［香港　９日　ロイター　BREAKINGVIEWS］ - 英金融大手ＨＳＢＣ(HSBA.L)は、過去に立ち戻る動きを続けている。スチュアート・ガリバー最高経営責任者（ＣＥＯ）が経営のスリム化に着手してから４年が経過したが、ガリバー氏はここにきてさらにリスク性資産を２５％圧縮し、数万人規模の従業員を減らす計画を明らかにした。

この計画を完了すると、ＨＳＢＣは何十年にも及んだ世界全体に事業を拡張する路線とは逆方向へと大きく踏み込むことになる。

ガリバー氏が就任した２０１０年には、ＨＳＢＣは３０万人強の従業員を抱え、保有資産は約２兆５０００億ドルに上り、株主資本利益率（ＲＯＥ）は９．５％だった。そして死にもの狂いで経費節減と資産処分を進めたことで、人員は５万人減らした半面、正味資産は１８００億ドル増加し、ＲＯＥは７．３％まで落ち込んだ。

ゴールポストが移動したのは間違いない。世界的に金利はだれもが想定したよりも長期にわたり低水準にとどまっており、ＨＳＢＣのような預金を通じて資金を集める銀行の経営を圧迫している。多くのライバルと同様に、ＨＳＢＣも新たな規制の順守と過去の違法行為に科せられる制裁のコストを過小評価してしまい、罰金支払いや訴訟の和解によって２０１１年以降はＲＯＥが１年当たり平均で１．４％ポイント押し下げられた。一方で資本積み増しの必要性は高まるばかり。ＨＳＢＣが現在見込んでいる普通株式等Ｔｉｅｒ１比率は最高でも１３％にしか達せず、１１年当時の想定に比べると２．５％ポイントも低くなった。

つまりＨＳＢＣは、国際展開した事業で昨年生み出した２２０億ドルの収入が追加コストの妥当性を証明したとはいえ、もっと経営効率を高めることが求められている。

ガリバー氏はトルコとブラジルの部門を圧縮し、コンピューター化に投資するとともに、リスク性資産を投資銀行からより大きなリターンが得られる分野に再配置しようとしている。

ＨＳＢＣが事業拡大余地があると期待するのは、中国の珠江デルタ地帯や東南アジアだ。同行がアジアの中心地と言われた香港と上海に１５０年前に設立された特異な歴史を持つ銀行という点を別にしても、この戦略は理にかなっている。狙いは、ＲＯＥを１０％超に持っていくことにある。

それでも株主は辛抱しなければならない。ＨＳＢＣの株価は、ガリバー氏が最初のリストラ案を公表した１１年とほとんど同じ水準で推移している。株価の重しになっている要因の１つは、同行が１９９４年に別れを告げた香港に本社を戻すかどうかがなおはっきりしない点だ。決定自体は年内に下される見通しだが、実際の手続きは１７年までかかる可能性がある。昔に戻るというガリバー氏の決意を明示するのが何よりも好ましいだろう。

＜背景となるニュース＞

◎ＨＳＢＣは９日、約５万人を削減して投資銀行業務を縮小するとともに、リスク性資産を圧縮して業務改善に取り組むと発表した。

◎人員削減規模は全体のほぼ２０％に相当。このうちトルコとブラジルの事業売却で２万５０００人を減らし、情報技術（ＩＴ）やバックオフィスの再編と支店閉鎖で２万２０００─２万５０００人を削減する。

◎削減は２０１７年までに完了の予定。その後、成長分野やコンプライアンス（法令順守）部門で若干の新規採用を行うとしたが、採用の詳細な内容は明らかにしなかった。

◎ＨＳＢＣによると、リスク性資産は２０１４年末時点のおよそ４分の１に当たる２９００万ドルを圧縮する。投資銀行部門のリスク性資産は１４００億ドル減って、資産全体に占める割合は現在の４０％前後から３分の１未満に低下する。

◎ＨＳＢＣは新たな株主資本利益率（ＲＯＥ）目標について１７年までに１０％超にすると設定、これまでの１６年までに１２─１５％から引き下げた。

◎ＨＳＢＣは、本社をロンドンから移転するかどうかを決めるための評価基準として１１項目を導入し、年内に決定するとした。

＊筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OQ04T20150610

　　（ブルームバーグ）：英銀ＨＳＢＣホールディングスとドイツ銀行が、経営改革を過去２日間に相次いで発表したことは、金融危機後の市場環境になかなか適応できない欧州の大手銀行の苦境を浮き彫りにしている。
トレーディング収入の減少や規制強化に直面する大手金融機関は、株主リターンの押し上げを目指して苦しい努力を続けており、その結果として一段と大幅な経費削減に集中的に取り組まざるを得ない。
ＨＳＢＣは９日、スチュアート・ガリバー最高経営責任者（ＣＥＯ）が主導する約50億ドル（約6220億円）のコスト圧縮策の一環として、最大２万5000人を2017年までに削減すると発表。ドイツ銀はアンシュー・ジェイン、ユルゲン・フィッチェン共同ＣＥＯに対する株主の不安が高まる中で、スイスのＵＢＳグループの元幹部であるジョン・クライアン氏を新たなＣＥＯに起用する予想外の人事を７日公表した。
ミント・パートナーズのストラテジスト、ビル・ブレイン氏（ロンドン在勤）はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「地道に銀行として存続するための自己改革が銀行に求められている。そのためには組織を運営するのにふさわしいバンカーが必要であり、われわれが過去に見てきたような投資銀行帝国を築き上げた有能なバンカーとは異なる人材が経営者として起用されている理由がそこにある」と指摘した。
原題：HSBC, Deutsche Bank Shakeups Highlight Europe’s Fight to Adapt（抜粋）
記事に関する記者への問い合わせ先：ﾛﾝﾄﾞﾝ Ambereen Choudhury achoudhury@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先： Simone Meier smeier@bloomberg.net James Hertling
更新日時: 2015/06/10 10:46 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NPPCNG6JTSEH01.html