38. 母系社会 2014年9月19日 18:15:01
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●イスラム教の泰斗黒田寿郎氏によると、イスラム世界には「イスラム原理主義」という言葉は無いそうですから、単に過激派という意味で使用するのは西洋的 偏見なのかもしれません。しかし、この言葉が使われ出したのは、それなり の背景があるのも確かなようです。というのは、イスラム世界では一時期、スエズ戦争に勝利したナセルが英雄と なり、資本主義でもソ連型社会主義でも無い、第三の道としての「ナセル主義」 (汎アラブ主義と民族社会主義)が一世を風靡したのですが、アラブの統一に 失敗したのと、1967年の第三次中東戦争の惨敗で「ナセル主義」は退潮し、 代わりに、急進的マルクス主義派と原典の再解釈を唱え、法だけでなく国家の 有り方まで規定した「シャリーア」=イスラム法に基づく国家の実現を目指す イスラム派が興隆しました。 イスラム世界でのマルクス派は、1930年代から組織されてきた穏健な民族派 のソ連共産党系の政党でしたが、中国の文革やベトナム戦争、ゲバラの影響で、 イスラム世界でも、世界革命を唱えるパレスチナのPFLPのような急進的な マルクス主義派が台頭した。しかし、両派ともソ連の資金援助で勢力を伸ばして きたので、旧ソ連の崩壊と共に没落し、後者のイスラム派が生き残りました。 これが西欧で「イスラム原理主義」と呼ばれるようになったわけですが、彼らは、 総じて、既存のイスラム体制が西欧の帝国主義と戦わないどころか、むしろ取り 込まれている現状に不満であったわけで、その象徴がイスラエルであり、聖地 メッカがあるサウジの米軍基地でした。(イスラム教徒である彼らには、聖地に 異教徒の軍事基地があることは、絶対に許容できない) しかし、この勢力は総じて「キリスト教原理主義」やオウムのような荒唐無稽な 「終末論」や「陰謀論」を背景にした勢力であり、この点では全く問題外の勢力 なのです。 しかし、一方で彼らは、イスラム法に基づく国家=「イスラーム共同体」= 「ウンマ」を本気で建設しようとしている勢力でもあり、その点に西欧の若い イスラム教徒たちも魅力を感じ、引き付けられているのだろうと思います。 ●失われた古代の「共同体」を再建しようとした勢力は、イスラムに限らず、 ギリシャ時代からあります。ソクラテスやプラトンが、ソフィストたちに批判的だったのは、彼らの思想も原因でしたが、彼らが学生から金銭を受け取って 教えていた点にも反対だったからです。 太古の昔から、「共同体」内の若者に教育を行うのは、同じ「共同体」の成員 としての義務であり、見返りを得て行うことではなかったわけです。ですから、 プラトンの私塾「アカデミア」も無料で教育し、ソフィスト達のように報酬を 受け取らなかったソクラテスの生活は極貧でした。 ところが、他の共同体から来たソフィストは、アテネ「共同体」では学生から 授業料を取らないと生きてゆけない立場でした。しかし、これは「共同体」の 伝統的な相互扶助的な人間関係を破壊する行為でもあり、当時、「共同体」と 「共同体」の間で始まった貨幣経済が「共同体」内にも浸透してきていたので、 プラトンらは、貨幣経済と共に、ソフィスト達を古代から続く共生的「共同体」 の危機として捉えたのです。(当時のスパルタは完全な共産社会で、他人の家 の食料でも自由に食べられるほど国民は一体化していたので、戦争に強かった) ほとんどの宗教には生活を律する戒律があるように、元々宗教は心だけでなく、 生活そのものの有り方の指針でもありました。キリスト教も、元来は「共同体」 である「千年王国」を地上に造る運動とも解釈できるように、イスラム教も 「イスラム共同体」=「ウンマ」を地上に造る運動でもあるのです。 ●黒田寿郎氏によると、イスラム教の核心には「タウヒード」という万物が 相互に関連しあって存在しているという仏教の「関係主義」に非常に良く似た コンセプトがあり、これは、<万物は神の前では平等>=等位=万物は同等の 価値物とする世界観でもあります。 一方でキリスト教の場合、万物を精神的なものと物質的なものに二分し、精神が 物質より上位とする二元論的な世界観であるので、司祭や法王のような精神的 活動を行う者を、肉体労働者よりも上位の存在として、信徒の上に「聖職者階級」がいる上下に階層化した宗教にしています。(頭脳労働を、肉体労働よりも上位 の労働とする近代社会的な労働観=価値観の始まりが、この「物心二元論」) この「タウヒード」というコンセプトがイスラム教を、信徒間の徹底した平等性 を重んじる宗教にさせていますし、また、これが信徒同士が共生=助け合って 生きるための「喜捨」を重視する宗教にしています。 イスラムでは全ての信者は平等なので、教師役の法学者はいますが、司祭や法王 に該当する人物はいません。また、「カリフ」=政治的指導者(預言者の代理人) も、あくまでも人間側が選んだリーダーでしかなく、神の側からは、ただの人に 過ぎません。 信者同士の平等性は徹底していて、モスクでは信者以外の人々も平等に扱い、 イスラムの信者でなくとも、貧困者には食事を提供します。また、食事を提供 する側と貧者の信者との関係も平等なので、食事が不味ければ、不味いと文句も 言えますし、与えた側は謝ります。それでモスクでは、プロの料理人を雇って います。また、富者の邸宅も一種の福祉施設となり、貧者に食事を与えます。 ●本来、イスラム教は信者=人間間の平等性を特に重んじる宗教ですが、現実の イスラム社会は不平等です。それで、祖国の現状に絶望して欧米に憧れて留学 した学生は、欧米の社会も格差社会、不平等な社会であることがわかり、欧米 にも絶望する。 そこに、理想的な平等社会=「イスラム共同体」を実現しようと呼びかける 「イスラム国」の宣伝が行われ、イスラム回帰を果たした若者が、シリアや イラクに行くわけです。だから、「イスラム国」には高学歴な人も多くいて、 国家・自治体のような行政も担える人材は豊富なようです。 これは、インテリの場合ですが、十分な教育を受けていない失業者の場合も 同じでしょう。彼らもイスラム戦士になり、理想的な「イスラム共同体」の 実現を目指そうという呼びかけは、西欧で惨めな失業者のままで生きるよりも 魅力的です。 ●彼らの原点は平等を唱えるイスラム教ですが、一方で既存のイスラム教国や 欧米社会が格差社会であることも、彼らが理想の実現を求めて、シリア・イラク に行く動機となっているわけです。 ★ですから、オバマが爆撃で彼ら全員を肉体的に抹殺しても、既存のイスラム 教国や欧米社会の不平等性が無くならない限り、何度でも蘇るので、軍事的 手段で「イスラム国」を抹殺するのは不可能です。 米兵のほとんどがキリスト教徒ですから、殺せば殺すほど異教徒に殺されたと 怒るイスラムの若者が増えて兵士が補給されるので、その意味では、皮肉にも 米軍が「イスラム国」を強化するわけです。 ●「イスラム国」の核心には平等な社会の実現を目指す宗教=思想があり、彼ら の軍は、その思想の現実態に過ぎませんから、離脱させるには、同じスンニ派の 学者が彼らの教義と、スンニ派の教義との違いを説明して離脱を説得するしか、 他に方法がないと思います。 また、イラクでは人口的に圧倒的に多い地元の部族が「イスラム国」と協力 しているので、しばらくすれば「イスラム国」は変質して、穏健になる可能性 があります。だから、米国は介入するべきではありません。 ★★米国が彼らを消滅させたいなら、米国自体を、彼らも憧れるような平等な 社会にするしかないのです。 <<誰もが平等に暮らせる社会の実現は、人類の永遠の理想です>> 黒田寿郎 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E7%94%B0%E5%AF%BF%E9%83%8E タウヒード http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%89
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