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2016年は1月4日から通常国会が始まる異例の日程だ(写真は12月28日、従軍慰安婦問題の日韓合意直後で記者団の質問に答える安倍首相:共同)
2016年夏に衆院解散・衆参同日選はあるのか 安倍政権の明暗を分けるものは?
http://toyokeizai.net/articles/-/98817
2016年01月01日 星 浩 :朝日新聞特別編集委員 東洋経済
2016年がスタートした。お屠蘇気分もさめやらぬ1月4日から通常国会の論戦が始まるという異例の政治日程だ。2015年度補正予算案、2016年度当初予算案、TPP(環太平洋経済連携協定)の協定案、それに昨年、与野党が激しく対立した安全保障法制の評価……。多くの論点が詰まった国会となる。その後には参議院選挙が待ち受けており、与野党の論争は、いつになく熱を帯びそうだ。そこで、今年の政局を占ってみよう。
政界の最大の関心は、参院選に合わせて衆議院の解散・衆参同日選挙はあるのかという点だ。通常国会最終日の6月1日に衆院を解散すれば、7月10日に同日選の投開票という日程となる。安倍晋三首相とすれば、首相の大権である解散権が行使できる日程を確保しておいて、与野党ににらみをきかせたいという気持ちだろう。
■同日選で野党共闘を分断したい自民党
そこで、同日選を取り巻く構図を解説してみよう。経済政策や安保法制をめぐって野党の追及が強まり、国会最終盤で政局が緊迫すれば、局面打開のカードとして解散権が威力を持つ。野党が選挙に向けて準備不足であれば、カードは有効になるし、与党内でも同日選を避けたい公明党は自民党に譲歩せざるを得なくなる。解散という「ブラフ」は強力だ。
では、本当に衆院解散・衆参同日選はあり得るのか。
まず、安倍政権にとってのメリットは何か。消費税率が8%から10%になるのは2017年4月。今の衆院議員の任期は2018年末だ。2017年4月以降は増税による景気低迷は必至なので、2017年4月以降の解散は政権与党にとって不利なことは間違いない。ならば、増税前に解散に打って出ようという考えは自民党内に根強い。2016年夏の同日選は、その選択肢の一つである。
2016年の参院選に向けて、野党は「統一候補」擁立の動きを強めている。民主党と維新の党は国会での統一会派を結成。年明けには合流する可能性が大きい。共産党は「民主連合政府」を掲げて、民主党などとの選挙協力を提起。独自候補を取り下げて、民主党系の候補を支援する動きが出ている。
同日選となれば、野党各党はそれぞれの勢力拡大に懸命となるから、野党共闘を分断できる。安倍首相や菅義偉官房長官は、橋下徹前大阪市長が主導する「おおさか維新の会」との連携を進めているが、それもまた、野党勢力の分断が大きな狙いだ。とくに橋下氏の人気が高い関西地区では、「おおさか維新の会」が候補者を立てれば、非自民の票は分散されるからだ。
安倍首相の持論である憲法改正を実現するために「衆参両院で自民党を中心とする改憲勢力を3分の2以上にする」ことを正面から掲げて解散、衆参同日選に持ち込めば、選挙の争点は明確になる。安倍首相が「勝負に出る」には最大のチャンスだという見方も自民党内にはある。
■同日選には公明党の強い反対
一方で、同日選には反対論も根強い。まず、公明党が同日選を極端に嫌っていることがあげられる。支持母体の創価学会員は選挙のたびに、知人らに公明党候補(比例区では政党名)への投票を呼びかける。一人ずつ、地道に支持を広げていく。衆参同日選となれば、衆参両院で選挙区と比例、計4種の投票を頼まなければならない。創価学会員の手間がかかり、負担が増えることは間違いない。だから、同日選は困るのだ。
同日選になれば、有権者の関心は高まり、投票率は上がる。固い組織票に頼る公明党にとっては、投票率が上昇すれば、その分、投票総数に占める公明党の比率が低くなる。それも同日選を避けたい大きな理由だ。
同日選で憲法改正を正面から訴えれば、護憲勢力が強く反発し、有権者の関心が高まって投票率がさらに上昇、自民党には不利に働くという見方もある。
ここ3回の総選挙の投票率(選挙区)と自民党の勝敗を見てみよう。
▽2009年=69%、自民党119議席で惨敗、民主党政権誕生
▽2012年=59%、自民党294議席で圧勝、安倍政権誕生
▽2014年=53%、自民党290議席で再び圧勝、安倍政権存続
要するに、自民党は低投票率の選挙で圧勝し、高投票率の時には敗れているのである。衆参同日選で憲法が争点となり、投票率が上がれば、自民党にとって有利とはいえない構図がよく分かる。
2014年の「アベノミクス解散」による選挙では投票率が低く、自民党が圧勝した(日本雑誌協会代表撮影)
■北海道5区補選と春先の経済情勢が判断材料
さまざまな条件を考慮して、安倍首相が解散に踏み切るかどうかを決断するのは、春の大型連休の前後だろう。4月24日投票の衆院北海道5区の補欠選挙の結果も大きな判断材料になる。町村信孝前衆院議長の死去に伴うこの補欠選挙には、自民党から町村氏の娘婿が立候補する予定。野党からは民主党系の女性候補が出馬し、共産党も支援する構えだ。与野党一騎打ちの選挙で自民党が敗れるようなことになれば、解散機運は一気に遠のくだろう。
加えて、解散の判断を大きく左右するのは春先の経済情勢である。アベノミクスは、一本目の矢の金融緩和が効果を発揮したものの、目標の物価上昇率2%には及ばず、息切れ状態。二本目の財政出動にも限界があり、三本目の成長戦略は目立った成果をあげられなかった。安倍首相は2015年に「新三本の矢」を打ち出したが、GDP(国内総生産)600兆円などは「矢」ではなく「的」だ。経済再生の道筋は依然として見えてこない。
2016年春先になっても、国民にとって、景気回復の実感が薄く、格差拡大が指摘されているようなら、安倍首相が衆院解散に踏み切れるような環境とはいえない。逆に民主党などは「経済失政」を指摘し、勢いづくだろう。2016年政局の天王山である参院選に向けて、明暗を分けるのは経済情勢である。
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