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投稿者 烏滸の者 日時 2016 年 3 月 21 日 02:04:30: hk3SORw2nEVEw iUef9YLMjtI
 

(回答先: テスト 投稿者 烏滸の者 日時 2016 年 2 月 27 日 07:51:16)

スティグリッツ教授提出資料(事務局による日本語訳) 
第1回国際金融経済分析会合配付資料 資料2(首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusaikinyu/dai1/gijisidai.html

「資料2」

仮訳

大低迷と金融の安定を超え、
健全で持続的な成長に向けて


ジョセフ・E・スティグリッツ
東京
2016年3月

[p.2]

I.我々は今どこにいるか

・緩慢な成長―大低迷(Great Malaise)、新たな凡庸(New Mediocre)
 ・今のところまだ危機ではない。

 ・しかし、G7の多くの国々では(覆い隠されたケースも含め)恒常的に多くの失業が発生している。
  若年層や社会の主流から取り残された層では更に高率の失業が発生。

 ・この緩慢な成長の果実は一部のトップ層に偏って分配されている―格差は拡大し、賃金の上昇は停滞。
  ・「公式には」失業率が低いとされている国でさえ、雇用の質や覆い隠された失業には疑問符。

 ・世界経済危機前にも関わらず、2007年の世界経済は実際には弱かった。
   ・バブルによって支えられていただけだった。
   ・経済危機前の2007年の世界を取り戻すということは、かつて我々が保持していたものと同じ、
    弱い経済に戻ってしまうことを意味する。

・入り交じる見通し―堅調な成長に戻る可能性は小さく、景気後退や停滞の可能性は高い。
 ・資産価格バブルの収縮への、もっともな懸念。
 ・国家や企業が多額の債務を抱える中、新興国は巨額の資本流出に直面。

[p.3]

伸び悩む米国経済

・仮に1980年から1998年までの経済成長が継続していたとしたら、今の米国のGDPは、現実のGDPよりも15%
 ほど高いものとなっていたはずである。

・女性の労働参加が急速に進んだ1980年代初頭と比較しても、現在の生産年齢人口の就業率は低い。

・中位の(家計)所得は、1989年と比較して1%の上昇すら達成していない。

・最下層の実質賃金は60年前よりも低い。

・若年層のアフリカ系アメリカ人の失業率は未だに23.7%。

[p.4]

[グラフ]米国GDPのトレンド分析 [省略]

[p.5]

欧州はもっと悪い

・失業率は更に高い。

・特に若年層の失業が深刻。

・経済成長も更に低い水準。

・ユーロ危機は終わっていない。一時的な「小康状態(remission)」にあるだけ。
 ・統一通貨が機能するために必要な制度が創設されていない。
  そして、その制度が創設される見込みも当面ない。

・欧州の現状と、仮に欧州が経済成長していたとしたら実現していただろう姿との間にはギャップが存在。

[p.6]

危機以来、欧州のパフォーマンスは悲惨なもの

[グラフ]ユーロ圏のGDPのトレンド分析 [省略]



[p.7]

中国

・世界金融危機以来、中国が世界経済の牽引役だった。
 ・先進国は直接的、間接的に影響を受ける。

・深刻な経済減速となる見込み。

・欧州と米国では、中国経済の減速を埋め合わせることはできそうもない。

[p.8]

大不況(the Great Recession)に関する誤った診断

ただの金融危機ではない。

・銀行のバランスシートは概ね再構築された。

・規制改革もいくらか行われた(ドッド・フランク法)。

・しかし、経済は未だに健全な状態に戻っていない。
 ・クレジット・チャネルの改善に十分な注意が払われていない。
 ・このことは、金融緩和が期待されたほどの効果を得られていない理由の一つ。

[p.9]

大不況(the Great Recession)に関する誤った診断

ただのバランスシート不況ではない。

・大企業のバランスシートは概ね再構築された。

・企業が投資に積極的にならないのは、バランスシートや資金調達の問題ではない。
 ・需要が足りないことが問題なのだ。

[p.10]

更なる懸念

・永続的な世界の不均衡
 ・ユーロ圏が問題を悪化させている。

・非対称な調整
 ・所得の低下に直面する国家(企業、家計)は消費を減少させざるを得ない。
 ・所得が増加した国家(企業、家計)はその分の支出を増加させていない。
 ・原油価格の変動への対応では以下の点が特徴。
   ・原油価格の下落は需要を増加させると期待されていたが、「敗者」(losers)への悪影響が
    それらの便益を上回っている。


[p.11]

・中心的課題の診断

・世界的な総需要の不足。

・それと相まって、各国において、非貿易セクターへの支援は不十分。

・債務・金融化への過度の依存。

・さらに広くみれば、約30年前に市場経済のルールの転換(税制の再設計、ずさんな自由化)のプロセスが
 多くの先進国で始まった。これらは、当初の目論見に反して、更なる経済成長率の低下、不安定化、
 不平等化を招いた。

[p.12]

大低迷(Great malaise)は、驚くほどに進展を見せない、より深刻な問題を覆い隠している

・気候変動

・格差、多数の貧困層
 ・富の不平等、健康の不平等(医療を民間の提供に依存する国においては)、裁判へのアクセスの不平等、
  と多岐に渡る。
 ・先進国では中間層が縮小。途上国においても中間層が縮小。
 ・これらの問題は、社会の主流から取り残された層や(しばしば)若年層では特に深刻。

・持続的成長を実現するためには、徹底的な「構造変革」(structural transformations)が求められる。

・市場経済に根付く問題が、生産性の停滞をもたらしている。
 ・民間部門・公的部門の両部門における短期的志向。
 ・基礎研究への投資の不足。そして、多くの国ではインフラへの投資の不足。
 ・過度の金融化。過度の金融化は以下の過程の一部でもあり、原因の一部でもある。
   ・富と資本の間のギャップの広がり。
   ・多くの国で産出に対する富の割合が高まる一方、産出に対する資本の比率が低下。
 ・教育システムの適合の失敗。

[p.13]

II.これらの状況への対応

当然の手段に関する対立する見解:金融政策

・金融政策は、概ねその役割を全うした。

・深刻な停滞時において、金融政策が極めて有効だったことはこれまでにない。
 唯一の効果的な手段は財政政策。

・本当の問題は、ゼロ金利制約ではない。金利を少し下げること(例えマイナスの領域に入ったとしても)
 は機能しない。
・マイナス金利の試みは、景気を大きくは刺激せず、悪い副作用をもたらす可能性も。

・量的緩和政策は不平等を拡大した。しかし、(もしあったとしても)投資の大幅な増加にはつながらず、
 金融市場の不完全性あるいは不合理性により、リスクのミスプライシングやその他の金融市場の歪みを
 もたらした可能性。
 ・主な便益の一つは、競争的な通貨の切り下げである。しかし、それは、ゼロ・サム・ゲーム。
 ・適切な財政政策なしでは、「唯一の選択肢」問題は更に悪化する一途。

[p.14]

当然の手段に関する対立する見解:財政政策

・財政政策が債務増大のリスクを高める懸念。
 ・2008〜2009年に実施した景気刺激策は効果がなかったという見方は全くの間違い。
 ・対策がなければ更に悪化していたであろう失業率の低下をもたらすことができ、更なる景気後退、不況
  に陥るのを防いだ。
 ・危機時においては、支出を最適化する時間はなかった。―たとえ、不完全な歳出であっても、大量の
  資源を活用せずにいることや不況に比べれば望ましい。
 ・債務への懸念は、バランスシート・アプローチへの問題のすり替え。そこでは、政府は生産的な投資に
  対して支出することが前提とされている。

・グローバリゼーションにより政策効果は損なわれている。―便益は他国に流出し、費用は自国に発生。
 ・しかし、「優位」な解決策を提示するには、世界の協調関係は弱すぎる。

[p.15]

繁栄を取り戻すためには機能しないもの、不十分なもの

1.金融政策
  ・根本的な問題は、ゼロ金利制約ではない。
  ・低金利は資本集約型テクノロジーを生み出し、「雇用なき」経済回復につながる可能性。

2.貿易協定
  ・関税は既にかなりの低水準。
  ・G7諸国による、資本集約財を輸出する一方で労働集約財を輸入するという「バランスの取れた」
   貿易取引の増加は、雇用を減少させる。

3.見当違いの供給サイドの施策
  ・法人所得課税。

4.更なる緊縮財政

これらの対策のなかには、逆効果となるものも存在。

[p.16]

対処法: 緊急の問題―世界の総需要を取り戻す

1.(パリ協定を受け)炭素に高価格を設定することは、気候変動に対応する世界経済への改革に向けた
  投資を促す。

2.経常黒字の一部の再活用(例えば開発銀行の資本再構成、新たな開発銀行の創設)は、インフラを
  含めた投資の必要性を満たすもの。
  ・民間部門は、仲介機能において非効率であることを自ら示している。
  ・長期的な投資家と長期的な投資をつなぐものが、短期取引中心の金融市場である。

[p.17]

効果的な施策

3.政府支出の増加。部分的に税で賄われたものでも経済を刺激する。
  ・均衡予算乗数に関する原則:適切に設計された税と支出によって、乗数は極めて高いものとなる。
  ・国のバランスシートにおいては、負債のみではなく、資産・負債両面を見ることが適切な会計
   フレームワーク。
    ・教育、若者の健康への支出は投資であり、バランスシートの資産サイドを改善。
    ・インフラとテクノロジーへの投資も同様。
  ・環境税や土地税は、持続可能な成長を実現する経済再構築に役立つ。
  ・構造変革を推進し、平等性を高める政府支出も同様。

4.平等性を高めるその他の施策は世界の総需要を増加させる。
  ・経済ルールの大転換:市場で得る所得をもっと平等に。
  ・所得移転と税制の改善。
  ・賃金上昇と労働者保護を高める施策。
    ・いくつかの国では、組合や交渉を取り巻く法的枠組みを改善。

5.グローバルな基軸通貨制度を構築することで、需要を縮小させる外貨準備の積み立ての必要性を減らす
  ことができる。

[p.18]

世界的な総需要の先に

・特に世界的にサービス経済への移行が進む中、非貿易セクターはますます重要に。

・国内需要の低迷は供給を減らす。

・国内需要は民間消費より大きい。
 ・環境や人間、(知識ギャップを埋める)テクノロジー、インフラ、住みよい街にするための投資も
  含まれる。

・これらの国内需要の大半は公的ファイナンスで調達されるべきもの。
 ・健康や教育はその中でも重要なサービス部門。

[p.19]

A.緊縮財政をやめる

・米国ですら、緩やかな形で緊縮になっている。
 ・通常の景気拡大局面では200万人の公的セクターの雇用が生まれるが、現在は逆に50万人減少している。

・景気拡張的な財政緊縮や、債務が一定の閾値を超えると経済成長が低下する、といった考えの正しさは
 否定されている。

・もしそれらの考えが正しかったとしても、今のGDPと将来のGDP、いずれも増加させるように税収と投資を
 歩調を合わせて増加させていくということが均衡予算乗数の教え。

[p.20]

バランスの取れたアプローチが必要―債務 対 税

・債務や税収の水準、成長率の見通しにより、各国ごとに最適な債務と税のバランスは異なる。
 ・常にバランスシート視点を持つことが求められる。

・すべての国において、炭素税を含めた環境税(渋滞課金を含む「課金」)の引き上げで、相当な歳入が
 得られ、経済のパフォーマンスも改善するだろう。

・金融取引税についても同様 。

・ほとんどすべての国において、土地や(「弾力的に供給を増加させることができない」)他の天然資源に
 対する税を引き上げることで、相当な歳入を増やし、成長率を上昇させるだろう(貯蓄の非生産的な用途
 への流入を減らすことができる)。

(次ページに続く)

[p.21]

バランスの取れたアプローチが必要―債務 対 税(続き)

・法人税減税は投資拡大には寄与しない。なぜなら、大抵の投資は借入が原資であり、支払利子は所得控除
 となるからだ(減税はネットの資本コストを上昇させ、投資意欲を減退させる!)
 ・むしろ、国内での投資や雇用創出に積極的でない企業に対して、法人税を引き上げる方が、投資拡大を
  促す。

・(炭素税・相続税など)いくつかの税金は、実際に現時点での支出を促す効果がある。

・均衡予算乗数は、増税と歩調を合わせた支出拡大が経済を刺激することを示唆している。

適切に設計された税制は、格差・不安定・環境悪化といった主要な問題に取り組む手段となる。

[p.22]

緊縮策を超えて

予算ルール・フレームワークの再考

・資本予算(Capital Budgeting)
 ・資金調達コストが低く、投資リターンが高い時には、バランスシートの観点が特に重要である。

・投資促進のための開発銀行(development banks)の活用
 ・税と支出が適切に選択されれば、乗数の効果は極めて高い。

[p.23]

B.効果的に支出する:重要な長期の問題に焦点を当てる―生産性の観点の欠落

テクノロジーやインフラに対する投資は、民間投資を補完する効果を有するものであるが、最適な水準と
比べると低く留まっている。
・基礎研究に対する政府支援額(対GDP比)は、半世紀前よりも低くなっている。
・生産性向上につながる新たなイノベーションを推進するアイデアの源が干上がっている。

必要なことは、インフラとテクノロジーへのより積極的な投資である。
・インフラ・テクノロジーへの公共投資は民間投資と補完的であり、民間投資を刺激する事につながる。
・投資はインフラ銀行(infrastructure bank)からファイナンスすることができる。

[p.24]

C.効果的に支出する:重要な長期の問題に焦点を当てる―構造変革(Structural Transformation)

・世界的に、製造業の雇用が減少している。

・グローバリゼーションとともに、先進国では雇用に占める製造業のシェアが低下していく。

・サービス産業にシフトする必要がある。
 ・いくつかの国では、サービス産業の生産性が向上している。

・そのような大規模な構造変革(structural transformation)が求められているが、市場はそれ自体では
 必要とされている構造変革を達成することが上手くできない。
 ・かつて行われた農業から製造業への移行がそれを証明している。

・サービス産業の中では、教育・健康に改善の余地がある。
 ・これらの部門では、政府が正当に重要な役割を担うものである。
 ・ただし、緊縮財政は、政府がその役割を果たすことを抑制してしまう。

[p.25]

構造変革(Structural Transformation)に伴って発生する課題

・その新しい経済構造は、かつてほど資本集約的(capital-intensive)ではなくなるだろう。
 ・従って、想定されるGDP成長率を達成するために必要となる投資は、より小さなものだろう。

・特に熟年労働者は、新しい経済構造に対して準備不足であろう。
 ・ベビーブーム世代の高齢化と合わせて、労働者のかなりの部分が高齢化している。
 ・その世代の再活躍を促さないことによる社会的なコスト―つまり、その世代の人的資本の陳腐化を単に
  受け入れること―は増大している。

・今存在する取り決めが、高齢者と若者に関わる問題を生み出している。
 ・国債を通じて手堅く運用している高齢者がわずかな所得しか得られないということを、ゼロ金利の環境
  は意味する。
 ・若者は家を買う余裕は無く、職を得るまで長期間待つ必要が多々あり、職を得ても自らのスキル・才能
  を生かせず、そして多くの国では若者は多大な債務を背負い込まされている。

[p.26]

構造変革(Structural Transformation) 促進に向けた政策

・農業から製造業への移行において、多くの国で政府が中心的な役割を果たした。

・より積極的な労働市場政策を含め、政府は再び積極的な役割を担うことが求められている。

・しかしながら、これらの政策は、再職業教育を受けた労働者のための仕事が存在する場合に限って効果が
 ある。
 ・完全雇用を取り戻すための包括的なフレームワークが求められる。

[p.27]

D.格差と戦う

・単なる再分配の話ではない。

・事前分配:市場で得ることのできる所得のより公正な分配を確実なものとするための経済ルールの大転換。
 ・市場は真空の中に存在するものではない:市場の構築方法により、市場の機能・効果・分配が決まる。
 ・家賃の上昇は、所得に対する生産的な資本の比率が減少しているにも関わらず、所得に対する富の比率
  が上昇しているという異常さを物語っている。

[p.28]

格差と戦う

・これらの理論は、労働生産性と実質賃金における著しい不均衡を示している。
 ・この不均衡は、スキル偏重型の技術進歩や貯蓄率の差異といった標準的な理論では説明できない。

・格差縮小は、短期的にも、長期的にも、経済パフォーマンスを改善する。

ジョセフ・E・スティグリッツ(桐谷知未訳)『スティグリッツ教授のこれから始まる「新しい世界経済」
の教科書』(徳間書店、2016年)(原著:Stiglitz, J. E., N. Abernathy, A. Hersh, S. Holmberg, and
M. Konczal (2015). Rewriting the Rules of the American Economy, New York: W.W. Norton, 2015.)
を参照。

[p.29]

III. 構造改革(Structural Reforms)

基本的な原則

・適切な需要なしには、サプライサイドの改革は、失業を増加させるだけで、経済成長には寄与しない。
 ・低生産性部門からゼロ生産性、つまり、人々を失業に追いやるものである。
 ・供給は、それ自体の需要を作り出さない。
 ・実際に、サプライサイドの改革は需要を弱め、GDPを低下させ得る。
 ・しかし、適切に設計された需要刺激策は、供給/生産性を増加させ、現在および潜在的なGDP成長率を
  引き上げることができる。

[p.30]

機能するサプライサイドの施策

「需要」と一体となってこそ、機能することが多い。

・テクノロジーへの投資拡大
 ・革新的経済(innovation economy)と学習社会(learning society)を作り出す上で、とりわけ重要。

・人間への投資の拡大―より健康でより生産性の高い労働力を創出する。

・経済を再構築し、古い産業から新しい産業への移行に役立つ産業政策
 ・市場だけでは、これらの変革は作り出せない。

・競争政策―経済的な権力が合従することを防ぐ
 ・独占は産出を阻害する。

・金融市場改革
 ・金融機関が他に害を及ぼすことを防ぐだけでは不十分。
 ・とりわけ中小企業のために期待される役割を果たし、金融を仲介し、民間資金を提供するように
  金融機関に促すことが求められる。
 ・債務よりも資本性の資金を促すことが求められる。

[p.31]

機能するサプライサイドの施策

・労働参加を促進する施策
 ・有効な公共交通システム
 ・育児休暇、有給病気休暇
 ・子育て支援

・被差別層・社会の主流から取り残された層の包摂
 ・女性
 ・少数派・マイノリティー
 ・移民

[p.32]

機能するサプライサイドの施策

・効果的でない(または逆効果な)サプライサイドの施策が多く存在する。
 ・法人所得税率の引下げ。
  ・例外として、投資をして雇用を創出させる企業には減税し、投資や雇用創出に消極的な企業には増税
   する施策。
 ・金融市場の規制緩和。
  ・投資の減少、投機の拡大、市場の不安定化につながる。
 ・貿易政策においてサプライサイドの効果は期待されてこなかった。
  ・効果は常に過大評価される。
    ・.米国にとってTPPの効果はほぼゼロと推計される。
  ・TPPは悪い貿易協定であるというコンセンサスが広がりつつあり、米国議会で批准されないであろう
    ・特に投資条項が好ましくない―新しい差別をもたらし、より強い成長や環境保護等のための
     経済規制手段を制限する

[p.33]

他の逆効果なサプライサイド施策

・後ろ向きなサプライサイド改革も機能しない。
 ・米国における住宅の過剰供給(ネバダ砂漠の空き家)の削減は、米国経済の回復に寄与していない。
 ・韓国の経済危機(1998年)における半導体チップの過剰生産能力の破壊は、同国経済の回復を遅らせた。
  ・オプションを持つことの価値は無視される。
 ・競争相手を減らすことを望む向きがよく持ち出す議論。
  ・「国の代表的企業」(“national champions”) という言葉は、 実のところは寡占事業者を意味
   するもの。

[p.34]

サプライサイド施策の失敗

・1980年代初頭の米国(および他国)におけるサプライサイド施策の失敗。
 ・税収増加の約束は果たされなかった―実際には減収。
 ・成長率を高める約束は果たされなかった―実際には低下。
  ・貯蓄率低下。
    ・より最近の2000年代初頭における減税でも同じ結果がみられた。
  ・労働参加率低下。
 ・サプライサイド施策の正当化よりも、サプライサイド施策による格差への影響の懸念は最高潮に達して
  いる。

[p.35]

IV.金融セクターと金融混乱

・金融の混乱は、金融市場の不透明感を反映。

・金融の混乱は、金融市場の近視眼的な性質を反映―金融市場は常にとても気まぐれ。

・金融の混乱は、世界経済の先行きに関する深刻な不確実性を反映。

・金融の混乱は、いくつかの国における金融政策調整の失敗に関連しており、結果として為替レートの
 不確実性や不安定な資本フローの大きな動きが生じている。
 ・資本市場、金融市場の自由化がこれらを促進。

・金融の混乱の多くは、金融セクターにおける根本的な問題への取組の失敗を反映したもの。

・このような金融の混乱が実体経済に波及する可能性が高いことが問題である。

[p.36]

金融セクターを改革する

・金融セクターからの害を防ぎ、以下も阻止する。
 ・過度なリスクテイク
 ・市場操作、略奪的貸付など
 ・市場における支配的地位の乱用

・金融セクターが低い取引コストで社会的役割を担えるようにする。
 ・中小企業金融や住宅金融の供給
 ・年金口座の管理や決済システムの運用を低い取引コストで実施

今までのところ、両方のタスクに失敗。

より広くより深い改革と、与信を提供する公的手段の拡大が必要。
・学資ローン
・住宅ローンに関する公的オプション
・年金勘定に関する公的オプション  

[p.37]

V.世界規模の改革

・新しい世界基軸通貨制度の必要性
 ・現在のシステムは過去の遺物。
 ・経常黒字を追求するバイアスにつながっている。
 ・準備通貨国の脆弱性。
 ・ケインズや最近の国連委員会が提唱しているように、世界基軸通貨制度はより強固な世界の安定に
  つながるもの。

[p.38]

世界規模の改革

・世界の不均衡を縮小させる世界的な協調が求められている。
 ・中国の経常黒字は減少過程にある。
 ・しかし、ユーロ圏の経常黒字は増加している、
  ・ユーロ圏において大きな改革が必要となる。

・世界的なマクロ経済(金融および財政)政策協調が求められている。
 ・世界金融危機後に起きうることが期待された。
 ・しかし、未だに実現していない―むしろ、政策の不調和は拡大している。

・経常黒字を活用するより良い手段が求められている。
 ・新しい開発銀行は正しい方向。
 ・ただし、ガバナンス改革と開発銀行間の資本再構成の必要性が存在。

[p.39]

開発に向けて資金を提供する

開発に向けた資金の提供は、経常黒字の活用、世界需要の増加、開発の促進というメリットを同時に実現
するものであるが、3つの障害がある。

・債務の市場:債務再構成に関する国際的なフレームワークがない。
 ・国連における重要な発議があり、大多数の国が支持。
 ・しかし、米国と幾つかのヨーロッパ諸国が「法の支配」(rule of law)に反対。

・海外直接投資: 投資協定が協定国の規制能力を損なう。

・多国籍企業への課税:国際的な税体系が税収の拡大を困難にしている。
 ・「底辺への競争」(Race to the bottom)
 ・G20におけるBEPS(税制浸食と利益移転)合意では、重要課題への取組が不十分。
 ・国際的な税体系のより抜本的な改革が求められる。

[p.40]

気候変動へのアクション

・気候変動への対策として行う投資は、世界経済にとって必要な刺激策となるだろう。

・環境と経済成長は補完的な関係にある。
 ・とりわけ経済成長を正確に捉えた場合に。

・炭素に価格を設定することにより、投資が喚起される。

・国連気候変動パリ会議は、この気運を醸成するという観点から重要だった。経済界は、どのような形に
 なるにせよ、やがては炭素に価格が設定されることを理解したはずである。
 ・鍵となる投資(インフラ、住宅、建築、発電所)は長期的な投資。

[p.41]

VI.世界的な意思決定プロセスの改革

・世界的な経済統合は、世界的な政治統合よりも速く進んできた。

・国を越えた波及効果がある場合にはいつも、外部性には集団的な対処が求められる。

・しかし、世界的な対応を行うに当たっての優れた枠組みは現時点では存在しない。

・世界的な経済政策は、あまりに頻繁に権力や特定の利害に左右される。
 ・世界規模の協力や調和が求められる分野に必ずしも焦点が当てられていない。
  ・知的所有権ルールの過剰な調和。
  ・国内で説明責任を十分に果たさないような特定の利害を反映したルールの調和は、世界的に民主的な
   プロセスから生まれる調和とは異なるものである。
  ・各国政府が民主的なやり方で必要な規制を実施しようとした際に、新たな貿易取り決めがその能力を
   損なうことが特に懸念される。
 ・焦点を当てられるべきは、下方への調和であり、最も恵まれない立場にある者との共通の基盤への調和
  である。

[p.42]

世界的な意思決定プロセスの改革

・どのように代表性を高めるか。
 ・小国、貧困国の代表性は低い。
 ・世界経済に占めるウェイトは小さいとしても、それらの国々は重要な存在である。

・どのように正当性を増すか。
 ・国連は、世界的な正当性を有する国際的な機関である。
 ・IMFもその権限内において、同様に、更に大きな正当性を有する。

・「特定の会員」(”club”)が全員のための意思決定を行う危険。
 ・他の組織の信頼性を損なう。

・代替策:世界経済調整委員会(Global Economic Coordinating Council)の創設
 ・国連、IMFの下で運営

[p.43]

世界的な意思決定を再考する

・可変形状(Variable Geometry)
 ・多くの問題で、全会一致に近づくことは困難であると認識すること。

・「有志連合」(“Coalition of willing”)―例えば、気候変動
 ・国境を越えた課税により、他国の協力を促す。

・新しい世界基軸通貨制度は、恐らく全ての国の合意を得ることは難しい。
 ・この場合も有志連合が有効。―参加による利益が存在するため、他の国もやがて参加する。

・外部性が最も有効な場面を注意深く検討する。
 ・共同でリスク分散を行う仕組みが存在しない限り、高水準の貯蓄を行う国が生まれ、世界的な総需要を
  縮小させる。
 ・資本集積に有利に働く世界的なルールは、格差を拡大させ、世界的な総需要の拡大には逆効果。
 ・世界的な不安定性は格差を生み出し、高水準の貯蓄につながるもの。そして、それらは、世界的な
  総需要の欠乏の要因となる。

[p.44]

VII.遠近法で今の世界を見る

・30年ほど前、多くの先進国では、税率の引き下げや規制緩和といった実験を始めた。

・変化する経済環境に対応し、経済の枠組みを調整する必要があった。
 ・しかし、誤った調整がなされてきた。

・結果として、経済成長は鈍化し、格差が拡大。

・今となって漸く、それらの結果が全て目に見えるものとなったが、過去からずっと進行してきた結果
 なのである。

・現在の方向性が維持されると、状況は更に悪化するだろう。
 ・未だ語られていない政治的な帰結もある。そのうちの幾つかは分かり始めている。

・これらの実験は、大きな失敗であったと今や言うことができる。大きな失敗であったと言うべきである。

・新たな方向性が求められる。
 ・現在の取り決めの微調整では上手くいかないだろう。

[p.45]

この失敗した実験の断片

・金融政策への新たなアプローチ
 ・経済成長、雇用、経済安定化といったバランスのある視点よりも、インフレの安定化に焦点。

・財政政策への新たなアプローチ
 ・欧州では、財政赤字に対して厳重な制約。

・民営化の新たな流れ
 ・社会保障分野にまで民営化の流れが及ぶ国も存在。

これらの政策は、期待するほどの成果を上げていない。

[p.46]

世界の制度設計に関する実験も失敗している

・40年前から、資本移動の自由化が試みられてきた。
 ・それにより、経済が安定化した時代が訪れると期待されていた。

・政府よりも市場メカニズムの方が効果的とされていた。

・こうした実験の結果、逆に、世界的な不安定化の時代に突入した。
 ・特に、短期的な資本移動に関連して不安定性が発生。

・現在では、IMFでさえ資本移動の制限(資本勘定の管理)が必要と主張。

[p.47]

この道しかない

・政府と市場のバランスを取り戻す。

・政府・民間とは異なる「第三のセクター」(“third sector”)や、新たな制度枠組みの重要性を認識
 する。

・緊縮財政をやめる。

・世界的な基本的ニーズ、世界的な公共財、世界的な外部性に対して、世界的に対処する。
 ・気候変動を超えて、世界的な科学基盤を含めるべきである。
 ・底辺への競争を行うのではなく、世界的に生産性向上に務めるべきである。

・世界中・全ての人間の生活水準を引き上げる施策に全てを捧げる。

・進歩に関する指標の世界的な再評価を行う。
 ・評価基準が行動にも影響する。
 ・「経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会」(※)におけるメインメッセージ。
 ・その検討はOECDにおいて継続されている。


 (※)スティグリッツ教授が中心となって、フランスのサルコジ大統領のイニシアティブの下で、
    社会の幸福度を測定しようとした取組。

[p.48]

世界経済:この道を進もう

・「新たな凡庸」(The New Mediocre)、 「大低迷」(the Great Malaise)、「長期停滞」
 (Secular Stagnation)は避けられないものではない。
 ・これらは、政策の失敗による帰結。

・統合が進展する中、前進するための最善の方法は、バランスを取り戻し、総需要を増加させるために
 国際的な協調を行うことだ。
 ・例えば、世界公共財の供給―研究、地球温暖化対策―に向けた国際協調。
 ・この国際協調はとりわけ困難である。
 ・G7において、日本がリーダーシップを発揮することが、前に進むための一歩となるだろう。

・しかし、そういった国際協力が不十分な状況下にあってさえ、需要の強化や生産性の向上のために各国が
 単独で行うことのできることは多く存在する。
 ・それは、大きな好影響を他の国に対しても与えるのだ。
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
投稿者によるコメント

スティグリッツといえば、より望ましいグローバリゼーションへの道筋を示してくれるということで高名な経済学者の一人だ。今回2016年3月16日の国際金融経済分析会合については、ノーベル経済学賞受賞者としての権威をもつスティグリッツが消費税率引き上げの見送りを提言したということで、実際の見送りについての観測も含めて大きく報じられた。また日本農業新聞は、配布資料の中でスティグリッツがTPPの効果や批准の見通しに否定的な見解を示したことを取り上げた。そのような話題性のある配布資料に目を通したついでに、テキスト化してみた。

しかし、この資料を読む分にはやはりリンク先のオリジナルPDFで読んでもらったがよさそうだ。投稿者がブラケットでページ番号を付した下にはそれぞれのページの見出しがついているのだが、テキスト化したらそれが見出しだということがわかりにくくなり、かなり読みにくくなってしまった。2つのグラフも省略している。手作業のレイアウトでミスがないともかぎらない。もとのPDFの劣化コピーとしかいいようのないしろもので、誰の役にも立たないかもしれないが、実験的な意味あいも込めて投稿させていただく。  

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