
ない。趣味の歌舞伎が見られなくなる(笑)。が、経済政策が失敗し、ハイパーインフレが起こるようならすぐに逃げる。当然、金持ちも逃げ始める。現金化するために家や不動産の投げ売りが始まるので土地の値段も下がる。土地が下がるのが最初のシグナルだと思う。
(撮影:梅谷秀司)
http://toyokeizai.net/articles/print/13456


 

富裕層増税、62.9%が「妥当」  
クイックVote第116回解説 編集委員 大石格

日本経済新聞 電子版
 富裕層を主なターゲットにした所得税や相続税の増税について電子版読者は62.9%が「妥当」との回答でした。財政再建に向けて増税が避けられないときに、いかに公正を担保するのか。大衆増税である消費税率引き上げを実施するからには、やはり富裕層の負担増はセットとの見方が多いようです。

 自公政権と野党第1党の民主党は21日、所得税の最高税率を40%から45%へ、相続税は50%から55%へ引き上げることで合意しました。野党とも話がついたことで富裕層増税が実現することが確実になりました。
 増税賛成の読者のコメントは大きく3つに大別されます。
 1つは伝統的な「持てるものが負担すべきだ」という考え方です。
○カネ持ちはもっと負担すべきだ(59歳、男性)
○富裕層は一般人がいるから成り立っている(49歳、男性)
 2番目は貧富の差が近年、拡大していることへの対応として累進強化が必要だというもの。
○格差是正のための所得再分配を考える時期に来ている(71歳、男性)
○持てるものと持たざるものの差が開きすぎだ(40歳、女性)
 最後は望ましい政策ではないが、やむを得ないというものです。
○プラス5%ならば微々たるもの(71歳、男性)
○消費増税を実現するため(65歳、男性)
 「持てる人」に属すると思われる「やむを得ないが、税の使途を改善してほしい」(73歳、男性)という書き込みもありました。
 では妥当ではないという読者のコメントもみてみましょう。こちらはほぼ同じ内容でした。
○国際的に高い水準。資産流出が加速する(38歳、男性)
○個人のやる気をそぐ(54歳、男性)
○レーガン米大統領の富裕層減税は毀誉褒貶(ほうへん)があったが、カーター大統領時代のスタグフレーションからの脱却に成功した(58歳、男性)
回答者の内訳
回答総数 1298

男性 92%
女性 8%

20代 6%
30代 17%
40代 25%
50代 27%
60代 19%
70代 5%
80代以上 1%
小数点以下は四捨五入
 ちなみに具体的な数字を入れた回答が多数あり、増税の対象になりそうな読者がこの問題に高い関心を持っていることがうかがえます。
 なお、富裕層減税に反対するように誘導する質問だったという書き込みもありました。小職は富裕層ではないので、個人的な利害はありません。設問時に書いたように重要なのは日本経済の全体としての発展です。人材流出で日本の国際競争力を損なっては困りますし、他方で必要な税収が確保できないのも困ります。
 日本人は欧米に比べて地理的にも言語的にもよその国に簡単に移住できません。「週1日ぐらいは東京本社に顔を出したいし、オレは英語はしゃべれない」では欧米人がよくやるカリブ海の島々への移住に踏み切るのは難しいでしょう。日本政府は、他の主要国よりも富裕層増税に踏み込む余地が大きい恵まれた環境にあるともいえます。
 それを踏まえ、どの程度のバランスが望ましいのか。景気が悪いと「カネ持ち妬ましい」という気分になりますが、もう少し冷静な議論が必要でしょう。
 個人は移動しにくいが、企業は簡単に移動できる。こちらはすっかり常識になりました。2番目の課税強化すべき分野の質問にあえて法人税増税を入れておきましたが、選んだ読者は4.1%にとどまりました。
 一番多かったのは酒・たばこ税の増税でした。酒税はともかく、たばこ税に関しては
○生活必需品ではない(58歳、男性)
○医療費の削減につながる(45歳、男性)
など積極増税論が目立ちました。
 ガソリンへの課税強化は法人税増税よりさらに賛同が少なかったですが、「炭素税を設けるべきだ」という環境保護の観点からの意見があったことは紹介しておきます。
 その他として書き込みがあったアイデアのうち主なものを以下に並べます。
○企業の内部留保への課税
○赤字法人への課税
○利子所得への総合課税
○宝石などぜいたく品への課税
○宗教法人への課税強化
○居住用を除く不動産にかかる固定資産税の課税強化
○海外旅行税
などでした。なかでも宗教法人への課税強化はたくさんの読者が指摘しました。

 3問目。負担軽減してほしい分野ではやはり法人税が最も多く、今回の税制改正で半分だけ実現する自動車車体課税の軽減が次点でした。
 こちらもその他に書き込まれたものを以下に並べます。
○ゴルフ税の廃止
○省エネ関連の税負担軽減
○少子化対策につながる税負担軽減
 財政難のおりに減税は不要であり、質問そのものがナンセンスという回答もありました。

 安倍内閣の支持率は69.6%でした。1週間前より2.6ポイントの上昇で、ここまでの政権運営は順調といえるでしょう。
 安倍晋三首相の周辺は「7月の参院選までは安全運転でいく」と語っており、国論を二分しそうな憲法改正などにできるだけ言及しないようにしている効果が出ているようです。
 この勢いを維持できるのか。次回はアルジェリアでのテロ事件や麻生太郎副総理の「さっさと死ねるように」発言がどう影響するのかが注目です。

2013/1/22 6:00 http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2102O_R20C13A1000000/

 

日本の富裕層・超富裕層は81万世帯、その純金融資産総額は188兆円
〜震災等で規模は減少傾向、遺言等の相続対策が進展〜

2012年11月22日
株式会社野村総合研究所
株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:嶋本 正、以下「NRI」)は、このたび、2011年の純金融資産保有額別注)の世帯数と資産規模を、各種統計等から推計しました。また、2012年2月〜3月に、全国の高額納税者を対象にした「NRI富裕層アンケート調査」を実施しました(有効回答310名)。同調査の実施は、2007年と2009年に続く3回目で、今回は、東日本大震災が富裕層・超富裕層の金融意識や行動に与えた影響に関する項目を加えています。
規模推計やアンケート調査の主な結果は、以下のとおりです。
日本の富裕層・超富裕層の世帯数は、2007年から2011年に10.3%減少
預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命・年金保険などの純金融資産保有額(保有額から負債を差し引いた値)を5つの階層に分類して推計したところ、純金融資産1億円以上5億円未満の「富裕層」および同5億円以上の「超富裕層」の世帯数および保有する純金融資産額は、2011年時点で81.0万世帯、188兆円でした(図1)。
この結果は、NRIが1997年以降に推計した中でのピークである2007年と比較して、富裕層の世帯数は9.7%減少、超富裕層の世帯数は18.0%の減少、両者を合わせた世帯数は10.3%の減少となりました。また同期間に、富裕層および超富裕層の保有する純金融資産はそれぞれ23.8%、32.3%減少し、合わせて26.0%の減少となりました。2009年と比較すると、富裕層・超富裕層の世帯数は4.1%の減少、純金融資産は3.6%の減少であり、微減にとどまりました。
この原因として、まず2008年から2009年にかけて株価が急落(いわゆるリーマンショック)し、リスク性商品を相対的に多く保有する富裕層・超富裕層の資産が大幅に減少したことが考えられます。また、2009年から2011年については、2011年3月の東日本大震災後の株価や地価の低迷により、富裕層・超富裕層の世帯数と資産規模は小幅に減少したとみられます。
保有する資産に占める現預金の割合が増加し、運用意向は低下
アンケート調査において、保有する金融資産の内訳をたずねたところ、預貯金(MRF・預け金、金銭信託・貸付信託を含む)の割合が、2007年から2012年にかけて、富裕層では39%から45%に、超富裕層では25%から40%に上昇しています。一方、株式の割合は、同期間に富裕層が27%から24%へ、また超富裕層では32%から19%に減少しています。これは株価下落による時価評価額の減少と、株式等のリスク性資産から預貯金等の安全資産への移行が生じたことによると考えられます。
資産運用に関する考え方では、「金融商品を選ぶ際には、たとえリターンが低くても『安全・確実』を最優先にしたい」という設問に対して、富裕層・超富裕層が「全くそう思う」もしくは「どちらかといえばそう思う」のいずれかに回答した割合が、2007年の62%から2012年には66%に増加(「全くそう思う」は19%から28%に増加)しており、これらの層の資産運用において安全志向が高まっていることがうかがわれます(図2)。同様に、「機会があったらデリバティブなどの最先端商品にも投資してみたい」と回答した割合は、2007年の16%から2012年には10%に減少(「全くそう思う」は5%から1%に減少)しており、富裕層・超富裕層の最先端商品への運用志向が低下していることわかります(図3)。
遺言や生前贈与による相続対策の普及がプライベートバンキングビジネスにおける新たなチャンスを生む
相続対策の実施割合は、2007年から2012年にかけて全般に上昇しています(「当てはまるものがない」が31%から21%に減少、図4)。具体的な方法として、「遺言状の作成(公正証書、自筆証書)」を実施した割合が12%から21%へ、「家族への生前贈与や住宅取得資金の援助」を実施した割合が34%から47%に上昇しています。
相続税や贈与税の改正の動きがあること、相続に関する情報が世の中に多く出回るようになったこと、富裕層・超富裕層の高齢化が進んだことなどが、相続対策の普及につながったと考えられます。
富裕層・超富裕層の中でも企業のオーナー経営者の相続対策については、オーナー経営者の個人資産の相続だけでなく、事業承継・後継者問題もあわせて支援することが求められています。アンケート調査から、法人や事業を所有する富裕層・超富裕層の39%が、金融機関のプライベートバンカー(個人の資産管理・運用のアドバイスをする金融機関の担当者)に、事業承継(自身のリタイアメント)の時期や方法に関するアドバイスを期待し、35%が後継者育成や幹部教育などの人材育成に関するアドバイスを期待しています。
今後、富裕層・超富裕層においては、オーナー企業の事業承継やファミリーの資産の管理・運用まで一貫して支援するニーズが強まっていくことが予想されます。
注)
本文中における純金融資産階層は、次のように分類しています。
超富裕層 :純金融資産5億円以上
富裕層 :同1億円以上5億円未満
準富裕層 :同5,000万円以上1億円未満
アッパーマス層 :同3,000万円以上5,000万円未満
マス層 :同3,000万円未満
【ニュースリリースに関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部 坂、海藤
TEL:03-6270-8100 E-mail:kouhou@nri.co.jp
【本調査担当者】
株式会社野村総合研究所 金融コンサルティング部 宮本、佐藤
コーポレートファイナンスコンサルティング部 渡邉
【ご参考】
図1:純金融資産の保有額別にみた世帯数と資産規模の推計(1997年〜2011年)

拡大図
(注1)
各分類の上段は金融資産額、下段は世帯数
(注2)
国税庁「国税庁統計年報書」、総務省「人口推計」、総務省「全国消費実態調査」、厚生労働省「人口動態調査」、人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」、東証「TOPIX」および「NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)」、「NRI富裕層アンケート調査」等 より推計。
図2:「たとえリターンが低くても『安全・確実』を最優先にしたい」への回答の推移

出所)「NRI富裕層アンケート調査」より作成
図3:「機会があったらデリバティブなどの最先端商品にも投資してみたい」への回答の推移

出所)「NRI富裕層アンケート調査」より作成
図4:相続対策の実施状況の推移(複数回答)

出所)「NRI富裕層アンケート調査」より作成
<「NRI富裕層アンケート調査」の実施概要>
【目的】 資産管理・運用や、金融機関・担当者との関係、相続や事業承継に関する実態を把握し、2007年からの変化を明らかにする。
【対象】 高額納税者名簿において、2003年〜2005年の期間中に1回以上掲載された人(全国5,000名を抽出)。有効回答 310名のうち、本人と配偶者の保有する金融資産が1億円以上の186名を集計対象とした。
金融資産1億円〜5億円:141名
金融資産5億円以上:45名
【調査方法】 郵送による発送・回収
【実施時期】 2012年2月〜3月
http://www.nri.co.jp/news/2012/121122.html


 


黒田日銀の緩和策、80%が「評価」
第127回 編集委員 大石格
2013/4/10 6:00日本経済新聞 電子版
 日銀が黒田東彦総裁になって最初の政策決定会合で打ち出した新たな金融緩和策への電子版読者の反応は「評価する」が8割を占めるなど極めて良好でした。この勢いがどこまで続くか。4日の緩和策発表を挟み、日経平均株価は2日から9日までで約1200円上昇しました。


 万物不滅の法則を探る自然科学と異なり、政治や経済はこうなるだろうという予測を皆が信じてそう行動すればその通りになります。だから日銀総裁もその資質に「市場との対話力」を挙げられることが多いわけです。

 「評価する」と回答した読者のコメントを読むと、そうした能力を指摘するものがたくさんありました。

○世界に向かってサプライズを演出したのがよかった。同じメニューでも小出しだと市場の評価は下がっていただろう(63歳、男性)

○市場とのコミュニケーションを意識したのがよかった(50歳、男性)

○理屈だけでは動かなかったものを動くようにした(50歳、男性)

○白川時代の愚を繰り返さない(69歳、男性)

 黒田総裁は就任前での国会での所信聴取を含めて発言する場がたくさんありました。そこで生んだ高い期待値をさらに上回るのは簡単なことではありません。手の内を明らかにするところと隠し玉とを上手に仕分けた手腕はお見事といってよいでしょう。


 他方で大幅な緩和という施策そのものを評価したコメントは思ったほど多くありませんでした。

○政策うんぬんよりも戦う姿勢がよい(51歳、男性)

○激変後の処方箋を用意しておくべきだ(64歳、男性)

○引き締めに転じる時期が重要(61歳、女性)

○一定の評価をするが、出口戦略が心配(61歳、男性)

 これら手放しの評価ではないコメントからうかがえる不安にどう応えるのか。安倍政権と同様にうまく滑り出した黒田日銀も課題は山積です。

 「評価しない」という読者の声は設問時に想定した通りでした。

○行きすぎた緩和の反動が怖い(70歳、男性)

○大インフレが来る(53歳、男性)

○物価が上がれば可処分所得は減る(54歳、男性)

 黒田日銀はリフレを掲げたわけですから、インフレターゲットを達成できるかどうかが今後の評価の基準になります。これに関しては2%はなかなかに高いハードルだと設問で指摘しておいたのですが、読者の反応は結構楽観的でした。

 目標通りに「2年前後で達成できる」が一番多く、2年を待たずに達成できるという回答を加えると6割近い読者が実現可能という意見でした。

 ただ、「2年を待たず」と答えた読者には「ハイパーインフレが心配」という読者も含まれているようです。応援団的なコメントと批判的なコメントがまじり合っていました。

回答者の内訳
回答総数 2642
男性 94%
女性 6%
20代 4%
30代 10%
40代 19%
50代 24%
60代 30%
70代 13%
80代以上 1%
小数点以下は四捨五入
○さらなる緩和によって2%を超えていくと思う(42歳、男性)

○円安で物価が上がる(74歳、男性)

○個人の収入増がついていけない悪いインフレになるだろう(63歳、男性)

○2%で止められると思っているのが笑止千万(54歳、女性)

 むしろ「2年前後」という黒田総裁の言い分をそのまま選んだ読者の方が忠実な支持者のようです。

○期待感を込めて(49歳、男性)

○国民が明るい未来が来ると信じて行動することが最も必要だ(56歳、女性)

 脱デフレは困難とみる読者も1割弱いました。

○今はマネーゲームで騒いでいるだけ(65歳、男性)

 金融政策だけで実体経済がよくなるわけではありません。そこで焦点となる成長戦略はどうみるか。うまくいくとみる読者が過半数でした。

○安倍晋三首相の実行力に期待する(62歳、男性)

○それなくしてこの国の経済回復はあり得ない(61歳、男性)

○国を挙げて立て直すとき(58歳、女性)

 成長戦略のメニューが出そろうのが6月ごろということもありますが、コメントの多くはうまくいくだろうと予測するというよりはうまくいってほしいと願望するという感じでした。

 財政出動、金融緩和、成長戦略の3本の矢がきちんと出そろえば経済再建の軌道に乗るはずです。それが読者の日常生活にも波及するでしょうか。一番多かったのは「横ばい」でしたが、「よくなっている」が「悪くなっている」よりもはるかに多かったのはやはり安倍政権になって以降、世の中の気分が明るくなっていることの表れでしょう。

 「よくなっている」という読者のコメントです。

○円安株高がプラスに働く(50歳、男性)

○バブルが再発生する(61歳、女性)

 「悪くなっている」という読者のコメントもみましょう。

○収入が増えても物価も上がる。暮らしがよくなるわけではない(66歳、男性)

○年金生活者は切り捨てられるのでしょうか(65歳、男性)


 年金にはマクロ・スライド制度があるので、戦後日本の公債のようにいきなり紙くずになるわけではないのですが、高齢読者の不安は大きいようです。

 安倍内閣の支持率は79.1%と持ち直しました。緩和策への支持とほぼ同率でした。アベノミクス効果が続く限りは政権安泰でしょう。「自民党が下野していた期間が肥やしになった」(63歳、男性)という声に耳を傾けてもらいたいものです。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0902T_Z00C13A4000000/


 


今後10年、想像超す上げ相場が来る(家計と資産セミナー)
さわかみ投信会長 澤上篤人氏
2013/3/31 6:00日本経済新聞 電子版
 日本経済新聞社は、「ニッポン金融力会議 家計と資産セミナー第9回」を3月21日に開催した。講師はさわかみ投信取締役会長の澤上篤人氏で、演題は「相場に左右されない投資先企業の選び方」。昨年末からの円安・株高で日本株投資に再び目を向ける個人投資家が増えている。澤上氏が3月11日に書籍『本物の株価上昇の波が来たぞ!』を出版したばかりということもあり、会場は真剣な参加者との掛け合いで熱気に包まれた。

■外国人の10兆円がさらに株価を押し上げ


澤上氏は、ピンポン玉のような株価上昇は、売りが枯れている証拠と解説した
 まず日本株市場の需給について話す。結論を先に言えば、日本株市場はものすごく需給が改善しているので、恐らく今後10年くらいの間は、本日の参加者の誰もが想定できないほどの上昇相場になるだろう。

 日本株市場は1952年から89年末までの37年間、年率20.2%の成長を遂げた。これは約10年で8倍というすさまじい上昇ぶりで、世界のどこにも例がない。理由の一つが高度経済成長だが、それより大きいのが67年に資本の自由化がなされ、企業と企業、企業と銀行の間で株の持ち合いが始まったこと。もう一つが生保会社による株の政策保有だ。これらの結果、88年3月末には東証1部上場銘柄の全発行株数の55.3%が持ち合いとなった。企業はお互いに株を買い合って、ほとんど売らなかったのだから、株価は上がるに決まっている。

 その後バブルが崩壊して22年間、だらだらと下がる一方の日本株市場だったが、これは逆に持ち合い株が徹底的に売られたことの影響が大きい。55.3%の持ち合いがわずか8%になるまで、47%も売り込まれたのだから株価が下がって当然だろう。

 つまり構造的には売り要因は枯れており、もう大きな売りは出てこない。にもかかわらず、買い主体がいなかったので日本株は上がらなかった。昨年暮れまで個人投資家はみな真っ青な顔色をしていたし、銀行、生保、年金など機関投資家はそれぞれの台所事情で株式投資に積極的ではなかった。残る外国人投資家も過去3年間は一時ドル円で76円台に入る円高の進行で、買いたくても買えずにいた。だが昨年11月に、野田佳彦・前首相が衆院を解散すると言ってから一気に流れが変わって日経平均株価も上昇を始め、45%くらいするすると上がった。ピンポン玉のような株価上昇は、売りが枯れている証拠だ。

 外国人がここまで4兆円買い越したといわれるが、これはヘッジファンドや短期売買を中心とする投資家のこと。一方、外国人でも中長期の投資家は完全に出遅れている。彼らは過去7、8年というもの、日本株に見切りをつけリサーチチームを解散し、主に中国やアジアに投資していたので、何を買うべきかが分からない。今は必死でリサーチしている最中で、大手証券会社が日本株の紹介ツアーを海外でやると、どこも超満員である。従って今後3カ月から1年くらいの間に、中長期の外国人投資家が10兆円程度は日本株を買ってくるのではないか。外国人投資家は92年以降、4回ほど大きく日本株を買ってきた。その都度10兆円程度の資金が流入し、日経平均株価は40〜60%くらい上がってきた。従って、この買いだけでもかなりの上げ要因になると見ていい。

 とはいえ、外国人投資家が買ったのはこれまでの20年間で約67兆円。一方、日本には1515兆円という個人金融資産があり、このうち785兆円が預貯金だ(昨年9月時点)。言い換えれば、日本のGDP(470兆円)の約1.7倍の資金が、年に0.02%しか富を生まない運用に放置されているということ。金利が0.02%では100万円の元金を2倍にするのに3600年もかかるため、これまで預貯金しかしてこなかった層もさすがに焦ってきている。個人の預貯金の785兆円の、たった1割でも78兆円。外国人投資家の67兆円よりはるかに多い。売りが枯れきっている日本株市場で、ほんのちょっと個人の預貯金マネーが動くだけでどれだけ株価が上がるかは、想像に難くない。これが、冒頭でこれから本格的な上昇相場が来ると述べた背景だ。

■金利はいつか上昇、銘柄の選別が重要

――澤上氏はかなり強気だが、株価が下がることは考えなくていいのか。

 これまでは悪い材料ばかりで強気になれず、個人投資家もたぶん出遅れてる人ばかりだろう。なので今は強気でいいと思う。もちろんアベノミクスは諸刃の剣で、良い面ばかりではない。だが、今はうまい具合に良い面が前に出ている。みんながそれに乗り、株価が上がってしまった後でなら、悪い面が多少出てきてものりしろ(余裕)があるといえる。

――投資信託と個別銘柄、どちらに投資すべきか迷っている。

 投信でも個別銘柄でもいいと思うが、どちらにしても長期投資を考えるなら「選別」が重要になる。

 アベノミクスで今行われていることは、お金のバラマキだ。国債をどんどん発行していけば、どこかで必ずマイナス面が出る。今の金利、即ち10年物長期国債が米国で1.9%台、日本で0.5〜0.6%というのはそもそも異常な水準で、今後物価が2%上がったとき、長期金利が0.6%のままであるはずがない。

 だが、いったん市場金利が上がり始めたら、もう誰にも止められない。日本の超低金利政策は93年9月から20年間にも及び、これでどうにか生き長らえているゾンビ企業は多いが、金利が上がればこれらはどんどん脱落していく。だから選別が重要なのだ。投信を買うのなら、その辺を読み込んでいる投信にした方がいい。

――強気でいいということだが、日経平均株価でいえばどの辺まで強気でいいのか。

 昨年末の株価予想アンケートでは、私が一番強気で「日経平均株価は1万5000円」と回答した。あのときは「まさか」と言われたが、今は1万5000円はもう現実のものとして見えている。今後10年ではどうか分からないが、将来は89年末の最高値3万8915円を抜いていくことだって、いくらでもあり得る。


円高を乗り越えた日本企業は、今後1〜2年で蘇るとみる
 私は70年から世界で長期の投資運用をしているが、その当時NYダウは700〜1000ドルくらいの間を17年以上も行ったり来たりし続け、「株式の死」と言われた。だが、82年8月から上昇を始め、2000年までで1万ドルに達し、今は1万4400ドルで史上最高値も更新した。1000ドルの頃から見れば14倍だ。世界経済は長い目で見れば常に4%成長を続けているし、世界の株式市場も約10%の率で伸びている。

■本当に応援したいのは上場企業の6分の1

――今、一番注目している業種は何か。

 株式投資はもともと個別株投資。同じ業種の企業でも昨今は経営力の差がすごく出ており、どの業種だから買えるということではない。完全に個別経営の問題だ。上場企業3600社のうち、私が個人的に応援したいと思うのは約600社しかない。全体の6分の1程度だ。

 これまで日本企業は国内を舞台に、世界最強の生産体系を築き上げて製品を輸出してきた。だから貿易収支も黒字だったのだが、今では人件費が上がり、働かない社員をクビにできないなど労働行政にも問題があり、法人税も40%と高いまま。法人税はOECD(経済協力開発機構)諸国の平均では27%で、英国は今24%だが再来年には20%に引き下げるという。つまり日本の現状は世界の潮流の逆なのだ。そこで多くの日本企業はこの3年の円高の間に腹をくくり、買い替え需要しかない国内ではなく、新規の需要が爆発している海外に進出した。安い部品を調達しながら、グローバルベースの生産体系を作り直した。円高効果で世界の工業団地も割安に買えたので、あと1、2年もしたら完全に日本のメーカーは蘇ってきたということになるはずだ。

 一方、国内に留まったメーカーは、世界経済が成長するほど足らなくなる素材や中間財、部品を生産して世界中に供給していく。海外に出て行ったメーカーは需要が半端ではないので規模が大きくなり、国内に留まったメーカーは規模はそう大きくならないが、利益率が上がるだろう。そういう面白い会社が600ほどある。

――今回の相場上昇も円安がきっかけだが、為替についてはどう見るか。

 日本人は為替が好きで円相場の動向を常に気にするが、株式の長期投資とは切り離して考えた方がいい。世界で43年間運用しているが、為替ほど分からないものはない。日本の人口1億2650万人に対して、世界には日本人以外が69億人いる。彼らにとっては、円は単なる投資対象の一つで、買って儲かると思えば買うだけだ。この3年間の円高も、ファンダメンタルズから言えば円が買われる理由は全くない。為替はゼロサムゲームなので、ドルとユーロが売られた結果、その次に強い大きな通貨として円が買われただけ。

 また世界の実力企業は、グローバルなビジネスをしているから内部で為替を相殺させており、とうの昔に為替相場の影響から卒業している。だから為替を気にするなら、そういうことのできるグローバルな企業がいいとはいえる。

■人口減は、国内技術が注目されるチャンス

――貿易収支の赤字が続いているそうだが、これは日本製品に競争力がなくなったせいではないか。

 日本からの輸出が減り貿易収支が下がる可能性はある。だがその横でまた違う動きが起こってくる。一例を挙げれば、介護ロボットだ。

 日本は今後人口が減るから成長が期待できないといわれるが、今の1億2650万人が2050年に1億人を切るかどうかという話で、年率ではマイナス0.4%。そう大きな数字ではない。むしろ進行が速く影響大なのは高齢者割合の増加だ。現在の2800万人が今後10年強で3850万人になり、要介護人口も増えるだろう。この問題の解決は、移民受け入れに舵(かじ)を切るか、あるいは介護ロボットに代表されるハイテク介護技術の導入かということになる。

 この分野では日本の技術は非常に進んでおり、ロボットスーツを使えば女性でも60kgくらいの物が持てる。また高齢化は日本だけの問題ではなく、先進国でも同様だ。3億2000万人がいずれ4億人になるといわれ、先進国で唯一人口が増えている米国も、既に8000万人が高齢者。中国も一人っ子政策の影響で今後10年で急速に高齢化が進む。世界で介護需要が高まるほど、日本の介護ロボットが巨大な輸出産業になる可能性もある。

――基本は長期投資だということだが、何年を長期投資というのか。

 長期投資とは、この会社頑張ってるな、という会社を株価が下がったときに応援買いすること。5年でも10年でも20年でも持つぞ、という気持ちでいれば、暴落のときにでも買える。面白いのは、暴落時に買っておくと株価は案外早く上がるもの。上がったら気楽に何割かは売ればいい。一番問題なのは、儲けたい気持ちが先に立ち、暴落時に「どこまで下がるか分からない……」と買えずにいるうちに株価が上がってしまうことだ。投資の基本は安く買って高く売るだけだが、その「暴落で買う」ができないから、多くの投資家は持ち続けることもできない。一度、試しに暴落で買ってみるといい。

 ちなみに、さわかみファンドも、応援している銘柄が大きく下がったときに買い、上がってきたら3〜6割を売って利益を確定する。この繰り返しだ。あまり知られていないが、設定以来13年半の間に多くの銘柄は7回転ほどしている。結果的には2年に1回のペースで売買していることになる。長期投資は買いっぱなし、持ちっぱなしではない。

■銘柄選別、数字より会社のDNA

――リーマン・ショック前に買った株の損切りはどう考えればいいか。また銘柄を選別する場合、目先の業績ではなく経営者が優れている会社の方がいいのか。

 それは違う。一人の経営者が優れていてもその人が死んだらそれまでだし、そもそも社長の任期はだいたい2期4年、3期6年だ。数十年かけて革新的な製品の開発に成功する企業もあり、そうした所では「社長業は駅伝のバトンリレー」と言い切っている。7、8人目の社長でようやく結果が出るという意味だ。


損失にとらわれず、やり直すことが良い投資リズムを作り出すという
 そこまで覚悟している会社かどうかを見分けるには、経営者がメディアによく出ているとかではなく、その会社の“DNA”を調べる。過去20年間くらいの日経産業新聞の縮刷版を見て、これはと思う会社を書き出す。数字は追わなくていい。その会社が何をやろうとしてきたのかを20年の歴史の中で検証すれば、手がけたことを5年目、6年目にものにしている会社と、風呂敷は広げるが何もしていない会社とが、ハッキリ分かる。例えばバブル経済のときでも、本業重視で不動産投資には一切手を出さなかった会社が120社ほどあった。そういうことも分かる。

 塩漬け株については、株価が100のときに買ったのが40になったとすると、多くの投資家は「60も損した、なんとか上がってほしい」と、こればかりにとらわれる。そして株価が103になると「やれやれ、損をしないで済んだ」とヤレヤレ売りで売ってしまう。これは投資家としては最低の行為で、この間の10年とか20年、考えるのは後悔などマイナスのことばかり。

 逆に、投資というのは、「過去は100だったかも知れないけど今の株価水準は40」というところで、スッキリとやり直す。すると、株価が103になったら2.5倍で、まるで天才になったようないい気分になる。プライベートバンクの運用を長くやってきた立場からも、こういった良いリズム、良い投資心理を作るのが大事だといえる。

――日本の借金は1100兆円にも達するという。破綻する恐れはないのか。

 財政破綻はあるかも知れず、国債の暴落など問題は今後いろいろ出てくるだろうが、それと個人の長期投資とは分けて考えたい。日本には1億2650万人の人が住んでいて、何があっても毎日皆が食事をし、お酒を飲んで、風呂にも入る。つまり「国民生活そのもの」は、何があってもなくならない。それを支える企業活動も同様になくなることはなく、その分野に絞り込んで資金を置いておけば、国の財政が破綻しても結果的には一番安心できる。

 借金が多いから国外脱出を考えた方がいいという人もいるが、現実的には1億2650万もの人を運ぶ船もなければ、住む家もない。国の問題は国の問題としてあるが、我々の毎日の生活をベースにした長期投資とは全く別だ。

――個人投資家にとって、暴落時に買うのはまだ何とかできても、下がったときの売り時、損切りが難しい。アドバイスを。

 私には株価が下がったから損切りするという発想はない。長期で応援したいと思って買った株なら、「下がったから売る」では格好悪い。ただ、その会社が思っていたのと変わる、ということはある。せっかくこんないい技術を持っているのに経営がおかしくなってしまった、といったときには、損切りでなく「縁切り」で売っていい。

 下がったら売るという姿勢では、相場を追いかける投資家になってしまう。長期投資家はそこからちょっと離れて、下がったら買う。もちろん、その姿勢を貫こうとすればするほど、銘柄選別は厳しくなる。今は全面高で、何を買っても多くの投資家が幸せになれるが、いずれ選別が始まり、本物の企業だけが残る。そしてそれを応援し、一緒に成果を得ることこそが株式投資の醍醐味。長期投資家として本当の醍醐味を味わってほしい。

今回の講演は、最初の30分間だけ議論の前提となる日本株市場の需給について講演し、残りの1時間は全て質疑応答にあてる構成。本記事は、その講演主旨、質疑応答の内容を紹介。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK27018_X20C13A3000000/


06. 2013年4月11日 22:12:50 : xEBOc6ttRg

焦点:異次元緩和早くも副作用、金利乱高下でシステム不安定化懸念も
2013年 04月 11日 21:41 JST
[東京 11日 ロイター] 黒田新日銀が打ち出した異次元金融緩和の副作用が早くも露呈しつつある。

本来金融緩和は金利を引き下げるはずだが長期金利はかえって上昇、日銀は11日に東日本大震災直後以来の巨額の資金供給に追い込まれた。市場関係者の間では「2%の物価目標を優先し、金融システムの安定を損なっている」との指摘も聞かれる。

日銀が4日にマネタリーベースを2倍に膨らます「異次元緩和」を発表して以降、10年最長期国債利回りは0.315%までいったん下げた後0.630%まで急上昇。2年債利回りは0.130%と1年2カ月ぶり水準まで跳ね上がるなど金利は軒並み上昇している。債券先物が乱高下することで売買を一時停止するサーキットブレーカーをたびたび発動され、投資家が現物債を手掛けにくくなったことも金利上昇に拍車をかけている。

金利上昇の理由として、1)異次元緩和の公表翌日に市場の期待に反して長期国債の買い入れオペ(公開市場操作)が実施されなかったこと、2)日銀が買い入れる国債の平均年限を従来の3年弱から7年前後へと延長したことで、これまで日銀が基金で買い入れていた3年以下を中心に年限の短い国債買い入れが減少するとの思惑が高まったこと、3)当座預金に付く金利(付利)の引き下げが当面必要ないと黒田東彦総裁が述べたこと──などが挙げられる。4)流動性の低い年限10年超の超長期債の買い入れを日銀が従来の月1000億円から8000億円と大幅に増やしたことも、超長期債の運用益減少につながれば生命保険など機関投資家が超長期債購入を手控えかねないとの思惑を通じて金利上昇要因となっている。

<市場安定化のため震災以来の巨額資金供給>

黒田東彦総裁は10日の報道各社とのインタビューで金利乱高下について、「新たな均衡点を模索する過程」との見方を示していたが、日銀は11日には市場安定化のため1年物の固定金利オペや短期国債買い入れなど総額4.3兆円と1日の資金供給額としては震災直後の2011年3月23日以来の規模の資金供給を実施した。

また従来は日本証券業協会の基準気配値が操作されて適正な価格が維持できないとの理由から明らかにしなかった国債購入日の通告に踏み切り、従来は2度に分けて行う予定だった国債買い入れオペを合わせて12日に実施すると公表した。

<市場参加者との意見交換会、要望殺到>

同日夕刻には日銀本店で46人の金融機関・機関投資家を対象とした意見交換会を開催。日銀幹部らによると、参加者からは短期国債の買い入れペースや、オペ日程の事前公表の有無、オペ一回当たりの金額を減らし回数を増やす可能性など活発な質問があったという。

日銀側は、政策の公表文から削られた短期国債の買い入れ額について「従来より減らすことはない」、特定年限の国債の需給ひっ迫要因とされる「国債の年限割り振りについても変更の余地がないか検討する」旨答えたという。

<黒田日銀、株・為替に過度の焦点>

市場関係者の間では、急激な金利の乱高下により2013年度に向けた運用計画が狂うなど狼狽する関係者も多く、「日銀はどうみているのか説明を聞きたい」(市場筋)との声が急増している。今日の説明会でも日銀側と参加者の間で厳しいやりとりもあったもよう。長期金利のボラティリティが高い状態が継続すると、「長期国債運用者がいなくなり市場の流動性がなくなり、担当者がいなくなれば市場の復活も難しい」(外資系証券)との悲観的な見方もあり、説明会でもボラティリティ安定化を求める声が出ていたようだ。

三菱UFJモルガンスタンレー証券の六車治美シニア債券ストラテジストは、「金利安定のためには、1)オペ日程の事前公表、2)翌日物金利など期間の短い金利でなんらかの目途・ガイダンスを復活させるのがよい」と提案している。メガバンク関係者の中からは、「黒田新日銀は2%の物価目標達成のため株と為替に焦点を充てきたが、債券市場の不安定化で物価の安定に並ぶ中央銀行の使命である金融システムの安定を損なっている」との懸念も出始めている。

(ロイターニュース 竹本能文;編集 内田慎一)




アングル:金融政策にらむドル円、日銀緩和は米国の「緩衝材」か
2013年 04月 11日 20:04 JST
[東京 11日 ロイター] 為替市場は日米金融政策の方向性の違いをにらみ始めた。米国が量的緩和の出口戦略を模索し始めた一方、日本は異次元とも呼べる超緩和政策を続ける構えであり、この面からはドル高・円安要因が続くことになる。

米国が資産買い入れを縮小すれば、市場にショックが走る可能性が高いが、その「衝撃緩衝剤」として日銀が緩和を継続しなければならないとすれば、日本市場の「歪み」は大きくなるおそれもある。

<深まる米国の「出口」戦略>

米連邦準備制度理事会(FRB)が10日に公表した3月19―20日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録によると、「多数(Many)」の参加者が労働市場見通しの改善が続けば、今後数回の会合で量的緩和第3弾(QE3)を縮小する可能性があると考えていたことが明らかになった。

FOMCでの「出口」議論はこれまでにも行われてきたことが議事録で判明しているが、最低でも今年末までは継続すべきとしたメンバーが2人と少なかったことなどから、「より突っ込んだ議論が進んでいる」(大手証券)との受け止めが多い。また米国では、量的緩和の費用対効果の分析が行われ、費用が効果を上回るとの分析結果も出ており、今後も出口戦略が徐々に練られていくとみられている。

伊藤忠経済研究所、主任研究員の丸山義正氏は「3月のFOMCの議論は、夏場から減額、年内終了の可能性を示唆するものだ」と指摘する。ただ、3月の雇用者数の下振れや歳出削減の影響を見極める時間を考慮すると、減額開始は2013年10―12月期まで先送りされ、買入れプログラムは2014年前半に終了すると予想されるとの見方を示している。

FRBによる量的緩和策の縮小は米国経済が持続的な成長軌道に乗ったためと好意的に受け止められればいいが、「過去3回の量的緩和がアメリカ株式市場に大いに貢献したことは紛れもない事実であるから、これが終了となると、株式市場には少なからぬネガティブな影響が発生するだろう」とデリバティブ・アナリストの高山剛氏は警戒する。

<「日本アンカー論」に警戒も>

そこで「衝撃緩衝材」として期待されているのが、黒田日銀の大規模金融緩和だ。グローバルな過剰流動性の供給元としてだけではなく、米国債を間接的に支える役割も期待されている。「まだら模様の景気回復が続くアメリカにとって、長期金利の上昇は回復に致命的な影響を及ぼしかねない、日銀の金融緩和が今後も継続、拡大すれば、アメリカは安心して量的緩和の出口にたどりつける」(国内機関投資家)という。

日銀の外債購入は国際的な批判が強く事実上困難になったが、日銀の金融緩和による低金利が進み、資金運用先に苦しむ国内機関投資家が米国債を買ってくれれば、ヘッジなしという前提付きだが、ドル/円をサポートし、米量的緩和の出口で予想されるショックを緩和するかもしれない。

金融市場では、日銀の量的緩和を受けて本邦勢が外債投資を拡大するとの見通しを盛り込んだ外国証券のアナリスト・レポートが連日出回っている。この見通しの論拠は、日銀が2年でマネタリーベースを2倍にすることにコミットしたことから、そのマネタリーベースのかなりの部分が、日米(欧)金利差や円安トレンドを背景に、外債に流入するとの予想だ。

米債券運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)は、日銀の金融緩和などを受けて日本の投資家が利回りの高い海外の金融商品に投資すると予想し、米国債への投資比率を今年最高水準となる33%に引き上げた。

外為市場ではFOMC議事録を手掛かりに、日米金利差拡大を背景に本邦投資家が外債投資を活発化させるとの思惑が広がり、ドル/円は4年ぶりの高値となる100円に迫っている。「日米実質金利差で見た場合、日本のインフレ率2%を織り込んだ相場は105円程度と推計できる」とJPモルガン・チェース銀行、チーフFXストラテジストの棚瀬順哉氏は言う。

しかし、1980年代、世界経済を支えるために日本は低金利を続けるべきだとの「日本アンカー論」が強まり、結果的にバブルを引き起こす一因になったとみられている。すでに日本の国債市場に混乱を起こしている「異次元緩和」が米国側の理由だけで継続することになれば、将来、深刻な問題となる可能性は大きい。

(ロイターニュース 森 佳子 編集:伊賀大記)


日銀が資金供給4兆円・オペ事前通告も、金利安定へ「不退転」
2013年 04月 11日 14:34 JST
[東京 11日 ロイター] 日銀は11日、本店方式の共通担保資金供給オペで総額4.3兆円を市場に供給すると発表した。1日の資金供給額としては東日本大震災後の2011年3月23日以来の規模。貸し出す期間も一部を初めて1年に延ばした。

また、長期国債買い入れの日程を事前に通告する異例の措置に踏み切り、金利安定へ不退転の決意を示した。

<資金規模は震災以来>

日銀がこの日通告した資金供給オペは合わせて3本。午前10時10分の調節で、今月15日から来年の同日まで1.5兆円貸し出すと、初めて1年物を通告した。午後1時ちょうどの調節では、今月15日から来年4月7日までの1年物2兆円と、今月15日から5月20日までの1カ月物8000億円の計2.8兆円を通告。1日の供給額としては通告ベースで4.3兆円に達し、震災後の11年3月23日の計5兆円の規模に迫った。

背景には、黒田日銀が今回の異次元緩和で国庫短期証券については買い取り目標を設定せず、金融政策から外したことで金利が不安定化したことがある。公開市場操作(オペ)としての短国買い取りそのものは残るが、実際にいくら買い取られるのかはっきりしない居どころの悪さに、短国利回りが急上昇。直後の流通市場で国庫短期証券に売りが出て、一時0.040%を割り込んで推移していた2カ月物利回りは0.090%に跳ね上がっていた。

一方、短国利回りの上昇などで中短期の利付国債の需給も悪化。銀行勢の売りが5年物利回りを押し上げ、相場全体の不安定化につながっていた。市場では「短期ゾーンが政策コミットから外れ、銀行の現物売りから需給が崩れ、(財務省が16日に予定している)新発5年物の国債入札が不安視されていた。さらに相場が不安定化するのを配慮するのが狙いだろう」(大手銀行)との声が出ている。

大量の資金供給に踏み切ったことについて、日銀金融市場局では「やや長めの金利の急激な上昇に対応するため実施した」としている。

オペ関連では、通常は非公開となっている長期国債の買いオペの日程を開示する異例の措置にも踏み切った。

日銀が公表したのは4月に予定していた5回のオペのうち、2回目と3回目の日程。それぞれを同時に12日に通告する。2回目は残存5年超10年以下を1兆円、10年超を3000億円買い取り、3回目は1年以下を1100億円、1年超5年以下を1兆1000億円買う。1回目は8日に通告していた。 また、国庫短期証券の買いオペについても12日に通告するとしている。

日銀の発表を受けた午後の円債相場では、東京証券取引所に上場する長期国債先物が急反発した。5年物利回りは一転低下、新発債は前日より0.045%低い0.230%を付けた。

<午後のオペには札集まらず>

午前の資金供給オペには1.5兆円の募集に対し、2.6兆円余りの応募があった。しかし、午後のオペではいずれも「札割れ」した。1年物は2兆円の募集に対し、応募額は1.8兆円にとどまった。1カ月物は8000億円に対し7160億円だった。

「共通担保はあくまで『アナウンス効果』を狙ったもので国債需給そのものには関係ない。オペを頻発したことはかえって日銀の焦りを浮き彫りにした」(外銀)との声もある。

(ロイターニュース 山口貴也 編集:宮崎大)

イタリア3年国債入札で利回りが1月以来の低水準、緩和期待追い風
2013年 04月 11日 21:50 JST
[ミラノ 11日 ロイター] イタリアが11日に行った一連の国債入札では、3年債の利回りが1月以来の水準に低下した。ユーロ圏での追加緩和期待でリスク選好が高まった。

発行総額は72億ユーロ相当、予定額は最大75億ユーロだった。

DZ銀行の金利ストラテジスト、クリスチャン・レンク氏は「全体的には良い内容だった。3年債の発行規模は予定額の上限に達し、応札倍率もやや上昇した」と指摘。ただ15年債の需要はやや弱かったと述べた。

新発3年債40億ユーロ(52億3000万ドル)の利回りは2.29%となり、総選挙後に実施された3月中旬入札時の2.48%から低下した。

応札倍率は1.40倍で、前月の1.28倍から上昇した。

16億7000万ユーロの15年債入札は利回りが4.68%、前回3月中旬の4.90%から低下した。応札倍率は1.32倍だった。

このほか5年物変動利付債15億ユーロも発行した。

欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測が高まっていることに加え、日銀の大胆な金融緩和策で債券市場の地合いが改善しており、イタリアの政局混迷やユーロ圏の他の問題への懸念が打ち消されている。

レンク氏は「高利回り資産への買い意欲が引き続きおう盛で、域内周辺国の国債には勢いがある」としている。


 


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NYダウは史上最高値を更新しながら長期金利が下がる不思議な米国
2013/04/11 (木) 13:09


 NYダウが15000ドルに迫る勢いです。3日連続の記録更新なのだとか。

 一方、日本だって負けてはいません。この調子では、まだまだ上がりそうな気配がするのです。

 日本の株価が好調な理由は、説明の必要はないでしょう。

 ただ、今、米国で不思議な現象が起きているのですが、お気づきでしょうか?

 それは、こうして米国では景気回復期待が高まり、そして株価が史上最高値を更新しているというのに、長期金利はむしろ低下しているのです。

 
 貴方は、その理由が説明できますか?

 通常、景気がよくなれば、金利は自然と上がるもの。

 そうした法則に従って、米国においては、3月の中旬には10年物国債の利回りが2%台にまで上昇していたのです。しかし、その後、また下がっているのです。

 ところで、今、飛ぶ鳥を落とす勢いの黒田日銀総裁。

 黒田総裁率いる日銀の政策を危険な賭けだと評する向きがあるものの、これだけ株価が回復し、これだけ企業や消費者のマインドが改善しているので、大きな声で彼を批判することはできないのです。

 それに‥アメリカが支援してくれていますから。

 そもそもアベノミクスによる大胆な金融緩和は、政府による外為市場への介入が含まれておらず、従って、幾ら円安効果がもたらされても、問題にする必要はない、と。それどころか、バーナンキFRB議長などは、こうして米国や日本が思い切った金融緩和をすることが世界経済の回復につながるとまで弁護する始末。

 日本としては、そうやって米国がサポートしてくれることについては、悪い気はしないのですが‥でもなんかやっぱり変なのです。

 確かに、日本が今やっていることは、金融緩和であって、外為市場への直接の介入ではない。だから、外国からとやかく言われる筋合いはない。それはそのとおり。

 しかし、これまで日本が行っていた外為市場への介入については、殆どみるべき効果がない場合が多かったのにも拘わらず‥米国などからは折に触れて、そのようなことは慎むべきだと言われ続けてきたのでした。

 そうですよね?

 繰り返しになりますが、確かに今やっている金融緩和は、外為市場への介入ではない。

 それはそうであるものの、円は過去5カ月間程度で約20円も安くなっているのです。どう考えてもおかしい!

 だって、理由は何であれ、こんなに急激に為替レートが変動しているのに、米国が文句を言わないなんて。

 欧州勢は、日本に対してクレームを付けていたのでしたよね。急激な円安・ユーロ高をもたらして怪しからん、と。しかし、その欧州も米国に説得されて、批判の矛先を収めた格好になっているのです。

 では、何故米国は文句を言わないのか?

 一つには、株価が史上最高値を付けているように、米国の景気がよくなっているからであるのです。これが米国の景気がどん底に落ちているような状況であれば、きっと米国は悪人探しをして、日本を悪者に仕立て上げていたでしょう。しかし、今、米国の景気はよくなりつつあるから、と。

 それに、そもそも米国の関心は中国の人民元に移っていて、円レートにはもはやそれほど関心がなくなっているということもあるのです。

 但し、この先も、ずっと日本の円安政策が大目に見てもらえるかと言えば、その時の状況次第では、再び批判が高まる懸念もあるのです。

 もちろん、その時に日本は、外為市場に介入などしていないし、今やっている大胆な金融緩和策は円安を目的としたものではないと弁解するでしょう。

 しかし‥昨日、黒田総裁は、次のように言ったのでした。

 (新しい金融緩和策の決定から1週間を振り返って)「狙い通りの効果をもった」と。

 狙い通りの効果とは一体なんだったのでしょう?

 本当の目標は2年間で、インフレ率を2%まで高めることなのでしょう?

 その目標の達成が期待できるほど、物価が上がる兆候が見られているというのであれば、狙い通りの効果があったと言うのも分かるのです。

 しかし、インフレの兆候はまだない。少なくても大胆な金融政策の結果としてのインフレの兆候はない。あるとすれば、円安によるインフレの兆候だけ。

 黒田総裁が、狙い通りの効果を持ったと満足しているのは、この1週間でさらに円安が進み、株価が上がったからではないのでしょうか?

 そうやって国民や企業経営者や政治家が喜ぶから、自分も嬉しい、と。

 でしょ?

 つまり、黒田総裁は、うっかり本音が出てしまったのです。もちろんインフレ率を2%にまで引き上げることが目標ではあるが、それと同じ程度に、或いはそれ以上に、円安を通じて株価や景気の回復を図ることが大事である、と。

 但し、黒田総裁が率いる日銀がやっていることが、伝統的な金融政策の範疇にあるのであれば、幾らそのように急激な円安を招いたとしても、何も恐れることはありません。

 しかし、黒田総裁がやっていることは次元の異なる金融政策であるのです。もっと言えば、金融政策なんて言える代物ではない。彼らがやっているのは、国債流通市場に日銀が跳びこんで行って、市場の機能をマヒさせているだけなのです。。

 最近、池の中のクジラという表現が使われるようになっていますが、池とは日本の国債流通市場であり、クジラとは日銀のことなのです。

 日銀は、無理やりオペで銀行が保有する国債を吐き出させて、次から次へと国債を買い取っていく。だから、国債の価格が上り、金利は下がる。

 そうやって市場の実勢を無視した価格形成がなされるから、国債の流通市場が次第にマヒし始めているのです。

 当然のことながら、市場から投資家は追い出されることになり、今度は日本国債に代わって、海外の国債を求めるようになる。だから、米国の国債の価格が上り、米国の長期金利は、景気が回復し、NYダウが史上最高値を更新しているにも拘わらず、再び低下してきているのです。

 景気がよくなりつつあるのに‥そして、株価が史上最高値を更新するのに、長期金利が下がるなんて理屈に合わないでしょう?

 あり得るとすれば‥例えば過去起こったように、欧州で金融危機が起こり、欧州からマネーが米国に逃避してきたというのなら分かるのです。

 でも、今起きているのはそのようなものではない。

 日本銀行がクジラになってドボンと池に飛び込み、その結果、今まで泳いていた魚が海外の池に逃げ込んでいるのです。

 いずれにしても、こんなおかしな状況が起きているのに、日銀が外債を購入すべきだなどと未だに主張する人々がいるのです。現実に起きていることが分かっていないとしか言いようがありません。

 だって、日銀が外債を買うまでもなく、日銀に追い立てられた魚たちが外債を購入しているから、こうして米国債の利回りが下がり、また円安が起きている訳ですから。

以上


三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない

第199回 歴史的な一日(1/3)
2013/04/09 (火) 14:05

2013年4月4日は、もしかしたら「歴史的」な一日になるかも知れない。黒田新総裁率いる日本銀行が金融政策決定会合で、日本としては高橋是清以来初めて「デフレ期の正しい金融政策」を決定し、日経平均株価が一気に500円以上も上昇したのである。さらに、翌日も株価は上がり続け、本稿執筆時点(4月8日)では、日経平均が1万3千円を上回っている。
 長期金利(新規十年物国債金利)の方も、もの凄いことになっている。4月5日に、何と0.32%をつけ、日本が持つ「人類史上最低の金利」記録を更新したのだ。
 黒田日銀は、4月4日に公表した報告書により、マネタリーベースを今後の2年間で約2倍に拡大することを表明した。3月末時点のマネタリーベースは約134.7兆円である。すなわち、今後の二年間は毎年70兆円前後の「新たな日本円」が金融市場に供給されることになるわけだ。(2年後に約270兆円にする模様だ)
 さらに、日銀の国債買取(=通貨発行)に際し、通常の買い入れ枠と金融緩和向けの資産買い入れ基金の2方式を一本化することになった。結果、以前から問題視されていた「日銀券ルール」が事実上、撤廃となったのである。
ちなみに、基金方式の国債買取を日銀が導入したのは、2010年である。白川前日銀総裁時代なのだ。恐らく、民主党の金融緩和要望を受けたものの、それでも日銀券ルールを守りたかった日銀は、金融緩和向けの国債買取を「別枠」とすることで、ルールの対象外にしたのではないだろうか。
 通常の買い入れ枠と基金の双方を合わせると、日銀は昨年末で89兆円の長期国債を抱えている。日銀が発行している日本銀行券(要は現金)は87兆円であるため、すでにして日銀券ルールなど守られていなかったのだ。
 そもそも経済政策的に、あるいは会計的に何の意味もない日銀券ルールという「呪縛」が外されたことは、相当に影響が大きい。もっとも、厳密には日銀は日本銀行券ルールの「一時適用停止」方針を決めただけであるわけだが、有名無実化するなら構わないだろう。
 大々的な金融緩和を始める時期について、以前の政府との共同文書では「2014年から」となっていたが、今回の政策決定会合で「4月5日から」となった。来年ではなく、金融政策決定会合の翌日から始まったのだ。
 筆者などが問題視していた「日銀当座預金の0.1%の金利」については、金融システムの「凍結」を防ぐために、しばらくは現状維持となった。民間側の資金需要がない状況で、日銀当座預金の金利をゼロにしてしまうと、銀行の資金が国債に集中してしまう懸念が生じる。結果的に、
「日銀が国債を買おうとしたとき、銀行側が応札せず、札割れが生じる」
事態を招きかねないわけだ。政府の財政出動により民間の資金需要が回復すれば、いずれは撤廃できるだろう。
 黒田総裁は、金融政策決定会合後の会見で、
「2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」
「一時的に2%になっても、まだ安定的に物価安定目標が持続する状況でなければ、緩和を続ける」
「逆に、2%になってなくても、既に2%の物価安定目標が持続的に維持できるという状況になっていれば、それ以上の緩和は必要ないかもしれない」
 と、実に真っ当なことを語っている。
 当たり前だが、2%の物価安定目標を「一時的に」達成するだけで、金融引き締めに転じてしまうと、またもや日本はデフレに逆戻りだ。「安定的に持続する時点」の見極めは難しいが、少なくとも、
「2%達成! はい、金融引締め」
になることはないわけだ。今までの日銀は毎回、少しでもインフレ率が上昇すると、即座に金融引き締めに走り、日本経済をデフレに叩き落とすパターンを繰り返してきた。
 また、早めに2%の物価安定を持続的に達成できる状況になったならば、金融緩和を早期に停止するのも、これまた当然のことである。
 また、こちらも筆者が以前から問題視していた「物価安定目標」あるいは「インフレ率」の定義であるが、黒田総裁は、先日の国会答弁で、民主党の原口議員との答弁で以下の通り語っている。

原口議員 2年で2%という、じゃあこの2%って一体何なのか。CPIなのか。私はですね、CPI、昨日も良い物価上昇、悪い物価上昇という議論をしましたけれども、CPIだけだと、分からないんです。私はですね、指標はコアコア指数にするべきだと(略)。
黒田総裁 ご指摘の通り、コアコア指数で見た方が、短期的な影響を排除できるという点は、その通りだと思います。(【04.02 衆議院予算委員会 原口一博】より)

 黒田新総裁はもちろんのこと、政治家の中でも「日本式コアCPI」の問題が認識され始めた。この事実は極めて大きい。
 何しろ、現在の日銀の「物価安定目標」は、日本式コアCPIで測られる。日本式コアCPIは、消費者物価指数から生鮮食料品のみを除き、エネルギー価格を含んでいる。すなわち、中東で動乱が発生し、我が国の原油輸入コストが急騰すると、それだけでインフレ率が2%に達する可能性があるわけだ。
 外国の戦乱の影響でガソリン価格などのエネルギーコストが急騰し、インフレ率がコアCPIベースで2%に達したからといって、「物価安定目標」が達成されたという話にはならない。我が国の物価安定目標は、FRBなどと同様にエネルギー価格も省いたコアコアCPI(グローバルにはコアCPI)で見るのが正しい。

第199回 歴史的な一日(2/3)
2013/04/10 (水) 14:03

 ところで、アメリカのウォールストリート・ジャーナル紙は、社説で4月4日の黒田緩和(大規模金融緩和)について、高く評価している。

『2013年4月5日 産経新聞「「日本のバーナンキ議長」 米紙、黒田総裁を高く評価」
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130405/fnc13040523450032-n1.htm
 5日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは社説で、黒田東彦総裁の主導で日銀が新たな金融緩和策を打ち出したことについて「米連邦準備制度理事会(FRB)が金融危機後に採用した金融政策への転換だ」とし、黒田総裁は「日本のバーナンキFRB議長」だと指摘した。
 社説は、黒田総裁が「劇的なスタートを切った」と評価。問題は、こうした政策転換を通じて民間経済にお金が回り、経済成長を後押しできるかどうかだと論じた。
 日銀の積極的な緩和策が円相場の下落を引き起こし、アジアの新興国に悪影響を及ぼすとの懸念をめぐっては、ドルに対する円相場の上限設定を提言。「デフレが一段と進むリスクがなくなり、近隣諸国の経済を不安定化することもない」とした。』


 WSJ紙の社説にある、
「問題は、こうした政策転換を通じて民間経済にお金が回り、経済成長を後押しできるかどうかだと論じた。」
 という部分であるが、まさにその通りだ。問題は、中央銀行から発行されたマネタリーベースがきちんと民間企業(等)に借り入れられ、所得を産み出すように使われるか否かなのである。この部分については、中央銀行側はどうすることもできない。
 所得を産み出すように使うとは、要するに「GDPに統計されるように使え」という話だ。無論、個人消費でも構わないし、設備投資や住宅投資もOKだ。それぞれGDP上の「民間最終消費支出」「民間企業設備」「民間住宅」とよばれる支出項目になる。
 逆に、土地の売買、為替の売買、先物取引の購入などにおカネが使われても、誰の所得も増えない。(不動産業者や金融業者の手数料のみ)。誰の所得も増えないということは、モノやサービスの購入に使われていないという話だ。何しろ、所得の定義は、
「誰かが働き、モノやサービスが生産され、消費もしくは投資として誰かが支払ったおカネ」
 なのである。モノ・サービス、消費・投資、そして「労働」は、際立った関連性があるわけだ。
 というわけで、GDP統計は、
「誰かが働き、生産したモノやサービス=生産面のGDP」
「誰かが消費や投資として支払ったおカネ=支出面のGDP」
「誰かが働き、獲得した所得=分配面のGDP」
 という三つの「面」から見ることが可能で、そして三つのGDPは必ず一致する。これを、GDP三面等価の原則と呼ぶ。
国民経済とは、
「誰かが働き、モノやサービスを生産し、生産されたモノやサービスを誰かが消費、投資として購入し、所得が生まれる」
 という所得生成のプロセスから成り立っているのである。この所得生成のプロセスのことを、通称「実体経済」と呼ぶわけだ。
 日本銀行の政策は、あくまで「実体経済を活性化させるための媒体(おカネ)を供給する」部分に絞られている。日銀のマネタリーベースが、所得を産み出す実体経済に回っていくかどうかは、これは誰にも分からない。


第199回 歴史的な一日(3/3)
2013/04/11 (木) 14:01

何しろ、日本銀行が銀行にマネタリーベースを供給し、それが民間企業に借り入れられ、マネーストック(M2など)が増えてさえ、物価が下がり続けるということは論理的にあり得るのだ。というよりも、昨今の日本が、まさにマネーストックが増えている環境でありながら、中期的にコアコアCPIが下落を続けていっている。

【図199−1 日本のマネーストック(左軸、億円)とコアコアCPI(右軸)】

出典:日本銀行、統計局

 というわけで、日本政府は自転車の「最初のひと漕ぎ目」として、民間の代わりにおカネを借り入れ、公共投資や減税(設備投資減税など)として使い、車輪を回す必要があるのだ。さらに、現在の日本は東北復興や国土強靭化など、政府がおカネの「行先」を決めなければならない分野が複数ある。
 金融緩和論者の中には、
「中央銀行が量的緩和を拡大し、マネタリーベースを拡大していけば、それだけでデフレ脱却できる。日銀が発行したおカネの行先は、市場に決めさせるべきだ」
 と、政府の財政出動を否定しようとする人が少なくない。だが、
「市場におカネの行先を任せ、本当に東北の復興が実現できるのか?」
 という話である。市場におカネの行先を委ねるだけで、東北の復興が成し遂げられるはずがない。現在の日本政府は、日銀が発行したおカネを「東北の復興」へと主体的に導かなければならないのだ。
 筆者の主張に対し、
「市場に任せた結果、復興できないような地域は、復興できなくても仕方がない。自己責任だ」
「復興を早めたいなら、公共投資よりも【東北特区】だ。東北に特区を作り、各種のの規制を緩和し、外資企業の法人税をゼロにし、外国からの投資を呼び込めば復活できる」
 などと、国家観皆無の「異様」な言説をする人たちが、「識者」あるいは官僚の中に存在している。
 彼らは、金融緩和には賛成するものの、供給された資金の「行先」を政府が決める(要は財政出動)には、とことん反対してくる。というわけで、「歴史的な一日」のお祭りは終わり、今後はアベノミクス第二の矢である財政出動に反対する人々と議論を重ね、世論を「公共投資拡大」を中心とする財政政策に向かわせなければならないと考えている。
 金融政策といっても「雲の向こうの話」ではない。国民が金融政策を自分たちの問題として捉えることが、今後の日本では必要になるのだろう。
 いずれにしても、次は財政政策だ。

klug


07. 2013年4月12日 00:50:39 : xEBOc6ttRg
金融緩和を成功させる条件

米国と欧州の低金利政策の違いから学ぶ

2013年4月12日(金)  The Economist


 世界中で金融緩和政策が進んでいる。各国中央銀行は2008〜09年に、短期金利をほとんどゼロに引き下げ、長期金利を押し下げるために国債の購入を開始した。この低金利政策は、これほど長く続くはずではなかった。当時は、こうした異常な手段は、経済が回復すればすぐに撤回されるだろうと、誰もが思っていた。


 ところが、その異常が、今では当たり前のものになってしまった。米連邦準備理事会(FRB)は依然として紙幣を刷って債券を買い続けている。現在8%近い失業率が少なくとも6.5%に下がるまで短期金利を上げないと明言している。

 日本銀行の黒田東彦新総裁は4月4日、「次元の違う金融緩和」を打ち出した。2%のインフレ目標を達成するために、国債購入を拡大して日本のマネタリーベースを2倍にするという。黒田総裁は、景気刺激を重視する安倍晋三首相により、日銀総裁に任命されたばかりだ。

 英国では、中央銀行であるイングランド銀行の権限が、低金利を維持できるよう修正された。欧州中央銀行(ECB)でさえ、徐々に大胆さを見せるかもしれない。

 先進諸国の中央銀行が発しているメッセージは明確だ――「超金融緩和の時代は、これからも続く」。

 緩和政策は金融市場に大きな影響を及ぼしてきた。日本の日経平均株価は、安倍氏が昨年11月に大胆な景気刺激策を掲げて以降、40%値上がりした。米国のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500種指数とダウ工業株30種平均は、記録的な高値となっている。

 投資家は高いリターンを求めるようになり、世界経済は再び小さなバブルに戻りつつある。ハイリターンであれば、ジャンク債であれ、アフリカの国債であれ、新たな「仕組み債」であれ構わない。バブルの時代に住宅ローンを元に証券化商品を生み出したまさに同じ投資銀行が、今、新たな仕組み債を作り出している。

 金融緩和政策が生産に及ぼす影響は、残念ながらそれほど大きくはない。米国の国内総生産(GDP)は急増する兆候を見せているが、欧州経済は横ばいか縮小傾向にある。先進諸国の2013年の成長は、全体として1%をわずかに超える程度で、2012年とほとんど変わらない。

 膨張する金融市場と弱々しい実体経済の成長との落差を見ると、中央銀行の施策は果たして正しいのかという疑問が生じる。中央銀行を支持する人々は、経済の回復に低金利は不可欠だと主張する。政府が(欧州や米国のように)緊縮志向で財政を引き締めようとしているときには、なおさらだという。これに対して批判派は、低金利は資産バブルを膨らませ、金融市場を歪め、インフレリスクを高めるだけだと反論する。

家計と企業の支出を引き出せるか

 本誌、英エコノミストは金融緩和を支持している。ただし、低金利が機能するのは、適切な処方がなされ、政府がほかの改革を同時に行っている場合に限られると考えている。

 批判派が指摘するように、低金利が最も大きく作用するのが金融市場であることは明らかだ。しかし経済のほかの部分に及ぶ影響は、批判派が言うほど取るに足らないものではない。特に米国では、借入コストが下がれば家計支出が増える。住宅価格は上昇しており、新たに住宅ローンが組まれるペースは1年前に比べて40%上昇した。消費者信用も拡大している。新規の自動車ローン契約ペースは6年ぶりの高水準にある。

 低金利の影響が最も及びにくいのは、企業の投資であることが分かっている。企業は低金利を利用して新規社債を発行してきたが、調達したキャッシュは借り換えに回したり、緊急時の資金として積み上げたりしている。それが必要な企業では理に適っているかもしれないが、新たな製造施設を整えることに比べれば、成長への寄与は小さい。現在でも企業が抱える手持ちキャッシュは過去最高水準にある(その総額は、米国の上場企業だけで1.8兆ドル=約170兆円に上る)。

 株高と借入コスト安が続けば、企業経営者もいずれはアニマルスピリッツを目覚めさせるはずだ。実際、米国の資本支出は急激に拡大している。

 だが欧州では見通しは暗い。その理由は、ユーロと成長への懸念だけではない。地域によって金利が異なることも問題だ。米ゴールドマン・サックスによると、欧州南部の事業向け貸付金利は北部に比べて4ポイント近く高いという。

低金利を成長につなげる3つのポイント

 米国と欧州を見比べると、低金利政策を実体経済の成長に結びつけるための留意点がはっきりわかる。低金利は有用だが、それは適切に適用され、ほかの経済対策が取られている場合にのみ機能する。欧州は、以下の3つの点で米国から学ぶことができる。

 第1に、大胆さが好結果をもたらすということだ。低金利政策に対して最も積極的な中央銀行(FRB)が、家計と企業の支出に最も大きな影響を及ぼしていることは偶然ではない。中央銀行(ECB)が最も消極的な姿勢を示す欧州の成長が最も低いのも同様の理由だ。

 第2に、一口に非伝統的な金融政策と言っても、それぞれに違いがある。イングランド銀行は国債の買い入れを主眼としている。これは、住宅ローン担保証券を購入しているFRBに比べて、家計の支えにならない。中央銀行は、問題があるところに資金を投入するべきである。ユーロ圏で言えば、危機に見舞われている周縁国の企業の借入コストを小さくせよ、ということだ。

 第3に、そしてこれが最も重要な点だが、金融政策は真空の中で実施されるのではないということだ。金融を緩和するのと同時に財政を引き締めると(欧州がそうしてきたし、米国もこれからそうしようとしている)、低金利政策の効果は薄れる。米国は欧州よりも迅速に金融機関の再編を行い、経済に欧州ほど厳しい規制をかけずにいる。米国は低金利の資金を、欧州より間違いなく有用に利用できた。例えばインフラへの公共投資を増やすことなどだ。英国もそうするべきである。

 この実験が結果を残す可能性を高めたのは、FRBの創造性だった。欧州では、ECBは弱気で、緊縮財政は苛酷で、構造改革は最低限しか行われていない。このような欧州が成長を実現する可能性は、決して高くない。
 

米新規失業保険申請件数は34.6万件に減少、雇用悪化懸念和らぐ
2013年 04月 12日 00:11 JST
[ワシントン 11日 ロイター] 米労働省が11日発表した4月6日までの週の新規失業保険週間申請件数は、季節調整済みで4万2000件減の34万6000件となった。36万5000件への減少を見込んでいた市場予想を上回る減少となった。

弱い3月の雇用統計を受けて、雇用市場の悪化が懸念されていたが、不安が後退した。

減少幅は昨年11月半ば以来の大きさで、申請件数も年初来のレンジの下限に戻った。

アメリプライズ・フィナンシャル・サービシズの首席エコノミスト、ラッセル・プライス氏は「新規失業保険申請件数データは著しく回復しており、雇用市場、とりわけレイオフに関する改善傾向が顕著」と指摘した。

前週分は当初発表から3000件上方修正され、38万8000件となった。今年は復活祭や学校の春季休暇の時期が例年とずれているため、前週の大幅増はこうした季節要因の調整に関連しているとみられている。また季節調整要因による影響は今後数週間続く可能性がある。

雇用市場のトレンドをより正確に反映するとされる4週間移動平均は3000件増加し35万8000件。月当たりの雇用者数の伸びにして15万人増と一致するとされる水準近辺で引き続き推移している。

3月30日までの週の受給総数は1万2000件減の308万件となった。

新規失業保険週間申請件数は、3月1日に発動した歳出の強制削減による影響を測る指標として注目されているが、エコノミストは強制削減が雇用市場に悪影響を与えている兆候は見られないと指摘している。

 
 

 


 

2013年4月12日 

心配なのはむしろデフレを脱却できた後 

ゼロ金利を抜け出す財政コストが看過されている

翁邦雄・京都大学公共政策大学院教授×藤田勉・シティグループ証券副会長対談[後編]

これまで日銀は金融政策で何度となく判断ミスを犯してきたと指摘されるが、それは真実なのか?そして、足元で黒田総裁率いる新体制の日銀が掲げる大胆な金融緩和は正しい判断なのか?『金融緩和はなぜ過大評価されるのか』著者のシティグループ証券取締役副会長・藤田勉さんと、京都大学公共政策大学院教授で『金融政策のフロンティア:国際的潮流と非伝統的政策』著者の翁邦雄さんが熱く論じ合う対談後編です。 

日銀が犯した致命的判断ミスは、ゼロ金利の一時解除だった!

藤田 実は私、当時の経済白書にすべて目を通してみたんですよ。すると、1990〜91年においてはまだ危機感がほとんど感じられない内容でした。「株価が下がっているのは、上がりすぎたものが調整しているにすぎない」といったニュアンスの見解です。ようやく92年になってから、「実はとんでもないことになっているらしい」と当時の内閣府が認識し始めたのが実情のようです。

 翁先生がおっしゃるとおり、後になってから振り返れば「あのときはこうすべきだった」と批判されるものの、当時としては日銀だけが不可解な対応をとったわけではなさそうですね。


翁邦雄(おきな・くにお)
京都大学公共政策大学院教授。1974年東京大学経済学部卒業。同年、日本銀行入行。シカゴ大学Ph.D.(Economics)取得。日本銀行金融研究所長を経て、2009年4月より現職。専門は金融論、金融政策論、中央銀行論、マクロ経済学、国際金融論。『期待と投機の経済分析ーー「バブル」現象と為替レート』(東洋経済新報社、1985年)、『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社、2011年)など著書多数。近著に『金融政策のフロンティアー国際的潮流と非伝統的政策』(日本評論社、2013年)。

翁 不可解ではなく、通常の景気循環を前提に考えるならば、非常にニュートラルな対応だったと思います。いかに危険な状況に陥りつつあるかについては、政策当局者は、おそらく誰もまだ十分認識していなかった。先々で発生しうる金融システム問題の逆風を理解していればもっと早い段階から動いたはずですが、その時点では、誰もその後の展開を予想できていなかったと思います。

藤田 確かに、消費税導入(88年)後のインフレ率は0.9%にとどまり、原油価格も大きく下落していました。ただ、それでもリフレ論者の間では、「日銀は政策を誤ったにもかかわらず、それを認めようともしない」といった類の批判が根強いですよね。

翁 後知恵でなく、リアルタイムにおいても間違った判断をした、と言えそうなのは、2000年8月の金融政策決定会合で決まったゼロ金利解除ですね。あれは日銀のその後に関して、いろいろな意味で尾を引く結果となってしまいました。なんといっても、日銀はインフレばかりを気にしてデフレはどうでもいいと思っているという印象を植え付けてしまったと思います。

 ゼロ金利解除と比べれば、1990〜92年の対応はリアルタイムの認識では最善を尽くしていた、という意味で罪がかなり軽いでしょう。72〜73年の対応はリアルタイムで問題を認識する手がかりはより多かったものの、郵政省などとの調整にほとほと手を焼いていた当時の公定歩合変更プロセスに照らすと、ゼロ金利解除よりもまだ情状酌量の余地があると言えます。


藤田勉(ふじた・つとむ)
シティグループ証券株式会社取締役副会長。一橋大学大学院博士過程修了、経営法博士。北京大学日本研究センター特約研究員、慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員などを兼務。2006〜2010年日経アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。『はじめてのグローバル金融市場論』(毎日新聞社、2009年)、『グローバル通貨投資のすべて』(東洋経済新報社、2012年)など著書多数。近著に『金融緩和はなぜ過大評価されるのか』(小社刊、2013年)。
藤田 中央銀行としての独立性を強化した日銀法改正(98年10月施行)後に初めて政府の反対を押し切って解除したものの、誰がどう見ても明らかな失敗だったわけですよね。私はリフレ論者ではありませんが、そのときの反省が日銀という組織内、さらに日本全体においてできていないのではないかという懸念は抱いています。謙虚に過ちを認めたうえで、後世の教訓として生かすことが重要だと思うんです。FRBのグリーンスパン前議長も、「リーマンショック(2008年)は100年に1度の信用の津波」と捉える一方で、「自らが実施した金融緩和が過度だった側面もある」旨の発言をしています。人間は誰しも間違えるものですし、きちんと非を認めることもマーケットとのコミュニケーションにつながるのではないでしょうか?

翁 そのとおりだと思います。ただ、そもそもの失敗の原因は、当時の日銀総裁の人選基準にあったと思います。

藤田 な、なるほど……。

翁 速水さんは金融政策については“信念の人”でした。信念と理屈では議論になりません。「理屈はともかく、中央銀行員として、僕は君たちにこういう信念を持ってほしいんだ!」と机を叩いて怒鳴られて話が終わってしまうからです。

藤田 そうだったんですか。

翁 速水さんが総裁に選ばれたのは、その前に旧大蔵省と日銀の接待汚職が発覚したことが大きく影響していました。それを踏まえて速水さんが敬虔なクリスチャンで高潔な人物であることを重視し、かなり高齢で日銀を去ってから20年近いブランクがあったにもかかわらず担ぎ出されたのです。

 むろん中央銀行の総裁は身辺は綺麗である必要はありますが、人格的な高潔さより、理論が理解でき、柔軟にいろいろな駆け引きができる人の方がいい。つねに客観的に情勢を見渡しながら、自分の考えを相対化してオープンマインドで対峙できるような人が望ましいわけです。

藤田 政府と対立しながらゼロ金利解除という判断ミスを犯したこともあってか、特に足元ではリフレ論者を中心に、日銀の独立性に拒否反応を示す声が強まっていますね。ただ、白川前総裁は安倍政権の強い要請を受けて2%というインフレ目標を受け入れましたが、政権が交代した途端にスタンスを変えるという整合性のなさはいかがなものでしょうか?

翁 白川さんは事務方として、速水総裁時代の政府との対立の末のゼロ金利解除も目の当たりにしています。それだけに、「デフレとの戦いの局面で政府と日銀があからさまに対立をすべきではない」と強く思ったことでしょう。彼は国際的にも人脈が広く、当時、海外で日銀と日本政府の衝突が厳しく批判されていることをよく知っていたはずですから。その教訓を踏まえて、白川さんは弱腰と批判されても、独立性を誇示するより政府との協調路線を明示することを選んだ。それによって新体制に円滑にバトンタッチしたと思います。


写真・住友一俊
 本来、デフレ局面においては中央銀行と政府がめざすべき方向は同じで、激突する必然性はありませんから。それに、インフレ目標2%と明記したうえでなるべく早く達成することを強調しているものの、1月の決定会合での日銀と政府の共同文書の内容は、それまでの日銀の考え方を変えたものにはなっておらず、スタンスは意外なほど一貫しています。

だらだらと金融緩和を続けると、想定できない結末が!?

藤田 OBとして、黒田新総裁が率いる現在の日銀に対しては何か提言がございますか?先に私の考えから述べさせていただきますと、まずゼロ金利下でマネタリーベース(市中に出回る現金と日銀当座預金残高の合計値)は増やせるものの、マネーストック(金融と中央政府以外が保有している通貨量の残高)はコントロールできないという点に関して、私は翁先生とまったく同じ考えです。しかし、そのうえで日銀には、期間を区切った上で、リフレ政策をとことん実践して、効果が限定的であることを証明してほしいと思っています。きちんと決着をつけなければ、リフレが本当に有効か否かという議論が平行線を辿るばかりだからです。

翁 なるほど。

藤田 1998年に発足した小渕内閣は公共投資で景気浮揚を図り、一時的なカンフル剤とはなったものの、結果的に膨大な借金ばかりが残りました。その教訓があったからこそ、小泉内閣時代に公共投資は抑制されました。日銀当座預金残高が80兆円まで積み上がるとインフレ率が2%に上昇すると岩田副総裁はおっしゃっているので、速やかにそれを実行して有効性を検証して頂きたいのです。2015年4月までにそれを達成できなければ辞める、と国会で断言されているわけですが、仮に成功しなかったとしても、自らの主張に対して責任を明確にする姿勢は大いに評価できます。

翁 2013年末には日銀当座預金残高が85兆円まで達する見通しですが、新執行部の方針だと、さらにどんどん積み上がりますね。

 ただ、リフレ政策をとことん実践すべき、というご意見に対する僕の考えは留保したいところです。確かに「デフレから脱却する」というコミットメントで新執行部が発足しているので、その旗印には問題がないと思いますが、黒田総裁が「質も量も緩和する」とおっしゃっている中味が気になる。長期国債をどんどん買っていくという意味合いだとすると、デフレから脱却した後はどうやってゼロ金利から抜け出すつもりなのか?と思うわけです。

藤田 その点については、特に明確には触れていませんね。

翁 通常なら、金融政策のスタンスをニュートラルに戻したうえでゼロ金利を脱却していくわけですが、今回はその過程で非常に大きな財政的コストが発生します。長期国債を買って異常に膨張したバランスシートを収縮させるためには買った長期国債を売らなければならないが、それはあまり現実的でない。それができるなら、そもそも「銀行券ルール」など要りません。

 そうなると日銀当座預金に金利をつけて金利を底上げするしか術はないのですが、そうすると日銀から金融機関への膨大な利払いが発生してしまいます。トコトンやる!といっても、そういった納税者へのコストはきちんと考えないといけない筈ですが、どうやって物価安定のための金利政策と財政コストの抑制を両立させるのかについて明示していません。

藤田 確かに、おっしゃるとおりで具体性が乏しいですね。

翁 大胆な金融緩和をすると財政規律喪失懸念で長期金利が上昇するという意見をよく耳にしますが、この点については、僕は、とりあえず懐疑的です。日銀が大胆な緩和を推し進め長期国債を大量に買う姿勢にある中で、長期金利が急騰するとは考えにくい。それよりも、いつかデフレ脱却がみえてきて日銀が長期国債を買う必要がなくなり、むしろバランスシートの収縮が必要になってきた時点で、長期金利がどのような反応を示すのかが気掛かりです。思い切ったリフレ策を打ちバランスシートを膨張させればさせるほど、デフレ脱却に成功した際の反動も大きくなります。トコトンやるつもりなら、かなり長い時間軸で戦略を練っておかないと危ういと思いますね。

藤田 今年2月で前年同月比0.9%下落のコアインフレ率が仮に2年強で2%に達するとすれば、3ポイント近く上昇ということで、かなり急ピッチです。しかも、景気に対してマイナスである消費税の増税も控えていますし……。


 ただ、リフレ政策自体は、過大評価される傾向はありますが、景気浮揚効果や株高、円安の効果があることは事実です。「リフレによって、ハイパーインフレになる」、「バブルになる」といった批判がありますが、私はそれらの可能性は低いと思います。それに対してデメリットは限定的なので、徹底したリフレ政策を実行することには賛成です。ただし、おっしゃるとおり、出口戦略については、今から準備することが望ましいと思います。

翁 現段階で黒田総裁たちは「2年間での目標達成をめざし、目標達成するまでアクセルを踏み続ける」と表明しているので、少なくともそれで残存期間の長い国債までどんどん買うのは危険だ、と僕は訴えたいわけです。アクセルを踏み続けているうちに、気がつけば日銀が保有する国債の平均残存期間が非常に長くなっていて、日銀のバランスシートを壊さないためには金利は非常に長い間あまり上げられない、という状況が作り出されるのが恐ろしいですね。そういった状態で、インフレが何らかのショックで顕在化し加速していったとき、対処できるのでしょうか。

藤田 なるほど。リフレ政策のリスクをうまく整理して頂けたと思います。期限を区切って徹底したリフレ政策を実行することを主張する私にとっても、考えさせられることが多い内容でした。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

※編集部注:対談日は、日銀が「量的・質的金融緩和の導入」を決定・表明した4月3−4日の金融政策決定会合前の3月27日でした。

 

 


【第11回】 2013年4月12日 佐々木一寿 [グロービス出版局編集委員]

アベノミクス」は、じつは「世界標準ノミクス」 (2)財政政策編

麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。前回から3回にわたり、特別編として、“いまさら聞けない”アベノミクスについて、末席が精魂こめて解説します。今回は、アベノミクス3本の矢の2本目、財政政策について。(佐々木一寿)

 

 末席研究員は、「アベノミクス」に関して、週刊ヨミヨミこども新聞の記者の取材を受けている。読者であるこどもたちにもわかりやすい政治と経済の解説を求められるというムチャぶりに、必死に対応中だ。例のごとく末席は、あらゆる「需要」に応えなければならない。それが麹町経済研究所の基本方針だからだ。

 記者は、はやく(2)財政政策の話を聞こうと、(1)金融政策についての最後の質問をした。

「あのー、素朴な質問なんですが、なぜ金融緩和政策で、株の値が上がって、円が安くなるんでしょうか」

 記者の素朴な質問は思いのほか堪えるな…、こどもに株高と円安のメカニズムを理解してもらうなんて、どうすればいいのだろう。末席は途方に暮れながら口を開く。

「みかん箱にみかんが入っているとして、みかんのかず(数量)が増えると、箱は重くなってハカリの目方は上がりますよね。みかんはおカネで、株価は目方だと思ってください」

 そんなに単純なことなのか、と記者はびっくりしている。末席はそれを気にする余裕もなく続ける。

「で、みかんが多くなると、みかん1個あたりの『ありがたみ』が薄れますよね。みかんのありがたみが、おカネ(通貨)の価値だと思ってください。少なければ高くなるし、多ければ低く(安く)なります」

 まあ、たしかにそうだけど、経済は難解で知られる現象だし、話はそんなに単純でもないだろう、きっと追加の但し書きがあるはずだ。記者はいぶかしがって、追加の説明を待っている。

「説明は、以上です!」

 えっ…! しばらくの沈黙ののちに記者は確認のために聞いてみる。

「それで本当に終わりなんですか…」

「はい。意外に思われるかもしれませんが、貨幣数量理論的にいえば、ざっくりそういうことなんです」*1

*1 貨幣数量理論(quantity theory of money)におけるMとPの関係より。貨幣数量理論は、流通している貨幣の総量とその流通速度が物価の水準を決めるという、新古典派経済学の主要をなす理論で、貨幣ストックをM、流通速度をV、価格をP、生産量をYとすると、MV=PYというモデルが成り立つとする仮説。詳しくは、第5回「じつは、一粒で日本経済の三大症状に効く妙薬がある!?」を参照

「その理論は、現実に合ってるんですか?」

「まあまあイイ線行ってるな、というのが世界中の著名な経済学者たちの意見でしょうね」

 記者は度肝を抜かれた様子だが、たしかにそう考えると、首相の話とマーケット動向にはある一定の整合性もあるようにも見える。

「なんかこう、ずいぶん機械的なものなんですね」

「もちろん一致するにはタイムラグがあったりもしますが、株や為替のマーケットはいまや瞬時に情報を折り込みますからね。因果関係を視るにしても都合がいいのです」

「つまり、マーケットの反応は正直であると」

「そうでしょうね、マーケットは『日本昔ばなし』に出てくるおじいさんとおばあさんくらい正直者だと思います」

 どの昔ばなしを参照しているのかソースを出しなさい、もしかして「笠地蔵」か、まさか「カチカチ山」ではあるまい、とオトナ気なく詰め寄りそうになるのをこらえながら、記者は応じる。

「そんなホノボノしているイメージはないんですが…。ただ、マーケットの反応は信用に値しそうだというのはわかりました」

 記者は平常心を取り戻して続ける。

「でも、それで済んだら、あとの2本の矢は要らないですよね」

 末席は待ってましたとばかりに、それに応える。

おカネの循環の”弾み車”としての財政政策

「そうですね、不況が軽傷であれば、矢は1本で足りる。それで不況は昔ばなしとなる。しかし、そうはいかないのではないか、というわけで、2本目が必要になってくる、と首相は主張しているわけです」

「にほんめで不況を昔ばなしに。まさに、にほん昔ばなし…って、オイ!」

 記者は取材先相手なのにもかかわらず、おもわずノリツッコミをしてしまった。反射的に出てしまうところをみると、ダジャレは嫌いらしい。

「それが、(2)の財政政策なんですね。(1)の金融政策よりも踏み込んだ対応です」

 末席は記者のノリツッコミを気にせずに、どんどん説明を続ける。

「(1)は、どちらかというとオトナな対応なんですよ。マイルドに背中を後押しするような手法です。『おカネ借りやすくするから、借りたい人はどんどん借りれますよ』という感じです。

 ただ、『そういわれても、ちょっとコワイ…』という人が多数だとしたら、どうすればいいのでしょうか。水飲み場まで連れて行くことはできても、水を飲みたくなければ、飲まないわけです」

 少し離れたところで涼しげにミネラルウォーターを飲んでいるマネジャーを尻目に末席は解説する。

「それで(2)をやる、と。財政政策というのはザックリ言うとどんなイメージなんですか?」

 記者はすでに末席の咀嚼感に依存をしはじめている。

「そうですね。『じゃあ、しょうがない、ワシがカネ渡すから、発注どおり、やったって!』ということです」

 インチキっぽい方言がチョイチョイ出てくるのはなぜだろう、と気になりながら記者は応じる。

「なるほど。みんながコワイというなら、じゃあ国がおカネを率先して使います、ということですね。でも、どう違うんですか」

「景気に関していえば、使う人はどちらでもいいんです、個人・会社だろうが、国だろうが。なので、民間で使う人が少ないなら、国が進んで使う、ということです」*2

*2 政府による有効需要の創出。これが、いわゆる「財政政策」「財政出動」が景気対策として提案される理由で、体系的にこの必要性を説いた中心人物がJ・M・ケインズ

「なるほど。でも、いっぱい使っちゃったら良くないんじゃ…。あとで怒られてもアレだし…」

「そこは議論がまた分かれるところなんですよね。『将来返さなきゃいけないから少ないほうがいいよ』『いやいやいま復活させないと将来も危ないよ』といった感じです」

 ウーン…。記者は唸り声をあげて考え込んでいる。末席はかまわず続ける。

「まあ、経済が復活しないことには、税収も結局、増えませんからね。不況のときには(2)はやるべきだと思います」*3

*3 いわゆるケインズ政策。cf. 『雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉〈下〉』 (J・M・ケインズ著、岩波文庫)

 記者はそれに反応した。

「でも、バラマキすぎるのもアレなんじゃないですか…」

 末席も即応する。

「ええ。ただ、バラまかないことには、はじまらないのも事実なんですよ。で、バラマキの方法にはざっくり2通りあって、(a)直接給付(含む減税)と(b)公共事業です。(a)直接給付はわかりやすいですよね。ただ、それを実際に使ってくれるかわからないところが歯痒い。とくに(1)金融政策が十分でなくデフレのままだと、使われないで貯金されるほうが多いでしょうね」*4

*4 デフレ下においては、名目金利が十分に低くなっても、流動性選好(おカネをいつでも流動的に動かせるという利便性を好むこと)によりタンスなどにそのまま貯金として死蔵されやすくなってしまう

「だから、(1)金融政策が順番的にまず必要なんですね!」

「そうです。それで、(b)公共事業のほうは、国が実際に直接使うことで国民におカネを渡す、というイメージです。入った給料を使おうかな、という人も増えてくれば、近隣の人にもジワジワ行き渡るのです*5。ただやはり、デフレ下では、給料が増えても貯金にまわされやすい」

*5 cf.乗数効果。これが上手くまわると(国が)使ったおカネ以上の有効需要が創出される。波及効果とも

「うーん。でも、直接給付よりは、やっぱり国が公共事業いっぱいやるっていうのはちょっと抵抗があるんですが…」

「気持ちはわかりますよ。ただ、少なくとも1回はおカネが実際に使われるわけです*6。さらにいえば、そもそも国ってなんのためにあるんでしょうかね」

*6 実際に使われる回数を「貨幣の流通速度」と言ったりもする。これが高いと短期間で乗数効果があらわれる

国が復興・経済対策にコミットしないのは憲法違反!?

 記者は「?」で頭のなかがいっぱいになっている。

「ぶっちゃけ、国民の幸せのためですよね、中世のような封建国家でない限りは*7。景気がよくなることは、国民を幸せにします。また、必要な公共事業(メンテナンス含む)をやらないと、国民の生命が脅かされますよね。国の借金があるからといって大震災の被災者支援に税金をあまり使わないとか、インフラが脆弱なままにして亡くなる方を出すとかいうのは、もはや国の義務違反なわけです、近現代国家であれば。それより、たとえばまず20兆〜30兆円ぐらいを素早く使って状況回復を急いで、それで元気になった国民みんなで30年かけて返せばいいじゃないか、というのが血の通った人間の発想ではないでしょうか*8」

*7 詳しくは第7回「じつは、経済学の目的は、資本主義革命の解明だった!?」参照
*8 方法論の一例としては第5回「じつは、一粒で日本経済の三大症状に効く妙薬がある!?」を参照

 記者は末席の熱弁に気圧されたまま、質問を試みる。

「でも、そんな30兆円とか、一気に使って大丈夫なんですか。ギリシャみたいになってしまったら困ってしまう気が…」

「国債で賄ったとして、自国通貨建てで、多くが国内で消化されている状況であれば、ギリシャのようなことにはなりませんよ*9。震災復興に十分な予算をつけて素早く実行することは、もちろん被災者の方のためにもなりますし、ケインズが言うように巡り巡って日本の景気のためにもなるんです。なぜこれをやらないのか、その理由のほうが私にはわかりません」

*9 デフォルトが疑われると、国債の金利やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の上昇につながるが、事実として現状でマーケットは日本の財政破綻を織り込んでいない。ギリシャの場合は、債券の多くが海外で消化されており、自国の通貨建てでないため、独自の金融政策ができず、ギリシャが自力で対策を練ることが難しかった。また、財政政策に関しても、ユーロの加盟基準等があるため、機動的に行うことが非常に制限される。まさに手足を縛られたような状態で、このような事態が起こりうることを、ユーロ通貨圏成立前に懸念する著名な学者も多くいたcf.「最適通貨圏」の前提への懸念

 記者は勇気を出してカットインを試みる。

「でも、『十分にやってる』『でも効果はでない』という言い訳はよく聞きます」

 末席は熱弁を通り越して憤慨して言った。

「デフレだと財政政策をしても乗数効果が十分に効かないんですよ。その効果は円高を通じて海外にも逃げてしまう*10。効果は相殺され、そして借金だけが残る。まずデフレを止めないとだめなのです*11。これだけでも、デフレ脱却がいかに最重要かつ真っ先に取り組むべきイシューかということがわかるでしょう」

*10 ノーベル賞学者マンデル・フレミングの「国際金融のトリレンマ」モデルなどを参照
*11 cf. 『まずデフレをとめよ』岩田規久男著、日本経済新聞社

 記者は、末席にクールダウンを促すように応じる。

「であれば、もはや国の義務たる出費であり、それが当該者と、結局は国民全員のためになる、と」

「そうですね。国の義務、それを定めたのが憲法です。それを全うできないというのであれば、はっきりいって、憲法違反となります」*12

*12 基礎法学を参照。たとえばわかりやすい入門書に『キヨミズ准教授の法学入門』(木村草太著、星海社新書)がある

 そんな大げさな、、、慌てる記者は絶句したが、末席は所長の面影を思い出しながら、所長の決めゼリフを真似しながら言った。

「憲法第13条には、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』とあります。そして、極論をするなら、憲法の最重要条文は、この第13条なんですよ。いわば現代の国家が存立する根拠と同義なのですから」*13

*13 『痛快!憲法学』 『日本国憲法の問題点』 (ともに小室直樹著)など参照。経済学がらみで言えば、自由主義派の論者であっても「夜警国家論」(アダム・スミス)といった“国家の義務論”がある

「という理由から、2本目の矢(2)財政政策はガツンとやるべき、その正統性の根拠は憲法第13条、と。」

 記者は諦め気味に末席のコメントをまとめた。

「そして(2)を極力有効にするにも前段で(1)金融政策の成功は必須、ということなのですね」*14

*14 いわゆる日本の「リフレ派」と言われるエコノミストが財政政策に関して長年主張をしてきていることであり、ノーベル賞受賞者を含む世界的に著名な経済学者(ポール・クルーグマン氏、ジョゼフ・スティグリッツ氏、浜田宏一氏など多数)の見解とも合致するため、「アベノミクス」は経済学的に正しいという意味で、世界的な好感や評価につながっている。ちなみに海外の「アベノミクス」に批判的な意見は、自国の経済的な損得の観点によるもの、つまり「日本の円安が自国にとっての経済的脅威となる」といった認識を背景にしたものも多く、たとえばドイツ首相の「通貨安競争への懸念」発言などはこれに類する

 記者の発言を受け、末席はようやく経済学者らしい面持ちを取り戻した。(つづく)


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