4. 2015年12月17日 05:33:10
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森信茂樹の目覚めよ!納税者 【第105回】 2015年12月17日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員] なぜ新聞まで!?国民不在の消費税軽減税率 新聞にまで軽減税率が適用? 「公益」と「私益」の混同 新聞への軽減税率適用決定で、新聞社は安倍政権に大きな借りをつくったことになる 2017年4月の消費税率10%引上げ時に、生鮮食品と加工食品を含む食料品(酒類、外食を除く)について8%の軽減税率を導入することが決まった。併せて、2021年4月から(欧州型)インボイス制度を導入することも決められた。
驚くことに、この自公合意のあった2日後の12月14日、「新聞」の軽減税率適用が事実上決まった。その表向きの理由は、「生活必需品」「活字離れを防ぐ」ということのようだ。 なぜ活字離れの防止が、この段階での軽減税率の導入に結びつくのか、党税調でも全くといってよいほど議論はなされていない。筆者をはじめ国民にはその理由がわからない。 欧州では皆新聞も軽減税率の対象となっているという。確かにそうだが、欧州では大部分の国の標準税率が20%以上となっている。このことに触れずに「欧州並み」を主張することは論理が通らない。 この決定は、読売新聞社の最高権力者の強い要請に応えたものと思われる。筆者はこの件について、一部新聞の世論操作的な報道に強い警鐘を鳴らしてきた(連載第100回参照)。 いずれにしても、これで読売をはじめとする新聞社は、安倍政権に大きな借りをつくった。 これまでもそうだったが、彼らは以前にも増して安倍政権の政策批判はできなくなるであろう。「軽減税率の導入」と「安倍政権への配慮」は、だれが考えてもバーターということが明白だからだ。 さらに言えば、書籍・雑誌の軽減税率適用が「引き続き検討」となった。政権にとっては、格好の書籍・雑誌の記事内容のけん制が可能になる。 それにしても、社会保障費を削り、財政赤字を拡大し、自らの新聞に軽減税率を適用するという決定に対して、ごり押しをしたマスコミ人は本当に恥ずかしくはないのであろうか。「公益」と「私益」を混同した一部新聞社の横暴は、確実に読者離れを引き起こすと思われる。 わが国の置かれた状況が、少子高齢化の急速な進展の下で、持続可能性が成り立たなくなった社会保障の再構築と、先進国最悪の財政赤字の縮小であることは、マスコミ人ならだれもが理解するところだ。 しかし、この問題を放置し、「自らの業界だけは軽減税率の適用を」という要求とその実現は、軽減税率導入によって引き起こされる「醜い利権政治」の始まりであり、今回はその記念すべき第1号であり、その象徴である。 今後、あらゆる業界が軽減税率を要求してくる。来年度はトイレットペーパーなどの生活必需品がその代表例だ。その結果、消費税率をいくら上げても、ほとんど増収に結びつかない時代がやってくる。 消費税収は全額社会保障財源に充てられる目的税なので、軽減税率の導入は、その分社会保障財源の目減りに直結する。社会保障への不安は、ますます人々の財布のひもを締めるので、経済はいつまでたっても活性化しない。 今回の軽減税率導入に伴う減収額は、1兆円強に及ぶ。与党の12月8日の合意では「2016年度末までに歳入及び歳出における法制上の措置などを講ずることにより、安定的な恒久財源を確保する」こととされた。 安定的な恒久的財源の確保とは、すなわち増税のことを意味する。本来なら、与党税制協議会で年明け早々に、増税メニューを提示して検討する必要があるのだが、選挙後の来年秋口まで議論はされそうもない。 「財政再建」「財政健全化」という 考え方は存在するのか? 安倍総理の頭の中には、「財政再建」「財政健全化」という言葉は存在しないかのようだ。その証左が、筆者が直接聞いた次のスピーチだ。 12月8日に、日経新聞社などが主催する年に一度のエコノミスト懇親会が開かれた。わが国を代表する大勢のエコノミストが出席している。デフレからの脱却に足踏みするアベノミクスを自らどう評価しているのか、多くのエコノミストは総理のスピーチを興味をもって聞いたはずだ。 しかし、安倍総理のスピーチは、まるで「バブル期の中小証券会社の社長のスピーチ」であった。 アベノミクスの成果だけをあげつらい、わが国が抱える様々な課題にはまるで触れなかった。財政の「ざ」の字も出なかった。最後まで真剣味のない、知性にかける能天気な軽口で終わってしまった。 官邸のホームページにスピーチの内容が掲載されているので、ぜひその「軽さ」を味わってほしい。 いずれにしても、軽減税率導入に向けての事業者の準備は、法律・政令・省令・通達・Q&Aなどが出そろう夏場まで行われることはない。そうなると、2017年4月の消費税増税実施までは1年を切ることになる。 事業者はそれまでに複数経理、値決め、表示などの準備に追われることになるが、準備期間があまりにも短く、相当な混乱が予想される。この責任が、安倍総理にあることだけは確かだ。 なお、「軽減税率の導入を懸念するアカデミア有志による声明」を出しており、興味のある方は、http://blog.canpan.info/zkamei/archive/137をご覧いただきたい。 http://diamond.jp/articles/-/83392 【第42回】 2015年12月17日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 軽減税率合意で消費税の矛盾はむしろ拡大した 報道は軽減税率対象の線引き問題に集中しているが、消費税構造の合理化も重要な問題である。 消費税の軽減税率について、自民、公明両党の合意が成立した。しかし、課題は数多く残されている。 報道は、軽減税率対象の線引き問題に集中していた。そして、政治的な取引によって非課税枠が拡大されたことを問題視する論調が多く見られた。 確かにそれは重要な問題だ。ただし、消費税構造の合理化も、大変重要な問題である。それにもかかわらず、この問題には手がつけられていない。制度の矛盾は、むしろ拡大した。 免税、簡易課税制度が残ることで 制度の問題は解決せずさらに拡大 自民、公明両党が12月12日にまとめた合意文書では、つぎのようにされている。 ・2017年4月1日に消費税の軽減税率制度を導入する。 ・21年4月にインボイス(税額票)制度を導入する。それまでの間は、簡素な方法とする。 もう少し詳しく言うと、つぎのとおりだ。 (1)現在、売上高によって前段階の税を推計する簡易課税制度があるが、売上高5000万円以下の中小事業者には、17年4月以降も認める。17年4月からは、軽減対象品目の比率についても推計を認める。 (2)売上高1000万円以下の零細事業者については、17年4月以降も免税制度をそのまま残す。 (3)税額票の導入から6年間は、免税事業者から仕入れた場合でも、税額控除を受けられる。 上記の合意内容で最も問題なのは、免税業者制度や簡易課税業者制度が残ることである。日本の消費税制度にはインボイスがなく、転嫁が完全にできない場合があるので、それを補うために、免税制度や簡易課税制度が導入されていた。 本来は、インボイスを導入することによって転嫁を容易にし、それによってこれらの制度を廃止すべきであった。これらが残ることによって、消費税制度の問題点は改善されず、むしろ、以下に述べるように、問題がさらに拡大することになった。 現在でも、業者間の取引で請求書は用いられており、そこには消費税が記入されている場合が多い。そして、請求書の保存義務が課されている。しかし、前段階税額控除は、そこに記された消費税によって行なうのではなく、仕入額から計算することになっている。 上記の自民・公明合意は、21年4月までは「簡素な方法」とするとしている。「簡素な方法」において、請求書を前段階控除の要件とするのか、それとも現行のように仕入額から計算するのか? おそらく後者と考えられるが、報道されている限りでは、はっきりしない。これこそが消費税の改革に関する最も基本的な問題なのだが、そこが不明瞭なのだ。 簡易課税の場合には、仕入れのデータさえ用いず、売上のデータのみから税額を計算しているのだから、そもそも請求書の意味はないわけである。簡易課税制度を残している以上、前段階税額控除は、請求書なしに可能であると考えざるをえない。 軽減税率の導入によって 最終段階で免税業者が排除される 軽減税率を導入すると、最終段階の免税業者が取引から排除される場合が発生する。免税業者は、前段階の税を控除できないので、小売価格に転嫁せざるをえないからである。 この問題は、この連載の第34回ですでに説明した(「ヨーロッパでは当然の軽減税率をなぜ日本で実行できないのか?」。なお、第29回「『還付方式』は消費税の欠陥を隠蔽する苦し紛れの奇策」も参照)。 一般に、当該段階での付加価値が少なければ、免税業者であることのメリットが少なくなり、前段階の税を控除できないことのデメリットが大きくなる。 食料品については、零細小規模業者が多い。その多くは免税業者であろう。また、付加価値の比率も低いだろう。すると、こうした店での価格が高くなり、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで買うほうが安くなる。したがって、免税業者のほうが、価格競争上不利な立場に置かれることになるわけだ。 免税業者が価格競争力を維持しようとすれば、自ら消費税を負担せざるをえなくなり、利益が減少する。 これは、現実にかなり大きな問題になる可能性がある(なおこれは、非課税制度に関連して、すでに現実化している問題である。これについては後で述べる)。 これは、軽減税率のメリットが免税業者のメリットを上回ってしまうという問題である。したがって、軽減税率を導入することによって初めて生ずる問題である。軽減税率というのは、もともと免税制度のメリットを少なくする制度なのだから、こうした問題が生じるのは、当然なのだ。 この問題は、それまでの免税業者が課税業者になることによって解決できる。ただし、還付額の計算は正確に行なわれなければならない。したがって前段階の税額を正確に把握する必要があり、そのためにはインボイスが不可欠である。つまり、この問題の解決は、インボイスの導入によってしかなしえないのである 支払ってもいない消費税が控除される 国民を愚弄する奇妙奇天烈な制度 以上で述べたのは、最終段階での免税業者の問題である。つぎに、中間段階での免税業者を考えよう。 前段階控除の要件をどうするかは、免税業者からの請求書の扱いに関して違いをもたらす。 現行制度では、仕入額からの前段階税の計算にあたり、免税業者からの仕入れか否かは区別されていない。したがって、仕入額に税率をかけることによって前段階税額を計算すれば、免税業者からの分も含まれることになる。 これに対して、インボイスに記入されている額を控除するとされている場合には、免税業者はインボイスを発行することができないから、その額を控除することができない。 つまり、現状では中間段階の免税業者は取引から排除されることにならないが、インボイス方式では排除されることになる。これが、インボイスのもたらす大きな変化である。「ヨーロッパでは当然の軽減税率をなぜ日本で実行できないのか?」で、このように述べた。 今回の合意では、免税業者が残ることになった。しかも、上記(3)のように、特例が導入されることとなった。免税業者の存在が消費税にさまざまな歪みをもたらしているが、消費税の最も大きな問題が解決されないで残るわけである。 しかし、この措置はまったくおかしなものだ。支払ってもいない消費税が払ったものとみなされて、つぎの段階で控除されるというのは、一体いかなる理由に基づくものであろうか? もちろん、上で述べたように、現行制度でも免税業者からの仕入れについて税額控除ができる。しかし、それは、「インボイスがないために、そうならざるをえない」というものだ。しかし、自民・公明の合意は、インボイス導入後もそれを認めようというのだ。これは奇妙奇天烈な制度と言わざるをえない。このような提案が堂々となされるのは、国民を愚弄するものだと言わざるをえない。 簡易課税制度をどうするのか 具体的な計算方法は何ら提案されず 現在、課税仕入れと非課税仕入れの区別は行なっている。複数税率が導入されれば、その区別も仕入れについて行なう必要が生じる。 これは本来の課税の場合についても必要となることであるが、簡易課税の場合には、仕入れのデータを用いず、売上のデータのみを用いて前段階の税を計算しているため、仕組みが極めて複雑なものにならざるをえない。 この問題も、「ヨーロッパでは当然の軽減税率をなぜ日本で実行できないのか?」で述べた。 軽減税率が導入された場合に簡易課税制度を残すか否かは、重要な問題である。自民・公明合意では、簡易課税制度を残し、さらに推計の範囲を広げることとした。簡易課税の適用業者数は数が多く、社会的にかなり重要な役割を果たしている。したがって、この制度の廃止は、政治的にかなり難しい問題を含んでいる。 しかし、具体的にいかなる計算方法を用いるかについては、何も提案されていない。計算の方法によっては、益税の可能性がさらに拡大することもある。 医療費や家賃の「非課税」制度は 「ゼロ税率」への転換が必要 まったく議論されなかった大きな問題として、非課税制度をどうするかがある。 これは、免税事業者制度と似ているが、異なるものだ。免税事業者制度は零細業者を対象とするもので、どんな財・サービスであっても、年間売上が1000万円以下の場合に認められている。それに対して非課税制度は、特定の財やサービスのみについて認められ、事業者の売上高は関係がない。 社会政策的配慮から非課税取引とされているものとして、社会保険診療(公的医療保険でカバーされる医療)、介護保険サービス、住宅の貸付けなどがある。 ところで、非課税とされる取引には消費税が課税されないので、非課税取引のために行なった仕入れに関しては、仕入れに含まれている消費税額を控除することができない。 このため、消費税の税率が引き上げられると、前段階の税の増加をどうするかという問題が発生する。引き上げ分を家賃に転嫁できない、あるいは、社会保障診療費に反映されないという問題である。その場合には、増税分を事業者が負担しなければならなくなる。これは、消費税率を5%から8%に引き上げる際に問題となった。 「社会政策的観点から消費税負担を軽減する」という意味では、軽減税率も非課税制度も同じだ。これまでは、軽減税率がなかったために非課税制度によらざるをえなかったが、軽減税率が導入されたことによって、矛盾が生じている。 例えば、借家の家賃は生活必需品であるにもかかわらず、消費税の税率引き上げで値上げせざるをえなくなる(あるいは、家主がその分を負担する)。それに対して食品の場合には、高級な加工食品であっても、軽減税率で価格を低く抑えられる、といったような問題である。 軽減税率が導入されるからには、現行の非課税制度を廃止して、軽減税率の一環として扱うことが考えられる。具体的には、これまで非課税の対象とされていた財・サービスについては、税率をゼロとするのである。輸出は、ゼロ税率の消費税を課税するという扱い(輸出免税制度)になっているが、それと同じ扱いにするわけだ。 こうすれば、前段階の税を控除できることになり、現在問題とされている医療費や家賃の問題は解決できる。 ただし、ゼロ税率であるため必ず還付をすることになるわけで、前段階の税を正確に把握する必要があり、インボイスは絶対に必要だ。 データを用いた客観的な議論が重要 政治的駆け引きだけでは制度が崩壊する 今回は、明確な理由が示されることなく、軽減税率の適用範囲が当初考えられていたものから大幅に拡大された。そこには、参議院選挙を念頭に置いた政治的駆け引きがあっただけだった。 例えば外食を軽減税率の対象とすべきかについて、いったんは対象と報道されたが、結局は外された。最終的な決定がなされた理由が何であったのかは、はっきりしない。この問題は、少なくとも、外食費の絶対額や家計に占める比率が所得階層によってどう違うかを見なければ、議論できないはずの問題である。 軽減税率の対象をどこで線引きするかは、難しい問題である。客観的な基準で唯一の「正しい答え」を出すことはできない。ただ、その決定には、さまざまなデータを用いた客観的な議論が必要だ。 今後、軽減税率に対する要求は増えるだろう。書籍・雑誌等の要求があるし、その他にも生活必需品と考えられるものは多数ある。今回対象とされた食料品についても、消費税の税率がさらに引き上げられた場合に軽減税率をどうするかという問題がある。また、仮にゼロ税率を導入すれば、他の取引にも同様の扱いを求める圧力が生じるかもしれない。 このような問題に関して、政治的な駆け引きだけで制度を決めていけば、消費税制度は崩壊してしまうだろう。 http://diamond.jp/articles/-/83390
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