| 02. 2014年12月26日 23:22:33
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  <Vol.319:政府のリフレ政策は、失敗したのか(2)続編> 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・HP: http://www.cool-knowledge.com/
 (過去の有料版からも抜粋して載せています)
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 Systems Research Ltd.  吉田繁治
 42741部
 おはようございます。前号に続く、続編をお届けします。本稿は、
 無料版のオリジナルです。
 安倍政権の異次元緩和によるインフレターゲット政策(物価上昇で2年で2%目標)は、
 ・金融緩和の有効性をなくすゼロ金利に対し、
 ・人々の期待物価上昇率を高め、実質金利をマイナスにもってゆく
 ものです。
 経済を活性化する景気対策では、普通、中央銀行が金利を下げることを行います。金利は、借りる側にとってはお金のコストです。金
 利が下がると、企業では低くなった金利での借り入れが増えて設備
 投資が増える。
 世帯は、金利が下がった住宅ローンを増やして住宅を買い、商品需要も増やすことがそうていできるからです。利下げは、不況期に、
 中央銀行とる伝統的な金融政策でした。
 ところが日本では、不良債権問題から金融危機が起こっていた1999年から、短期金利でゼロの政策がとられています。ところがゼ
 ロ金利でも、借り入れが増えない。借り入れより、返済が多かった
 のです。
 このため、設備投資や住宅購入が増えず、商品需要も増えず、日本では不況が常態化して物価が下がるデフレ経済に向かっています。
 それ以前は、不況と好況はおよそ一定期間で交替するサイクル的な
 ものでした。(40ヵ月のキチン循環、10年のジュグラーサイクル、
 20年のクズネッツ循環、60年のコンドラチェフ循環など)
 金利がゼロに下がってしまった経済では、それ以下に金利を下げることはできません。預金の金利をマイナスにすれば、預金に手数料
 を取られることになるため、貯蓄性の預金は引き出されます。銀行
 から預金が引き出されれば、金融機関は、即刻、資金不足に陥って、
 金融危機が起こってしまうからです。ゼロ金利では、金利をマイナ
 スに下げる景気対策は、とれないのです。
 【実質金利という概念】しかし、預金金利や貸出金利は「名目金利」です。名目金利と物価
 を関係づけたとき、「実質金利」という概念が生まれます。
 実質金利=名目金利−期待物価上昇率(これが、「フィシャー方程式」です。)
 名目金利を0%以下にする方法ことは、できません。0.01%であってもプラスでなければならない。
 ●ここで・・・人々が将来に対して抱く「期待物価上昇率」を2%に上げることができれば、実質金利は、マイナス2%になり得ます。
 本当の金利負担は、この実質金利です。
 期待物価上昇率が2%ということは、現在100の商品が来年は102円に、1000円のものは1020円に上がるという予想を多くの人がいだく
 ということです。
 住宅も現在5000万円ものが2%上がって5100万円になる。10年後は、同等のものが1.02の10乗=1.22、つまり、6100万円に上がるという
 ことです。
 銀行に預金では、100万円は来年も100万円です。ところが物価は102円に、あるいは1020円に上がり、住宅も2%上がって5100万円に
 なる。
 こうしたインフレ予想を人々が抱(いだ)くようになれば、期待物価上昇率を引いた「実質金利」はマイナスになって、設備投資、住
 宅需要、商品需要は増えて、好況に向かうに違いない。
 名目金利がゼロ金利になっていても、方法はある。 物価が下がるデフレによってマイナスになっている人々の期待物価上昇率を、2%や3%に上げることだ。
 このためには、何を行えばいいか。日銀が、金融機関の国債を買い上げて、その支払い代金のマネーを、増刷する。これによって、マ
 ネーが溢れると思わせる。マネーが溢れれば、マネーの価値は下が
 って、下がってきた物価や不動産価格も上がる。
 このために、金融機関が大量に持っている国債を、物価が2%上がるまで80兆円/年の速度で、日銀が買い続ける。
 これが2013年4月からとられた「量的緩和」です。それ以来、1年8か月経過しました。
 【金融経済】金融経済に属する円は、確かに、2年間で140兆円の増刷によって価
 値が下がり、ドルに対してはほぼ50%の円安になった。この円安で、
 輸出企業の利益が倍増し、株価(日経平均)は、8000円から、1万
 7818円(12月26日)と2.3倍にも上がっています。
 【実体経済】問題は、実体経済の物価です。物価が、「量的緩和」の狙い通り、
 上がっているのか。(注)この物価上昇には、消費税増税による物
 価の上昇(約2.1%)はいれません。消費税の影響は、上げた翌年
 はないからです。
 以上で、政府・日銀がとった「量的緩和政策(リフレ策)」の意味と目的が理解されたでしょう。続編は、ここからです。
 <Vol.319:リフレ政策は、失敗したのか(2)>
 無料版:2014年12月23日号
 【目次(1):前号】(1)非伝統的政策だった
 (2)インフレ目標2%達成のための、異次元緩和
 (3)ゼロ金利という制約
 (4)実質金利という考え
 本稿は、ここからです。【目次(2):本号】
 (5)リフレーション論は、真説かどうか
 (6)実質金利の例
 (7)インフレターゲット2%
 (8)もっとも最近の物価上昇は、マイナス0.3%
 (9)金融経済の側面:円は49%下がり、株価は2.2倍なっている
 (10)後記:人口構造
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【期待インフレ率2%】「期待インフレ率」とは、3年後くらいまでの人々が抱く物価の上
 昇率です。60%や70%以上の人が今後2%は上がると思うようにな
 ったとき、「期待インフレ率が2%になった」と言えます。
 一時的な物価上昇である消費税の増税分は、入れません。3%の増税で消費者物価は約2.1%上がります。しかし翌年には物価上昇と
 しての影響が、なくなるからです。
 ■(5)リフレ論は、真説かどうか 政府・日銀が、2年とってきた経済政策で、もっとも肝心なものは「物価の期待上昇率を2%に上げる」ことです。「リフレーション
 政策」(略してリフレ策)とも言っています。
 このリフレ策を、日本経済の根本問題を解決する策として、自民党及び安倍首相に吹き込んだ総帥は、現内閣官房参与の、浜田宏一
 エール大学教授でした。日銀副総裁の岩田紀久男氏は、浜田氏が推
 薦したリフレ派です。
 (注)浜田氏が大学者であることは否定しません。しかし、デフレは貨幣現象とするリフレ論を、人口が高齢化して商品需要が減る傾
 向をもつ日本に適用するのは、誤りだったと感じています。
 1998年に、ゼロ金利の日本に対し『流動性の罠(わな)』を書いて、リフレ政策を奨めたノーベル賞学者クルーグマンも、リフレ派です。
 内容が難しいですが、山形裕生氏が、翻訳を載せています。
 http://cruel.org/krugman/krugback.pdf
 【大きな実験の舞台が日本】リフレ論が正しいかどうか、2013年4月以降の日本で、実験が行わ
 れたと言っていい。2015年の推移次第では、小保方晴子さんの
 STAP細胞に似た曲説になるかもしれません。真正な説かもしれない。
 2014年12月現在の時点では、曲説である可能性が高くなっています。そのカギは、「政府・日銀が、金融の超緩和を行うことで、人々の
 期待インフレ率を高めることができるのかどうか」です。
 マネーの増刷である量的緩和(年80兆円規模)を行い、2%のインフレにすると強くコミットしても、国民の期待インフレ率を高める
 ことできないとすれば、リフレ派の説は、誤りになります。
 リフレの説を、ブードゥ経済学(呪術経済学)という人もいます。政府・日銀が、経済の神に祈るかのように「インフレにする」と強
 く言えば、国民は、インフレ期待をもつだろうとしているからです。
 量的緩和策の成否は、まさに、人々の期待インフレ率の高まりです。 (注)期待インフレ率では、物価変動国債の利回りと、普通国債の利回りの差で計るBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)が指標
 とされます。
 予想されるインフレ率に応じて売買され、価格と名目金利が上下す
 るのが物価変動国債です。ただし発行額が2014年度で残高が4.6兆
 円と少ない。この利回りは参考にならないともされます。財務省は、
 BEIを公表しています。
 消費税が上がった2014年4月以降は1.3%台です。量的緩和の進行とは逆に、BEIで計るインフレ期待は下がる傾向になっています。通
 貨を増発する量的緩和は、インフレ期待を高めていないと見ること
 もできます
 http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-
 indexed/bei20141210.pdf
 ■(6)実質金利の例 住宅ローンと住宅の購入で考えると、期待インフレ率を引いた実質金利の意味が分かりやすいと思えるので、それを書きます。
 (1)住宅ローン金利(名目金利):2014年12月の住宅ローン金利は、10年間固定で、1.3%付近です。
 10年の固定で1%台の金利というのは極限的に低い。打ち合わせと
 事務手数料もかかるので1.3%は下限でしょう。
 (2)心理的な期待上昇率:住宅の、期待物価上昇は、現在どれくらいか?
 1980年代までは、不動産価格(特に地価)は年率で7%や10%は上がると思われていました。事実、上がっていました。このため、
 ローンの金利が7%と高くても、不動産の期待上昇率7%を引いた結
 果の実質金利は0%やマイナスでした。
 借金で住宅を買うことによって、世帯の資産が増えると多くの人が考えていました。賃金の上昇も7%くらいは期待されていたのです。
 7%とは、10年で2倍になる増加率です。月収20万円でも、10年後に
 は40万円に増える。10年後のローン負担と支払いは1/2になる。
 一方で、3000万円で買った住宅は、10年後には6000万円にはなっているだろうと考えていたのが、1980年代でした。
 その後30年。2014年の住宅価格の期待上昇率は何%か? 地価で見ます。地価が、より不動産価格であると言えるからです。
 公示地価(全国平均:住宅地:国土交通省)は、1993年から下がり続けています。2013年は、マイナス3%付近です。基準地価で見る
 と、もっとも最近の住宅地は、全国でマイナス1.2%、三大都市圏
 では+0.5%になっています(14年7月)。
 http://www5.cao.go.jp/keizai3/discussion-paper/dp032-z.pdf
 ▼心理的な期待物価上昇率 心理的なものである期待インフレ率は、過去から現在の物価の傾向の上に築かれます。
 人々が抱いている地価での期待上昇率は、全国平均ではマイナス2〜3%くらいでしょう。(注)東京都では基準地価は+0.6%です
 (14年7月)。このため東京では増加オフィス需要もあります。
 全国ベースでは、住宅ローンの実質金利は、何%になるか? ▼住宅ローンの実質金利は、4.3% 名目金利(10年固定ローン)1.3%−地価の期待上昇率(-3%)=実質金利4.3%
 ローン金利は1.3%と低い。しかしこれから住宅を買う人は、地価の下落が予想されるため、実質金利の負担は、不動産価格の4.3%
 というように、高いと考えるでしょう。5000万円の不動産なら、実
 質金利が215万円/月です。
 名目金利の負担は1.3%の65万円です。しかし期待上昇率の下落による実質負担が150万円/年(3%)です。また、賃金の将来の増加
 も、せいぜい年率で2%でしょう。
 地価に下落予想がある場合、名目金利は1.3%と低くても実質金利が高すぎて、住宅購入が盛り上がることはない。
 【1980年代は、実質金利が低かった】1980年代には、ローン金利は7%でも、不動産価格の上昇は7%から
 10%期待でき、実質金利は0%からマイナス3%でした。
 実質金利の低さと、団塊の世代の住宅需要があったため、住宅購入が、1年に200万戸以上と多かったのです。
 住宅需要が増えると需要と供給の関係から価格は上がります。そしてついに1990年から92年のバブル価格にもなったのです。
 92年の住宅価格は、現在の約3倍でした。都市部では、現在3000万円の物件が、9000万円や1億円でした。7大都市では、100平米くら
 いでも1億を超える住宅やマンションも、ザラでした。
 【住宅需要は当時の1/3】価格が1/3になっている現在は、1年88万戸の新築であり、当時の
 44%に過ぎない新築数です(2014年9月実績)。
 価格が下がるという予想があるため、住宅需要は増えていない。数年待てば、もっと下がると予想しているからです。(注)これがデ
 フレ期待です。
 ▼期待物価上昇率を、2%に上げる 政府・日銀は、マネーを増発する量的緩和によって、物価が2%上がり続ける経済にしようと考えています。
 (注)地価は、株と同じ資産価格に属し、商品の消費者物価(CPI)には入りません。しかし、地価を反映する賃借料は、持ち家を
 家賃とみなして計算する帰属家賃(GDPの構成要素)も決めるもの
 で、消費者物価の重要なひとつです。
 地価が上がらないと賃借料も上がらない。このためインフレターゲットには、事実上、地価の上昇も含んでいると考えていいでしょう。
 なお、過去、物価と地価には強い相関があります。
 http://braganetwork.com/category7/entry11.html
 【不動産の期待物価上昇が2%になると・・・】もし人々が、日銀による1年70兆円の異次元緩和(13年4月〜)と、
 80兆円に増やした追加の量的緩和策(14年11月〜)によって、「今
 後の地価と不動産は年2%上がる」と考えるようになると、どうな
 るか?
 ローンの実質金利=名目金利(10年固定金利1.3%)−期待物価上昇率(地価の期待上昇率2%)=−0.7%
 【実質金利がマイナス0.7%になれば・・・】実質金利のマイナス0.7%とは、5000万円で不動産を買った人は、
 ローンの金利を1.3%(65万円/年)払っても、地価上昇による実質
 的な利益を0.7%(35万円/年)見込めるということです。これは、
 資産増になります。
 2%の地価上昇がずっと続けば、ローンを払い終わる30年後(2045年)には、地価は1.8倍(1.02を30回かける)になっていて、相当
 な資産額を期待できます。
 【リフレ策がこれ】不動産もインフ期待が2%くらいになると、住宅購入数は増えて、
 経済は好況と成長に向かうでしょう。
 以上が物価を上げ、実質金利をマイナスにすることによって経済を成長に向かわせるリフレ策です。
 (注)ここでは、マイナス実質金利の、経済効果をはっきり示すため、消費者物価には含まれていない地価を事例にしました。
 ■(7)インフレターゲット2% 日銀は、異次元の緩和(+追加緩和)を行うことにより、物価上昇の目標2%を2015年度に達成する。その結果、人々が心に抱く期待
 インフレ率を2%に上げて実質金利をマイナスにもって行くことを
 狙いにしています。
 実質金利=名目金利(1%台)−期待物価上昇率(2%)でしたね。 ▼通貨発行量だけは、2年で予定通り253兆円に増えた 日銀の営業毎旬報告(じゅんほうこく:10日ごと)で見ると、2012年11月30日での、国債保有は111兆円でした。通貨の発行量で
 あるマネタリー・べース(現金発行額+日銀当座預金の金額)は、
 当時の国債保有に見合う120兆円だったのです。(注)日銀は、国
 債保有額とマネタリー・ベースの金額を、ほぼ等しくする政策をと
 っています。
 2年後の現在(14年12月10日)、日銀の国債保有は253兆円へと142兆円も増えています。金融機関がもつ国債を、2年間で142兆円買い
 あげて、保有を増やしたからです。
 このため、日銀の通貨発行量であるマネタリー・ベースは、〔1万円札の発行88(88億枚)+当座預金167兆円=255兆円〕
 に膨らんでいます。
 政府・日銀が、リフレの方法として目論んでいた通り、2年間で135兆円のマネー発行量が増えているのです。
 (↓日銀 営業毎旬報告)https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/
 2012/ac121130.htm/
 https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/
 2014/index.htm/
 普通の時期なら、こうしたことを行えば、需要の超過から2年間で、大きなインフレになります。ところが、物価は、政府・日銀が描い
 ていた目標とシナリオ通りの動きはしていません。
 ■(8)もっとも最近の物価上昇は、マイナス0.3% 総務省の物価統計で見ると、もっとも新しい物価(2014年11月)は、・東京都区部の、全部の総合で、前年比2.1%、
 ・価格変化が激しい生鮮食品とエネルギーを除けば前年比で1.8%
 です(コアコア)。
 このうち、消費税増税による価格上昇が、2.1%くらいです。 ●消費税分での上昇2.1%を引けば、総合での物価上昇は0%です。●生鮮とエネルギーを除くコアコアの物価上昇は、−0.3%です。
 (注)物価には、(1)全品目の総合、(2)インフレ要因以外での価格変動の大きな生鮮食品を除く総合(コア物価)、(3)及び食
 料とエネルギーを除くコアコア物価の3種があります。
 インフレを判断するのにもっとも適当なものは、(3)のコアコア物価です。2014年11月の東京都区部では、コアコア物価は、需要が
 弱いため、再び、デフレ期のようにマイナス0.3%に戻っています。
 異次元緩和による、需要超過からの物価上昇は生まれていない。
 (↓都区部速報)。
 http://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-t.htm
 ▼異次元緩和前の物価上昇は0%だった 自民党が政権に復帰する前の、野田内閣のときの2012年の物価上昇は、コアコアで0%でした。現在は、−0.3%です。
 量的緩和によるインフレ目標策をとって約2年ですが、消費者物価は、2%上がるどころか、逆に下がっています。
 消費税分の上昇2.1%があるので、上がったようにみえているだけです。2015年4月以降になると、消費税分での上昇分2.1%は消えま
 す。
 以下は、消費税増税分(2.1%)を抜いた、コアコア物価の、前年比の推移です。(同じ東京都区部です)
 
 【13年11月から14年3月まで】
 2013年11月+0.2%:12月+0.3%:2014年1月+0.3%:2月+0.5%:3
 月+0.4%
 駆け込み需要があった、消費税の増税前までは、0.2%から0.4%くらいのコアコア物価の上昇がありました。
 ところが消費税増税後は、需要の縮小とともに、物価は再び、マイナス圏に入っています。
 【14年4月以降】
 2014年4月-0.1%:5月-0.2%:6月-0.1%:7月+0.0%:8月+0.0%
 :9月-0.1:10月+0.%:11月-0.3%(データ↓)
 http://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/kubu.pdf
 (注)政府は、この、消費税分を抜いたコアコア物価の下落は、無視するでしょう。
 世帯も、漠然と物価は上がったと感じていますが、それは、消費税が付加されたからです。実際は、増税後は、ほぼ横ばいから下落基
 調です。以上の物価の下落こそが、2014年10月末に日銀が突然、異
 次元緩和の追加をし、公的年金を運用するGPIF(資金量126兆円)
 が、ドル買いと国内株の増加買いを発表した理由でもあります。
 【日銀の内部意見も、異なってきた】国債購入と通貨発行の枠を決めている日銀政策委員(黒田総裁と2
 名の副総裁を含み合計9名のメンバー)の間での、2014年10月末の
 追加緩和への賛成は5人、反対が4名という微妙さでした。黒田総裁
 の評決で、かろうじて決定したのです。
 反対の理由は、異次元緩和によるリフレ政策の効果が、日銀の内部でも疑問視されているからです。
 ■(9)金融経済の側面:円はドルに対して49%下がり、株価は2.2倍なっている
 実体経済の物価上昇には効果を上げていない量的緩和も、金融経済の領域では、$1=80円だった円が$1=119.4円です。
 2年間で49%の円安・ドル高です。$1=120円台が、長期で定着しそうな感じも見えます。
 (注)この大きな円安にも、政府(財務省)によるドル買い・円売りの介入があります。しかし為替への介入は、国際的な非難を浴び
 ます。このため政府はそれを言いません。シークレット・バイヤー
 になっています。数十兆円が必要な、介入に使われているのは、郵
 貯、かんぽ、及び公的年金のGPIF、日銀の資金です。この問題も、
 別稿で明らかにします。
 2011年以降、赤字の貿易は、50%の円安でも黒字転換の見込みがないことが明らかになったので、$1=140円までは下がるという人も
 多い。
 ▼金融経済と実体経済に分けると 同じく金融経済の株価(日経平均)は、8000円台が1万7890円(12月22日)です。50%の円安をもっとも大きな理由にして、2年間で、
 株価は2.2倍にも上がっています。
 (注)これは、海外のヘッジ・ファンドが、「円安(円売り)と株買い」をセットにした日本株買いをしているためです。日本株の買
 い越しの資金には、日本政府が行っているドル買い・円売りの資金
 が充てられていると見ています。〔日本政府のドル買い・円売り→
 米国金融機関にドル買い資金が入る→傘下のヘッジ・ファンドの運
 用資金になる→その資金で円買い・日本株買い〕という経路です。
 東証の売買の70%が、海外投資家による売買であるため、日本の株価は、外人が3000億円以上買い越す週は上がり、売り越す週は下が
 ります。金額では、外人の売買は1日で約1.5兆円〜2兆円です。
 日本の銀行と生保、個人投資家(700万人)、及び事業法人は、ほぼずっと、売り越しています。時々、買い越しますが、年間を通じ
 れば、大きな売り越しであり、株価を下げる要素にしかなっていな
 いのが国内投資家の売買です。
 【50%の円安と、2倍に上がった株価】金融経済に属する通貨と株では、異次元緩和の効果は、出ています。
 しかし、不動産と物価を含む実体経済では、2年間の異次元緩和の効果はまるで出ていません。当方、政府・日銀のリフレ策は、実体
 経済では失敗していると感じています。
 ■(10)後記:人口構造 リフレ派は、資産価格と物価が下がるデフレは、貨幣現象であるとします。安倍首相も、国会答弁で、「物価は貨幣現象」と、浜田宏
 一顧問から聞いた通りに答えていました。
 リフレ派の説では、地価の下落も貨幣現象です。貨幣が十分に供給されていないから地価も下がると言う。しかし、これは違うでしょ
 す。
 地価の下落の、基底での原因は、人口の高齢化による住宅需要数の減少だからです。
 誰も住まない空き家が、13.5%(全国で820万戸:2014年)にも増えています。売ろうとしても、買いがなく価格がつかない住宅が増
 えたのです。(注)このうち即入居可能な空き家は、7.6%です。
 そのままでは人が住めない老朽空き家が5.9%です。
 まだ人口が減っていない東京23区でも、空き家は11.3%と多い。東京でも、10軒に1軒は人が住まない、または買わない、あるいは売
 れない空き家です。
 以上から、リフレ政策では、需要数を増やすことができないことが、わかります。つまり、地価の下落は、貨幣現象ではない。
 人口の年齢構造による需要数の減少が、もっとも大きな原因です。
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