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新興国の資本規制で思惑 中国は「不要」、元買いで懸念払拭? 市場沈静化へG20協調焦点
http://www.asyura2.com/16/hasan105/msg/767.html
投稿者 あっしら 日時 2016 年 2 月 22 日 04:13:15: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


[ポジション]新興国の資本規制で思惑
中国は「不要」、元買いで懸念払拭? 市場沈静化へG20協調焦点

 金融市場を揺らしてきた新興国の資本流出を巡り、各国の思惑が交錯している。日本などは今月下旬の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、資本規制について議論しようと働きかける。一方、議長国である中国の中国人民銀行の周小川総裁は「厳しい規制は不要」との認識を示した。市場の動揺をどう制御するか。国際協調のあり方が関心を集めそうだ。

 「8千本(80億ドル=約9千億円)の人民元買いの注文が入ったらしい」――。15日、外国為替市場で人民元相場を巡り、こんな噂が流れた。中国の旧正月・春節前の5日と比べ一時1%超も元高・ドル安に振れたためだ。

 きっかけは13日までに中国誌が報じた中国人民銀の周小川総裁のインタビューだ。「国境をまたぐ資本移動は正常の範囲内」と述べ、市場は「中国は厳しい資本規制が必要と認めたくない」と受け止めた。外国銀行のディーラーは「周総裁発言をうけて経済大国のメンツを守るため中国人民銀行が元を買い支えた」とみる。15日の人民元上昇により上海株の下落は鈍り、日本株の上昇に拍車をかけたとの見方もある。

 資本規制を巡っては中国側の「不要論」に対し、日本などはG20会合で議題に取り上げようと画策する。規制の実効性を高め、米利上げに絡んだ新興国からの資本流出に歯止めをかけられれば、市場の動揺が和らぐと期待するからだ。

 投資家の不安心理を示す「VIX指数」は足元で25前後で推移。10台だった昨年末から水準が切り上がったままだ。不安心理が強いほど投資家はリスクを避ける。為替では安全な逃避通貨の円が買われた。日経通貨インデックスによると、円の実力を示す名目実効為替レートは12日時点で、2年4カ月ぶりの高水準に達した。16年初と比べて7%高く、主要通貨で最も上昇した。

 日銀は1月29日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めた。新発10年物国債利回りまでマイナスに沈み、本来なら円売り要因となるはずだ。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司外国為替部長は「G20が資本規制案などを示し市場が落ち着けば円は再び売られる」と予想する。

 新興国の外貨不足の不安が和らげば投資家はリスクを取りやすい。借りた円を外為市場で売り、ドルや新興国通貨に投資する円キャリー取引が増えるとの見方もある。

 ただ、不安心理が和らいでも「(米欧の緩和局面で膨らんだ)新興国のドル建て債務という根本的な問題が解決するわけではない」(みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジスト)との声もある。

 市場混乱の原因は原油安や新興国経済の減速、米景気回復力への疑念、欧州金融機関の信用不安などが絡む。焦点は日本と中国などG20各国がリップサービスだけでなく政策の中身で足並みをそろえるか。G20後に市場が落ち着くという当局者の期待通りに進むかは予断を許さない。

(川手伊織)

[日経新聞2月16日朝刊P.21]

 

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コメント
 
1. 2016年2月22日 15:33:54 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[299]
中国の金融市場不安定化が米金融政策に与えた影響
世界秩序の多極化時代の到来を象徴
2016.2.22(月) 瀬口 清之
中国のサーキットブレーカー、「誤った治療法」と専門家
中国・上海の歩道橋に映し出された、急落する上海と深センの株価(2016年1月7日撮影)〔AFPBB News〕
1.昨年央以降不安定化が続く中国の為替・株式市場

今年は年明け早々から中国の為替・株式市場が荒れた展開となり、その影響を受けて世界の金融市場が不安定化している。

中国の為替・株式市場は昨年央以降、不安定な状態が続いていた。9月から10月にかけていったん落ち着いたかのように見えたが、10月24日に中国人民銀行が預金・貸出基準金利と預金準備率を同時に引き下げたことを契機に元安期待が再燃した。

中国人民銀行は巨額の為替介入を続けて、必死に大幅な元安を防ごうとしてきたが、現在に至るまでその努力は満足できる成果にはつながっていないように見える。巨額のドル売り元買い介入の結果、外貨準備は11月以降、3か月連続で月間約1000億ドルの急速なペースで減少を続けている。

こうした状況下、中国政府は状況打開のために以下のような様々な政策措置を講じたが、市場との対話能力が不十分なため、市場参加者の理解と信頼を得られていないことから、依然として根強い元安期待を払拭することができず、元売り圧力との戦いが続いている。

中国人民銀行が運営するCFETS(中国外貨交易センター、The China Foreign Exchange Trade System)は昨年12月11日、「CFETS人民元為替指数」の公表を開始した。これは13の通貨からなる通貨バスケットを人民元レート決定の参考指標として示すものである。

これまで対ドルレートばかりに市場参加者の注目が集中していた状況を修正し、通貨バスケットに連動する形で人民元レートを動かす方向に持っていくことが、同指数の公表を開始した中国当局の政策意図である。

2014年央以降、人民元の対ドルレートはほぼ同水準を維持してきたが、昨年8月の基準値算定方式の変更以降元安方向に向かい、1月末では昨年7月対比8%程度元安になっている。しかし、実質実効レートを見ると全く異なる推移を示している。

2014年6月から2015年7月にかけて15%強の元高となり、昨夏以降もほとんど元安にはならず、過去最高の元高水準圏内を維持している。中国通貨当局はこの事実を示して、昨夏以降も中国政府には人民元安に誘導する意図がなかったことを示そうとしたものと推察される。

そうした当局の意図に反し、市場参加者はCFETS為替指数の公表を中国政府が人民元安を容認する姿勢を示したものと受け止めた。

それは同指数公表開始の数日後の12月16日(米国現地時間)に決定された米国の利上げによって、通貨バスケットに含まれる他通貨がドルに対して減価したため、同指数を参考にして人民元レートを誘導することがドルに対して元安方向に向かうことを意味したからである。

このため、同指数の公表がかえって人民元売り圧力を強めさせる結果を招いてしまった。

2.年明け後の為替・株式市場は一段と不安定化

こうした状況で今年の年明けを迎えたが、いきなり1月4日(月)の第1営業日の朝から中国の為替市場と株式市場が揃って荒れた展開となった。

まずは為替市場である。毎朝中国人民銀行が設定する基準値が、前営業日の終値対比元安に設定されたため、市場はこれを中国通貨当局による元安容認と受け止め、元売り拡大に伴う元安が進んだ。

6日(水)も同様の現象により元安に振れ、同日の人民元レート(外貨交易センター、中間値)は1ドル=6.565元と昨年7月末(同6.117元)対比で7%以上の元安となった。これを眺め、8日(金)以降、当局は逆に前日終値に比べて元高に設定するようになった。

その後人民銀行は外貨の流出を制限する資本規制を強化するとともに、巨額の介入を続け、2月中旬には1ドル=6.51元程度にまで戻した。

株式市場はもっと荒れた。1月4日からサーキットブレイカー制度が採用され、導入初日の午後1時半に売買停止の限度幅と定められた7%まで株価指数が下落したため、その日の取引が終日停止された。

3日後の1月7日には寄り付き後30分で7%下落し、終日売買停止となった。市場安定化のために導入された同制度がかえって市場の不安定化を招いたため、8日以降、同制度の運用が中止された。

サーキットブレイカーを発動させた株価下落の主因は、1月8日に予定されていた、株式売却解禁と見られている。

中国の証券当局はその半年前に株価暴落を防ぐ下支えのための施策として国有企業などに株式を大量に購入させた。その株式の売却が解禁される日が1月8日だった。しかし、その直前に株価が暴落したため、証券当局が解禁前日の1月7日になって、主要株主の株式売却を厳しく規制する措置を発表した。

もっと早く株式売却規制を発表していれば、年初以降の混乱を回避または緩和することができたはずである。

3.米国の金融政策運営への影響

以上の中国の為替・株式市場の不安定化を招いた直接的な要因は中国政府の市場との対話能力の不足と海外メディア報道による中国経済に対する過度な悲観論にあることは、前回1月の本稿で述べた通りである。

ただし、年明け後の中国および世界の金融為替市場の混乱拡大については、昨年12月16日に米国FRB(連邦準備制度理事会)がゼロ金利政策を終了し、利上げを決定したことが根本的原因だったとの見方が多い。

昨夏以降、人民元レートに対する元売り圧力が強まるなか、米国が利上げに踏み切れば、元売り圧力が一段と強まることは明らかだった。

筆者は米国FRBが当然この事態を予測し、利上げの決定に先立ち、中国人民銀行やIMF(国際通貨基金)と利上げ時期や通貨安定策等に関する事前のすり合わせを行うのではないかと予想していた。

しかし、その後の状況から見て、そうした事前の準備は行われていなかったようである。

12月の米国の利上げは、昨年央以降の中国の為替・株式市場の不安定化を一段と悪化させ、世界各国の為替・株式市場も不安定化させた。このような世界各国の金融市場の混乱の拡大を受けて、FRBのジャネット・イエレン議長は米国の追加利上げの時期を先送りする可能性を示唆せざるを得なくなった。

これは米国の金融政策運営において、中国をはじめとする新興国経済の影響を無視することができなくなったことを示唆している。すなわち、グローバル経済における米国経済の地位の相対的低下を背景に、米国経済自身が回復に向かっても、世界経済全体の回復をリードすることが難しくなっていることを示している。

これはリーマンショック後の世界経済の回復をリードしてきた中国経済が世界経済に与える影響が、それ以前に比べて格段に高まっており、米国が回復に向かっても中国経済が不安定化すれば米国自身がその影響を受ける状況になっていることを意味する。

中国経済の実情はグローバルな金融市場の参加者、とくに日本の市場参加者の多くが考えているほど悪い状況ではなく、現在も安定を保持している。今後数年間は安定した状況が続く可能性が高い。

しかし、最近の中国の為替・株式市場の混乱は中国経済が失速リスクに直面しているとの誤解や過度な悲観論を助長した。それが中国経済への依存度が高い国々の経済に関するダウンサイドリスクをより強く意識させることになった。

それが世界の為替・株式市場の不安定化につながり、結局米国自身の金融政策運営にも影響したのである。

4.世界秩序形成メカニズムの多極化を象徴する年明け

以上のような年明け直後からの世界の金融市場の不安定化と並行して、外交面でも新たな時代の到来を意識させる出来事が生じた。

1月19日から23日にかけて、習近平国家主席がサウジアラビア、エジプト、イランの3国を訪問した。

サウジとイランは宗教問題に絡む対立から1月3日に国交を断絶したばかりである。以前であれば、米国がリーダーシップを発揮して中東諸国間の対立の仲裁の役割を担ったが、バラク・オバマ政権の下で米国の役割は大きく後退した。

また、1月16日にはイランに対する欧米諸国の核開発関連の経済制裁が解除され、各国がイランとの経済関係の回復を目指して働きかけようとしていた矢先でもある。

中国が中東においてかつての米国が担っていたような仲裁機能を担うことは期待されてはいないが、インフラ建設支援や貿易投資関係の拡大など経済連携を強化することによって、中国の存在感を世界に示すことには成功したと言えよう。

年明け後の米国の金融政策運営の変化と習近平主席の中東諸国歴訪は直接的な関係はないが、いずれも金融経済面および外交面において米国の地位の相対的低下を象徴する出来事である。これらがたまたま同時期に生じたため、世界秩序形成の多極化を意識させる出来事だったと思われる。

そうした状況下、日本経済の相対的安定性が評価され、日本円が買われ、円相場が急騰した。また、中東諸国とは日本は以前から宗教的対立を超えて幅広い国々と経済関係を結んできた経緯がある。

今年の年初はいろいろな意味で中国の存在感が意識されたが、日本も為替面で一定の存在感を示している。

米中に次ぐ世界第3の経済大国である日本としても同盟国の米国の地位が相対的に低下し、世界秩序が多極化に向かう局面において、今後世界に対してどのような形で貢献を果たしていくべきかを考え直し、より積極的な姿勢を実践行動で示す時期を迎えている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46085


 


「中国経済について話そう」
中国人の「爆買い」はなぜ起こったか

5年間で家政婦さんの給料が3倍近くに上昇

2016年2月22日(月)宋 文洲

 1978年に改革開放政策を始めて以来、中国のGDP(国内総生産)は37年間で28倍になった。中国政府の統計には不正確さや意識的な操作があるにしても、中国で生活すれば統計の大まかな数字が実態を反映していることは肌で分かる。最近の中国人旅行客の「爆買い」は、日中両国の緊張関係が和らいだために、それまで抑えつけられていた日本旅行への潜在的な需要が表面化して起こったものだ。
 北京暮らしのメリットの1つは家政婦さんを気軽に雇えることですが、我が家の経験から言えば、この5年間で家政婦さんの給料が3倍近くになりました。2009年は月に1500元で雇えましたが、14年になると月に3000元でも雇えなくなりました。

 一番象徴的なことは、家政婦さんも子供を連れて飛行機で帰省するようになったことです。彼女にとって飛行機は初体験のようでしたが、貧しい地域から来た家政婦さんが汽車ではなく、飛行機に乗って帰れるようになったのです。

日中の緊張関係が和らいだから「爆買い」が起こった

 最近の中国人訪日客の「爆買い」についても、私には感慨深いものがあります。北京の自宅の近所にたまに海外旅行に行く人がいましたが、2012年の夏休みが終わって久しぶりに会うと、いきなり「日本に行ってきましたよ」と言われました。

 当時、安倍首相の靖国神社への参拝や尖閣問題で日中関係が最も緊張していた時期です。それにもかかわらず日本に観光旅行に行ったということは、よほど日本に行きたかったのでしょう。


宋文洲(そう・ぶんしゅう)氏
1963年中国山東省生まれ。中国国費留学生として85年に北海道大学大学院に留学し、工学研究科の博士課程修了。89年に起きた天安門事件のため帰国せず、札幌の会社に就職したが、すぐに倒産。92年にソフトブレーンを創業し、独自開発の営業支援ソフトの販売やコンサルティング業務で会社を成長させた。2005年に東証1部に上場。42歳でソフトブレーンの経営から引退し、生活の拠点を北京に移す。
 実は中国の海外旅行ブームは2010年あたりから既に始まっていました。ゆっくりですが日中関係の緊張が和らぐにつれて、もともと日本にも行ってみたかった人たちがそれまでたまっていたストレスを発散するかのように、2014年から日本に行き始めた結果、日本で「爆買い」が起こったのです。

 北京市の交通渋滞、大気の汚染、家政婦さんの給料と帰省、そして海外旅行ブームと日本での爆買い。関係がないように見えますが、水面下で繋がっています。それは中国人の収入と消費の急増であり、所得の中流層の急速な拡大でした。

 1978年に改革開放政策を始めて以来、37年間で中国のGDP(国内総生産)は28倍にもなりました。年率で計算すると9.5%の成長が続いたことになります。

 この数字について中国で生活をしたことのない一部の日本の経済評論家は「嘘の数字」とよく言いますが、市民生活のレベルからみれば28倍どころか、それ以上の変化でした。

 中国政府の統計の数字には不正確さや意識的な操作が当然あるでしょうが、中国で生活すれば統計の大まかな数字が実態を反映していることは肌で分かります。

中国人は今、反省を始めている

 中国人は今、暮らし向きを良くするためにGDPや収入ばかりを追求した結果、渋滞と空気の悪化に代表される大きな犠牲を払っていることについて、反省を始めているところです。皆が利益を追求した結果、製品の成分の偽造や不正商品もなかなか取り締まれず、中国のイメージや中国人の健康が害されています。今年の年明け早々上海株が暴落しましたが、市場がこのままの経済成長を否定したことの証拠でもあります。

 中国の政治体制や外交政策に不満を感じている人たちが色眼鏡で中国経済を見る心情は分かるのですが、それが事実かどうかはまた別の問題です。私は、前向きに日中関係を考えている人たちに、中国の経済実態についてお話したいと思います。日中双方で経営と生活を体験した私自身、愛情を持って日中双方を真剣に考えてきたからです。


日経BP社は、宋文洲氏がソフトブレーンの経営者時代から始めたメールマガジン「論長論短」を書籍化した『日中のはざまに生きて思う』を刊行しました。生活の拠点を北京に移してから宋氏は中国経済を内側からつぶさに見て、その光と影を「論長論短」のエッセイで率直に語ってきました。本書は、日本と中国の両方で暮らし会社を経営した経験を持つ宋氏だからこそ語れる珠玉のエッセイを収めました。詳しくはこちらまで。


このコラムについて
中国経済について話そう

1963年中国山東省生まれ。中国国費留学生として85年に北海道大学大学院に留学し、工学研究科の博士課程修了。89年に起きた天安門事件のため帰国せず、札幌の会社に就職したが、すぐに倒産。92年にソフトブレーンを創業し、独自開発の営業支援ソフトの販売やコンサルティング業務で会社を成長させた。2005年に東証1部に上場。42歳でソフトブレーンの経営から引退し、生活の拠点を北京に移す。著書に『やっぱり変だよ日本の営業』、『宋 文洲の傍目八目』、『日中のはざまに生きて思う』などがある。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/020400003/021500005/?ST=print



【第406回】 2016年2月22日 広瀬 隆雄
株価の行方を左右する原油価格は今後どう動く?
アメリカのシェール企業は生産コストを下げ続け、OPECもフル操業続行で“我慢比べ”は長期化の様相も
<今回のポイント>
1.原油と株式市場は相関性を高めている
2.原油価格下落の原因は供給過多にある
3.米国のシェールの増産が元凶
4.サウジの「シェール潰し」にシェール企業はテクノロジーで対抗
5.シェール生産コストは今でも下がり続けている
6.原油価格低迷の長期化は、株式投資家にとって歓迎せざるシナリオ
米国株式市場と原油価格は高い連動性、
原油の供給増で原油価格が下がる構造に
 このところ米国株式市場は原油価格と連動性を高めています。つまり原油価格が高い日にはニューヨーク株式市場も高いし、逆に原油価格が安い日にはマーケットも値を消しやすいのです。
 そこで今日は原油市場を取り巻く様々な要因を整理し、今後、原油価格がどう動くかについて考えてみたいと思います。
 まず原油市場を大局的な視点から眺めます。下は世界の原油の需要と供給の推移を示したグラフです。

 原油価格は2014年第2四半期から崩れ始めたわけですが、需要には特別異変は感じられません。むしろその頃を境に供給が需要を慢性的に上回りはじめたことが問題なのです。
 そこで気になるのが「むやみに増産したのは、一体、誰だ?」ということです。
 下は世界の主要産油国の原油生産高のグラフです。

 これを見ると2008年以降、米国の原油生産高の伸びが著しいことがわかります。これはシェールオイルの増産が原因です。つまり犯人はアメリカなのです。
OPEC加盟国の多くははフル操業を続行中
サウジアラビアが減産に踏み切らない理由とは?
 またサウジアラビアを除く石油輸出国機構(OPEC)各国も、ひとまとまりのグループとして見た場合、かなり増産してきていることがわかります。このグループにはどんな国が含まれているのでしょうか? それを知るため、OPEC加盟13か国の原油生産高のグラフを下に掲げます。

 イラクはイスラム国(IS)と戦う戦費ねん出のため、増産しています。イラクの油田地帯は南部のバスラ周辺と北部のモスル周辺になりますが、モスルは最近までISに占領されていました。そのようなむずかしい操業環境の下で、フル操業に近い生産を続けているわけです。
 イランは核開発を巡って欧米から経済制裁を受けていましたが、核開発制限合意を受けて最近、経済制裁が解除されています。ペルシャ湾の石油積出港、カーグ島にはタンカーが集結しており、既に欧州市場向けのタンカーが次々に出港したところです。
 ベネズエラはチャベス前大統領の時代から買票のためのバラマキ政治が行われてきました。無責任な経済運営がたたって、現在、700%を超えるハイパー・インフレに見舞われており、経済は大混乱しています。国営石油会社ペヴェデサ(PVDSA)は、そのような異常事態の中にあって奇跡的に生産水準を維持しています。
 言い換えればアフリカ大陸と東南アジアの一部国では最近の原油価格の下落のあおりで減産に追い込まれている国が見られるけれど、全体としてはフル操業を続けている国が意外に多いというわけです。
 サウジアラビアは、かつてはスイング・プロデューサーとして需給バランスを均衡させることに一役買ってきました。別の言い方をすれば、世界でジャブジャブに原油が余っている時は減産することで価格を下支えし、逆に原油価格が急騰した局面では増産して価格を冷やすという戦略を持っていたのです。
 サウジアラビアがそのような態度を貫いていた理由は、同国は圧倒的な確認埋蔵量を持っている関係で、将来に渡って、世界の人々が安定的にガソリン車に乗り続けてくれることが国益だったことによります。別の言い方をすれば下手に原油価格が急騰し、代替エネルギーへの移行が進み過ぎることだけがサウジアラビアの懸念だったというわけです。
 しかしシェールオイルの登場は、そのような既存秩序を乱しました。米国のシェール業者がむやみに増産したので原油価格は急落してしまったし、サウジアラビアはマーケットシェアを大きく落としました。
 そこでサウジアラビアは現在のように原油価格が低迷している局面でも敢えてこれまでのような減産をせず、米国のシェール企業が倒産するまでわざと高水準の生産を維持して我慢比べをする戦略に出たのです。
シェール企業は採算ラインを次々に改善
OPECとのバトルは長期化する模様
 原油価格の下落で米国のシェール業者の業績は急速に悪化しています。そこでシェール業者は中途半端な規模で、比較的高コストな油井をどんどん休止し、最もスケールが大きく、最新鋭のテクノロジーを駆使したハイテク・リグに生産活動を集中しています。
 その関係で稼働油井数は下のグラフのように激減しました。

 しかし水平掘りの掘削距離を伸ばす、破砕法をこれまでより多用する、シェールの亀裂に流し込むポリマーを含んだ特殊液の配合量を最適化する、などによる生産性の向上で、一本の油井から産出される原油の量は現在もどんどん増え続けています。
 その結果、以前より遥かに少ない油井数で、いままでと同じ生産量を維持するどころか、さらに生産量を伸ばすことが起きているのです。結果として下のグラフに見られるように生産高にはわずかしか衰えが見られません。
 かつては「50ドルが採算ラインだ」と言われていた生産コストも著しく改善しており、現在は原油価格30ドルでも利益が出せるリグが増えています。
 サウジアラビアのもくろみ通り、次々に米国のシェール企業が倒産に追い込まれるためには、18〜25ドルの原油価格が少なくとも4か月ほど続くことが必要になります。
 しかも生産コストの急改善による営業キャッシュフローの増加を見て、株式の投資家はシェール企業を見殺しにするどころか、これらの企業のバランスシート増強のための公募増資に喜んで応じる態度を見せています。2016年に入って、これまでに50億ドルものシェール企業の公募増資が敢行されました。言い換えれば「シェール企業は、死にそうで、なかなか死なない」のです。
 このことは現在の低い原油価格が、長期に渡って続く可能性が高まったことを意味します。もし株式市場と原油価格がこれまで通り連動するのであれば、それは株式にとって歓迎せざるシナリオです。

http://diamond.jp/articles/-/86762 

 

「家の寿命は20年 消えた500兆円のワケ」Why! なぜ日本人は住宅ローンに大金を払う?ドイツから見えた日本の家の異常さ

2016年2月22日(月)林 英樹

 「どう考えても異常な状況だよ。どうして日本人は誰もおかしいと思わないの!?」

 日本の住宅制度について説明すると、ドイツ人のアストリット・マイヤーさんとアンドレアス・デレスケさんは目を大きく見開き、記者に対し次々と疑問点をぶつけてきた。そして最後には到底理解できないという様子で、両手を広げたまま固まってしまった。そのさまは、さながらお笑いタレント・厚切りジェイソンのネタのようだ。

 “Why Japanese people!”多くの日本人は当たり前のこととして受け入れているが、海外から見れば「異常な状況」として映る。それが日本の住宅政策の実態だ。

 2月22日号特集「家の寿命は20年〜消えた500兆円のワケ」では、日本の住宅制度に内在する根源的な問題を取り上げた。多くの国民にとって「一生の買い物」と形容される高額取引であるが故に、「買い手と売り手との間の圧倒的な情報格差」「建物の完成前に購入する青田売り」などの不条理を、こういうものなのだと渋々受け入れるしかない。消費者が複数回の買い物を通じて“賢くなる”機会を得られないからだ。不動産を巡る数々の不条理が長年の間、問題視されることがなかったのもこの点にある。

 特集では、新築戸建ての購入から売却までの流れを描き、そこに潜むいくつもの不条理を指摘した。このうち最も深刻な問題の一つが「木造住宅の場合、20年で建物の価値がゼロになる」という慣例だ。


色とりどりの瀟洒な住宅が並ぶドイツ南西部・フライブルク郊外の街。ドイツでは家を「資産」として評価する制度が整っている
 「家なのだから住み続けるうちに価値が下がるのは当然だ」と、この慣例を受け入れている日本人は多い。だが、待ってほしい。「住宅は資産」と言うが、メンテナンス状況が正当に評価されず、価値が維持されないような商品を本当に「資産」と呼べるのだろうか。それは単なる「消費財」に過ぎないのではないか――。

 海外の多くの国では日本とまったく状況が異なっている。冒頭、2人のドイツ人が示した驚きはそうした彼我のギャップから派生しているのだ。

 ドイツ南西部の街フライブルク。中央駅から路面電車で20分ほど郊外へと走れば、赤や青、黄色など色鮮やかな家々が連なる住宅街が見えてくる。ここはマイヤーさんとデレスケさんが住むボーバン地区だ。街に足を踏み入れると、すぐに2つの「違和感」に気付いた。

 住宅街なのに通りを車がまったく走っていないのが一つ。街の入り口2カ所に大きな立体式の駐車場があり、多くの住民はそこに車を置き、歩いて家路につく。だから家の前には駐車場はなく、ベビーカーや自転車を置くスペースがあるだけだ。


住宅街の入り口に作られた立体式の駐車場。脇には車の進入を禁止する標識が立っている

家の前にあるのは駐車場ではなくベビーカー置き場
 もう一つの違和感は屋根にある。ほぼすべての住宅の屋根全面に太陽光パネルが敷かれているのだ。マイヤーさんは説明する。

「家は金融商品と一緒。投資するものでしょ」

 「駐車場のスペース確保を考えなければ、家の設計の自由度は断然大きくなる。もちろん家の近くで子供が遊んでいても危険が少ないという点も魅力よ。それに太陽光パネルを設置したおかげで、月々の光熱費よりも太陽光発電による売電収入の方が大きいのよ」

 カーポートフリーと太陽光パネル。どちらもエコロジカルな生活を追求するのが主目的のように映るが、マイヤーさんの狙いはそれだけではない。「家は資産。金融商品と一緒。住み心地という質の追求と同時に、将来の価値を考えて投資するのは当たり前のことでしょ」。実際のところ、マイヤーさんの家の単価は今、16年前の購入時の2.5〜3倍に上昇している。


自宅の屋根に設置した太陽光パネルを示しながら資産価値について説明するマイヤーさん
 ボーバン地区がユニークなのは、家の資産価値を高めるために、住民主体で街づくりを進めてきた点にある。住民らでつくる協同組合がデベロッパーよりも優先的に土地を取得。居住エリアごとに建築グループを作り、議論を交わしながら家や街の設計を固めていった。エリア内への車の乗り入れ禁止などはこうした議論の中から生まれた。

 現在、協同組合の代表を務めているのがデレスケさんだ。地下にコジェネレーションの発電機を設置することで、エネルギー消費量を大きく抑えることができる「パッシブハウス」に住んでいる。デレスケさんは「家づくりや街づくりの話し合いのために多くの時間を費やしたが、まったく後悔はない。こんな素晴らしい環境と資産を手に入れることができたのだからね」と胸を張る。

 ボーバン地区は先進的なモデルケースだが、前提となる「家は資産」という考え方はドイツ全土に浸透している。

 「我々は家を長く利用することについて、とても良い経験と伝統を持っていると思います。建築当時の寛容な雰囲気をそのまま漂わせている街のたたずまいに、そこに住む人々が強い愛着を持っていますよ」


故郷の街並みをこよなく愛するエック・バイエルン州内務大臣 cBayerisches Staatsministerium des Innern, fur Bau und Verkehr
 ドイツ最大のバイエルン州で内務大臣を務めるゲアハルト・エック議員はこう説明する。

 ドイツでは不動産市場のうち7割以上を中古住宅が占めている。十数%台にとどまる日本とは対照的だ。第二次世界大戦前の建物が今も住まいとして使われている。それどころか、天井までの高さが3m50cm以上の広々とした部屋の構造を採用した築50年超の物件が多いことから、戦前に建てられた住宅が、新築より高値で取り引きされているケースも少なくない。こうした日本とドイツの不動産市場の違いは建築物の構造問題に加え、土地政策に依るところが大きい。

住民も自由に家を建てられない!?

 ドイツは、自治体ごとに20年先までの大まかな土地利用計画「Fプラン」を策定することが義務付けられている。その上で、住宅や産業、交通など土地の用途ごとの詳細な建設計画を「Bプラン」として練り上げる。将来の人口動態などの予測を踏まえ、行政だけでなく、建設・建築業者や住民などの利害関係者が参加してプランを決めるのが特徴的だ。

 商業地域や工業地域でも家を建てることができる緩やかな日本の土地区分制度と異なり、「Fプラン」と「Bプラン」の拘束力は強い。

 ドイツの住宅事情に詳しいジャーナリストの村上敦氏は「たとえ地価が上がってもプランに記載されていなければ、住宅建設のための土地売買はできないことになっている。厳格に運用されるため、家の価値がきっちりと保証されることになる」と指摘する。

 住民だけではない。行政や建設・建築業者もプランの内容に縛られるため、無計画に住宅地が広がることはない。この10年間の新築着工件数は年15万〜25万戸。総住宅数は総世帯数とほぼ同水準の4000万戸超で推移している。需給がバランスしているため、最低でもインフレ上昇分は自動的に家の資産価値が高まるメカニズムになっている。

 翻って日本。新築住宅に関する制約がないため、不動産会社や建設会社は収益力が高く、投資回収が確実な新築ばかりを作り続けている。「20年で家の価値ゼロ」との慣習が幅を利かしているため、スクラップ&ビルドのサイクルが早く、それでも一定の新築供給量は消費されてきた。

 だが、総務省の調査では、2013年の総住宅数は6063万戸に上っている。すでに総世帯数の5245万戸を大幅に上回っているのにも関わらず、今でも年90万戸の住宅が新たに作られている。その結果、500兆円もの巨大資産が消失することになったのだ。

エネルギー問題から住宅政策を大転換

 ドイツが取り組んでいるのは、新築抑制だけではない。2000年前後から中古住宅の流通活性化にも力を入れ始めた。背景にあったのは、エネルギー政策の転換だった。エネルギー資源の9割を輸入に頼っていたドイツにとって自立は重要課題。将来的に原子力発電所をゼロにする目標を掲げる一方、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入を積極的に推進。同時に、エネルギー消費全体の4割を占める住宅の省エネ化に本腰を入れることになった。

 「すでに建てられている家を取り壊して新たに建てるより、省エネ設備を入れるための改修・補修をすることで、コストを節約できる」(エック内務大臣)。こうした狙いから、ドイツでは新築向けに出していた補助金を廃止。その代わりとして、中古の改修・補修向けに手厚い補助金を付けることにした。住宅政策の大転換がうまく機能した陰には、EUで義務化された「エネルギー・パス」と呼ばれる住宅の省エネ評価制度の存在があった。

 同制度では、寒暖を防ぐ三重構造の窓ガラスなど家の改修によって生まれた省エネ効果を点数化。評価は不動産広告への記載が義務付けられている。点数の高低は家の資産価値に直結するため、住民らがこぞって中古住宅のリフォームに乗り出すことになったのだ。その結果、多くの建設会社や工務店がリフォーム・リノベーションへと業態を変えることになった。


ドイツ南西部の工務店で働く従業員ら。「最近は大半の仕事が中古リフォーム関連に変わった」と打ち明ける
 中古住宅を正当に評価する制度は日本にない。日本でのエネルギー・パス導入を呼びかけている日本エネルギー機関代表の中谷哲郎氏は「評価されないから、省エネ目的の改修・補修という形で中古住宅に投資するインセンティブが働きにくい。建物の価値を評価せず、中古向けにお金を出し渋る金融機関のスタンスにも問題がある」と訴える。

中古重視で示した実利

 ドイツでは当初、中古重視への住宅政策の転換に不動産・建設業界が反発した。が、その動きはすぐに鎮静化した。「中古に厚い補助金制度が意味のある経済政策だと認知された」(ジャーナリストの村上氏)点が大きかったとみられている。  

 村上氏によると、ドイツは2011年までの6年間で改修・補修関連の補助金として68億ユーロを支出。それに対し、消費税に当たる付加価値税として支出額の2倍以上の144億ユーロがリフォーム絡みで国に戻ってきた計算になるという。さらに大きな経済波及効果が不動産・建設業界に及ぶことになった。いわばドイツは実利を示すことで政策誘導に成功したのだ。

 「20年で価値ゼロ」との慣例によって、「資産」が資産にならない奇妙な国ニッポン。新築で家を買うということは極言すれば、大金を払ってわざわざ「借金」を背負っているようなもの。“Why Japanese people!”とドイツ人が指摘するところの真意に目を向ければ、我々を取り巻くまやかしの正体がおのずから見えてくる。


残念ながら子供の代まで資産として残すことができる家は日本には少ない


このコラムについて
家の寿命は20年 消えた500兆円のワケ

「住宅は資産」。その思い込みをあっさりと覆すデータがある。1969年以降、500兆円を超える国民の住宅資産がひっそりと消え失せている。この国における、住宅とは単なる消費財にすぎないのが実情だ。新築購入直後から急速に価値が下落し、「20年でほぼゼロ」になる業界慣行が、住宅品質の価値を認めないいびつなマーケットを生んだ。人生最大の買い物を胸を張って「資産」と呼べるようになる日は来るのか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021800009/021900002/?ST=print

2016年2月22日 宗健 [株式会社リクルート住まいカンパニー 住まい研究所所長]
本当に空き家は800万戸もあるのか 総務省数値の一人歩きを疑う
総務省の「2013年住調」が示した
「空き家820万戸、空き家率13.5%」は本当か?
 昨今、空き家問題が非常に高い社会的関心を呼んでいる。空き家は全国に約820万戸存在し、空き家率は全国平均で13.5%という数字が前提とされている。これらの数字は、総務省が2013年に行った住宅・土地統計調査(以下「住調」という)の結果であるが、筆者はこの住調の空き家に関する数値は過大に算出されているのではないか、と考えている。
そもそも空き家調査自体が困難を極める。数字の一人歩きは危険だ
 13年住調によると、筆者の住む世田谷区の空き家率は10.4%となっているが、世田谷区全域で10軒に1軒が空き家というのはにわかには信じがたく、そのような実感は筆者には全くない。
 住調では調査の方法について「空き家などの居住世帯のない住宅については、調査員が外観等から判断することにより、調査項目の一部について調査した」としており、そもそも非常に曖昧な判断基準によって空き家がカウントされている可能性がある。
 13年住調の結果が発表されるまでは、「08年に比べて空き家数・空き家率ともに大幅に上昇しているであろう」という予測が多かったが、実際には空き家数は全国で約62.7万戸の増加、空き家率はわずか0.4%の上昇であった。賃貸住宅に限ってみると、空き家数は約16.5万戸増加したものの、賃貸空き家率はわずかであるが0.03%下降している。
 そして、東京23区の賃貸空き家率を08年と13年で比較すると下図のようになる。

 千代田区では36.5%(!)だった賃貸空き家率が、「わずか」5年間で、16.3%と20.3ポイントも下落し、同様に中央区(27.7%→12.4%、▲15.2ポイント)、目黒区(28.2%→14.9%、▲15.3ポイント)、中野区(9.9%→18.8%、+8.9ポイント)といった「不自然な」、「現実的にはあり得ないような」大きな変動が、数十万人が居住している広大な地域で起きている。
 これらの不自然な空き家率の変動は、オートロック付きでセキュリティの厳しいタワーマンション等の空き家を「外観等から判断」して把握することが極めて困難で、調査結果に大きな誤差を含んでいることを強く示唆している。
国土交通省も認めた
「空き家調査は難しい」
そう・たけし
株式会社リクルート住まいカンパニー 住まい研究所所長 65年北九州市生まれ。87年九州工業大学卒業、リクルート入社。96年WATTSサービスグループマネジャー、03年ForRent.jp編集長、05年R25式モバイル編集長、06年株式会社リクルートフォレントインシュア代表取締役社長等を経て12年10月より現職。都市住宅学会員、日本建築学会員、日本社会福祉学会員。ITストラテジスト。福岡県築上町政策アドバイザー。研究分野は空き家、住宅セーフティネット、賃貸住宅関連制度など。
 空き家調査は住調だけではなく、自治体による調査、さらに国土交通省による調査も行われている。例えば、東京23区で唯一「消滅可能性都市」とされた豊島区の12年の空き家実態調査の結果では、「空き家が多いと想定される地区をあらかじめ抽出した上で調査を実施した」結果、「空き家の可能性の高い住宅の比率」は、わずか1.6%とされている。
 豊島区調査の対象は戸建て住宅中心であるものの、08年住調での豊島区の空き家率12.9%、13年住調の15.8%とあまりに乖離が大きい。
 また、国土交通省の09年の空家実態調査には、「現地調査開始後に空家を発見できない調査区があるとの報告を調査員から受け」「発見数は計画より著しく小さい値となった」「集合住宅の空家は外観からは確認できなかった。集合住宅はオートロックが多く中に入れなかった」といった記述が見られ、空き家調査の難しさを端的に表している。
 では、空き家の実態はどのように把握することができるのだろうか。戸建て住宅については自治体調査等で、ある程度把握されているが、都市部では共同住宅が空き家の半数以上を占める。相続税対策を目的とした新築着工が多すぎると指摘されることも多い、賃貸用住宅での空き家調査・研究は極めて少ない。
 筆者は、共同住宅の空き家の実態把握も重要であると考え、当社が運営する不動産情報サイトSUUMOの14年6月10日掲載データを用いて共同住宅の賃貸募集率を算出し、東京23区では5.4〜8.7%という値を得た。23区平均では6.9%と、単純な比較はできないものの、13年住調の賃貸空き家率15.7%の半分以下である。
 この計算では分母となる住戸数はゼンリンデータを用いており、08〜14年のSUUMOデータのカバー率は棟ベースで69.4%、戸数ベースで79.8%となっている。下図は東京23区の町丁目別のSUUMOデータを用いた共同住宅募集率を示したものである。23区内では募集率が10%を超える地域は非常に少なくなっている。

 これは、賃貸管理の業界団体である日本賃貸住宅管理協会の発表している、日管協短観での空き家率約5〜8%と概ね一致する。
 また、分母に13年住調の戸数、分子に2010年国勢調査の世帯数を用いて全国の空き家率を計算してみると、13年住調の13.5%に対して9.8%となり、分子に13年住民基本台帳の世帯数を当てはめると8.3%となる。
 これらの推定結果に加え、自治体調査では住調よりも低い空き家率が多数報告されていること、居住以外に事務所や物置として使用されている住戸等が存在することなどを考慮すれば、全国の空き家率は10%以下、空き家数は400〜600万戸である可能性が高い。
一定数の空き家がなければ
社会は機能しない
 そもそも空き家がなければ、引っ越しも買い換えもできない。円滑な居住地移動のためには、一定の空き家率が必要であることは容易に想像がつくであろう。適正空き家率の実証研究は極めて少ないが、概ね5〜10%程度が適正空き家率であろう、と筆者は考えている。
 ただし、この適正空き家率は全国ベースで考えるべきものではない。たとえ地方に大量の空き家があったとしても、都市部に空き家が存在しなければ、都市部では円滑な引っ越しができないからである。そして、適正空き家率は、地域の状況によっても大きく異なると考えられる。
  都市部のように賃貸世帯が多く、社会移動が活発な地域では、必要とされる空き家は多くなり、多様性も要求される(単身者には1DK等が好まれるし、一方で家族には広めの戸建て等が必要となる)が、高齢化が進んで持家率が高く、社会移動率も低い地方では、自ずと必要とされる空き家数は少なくなる。
 このような点を考慮すれば、現状の日本では都市部では空き家は適正か、やや多い程度、一方で地方では空き家が適正値を超えている場所が多数ある(すべての地方ではない)、というのが正しい認識ではないだろうか。そして、このような観点から考えると、全国の空き家の絶対数や空き家率を、一律に論じることにはあまり意味はないのである。
 なお、空き家が増えているから家賃は下落していく、という指摘もあるが、筆者らの研究によれば、空き家率1%上昇の家賃への影響は1%未満(場所によっては影響がない)で、現状の家賃下落は築年効果(1年古くなる毎に家賃がどのくらい下がるかで、1年で約1%程度)でほとんどが説明できる。そして、空き家率は企業や大学の撤退といったイベントが起きなければ、短期的には大きく変動することはない。
空き家問題の元凶と言われる
「固定資産税」悪者説への疑問
 いわゆる居住用不動産の固定資産税1/6減税が、空き家放置の主因である、という指摘も多いが、これは本当なのだろうか。筆者は自宅の固定資産税額を正しく記憶していないが、これは一般的にもそうなのではないだろうか。
 筆者が14年に行った実家等を保有している全国470名に対する調査では、「住宅解体時に固定資産税が6倍になることがある」ことに対する認知率は44.9%しかなく、「空き家が倒壊しそうなくらい古くなったら費用がかかっても取り壊そうと思う」と73.6%と答え、しかし「取り壊そうと思ってもお金を工面できない」と56.0%が答えている。
 この調査結果から、固定資産税制が空き家放置の主要原因とは筆者には思えない。そして、地方の駅前や市街地では空き家ではなく「空き地」が目立っていること(例えば宮崎市の中心市街地の13.3%は空き地とされている)から、実際には、老朽化して利活用する目処の立たない空き家の滅失が想像以上に進んでいる可能性があると、筆者は考えている。
 最近では地方創生の文脈で空き家の利用が語られることも多くなっている。しかし、「空き家問題」を解決すれば地方は創生するのだろうか。
 筆者は、空き家は「原因」ではなく「結果」だと考えている。空き家が多くなったから街が寂れたわけではなく、街が寂れたから空き家が多くなったのである。空き家を減らしたとしても街の賑わいは復活しない。であるならば、「空き家問題を解決しよう」、ではなく、地域の問題を解決して「結果的に」空き家が減る、という考え方をすべきなのではないだろうか。
 筆者の田舎は福岡県の築上町という人口2万人弱の町だが、住宅数は約9000戸程度、空き家率10%として(実際にはもっと低い可能性もあるが)、空き家数は900戸となる。人口の移動も少ない地域で数百戸もの空き家を利活用することは現実には不可能である、と潔く認め、むしろ空き家の滅失を促進し、緑地化や合筆(複数の土地を1つにまとめること)等による長期的視点に立った地域計画を考えるべきなのではないだろうか、と思うのである。
空き家発生のメカニズムと
対処に必要な姿勢とは
 日本では新築された住宅が使われないまま空き家として放置される、ということは極めて少ない。筆者は、空き家発生のメカニズムを以下の2つで大まかに説明できるのではないか、と考えている。
 1つは、人口の社会移動である。地方では人口・世帯が減少している地域が多数あるが、最初から空き家が多数存在したわけではない。地方から都市への人口移動の結果として空き家が発生し、1970〜80年代に若者世代が進学や就職等で都市部へ移動した後、親らによって維持されてきた住宅が親の死去や施設への入居、子世帯への移動等によって空き家となってきた。
 もう1つは特に地方で顕著だと思われるが、新築の着工である。せっかく近隣に空き家が存在するのに、なぜ新築するのか、という指摘があるわけだが、これにも合理的な理由がある。
 1つは住宅の品質の問題である。近隣に空き家が存在したとしても、築数十年を経過した住宅は改修等によっても十分な品質が得られるというわけではなく、外観デザインをモダンに改装することも容易ではない。もう1つは既に土地を所有しており建築費だけの負担で済むことも多い、という理由である。近隣に空き家があったとしても、土地代を含めてそれを購入するよりも、既に所有している土地に新たに建築する方が、支出が少ない場合も少なくない。ここが都市部との大きな違いであり、住宅品質の問題も考慮すれば、新築着工を安易に非難することはできないのである。
 これまで見てきたように、住調の空き家の数値を中心に、空き家問題を煽るべきではない、というのが筆者の考えである。個別の問題として近隣に迷惑を掛けているような空き家が存在することは否定しないが、特に都市部では問題とされるほどの大量の空き家は、そもそも存在しない可能性があり、老朽化した空き家もモラルが保たれていて、解体が進んでいる可能性もある。
 住調すべてが悪いと批判しているわけではない。ただ、空き家問題に関して言えば、実態を正しく反映していない可能性が高い。そして、空き家があるから新築は不要だ、という単純な問題でもなく、住宅需要は基本的に世帯数に依存し、世帯数は急激に大きく減小するわけでもない。空き家問題は極めて複雑な社会課題なのだ。
 空き家対策法が施行されて以降、多くの自治体で空き家調査が現在行われている。来年度になればそれらの結果が続々と公表され、空き家の実態もより明らかになるだろう。そして、空き家問題は地域ごとに状況も、適正空き家率も解決策も違う、という視点を持って、冷静に取り組むべき課題だと考える。
http://diamond.jp/articles/-/86673 

2016年2月22日 田中泰輔(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー)
リスクオフ深刻化へ一線越え 1ドル105〜110円の攻防か
 ドル円相場の様相は一変した。1月29日、日本銀行のマイナス金利サプライズを受け、ドル円は一時121円台に反発した。米利上げ後数カ月間のドル円相場は弱含みで推移すると見込まれ、115〜120円水準での攻防を覚悟していた。日銀の政策は相場を支える一助になると一瞬安堵した。
 しかし、相場の主エンジンはあくまで米景気。米景気が駄目なら日銀が何をしてもドル円は上がらない。マイナス金利発表後の円安は、米景気低迷のニュースなどによって数日で消えた。市場ではそれまで115円をドル円の上昇基調を保つ下限と見なしていたが、118円、117円とマイナス金利発表時の水準を割り込んだ途端、ムードは暗転した。日銀の政策発動は、相場の分水嶺の水準を引き上げ、相場下落を早める引き金になってしまった。
 年初来、メディアでは円安論と円高論を対峙させる企画が多かった。現在は、円高論者が根拠としがちだった米利上げ後のドル安とか、日本の経常黒字増による円高とか、もはやそういう次元の話でもない。米経済減速が鮮明となり、リセッション入りの可能性も出てきた。
 当社も今年の米国のGDP成長率予測を2%付近から1.2%へと引き下げ、利上げも年3回から12月1回のみと予想を改定した。市場は世界経済の下振れリスクを警戒し、そのリスクに備えなければならない。
拡大する
 相場変調の分水嶺を超えたと判断した2月早々、ドル円が110円割れに向かう事態を覚悟した。上の図が示すように、ドル円は200日移動平均を割り込み、ヘッド・アンド・ショルダー(三尊天井)を形成し、過去1年強のレンジである115〜125円で作られた買い持ちポジションは全て含み損を抱え、ドル円は一気に下落の公算が高まった。
 7月の参議院選挙を前にアベノミクスは正念場である。日本の3月本決算を前に、当局は110円付近を確保すべく為替介入する可能性が高い。日銀も状況次第で、追加利下げや量的緩和拡充などを早める可能性がある。
 さらに悪いことに、金融に絡む問題には事態が悪化するほど増殖する面がある。最大の懸念の一つは米欧の高リスク債市場だ。これが売られて利回りが急騰すると同時に株価が下落する展開は、企業の信用不安を悪循環的に高じさせやすく、リセッション入りの警告シグナルとされる(下図参照)。
 主要国の協調行動が必要ともなる嵐の中で、ドル円は105〜110円の攻防があり得るとみる。中長期では年末に112円、来年末に115円と小康を見込むが、あくまで暫定予想とご了解いただきたい。
(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー 田中泰輔)

http://diamond.jp/articles/-/86691



今週の週刊ダイヤモンド ここが見どころ
【16/02/27号】 2016年2月22日 週刊ダイヤモンド編集部
「安全資産だから」円が買われて円高に、の説明は本当か
『週刊ダイヤモンド』2月27日号の第1特集は「円高襲来!為替と通貨の新常識」です。誤解を恐れずに言えば、外国為替市場に確立された理論はありません。為替を動かす基準は時間軸で変わってくるし、投資家の心理にも大きく左右されます。そんな解読困難な為替市場で今、異変が起きています。ドル円相場が年明け以降、1ドル=121円から110円まで、まさに大波のうねりのように、歴史的な円高劇を演じたのです。このまま円安から円高へのパラダイムシフトは起こるのでしょうか。為替と通貨の新常識を読み解きました。

「欧州発の金融不安がきっかけ」「米国での景気後退リスク」「やっぱり中国の景気減速」「中央銀行への不信感から」「根源的には米国の利上げ」――。

2月に入ってからの劇的な円高はどうして起こったのか。この問いに対する答えは、上記の通り、専門家でもさまざまだ。ところが、こうしたリスクイベントの結果として発生する「円高メカニズム」については、面白いことに完全に一致する。

具体的には、投資家心理が悪化し、株や新興国通貨などのリスク資産から安全資産に資金を移動する「リスクオフ」が加速して、相対的に安全資産とされる円が買われるという流れだ。

では、「リスクオフで相対的に安全資産とされる円が買われた」という、相場記事でよく見掛けるこのメカニズムは、本当に正しいのだろうか。

例えば、「安全資産とされる円」。日本は周辺で、北朝鮮が核実験を強行したり、長距離弾道ミサイルを発射したりと、きな臭い地政学リスクが高まっている上、財政的にも巨額の借金を抱え、国債暴落説が今なおくすぶっている。

これで安全資産なの?と言いたくなる。

これに対して、専門家がよく言う「日本は世界最大の対外純債権国(民間も含めた対外資産が対外債務を上回っている国)だから安全」という理屈。もちろん中長期の視点ならば理解できるのだが、投資家がそれを意識して円買いを仕掛けているとも思えない。

知られざる「“条件反射”的な思惑買い」の威力

悶々とした疑念が消えない折、本音を語ってくれたのが、SMBC信託銀行のシニアFXマーケットアナリストの尾河眞樹氏。「財政も厳しく、実際に安全資産と思って円を買っている人はいない」。

それなのに、どうしてリスクオフで円買いが進むのだろうか。その謎を探っていくと、超低金利時代が長く続いた日本の特殊事情が深く関係していた。

大和証券チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏は、「リスクオフの逆のリスクオンから考えると分かりやすい」と教えてくれた。

日本の投資家がリスクを取る際、高利回りを求めて、低金利通貨の円を売り、高金利通貨を買う流れが加速する。それがリスクオフに転じると、まずは手元の流動性を確保しようとして、円に回帰して円が買われるというわけだ。

以前に比べて減少したとはいえ、円キャリー取引も忘れてはいけない。リスク回避局面で外国人投資家は、低金利の円を買い戻し、円を返済する流れが加速するという。

その流れを増幅するのが、投機筋だ。リスク回避で円高が進むと読んだヘッジファンドが円買いを仕掛けてくるのである。さらにドル円の相関などに着目して超短期で自動売買をするCTA(商品投資顧問)が円高のモメンタム(勢い)に乗って円を買い進める。

そして何より、「リスクオフ=円買い」と脳内にインプットされた多くの投資家による“条件反射”的な思惑買いが大きく作用する。

これこそが「リスクオフの円買い」の正体なのである。

そもそも、リスクオフ、リスクオンという言葉が相場に定着してきたのはそれほど昔ではない。

リーマンショック後の金融緩和で、投機マネーがジャブジャブに溢れたが、こうした投機マネーは少しでも高い利回りを求めて世界を徘徊。市場心理の変化によって、スイッチのオン、オフを切り替えるように、目まぐるしくリスク資産と安全資産の間を行き来するようになってからだ、とベテラン為替ティーラーは語る。

2月11日に1年3ヵ月ぶりに一時110円台を付けたドル円相場は、足元で若干円安に戻している。

ただ、「115円を超えて円高になると、テクニカル的にも心理的にも円安軌道に戻りにくい」(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサーの田中泰輔氏)。

今後、リスクオフの円買いはどんな展開を見せるのか。

2011年の欧州債務危機を受けた大リスクオフ相場では、同年10月、一時1ドル=75円台まで円高が進んだ。

今、それに匹敵するイベントがすぐに顕在化する状況ではないが、原油安、欧州発の金融不安、そして米国の景気後退など、複数のリスクが共振して、激烈なリスクオフ相場に転じる可能性は十分ある。

http://diamond.jp/articles/-/86639

 


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