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中央銀行がデフレに打ち勝つ方法 黒田国債金利 仏赤字削減 ECB利下? キプロス金売 FRB雇用 アベノミX TPP
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/569.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 18 日 01:58:51: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 欧州がスペインの解決策でなくなった理由 ドイツのサッチャリズム 欧米韓国TPP 日銀資産バブル マンション激安 相続税  投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 17 日 01:20:19)

中央銀行がデフレに打ち勝つ方法
2013年04月18日(Thu) Financial Times
(2013年4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 高所得国がデフレに陥っていないのはなぜなのか――。これこそが今日の謎にほかならない。ハイパーインフレになるという、一部のヒステリックな人たちの誤った予想通りになっていないことが謎なのではない。

 国内総生産(GDP)が金融危機以前のトレンドに比べて大幅に落ち込んでいるにもかかわらず、そして高失業が長引いているにもかかわらず、インフレがこれほど安定しているのは実に不思議なことだ。なぜこうなるのかを理解することは非常に重要だ。なぜなら、その答え次第でどんな政策対応が正しいかが決まるからだ。

 幸いなことに、これについてはうれしい答えが示されている。どうやらインフレが安定しているのは、インフレターゲット政策が信頼されていることのご褒美であるようなのだ。

 そしてそのおかげで政策当局は、危険を冒して拡張的な経済政策を取る余地を手にできているという。皮肉なことだが、インフレターゲット政策の成功がケインズ的なマクロ経済安定化政策を蘇らせたことになる。

インフレという犬は吠えなかった

 既にギャビン・デービス氏やポール・クルーグマン氏らが指摘しているように、国際通貨基金(IMF)は先日公表した世界経済見通し(WEO)で希望を抱かせてくれる上記の議論を展開している。

 IMFの議論は、非常に高い失業率が長期間続いているにもかかわらず、インフレ率が変化していないという認識からスタートする。インフレという「犬は吠えなかった」というのだ*1。

 この現象については、構造的な側面に着目した説明が考えられる。例えば、バブル時代に栄えた建設業界などの職を失った人は、既に出ている(あるいは近々出てくる)かもしれない求人に応募できるスキルを持っていなかったり遠く離れたところに住んでいたりする、という説を唱える人は多い。

 また、失業率が長期間高止まりすると、職探しを比較的容易にしてくれるスキルや人脈が失われるにつれ、当初は一時的だった失業が長期的なものになりやすい。長期に及ぶグレートリセッション(大不況)で長期失業者が記録的な高水準に達しているのはそのためだ。これらはいずれも、労働市場の需給を緩和させる傾向がある。

*1=シャーロック・ホームズ・シリーズの小説『白銀号事件』の推理で使われた表現

 一方、もっと元気が出る説もある。これによると、インフレターゲット政策は人々のインフレ期待の変動を抑制するアンカー(錨)になっており、労働市場の動きにもこれが影響している。しかも、今日のインフレターゲットは0%に近い。

 労働者が名目賃金の引き下げに抵抗するのは周知の通りで、グレートリセッションに入ってからもその状況は続いている。実際、ユーロ圏内の調整が非常に大きな痛みをもたらしているのはこの抵抗のためでもある。従って、この状況のせいもあってインフレ率は(少なくとも下方には)硬直的になる、というのだ。

IMFが導いた3つの結論

 IMFは、WEOでこれらの説を予備的に分析し、主要な結論を3つ導いている。第1の結論は、「インフレ期待は、中央銀行のインフレターゲットというアンカーでしっかり抑制されており、足元のインフレ率からは特に影響を受けていない」というもの。

 第2の結論は、このアンカーによるインフレ期待抑制の度合いは時とともに強まってきたが、その一方で足元のインフレ率が期待インフレ率に及ぼす影響は逆に弱くなっているというもの。

 そして第3の結論は、それに伴ってインフレ率と足元の失業率との関係も弱まってきたというものだ。1995年以降はこの関係がほとんどなくなっており、中央銀行のインフレターゲットに沿った安定的なインフレが長期間続いているという。

 計量経済学の手法を使った詳細な分析では上記の予備的分析を支持する結果が出ているが、さらに2つのことが分かったという。

 1つ目の特に重要な点は、現段階では景気循環による失業がかなりの数に上っているということ。そして1つ目ほど重要ではない2つ目の点は、世界経済全体のインフレが個々の国のインフレに及ぼすインパクトには明確なトレンドが見受けられないということである。

 米国の状況を分析すると、これらの変化の意味が明らかになる。もし景気循環とインフレの間に今日見られる関係が1970年代のそれと同じだったら、米国の物価水準は既に下落していると考えられるのだ。

 幸いなことに、物価は下落していない。もし下落していたら、実質金利は今ごろ大幅なプラスになっているだろうし、バランスシートデフレは米国の安定性をこれまでよりもはるかに激しく脅かしていたことだろう。

 またうれしいことに、金融危機前の好況期の状況を見る限り、インフレは一方向にのみ硬直的なのではない。インフレ率は好況期にもインフレターゲットに沿った動きをしていたのだ。特にスペインと英国ではその傾向が顕著だった。

 また、米国とドイツが1970年代に対称的なパフォーマンスを見せたことからも興味深い結論が導かれる。ドイツの中央銀行(ブンデスバンク)は1970年代にその評価を高めたが、それはブンデスバンクが一度もミスをしなかったからではなく、目標の達成に必要な施策をブンデスバンクは講じるだろうと人々が信じていたからだった。

 つまり、そこに信頼性がある限り、インフレターゲット政策は柔軟に実施できる可能性があるのだ。

 これは重要な分析結果であり、今後の政策に大きな示唆をもたらしている。

今後の政策に対する3つの示唆

 第1の示唆は、景気がどの程度落ち込んでいるかという推計には誤りがつきものだが、中央銀行がインフレターゲットの達成に取り組んでいると人々が信じている限り、推計の誤りはあまり問題にならないかもしれない、というものだ。これは循環的な失業とインフレ率の関係を示した「フィリップス曲線」が水平になることによる大きな恩恵の1つである。

 第2の示唆は、景気の落ち込み具合について不確実性があることと、大幅な景気後退にインフレ率が反応していないことを考えれば、中央銀行はインフレターゲットの達成だけを目指してはいけない、というものである。

 深刻な景気後退に陥った国々やそれがさらに悪化している一部の国々では、安定的なインフレと両立する範囲内で経済活動を最も活発な状態に導くことが中央銀行の仕事になる。過去に成功を収めたことにより、中央銀行には、景気後退期に危険を冒して需要拡大を試みる機会だけでなく、そうする責務も与えられているのだ。

 欧州中央銀行(ECB)の幹部の方々に申し上げたい。インフレ率が低いだけでは不十分なのである。

 第3の示唆は、中央銀行はインフレターゲットを目標の中核に据え続けるべきだが、過去の経験を振り返るとそれだけでは不十分であることが分かる、というものだ。信用バブルを抑制するよりもバブルが弾けてから後片付けをする方が簡単だという見方は誤りだった。となれば問題は、どのように行動するかに絞られる。

 明らかに重要なのは、金融システムの強化である。自己資本比率基準の引き上げや積極的なマクロプルーデンス政策の推進を通じて、打撃を受けても短期間で回復できるようにするのである。

 いずれも容易なことではないだろう。例えば、同じIMFが公表した国際金融安定性報告書(GFSR)は、金利水準が0%に近づいた時に中央銀行が用いざるを得なかった非伝統的な金融政策に潜んでいるかもしれない短所をいくつか指摘している。

 インフレターゲットの変更は極めて大きなリスクをはらんでいるだろうが、これまでに起こったことを見る限り、インフレ率がいくぶん高まることは有用だったかもしれない。

政策当局は柔軟性を生かせ

 また、過去の経験がはっきり示しているように、バランスシート不況においては金融政策を単独で発動してもあまり効き目はない。

 金融システムの迅速な立て直し、民間セクターのデレバレッジング(負債圧縮)の加速、そして可能な時には必ず財政支出で需要を下支えするという意思の3点セットで金融政策を補強しなければならないのだ。

 しかし、金融危機前の油断にもかかわらず、インフレ期待の変動の抑制という明らかな成功のおかげで、政策当局は必要な柔軟性を手に入れることができている。それが分かったのは喜ばしいことだ。この柔軟性を使わない手はない。

By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37616

 
黒田日銀の「バズーカ砲」で国債市場が大揺れ
2013年04月18日(Thu) Financial Times
(2013年4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 信用の流れをよくしようとする黒田東彦氏の計画も、もはやこれまでか。日銀新総裁の黒田氏が2週間前に「大型バズーカ砲」をかつぎ、借り入れコストを引き下げるためにかつてないほど国債を大量購入すると約束して以来、30年物国債の利回り曲線が全面的に上昇し、一部の銀行は融資の利率を引き上げた。

 一方、国債の売買高は激減し、ボラティリティー(変動率)が記録的な水準に上昇、世界で最も多額の債務を負った日本政府が世界一の低金利で資金を賄い続ける能力が脅かされている。

急進的な政策転換でボラティリティーが急騰


世の中に出回るお金の量を増やすことを目標とする「量的・質的金融緩和」策が市場を揺るがしている〔AFPBB News〕

 先週行われた30年物国債の入札は、あるストラテジストの言葉を借りれば「悲惨」で、最低落札価格と平均落札価格の差が過去最大となり、不安定な需要を裏付ける証拠となった。

 トレーダーやアナリストの話では、混乱の一部は大手銀行1行の国債売却に端を発していた。この銀行は黒田氏のデビューの翌日、保有していた国債を大量に売って利益を確定し、同様の国債売りの引き金を引いたという。

 だが、こうしたトレーダーに言わせると、混乱の責任の大半を負うべきは、従来の金融緩和政策からの劇的な転換の意味合いを十分に説明しなかった中央銀行だ。

 野村によると、日銀の正味の年間資産購入額は名目国内総生産(GDP)比15%近くに達しており、黒田氏の「次元の違う」緩和は世界中のどの金融緩和策よりも規模がかなり大きくなる。

 さらに、新たな政策は通常の量的緩和ではなく、日銀の用語で言う「質的・量的緩和」だ。日銀は月間の国債購入額を2倍以上に増やす(新発国債の約7割を政府から吸い上げることになる)一方で、買い入れる国債の平均残存期間も現在の3年から7年程度まで延ばす計画だ。

 野村証券のチーフストラテジスト、松沢中氏は、この急進的な政策転換の「衝撃と畏怖」が広がる中、914兆円という世界第2位の規模を誇る日本国債市場の投資家は「方向を見失った」と言う。

 ボラティリティーの高い状態が長引くようなら、「バリュー・アット・リスク」モデルによって投資家が保有国債の売却を余儀なくされ、利回りが一段と上昇する恐れがあるとアナリストらは警告する。

 そうなると、日銀がマイナスの実質金利に対する期待感を生み出すのが一段と難しくなるかもしれない。マイナスの実質金利は、日本国内で融資とリスク資産に対する幅広い需要を喚起するために不可欠だと見なされている要素だ。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ債券ストラテジスト、石井純氏は「今のところ、鳴り物入りで発表された緩和策は失敗と判断せざるを得ない」と言う。

国債購入計画の詳細開示を求める声


トップ交代とともに大きく政策を転換した日銀〔AFPBB News〕

 アナリストらによると、秩序回復のためには、今週起きることが極めて重要かもしれない。

 日銀は17日午後、国債トレーダー30人と特別会合を開いた。金融機関の上層部との先週の会合で持ち上がった新たな懸念を具体的に詰める狙いだった。

 日銀は先週の会合の後、翌日に残存年数が10年までの国債を2.5兆円買い入れると発表した。日銀が資産購入に関して数時間以上の通知期間を与えたのは、これが初めてだ。

 だが、投資家が需給をもっとしっかり把握できるよう、将来は日銀による月間7.5兆円の国債購入のタイミングと規模に関するより詳細な情報が必要だとの声も上がる。

 「日銀が提示するスケジュールが長ければ長いほどいい」。東京在勤のあるシニアトレーダーはこう話す。「向こう2カ月程度、あるいは次の四半期の買い入れが分かっていれば、ポートフォリオ構築に着手し、入札で買うものを調整することができる」

 アナリストらは、18日に実施される1.2兆円規模の20年物国債の入札にも注目している。これはゴールデンウイーク前に行われる最後の超長期の国債入札で、もし落札価格の差が先週の30年物国債入札より大幅に縮まれば、市場全体のボラティリティーが低下するだろう、とみずほ信託銀行のシニアファンドマネジャー、吉野剛仁氏は語る。

 今のところ、黒田氏にとって良い知らせは、資金が概ね債券市場にとどまっていることだ。生命保険会社などの機関投資家が外国資産への投資を増やすためにポートフォリオを組み替えるという話も聞かれたが、アナリストらは、今のところ、そうした動きを示す兆候はほとんど見られないと話している。

 バークレイズ証券の債券ストラテジスト、丹治倫敦氏は、今週発表された米国と中国の弱い統計は債券投資家に様子見を促す追加材料を与えると指摘する。また、クレディ・スイス証券の債券調査部長、宮坂知宏氏は「現時点では、投資家はボラティリティーに耐える」と言う。

多くの市場参加者は当面様子見

 JPモルガン証券の債券ストラテジスト、山下悠也氏は、それでも日銀が神経を尖らしているのは明白だと言い、超過準備が歴史的な高水準に達しているにもかかわらず、日銀は最大で期間1年の資金を0.1%の翌日物レートで供給するオペを7日連続で実施したと指摘する。短期金利の安定を図るこの「多大な」努力は「極めて異例だ」と同氏は言う。

 一方、多くの市場参加者は依然、様子見を決め込んでいる。三菱UFJモルガン・スタンレーの石井氏は、売買高の減少が「自己成就的な悪循環」で荒い値動きを増幅させるとし、「市場心理が完全に回復できるまでには、まだ時間がかかる」と話している。

By Ben McLannahan
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37615


 

第110回】 2013年4月18日 週刊ダイヤモンド編集部 日銀超弩級緩和の衝撃【後編】〜政策矛盾・企業

大胆緩和に出口戦略はあるか
壮大なる“金融実験”の行方

超緩和策の目的はインフレ率2%だが、達成すれば長期金利は上がるはず。だが日銀はそのために国債を大量購入、長期金利を低く抑え込む。矛盾を抱えた政策に潜むリスクを検証する。

「あれは平成の真珠湾攻撃だったのか」──。日本銀行周辺では今、そんな会話がよくなされている。日銀が“超サプライズ”の大胆緩和策を打ち出した際、黒田東彦総裁は「戦力の逐次投入はしない」と繰り返し、2年という短期決戦であることを強調した。

 真珠湾攻撃の指揮に当たった山本五十六が、単なる思い付きで「短期決戦」を仕掛けたのか、はたまた“出口”を考えた上での行動だったのか、それは定かではない。が、対する日銀はどうなのか──そんな話題で持ち切りなのだ。

 戦争には否定的だったと言われる山本の奇襲は成功したが、その後は戦争から抜け出せず、泥沼に陥ったことは言うまでもない。

 一方の日銀は、対外的には「出口の議論は時期尚早」(黒田総裁)としているが、むろん内部では徹底議論し、戦略を練った上で踏み切ってはいるだろう。だが、国債発行市場で7割を日銀が買い占めていくだけに、そこから手を引くのは想像を絶する困難を伴う。

超長期債購入は8倍に
財政再建も見送られるか

 図を見てほしい。これは、日銀が購入する長期国債について、残存年限別に金額の変化を示したものだ。全体で約2倍というだけでも驚きだが、5〜10年は8.5倍、10年以上も8倍に膨らんでいるのだから凄まじい。


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 なぜかくも大規模かつ長期化したのか。日銀が今回、最も変わった点は、段階的に5兆〜10兆円規模の追加緩和を打ち出していくのではなく、「2年でインフレ率2%」から逆算した資産購入総額を“一気に”打ち出したことだ。逆に言えば、追加緩和という退路を自ら断ったともいえる。

 ここまでくると、「目的はどうあれ、現実として財政ファイナンス」(末澤豪謙・SMBC日興証券チーフ債券ストラテジスト)だろうが、ファイナンスできているうちはまだいい。問題はこの先、景気が過熱したときである。

 いつ引き締めるか、その判断が難しいこともそうだが、最終的には長期国債の売却によって、市場に供給した資金を吸収する必要がある。だが、景気回復期に金利が上昇しやすい中、国債を売却すれば一気に需給バランスは崩れ、長期金利が急騰しかねない。

 それを避けようと、保有国債の償還による自然減で正常化を狙っても、保有国債の年限長期化により、遅々として償還が進まない状況に陥っている可能性が高い。

 そうこうしているうちに景気が腰折れでもすれば、日銀は次なる追加緩和を迫られるだろう。かくして永遠に正常化はなされず、物価は制御不能になる。

 足元でも、追加緩和を迫られるリスクシナリオは二つある。

 一つは、物価見通しが思うように上昇しなかったときだ。その時こそ「金融政策だけでデフレ脱却は難しい」との世論が巻き起こればいいが、追加緩和を求める空気が形成されないとも限らない。

 もう一つが、このところ再燃しつつある欧州危機によって、またも円高に振れたときだろう。

 喉元を過ぎて熱さを忘れた官邸周辺からは、早くも「消費増税は見送る」との声すら上がり始めた。利払い費の低位安定にあぐらをかいて財政健全化の道筋を示さなければ、それだけでも金利急騰につながる恐れはある。

 世論の期待に応えて日銀が踏み出した短期決戦は吉と出るか凶と出るか。壮大なる実験が始まった。

円安で笑い、金利低下で恩恵
それでも弱い設備投資への意欲

超弩級の金融緩和の衝撃は、日本企業にも波及している。急激に円安が進行し、株高や長期金利の急低下で、ビジネス環境が一変、一部の業種や企業に追い風となって吹き付けている。

 笑いが止まらないのは、自動車業界だ。東日本大震災などから反転攻勢中に円安の追い風を受けただけに、それもうなずける。

 例えば、トヨタ自動車は対ドルで1円円安だと400億円、対ユーロだと50億円の営業利益の増益要因となる。ホンダは対ドルで160億円、対ユーロで10億円と縮むが、それでも途方もない金額だ。


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 グラフを参照してほしい。3月の日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)での2013年度の主要輸出産業の想定為替レートと、実際のレートの乖離を示したものだ。各産業とも軒並み80円台後半に集中する中、自動車は84.31円(13年度上期)と保守的で、この急激な円安で大幅な増益が確実視されている。「自動車にぶら下がる産業の裾野は広いので期待している」(大手化学幹部)と、他産業から熱い視線が注がれている。

 一方、同じ輸出産業でも「自動車と対極にあるのが電機業界」(同)。

 パナソニックの3月末の中期経営計画発表会見。津賀一宏社長は「自動車メーカーさんに怒られるかも」と苦笑いしつつも、「円安に振れ過ぎないでほしい」と本音を吐露した。

 実は、デジタル家電が死に体となり、残された大きな収益の柱となっている冷蔵庫などの白物家電は海外に生産拠点を移管済み。つまり円安は逆風となる。

 とりわけ、深刻なのが再建に苦しむシャープだ。液晶事業が大赤字を垂れ流す中、白物家電と複写機は最後の砦。それが、この円安で為替差損が拡大しており、赤字事業に転落しかねない事態に陥っている。電機業界が輸出産業というのは過去の残像にすぎない。

資金調達を前倒し
溶け始めた企業心理

 株高で恩恵を受けている企業も少なくない。代表的なのが保険業界。例えば東京海上日動火災保険は13年3月末の株の含み益が1兆数千億円に上ったが、その後も含み益は増えている。

 自動車の好調ぶりなども反映し、「円安で輸出が活発化している」(大手損害保険幹部)ため本業の保険料収入も増加傾向にある。損保大手3社の海上保険の3月の保険料収入が計約273億円と、前年同月比で約24%も増加しており、この流れはしばらく続きそう。

 株高以上に企業への影響が全般的に及ぶのは、金利の低下だ。

「より低い資金調達手段を利用するのは当然で社債の発行を検討している」。ホンダ幹部はこうきっぱりと言い切った。日産自動車、NTTも、4月中に前倒しで1000億円規模の資金調達に動く。日産は「起債のタイミングが合っただけ」としているが、有利な発行条件になることは間違いない。

「資金需要がない」──。金融機関が口癖のように嘆いていたにもかかわらず、根雪のように固まった企業のマインドが溶けだした。「今はまだ借り換えが中心」という冷ややかな見方もあり、住宅ローン中心だが銀行の貸出残高も若干増加に転じた。

 本格的な景気回復サイクルに向かうには、調達した資金が設備投資に回るかどうかによる。「金利が下がろうが、株の含み益で儲かろうが、過剰設備の状況下では蚊帳の外」(新日鐵住金幹部)、「設備投資の計画を変えることはない」(コマツ幹部)と、現状では様子見を決め込む企業が多いのが実態だ。

 絶好調の自動車でさえ、「海外シフトの動きが鈍化する」(アナリスト)という程度だ。本格的な景気回復への道のりはまだ遠い。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、河野拓郎、中村正毅、宮原啓彰)

http://diamond.jp/articles/print/34838

 

国債購入、日程増やす検討を=市場との意見交換で日銀幹部
2013年 04月 17日 21:26 JST
[東京 17日 ロイター] 日銀は17日夕、金融機関の役員を集めた11日の会合に続いて現場レベルの担当者らとの意見交換会を開催した。参加者からは、日銀が買い入れる1回当たりの国債の量を減らし、月5、6回としている回数を増やすべきとの意見が出され、日銀は、こうした声を踏まえ、実際に回数を増やすことが可能かどうか検討に入る方向だ。

日銀幹部が会合後、記者団に明らかにした。公式な場での市場参加者と意見交換会は、黒田日銀が異次元緩和に踏み切って以降、2回目。オペ対象となっている31金融機関から31人が出席した。

会合では長期国債の購入手法や、年限ごとの割り振りについての意見が相次いだ。日銀が買い取る国債は月額7.5兆円で、1回当たりに均しても1兆円超が吸い上げられる状況の下、相場変動がより激しくなったためだ。「1回当たりの購入額をより少額にし、回数そのものを増やしたらどうかとの声が多かった」(日銀幹部)という。

焦点となっている購入日の事前公表については意見が分かれたという。「購入日をめぐる思惑から市場が乱高下するぐらいなら、事前に分かっていた方がいい」との声がある一方、参加者の間では「手の内を明かすことはかえってボラティリティを高める」、「(1回の購入量を)小さいロットに変えられるなら、事前に公表する必要性は低下するのでは」などの声も上がった。

一方、国債先物取引の決済に使用される受渡適格銘柄を買い取りの対象にするかどうかに関しては、「日銀が買うとスクイーズが起きる」と、参加者からは消極的な意見が出されたいう。

(ロイターニュース 山口貴也、伊藤純夫 編集:山川薫)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00720130417


 


フランス2017年の赤字削減目標を緩和
2013年 04月 17日 23:22 JST
[パリ/ベルリン 17日 ロイター] フランスのモスコビシ経済・財務相は17日、2017年までの経済見通しを閣議に提出し、17年の財政赤字削減目標を達成できない見込みであることを明らかにした。

それによると、2017年の財政赤字は国内総生産(GDP)比0.7%と、当初目標の0.3%から引き上げた。

ただ景気循環の影響を除く構造ベースでは2016年にGDP比0.2%、2017年に0.5%の黒字を見込む。

公的債務は2014年がGDP比94.3%に達する見通しとしている。当初は90.5%と想定していた。

財政見通しの前提となる成長率予想は、今年がプラス0.1%、2015―2017年は平均2%としている。

財政見通しは来週、議会に提出される予定。

欧州連合(EU)が定める財政再建目標の達成が想定より遅れるとの仏発表を受け、独財務省のコットハウス報道官は、EUの全加盟国は、同じ財政再建目標の達成で合意しているとの見解を示した。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00H20130417


ECB、経済指標が正当化するなら利下げの可能性=独連銀総裁
2013年 04月 18日 00:45 JST
[フランクフルト 17日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのバイトマン独連銀総裁は、経済指標が正当化すれば、ECBは追加利下げを行う可能性があるとの見解を示した。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が17日、伝えた。

総裁は金利について問われ、「新たな情報に基づき、調整する可能性がある」と答えた。一方で「金融政策スタンスが重要な問題だとは思わない」とも述べた。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00R20130417

米BOAの1−3月:利益が予想下回る、住宅金融事業が不調 (21:31) 米銀バンク・オブ・アメリカ(BOA)の2013年1−3月(第1四半期)決算では、利益がアナリスト予想を下回った。住宅金融事業が不調だった。株価はニューヨーク市場の時間外取引で一時3.3%下落した。
記事全文
NY外為(午前):ユーロ一段安、当局者発言報道でECB利下げ観測 (00:19)
ECBはユーロ押し下げへ行動を起こすだろう−ビニスマギ元理事 (23:29)
米モルガンSは日本株の短期下落を予想、ゴールドマンや野村に挑戦状 (00:01)
シティとBOA口座の野村資金を差し押さえへ−伊パスキ捜査で検察 (20:39)

キプロス、数カ月以内に金準備売却の見通し=財務相
2013年 04月 17日 19:36 JST
[ニコシア 17日 ロイター] キプロスのジョージアデス財務相は17日、同国は「今後数カ月以内に」金準備の一部を売却するとの見通しを示した。ただその上で、最終的な決定は中央銀行にかかっていると述べた。

欧州委員会が準備したキプロスの資金調達ニーズに関する評価によると、キプロスは欧州連合(EU)/国際通貨基金(IMF)からの100億ユーロの支援のうち自力で一部資金を調達するため、金準備を売却して約4億ユーロを調達する必要がある。

キプロスは先週、金準備の売却について同国向け支援プログラムへの拠出金調達に向けた選択肢に含まれていることを確認したが、最終的な責任は中銀が担っているとしていた。

ジョージアデス財務相は、ブルームバーグテレビに対し「金に関しては中銀に最終決定権がある」と語った。金の売却規模や価格には言及しなかった。

金の売却について政府は中銀のサポートを得ているかとの質問には「それについては近く検討されることを望んでいる」と述べた。

中銀の報道官は先週、金準備の売却は現時点で議題ではないと述べていた。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93G05K20130417

 

ポルトガルが緊縮策の違憲判断後初の入札、1年物TB利回り上昇
2013年 04月 17日 23:34 JST
[リスボン 17日 ロイター] ポルトガルが17日実施した短期証券(Tビル)入札で、1年物Tビルの利回りが上昇した。今回の入札は、ポルトガルの憲法裁が今月初めに同国の緊縮策の一部に対し違憲判断を下してから初めて。

ポルトガルの債務管理庁(IGCP)によると、1年物Tビルの利回りは1.394%と、2月に実施された前回入札の1.277%から上昇した。応札倍率は2.1倍。

同時に実施された3カ月物Tビルの利回りは0.743%と、3月に実施された前回入札の0.757%から低下した。応札倍率は4.8%倍。

調達額は1年物Tビルが15億ユーロ、3カ月物が2億5000万ユーロとなり、目標総額17億5000万ユーロ(23億ドル)すべてを調達した。

クレディ・アグリコルの債券ストラテジスト、オーランド・グリーン氏は、憲法裁の判断を受け、ポルトガルの緊縮財政への取り組みが困難になるとの見方から、やや警戒感の高まりがみられたと指摘した。

ポルトガルの憲法裁判所は5日、政府が2013年予算に盛り込んだ財政緊縮策で、年金受給者への支払いや失業手当など4項目について違憲との判断を下した。これを受け、ポルトガルの財政再建計画が逸脱し、債券市場への復帰を遅らせる可能性があるとの懸念が高まった。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00L20130417


米FRB、雇用の責務をこれ以上重視すべきでない=地区連銀総裁
2013年 04月 17日 23:41 JST
[ニューヨーク 17日 ロイター] 米セントルイス地区連銀のブラード総裁は17日、米連邦準備理事会(FRB)は引き続きインフレを注視すべきであり、最大雇用の責務にこれ以上重きを置くべきではないとの見解を示した。講演原稿で述べた。

総裁は、雇用市場が深刻な問題を抱える状況下でも、物価安定に政策の主眼を置くべきとする研究結果に触れ、「FRBは失業をより重視すべき、との考えは極めて非生産的な可能性がある」と指摘した。

その上で、研究結果は「金融政策だけでは雇用市場の複数の問題について効果的に対処できないため、より直接的な雇用政策を活用することが肝要」であることを示しているとした。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00N20130417

 

仮想通貨:デジタルの世界の「金採掘」
2013年04月18日(Thu) The Economist 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37609
(英エコノミスト誌 2013年4月13日号)
ビットコインは、たとえ崩壊したとしても、金融界に影響を与えるかもしれない。
 1999年、ショーン・ファニングという18歳の青年が音楽業界を永遠に変えた。レコード会社から高いCDを買う代わりに、個人が音楽ファイルを交換できるようにする「ナップスター」というサービスを開発したのだ。
 訴訟が相次ぎ、ナップスターは2001年7月に閉鎖された。だが、その発想は「ビットトレント」などのピアツーピア(P2P)のファイル共有ソフトという形で生き続けた。ナップスターというブランド名は今も合法的な音楽ダウンロードサービスによって利用されている。
 ナップスターの物語は、同様の技術に基づくデジタル通貨「ビットコイン」に関する熱狂を説明する助けになる。ビットコインの1単位の価格は1月時点で約15ドルだった(ビットコインは少額取引のために小数点第8位まで分解できる)。
 4月11日に本誌(英エコノミスト)が印刷に回された時点で、ビットコインは179ドルで安定しており、流通しているすべてのビットコインの価値が20億ドルになっていた。
膨れ上がる「ビットコイン・バブル」
 ビットコインは世界で最も熱い投資先の1つになっている。ソーシャルメディア、最新のものを探し求めて自由に動く資本、そして恐らくはキプロスでの最近の出来事で取り乱した銀行預金者によって膨らんだバブルだ。

 ナップスターと同じように、ビットコインは崩壊するかもしれないが、永続的な遺産を残す可能性がある。
 実際、ビットコインは4月10日に急激な調整を経験した。この日は一時、価値の半分近くを失い、その後急回復している(図参照)。
 たが、ビットコインに関しては、価格は最も面白みに欠ける部分だ、と小売業者向けにビットコインの支払いを処理する企業ビットペイの創業者トニー・ガリッピ氏は言う。
 価格以上に重要なのは、電子商取引を今よりずっと容易にするビットコインの力だ。
 ビットコインは、唯一のデジタル通貨でもなければ、唯一の成功したデジタル通貨でもない。仮想世界「セカンドライフ」のゲーマーたちは、「リンデンドル」で支払う。中国のネット大手「テンセント(騰訊控股)」の顧客は「QQコイン」で取引する。フェイスブックは「クレジット」を販売している。

仮想通貨はビットコインだけではないが・・・〔AFPBB News〕
 ビットコインが際立つのは、他のオンライン(そしてオフライン)通貨と異なり、中央銀行のような単一機関によって創造・管理されていないことだ。
 代わりに、ビットコインの「金融政策」は利口なアルゴリズムによって決定される。新しいビットコインは「採掘」されなければならない。つまり、ユーザーは、自分のコンピューターに複雑な数学的問題を解く競争をさせることで新しい通貨を獲得できるのだ(勝者は仮想現金を得る)。
 コインそのものは単に数字の羅列だ。それゆえビットコインは完全に分権的な通貨であり、いわばデジタルの金のようなものだ。
ナゾの日本人(?)が開発した技術
 ビットコインの発明者であるナカモト・サトシ氏は謎めいたハッカー(あるいはハッカー集団)で、2009年にビットコインを生み出し、2010年のある時にインターネットから姿を消した。この通貨の初期の利用者は大抵、国家管理から抜け出すことを決意した技術好きのリバータリアン(自由至上主義者)や金の投資家だった。
 ビットコインが使われている最も悪名高い場所は、「トール」と呼ばれるウェブの匿名通信部分に隠れた市場「シルクロード」だ。ユーザーは、品物――通常は違法薬物――を注文し、ビットコインで支払う。
 一部の合法的な企業もビットコインを受け入れ始めている。その中には、ソーシャルメディアサイト「レディット」や、ブロガーにウェブホスティングやソフトウエアを提供する「ワードプレス」などがある。小売業者に対する訴求力は強い。
 ビットペイのような企業は、スポット価格でのドルへの交換サービスを提供している。手数料は通常、クレジットカード会社や銀行が請求するよりもはるかに安く、特に海外からの注文の場合はそれが顕著だ。そして、ビットコインの取引は取り消しができないため、詐欺によって小売業者が損失を被る状態に置かれることもない。
 だが、カリフォルニアに拠点を置くビットコイン取引所で、ユーザーが自分のデジタル財産を保管できる「お財布サービス」を提供しているコインベースの共同開発者フレッド・アーサム氏は、ビットコインが主流になるためには、多くのことが起こらなければならないと言う。
 初めてビットコインを手に入れるのは難しい。また、ビットコインを使うのは骨が折れる。ハッカーに盗まれることもあるし、洗濯機の中のドル紙幣のように単になくなってしまうこともある。いくつかのビットコイン取引所は過去2年ほどで、盗難や崩壊に見舞われた。
 その結果、ビットコインの事業は統合が進んだ。最大の取引所が「Mt.Gox(マウントゴックス)」だ。東京に本拠を構え、2人のフランス人が運営しているマウントゴックスは、ビットコインとドルの取引の約80%を処理している。このような事業が失敗すれば、ビットコインは大打撃を受ける。
 事実、4月10日の価格急落を引き起こしたのは、マウントゴックスのソフトウエアの障害だった。その結果、多くのビットコインユーザーがパニックに陥った。
 ビットコインの法的地位も不明確だ。米国の政府機関、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は3月18日、ビットコインの取引所を規制するよう提案した。この提案は、FinCENがビットコインの取引所を閉鎖する可能性が小さいことを示唆している。
 技術的な問題も克服しなければならない、とビットコインの専門家マイク・ハーン氏は言う。ネットワークに参加するユーザーが増えるにつれ、(それぞれのビットコインの所有者を確認するために)ユーザー同士の間を流れるデータ量が増え、システムの動きが遅くなる。
 技術的な解決策が助けになる可能性はあるが、その展開は難しい。すべてのユーザーがビットコインのお財布と採掘ソフトを更新しなければならないからだ。ハーン氏は、ビットコインは自身のためにならないほど急成長するのではないかと懸念している。
リップルの波及効果
 だが、本当の脅威は競争だ。ビットコインの支持者は、法定貨幣と異なり、新しいビットコインは思いつきで創造できないと指摘したがる。確かにそうだが、新しいデジタル通貨は思いつきで創造できる。
 既に別の選択肢が開発途上にある。ビットコインによく似た「ライトコイン」がその1つだ。これまでのところ、ライトコインはごく少数の筋金入りのギークによって利用されているだけだが、これも最近価格が急騰している。噂によれば、ライトコインは間もなくマウントゴックスで取引できるようになるという。
 もう少し社会性のある代替手段は「リップル」だ。シリコンバレーで事業を次々立ち上げた起業家で、リップルを開発した新興企業オープンコインの共同創業者クリス・ラーセン氏は、リップルはビットコインよりもはるかに使いやすくなると言う。
 典型的なビットコインの取引が確認に10分かかるのに対し、リップルの取引は数秒で承認される(あるいは拒否される)。リップルの起源に謎めいたところはないし、犯罪行為やその他の怪しげな行為との関連も(まだ)ない。
 オープンコインは、5月にリップルを一般に分配し始めると見られている。同社は1000億リップルを作り出しており、この数字は決して増やさないと約束している。
 新たな通貨に弾みをつけるため、オープンコインは最終的に供給量の75%を分配する計画だ。オープンコインの口座を開設する人は全員、5リップルを受け取る。既存のビットコインユーザーはそれより多くのリップルを手に入れるという。
 オープンコインが持ち続ける25%は、リップルを強い通貨にする大きなインセンティブになる。価値が上がれば上がるほど、オープンコインが売却された時に同社の投資家が得る見返りが大きくなるからだ。4月10日、流行の最先端を行くアンドリーセン・ホロウィッツなどの一流ベンチャーキャピタル数社がオープンコインに投資したと発表した。
ビットコインが残す足跡
 リップルが勢いを増せば、さらに大きな金融機関が競争に参加するかもしれない。ビザのような企業は、安価な即時国際決済システムを構築する可能性がある、とビットペイのガリッピ氏は指摘する。そして国がアルゴリズムの通貨を発行したらどうなるだろうか?
 その時点で、ビットコインは恐らく破綻するだろう。だが、実際にそうなれば、ビットコインを生み出した人たちは、ファニング氏のようなことを達成したことになる。
 ナップスターなどのファイル共有サービスは、音楽業界に「アイチューンズ」や「スポティファイ」のようなオンラインサービスを受け入れさせた。ビットコインの価格は崩壊するかもしれない。ユーザーが突然別の通貨に乗り換えるかもしれないからだ。
 だが、恐らくは、何らかの形のデジタル通貨が金融の世界に永続的な足跡を残すことになるだろう。


 
田嶋智太郎の外国為替攻略法
2013年04月17日
2年で2%なら1ドル=120円?

4月初旬に日銀が決定した「異次元緩和」の内容を受けて、英バークレイズのチーフエコノミスト、ジュリアン・キャロー氏は「2年で2%の(物価目標)達成には1ドル=120円まで円安が進む必要がある」と述べました。今後、実際に日銀が長期国債の購入残高を2倍超の水準に増額させるならば、それに連れてマネタリーベース(=資金供給量/金融機関が日銀に預けている当座預金と市中に出回っている現金を合わせた額)もほぼ2倍となり、結果的に物価高と円安が同時に進む可能性は十分にあります。

下図に見るとおり、1982年10月にドル/円が278台円の高値をつけて以降、長らくの価格推移には、大よそ8〜9年ごとに主要な高値をつけるパターン(=サイクル)が認められています。近過去における主要な高値というのは、2007年6月につけた124円台の水準を指していることから、その8〜9年後は2015〜16年あたりということになります。つまり、それは今から約2年後のことであり、日銀が2%の物価目標達成期限としている時期ともほぼ重なります。

ちなみに、日銀は量的・質的金融緩和の取り組みについて「これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」と明言しています。つまり、2%の物価安定目標に到達したからといって、すぐさま金融緩和策の規模を縮小し、ほどなく撤退するというわけではないのです。よって、今から2年+αの期間は、基本的に円安傾向が続く可能性が高いと言うことができるでしょう。その目標水準は、やはり07年6月高値の124円台+αということになるのではないでしょうか。

今から2年後の2015年と言えば、本来、日本の消費税率が段階的に10%まで引き上げられていなければならない時期にあたります。よって当然、それまでに消費税増税実施の大前提となる「実質2%、名目3%」の経済成長率の目標達成と同水準の安定的な維持にメドがついていなければなりません。万が一にも、それが難しい状況となれば、消費税増税の目標は果たされず、財政再建の太い道筋の一つが断たれるとの懸念が強まることとなります。もちろん、それは相当に強い円売り圧力となるはずです。

加えて、2015年あたりまでの間に一段と日本の貿易赤字が膨らめば、いよいよ通年の経常収支において黒字確保が難しくなるとの懸念も強まることでしょう。ひとたび通年で経常赤字に陥ることとなれば、もはや「日本売り=円売り」の流れに歯止めがかからなくなる恐れもあります。だからこそ、アベノミクスは今後2年間、政策総動員で髪を振り乱して、経済成長、輸出促進、財政破たん回避に取り組まねばならないのであり、そのファースト・ステップとしてのデフレ克服=円高是正を何としてもやり遂げなければならないのです。

すでに、目の前の円安やそれに伴う物価上昇に嫌気を表明する向きもありますが、ここは少々ガマンしなければなりません。でないと、それこそ「目も当てられないほどの円安進行」と「悪い物価上昇」に見舞われる可能性があるからです。4月初旬の日銀の決定を受けて、英フィナンシャルタイムズ紙の社説が「実際のところ、これ以外に選択肢はなかった」と評したのも納得と言えます。

コラム執筆:田嶋 智太郎

経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役

前の記事:当面のドル/円の上値余地は限られてきた? −2013年04月10日
http://lounge.monex.co.jp/pro/gaikokukawase/2013/04/17.html

日銀金融政策決定会合におけるキーワード「2」

 4月3日、4日の日銀金融政策決定会合を受け、4月5日に長期金利は0.315%まで低下、過去最低利回りを更新しました。つまり債券価格が上昇しているということで、機関投資家が債券を多く買っているわけです。

 今回の会合では、数字の「2」がキーワードとなりました。日銀は、物価安定目標として前年比で上昇率2%を2年程度で達成するとしました。また、マネタリーベース、長期国債ETFの保有額を2年間で2倍にするとしました。こうしたことを受けて、日銀が債券を買うので債券価格は下がらないという見通しから、会合の結果が出た翌営業日に機関投資家が債券を買いに動き、0.315%まで利回りが低下したということなのです。あるシンクタンクの予測ではさらに利回りは下がるとも見られています。

 しかし一方で、最低利回りを更新した後には一旦利益を確保しようという動きが出て、債券は大きく値下がりしたのです。債券にも株のストップ高ストップ安のようなシステムがあり、これをサーキットブレーカーと言います。債券の場合は、価格が上下に1円動いたら一旦取引を止めるというルールになっています。また、このサーキットブレーカーは一度発動されると、2度目は倍の2円動いたときに取引を止めるという仕組みになっています。

 今回は一度1円下がって発動され、再び2円下がったので二度目のサーキットブレーカーが発動されました。合わせて3円、大幅に債券価格が下がったのです。債券市場はパニックにこそなりませんでしたが、この下げはある意味暴落と言えます。このようなことは過去にも珍しく、サーキットブレーカーの発動は2008年10月14日、リーマンショック以来のことです。

 その後は持ち直し、利回りが低下している債券市場ですが、このような水準での推移が続けば債券で運用する価値がなくなるのではないかという懸念が浮上します。利回りが0になってしまえば、債券価格には上昇の余地がありません。債券先物は6%が前提で運用しているので価格が形成されるのですが、実際に利回りがここまで低下すると生損保などが運用するリターンが期待できなくなってしまいます。日銀が債券を買うことによって、必然的に運用している機関投資家が日本国債では運用が成り立たなくなるのです。

 そこで、円安になってきていることもあり、機関投資家が日本国債を売り、外国債券に投資する可能性が高まってきます。ただし、機関投資家が売っても日銀が買うので、日本国債の価格は保たれます。このように機関投資家が日本国債を売って外国債券を買うことになると、円を売ってドルを買うので更なる円安に繋がると考えられるのです。

 日銀は2年間で2%のインフレを目標にした金融緩和として、国債を買ってお金を市中に流し、マネタリーベースで銀行に貸し出すお金も増やすということを言っています。しかし、実際の実需で円を売ったりドルを買ったりお金が動かないと絵に書いた餅になってしまいます。価格を支えて金利を低下させ機関投資家を運用難にさせることによって、日銀は外債に投資が向かうことを促しているとも言えるのです。強制はしないものの、運用の魅力がないことで自然と外債にお金が向かうのです。これは介入と同じようなことであり、円安を保つことができるのです。なおかつ先物やFXなどではなく、実需のお金が流れるので、実際に市中にお金が流れて円が売られるということです。

 日本から海外へのお金のシフトが起こることで更に円安になり、製造業にとっては円安効果が続くことになります。それを利用してうまく競争力を付けることができれば、日本株がまだまだ買われるという期待も一段と高まると言えます。

 これまでの日銀は、金融緩和は効果がないと言ってきたのですが、大きく方針転換をしたことによって実際に大きな効果に繋がるのか、投資家目線でしっかりと見て資産配分を考えていく必要があるでしょう。

上昇相場で見るべきテクニカル指標とは?

 日経平均のチャートを見てみましょう。上昇が続く中、どこで買っていいのか分からないという声をよく聞きます。こういう時の買いのポイントは、どのようなチャートを使うかです。

 MACDというチャートはオシレーター系といわれる上下の振幅でタイミングを測るものですが、これは売りシグナルがいろいろなところに出てくるのでこのような場合にはとても不向きです。こうしたときにポイントになるのはトレンド系のチャートを見ることで、ボリンジャーバンドの+σ(シグマ)のラインを抜いたら買うというような手法です。トレンドというのは安値を更新しないからこそ上昇トレンドがあるのです。高値を更新したり、直近の高値を抜いたりすればトレンドが上向いていることの示唆になります。

 上がっているところを買うという強気の考え方もありますし、一方、下げた後に戻し始めたら買うという考え方もあります。その時の基準になるのは5本線あるボリンジャーバンドのうち、真ん中の移動平均線や+σの線なのです。そこまで下がってきて反発したところを買っていけば基本的にはトレンドは上向きですから、仮に戻りが鈍い場合でも少し時間が経てば上がってくるので、右肩上がりの相場に付いていけるというということになります。

 注意するのは高くなりすぎたところです。ボリンジャーバンドで+2σを超えているところなど勢いはいいのですが、持っている人は売らなくてもよいものの、買ってしまうとすごく長い上ひげになっているところもあるので高値づかみをしてしまう可能性があります。また、ボリンジャーバンドの真ん中を割り込んでしまった時なども買うのは様子を見た方がよいでしょう。その後に反発してきたところを買えばよいのです。さらに、高くなり過ぎのところを買わないようにするためには移動平均線との乖離率も参考になります。52週移動平均線との乖離が30%を超えてきた時は警戒信号です。

 高値は買わず、でも相場が上昇してしまうという状況になると心理的にはどうしようかと焦り、迷ってしまうものですが、可能ならこのように上昇トレンドができる前に上向いた段階で付いていくというのが一番のポイントです。上昇トレンドができてかなり高くなっている時には、やはり短期的な考え方で買って利益が出たら一旦売るという利益確保を優先するやり方をしていかないと危険と言えます。


講師紹介

ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 講師
株式会社インベストラスト 代表取締役
IFTA国際検定テクニカルアナリスト
福永 博之
テクニカル分析講座のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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株式投資初心者の陥りやすいミス

http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20130417_140057.html


 

【第1回】 2013年4月18日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【新連載】
円安が進んでいるが、実体経済は停滞したまま
 日本銀行が新しい金融政策を決定した。今後2年間でマネタリーベースを2倍に増加させ、消費者物価指数上昇率を2%にするとしている。

 これを受けて、株価が上昇している。「円安が進行して輸出が増大する。輸出関連企業の利益が増大し、株価が上がる。日本経済は長く続いた停滞から脱却しようとしている」と考えている人が多い。

 この期待は、実現されるだろうか? 以下では、この問題について考えることとしよう。

資産価格は、実体経済の動向から
乖離してバブルを起こす

 最初に注意すべきは、「株価や為替レートは、しばしば実体経済の動向から乖離する」ということだ(このような文脈での実体経済は、しばしば「ファンダメンタルズ」と呼ばれる)。

 株価や為替レートは資産価格であり、「期待」、つまり将来の見通しに影響される。何らかの理由によって将来への期待が好転すると、ファンダメンタルズに何の変化がないにもかかわらず、価格が上昇する。価格上昇がさらに需要を増やし、投機的な取引も増えるので、ファンダメンタルズから乖離した価格上昇が続く。これが、「バブル」だ。

 それに対して、実体経済は、期待が変化しても、それによって直接に動かされることはない(ただし、まったく独立であるわけでもない。これについては後で述べる)。

 これから述べることのおおよそのストーリーをあらかじめ示すと、つぎのとおりだ。

 日本経済の現状を見ると、円安が進み、株価が高騰しているにもかかわらず、実体経済の動向ははかばかしくない。好転していると考えられる側面はほとんどなく、悪化している側面が多い。

 したがって、ここ数カ月間の株価高騰は、ファンダメンタルズの好転によって引き起こされたものではなく、将来への過大な期待が醸成されたことによるバブルであることが、ほぼ確実だ。

 もちろん、実体経済の停滞的状態が、今後も継続するというわけではない。しかし、円安や株価高騰が実体経済を改善する可能性は、今後も小さいのである。

 実体経済が改善するのは、短期・中期的に見れば、世界経済が好転して日本の輸出数量が増加する場合である。

 長期的に言えば、日本に生産性の高い新しい産業が生まれ、縮小する製造業からの雇用の受け皿になる場合だ。それこそが、日本を再生させる唯一のルートだ。そして、これは、金融政策によって実現されることではない。

金融緩和が
引き起こす諸問題

 他方で、金融緩和は、さまざまな問題を引き起こす。とりわけ問題なのは、つぎの3つだ。

 1. 円安とインフレの見通しが高まると、キャピタルフライト(資本逃避)が生じる危険がある。いったんこれが起こると、コントロールは難しい。キャピタルフライトは円安を加速し、それが輸入価格の高騰をもたらす。かくして、スパイラル的な円安・インフレの過程に落ち込む危険がある。

 2. 今回の日銀決定による国債購入額は、新規国債の発行額より大きい。したがって、「財政赤字がいくら拡大しても、日銀が買ってくれるから問題ない」という考えが支配的になる。そして、財政規律が弛緩し、財政赤字が拡大する。実際、社会保障制度の改革は焦眉の急であるが、ほとんど忘れ去られている。何らかのきっかけで金利が高騰すると、金融機関の資産悪化、国債利払い費の増大など、きわめて大きな問題が起きる。

 3. 本来必要とされる企業のビジネスモデルの見直しがなおざりにされる恐れがある。日本の電機産業は、ビジネスモデルの抜本的な再編成を求められている。ところが、赤字が予想される企業も含めて、企業業績の改善を遥かに超える株価上昇が生じている。これによって真の問題が覆い隠されてしまい、問題が深刻化する。

 以上のように判断される基本的な理由は、実体経済が改善せず、したがって資金需要が増えないと考えられることだ。そこで、今回の金融緩和の金融的側面を考えるに先立って、実体経済の動向について見ておくことにしよう。

円高の期間に
実質輸出が増大した

 将来を考えるにあたっては、いま何が起きているかを正確に把握しておくことが不可欠だ。そこで、ここ数年の実体経済の推移を見ることから始めよう。

 以下で見ることをあらかじめ要約すれば、「2012年11月以降の円安の進展は、輸出数量や国内生産に影響を与えていない」ということである。

 実体経済の動向を見るためのもっとも確実なデータは、実質GDP(国内総生産)だ。現在得られる最新のデータは、2012年10−12月期のものだ。

 ここ数年の季節調整済み実質GDPの需要項目別の推移(対前期伸び率の年率換算値)を見ると、図表1に示すとおりである。


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 まず注目されるのは、輸出の変動が、経済全体の変動に大きな影響を与えていることだ。より詳しく見ると、つぎのとおりだ。

 リーマンショック後の2008年10−12月期、09年1−3月期に、実質輸出は、それぞれ-45.3%、-68.8%というきわめて大きな減少を記録した。実質GDPが落ち込んだ大きな理由は、このように輸出が急減したことだ。

 その後、輸出は高い伸びで増加した。落ち込んだことの反動もあるが、それだけではない。

 実質輸出の実額を見ると、単なる反動とは言えないことがよく分かる。図表2に見るように、10年10−12月期(4Q)まで、実額が増加し続けたのである。これは、主として中国への輸出が増大したからだ。そしてこれは、中国が強力な景気刺激策をとったからである。


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 この時期には顕著に円高が進行したにもかかわらず、このように輸出が伸びたことに注意が必要だ(ただし、実質輸出が経済危機前のピークを回復することはなかった。これは、経済危機前の輸出が、アメリカの住宅バブルに支えられたものだったからだ)。

 輸出が増加したため、GDPの伸び率も高まった。09年10−12月期(4Q)から10年7−9月期(3Q)にかけては、とくにそれが顕著だった。

 ところが、大震災後に輸出が急減し、これがGDPのマイナス成長をもたらした。その後回復したが、12年7−9月期から、実質輸出が再び大きく減少した。

 円安が顕著になった12年10−12月期においても、輸出が減少していることに注意が必要だ。図表2の実額で見ると、12年1−3月期をピークとして、それ以降は継続的に減少しているのである。これは、中国経済の減速とヨーロッパの景気後退によるものだ。10−12月期の実質輸出は、大震災後の11年4−6月期よりさらに低い水準だ。

 震災による落ち込みをならして見れば、図表2に見るリーマンショック後の実質輸出の推移は、つぎの3つの期間に区別される。

(1)落ち込みからの回復期:10年7−9月期頃まで

(2)安定期:10年7−9月期頃から12年4−6月期まで

(3)減少期:12年7−9月期以降、最近時点まで

 しばしば、「リーマンショック後の急激な円高が日本の輸出の競争力を低め、それが日本経済回復の障害になっている」と言われた。しかし、上で見たように、急激な円高の時代に、日本の実質輸出は(大震災の影響を除外すれば)、減ったのではなく、増えたのである。

 この間に日本の実質輸出が増大した基本的な要因は、すでに述べたように、中国の経済刺激策など、世界経済のリアルな面での要因である。実質輸出に影響を与えているのは、為替レートではなく、世界経済のファンダメンタルズなのである。

 この事実は、今後を考える場合にも、重要な意味を持つことになる。

実質純輸出と実質設備投資の落ち込みが
経済の足を引っ張る

 2007年からの実質純輸出の推移を示すと、図表3のとおりだ(注)。

 経済危機によって大きく落ち込んだあと、回復して、10年には07年の水準を超えた。しかし、大震災で落ち込んだ。その後回復したが、12年1−3月期をピークとして減少している。


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 12年10−12月期の水準は、08年10−12月期や09年4−6月期より少なくなっている。11年10−12月期に比べると5.1兆円ほど少ない。これは、12年10−12月期のGDPの約1%である。これだけ総需要が減少しているわけである。

 大震災後純輸出が減少したのは、発電の火力シフトによって燃料輸入が増大し、実質輸入が増えたことが大きな原因だ。しかし、実質輸入は12年4−6月期をピークとして減少しているので、それ以降の実質純輸出減少の原因は、実質輸出の減少だ。

 なお、図表2には、民間企業設備も示した。推移は、つぎのとおりだ。

 リーマン前から減少。リーマン後はほぼ一定。10年に輸出が増えても一定。11年10−12月期に増加したが、その後減少。

 輸出が増えても設備投資が増えないことに注意が必要だ。投資をしても海外投資になってしまうのだ。これは、04−07年頃とは違う傾向である。

 12年7−9月期には、実質純輸出と民間企業設備が落ち込んだため、GDP成長率はマイナスになった。

 10−12月期においてGDPがマイナス成長を免れたのは、住宅投資が高い伸びを示したからだ。これは、復興と住宅エコポイントによるものである。

 株価は、リーマンショック直前の水準を回復した。

 実質GDPがリーマンショック直前の水準にほぼ戻ったのは事実だ。しかしそれは、政府最終消費支出と公的固定資本形成が増えたことによる。

 企業活動に関係する民間住宅と民間企業設備は、いずれもリーマンショック直前の水準を下回る。また、鉱工業生産指数も1割程度低い。

 株価に直接関係するのは、企業利益だ。これは、リーマンショック直前の水準よりかなり低い。これについては、後で述べる。

(注)現実の貿易収支は赤字になっているが、実質の純輸出(実質輸出と実質輸入の差)は、図表3に見るように、黒字だ。実質値は、基準時点を変えると値が変わるので、こうした事態になる。したがって、純輸出の絶対水準を問題にするのは、適当でない。異時点間の比較をする場合に用いるべきだ。

円安にもかかわらず、輸出数量の
対前年比マイナスが続く

 GDP統計は有用な統計であるが、タイムラグがある(2013年1−3月期の第1次速報が発表されるのは、5月16日)。

 そこで、もっと最近の状況を把握するために、タイムラグがより短いデータを見ることが必要になる。タイムラグがもっとも短いのは、貿易統計だ。

 貿易統計では、数量指数と価格指数が算出されている。数量指数は、実質輸出や実質輸入に近い。価格指数は、現地価格と為替レートに影響される。原油や食料品などを除けば、現地価格はそれほど大きく変化しないので、1年程度の期間を見ているかぎり、価格指数はほぼ為替レートの動きを反映していると考えることができる。

 輸出数量指数の推移を見ると、図表4のとおりだ。


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 12年6月以降、対前年比マイナスだ。13年2月は、対前年比-15.3%ときわめて大きい。円安にもかかわらず、輸出数量は落ち込んでいるのである。

 3月上中旬は、輸出金額の対前年比が1.9%。価格指数は20%程度のはずなので、数量の対前年比はマイナス18%程度のはずだ(速報値は4月18日に発表される)。

 なお、JETRO(日本貿易振興機構)が算出する「ドル建て輸出額」は、数量指数に近いものだ。

 13年2月は、前年比マイナス18.3%と、きわめて大きな落ち込みだ。

 この原因として、今年は春節(旧正月)が2月だったことの影響があると言われる。実際、対中輸出の対前年比は、1月に-9.2%だったが、2月には-29.2%となっている。

 ただし、寄与率で見ると、2月には、中国-5.4%、北米-2.4%、欧州-2.7%などだ。北米、欧州だけで-5.1%になる。つまり、落ち込んでいるのは中国だけではないのである。

季節調整後も輸出数量は
減少している可能性

 ただし、以上で見た数字は、季節変動を含むものだ。季節変動を除去した場合に、ここ数ヵ月間で輸出数量が減少しているのか否かは、これまで見た数字では確実には分からない。この問題の答えは、正確には、GDP統計を見ないと分からないのである。

 以下では、その数字が分かるまでの暫定的な評価を行なってみよう。

 貿易統計においても、季節調整済みの値が「参考」として算出されている。その値を現実の価格指数で割った値の推移を見ると、図表5のとおりだ。


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 円安が始まった11月には、10月に比べて大きく減少した。その後増加したが、2月に大きく低下している。水準は12年3月以降で最低だ。したがって、季節調整後の値でも、円安が実質輸出を増やしているとは言い難い。

 なお、すでに述べたように、今年2月の輸出は、中国春節の影響を受けている。しかし、上で算出した値の1月と2月の平均値0.858は、12月の数字0.872より小さい。

 したがって、季節調整後・中国の春節影響除外後でも、輸出数量は減っている可能性が高いのである。

 なお、前年に比べれば、大きく落ち込んでいることは確実だ。

 輸出数量(正確には実質輸出)が円安によってどのように影響されるかは、今後の日本経済を考える上で、重要なポイントだ。

 一般には、「輸出数量が増えないのは、一時的現象。円安が続くと、日本からの輸出の現地価格が引き下げられ、輸出数量が増加する」と考えられている。そうなるかどうかは後で検討するが、あらかじめ結論を言えば、そうはならない可能性が高いのである。

 もちろん、輸出数量が将来増加する可能性はある。しかし、それは世界経済が好転して輸入が増えた場合のことである。円安によって日本の輸出の価格競争力が高まることによって輸出が増大するという事態は、生じないと考えられる。言いかえれば、今後の日本のGDPの状況は、主として海外の事情によって決まるのであり、日本の経済政策によって決まるのではない。

12年3月以降の生産の落ち込みは止まったが、
はかばかしい回復でない

 では、国内における生産はどうか。

 この状況は、鉱工業生産指数を見ることで確認できる。


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 図表6−Aに見るように、大震災で大きく落ち込んだ生産は、2011年夏頃までに回復した。しかし、その後は頭打ちになっていた。そして、12年3月以降は、低下に転じた。6月に若干上昇したことを除けば、継続的に低下していた。

 12年12月になって上昇したが、継続的な上昇過程に入ったわけではない。2月は、わずかながら1月より低下している。

 12年3月以降の低下が顕著であったため、現在の水準は、前年に比べると大幅に低い。13年2月の指数は、12年2月の指数より5.7%ほど低い。

 大震災の影響をならしてリーマンショック後の状況を見ると、つぎのとおりだ。

 (1)落ち込みからの回復期:2010年4月頃まで
 (2)安定期:10年1月から12年4月まで
 (3)低下期:12年3月頃から12年9月まで
 (4)下げ止まり期:12年9月以降

 先に見た実質輸出の動向(図表2)と比べると、つぎのとおりだ。

 (2)の安定期の始まりは、輸出より若干早い。
 (3)の低下期の始まりも、輸出より若干早い。
 (4)の下げ止まりが実質輸出でも生じているのかどうかは、はっきりしない。しかし、9月は円安が始まる前なので、鉱工業生産における「下げ止まり」が円安の影響とは考えられない。

 なお、2012年1月以降の状況は、図表6−Bに見るとおりである。

 13年1−2月の平均89.1は、10−12月の平均87.8より1.2%ほど高くなっている。年率にすれば、4%程度になる。実質GDPがこれに比例すれば、年率4%程度の上昇だ。


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 これは円安の影響か?

 そうとは考えられない。なぜなら、第1に、上で述べたように、「下げ止まり」は、円安の始まる以前に生じている。第2に、もし円安の影響なら、2月は1月より増加したはずだが、そうはなっていない。

 このように、国内生産に関しても、円安が影響を与えている兆候は見られない。

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安倍政権による金融緩和策が経済再生の「魔法の杖」のごとく喧伝されているが、いかに追加緩和がなされようと、デフレ脱却は見込めない。安易な緩和策は問題を先送りする「麻薬」でしかなく、その先に待っているのは、財政規律の弛緩と制御不能なインフレである。日本経済論の第一人者が金融政策の限界を検証する。

〈主な目次〉
第1章 金融政策はどう行なわれるか
第2章 効果がなかった量的緩和
第3章 大規模為替介入と円安バブル
第4章 日銀による財政赤字のファイナンス
第5章 金融緩和でデフレ脱却はできない
第6章 世界を混乱させるアメリカ金融緩和QE
第7章 金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界
第8章 金利高騰は大問題
第9章 財政赤字と金融緩和で国家は破綻する
http://diamond.jp/articles/print/34876

2013年4月17日 ザイ編集部
【マーティン・ツバイクに学ぶ】金融政策の大きな変更は長期トレンド転換の重要なサインとなる!
マーティン・ツバイクの巻【第2回】
トレンド判断の名手は大暴落の回避も上手い


マーティン・ツバイク/米国で最も著名な株式市場アナリストの1人であり、市場トレンド分析の第一人者。約1兆円の資金を運用するという著名なファンドマネジャーでもある【イラスト/南後卓矢】
 トレンド判断の名手マーティン・ツバイクは、上昇トレンドに乗ることには、もちろん長けているが、彼のさらに凄いところは、下降トレンドや暴落を避けることが上手いことだろう。

 たとえば、1987年10月下旬、米国ではブラックマンデーと呼ばれる株価大暴落が起き、NYダウは2週間で2600ドル台→1700ドル台と約35%下落した。

 しかし、ツバイクは、この暴落の直前に市場から警戒サインを読み取り、株の買いを手控えたばかりか、保険のつもりで買ったプット(株価が下落すれば儲かる金融商品)が大幅上昇して利益を手にすることとなった。

2年ぶり金融引き締めが株価暴落のサインに

 ツバイクが暴落の可能性を察知した手がかりは、「金融政策」にあった。

 この87年の状況を振り返ると、1月から8月にかけてNYダウが1900ドル台→2700ドル台と大幅に上昇していた。そして、株式市場が熱気に包まれる中、FRB(米国の中央銀行に当たる機関)は、9月初旬に政策金利(当時は公定歩合)を5・5%→6・0%と引き上げた。これは、「約4年ぶりの金融引き締め」であった。

 ツバイクは、大きな金融政策の転換は、株価トレンドを転換させる最重要な原因と考える。ここで、ツバイクの考える「大きな金融政策の転換」とは、
・ずっと続いてきた金融政策の方向性(緩和か引き締め)が逆方向に転換する
・2年以上ぶりに、金融緩和か金融引き締めが行なわれる
ということだ。

 つまり、「約4年ぶりの金融引き締め」は、ツバイクにとっては極めて重要な警戒サインだったのだ。そして、実際に、この警戒サインは見事的中することになったのだ。

日本株の大転換点でも金融政策がサインに

 こうした金融政策と株価についての経験則は、日本株の歴史を振り返っても当てはまるケースが多い。

 たとえば、80年代の歴史的なバブル相場においては、89年12月の3万8000円台というピークに向かうさなかで、89年5月に「約9年ぶりの金融引き締め」(このときは公定歩合引き上げ)が実施され、その後、10月、12月と連続して金融引き締めが実施された。そして、90年1月からバブル相場の大崩壊がスタートした。

 また、2000年初旬をピークとするITバブルについても、同年初旬に「コンピュータ2000年問題に備えて大量に供給していた資金を吸収する」という形で、実質的な金融引き締めが行なわれ、その後、ITバブルが崩壊し始めた。さらに、同年7月には「ゼロ金利政策の解除」という金融引き締めが行なわれ、バブル崩壊を加速させた。

 逆に、98年9月には「コールレートの誘導目標引き下げ」という形により約3年ぶりの金融緩和が行なわれたが、その後、日経平均は同年10月の1万2000円台を底に上昇に転じ、1年半後に2万円を突破した。

 以上のように、金融政策には政策金利変更や量的緩和など様々なものがあるが、投資家としては、政策の方向性(緩和なのか引き締めなのか)を意識し、それが2年以上ぶりに転換されるなどの重要な動きがあれば、株価トレンドの転換のサインではないかと考えるべきだろう。

(文・小泉秀希 『ダイヤモンド・ザイ』2004年1月号より転載)
http://diamond.jp/articles/-/34640?page=2


 
【第65回】 2013年4月18日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
アベノミクスがまだわからない人へ
 アベノミクスは金融政策がすべてといってもいい。そのキモは驚くほど簡単だ。ひとことでいえば、デフレ予想からインフレ予想への転換だ。人々のインフレ予想率を高めるわけだ。

ポイントはインフレ予想

 どういう経路をたどるかと言うと、マネタリーベース(中銀当座預金と中央銀行券の合計)を増やすとインフレ予想が高まる。すると、実質金利(名目金利マイナスインフレ予想率)が下がり、株価(株高)と為替(円安)に効く。これは早く出る。今はその最中だ。円安になると輸出は半年から1年半ぐらいの間に増加し、株高になると消費は半年から1年半ぐらいの間に上向く。

 実質金利が低下するので、設備投資は半年から2年ぐらいの間に伸びる。輸出、消費と設備投資が伸びてくると、ようやく物価や賃金が上がる。ここまで約2年間だ。設備投資について、企業は内部資金を最初に使うから、外部資金を借りるまでには時間がかかるので、3年ぐらい経たないと貸出は増えない。そうなると金利も徐々にあがるだろう。

 ここで、ポイントになっているのは、マネタリーベースを増やすとインフレ予想が高まるということだ。実質金利が下がると、円安、株高になるのは従来の経済理論でもわかる。輸出、消費、設備投資が伸びるのも、従来の経済理論だ。要するに、マネタリーベースを増やすとインフレ予想が高まるのかという点だけが、ちょっと怪しいところだった。

 筆者は、こうしたメカニズムを1998年から2001年までプリンストン大学で学んだ。あとでクルーグマンに聞いたら、プリンストンは金融政策の研究ではトップで、世界的な権威が集まっているとのことだった。彼は冗談めかして、プリンストンはインフレ目標陰謀団の本拠地であるといっていた。毎週開かれる金融政策のセミナーで、ベン・バーナンキ、アラン・ブラインダー、ウィリアム・ブランソン、マイケル・ウッドフォード、ポール・クルーグマンらは、日本をやり玉にあげながら、喧々諤々の議論をし、日本のデフレへの処方箋を語り合っていた。

 世界トップクラスの経済学者がいうのだから、3年間は貴重な体験だった。2001年に日本に帰国した筆者にとって、学術的な議論はもう必要なく、早く実行すべき政策課題だった。

インフレ予想を「可視化」する

 それには、インフレ予想を「可視化」しなければならない。小泉政権では竹中平蔵経済財政担当相がマクロ経済を担当していた。竹中さんとは二十数年来の旧知の仲だ。アメリカに留学するときもアドバイスを受け、竹中さんとアメリカでも会っていた。

 竹中さんもアメリカの最新事情を知りたがっていた。そこでプリンストン大学時代の金融政策の話をして、そのための第一歩として、インフレ予想の「可視化」のために、以下に述べるような物価連動国債(元本償還額が物価上昇率に連動して増減する国債)の導入を提言した。

 当時、まともな金融政策を日銀にさせるためには、経済財政諮問会議は有用だと思っていた。竹中さんが同会議を仕切っており、そのメンバーに福井俊彦日銀総裁がいたからだ。

 とくに量的緩和がインフレ予想に与える影響を分析しようとしたのだが、インフレ予想を正確に把握するのは簡単ではない。アンケート調査では、調査対象者が依頼者にこびた意見をいってしまうおそれがある。そこで、アメリカその他の国では物価連動債があって、特にアメリカのFOMC(連邦市場操作委員会)は、物価連動国債の利回りと普通の利付国債の利回りの差から、インフレ予想を把握していることを知っていたので、日本でも物価連動債を導入すべきだと考えて、01年12月の経済諮問会議の資料に物価連動債のことを書いた。

 つまり、インフレ予想の「可視化」だ。勝手に、新型国債の導入を経済財政諮問会議が決めると、財務省は怒りまくっていたが、当時の理財局長に「悪いことではないのだから」と掛け合って、03年にようやく導入が決まった。リーマンショック後、発行が停止されたが、アベノミクスとともに発行が再開される予定だ。

 2003年3月から日銀は量的緩和を実施していた。おっかなびっくりの慎重な運転なので、マネタリーベースとインフレ予想の関係が出るか出ないか、心配だった。しかも、まだ物価連動債がない状況で量的緩和の経済効果を測定するのは難しかったが、カールソン・パーキン法という特殊な方法を使って日銀短観からインフレ予想を抽出してみたら、日銀当座預金の増加率とそれから半年後のインフレ予想が極めて正確に連動していることが判明した。

 これは、日本で初めての量的緩和の効果計測だったと思う(『週刊東洋経済』2005年6月4日号)。「量的緩和には効果がある。もっとやるべきだ」と言って、当時の福井俊彦日銀総裁(03年3月〜08年3月)にも伝わったはずだ。

デフレは回避できた

 今では、リーマンショック後、欧米で量的緩和が行われたので、マネタリーベースの増加とインフレ予想の増加に、一定のラグで対応関係があるのは世界各国で観測されている。大恐慌でマクロ経済学が発達したように、リーマンショックという大きな経済ショックと各国の対応が、その国の経済パフォーマンスをわけるので、ある意味で壮大な社会実験となって、デフレの経済学の理論的基礎やデータが集まっている。

 アメリカに「IGM Forum」という、何十人もの著名な経済学者に経済の疑問を尋ねるサイトがある。1月29日付けのページで、「日本のデフレーション」と題して「97年以来から続いている日本のデフレーションは、日銀が異なる金融政策を採っていたら、回避できた」という意見に賛成か反対かを学者たちに尋ねている。

 結果は、「強く賛成する(strongly agree)」が21%、「賛成する(agree)」が32%で、賛成が50%を超えている。「反対する(disagre)」はわずか3%。残りは、「はっきりしない(uncertain)」が16%、「わからない(no opinion)」が18%で、日本のデフレの状況をよく知らないから、答えられないという学者もいるだろう。自分の意見には10段階で自信度を付ける欄があり、それを加味した結果は、実に79%が「強く賛成」「賛成」となっている。「わからない」が16%、「反対」はわずか5%だ。

日銀が資金調達難に陥るという誤認

 筆者が十数年前にプリンストン大学で聞いた話は、今ではもう論争の対象ではなく、常識だろう。ところが、日本では、まだ量的緩和がわからない人がいる。一般の人ならわかるが、アカデミックの世界なのだから驚く。

 4月16日の日経経済教室の斎藤誠・一橋大教授の「資金、実体経済に回らず」だ。アメリカだったら反対5%の類だ。

 間違いが少なくないが、中でも「民間銀行がより有利な資金運用先を求めて日銀当座預金から資金を引き出してしまえば、日銀が資金調達難に陥り、国債を売却せざるをえなくなる」は酷い。

 ある銀行が当座預金を引き出して有利な有価証券を購入すると、その有価証券を売却した別の銀行の当座預金に、はじめの銀行の当座預金から購入代金が移るだけで、トータルの当座預金は変わらない。一体どうなったら、日銀が資金調達難に陥るのか説明してほしいくらいだ。

 こうした基本的な事実は、今度の日銀副総裁になった岩田規久男氏が学部学生に教えている内容だ。その程度を知らずに、日銀の金融政策を論じているので、金融関係者を含めて多くの人はのけぞったに違いない。

 実は斎藤氏は過去にも似たようなことがある。数学モデルを使って、デフレはブラックホールのようになって、金利がゼロだといくら金融緩和しても効かないと主張したのだ。筆者は数学系出身なので、数学モデルを一見して金利ゼロでも金融緩和するとデフレから脱却できるパスを見つけて、それを経済雑誌に投稿した(『経済セミナー』2003年5月号)が、その時の返事はまだない。

 世界から十数年遅れている日本の経済学者は、まずは、日銀で岩田副総裁の講義を受けてから、日銀の金融政策を論じたほうがいいのではないだろうか。

 まともなインフレ目標や量的緩和については、日本は先進国でビリの導入だ。いろいろな疑問があっても、先行例のバーナンキ・FRB議長やキング・イングランド銀行総裁に聞けば、すぐ答えが出るはずだ。量的緩和で中央銀行が資金調達難になるといったら、彼らは笑い転げるだろう。
http://diamond.jp/articles/print/34836


【第149回】 2013年4月18日 桃田健史 [ジャーナリスト]
TPP自動車交渉で、日本は完全不利に!
軽自動車税制も標的にしかねないアメリカのワガママ
日米TPP事前交渉で合意するも
自動車項目で不釣り合いな妥協案


日本政府がTPP交渉で、日米の事前協議合意を発表した2013年4月12日当日の霞が関官庁街。TPP交渉を踏まえて今後、具体的な産業育成政策を進めるのは、写真の経済産業省になる Photo by Kenji Momota
「今般、わが国のTPP交渉参加において日米が合意を致しました。わが国の国益を実現するための本当の勝負はこれからであり、最強の態勢のもと1日も早くTPP交渉に参加をし、かつTPP交渉を主導していきたい」

 2013年4月12日(金)の夕方、安倍晋三内閣総理大臣はそう発言した。

 同日公開された日米でのTPP交渉に関する事前協議の合意文書のなかに、今年2月の日米首脳会議以来、注目が集まっていた自動車に関する項目がある。

 その概要は、日本側はいわゆる「非関税障壁」で、自動車輸入に対する手続き等での規制緩和(詳しくは後述)をする。対するアメリカ側は、現在、乗用車に2.5%、トラックに25%の輸入関税を「TPP交渉における最大限度期間で段階的に撤廃」するとした。ここでいう最大限度期間は、日本のマスコミや自動車業界関係者の間では「米韓FTAより長い期間」、つまり「概ね10年間」と解釈されている。

 こうした合意内容について日本のメディアは、「丸呑み」「先送り」または「棚上げ」といった表現で、日米間での不釣り合いを指摘している。

 そうしたなか本稿では、具体的なデータを見ながら、「なぜ今回、このような日米で不釣り合いな合意がなされたのか?」、そして「これからどうなるのか?」について考えてみたい。

対米輸出は重要だが…
自動車業界は「総合的な見地」で判断

 日本にとってアメリカは、最大の自動車輸出先だ。


図1 四輪車の仕向地別輸出台数推移(4〜3月期)  出所:日本自動車工業会 拡大画像表示
 日本自動車工業会によると、2011年度の日本の四輪車輸出台数は446万4413台。そのうちの32%にあたる142万6833台がアメリカ向けである(図1)。また、同2位はロシア(35万2689台)、3位はオーストラリア(33万7903台)、そして4位が中国(22万4888台)と続く。

 輸出台数全体の年度別変化を見ると、2005年度から2008年度にかけて急上昇し、リーマンショックを受けて2009年に急減。2010年度は回復するも、2011年度は東日本大震災とタイ洪水の影響で再び落ち込んだ。そうした増減のなかで、最大輸出先のアメリカ市場の動向が大きく影響している。

 2012年の輸出については、アメリカ市場が高級車市場を中心に内需が拡大しており、暦年(1〜12月)でみると、乗用車が167万7516台、トラックが2万636台となった。

 こうした状況を考えると、今回日本がTPP事前交渉において合意した、乗用車に2.5%、トラックに25%の輸入関税の「TPP交渉における最大限度期間で段階的に撤廃」は、日本にとってはネガティブ要因だ。

 自動車産業界全体としてもそう見ている。

 トヨタ自動車代表取締役であり、日本自動車工業会・会長の豊田章男氏は2013年4月12日、「環太平洋パートナーシップ事前協議妥結について」とし、次のようなコメントを発表した。

〈去る3月15日に、安倍総理が、TPP交渉参加の意思表明を行なった際、自動車業界としても歓迎の意を表明したところである。日本のTPP参加は、日本経済再生の鍵であり、アジア太平洋地域のルール形成、他の経済連携への進展にも大きく貢献するものであり、出来るだけ早期に交渉に参加することが重要と考えている。

 今般、TPP交渉参加に関する米国との事前協議の結果、関税の撤廃時期については残念であるが、TPP交渉への早期参加の重要性など総合的な見地から、一定の合意に至ったと承知している。

 日本政府には、今後とも自動車業界の要望を踏まえつつ、我が国の国益の一層の増進の観点から交渉に臨んでいただくことを期待したい。また、今後の協議において、日本の市場閉鎖性について、米側の根拠のない誤解を解くとともに、両国の消費者にとって建設的な協議が行われることを期待したい。〉(原文ママ)

 ここでいう「総合的な見地」には、2つの意味があると考えられる。

不利な条件を許容した
日本自動車産業界の内情

 ひとつは、自動車分野で「一歩譲る」ことで、アメリカが日本のTPP参加許可に大きく動いた、ということ。これにより、日本経済の再生が進む、ということだ。


本田技研工業・東京青山本社1F正面玄関前。販売好調の軽自動車「N Box」、「N One」が並ぶ Photo by Kenji Momota
 もうひとつは、自動車産業界の内部の事情に関することだ。先に紹介したように、日本からアメリカへは四輪車の輸出量が多い。だが、トヨタ、ホンダを筆頭に今後、米国での販売車は、北米内で企画・設計・部品調達・生産と一括化する方向にあり、日本からの輸出は減る傾向にある。

 さらにはメキシコからアメリカへの日本車完成車の輸出増大により、日本からアメリカ向け輸出数が減少する。具体的には、日産は2013年12月にメキシコ中部のアグアスカリエンテス州アグアスカリエンテス市に年産17万5000台、従業員数3000人規模の第三工場を稼働させる。サプライヤーパーツを備えた広大な敷地で、その投資額は20億ドル(約2000億円)にも及ぶ。

 ホンダはグアナファト州セラヤ市2014年から年産20万台規模、投資額8億ドル(約800億円)で次期「フィット」やその派生車のMPV(マルチ・パーバス・ヴィークル)を生産する。またマツダも2013年中にグアナファト州サマランカ市で、「デミオ」等の工場を稼働させる予定だ。

 この他、アメリカ向けの生産拠点としては、トヨタ、ホンダがカナダを活用している。そこに、生産コストの安いメキシコを連携させることで、NAFTA(北米自由貿易協定)の枠内で、アメリカ向けの完成車・及び自動車部品の物流が活性化していくのだ。

 こうした「総合的見地」では、アメリカで日本車を売ることと、アメリカが日本からの完成車輸入に課する税率とが、直結しなくなる。

 この他、メキシコからの南米向け輸出も「総合的見地」に絡んでくる。マツダとホンダに関しては、当初計画ではメキシコ工場はブラジル向け輸出拠点としても考慮されていた。だが、ブラジル政府は2012年3月、メキシコからの輸入車急増に伴い、FTA締結内容の一部修正を実施。2012〜2014年まで輸入総額に上限を持たせた。2015年以降はその上限を撤廃するとしているが、新たなる修正が行われない保障はない。そのため、日本車メーカー各社はブラジル市場戦略を大幅に見直すこととなった。

 さらに南米では、TPP参加国にチリとペルーが含まれており、同じく南米のブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ベネゼエラで形成する自由貿易協定のメルコスール(南米南部共同市場)と、今後どのように連携をしていくのかが注目される。日本車メーカーは南米大陸全体を「次世代の成長市場」と見ているのだ。

 では次に、豊田章男氏が指摘した「米側の根拠のない誤解」への対応について、見ていきたい。

実需アップに結びつかない
カタチだけの規制緩和

 今回のTPP事前交渉での日米合意発表に連携し、太田昭宏・国土交通大臣は同発表と同日、「輸入自動車特別取扱制度(PHP)の年間販売予定上限台数の引き上げ」(PDFはこちら)を発表した。

 それによると、「今般、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に係る日米での事前協議の中で、PHPの一型式当たりの年間販売予定上限台数(2000台)の引き上げが取り上げられたことや、欧州車で年間販売台数が上限に近い約1800台のものが存在することを踏まえて、自動車の輸入の際の負担軽減の観点から、PHPの一型式当たりの年間販売予定上限台数を5000台に引き上げることとしたのでお知らせします」(原文ママ)とある。

 この規制緩和は確かに、「非関税障壁」の一部かもしれない。だが現時点で、アメ車の日本国内販売量は極めて少なく、今回の「台数引き上げ」が日本でのアメ車実需アップに直結するとは、到底思えない。


図2 輸入車販売台数推移 出所:日本自動車工業会 拡大画像表示
 輸入車全体でみると、その販売総数は20〜25万台程度で推移している(図2)。

 アメ車の日本国内需要については、本連載第146回でも触れたが、日本自動車輸入組合が2013年4月4日に発表した最新データ(2012年度:2012年4月〜2013年3月)から、その詳細をご紹介しておく。

 それによると、輸入車総数は前年比108.9%の32万1292台。このうち、タイからの日産「マーチ」、三菱「ミラージュ」など日本メーカー車を除く、外国メーカー車が24万5679万台だった。そのなかで、ブランド別でアメリカ系トップは、12位のジープ(4956台)、15位のフォード(4009台)、20位のGMシボレー(1443台)、21位の同キャデラック(1351台)などで、アメ車の合計は1万4210台。全輸入車に占める割合は、4.4%に過ぎない。

 一方、アメリカ市場を見ると、直近の2013年1〜3月期、乗用車とライトトラック(SUV等含む)の販売総数は前年同期比で6.4%増の368万8662台だった。このうち、日本車はトヨタがGM、フォードに次ぎ、シェア14.4%。それにホンダが9.2%、日産が8.6%と続き、日本車メーカー全体でのシェアは37.4%だった。(Wall Street Journal Website / Market Data Center公開データより)。

 日本でのアメ車、アメリカでの日本車の市場での存在感には、あまりにも大きな差がある。こうしたなか、本連載第146回でも説明したように、少々な規制緩和をしただけでは、日本でアメ車の販売量が急増することはない。

 結局、今回の「輸入自動車特別取扱制度(PHP)の年間販売予定上限台数の引き上げ」は、ほとんどアメリカ側の直接的メリットにはならない。逆に言えば、アメリカに対して「非関税障壁の存在」を知らせてしまったに過ぎない。

 しかし、TPP交渉の事前協議全体を見るなかでは、日本側が「なんらかのカード」を切る必要があり、そのなかで「痛みが少なくて済むカード」を切った、といえる。

今後、何を言ってくるか分からない
「交渉」に対する日米の意識の大差

 今回の事前交渉は、自動車については「難しいこと、細かいことは、この後、実際の交渉が始まってから随時考えていく」というカタチを取った。だが、よくよく考えてみれば、自動車関連案件はTPP参加11ヵ国共通の重要案件ではなく、あくまでも日米間での懸案である。したがって、日本がTPP交渉に参加した後でも、自動車案件は日米二国間FTAのような協議の進め方になると思える。

 そうしたなかで、アメリカは自動車関連案件については、これまでの事前協議と同様に、交渉相手を「ほぼ日本一国」に絞って、「非関税障壁」という不明瞭な領域で、様々な注文を突きつけてくるだろう。


ダイハツ本社(大阪府池田市ダイハツ町)1階ショールーム。第三のエコカー「ミラ・イース」の他、「ココア」、「ムーヴ」、「タント」が並ぶ Photo by Kenji Momota
 そのなかで、アメリカが標的にし易いのが、軽自動車だ。税制優遇や、車両規格において日本市場ガラパゴスの象徴だからだ。

 果たして日本側は、アメリカの「根拠のない誤解」というワガママを、どこまで受け入れていくのか?

 その過程で、自動車関連案件とは直接関係のない、農業や医療など日本国内市場の最重要領域を守るため、自動車関連領域でどのカードを切っていくのか?

 はたまた日本側は、日本のお家芸である「外圧を利用した国内市場改革」を、国内自動車産業界に求めてくるのだろうか?

 さて、最後にひとつ。

 そもそも、アメリカ人と日本人、「交渉」とか「話し合い」というモノについて、基本的な考え方が違う。

 アメリカ人は、「自己主張することは、損をしない」と言う。日本的にいえば「聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という姿勢だ。しかも、この度合いが物凄く強い。

 一方、日本人の基本姿勢は「口は災いの元」、「言わぬが花」、さらには、場の空気を読み過ぎてしまうきらいがある。

 先日、米国の大手ITメーカーの元日本法人社長と、ある行事の際に名刺交換をしながら話した。そこで彼は、若い人を含めて日本人は(英語力の有無によらず、体外的な)「コミュニケーション下手」が大きな問題だと指摘していた。

 TPP交渉、今年7月から本番。日本側は、政府だけでなく、民間企業も国民自身も気を引き締め、「国益を守ることとはどういうことなのか?」を熟慮し、「真の交渉」を進めていかねばならない。

【第179回】 2013年4月18日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授]
TPPはあくまでも経済・貿易問題
外交・安保を意識し過ぎてはいないか?
 TPP交渉参加に向けての日米の事前協議が決着。日本は7月の全体交渉会合から参加できる見通しとなった。

 それにしても、日本は米国に譲り過ぎたのではないか。特に自動車では、米国の関税撤廃は「最大限後ろ倒し」となり、10年以上経ても維持される恐れがある。

 米国の自動車関税の撤廃は、TPP推進論者の象徴的な案件で、「TPPに参加しなければ、自動車で韓国などにかなわない」と叫んできた。

 どうしてこうなったのか。「そうしなければ農産5品目を守れない」という声も聞こえてくる。しかし、こんなことでは農産5品目も危うくなる。

政治的、外交的意義が
垣間見られるTPP参加

 私が気になるには、安倍晋三首相と日本政府が、TPP参加の政治的、外交的意義を必要以上に重視しすぎているのではないかということ。安全保障面での意義を過大に意識し、考慮しているように見えることだ。

 2月の日米首脳会議で、安倍首相はオバマ米大統領にTPP参加の意向を明言した。そしてその後、幾度も安全保障上の意義が大きいことを強調した。

 首相が言う安全保障上の意義とは何か。

@まず、普天間移設問題で米国に迷惑をかけているから、TPPで譲って、日米同盟を再構築する。

A中国抜きの経済圏、貿易圏を築き、中国の政治的、経済的、軍事的な勢力拡大を牽制する。

B将来は米国が東太平洋諸国の盟主、日本が西太平洋諸国の盟主となって環太平洋地域の共同体を形成する。

 そんな思惑が背景にあるように見える。

 確かに、現在の無謀な北朝鮮、領土欲をつのらせる中国など、日本の安全保障環境は、かつてなく緊迫している。日米の強い信頼関係が今ほど試されているときはない。

 だが、だからと言ってTPPで弱腰になる必要はない。基本的には経済・貿易と外交・安保は切り離して考えればよいのである。

 どうやら、日本の主役は、経産省というより外務省なのだろう。だから、経済・貿易よりも、外交・安保を重視している印象を受けるのだ。

 首相はまた「国益を守る」とも強調している。一大臣なら1つの分野の国家的利益を意味するが、首相が言えば、外交、安保から経済に至るまでの総合的な国益を意味することになる。それではどうしても外交や安保の比重が高くなってしまう。

 この際、首相は一歩引いて経産省と甘利担当大臣にすべてを任せたほうがよい。米国が通商代表部なのだから、こちらも経産省の通商部門がよい。外務省が実質的に主導しているような印象を内外に与えると逃げ道がなくなってしまう。

 交渉は言うまでもなくお互いのエゴが激突するもの。相手に1つ譲ろうとして臨めば、結果的に2つも3つも譲ることになる。米国に配慮し過ぎる外務省が仕切ると、譲歩に譲歩を重ねることになりかねない。

 貿易で弱腰な国は、安全保障でも弱腰になる。そういうものではないか。
http://diamond.jp/articles/print/34837  

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コメント
 
01. 2013年4月18日 18:34:59 : xEBOc6ttRg
http://econdays.net/

金利と金融政策についてのコメント BY SCOTT SUMNER
サムナーのブログから、“Further comments on interest rates and monetary policy”(5. April 2013)を紹介。誤訳指摘はコメント欄によろしくです。

私が金融政策と金利をどう見ているのかについて、読者たちはまだ混乱しているようだ。まず、このテーマについての私の過去の発言を読者が理解したと思うべきではないだろう。この問題はとても微妙かつとても反直観的で、しかも私は才能ある書き手ではないから。そこでまず何が実際に正しいかを確認し、次に私の過去の発言を検討する形にしてみよう。

1. 金利は金融政策の信頼できる指標ではない。これは100回言った。

2. NGDP成長は金融政策の信頼できる指標である。これも100回言った。

3. 長期名目金利はNGDP成長率およびNGDPのトレンドからの乖離水準に強く相関する。これもしょっちゅう言ってきた。では、NGDPが信頼できて同時に長期金利がNGDPと強く相関するならば、それが信頼できない理由は? それは長期金利には他のさまざまな要因の影響を受けるからだ。グローバルな貯蓄や投資の動向などである。それでもしばしば長期金利は金融が緊縮的であったかどうかのよい指標になっている。

4. ここで混乱が忍び込む。1970年代の高金利はNGDP成長を引き上げた金融緩和の産物だったと言ったと思う。もし債権利回りが15%である時にはそれが1%であるときよりも金融は緩和されていたとする方に賭けるべきだろうともしばしば言った。読者はこれを、高金利はいついかなる場合にも金融緩和の指標であると受け取ったかもしれない。が、そうではない。金利はNGDP成長(と水準)に相関するのでふつう高金利は金融緩和を示すものだが、完璧な相関にはほど遠い。

以上は長期の傾向についての議論。ところが金融政策のアナウンス直後の市場の反応を見るときには、これとは完全に異なる問題が浮上する。

5. 私は金融緩和のサプライズは長期債券利回りを引き上げ得るし、また引き下げ得るとも主張している。数字の例を挙げて説明するとわかりやすいだろう。

仮に中央銀行による大量の債権購入のアナウンスが流動性効果により債券利回りを20ベーシスポイント下げるとしよう。他の影響がなければ債券利回りは下がることになる。しかしこの政策がNGDP成長期待を引き上げるかもしれない。この要因によって債券利回りはどの程度上がるだろうか。それは1ベーシスポイントと1000ベーシスポイント、いやそれ以上の間のどこかだ。つまり、二つの影響のを合わせると利率は19ベーシスポイント下がることもあれば980ベーシスポイント上がることもある。

もしも債権購入が中央銀行の効果的ではないジェスチャーだと見做されたならば、つまり中央銀行はNGDP成長経路を劇的に変えるまでの積極性は追求しないだろうと見做されたならば、名目金利は下がるだろう。つまりNGDP成長を最低でも20ベーシスポイント引き上げないと金利は上がらないのだ。逆にもしこの行動が1979-81型の二桁のインフレを引き起こすと見做されれば債券利回りは上昇する。もしFedが高いNGDP成長期待を計画すれば、それは再び起こり得る。

6. さらに悪いことに、ゼロ制約が物事をさらに混乱させている。日本におけるヴィクセルの均衡金利は十分にゼロ以下だとみられるので、NGDP成長期待をささやかに押し上げても単にそれをゼロに近づけるだけで名目金利は上昇しないのだ。

したがってこの構図には苛立たしいまでの曖昧さがあるのであるが、あいにく世の中はそういうも。私、そして日本の債券市場も日本銀行がNGDP成長させるのかどうかを判断する方法がよくわからないのだ。流動性効果の大きさについてはある程度の確かさがあるものの、所得効果とインレーション効果の不確実性がきわめて大きい。そんな不確かな環境下での期待利回りは、政府筋が発する将来の政策意向に関するヒントに反応し不安定なものになるだろう。これが今現に起こっていることのように見える。債権利回りはまず急落し、その後上昇した。それがどんなニュースを反映したものであるか私にはわからないが、不確実性が大きいうちはそれほど大きくは動かないだろう。ビットコインのようなものだ。

7. 私はよくこのブログで金融政策に金利が反応して「間違った方向」に動くケースを強調してきたが、これは「金融緩和はいつも低金利をもたらす」という読者の誤った思い込みを揺り動かしたいからだ。また債券市場が常に政策アナウンス通りに動くと論じたことは決してない。私は逆の反応の例(Jan. 2001, Sept. 2007, Dec. 2007)を強調するのは、それは金融緩和のアナウンスに対し金利が常に下落するわけではないことを示すためなのであって、金融緩和アナウンス後にいつも金利が上がると主張するためではない。それは不合理だろう。

まとめ:

1. 長い目で見ると長期金利はGDP成長(とその水準)を非常によく追いかける傾向がある。だからこの話題に関して低金利は金融引き締めに等しいというある種の一般化をよくやってきた。日本はまだ金融を引き締めている!彼らの期待NGDP成長は低い、というように。そして彼らの金利は依然として低い。

2. 金融政策のアナウンス直後の市場の反応については、その予測は大変難しいが、有益ないくつかの原則があるといつも主張してきた。将来の政策経路を劇的に変えそうなアナウンスは、一度限りの貨幣注入に終わりそうなそれよりも、債券利回りの「逆の」反応を呼ぶことが多い。もっと多くのことを言えればいいが、私もしょっちゅう皆さん同様に混乱するのだ。


voxwatcher • 12日前
翻訳お疲れ様です。

>つまりNGDP成長を最低でも20ベーシスポイント引き上げないと金利は上がらないのだ。
「NGDP成長を」ではなくて、NGDPの急速な成長期待によって少なくとも20べーシスポイントだけ金利が上昇するようでないと、結果として(流動性効果と所得・インフレ期待効果との総合的な結果として)金利は上がらないのだ、ということだと思います。

>私、そして日本の債券市場も日本銀行がNGDP成長させるのかどうかを判断する方法がよくわからないのだ。
"how determined the BOJ is to raise NGDP growth"というのことなので、「私、そして日本の債券市場も日本銀行がNGDPの成長加速に向けてどれだけやる気があるのかよくわからないのだ」、ということだと思います。

>また債券市場が常に政策アナウンス通りに動くと論じたことは決してない。
「また債券市場が政策アナウンスに対して常に同じ反応を見せる(同じ方向に動く)と論じたことは決してない。」、ということだと思います。すぐあとにあるように、金融緩和のアナウンスに対して金利が低下することもあれば、上昇することもあるのであって、「金融緩和のアナウンスに対して常に金利は上昇する」(=債券市場が政策アナウンスに対して常に同じ反応を見せる)なんて言った覚えはない、と。

 


「15年ものタイムロス−ついに聞き入れられたフリードマンのアドバイス」 BY LARS CHRISTENSEN
以下は、Lars Christensen, “15 years too late: Reviving Japan (the ECB should watch and learn)”(The Market Monetarist, April 4, 2013)の訳。

これまで過去15年にわたって日本銀行はデフレ的な政策(deflationary policies)を推し進めてきたが、その日本銀行が今や進路をはっきりと変えつつあるようだ。このことは本日開催された金融政策決定会合の内容を見れば誰の目にも明らかだろう。今回の決定に関しては「極めてよいニュースだ」という言葉以外に何と書いたらよいものかこれといってうまく思い付かない。今回の日本銀行の決定は日本にとっても世界経済にとっても好ましく、また、教科書通りの金融緩和策であると言える。あえてマイナス面を挙げると、ターゲットが名目GDPの水準ではなくインフレ率に置かれている点ということになるだろうが、ともかく、今回決定された金融政策はうまくいくだろうし、それもすぐに効果が表れるだろうと個人的には強く確信している。

さて、ここでミルトン・フリードマン(Milton Friedman)に賛辞を送ることにしよう。以下はミルトン翁が1998年に執筆した論説 “Reviving Japan”(「日本経済の再生に向けて」)からの引用である。

堅調な景気回復を促す上で最も確実な方法はマネーサプライの伸び率を高めることにある。言い換えると、金融政策を現在のタイトな(引き締め気味の)状態から緩和の方向へと転換し、マネーサプライが1980年代の黄金時代においてとほぼ同じペースで−あまりにも行き過ぎないように注意を払いつつ−成長するよう図ることにある。もしそうなれば、現在大いに必要とされている金融制度や経済制度の改革も一層容易に進めることが可能となるだろう。

日本銀行の擁護者はおそらく次のように語ることだろう。「貨幣量を増やせと言いましても、具体的にはどうやればよいのでしょうか? 日本銀行はもう既に公定歩合を0.5%にまで引き下げています。貨幣量を増やすために他に何ができると言うのでしょうか?」、と。

その答えは至極簡単なものだ。日本銀行は公開市場で国債を購入する(買いオペを行う)ことができる。その購入代金は現金通貨あるいは日本銀行における預金(準備預金)−経済学者がハイパワードマネーと呼ぶもの−のかたちで支払われることになるが、購入代金の大半は民間銀行の準備預金として積み増されることになるだろう。準備預金が増えると、民間銀行は貸出や債券の購入を増やすことが可能となるが、その過程で(信用創造を通じて)預金通貨が増加することになるだろう。しかしながら、民間銀行がそのように行動するかどうかに関わらず、ともかくマネーサプライは増加することになるだろう。

日本銀行がマネーサプライを増やす能力には限界はなく、日銀が望めばどれだけの規模であろうともマネーサプライを増やすことができる。マネーサプライの伸び率が上昇するといつでもどこでも次のように同じような効果が表れることになるだろう。(マネーサプライの伸び率が増加してから)大体1年ほどして経済は一段と速いペースで拡大することになるだろう。まずはじめに産出(実質GDP)が増加し、それからしばらくしてインフレーションが緩やかながら上昇することになるだろう。

1980年代後半の状況に立ち戻ることで、日本経済の再生が促されるとともに、その他のアジア諸国経済の立て直しがサポートされることになると期待されるのである。


次に本日開催された日銀の金融政策決定会合の内容(pdf)[1] の一部を以下に引用しよう。

この方針のもとで、マネタリーベース(2012年末実績138兆円)は、2013年末には200兆円、2014年末には270兆円に達すると見込まれる。

毎月の長期国債のグロスの買入れ額は7兆円強となると見込まれる。

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。このため、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。


フリードマンが先のアドバイスを送ってから15年が経過しているが、ついに日本銀行がフリードマンのアドバイスを聞き入れたわけである。日銀による今回の決定は日本経済の再生に大いに寄与するに違いない。ところで、日本銀行はフリードマンのアドバイスを聞き入れたというにとどまらない。その実、日本銀行はマーケット・マネタリストのメッセージー−チャック・ノリス効果に訴えよ−も聞き入れた上で、期待の管理にも乗り出しているのである。黒田総裁、グッジョブ!!

最後に、ECB総裁であるマリオ・ドラギ(Mario Draghi)宛てのメッセージで締め括ることにしよう。ドラギ総裁、もしあなたがユーロ危機を収束させたいのであれば、日本銀行の今回の決定をコピー&ペーストするだけでよい。あなたがた(ECB)が掲げているインフレ目標は日銀と似たようなものなのだから、そう難しい話でもないだろう。

訳注;日本語版はこちら(pdf) [↩]
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/k130404a.pdf

Koichiro Kamijo • 8日前
大変失礼いたしました。
確かにその通りですね。私の方が誤解していたようです。シカゴ学派と聞くと頭ごなしに新古典派経済学だと思い込んでいる私の方が問題ですね。イデオロギーとは困ったモノです。
大変勉強になりました。ありがとうございました。
ただ、気になったのは金融政策至上主義のような文脈を感じたのですが、またもや私の勘違いかもしれません。小さな政府主義の方達はこのまないでしょうが、あとは財政出動あるのみかと思います。
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hicksian Koichiro Kamijo • 8日前
いえいえ、とんでもありません。
私自身もイデオロギーに目を曇らされてしまって文章を読み違えたり歪んで捉えてしまうという経験はよくやってしまいますし(笑、このエントリーで取り上げられているフリードマンの論説もそこまで広くは知られているわけでもありませんので、「フリードマンがそんなこと言うわけない」と感じるのは当然の反応だと思います。

>金融政策至上主義

金融政策であれもこれも解決できる、というのは暴論なんでしょうね。おそらくこのエントリーで意識されているのは、デフレーション(あるいは名目GDPの停滞)を食い止めるためには金融緩和策が必要だ、ということなのだと思います。それこそイデオロギーから自由になった上で、金融政策にできることは何か、財政政策にできることは何か、といった点について可能な限り理論的・実証的・歴史的な観点から検証する努力が必要なんでしょうね。実証的・歴史的な観点に立った検証ということでいいますと、このサイトで翻訳されている以下の記事(ちょっと長めですけれども)などが示唆に富んでいるかもしれません。1930年代の大恐慌に関する現代経済学の研究動向を窺い知ることができるかと思います(原著者のクリスティーナ・ローマーはオバマ政権(第一期)下の米経済諮問委員会(CEA)で委員長を務めた経済学者です)。

●クリスティーナ・ローマー「大恐慌から得られる今日の政策への教訓」(2013年3月11日)
http://econdays.net/?p=8138
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Koichiro Kamijo • 10日前
??ちょっと、理解不能です・・・
ミルトン・フリードマンといえばシカゴ学派の代表格ですよね・・・?シカゴ学派といえば、新自由主義とかハイエクとかを連想するのですが、訳者の方は勘違いされているのではないでしょうか?記事をよく読むと、フリードマン氏は「金融緩和を進めればよりいっそうの金融財政改革を進めることが容易となる」と、書いていらっしゃるようですが、それって完全に新自由主義的な、小泉政権(竹中平蔵)でやってたやつですよね・・・?そのおかげでデフレが長引いてるんですけど・・・
黒田日銀はハイエク的な方針でなく、むしろケインズ的な方向性を示唆しているのですよ?ハイエクとケインズはまったく正反対です。勘違いも甚だしいので失笑して無視しようかと思ったのですが、こんな主張でも信じてしまう一般読者がいてしまうでしょうから、我慢できずにコメントしました。
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hicksian Koichiro Kamijo • 10日前
コメントありがとうございます。

>ミルトン・フリードマンといえばシカゴ学派の代表格・・・新自由主義者
フリードマンといえばシカゴ学派の代表格で新自由主義者だから構造改革の推進者な「はずで」・・・といった固定観念は捨て去った上で記事そのものの内容を素直に読みとってみてはいかがでしょうか。ちなみに、このエントリーで取り上げられているフリードマンの論説"Reviving Japan"に関しては、以下のhimaginaryさんのブログで全訳を読むことができますので、ご関心がおありなら一度ご覧になってみてはいかがでしょう。

●「フリードマンのリフレ論」
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20091112/friedman_riviving_japan


 

「臆病さという名の罠」 BY SCOTT SUMNER
以下は、Scott Sumner, “Nothing to see here folks, move right along”(TheMoneyIllusion, April 4, 2013)の訳。

多くの著名なマクロ経済学者や経済専門家、ブロガーの口々から「FedやBOE、ECBにはもはや打つ手がない。だからこそ財政刺激策が必要なのだ」との主張が発せられているが、ここのところの日本経済の動きは彼らの主張の間違いを証明し続けている。

黒田東彦氏が3月20日に新しい日銀総裁に就任して以来初めて開催される金融政策決定会合は、黒田総裁がリーダーシップをとって(1月に採用されたばかりの)「物価安定の目標」の達成に向けて非伝統的な手段に踏み出すよう日銀を促すことができるかどうかを試す大きなテストの機会と見なされていたが、本日の決定会合の結果をマーケットは好感したようである。

本日の決定会合後、国債の先物価格は急上昇し、新発10年物国債の流通利回りは過去最低の0.425%にまで低下した。また、会合前は上昇を続けていた円は会合の結果を受けて下落することになった。円は会合前の1ドル=92円90銭から1ドル=95円25銭へと2%以上の円安を記録したのである。

さらに、日経平均株価の終値は前日比2.2%の上昇を見せ、先月つけた4年半ぶりの最高値に接近することとなった。

本日の決定を受けて今後日本銀行は(グロスで見て)毎月7兆5000億円のペース−これは毎月の国債発行額の7割にあたる−で長期国債の購入をすすめる格好となる。今後は「資産買入等の基金による長期国債の買入れ」と「金融調節上の必要から行う国債買入れ(輪番オペ)」とを統合した上で、40年債を含む長期国債の買い入れが実施される見込みとなっている。


会合の結果が発表される直前に株価が大きく下落したことを考えると、株価は会合後に4%以上上昇したことになる。確かに決定の方向性に関しては予想された通りではあったが、債券の購入額が予想以上であったこともあり、マーケットは上の記事で指摘されているような反応を見せることになった。今日のマーケットの動きだけではなく昨年の11月半ば以降の株式市場の動向、つまりは、安倍晋三氏が政権奪取をかけて選挙戦を戦う中で2%のインフレ目標を掲げてマーケットにショックを与えて以降の株式市場に何が起こったかに着目した方が適当であるかもしれない。昨年の11月半ば以降、日本の株価は45%の上昇を記録しているのである。加えて、昨年の11月半ば以降、円はドルに対しておよそ20%も安くなっているのである。

今後日本銀行の政策が「機能する」かどうかをめぐって議論が巻き起こることだろう。しかし、日本銀行の政策はもう既に機能しているのである。今回の決定を受けて円は急落したが、もし経済が「流動性の罠」に陥っているとしたらそのようなことは起こるはずがない。ここのところの日本経済で生じている現象は、不換紙幣を発行する中央銀行が自らの「臆病さ」(timidity)以外の何ものかによって「罠に嵌る」ことなど決してない、ということのさらなる証拠であると言える。仮にインフレーションが2%にまで上昇することがなければ、何度も何度も何度も何度も繰り返し(果断な金融緩和を)試せばよい。円ドルレートが1ドル=200円になってもインフレーションは生じないだろうか? 果たして1ドル=400円になったらどうだろうか?

(以下略)

 

 

 
「デフレ克服に向けて−黒田日銀新体制最初の一歩」 BY MATTHEW YGLESIAS
以下は、Matthew Yglesias, “BOJ’s Kuroda Vows To Use “Every Means Available” To Fight Deflation”(Moneybox, April 4, 2013)の訳。

本日、黒田東彦総裁率いる日本銀行新体制下で初めての金融政策決定会合が開催され、安倍晋三首相が掲げる2%のインフレ目標(消費者物価で見て前年比上昇率2%の「物価安定の目標」)を達成するために、マネタリーベースを2倍に拡大するプランが発表された。中でも特に興味深いのは決定会合後の記者会見の場で黒田総裁が語った次の発言である。「これまでのように漸進的に少しずつ量的・質的に緩和を拡大するやりかたではデフレ脱却を達成できない。デフレ脱却を実現するためには現在取り得るあらゆる手段を動員する必要がある」。

脅し文句(tough talk)とも言えるこの発言は、期待への働きかけを意図した金融政策の推進を後押ししてきた人々―私自身もそうだが―がこれまで(セントラルバンカーの口からこの種の発言が飛び出さないものかと)待ち望んできた類のものである。期待への働きかけを意図した金融政策の支持者に対しては「お前らは反証不可能な主張を行っている」としてこれまで批判がなされてきたが、その批判は正しいとは思わない。今回黒田総裁は確固たる無条件のコミットメントに乗り出す格好となった。単にマネタリーベースを劇的に拡大するというだけではない。マネタリーベースの劇的な拡大が(金融市場調節の適切な操作目標としてマネタリーベースに着目する、という政策転換と結び付けられているというのではなくて)物価安定の目標を達成するために『「現在取り得るあらゆる手段」を動員する』との保証と劇的なかたちで結び付けられているのである。日本銀行による今回の決定を受けても今後の日本の物価水準の見通しを上方修正しない人間がいるとすれば、こう言うしかない。「あんたバカぁ?」、と。

今や問題は、このインフレ的な政策(inflationary policies)によって−実体経済が拡大するとすれば−どの程度実体経済の拡大につながるか、という点にある。


 

 

 

 


 

NHK BIZ PLUS:ジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授へのインタビュー(3/21/2013)
以下の文は、NHK Biz plusの番組サイト、飯田香織経済キャスターブログから「3/21/2013 Joseph Stigltiz, Professor, Columbia University」の翻訳になります。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。

■黒田総裁と個人的なご縁があるということですが、どう評価しますか?

ずっと昔、私が世界銀行のチーフエコノミストだったころから、彼のことを知っている。たいへん印象深い人物です。彼は経済学に理解があり、日本の成長率をもっと早めるという使命感を持っていたと思う。私が特に印象深かったことの一つは、彼がアジア開発銀行にいたころ、彼が貧しい人や格差のことを真剣に考えていように見えたことです。もちろん、それがアジア開発銀行の職務ではあるんですが、彼は精力的にその仕事を追求していた。

榊原氏のように有名な日本の官僚は数多くいるが、その中でも黒田氏は世界中で最も有名な日本人経済学者の一人です。

■黒田総裁が直面する課題は何ですか?

国内的課題と国際的課題の両方がある。私が思うに、アメリカでのQE2やQE3のような緩和的な金融政策があることや、世界市場が非常に一体化しているため、現在の中央銀行総裁たちは特に困難な時代に直面している。ヨーロッパで起こること、アメリカで起こることが日本に影響を及ぼす。だから中央銀行はそのことを考慮に入れる必要がある。ヨーロッパには不安定要因がたくさんあり、その不安定要因が金融市場に混乱をもたらす可能性がある。日本は比較的安定している、とても安定しているが、日本も世界市場の一部なんです。

2つ目の課題は、どうやって日本の成長率を高めるかです。ある意味、日本の労働力成長率がゼロに近いという事実を調整すれば、現在の日本はそれほど酷いわけではない。日本が今年人々の予想どおり2%の成長率になったのなら、それはアメリカでの3%の成長率に相当する。アメリカの労働力成長率が1%だからです。そして、ある意味、その調整を勘案すれば、現在、日本が世界の先進国の中で最高の経済状態と言える。アメリカはおそらく2%より少し高い成長率になると見られているが、緊縮財政のため実際にはもっと低くなるかもしれない。でも、低成長が長く続いていて、デフレの心配があるのだから、金融当局者、中央銀行は経済を刺激しなければならない。

■黒田総裁はまだ何もやっていないのに、“期待先行”で株高円安が進んでいます。この勢いを持続させるのに何が必要ですか?

彼は通貨当局だけでなく、政府と調和した政策をとる必要があると思う。通貨当局の金融政策による刺激策と政府の財政政策、拡張的な支出計画を緊密に協力して行うことができれば、その二つが両輪となって機能する。具体的に言えば、政府が長期的な成長の礎となるような事業や、多くの先進工業国が直面しているその他の多くの問題に対処するための事業にお金を使っていくことです。経済の構造改革もそこに入るでしょう… 日本は製造業では最高の生産性を持っているが、他の分野、サービス業などの生産性は製造業とは比べ物にならない。世界中、全ての先進工業国は経済を構造改革している。その中には上手くいっていない国もある――私はアメリカで行われていることには非常に批判的です。

日本の総理大臣は経済の構造改革に資するような事業に資金を投じることができるのか:長期的な成長の土台を築くこと、教育やテクノロジーや研究などの経済の基盤をより良い物にしていくこと。日本はインフラに関してはすごくいい仕事してきたが、他の分野に関しては強化していく必要がある。

■2%の物価目標を実現するのはどの程度難しいことでしょうか?

もし政府が、前から私が書いてきたような刺激策を実行できれば、つまり金融政策と財政政策を協調して実行できれば、それは可能だと思います。その助けになる要因がいくつかあることを理解する必要がある。日本の物価を引き下げていた原因の一つが、中国などから購入する製造品の価格がどんどん下がっていたことにあります。ある意味、我々すべてがそこから利益を受けていた。アメリカは、そうでなかった場合よりも、インフレ率が低下することで利益を受けた。皮肉なことに、それは中央銀行の功績とされたが、本当にその功績を認められるべきなのは中国です。日本の場合には、他の物価が非常に安定的なところに、製造品の価格が下がってしまったので、デフレに陥ってしまった。それはおそらく変わりつつある。

中国で人民元の増価や賃金の著しい上昇などがあった。だから、輸入品のコストがほんの少し上がるくらいに為替を適正な値に維持して、継続中のデフレ圧力を逆転させることができれば、私は合理的な見込みがあると考えている。日本がインフレ圧力もなしに、比較的高水準の雇用、つまり低水準の失業率を維持できていることはすごく幸運なことです。だから、そのことを考えれば、日本におけるデフレ圧力の要因の一つは外部から来ているものだが、為替レートを低下させ続けることができれば、それは変わっていくと思う。

■低所得者にとって2%の物価上昇はつらいと思いませんか?

不平等とこの政策のいくつかの部分との間には緊張関係にある。例えば、社会保障、つまり年金受けている多くの老人に関して言えば、年金が物価スライド制になっているので守られている。それが、ほとんどの国で物価スライド制になっている理由の一つです。だから、特定のグループ、重要な人々のグループは守られている。他の領域では、刺激策がとられれば、労働需要が上昇し、低所得の労働者は賃金の上昇を実感できるようになるでしょう。

■でもそれって時間がかかると思いますが。

ええ、時間がかかります。それを今言おうとしていたところです。それはたちどころに起こるものではない。だからこそ、政府が介入し、手助けすることが重要になる。

私が以前から言ってきたことですが、社会の問題に対処するような政府支出をする必要がある。社会の問題の一つが経済を構造改革することです。サービス業の生産性を上げること。もう一つの問題が格差の拡大です。経済拡張の支えとなる資金を、現在上手く行っていない人々を救うために使うというのは一つのいい考えです。格差を縮小すること。日本はその点でアメリカとは比較にならないほど良くやっている。でも、かつてと比べると格差は広がっているし、政府が対抗策を取らなければ、この政策のいくつかの部分はその格差をさらに拡大させてしまう。そして、そのことにより経済を実際に強くすることができる。それこそが私の本『The Price of Inequality(不平等の値段)』の主要なメッセージの一つです。主要なメッセージとは、もし好景気の成果を共有できれば、経済はもっと成長するということです。高成長で格差拡大と平等との間でトレードオフがあるわけではない。多くの人々がそれを二律背反と見ている――どちらか一方を取れば、もう一方はあきらめねばならないものだと。私はその本の中で、同時に格差縮小に努めれば経済をもっと強化できると説得力ある形で示せていると思う。

■先ほど「円安」の重要性を述べられました。とは言っても、グローバル経済の中で日銀が緩和策を進めても、円安が進むとは限りませんよね?

えっと、金融政策は為替に影響を与えます。今まで議論されてきた方策、日本国債をもっと大量に購入する量的緩和などは為替レートを押し下げる。私が以前に話したことですが、まず一つの国での金融政策は他の国の金融政策と分離したものとみなせないという問題がある。確かに、これは問題であって、アメリカが量的緩和を始めてからはすごく深刻なものになっている。様々な国がそれを無視できない。それを望まない国もあるし、アメリカの政策を良い政策ではないと批判する国もある。でも、アメリカはブラジルなど世界中の多くの国から来るそれらの批判にたいして注意を払っていない。だから、アメリカは利子率を引き下げる時、マネーは利子率が高い他の国に移動して、それが当該国の為替レートを上昇させ、それに対応策を取らなければならなっているというのが現実です。それは、黒田氏が現在語っている国債の購入などの政策によって対応する必要があるということです。

■安倍首相は、大胆な金融緩和、積極的な財政支出、さらに成長戦略を「3本の矢」として掲げています。成長戦略の一環でTPP・環太平洋パートナーシップ協定を挙げていますが・・・

彼が言っているのは、交渉に参加したいということです。問題は、交渉に参加するということと条約を批准することとは大きな違いがあるということです。でも、注意するべきなのは、こうした貿易交渉には数多くの強制的な説得工作があって、一度交渉に参加してしまうと、条約を批准するような圧力がたくさんあるということです。現在、私はTPPに関して強い懸念を持っています。

■それはどうしてですか?

最初に、グローバルな政策の観点からは、多国間の貿易協定は二国間や地域間の貿易協定よりもずっと好ましい。世界をバラバラのグループに分割してしまえば、過去半世紀以上に渡り苦労して作り上げてきた多国間貿易体制を傷つけてしまうことになる。アメリカやEUが一連の二国間貿易協定やパートナーシップ協定で行っていることは、彼らが作り上げてきた真の多国間システムを本当に傷つけている。だから、私は哲学的な観点からこの種の動きにすごく批判的です。

私が特に懸念しているのは発展途上国のことです。2001年11月のドーハ開発ラウンドで合意事項があった。残念なことに、先進工業国、特にアメリカは発展途上国と交わした約束を破ってしまった。私にとって、これは非常に大きな懸念材料です――我々はその合意事項を尊重すべきだった、我々は発展途上国にとってフェアな多国間貿易体制を作るべきだった。3番目の懸念材料は、こうした貿易協定のほとんどが不適切な名称である自由貿易協定などではなく、管理された貿易協定であることです。それらは特定の利害関係者、特にアメリカ人の利害関係者によって管理されている。そして、それらは貿易を超えて、知的財産や二国間投資協定に及んでいて、それらの条項はアメリカの利益にすらならないことが多い。それらはアメリカにいる特定の利害関係者の利益になる。

だが、現在の知的財産の方向性は科学、より広範な科学の進歩の妨げになっていることには広い合意がある。特に、私はあることを大変心配している――あらゆる人にとっての医療のアクセス。科学には驚くべき進歩があったが、それらは大部分が政府支出による支援を受けている。基礎研究は政府の支出によって行われて、その後に製薬会社がそれを市場に持ってくる。しかし、理解すべきなのは、基礎研究は政府によって行われているのに、製薬企業の多くは一般市民の手が届かないところまで価格を引き上げてしまうことです。また、製薬企業は政府が購入する際にも非常に高額の料金を請求するので、政府は貧しい人々や経済を構造改革するために使うことができたはずの資金を投入せざるをえなくなる。だから、それらはアメリカの利益にも他の国の利益にもなっていないんです。

そして、同じように、これらの貿易協定には決まって投資条項が入っていて、それを主導する動きがたくさんあることにも非常に心配している。心配なのは、それらがTPPでも含められることです。最後の懸念材料としては、TPPが現在交渉されているが、そのやり方が透明でないことです。企業はUSTR(米国通商代表部)にアクセスして、TPPの成り行きを知ることができるが、多くの市民団体には同じようなアクセスができない。だから、心配なのは、TPPがより広範な社会の利益ではなく、企業の利益によって形作られた貿易協定になることです。そして、それはアメリカにとっての懸念材料であるわけですが、ここ日本でもよく考えるべき問題です。私は数多くの市民団体が非常に心配してるのを知っている。

■アメリカのFRBにしても、欧州中央銀行にしても政府との距離感に悩んでいます。政府の役割をどうお考えですか?

まず、中央銀行は必要です。それは当たり前に聞こえるかもしれないが、アメリカの共和党員の中には中央銀行の必要性を疑っている人がいる。第2に、中央銀行はもっと説明責任を果たす必要がある。ある意味、アメリカにおける中央銀行の政策は特定の利害関係者に乗っ取られている。FRBはどんどんウォール街の利益を代弁するようになって来ている。その原因の一つが規制緩和です。それがウォール街におけるバブルを許容した。FRBのあるメンバーはバブルが膨らんでいること、銀行が略奪的な貸し出し、不公正な貸し出しをしていること、それら悪辣な行状の全てを指摘したが、FRBの大多数は彼を除け者にした。彼は正しかったんです。そうした乗っ取りが次々といろんな国で起こった。私はヨーロッパでそれを見た。アメリカでそれを見た。だから、広い哲学的観点から見て、もっと説明責任が必要なように私には思える。特に2008年に起こったことに光を当てれば、アメリカのFRBは結果としてお金をばら撒いた。何10億ドルものお金を次々と。FRBはゴールドマンサックスにお金を与えた、間接的に様々なやり方を通じて。そのどれもが議会を通したものではない。だから、それは民主主義のプロセスを迂回したものです。

私が『The Price of Inequality』で書いているもう一つの懸念材料は、この乗っ取りによって、中央銀行、具体的に言えばFRBが不平等にほとんど注意を払わなくなったことです。そのことで、彼らの政策はわが国の不均衡を拡大させてしまっている。その規制政策や金融政策などが。中央銀行であるFRBはその両方に関与しているんですから。そして、様々な変化があった。具体的に言えば、もはやアメリカではインフレだけに注目すべきではない… インフレは問題ではない、デフレは問題ではない。

■問題は雇用ですね。

雇用です。FRBはやっと雇用に焦点を当てるべきだと語りました。彼らがそれを語るのは初めてのことです。彼らがそれを言ってこなかったのは、過去に数人の中央銀行総裁が雇用を問題にすべきだと手を挙げて語ったときには酷評されてきたという事実があるからです。

ポイントになるのは、このことが、中央銀行がもっと説明責任を負うべきである理由をよく表していることです。だから、独立した中央銀行という考えは根本的に破綻していると思う。なぜなら独立した中央銀行と言うのは、それが本当の独立ではないとしても、中央銀行が乗っ取られてしまうということですから。問題は、ウォール街に対して責任を負うのか、より広範な社会に対して責任を負うのかということです。アメリカでは、中銀は独立しているもののウォール街のために動いていて、それで危機がやってきた。そして、アメリカはますます不平等になっている。実際、世界の中で2008年以後も以前も最善を尽くした国、その中央銀行をよく見れば、それはブラジル、中国、インドなどであって、それらの国々はどれも独立した中央銀行というドクトリンには帰伏していない。だから、本当の問題は、日本が能力の高い人々、高成長や安定などの広い目的に本気で取り組む人々を必要としているということにある。私は、日本は不平等の事を考慮する中央銀行家を必要としていると思う。換言すれば、彼らは社会の広範な目的を反映しなければならない。もしそうすることができれば、金融市場に乗っ取られたいわゆる独立した中央銀行を持つことより、ずっと成功する可能性が高くなると思う。

■黒田総裁の就任を念頭に聞きたいのですが、中央銀行のトップとして成功するためのカギは何ですか?書いてください。

私が以前から言っていることに付け足すことは特にない… でも、その一つは説明責任です。説明責任が意味するものは、中央銀行をそれ独自のものだけで考えるのではなく、奉仕すべき人々の意見を反映させるということです。中央銀行のトップが奉仕すべきなのは全ての社会です。ウォール街や金融市場に仕えているのではなく、社会に仕えている。それは、今後書いていくつもりですが、広範なビジョンを持つ必要があるということです。

■それって哲学的な響きがありますね。

ええ、哲学的ですが、それを具体的な言葉に言い換えてみましょう。今やるべきなのは中央銀行が直面している問題について金融市場のことだけでなく、全ての社会のこととして考えることです。まずカギとなる経済の問題を無視することはできない。日本の場合には、現在検討されていることを実行することは明らかに道理にかなっている。デフレに焦点を当てること。しかし、日本は20年間も低成長に陥っていた。今がそれを変えるときです。

■この一覧表を黒田総裁にお渡ししなくっちゃ。

彼はこれらのことは全て分かっている――成長には二つの部分がある。一つは需要。刺激策を取る必要がある。だが、もう一つは、経済を構造改革する必要がある。

■黒田総裁がこれらをすべて把握しているのであれば、何が必要ですか?熱意?政治力?

私は、彼がこのこと全てに取りくむことを心から確信しているが、中央銀行も一つの手段にすぎません。私は彼がいい時代に巡り合ったと思う。なぜなら、現在の首相が完全に同じことに取り組んでいるように見えるからです。

最後に一つ付け加えるとすれば、日本では、この政策のもう一つの部分に自由化や規制緩和を含めるべきだと考える人々がいる。それらは非常に注意深く考える必要がある。

それは、あなたが先ほど話したことにも関係してくる。インフレを起こす一方で、下層の人々を放置すれば、金融政策は成長率と不平等を高める可能性がある。規制緩和などの政策の多くはさらに不平等を高める可能性がある。我々が今規制を持っている理由の一つは、過去に搾取があったからです。それらのことが消え去るわけではない。それらは維持すべき種類の規制です。だから、規制のことを考え直すべきです。過去に留まることができないとしても、規制の多くには十分な根拠がある。また広いビジョンの話に戻れば、金融政策には広いビジョンが必要だが、経済政策の他の要素にも同じように広いビジョンが必要です。

追記:松尾匡さんの指摘により訂正しました。


02. 2013年4月18日 21:59:02 : xEBOc6ttRg


コラム:忘れてはならない海外発「円安増幅」要因=山下えつ子氏
2013年 04月 18日 19:05 JST
山下えつ子 三井住友銀行 チーフ・エコノミスト(2013年4月18日)

日本人は現在、国内の経済・金融政策に注目している。安倍晋三政権の発足と日銀による新機軸の提示があり、昨年11月

以降、円は対ドルで80円近辺から100円近くまで急激に下落し、日経平均株価は9000円近辺から1万3000円超へ大幅

に上昇した。こうしたドラマチックな変化があれば、国内に目が向くのは当然である。

だが、海外の経済・金融動向も意外に重要な局面にある。第1四半期には、中国に景気底打ち観測があり、グローバルな景気

回復期待のもとで株式相場が上昇するなど、いわゆる「リスクオン」の様相が強かった。しかし第2四半期に入って、グローバルな

景況感や金利観が変化し始めている。雇用統計など一部の米国の経済指標が弱くなっているほか、中国経済も結局、明瞭な

回復方向が出ずじまいである。欧州では今年もマイナス成長が予想される中、17日には独連銀総裁が利下げの可能性を示唆

してユーロが急落した。

日本のマーケットは、国内の政策変化が円安・株高を牽引し、海外市場の影響から独立して動いている部分が従前よりも大きく

なった。しかし、海外の影響から完全に隔離されているわけではない。年初来の株式相場の上昇のうち、一部は純粋に日本要

因だが、残りはグローバルなリスクオンが背景である。円もこのところ、欧米の要因を受けて円高へ巻き戻されることが増えてきた。

米国や中国の景気先行きに対する懸念、欧州問題の継続、また地政学リスクなど、第1四半期には隠れていた問題が強く意

識されるのが第2四半期である。こうした海外市場の変化を考慮すると、日本要因の円安・株高が海外要因によって阻まれるこ

とが多くなると考えた方がよいだろう。

<ドル100円突破は時間の問題>

ただ、ドル円が100円を超える可能性については時間の問題と考える。日銀は4日に新たな金融緩和策を導入し、その際、金

融市場の調節を無担保コールレートをターゲットとするものから、マネタリーベースをターゲットとするものへ変更した。日銀が為替相

場を金融政策の目標にしないとしても、為替市場にとって、この影響は大きい。

中銀のマネタリーベースの規模は為替相場に影響するというのが、ジョージ・ソロス氏の考え出した理論であり、「ソロスチャート」と

呼ばれる。そして、リーマンショック後、各国の政策金利がほぼゼロ金利となり、量的緩和策へと移行してから、確かに、このソロス

チャートと為替相場の動きは緩やかながらも相関して動いてきた。

今回、日銀はマネタリーベースを2年で2倍に拡大すると発表したが、このソロスチャートの考え方に基づけば、米国のマネタリーベ

ースが不変とすると、2年後のドル円は約110円になると算出される。もし為替市場がこれを早くから意識するのであれば、2年後

よりも早期に110円が実現することになる。100円を超えて110円を目指す動きは早晩出ると考えるのが自然である。4日の日

銀の発表後に一段と円安が進んだ背景にも、こうした考え方が存在する。

<米国要因で110円到達の時期が早まる可能性も>

さて、ドル売りに通じる足元の米国の経済指標の弱まりに反して、中期的には米国経済の復活が始まっているかもしれない。

2007年以降の金融バブル崩壊のきっかけとなった米国の住宅市場はすでに、住宅販売と建築は増加基調、また住宅価格も

上昇傾向にある。住宅市場が足かせとなっていた時期から、住宅市場がむしろ景気を牽引する時期に移ってきたのだ。雇用情

勢は依然として厳しいままだが、失業率は低下し始めている。金融も経済もバブルに戻ることは期待しにくいが、明らかに正常化

の経路を辿っている。

米国の金融政策は金融危機への対応もあって、日銀に比べ量的緩和の開始も早く、また規模も格段に大きいものだった。ソロ

スチャートの考え方通り、この過程でドル安・円高が進んだ。前述のように、日銀の大胆な金融緩和によって、円は円安に向かう

可能性が高いが、米国の金融政策が量的緩和を縮小させる局面に入った場合には、ドルはドル高方向となり、日米双方の金

融政策によって、110円に到達する時期は早まる。

海外市場は、目先は円安にとってのリスク要因だが、中期的には円安を増幅させる要因となり得る。この方向変化が生じる時期

は恐らく13年中だろう。こうした観点から、日本だけではなく、海外市場にも注目すべきなのである。

*山下えつ子氏は、三井住友銀行のチーフ・エコノミスト。東京大学経済学部卒。1990−2000年ロンドン駐在エコノミスト、

2003年より現職。


宮尾日銀委員:物価「14年度中に1%超」は政策効果で上方修正へ (1)

  4月18日(ブルームバーグ):日本銀行の宮尾龍蔵審議委員は18日午後、岐阜市内で会見し、午前の講演で消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比上昇率が「2014年度中には1%程度を超えて高まっていく」と述べたことについて、これは「あくまで1月時点の見通しに基づくものだ」と語り、26日に示す経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、4日に打ち出した「量的・質的金融緩和」の効果を織り込んで大幅に上方修正する可能性があることを示唆した。
宮尾委員は講演での消費者物価 上昇率に関する発言について、「1月の中間評価時点の政策委員の14年度見通しの中央値は0.9%だ。14年度の平均が0.9%なので、14年度中には1%程度を超えて高まっていく。講演で示しているのは、あくまで中間評価で示した見通しに基づくものだ」と指摘。
その上で、量的・質的金融緩和の実施を踏まえ、「その効果を含めた先行きの経済・物価見通しは、次回の金融政策決定会合でメーンシナリオおよびリスクの評価をしっかり点検していきたい」と述べた。日銀は展望リポートで14年度のコアCPI前年比上昇率の見通し(中央値)を0.9%から1.5%以上に上方修正することを検討している。
債券市場の乱高下は「一時的」
宮尾委員は量的・質的金融緩和の下で実施している長期国債の買い入れについて「相当な規模のオペレーションとなる」と指摘。その上で、国債市場が不安定な動きを続けていることに関して「基本的には新たな金融緩和措置の下で新しい均衡点を探す動きと理解しており、市場の需給要因を反映した一時的な動きとみている」と述べた。
さらに、「この状況が落ち着いていくかどうか、今後の市場動向は注意深く見ていきたいし、国債買い入れがスムーズに実施されるように、市場参加者との意見交換を続けていきたい」と語った。
3月で退任した白川方明前総裁の下での包括的金融緩和策の評価については「景気の下支えに寄与してきた」とする一方で、「デフレ脱却に至らなかったのは重たい事実だと認識している」と述べた。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net;Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/18 16:34 JST


 

独議会、キプロス救済を可決-財務相は採決前に感染リスク指摘 

  4月18日(ブルームバーグ):ドイツ連邦議会(下院)は18日、キプロス救済パッケージを可決した。採決に先立ちショイブレ財務相は、救済を拒否すればデフォルト(債務不履行)を引き起こし、ユーロ圏の他の諸国にも危機が波及するリスクを指摘していた。
下院は100億ユーロ(約1兆2840億円)規模のキプロス救済へのドイツの参加について採決。賛成487、反対102で可決した。棄権は13人。
ショイブレ財務相は採決前の演説で、「キプロスの問題が波及し、ユーロ圏の他の国の問題へと発展する事態は避けなければならない」とし、「キプロスは劇的な状況にある。われわれがキプロスを助けなければ、同国がソブリン債のデフォルトに直面することは不可避だ」と論じていた。
欧州安定化メカニズム(ESM)によるキプロス救済についてショイブレ財務相は、救済の額が100億ユーロを超えることはなく、キプロス自身も銀行セクターの再編などの改革に取り組むと説明した。議会はアイルランドとポルトガル向け支援の期限延長も承認した。
採決後にユーロは上昇。ベルリン時間午後0時5分は前日比0.3%高の1ユーロ=1.3067ドル。
ショイブレ財務相は採決後に、金融支援の条件としての構造改革がスペインやギリシャで成果を示し始めているとの認識を示した。「壊滅的」な水準の失業にも言及し、「困難は残っているが、包括的な改革を経て欧州とユーロは今までで最も良好で安定した状態になっている。北部と南部の格差はなくなりつつある」と電子メールでコメントした。
同相はさらに、ドイツの議員らが「ユーロとユーロ圏に対する責任を自覚し強いシグナルを送った」として採決結果を歓迎。ユーロはドイツ経済にとって不可欠だとも指摘し、「共通通貨の基盤を揺さぶろうとする者はこの事実を無視し、ドイツ経済の成功をリスクにさらす」と強調した。
原題:Germany Backs Cyprus Aid as Schaeuble Cites Default Risk(1)(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ベルリン Tony Czuczka aczuczka@bloomberg.net;ベルリン Patrick Donahue pdonahue1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Hertling jhertling@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/18 20:17 JST


 


3月の英小売売上高:前月比0.7%減、予想以上に悪化−寒波で 

  4月18日(ブルームバーグ):英国の3月の小売売上高 は事前予想以上に悪化した。寒波で客足が鈍り、衣料品や家庭用品の売り上げが落ち込んだ。
英政府統計局(ONS)が18日発表した3月の小売売上高指数(燃料含む)は前月比0.7%低下。ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミスト23人の調査中央値では0.6%低下が見込まれていた。前年同月比では0.5%低下した。
2月の指数は前月比2.1%上昇、前年同月比では2.5%上昇(改定前=2.6%上昇)だった。
キャピタル・エコノミクス(ロンドン)のエコノミスト、マーティン・べック氏は統計発表前、「向かい風がまだある」とし、「信頼感は弱いままで、借り入れも伸び悩んでいる。このため、消費が力強く回復するとは思えない。家計でのレバレッジ解消は進んでいるものの、この動きはまだ先が長いと思う」と語った。
発表によれば、食料品店の売上高は前月比0.9%増。衣料品と靴の売り上げは3.1%、家庭用品は6.2%それぞれ減少した。
原題:U.K. Retail Sales Decline More Than Forecast on ColdWeather (1)(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Scott Hamilton shamilton8@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Craig Stirling cstirling1@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/18 18:05 JST

 

 

アングル:高額品から婦人衣料へ、広がり始めた国内消費
2013年 04月 9日 19:53 JST
[東京 9日 ロイター] 株高による資産効果で高額品に顕著だった国内消費の動きが、ここに来て婦人服を中心とした衣料

品にも広がり始めた。消費者の関心が価格からファッション性に移行し、着回しには適さないような派手な色柄物が売れる傾向

にあるという。

婦人衣料は利益率も高く、百貨店や総合スーパー(GMS)など主要小売りにとって核となる分野だけに、足元の状況が続くよう

なら今期の業績見通しの押し上げ要因になる可能性がある。ただ、消費増税など数年にわたって見込まれる家計負担増や海

外情勢の不透明さも懸念要因として大きく、広がりや持続性には慎重な見方も根強い。

<春物は明るい色・柄物が好調>

3月は衣料関連企業の売上高が軒並み好調に推移した。ファーストリテイリング(9983.T)はユニクロの既存店売上高が前年

比23.1%、ユナイテッドアローズ(7606.T)は同12.7%、ポイント(2685.T)は同11.1%増加した。気象庁によると、3

月の平均気温は、全国の主要154地点のうち35地点で観測史上最も高く、特に関東甲信越では平均気温を2.7度上回っ

た。異例の速さで桜が開花するなど、気候が最大の要因ながらも「株価がこれだけ高くなり、景気が良くなるのではないかという希

望が出ている。そういう意味で、アベノミクスの効果が出てきている」(オンワードホールディングス(8016.T)の吉沢正明専務)と、

株高による消費者心理改善が、高額品だけでなく、衣料品の売り上げも押し上げているとの見方は強い。

こうした見方を裏付けるのは、今春のファッショントレンドだという。パルコ(8251.T)の泉水隆・常務執行役(店舗統括担当)は

「消費に明るいムードが出ており、鮮やかな色や柄物など、全体的に明るい方向にファッショントレンドが変化してきている」と、足

元の消費について語る。「これまで、価格に敏感だった消費者が、価格よりもデザインやモードに関心が移ってきている」と、その背

景を分析している。

百貨店のそごう・西武を傘下に持つセブン&アイ・ホールディングス(3382.T)の村田紀敏社長も「今春は柄物や明るいもの、

派手なものが売れる傾向にある。毎日のようには着れない商材が飛ぶように売れるのは、先行きに対する明るさが出てきたのでは

ないか」と話す。景気の停滞時には、消費者が着回しを重視するため、モノトーンやベーシックなデザインが売れる半面、景気が

上向きの時には、明るい色が流行する傾向にあり、今春の流行は、景気に対する明るい予兆の一つだという見方だ。

<所得増が家計負担増を乗り越えられるか>

ただ、一方では「株高であっても、それですぐに給与が上がるわけではなく、一般の人は身近に感じていない。一部富裕層には好

影響だが、一般の消費マインド全般には及んでいない」(鈴木弘治・高島屋(8233.T)社長)との声もあり、慎重な消費行動

が大きくステージを変えたと判断するのは時期尚早だ。

輸入物価上昇、原燃料価格の上昇、それに伴う食品や電気・ガス料金、ブランド品の値上げなど、円安の負の側面としての値

上げ品目も広範囲になってきた。2014年4月、15年10月と2段階の消費増税も控えているほか、社会保険料引き上げなど

、家計の負担は増加することが想定される。

こうした負担増を上回るだけの資産効果や所得増がなければ、一段の消費拡大は望みにくい。クレディ・スイス証券経済調査部

の白川浩道氏は「消費決定により重要なのは現在の実質可処分所得。円安による食料・エネルギーなど必需品のインフレに賃

金上昇が追いつかなければ、実質可処分所得が減少し、消費も結局は落ち込んでしまう可能性が高い」と指摘する。

第一生命経済研究所によると、13年夏のボーナスは前年比0.7%増と10年夏以来6期ぶりに増加に転じる見通し。「今冬

のボーナスでは、年度前半の企業収益回復を反映する形で増加率が高まることが予想され、賃金にも徐々に回復感が出てくる

と思われる」と、同研究所の新家義貴・首席エコノミストは言う。こうした動きが、家計負担増を上回ることができるか、企業業績と

ともに、給与所得環境に変化が生じるかが今後のポイントになる。

J.フロント リテイリング(3086.T)の山本良一社長は、今後の動向について、婦人衣料のなかでもボリュームゾーンである50―

60代の女性への広がりが重要となるほか「最終的には、紳士服に力強さが出てくれば消費は本物」と指摘。景気回復時は一

番遅く回復し、景気悪化時は一番早く落ち始めると言われる紳士服・雑貨が動き出すかどうかに注目しているという。

(ロイターニュース 清水律子;編集 久保信博)


百貨店売上高は3カ月連続プラス、春物衣料が活発に
2013年 04月 18日 18:03

[東京 18日 ロイター] 日本百貨店協会が18日発表した3月の全国百貨店売上高は、店舗数調整後で前年比3.9%

増の5447億円と、3カ月連続でプラスとなった。

3月は好天に恵まれて主力の春物衣料が活発に動いたほか、株価上昇に伴う資産効果や景気回復期待を背景に消費意欲

が高まり、宝飾品・高級時計などの高額商材が極めて好調だった。衣料品は4.8%増、美術・宝飾・貴金属は15.6%増な

ど高い伸びを示している。また、ホワイトデー商戦が堅調だったほか、気温の上昇で花見商戦が3月に前倒しされたこともあり、前

年実績を大きく上回る結果となった。

訪日外国人については、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国からの訪日客の急増や円安効果により、売上高で同72.6%

増、客数で同53.1%増と、最近の増勢に弾みが付いているという。

調査対象の百貨店は85社・244店舗。東京地区は前年比6.4%増と、3カ月連続プラスとなった。

第一生命経済研究所では「株価上昇やそれに伴う消費者マインドの改善が個人消費の追い風になっている。こうした動きに自

動車販売の持ち直しも加わり、1―3月期の個人消費は前期比で明確なプラスとなる見込み」としている。4月も株価上昇が続

いていることや、景気回復が雇用に波及することが見込まれるなど「今後も個人消費は底堅い推移が続く可能性が高い」とみて

いる。

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2月の米フィラデルフィア業況指数、2カ月連続のマイナス 2013年2月22日

2013年 4月 18日 19:08 JST
爆発で手足失った犠牲者、新たな現実に直面

By CHRISTOPHER WEAVER, JENNIFER SMITH, LISA FLEISHER


Associated Press
ザック・ボーターさんは昨年11月、ハイテク技術を使用した「バイオニック」義足でシカゴの103階建てのウィリス・タワーを階段で上った。写真はタワーでトレーニングするボーダーさん
 ボストン爆発事件の負傷者が回復に向かうなか、手足を失った多くの犠牲者には長くて厳しい道のりが待ち構えている。

 15日に両膝下を切断されたセレステ・コーコランさんのような患者は、傷による不透明な状況を依然手探りしている状態だ。コーコランさんの姉妹、カルメン・アカボさんは17日、「今後状況がどのようになるのかさえ 私たちには本当に分からない」と話した。コーコランさんはこの日、ボストン医療センターで追加手術を受けるため、再度オペ室に運ばれた。

 手足を失った患者の治療後の見通しは一世代前よりはるかに良くなっている。人工補装具の発展のおかげで、両足を失った患者でさえ歩いたり、走ったり、おおむね通常の生活を送ったりすることができる、と医師らは話す。ひざを切断せずに済めば先行きの見通しはより明るくなるが、膝上から下の負傷も以前よりははるかに治療可能だ。

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ボストン爆発、緊急時に備えた事前準備が犠牲を最小限に
 爆発の犠牲者の中でも最も目に見えやすいのが手足を失った人々だ。爆発後、少なくとも13人がボストン市内の病院で手足を1カ所以上切断された。

 一家族の中に複数の重傷者がいるケースもある。コーコランさんの18歳の娘、シドニーさんも足に深刻な傷を負った。爆発で死亡したマサチューセッツ州ドーチェスター在住の8歳のマーチン・リチャードくんの家族の友人によると、母親のデニスさんも重傷で、7歳の妹のジェーンちゃんも片足を失ったという。

 17日午後遅い時点で全部で66人の犠牲者がボストン市内の7カ所の病院にとどまり、骨折ややけど、破片による負傷などで治療を受けていた。

 手足を失った人や手足に大きな外傷を負った人たちには、恐らく回復までの長い道のりと深刻な合併症の危険性が待ち受けている。その過程では数カ月にわたって手足を温存するための「たび重なる手術」が必要になる可能性がある、とボストン医療センターの外傷サービス主任ピーター・バーク氏は話す。同氏によると、同病院の手足を切断された患者はいずれも15日から2、3度手術を受け、一部は数週間病院にとどまる見通しだという。どの患者も「順調な回復」が見込まれる、とバーク氏は述べた。

 難しい決断は緊急治療室から始まる。ニューヨークの特殊外科病院の整形外傷外科医ジョン・ライデン氏は「できる限り多くの部分を残すようにしている」と言い、「その後は傷が確実に癒えるよう見守っていく必要がある」と話した。

 義肢の設計や身体への適合を行う義肢装具士らによると、新しい義足に慣れるまでには数カ月のリハビリを要する可能性があり、自分に合った義足を見つけるまでには複数の装具を一定期間試す必要がある場合もあるという。装具が使用できる可能性があると医師が判断した患者に対する費用のほとんどは通常保険が適用される。

 それでも人工義肢での生活は大変だ。ニューヨーク大学ランゴーン医療センターの四肢切断患者向けプログラム担当責任者ジェフリー・コーエン氏によると、膝上から下を失った人の場合、そうでない人と比較して、一定の距離を歩くのに最大60%多くのエネルギーを必要とする。


Devlin Barrett explains the significance of the use of a pressure cooker that authorities believed was used in the Boston Marathon bombings. He also points out past attacks in which pressure cookers were also used. Photo: AP Images.

The FBI and other officials are working through the Boston bombing’s crime scene to piece together answers in the wake of the incident. Dan Defenbaugh, Defenbaugh & Associates founder and a former FBI bomb technician, explains what happens next. Photo: Joint Terrorism Task Force of Boston via Reuters.
 しかし、近年、技術の発展のおかげで、四肢切断患者の可能性は拡大している。数十年前は義足といえば、金属やプラスチック、そして時に木材からなる重い合成物だった。1980年代までには柔軟性のある炭素繊維合成物の登場で軽量化され、走ることさえ可能になった。さらに近年では、アップルのスマートフォン「アイフォーン」のような技術を用いたマイクロチップが埋め込まれた義肢も登場し、動きに合わせた義肢の調整が可能になっている。

 アイウォーク社が新開発した義足は、チップ制御モーターを使用して前進させる仕組みで、ロボットのような足の開発にまた一歩近づいている。起動の判断には 「Wiiのゲームコントローラーに見られるのと非常に似た技術を使用している」とアイウォークの臨床サービス担当責任者ブライアン・フレージャー氏は説明する。1993年に片足を失ったフレージャー氏自身もアイウォークの顧客である。この義足の小売価格は7万ドル(約690万円)。

 やはり義肢の開発を手掛けるフリーダム・イノベーションズでは、スキーや水泳をする人向けに設計された特注義足を開発し、直近では五輪代表入りを目指すスノーボーダーからの特別な依頼にも応じている、と研究開発部門責任者スティーブン・ライネッケ氏は話す。「業界は特定の目的に対応した義足の設計にも取り組んでいる」とライネッケ氏。同氏によると、フリーダム・イノベーションズの義足の価格は1000−3000ドル。

 通常歩行用の義足のほか、走行用の特殊な義足を使用しているマイク・アセファさん(21)は、新しい装具は最初は使用するのが大変だが、自分の場合は数カ月で使いこなせるようになったと話した。アセファさんは昨年初めに電車の事故で片方の膝上から下を失った。しかし、シカゴのリハビリ研究所で数カ月治療を受けたあと、「再び走れるようになり始めている」と話す。

 そうしたリハビリ治療には、残った四肢の強化のほか、「四肢形成」と呼ばれる接合材を使用して四肢の断端部を義肢に適合するよう円筒形にするプロセスが含まれる。


03. 2013年5月23日 20:14:19 : e9xeV93vFQ
ロンドン外為:円急伸、100円台−甘利再生相の発言後

  5月23日(ブルームバーグ):ロンドン時間23日午前の外国為替市場で円が急伸、1ドル=100円台となった。この日の日本株下落について甘利明経済再生担当相が「ろうばいせず」やっていくと述べた後に上げ幅を広げた。
ロンドン時間午前9時34分(日本時間午後5時34分)現在、円は対ドルで2.2%高の1ドル=100円94銭。
原題:Yen Extends Gain as Amari Says Not Perturbed Over StockDecline(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Lucy Meakin lmeakin1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Dobson pdobson2@bloomberg.net
更新日時: 2013/05/23 17:54 JST

英1−3月GDP:前期比0.3%増、速報と一致−在庫と消費増で (1)
ユーロ圏:5月の総合景気指数47.7、予想上回る改善−回復の兆候 (1)
甘利再生相:ろうばいせず、しっかり経済対策やっていく−株価急落
菅官房長官:アベノミクス、方向性変わることない−株価急落で
日銀に追随すべきではない、独与党重鎮がECBに提言−ビルト紙
 


 

 
市場は「逆バンジー・ジャンプ」、早期の米緩和縮小観測で相場は過敏に
2013年 05月 23日 16:59 JST
[東京 23日 ロイター] - マーケットが急速に不安定化した。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言で、米金融緩和の早期縮小観測が強まり、金融相場を支えていた過剰流動性の行方に神経質になったためだ。

日経平均.N225は高値から一時、1500円近く下落。ドル/円も高値から約2円下落した。長期金利も1%に上昇した後は一時マイナス圏まで低下する急変動を見せている。日銀を含め世界的な緩和環境継続への安心感はあるが、株式、金利、ドル/円ともに上昇ピッチが速かっただけに、「逆バンジー・ジャンプ」的な反動が大きくなっている。

<「出口」の言及自体が不安高める>

注目されたバーナンキFRB議長の議会証言は、前回米連邦公開市場委員会(FOMC)での見解と大きな変化はなかった。「状況改善の継続を確認し、持続可能と確信できれば、今後数回の会合で資産買い入れを縮小することは可能だ」とする一方で、「ただ、買い入れを縮小しても、自動的な資産購入プログラムの完了を目指しているというわけではない。むしろわれわれは経済動向を見極め、買い入れを拡大することも縮小することも可能にしていく」とし、追加緩和・緩和縮小、両にらみのスタンスだった。

しかしながら市場では、緩和縮小の可能性を強く織り込みに行っている。というのは、これまでバーナンキ議長は買い入れ縮小の可能性をマーケットに意識させないようにしてきたとみられていたためだ。市場で高まる「出口」観測を前にしても、ハト派の同議長が、条件付きであくまで可能性でとはいえ、買い入れ縮小に言及したことは、「金融政策転換への第一歩として後に記されるかもしれない」(国内銀行)との見方につながっている。

現在のマーケットは緩和マネーが原動力の金融相場だ。日銀など世界的な緩和環境が継続するとの見方は根強いが、流動性供給の「大元」である米FRBが緩和スタンスを変えつつあるのではないかとの疑念は投資家心理を不安にさせやすい。22日の市場で米ダウ.N225は高値から276ドル下落するなど不安定な動きを見せた。過去最高値を更新し続けてきた米株だけに、反動は大きい。米長期金利も抵抗ラインだった2%を超えてきた。

欧州や中国などグローバル経済は依然弱く、ディスインフレの懸念もあるが、米経済は低金利を背景に住宅市場などが回復基調にあるほか、ガソリン価格の低下もあって、消費は財政緊縮の影響もほとんどなく堅調だ。市場では「同議長が米経済に自信を持ち始めているのではないか」(シティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏)との見方も強まり始めている。

一度、投資家心理が不安定化すると、容易なことでは市場のボラティリティは元に戻りにくい。神経質になったマーケットは、FRB高官の発言だけでなく、米金融政策の見方を左右する雇用関連などの米経済指標にさらに過敏になるとみられている。

<日本株は「歪み」が下落に拍車>

日本株はさらに激しい乱高下となった。バーナンキFRB議長発言を受けてドル/円が103円台前半まで円安に振れたことを好感し、一時、前日比315円高まで買われたが、5月の中国製造業PMI(HSBC)が下振れしたことなどをきっかけに大口の売りが出ると、売りが売りを呼び、1143円安まで急落した。「調整らしい調整がなかったことで、一度、相場が崩れると売りが殺到した。ヘッジファンドやCTA(商品投資顧問業者)など海外勢の売りに加え、決算明けの国内機関投資家も売りを出した」(岩井コスモ証券・本店法人営業部副部長の中島肇氏)という。

日経平均ボラティリティ指数.JNIVは前日比58%と急上昇し、43.74ポイントと2011年3月18日以来の高水準となった。

もともと最近の日本株に「歪み」が目立っていたことが、株価下落に拍車をかけた可能性がある。日本株は急ピッチで上昇してきたが、大型連休明けから前日までの約2週間半でTOPIX.TOPXは10%の上昇だったのに対し、日経平均.N225はファーストリテイリング(9983.T)など特定銘柄の上昇で約14%上昇するなど、突出ぶりが目立っていた。市場では「日経平均をどうしても押し上げたい投機筋がいたようだ。先物や特定銘柄で釣り上げていたが、相場急変で投げ売りに転換せざるを得なかったのだろう」(準大手証券)との指摘も出ている。

ただ、米金融緩和縮小への懸念が強まる中で、日本株の相対的な魅力は高まるとの見方もある。米「出口」観測はドル高・円安要因であり、日本株の下支え材料となるためだ。長期金利は上昇しているが、黒田日銀の緩和姿勢に疑いが生じたわけではなく、むしろデフレ脱却をめどとする日本の金融緩和策は景気回復局面であっても継続するとの期待が強まっている。アベノミクスによる景気回復期待もはく落したわけではない。過度な円安進行は日本経済にとってもマイナスだが、現時点では、円安は輸出企業の収益押し上げへの期待につながる。「米株が調整局面に入れば日本株に資金が向かう可能性もある」(国内投信)という。

日本の長期金利上昇も「節目の1%に乗せたことで、投機筋が債先売り・株先買いのポジションを巻き戻した」(国内証券)動きにつながったが、市場では「景気回復、株価上昇に伴う金利上昇であり、水準もまだ1%以下。株式にネガティブな影響は限定的だ。米景気回復に伴う金利上昇が円債金利上昇の背景であれば、米需要拡大やドル高・円安を通じて日本株にはプラスに働く面もある」(三井住友アセットマネジメント・シニアストラテジストの濱崎優氏)との指摘も出ている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏は「デリバティブや信用取引で異常な投機が見られていた。米金融緩和の早期縮小観測が強まったことで、一気に調整が入っている。日経平均で1万4000円程度まで下げてもおかしくない」と指摘した上で、売り一巡後は、これまで日本株を買えていなかった投資家からの買いが入り、下げ止まる可能性があるとの見方を示している。

(伊賀 大記)


 
コラム:黒田緩和の困難な道のり、信認が高める金利上昇圧力
2013年 05月 22日 19:41 JST
田巻一彦

[東京 22日 ロイター] 2年間で2%の物価目標を達成するという「黒田緩和」への市場の信認が高まるほど、長期金利に上昇圧力がかかりやすくなるという構図を前に、多くの市場関係者が思案している。

22日の会見で日銀の黒田東彦総裁は、強力なオペでリスクプレミアムを圧縮させ、長期金利の急上昇はないと強調した。だが、物価の上昇が明確になれば、長期金利の上昇幅も大きくなるだろう。市場が混乱しないゆっくりとした金利上昇と平穏な均衡点への到達は、日銀にとって細い尾根道を行くような困難との遭遇になると予想する。

<巨額国債購入でプレミアム圧縮>

黒田総裁はこの日の会見で、長期金利の構成要素について言及し、経済物価情勢に対する見通しにリスクプレミアムが加わって形成されていると指摘。日銀の巨額国債購入で「このリスクプレミアムを圧縮する効果がある」と指摘。その結果として「長期金利が跳ね上がることは予測していない」との見解を示した。

確かにリスクプレミアムが圧縮されることで、長期金利には短期的に低下圧力がかかるだろう。しかし、経済物価情勢に対する見通しが、その低下圧力を上回って強くなれば、長期金利にはかなりの上昇圧力がかかり出すだろう。

<高まる期待背景に円安/株高進む>

実際、「黒田緩和」の実施を起点にした期待の変化は、まず、外為市場で円安進展として鮮明になり、22日の欧州市場の取引時間帯に103円目前まで円安が進んでいる。円安の効果を期待した市場関係者は日本株にマネーを流入させ、同日の日経平均.N225は1万5627円26銭まで上昇して取引を終了。資産価格の増大ルートで、個人消費が堅調さを強めている。

足元の消費者物価指数は前年比でマイナスとなっているが、日銀は国内需要が底堅く推移し、海外経済の成長率が次第に高まっていくことなどを背景に、「当面、マイナス幅を縮小したあと、次第にプラスに転じていく」との見通しを示している。

<変わる円債市場のムード>

株式市場とは対照的に、円債市場には4月4日の「黒田緩和」発表前までは、2年間で2%の物価上昇が現実になると予想している参加者は、かなり少数にとどまっていたと思われる。日銀による強力な国債購入で長期金利が一時、0.315%まで低下したのは、そう簡単にCPIが2%にならないと見ていた参加者が多かった反映だと考える。

ところが、円安と株高の進展でムードが劇的に変わりつつある。そのことが国債を大量に保有している国内銀行勢にとって、大きな課題となってのしかかってきているのではないか。2%に物価が接近した時のドル/円と日経平均は、どの水準にあるのか、その時の長期金利はどこまで上がっているのか、という問題だ。

<経済活性化が生む長期金利上昇、銀行勢は経営上の問題に>

黒田総裁がこの日の会見で指摘したように、2%の物価上昇が達成された時は、賃金が上がり雇用が増え、生産/所得/支出の好循環が実現しているはずだ。日経平均が1万8000円を突破し、2万円に接近している可能性もあるだろう。

その時に長期金利が1%から1%前半で推移している可能性はかなり低いと予想できる。2%に接近しているか2%を超えて上昇している可能性があるのではないか。その蓋然性が高いと予想できるなら、銀行は保有国債の残高をどこかで低下させないと、大幅な含み損を発生させることになる。

この難問をどう解決していくのか──。メガバンクに限らず、地銀などの地域金融機関にとっては、経営上の最大の問題点に浮上すると予想する。

<横並び売却がリスク、有効な1年超の固定金利オペ>

CPIが前年比でプラスに転じ、その上昇テンポが誰の目にも加速していると映り出した時、銀行に限らず国債を大量に保有している主体は、その適正な保有規模を見直す動きに乗り出すだろう。

その際の売却ペースが市場を混乱させない程度であれば、問題はないはずだ。だが、横並び意識の強い日本の金融界で多くの金融機関が足並みを揃えて国際売却に動けば、長期金利が跳ね上がることになりかねない。

そのような展開になる前に、日銀が柔軟なオペで売り圧力をコントロールするのがベストシナリオだろうが、事態はそう簡単に進展しない可能性がある。

黒田総裁は、この日の会見で明言を避けたが、1年超の固定金利オペを有効に活用し、銀行勢の売り圧力を適切にコントロールする手段は、かなりの有効性を発揮するのではないかと予想する。

<消費増税延期、リスクプレミアム上昇させる懸念>

ただ、この努力も政府が消費税率の引き上げ延期を決め、リスクプレミアムが急上昇するような展開になれば、水泡に帰す運命が待っていると指摘したい。黒田総裁も、政府の財政健全化の取り組みに対する懸念が生じれば、リスクプレアムが拡大する方向に動くとの見方を示し、財政健全化の重要性を強調した。

このように長期金利が緩やかなテンポで上昇し、日本経済の回復が鮮明になって物価が2年間で2%に上昇するというシナリオは、滑落しそうな尾根道を重いリュックを背負って歩くようにリスクが大きい。予想外の横風にあおられて足元がおぼつかなくなる危険性もある。

こうした状況の下では、黒田総裁が「出口論」を封印しても、市場の有力な参加者は独自にシミュレーションし、対応策を検討するだろう。CPIがプラス転化した際の市場反応は、その後の動向を予測する上で極めて重要になると提言したい。


 日銀政策現状維持、木内委員が2%目標は中長期的と議案提出 2013年5月22日
コラム:この先のドル買いはハイリスク・ローリターン=竹中正治氏 2013年5月22日
国債買い入れ頻度やペースの調整など弾力的にオペ行う=日銀総裁 2013年5月22日
国債買い入れ頻度やペースの調整など弾力的にオペ行う=黒田日銀総裁  2013年5月22日

 

ロイター調査:日銀出口戦略「物価1%台から」の声も、国債売却困難
2013年 05月 22日 10:14 J 

政局の行方
橋下市長の慰安婦発言、ソウルの日本大使館前で抗議デモ
飯島参与「あとは首相らの判断」
維新候補の松本氏、出馬辞退へ
債券市場注視し弾力的に国債買い入れ、年50兆円ペース維持=日銀総裁

[東京 22日 ロイター] 日銀による異次元緩和の出口戦略について識者に聞いたところ、金融政策正常化への転換は、緩和効果のオーバーシュートを回避するため物価2%到達前に開始すべきとの見方と、2%達成後も半年程度は継続すべきとの見方に分かれた。

具体的な手法については、国債市場への影響を回避することが最大の命題であり、日銀が保有する大量の国債を売却することはもちろん、買い入れの即時停止も困難とみられ、買い入れ額の漸進的なてい減や超過準備への付利引き上げで対応するしかないとの見方が多い。また、緩和解除の方向性が示された段階で、市場に動揺が生じるリスクがあり、財政再建への信頼性がない場合は、日銀がさらなる国債購入を進めざるを得なくなるとの指摘もある。財政や銀行経営への危険を感じる長期金利水準については「2─4%程度」との回答だった。

この調査はロイターが5月13日から20日にかけて、以下の方々に聞いた。(敬称略、回答順)シティグループ証券チーフJGBストラテジスト・道家映二:中原伸之・元日銀審議委員:マネックス証券チーフエコノミスト・村上尚己:ニッセイ基礎研究所専務理事・櫨 浩一:BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎:東海東京証券チーフ債券ストラテジスト・佐野一彦:SMBC日興証券債券ストラテジスト・岩下真理:JPモルガン証券チーフエコノミスト・菅野雅明:みずほ総合研究所常務執行役員・チーフエコノミスト・高田 創:第一生命経済研究所主席エコノミスト 熊野英生:東短リサーチ社長 加藤出

<出口政策スタートは物価1%台からとの意見も、国債売却は困難>

2%という物価上昇の達成は相当ハードルが高いというのが政府・日銀も含めた共通認識となっているが、異次元緩和から正常な金融政策に方針転換する「出口」における経済条件について識者の間では物価上昇率2%を達成して3カ月から半年程度とする意見が目立った。他方で、「長期金利が物価を織り込んで上がり始めた場合、2%という目標は高過ぎる。その一里塚として1%の上昇率についても、何らかのアクションをとることが重要」(熊野氏)として、2%に達する前にブレーキが必要との意見もある。「早すぎる出口政策と遅すぎる出口政策のプラス・マイナスを勘案して判断すべき」(菅野氏)ということになりそうだ。実際の時期については、2年後から5年後まで見方にばらつきがあり、「出口の時期は現時点でまったくみえない」(中原氏)という状況だ。

ただ、そうした「出口」の経済環境が整ったとしても異次元緩和を転換させる際の最大の問題は「国債市場で大きな動揺を起こさないことが至上命題」(河野氏)という点にある。日銀が買い入れた国債を再び市場に売り戻すという意味での「出口」については国債市場に動揺が走りかねず「不可能」(熊野氏)との見方でほぼ一致している。このため、「保有国債の自然償還を待ちながらゆっくりとバランスシートの縮小を図る」(加藤氏)以外にないとされている。

さらに売却だけでなく、「国債買い取りをやめると国債が暴落するので出口はない」(道家氏)、「金利上昇観測から金融機関、機関投資家は保有国債を売却したがると思われ、本来と逆だが、日銀の国債買入れオペは停止されない可能性がある」(加藤氏)として、買い取り停止も困難を極めそうだ。むしろ「緩和策の転換に相応するコミットメントを明示し、時間軸の目途を示しながら、予見可能性を持たせることも選択肢。国債の購入を続けることで長期金利の安定へのメッセージを市場に伝える」(高田氏)などの言及もあった。また他のリスク資産についても「現在の政策は資産価格上昇に働きかけているため、やめようとすれば激しい反発が各所からやってくる恐れがある」(加藤氏)として、買い入れ停止に批判が出かねない状況も想定されている。米金融緩和の出口が先んじる可能性が高いため「米国の出口戦略をみながら考えればよい」(中原氏)との意見もあった。

多くの回答に共通しているのは、「1)国債買入れを逓減、2)ツイストオペ等により保有残高をキープ、3)買入停止、4)1)から3)に移行するどこかのタイミングで、金融市場調節の操作目標をマネタリーベースから金利に変更、5)利上げ」(岩下氏)といった段階を踏むべきだとみている点だ。

こうして流動性供給をなるべく減らさないようにしている間に、市場金利を徐々に引き上げるためには「付利引き上げか、売出し手形しかない」(道家氏)との回答が多い。「政府が税収増加分で日銀保有国債の買い入れ消却を前倒しでやればいい」(熊野氏)との意見も聞かれた。

<長期金利の危険水域は2─4%、上昇スピードも重要>

とはいえ、すでに国債市場では異次元緩和導入前よりも長期金利が上昇、不安定な状況に陥っている。景気や物価の改善以上に金利上昇ペースが速ければ、経済への影響に加え、国債利払いが増え、銀行の抱えるリスクが膨張しかねない。長期金利がどこまで上昇すると、財政や銀行経営に危険性を感じるか、との質問には2─4%との回答が目立つ。まず財政への影響として「現在の政府の国債発行による資金調達コストが1.2%。長期国債で2%、新規国債の平均発行年限は7年で1.2%を超えて上昇すると、国債の利払費が大幅に増加することになる」(菅野氏)との分析のほか、銀行経営への影響として「金利上昇幅1%ポイントで国際統一基準行と国内基準行の合計で6.6兆円の損失、2%ポイントで12.5兆円の損失と甚大な額にのぼる。過去の金利急騰時を振り返っても、許容範囲は2%程度、2%を超えると保有リスクがかなり大きい」(岩下氏)との意見がある。また「長期金利の上昇が3%程度で留まるのなら、大手金融機関、地域金融機関ともに資本不足に陥ることはない。長期金利が4%まで上昇すれば、地域金融機関も資本不足に陥り、金融システムの動揺が広がると同時に、際限のない財政資金投入への懸念から、長期金利上昇に歯止めがかからなくなる恐れがある」(河野氏)と分析されている。

一方で「水準もさることながら、上昇スピードが問題」(加藤氏)との指摘も複数ある。景気や物価が十分回復しないうちに長期金利だけが上昇すれば、実体経済にも財政にもマイナスの影響が大きくなるためだ。「(イールドカーブが)1%上昇するまでポートフォリオを改善しない銀行はいないだろう」(佐野氏)というもっともな意見もあるが、スピードが速すぎればそれも追い付かない可能性がある。

長期金利上昇のスピードが、景気・物価の改善以上に急に上昇するきっかけとして、財政ファイナンスとの受け止め方が市場で広がる場合が考えられる。具体的な事例として「大型補正予算と国債大増発に対し、日銀が国債買入れの大幅増で即応するケース」(佐野氏)など、財政規律が緩む例が挙げられた。また、「消費税率の引き上げができないなど、中期的な財政健全化プログラムの実施が難しいと判断された場合」(櫨氏)など、消費増税を一つの試金石に挙げる意見が複数あった。ただ現在の日銀の国債買い入れ予定額が13年度当初予算における新規国債発行額を上回っていることが「紛れもない財政ファイナンスではないか」(河野氏)との受け止め方も複数ある。そうした意識がより強まるのは「インフレ率が目標を超えても、日銀が国債購入拡大を続ける時」(村上氏)、さらには「日銀の国債の直接引き受けが行われる時」(高田氏)といった例を挙げる声もある。「財政ファイナンスは日銀ではなく政府の話」(熊野氏)、「消費増税が先送りとなった場合や新たな補正予算など財政出動がうたれたら財政ファイナンスに該当」(岩下氏)と政府側のアクションが判断のポイントとなると指摘されている。

<日銀財務の健全性低下の影響は限定的>

日銀にとって、国債を大量に買い入れることで、金利上昇による価格下落となれば大きな含み損を抱えることになる。これが中央銀行の財務健全性を劣化させることで「日銀への信認が劣化し、円安・インフレ率上昇リスクが高まる結果、長期金利上昇リスクが高まる」(菅野氏)との懸念も指摘された。ただ大半の識者からはむしろそれ自体の影響は限定的であり、「日銀のバランスシートだけが単独で問題となるよりは、政府全体のバランスシートの方がよほど大きな問題になる」(櫨氏)という指摘が多かった。その点からも「財政当局の方向性が最も重要。日銀資産が金利上昇によって劣化し始める中で、日本政府の財政赤字の維持可能性が疑われているようなときは、金融市場も国民も、日銀資産劣化と政府債務懸念との間の悪いスパイラルに恐怖を感じるようになるため、それを避ける必要がある」(加藤氏)、「財政規律への姿勢は今後一層重要性を増す」(高田氏)など、日銀の財務は政府の財政規律と一体と捉えられている。

(ロイターニュース 中川泉  取材協力:竹本能文 伊藤純夫 伊賀大記 星裕康 伊藤武文 志田義寧 山口貴也 金子かおり ホワイト・スタンレー;編集 石田仁志)


 


コラム:この先のドル買いはハイリスク・ローリターン=竹中正治氏
2013年 05月 22日 18:24 JST
竹中正治 龍谷大学経済学部教授(2013年5月22日)

アベノミクスと量的・質的金融緩和(黒田バズーカ)で円高修正、円安相場に転換したことは、「デフレからインフレへの転換」という市場参加者の期待の変化によるものであることに疑いはない。しかし、100円台にのったドル円相場はどれほど先行きの日本のインフレ率を織り込んでいるのだろうか。

結論から言うと、100円台前半のドル円相場は消費者物価指数(総合)で前年比2%、企業物価指数で同7%台のインフレをすでに織り込んでいると推計できる。これは2008年9月のリーマンショック直前に、国際商品市況の高騰などを背景に一時的にインフレが進んだ時の水準とほぼ同じである。逆に言うと、今後2年間ほどでそうしたインフレ率の実現が日本で見えてこない場合には、ドル円相場は急速な円高への戻りが生じる可能性もある。

行き過ぎるのも相場なので、目先105―110円の円安・ドル高もあるかもしれないが、長期的にはこの水準からのドル投資は「降雨確率80%」にもかかわらず傘を持たずに外出するのと同じだ。そう考えられる理由を説明しよう。

<「ドル円のフェアウェイ」から外れても戻ってくる>

長期の為替相場変動は2通貨のインフレ率を反映した「相対的購買力平価(PPP)」による説明力が最も高いことは、実証的にも確立した命題と言っていいだろう。PPPは、「起点時点の市場為替相場×日本の物価指数/米国の物価指数」の算式で計算される(ドル円の場合)。

たとえば、起点時点のドル円相場が1ドル=200円で、10年後に日本の物価指数が100(起点時点=100)、米国の物価指数は200(起点時点=100)だとすると、計算式にしたがって10年後のPPPは1ドル=100円となる。

一方、短期(1年未満)、中期(1年から数年)の為替相場はPPPに対して乖離(かいり)と回帰を繰り返す。PPPからの名目相場(市場相場)の乖離度合いを指数化したものは実質為替相場指数と呼ばれ、「(名目相場/PPP)×100」の算式で計算される。

名目相場がPPPに対して乖離と回帰を繰り返す限り、実質相場指数は長期的な平均値を中心に乖離と回帰を繰り返すことをこの式は示している。下の掲載図表は実質相場指数と名目相場の1973年からの推移である。実際、名目相場が長期的な日米のインフレ格差を反映して円高傾向を辿ってきた一方で、実質相場指数は長期の平均値(紫色の水平線)に対して乖離と回帰を繰り返していることがわかるだろう。

図ではひとつの目途として、この長期の平均値からプラス・マイナス10%の水準にグレーの横線を引いてある。この2本の線に挟まれた薄紫色のレンジを、ゴルフコースにたとえて私は「ドル円のフェアウェイ」と呼んでいる。グレーの線の上は円安のラフであり、下は円高のラフである。

私の下手なゴルフと同じで、ボール(為替相場)は円安のラフにも、円高のラフにも突っ込むが、必ずフェアウェイに戻ってくる。戻ったと思ったらそのまま反対側のラフに突っ込むこともある。今回、ボールは円高のラフから円安のラフに数カ月の短期間で突入したことになる。これもまた相場である。

現在のドル円相場は実質で見ると、98年に日本の銀行の不良債権危機が深刻化し、円売り、日本株売り、日本国債売りの「トリプル安」になった時をすでに凌ぐ円安である。この実質相場指数の推移を手掛かりに、1ドル=80円近辺のドル円相場はドル投資の好機であることをリーマンショック後に私は著作や講演で説いてきた。100円を超えた今、状況は正反対に転じつつあることを強調しておこう。

長期の趨勢的な為替相場の変化はPPPで説明できるので、短期・中期の為替相場変動のみを抽出して説明する場合には、実質為替相場の変動を説明すれば良いことになる。これまでアカデミズムの世界では実質相場指数の変動を説明する様々なモデルが試みられてきた。しかし、私が知る限り、複数のマクロ経済変数で実質相場指数の変動を長期間にわたって統一的に説明できる決定式(モデル)は考案されていない。むしろ、マクロ経済変数による説明から離れ、外為市場の取引フローなどからなる市場のミクロ構造(マイクロ・ストラクチャー)に注目して相場変動を説明する研究が近年は増えている。

PPPに対して乖離と回帰を繰り返す実質為替相場指数の変動は、時代により固有の事情が強く働いており、特定のマクロ諸変数で長期にわたって適用できる統一的な説明は困難だと私も考えている。しかし、数年程度までの中期については、その時代に為替相場変動に対して強い影響力を持つようになった特定のマクロ諸変数を選定することで、有意な説明が可能だ。問題は影響度の強い特定の変数や変数間の相関関係が、時期により変移することにある。

<2000年代後半の2つの相場要因>

リーマンショックを挟む2000年代後半から足もとまでのドル円相場については、次の2つの要因が短期・中期の為替変動要因として相場に強い影響力を持っていることが、経験則として市場関係者やエコノミストの間で話題になってきた。

第1の要因は、2通貨の金利格差である。とりわけ超低金利となった円売り・高金利通貨買い取引によるキャリートレード持高の積み上がりと巻き戻しが、円相場の短期・中期の変動に大きな影響力を持つようになったことが指摘される。

第2の要因は、市場の各種リスク・プレミアムの大きな変動に反映された投資家のリスク許容度の変化である。これは一般に「リスクオン」「リスクオフ」と呼ばれ、投資家のリスク許容度が上昇するリスクオンの局面では、世界的な株価の上昇傾向と日本円やスイスフランなどの低金利通貨(08年の危機後は「セイフヘブン(safe haven)通貨」と呼ばれるようになった)の下落と非セイフヘブン通貨の上昇が見られた。反対に危機の勃発や深刻化局面ではそうした持高の巻き戻しによる逆の相場の動きが見られた。

そこで05年1月から13年3月の期間について実質ドル円相場を対象に、その変動に強く作用していると考えられる2要因でどこまで説明できるか、回帰分析を試みた。

金利差については、名目金利差ではなく、実質金利格差を変数に使用した(ドル金利はフェデラルファンド金利、円金利はコール金利。前者は生産者物価指数、後者は企業物価指数で実質化)。これは、説明対象が短期・中期の相場変動を抽出した実質相場であることに対応したものである。

一方、リスク・プレミアムについては様々な設定の仕方があり得るが、リーマンショックによるリスク・プレミアムの急騰=投資家のリスク許容度の低下とその後の正常化(リスク・プレミアムの下落)は世界的な規模で生じており、またそれは世界中の投資家のマネーフローが流出入する米国の債券市場におけるリスク・プレミアムの変化で代表されると考えて良いだろう。そこで、ここでは、米連邦準備理事会(FRB)が公表するAAA格付け社債とBBB格付け社債の利回り格差で示されるスプレッドをリスク・プレミアム要因とした。

想定される変数間の関係は、次の通りである。実質ドル円相場の変化は実質金利差(ドル金利−円金利)の変化と正の相関関係(金利格差縮小あるいはマイナス値拡大で円高・ドル安、逆は逆)があり、リスク・プレミアムに対しては負の相関関係(リスク・プレミアム上昇で円高・ドル安、逆は逆)がある。

掲載図表の制約で詳細は省略せざるを得ないが、回帰分析における説明度を示す決定変数(R2)は0.64であり、これはこの2つの変数で当該期間の実質ドル円相場指数の変化の64%を説明できることを意味する。また、変数間の相関関係は上記の想定通りで、回帰結果全体も有意である(すなわち統計上偶然ではない)。

加えて、回帰結果からリスク・プレミアムの1ポイントの上昇(下落)に実質相場指数4.46ポイントの円高(円安)の変化が、また実質金利格差の1ポイントの拡大(縮小・マイナス)に実質相場指数1.93ポイントの円安(円高)の変化が対応していることがわかった。図表中に示した赤い線が05年1月―13年3月のドル円実質相場推移の推計値であり、この期間の変化を概ね(64%)説明していることが視覚的にもわかるだろう。

さらに実質金利要因を名目金利格差要因と物価指数要因に分けて見ると、実質金利格差の縮小・マイナス転換による円高効果は、08年初から同年末までは名目金利格差要因(ドル金利の急低下)によるところが相対的に大きく、09年以降12年までは物価要因(日本の企業物価指数変化率が米国の生産者物価指数変化率に比べて大きくマイナスとなっている)つまり日本のデフレの深刻化によるところが大きいことがわかった。

回帰結果が示唆する実質相場の変化は、次の通りである。07年前半までの円売りキャリートレード持高の積み上がりによる需給要因で円安基調を辿っていた。日米間の実質金利格差の拡大がそのような円安・ドル高に作用していた。

ところが、08年には危機の深刻化への対応として米国の金融政策が急速に緩和され、実質金利格差の縮小・逆転とリスク・プレミアム急騰が重なって急速な円高局面に転じた。すなわち実質金利差の縮小と危機による投資家のリスク許容度の縮小という双方の要因により、07年までに大規模に積み上がった円売りキャリートレードの手仕舞いに市場参加者が殺到したのだ。

09年後半には米欧日の政府・中銀による危機対応でリスク・プレミアムは正常化したものの、日本では景気後退によるデフレ傾向が強まった。その結果、名目金利が日米ともほぼゼロ近辺に張り付いた状態の中、実質金利格差は一層大幅なマイナス方向に振れ、マイナスの実質金利格差がなかなか縮小しなかった。このことが円高基調を12年まで中期にわたって持続させる要因となったと言える。

<ドル売りヘッジを考える局面へ>

アベノミクスと黒田日銀総裁の大胆な金融緩和への転換が引き起こした現在の円安への変化は、もちろん「デフレからインフレへの転換が円安につながる」というシナリオを予想した市場参加者の円売り・ドル買いへの需給変化によるものだ。

図で13年1月以降は推計値と現実の値の乖離が大きくなっていることに注目頂きたい。この推計値はあくまでも事後的な実質金利差(=名目金利−インフレ率)を変数にしている。一方、現実の為替相場の変化は円の将来の期待インフレ率の上昇(=実質ドル金利が実質円金利を上回る方向への金利格差の拡大)を織り込んで先行して変動していると理解すると、乖離が納得できる。

回帰分析で得られた推計式に基づいて計算すると、名目で1ドル=102円近辺のドル円相場は、企業物価で前年比7%台(米国の生産者物価は前年比2%、2年後のフェデラルファンド金利0.5%、コールレート0.1%と想定)程度の水準を織り込んだものだ。企業物価指数は消費者物価指数に比べてはるかに変動が激しいが、直近で企業物価の変化がそのような水準になったのはリーマンショック直前の08年央に米国の金融緩和で国際資源価格などが高騰した局面だ。当時の日本の消費者物価指数(総合)は2%前後だった(その後リーマンショックを契機にした不況でマイナスに転じた)。

そういう意味では、日銀が目標に掲げた消費者物価指数の変化で2%という水準を先取りして相場に織り込むレベルまでドル円相場はすでに円安にシフトしていると言えよう。逆に言うと、2年程度の時間軸で2%目標の達成が困難になれば、円高への戻りが生じることが予想される。あるいは日本が目標通りのインフレにならない場合、それでも現下のドル円相場が持続するためには、ドル金利(名目)が現在の予想をはるかに超える急激なテンポで上昇しなくてはならない。

ドル資産を保有する日本の長期投資家にとっては、ドル売りヘッジのタイミングを考える局面に移行したのだ。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。新著に「稼ぐ経済学」。本稿で触れた実質相場指数を利用した長期外貨投資の手法については、同書の第4章に詳しい。


04. 2013年5月23日 22:56:22 : e9xeV93vFQ
コラム:購買力平価で読み解くドル100円台「次の節目」=唐鎌大輔氏
2013年 05月 23日 15:39 JST
唐鎌大輔 みずほコーポレート銀行 マーケット・エコノミスト(2013年5月23日)

待望の100円台に定着する中にあって、次の「節目」を果たしてどこに設定すべきなのか。このことは、投資家だけでなく事業法人にも非常に悩ましい問題だろう。

ドル円の実勢相場のレンジについて、筆者は長らく「企業物価ベース購買力平価(PPP、1973年基準)」を上限、「消費者物価ベースPPPと輸出物価ベースPPPの中点(共に73年基準)」を下限の参照指標の一つと考えてきた。73年以降のドル円相場と各種物価(企業物価、消費者物価、輸出物価)ベースPPPの推移をグラフにしてみると、90年代後半以降は概ねそのイメージに合致するからだ。2013年3月時点でその上限は97円程度、下限は75円程度だ。そのため、「円安がどんなに進んでも97―98円近辺で跳ね返されるはず」との思いを抱いてきた。

実際、この上限は90年代後半以降ほとんど破られたことがなく、信用に足る「最終防衛ライン」だった。しかし、今回の円安局面でついにブレイクされた。黒田日銀の「量的・質的緩和」の影響も当然あるだろうが、それだけではあるまい。貿易収支の恒常的な赤字化という、日本が経験したことのない構造変化も踏まえれば、過去の経験則の有効性が劣化してきているとしても不思議ではない。

<110円を超えたら120円は的外れか>

では、暗中模索の現在、何が次の「節目」を探る道標になるのか。ドル円相場には複数の目途が存在し、ここで全てを紹介することはできない(テクニカルな節目なども踏まえれば、その数は非常に多い)。そこで今回は、金利が為替相場に対する説明力を失っていることも踏まえて、もう一つのファンダメンタルズな測度である物価に絞って節目を検討したい。物価を測度とする為替相場の節目とは、要するにPPPであり、これを主軸に手掛かりを探すことになる。

先ほど企業物価ベースPPP(73年基準)の上限が破られたと述べたが、PPPと一言で言っても、使用する物価や基準年を変えることで複数存在する。後述する「ビッグマック平価」のような平易な考え方も、使いようによっては侮れない情報を与えてくれる。

たとえば、「90―105円」は各種PPPが密集しているレンジである。順を追って紹介すると、91円は企業物価PPP(80年基準)、97円は企業物価PPP(73年基準)、103円は消費者物価PPP(80年基準)、106円は経済協力開発機構(OECD)が公表する国内総生産(GDP)ベースのPPPである。これに基づくとすれば、目先の節目という意味ではOECD公表のPPPを参考に106円、余裕を持って5円刻みで考えるならば110円が有力な候補としてあげられる。

ただ、問題はその先である。110円以上は、実は消費者物価PPP(73年基準)が示す127円まで特に節目が存在しない(あくまでPPPの観点に照らせば、である。その他の節目は存在し得る)。こうした事実を踏まえると、「110円を超えたら120円」との見方はあながち的外れではないようにも思えてくる。「次の手掛かり」としてOECD公表のPPP(106円)に着目する時期が当面続き、その後中長期的なレンジ上限を110円に見直すにしても、それより上値となると理屈付けは極めて難しいという事実は覚えておいて良いかもしれない。

なお、参考までに、それより上値の節目をPPPに沿って紹介しておくと、「2012年度産業向け財・サービスの内外価格調査」における「分野別・業種別の購買力平価」がある。それによれば、工業製品等(素材や加工・組立、エネルギー)の物価を元に算出されるPPPは125.18円で、金融・保険や不動産を含む産業向けサービスの物価を対象とするPPPは174.81円となっている。

<ビッグマック平価からも110円が浮上>

先ほど述べた通り、簡易的なPPPの一種である「ビッグマック平価」からも、今後の手掛かりを得ることは可能だ。英エコノミスト誌の公表値によれば、13年1月時点の最新のビックマック平価は73.3円である(日本の価格320円を米国の価格4.37ドルで除した数値。なお、マクドナルドでは地域間の人件費や家賃等の差異に鑑みて、地域別価格を採用しているので全国統一的な定価ではない)。1月時点の実勢相場は91.07であるから、乖離(かいり)率はマイナス19.5%に達する。つまり、円は1月時点ですでに19.5%も過小評価されていたことになる(マイナスは円の過小評価、プラスは円の過大評価を表す)。

ちなみに、程度の差こそあれ、円の実勢相場はビッグマック平価対比ではドルに対して常に過小評価されてきたという歴史があるが、最も円高が進んでいた10―12年初頭は実は例外的にビッグマック平価とほぼ均衡していた。

たとえば、10年7月のビッグマック平価が85.71円なのに対して実勢相場は87.18円で乖離率はマイナス1.68%、11年7月はビッグマック平価78.72円に対して実勢相場78.37円で乖離率はプラス0.45%、12年1月はビッグマック平価76.24円に対して実勢相場76.92円で乖離率はマイナス0.88%であり、この期間中の実勢相場の水準は概ね正当化されていた。今後一段の円安が進むのであれば、再び実勢相場がビッグマック平価対比で過小評価されている(円が安過ぎる)時代に戻ることになり、どの程度までマイナスの乖離率が拡大し続けるかが注目される。

もちろん、不均衡は無限に拡大しないと考えるのが普通だ。だとすれば、不均衡の調整は、1)日本のビッグマック価格が上昇する、2)米国のビッグマック価格が下落する、3)ドル円が下落する、のいずれかで行なわれることになる。

周知の通り、現状では一番目の兆候がみられている。すでに話題になっているように、日本マクドナルドは5月から全国で100円の「ハンバーガー」など低価格メニューについて恒常的な値上げに踏み切っており、一部店舗では試験的にビッグマック価格が330―360円へ引き上げられることになっている。

仮に360円へ引き上げられたとして、米国の価格(4.37ドル)が横這いと仮定すれば、ビッグマック平価は82.4円まで上昇し、実勢相場(日本時間23日午前10時半現在で103円台)との乖離率はマイナス20%程度となる。直近で円安が最も進んでいた07年6月、乖離率はマイナス32.9%だった。これを現状に当てはめると、約110円(82.4円×1.329)となり、ここまでは経験則で許容し得ることになる。冒頭に続き、再び目安として110円が浮び上がるのは興味深いところである。

なお、足もとでは米国において消費者物価指数(CPI)や個人消費支出(PCE)デフレーターが弱含んでいるが、このような状況がさらに進展していけば、米国での値下げという二番目の経路を辿ってビッグマック平価が円安方向に調整される(つまり実勢相場の円安が肯定される)可能性も出てきそうだ。

最後に言い添えれば、本稿で「節目」という控えめな表現を使ってきたのは、為替相場の動きを理論的に割り切ろうとするのは無謀との思いからである。

たとえば、これまでメインドライバーとして多用されてきた内外金利差は現状で完全に使い物にならず、目にすることも少なくなったが、これは致し方ない。理論的な体系を踏まえても、為替水準を考える際に金利、物価、需給(端的には経常収支)のうち、どれを最重視すべきなのかという明確なコンセンサスが存在するわけではないからだ。

あえて言えば、「時間軸ないし局面に応じ、適宜、適切な測度を使う」程度の整理にとどまっているのが実情だろう。それゆえ、「○○理論や××チャートだけをもって相場説明を押し切ることはできない」との謙虚さは持つべきであり、時宜に適った考え方やそこから導き出される節目は常に模索していくしかない(恐らく米金利が上がってくるような局面になれば、再び金利差の説明力が持ち出され、自己実現的に相場もそのように動くと思われる)。今まで述べてきた目途に関しても、現状のように政治的要素が色濃く作用してくる相場でどの程度の持続力が望めるかは定かではない。ただ、暗中模索の現状において何らかの道標にはなると筆者は考えている。

*唐鎌大輔氏は、みずほコーポレート銀行国際為替部のマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より現職。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位。

 


米新規失業保険申請件数:2万3000件減の34万件 

  5月23日(ブルームバーグ):米労働省が発表した先週の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は、前週比2万3000件減の34万件。ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミスト予想の中央値は34万5000件だった。
原題:Jobless Claims in U.S. Decreased More Than Forecast LastWeek(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ワシントン Jeanna Smialek jsmialek1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chris Wellisz cwellisz@bloomberg.net
更新日時: 2013/05/23 21:37 JST


 

 


ECBの金利の方向を決めるのは6月の景気予測-ノボトニー氏 
  5月23日(ブルームバーグ):欧州中央銀行(ECB)の政策委員会メンバー、ノボトニー・オーストリア中銀総裁は23日、6月に公表されるECBの景気予測が今後の政策金利の方向を決定付けるだろうと述べた。
同総裁はウィーンで記者団に「ECBは6月に最新の予想を公表する。これが金利政策をどうするかについての決定に役立つだろう」と述べた。「私個人としては、経済情勢が短期的に大きく改善することを示唆するものは現時点でないと思われる。つまり、金融政策に変更はないということだ」と続けた。
ECBの政策金利は現在、過去最低の0.5%。ECBの3月時点のユーロ圏成長率予想は今年がマイナス0.5%、2014年がプラス1%。
ノボトニー氏は「年末までにもっと悪い数字が出るのではないかと恐れている。年後半に幾分上向く傾向を期待している向きもあるが、まずそれが現実にならなければだめだ。それを示すしっかりとした証拠はまだない」と語った。
原題:Nowotny Says ECB’s June Forecasts Will Help Define FutureRates(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:フランクフルト Jana Randow jrandow@bloomberg.net;ウィーン Alexander Weber aweber45@bloomberg.net;ニューヨーク Joel Weber jweber66@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Craig Stirling cstirling1@bloomberg.net
更新日時: 2013/05/23 21:11 JST


 


ECBマイナス金利可能性は市場がみているより高い-ドイツ銀 
  5月23日(ブルームバーグ):欧州中央銀行(ECB)が下限政策金利である中銀預金金利を現行のゼロから引き下げマイナス圏にする可能性は、市場が現在織り込んでいるよりも大きい−。ドイツ銀行の通貨ストラテジスト、ジョージ・サラベロス氏が顧客向けリポートで指摘し、それがECBに残された数少ない選択肢の1つだからだと説明した。
同氏はECBの政策の選択肢は条約と政治、資産担保証券(ABS)市場の規模の小ささ、ユーロ圏の金融システムの性質などによって制限されると解説。ユーロ圏では流動性の配分が極めて不均衡なため、マイナス金利の効果は他の諸国に比べて大きいだろうとも指摘した。
また、経済指標の弱さとリスク回避志向の後退によって、マイナス預金金利という環境は昨年12月時点よりも理にかなってきているとの見方も示した。預金金利引き下げは基本シナリオではないと付けえた。
原題:ECB Deposit Rate Cut Makes More Sense Now vs Dec, DB Says(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Deborah L Hyde dhyde10@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Holloway jholloway8@bloomberg.net
更新日時: 2013/05/23 19:54 JST


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