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『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”  奇跡は続く 3週連続で前週超え、年明けには上映館が3倍に! 
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 12 月 09 日 08:19:03: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

情熱クロスロード〜プロフェッショナルの決断
2016年12月9日 ダイヤモンド・オンライン編集部
『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”


片渕須直・『この世界の片隅に』監督インタビュー
2016年11月12日に全国公開されたアニメ映画『この世界の片隅に』が、口コミから動員数が増え続けるという異例のヒットを記録している。戦中戦後の広島を舞台に、広島市から呉市に嫁いだ主人公・北條すずと、夫・周作など普通の人々の暮らしを描いた作品だ。クラウドファンディングで製作費や海外進出のための資金調達を行なったことでも話題となった。監督の片渕須直氏に、製作の経緯や作品に懸けた思いを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長?深澤 献)


Photo by Takeshi Kojima
──「この世界の片隅に」の原作は、広島出身の漫画家、こうの史代さんの同名のコミック(上中下・双葉社刊)です。まず、映画化の経緯を教えてください。原作を読んで、すぐに映画化したいと思ったのですか。

?あ、それはむしろ逆で、自分にとってこの漫画は、ものすごく大事なものだったんです。一生ずっとこの本を枕元に置いておきたいなと思ったんですね。ずーっと時間をかけて、この本の内容を読み取っていきたい。それを死ぬまでずーっとやり続けよう、と。

?変に映像化しようと思ったら、そこにあることを全部一度読み取ってしまわないといけなくなる。それがもったいなくって。

?ところが、他に映像化しようと思っていたものがうまくいかなくなった時があって、その時に企画プロデューサーの丸山正雄(MAPPA代表取締役会長)から「他に何かないか?」と言われて、「まあ、ないわけではないのですが、心の中にある大事な作品としてはこれがあります」と、とりあえず出してみたんですね。

?そしたら、「これは駄目だろう」と。「こんな大事な作品は、もういろんなところが映像化権を手に入れようと躍起になっていて、我々はもう出遅れているに違いないよ」って言うんですよ。そう言われてみると、自分にとって本当に大事なものだったので、それが他人の手で映像にされるのが悔しくてですね、だったら自分が手を挙げてやろうという意見に変わったんです。

──そもそも原作は、「漫画アクション」(双葉社)に連載されていたわけですが、片渕さんは連載時からの読者ですか。

?単行本になってからです。連載の時に読めていたら、もっと違う印象だったかもしれないなというのがありますね。

こうの作品の一番の読者として
ひとつの読解例を示したかった

──原作は平成18年冬から21年冬にかけて連載され、昭和18年冬から21年冬の世界をほぼ同じ時間の流れで描いていたというすごい作品です。確かに単行本でまとめて読むのと、リアルタイムで読むのとでは違ったでしょうね。


かたぶち・すなお/アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中に宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本・演出助手を担当。『魔女の宅急便』では演出補を務めた。監督作に『名犬ラッシー』、『アリーテ姫』、『ACECOMBAT 04』、『ブラック・ラグーン』『マイマイ新子と千年の魔法』など? Photo by T.K.
?そうです、そうです。

──しかも、原作者のこうのさん自身、当時の資料をかなり読み込んで、史実に基づいて物語を描いている。原作がある作品をアニメ化する際には、どれだけそれを忠実に起こす一方で、自分なりに何かを足して新しい“色”を付けていく作業があると思うのですが、どのようなアプローチで臨もうと?

?こうの史代さんの元々の漫画自体が自分にとって大切なものだったので、自分が一番の読者になろうと思ったんですね。読者としての一つの読解例、読み解いた一つの例としてこの作品を映画にしてみようと考えました。

?こうのさんが描かれた意図が100%こちらのものになるとは思わないんですけど、でも、こうのさんが描かれたことで裏にまわっていることを、できるだけ自分のできる範囲で読み解いて、そこで得たものから映画を作りたいなと思ったんですね。

?原作者の方がいて、そこにすでに読者がいるような作品って、そもそも読者のほうが原作に思いを持っているわけですよね。それはないがしろにしたらいけないなと思うし、『この世界の片隅に』の場合は、自分がまず読者として存在しているわけだから、自分がこの本を読んで良いと感じたところをないがしろにしたくないなと思ったわけですよ。

──その意味では、あくまで原作に忠実に、ということですね。


?ただ、唯一、気になっていたのが、原作の巻末に小さく「間違っていたなら教えてください?今のうちに」と書かれていて、戦争中という自分たちには手が届かない時代を叙述する時には、すごく真摯な態度だと思ったんですよ。

?僕らもこの作品の前に作った『マイマイ新子と千年の魔法』でも、ひとつの時代と地域について資料をあたって映像化しようしていましたから、(こうのさんの意図が)すごくよくわかったんです。逆に言うならば、『マイマイ新子』の時には終わってからわかったことが結構あった。なので『この世界の片隅に』は、原作に述べられていることは多いんだけれども、さらにその先がわかったことはいくらかでも原作の上に付け加えていこうとは考えました。

原作の発表後にわかった史実を
映画の中に付け加えていく

──確かに映画で、原作の中になかった描写がいくつかありました。それらは原作で描ききれていなかった“裏の風景”を見ようという意図もあった?

?そうですね、原作の描かれ方としてまず、こうのさんがこの時代の年表みたいなものをご自分で作っていらっしゃるんですよ。毎月毎月どういうことが起こったのか、その上に登場人物たちの行動を重ねてストーリーを作っていらっしゃるのですね。

?ということは、我々の方でその年表にさらに補足できる事実がわかったならば、その同じ上に、すずさんたち登場人物たちもいるはずなんですよ。すずさんたちがいる時間というか空間というかは、本当にあった歴史の上だと僕は思うことにしているので、本当にあった歴史でさらにわかった部分があるのならば、そのうえにすずさんを付け加えるということもありなんじゃないかなと思っています。

?たとえば、昭和20年の3月19日の呉空襲のときは、爆弾が海に落ちたあとに魚がたくさん浮いて、漁師が出てきて魚を獲っていたという話を見つけたから、それも付け加えてみたいなと。原作にはないんですけど、そんな面白いことがあったのなら、すずさんの行動の上にそれを映してみたいと。

──空襲のシーンでは、対空放火の煙が色とりどりだったという描写も原作にはないですね。煙に色を付けて、どの砲台から撃ったのか判別できるようにしていた、とか。

?色とりどりの煙の話は、こうのさんもご存じでしたよ。ただ、漫画は白黒なので、描けないっていうだけのようです。

?当時、呉の空襲を体験した人の話が何冊か呉市から出ているんですけど(資料を取り出しながら)、その中にあの日の空襲の対空砲火の煙が色とりどりだったというのは日本側の下にいた人たちも書いているし、それから空の上にいたアメリカの航空隊の人も同じように書いているんです。こうのさんはこういうのもご存じで、読んでいらっしゃるので、そういう意味で言うと新しく付け加えたというよりは、よりそこで描くことができたっていうことです。


漫画に描いた大砲の実際の場所を、作者のこうのさんも後で知りたがったという?Photo by T.K
?こうのさんも例えば「この大砲がどこにあるのかもうちょっと自分でわかっていたらもうちょっと詳しく描けただろう」とおっしゃっているんですよ。漫画の、すずさんがアメリカの飛行機が飛んで来るのを見上げるシーンでは、この山はすずさんの畑の真正面にある山なんですね。するとこうのさんは、「あ、だとしたらすずさんの頭越しに撃つとかっていう描写もあることになるんじゃないかな」とか。そうしたことを、映画では付け加えていっているだけなんですね。

──それと、白黒の漫画に色がついたことで、表現力が増した面もありますね。例えば原作では色のなかったトンボが、映画では夏にはシオカラトンボ、初秋には赤トンボになっていたり……。

?そうそう、そうですね!(笑)

原作はまるで知的なパズル
映画も同じでありたかった

──映画と漫画を交互に見ると色んなことがわかる。冒頭のクリスマスのシーンも、原作ではあまり詳しく描かれていませんが、映画を見て、戦時中のクリスマスはあんな感じだったんだなとわかりました。

?クリスマスツリーの飾りに使う「モール」ってあるでしょ?あれ、今はビニールみたいなのでできててるじゃないですか。戦前は何でできてたかっていうと、経木なんですよ。あの、お弁当箱についているやつですね。そういうのとかも調べて、でも出しようがなくて映画では使ってなかったりするんですけどね(笑)。

──あ、映画のシーンに経木モールがさりげなく入っていたりは……。


本棚にぎっしりと詰まった戦時中の呉や当時の生活などに関する資料?Photo by T.K.
拡大画像表示
?入っていないんですよ。入っていたら、「あれ、実は経木なんだ」ってなるんだけど……。

?他にも、ほら(資料写真を見せてくれながら)、昭和12年のクリスマスの写真ですけど、普通ですよね。昭和40年代の僕らの子ども時代とそんなに変わらないような気がするんですよ。

──そういう細かい描写が映画の中にはふんだんにあるせいで、私自身も、見逃したのでもう一回見に行かなきゃと宝探しみたいに何度も見ているんですけど、これはあえてそうしているのですか。

?ひとつにはね、原作がそういう「パズル」のようなものなんですよ。こうのさんが描く作品はすごく知的なパズルみたいになっていて、ほんの隅っこに秘められた物とかが画面の中にあったりするんですね。僕がこうのさんの本を「一生かけて読み解き続けられれば」と言っていたのは、そういうのがふんだんに隠されているからなんですね。

?こうの史代さんの『この世界の片隅に』という漫画を映画にするならば、漫画と同じような映画でないといけないと思ったんですよ。

──最後のエンドロールでは、登場人物の一人であるリンさんの絵物語が入ります。あれを見ることで、本編で語られなかったストーリーが多少わかったりするんですが、あそこであの絵物語を入れようというのは当初からの予定ですか?

?一応当初からの予定です。というのも、クラウドファンディングで支援してくださった方々の名前を載せないといけなくて、そこで何をしようかなと思った時に思いついたわけですから、そういう意味で言うと去年の夏くらいには決まってましたね。

──エンドロールで流れる支援者の名前を見ていると下の絵物語を見落としてしまって……。

?ええ。で、また観に行って(笑)。

>>後編「『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”(下)」に続きます
http://diamond.jp/articles/-/110768



2016年12月9日 ダイヤモンド・オンライン編集部
『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”(下)
片渕須直・『この世界の片隅に』監督インタビュー
>>(上)から続く


cこうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
前例に基づく効率主義を廃し
大人の支持を集める方法

──今、お話が出たように、映画の制作費などの資金調達にクラウドファンディングを使いました。2015年3月18日から5月29日の82日間で3374人の支援者と3622万4000円を調達し、国内でクラウドファンディングの最大の成功例と言われています。この手法は当初から考えていたのですか?

?前作の『マイマイ新子と千年の魔法』がそもそもそういうスタイルになっていたんですよ。

?というのは、『マイマイ新子と千年の魔法』は主人公が小学生なんです。だけど、そうすると自動的に、ある人たちは「これは子ども向きの映画であり、お母さんが子どもを連れて冬休みとかに観に来るようなタイプの映画だろう」と勝手に考えちゃうんです。

?それはそれでいいんですけど、実際には子どもが自発的に今まで知らないタイトルの映画に注目して、「これに行きたい」と言って親を引っ張ってくるってことはないだろうと僕は思ってたんですよ。僕らが子どものころはそういうこともまだあったとは思うんです。児童向きの映画とか単発の子ども向きのテレビドラマってたくさんありましたから。でも、今はもう、昔と違っていて、いっぺん売れてしまったものに対しては「こういうものが売れる」とタイトルが固定されちゃっているんですね。

?たとえば「ドラえもん」なんて何十年やってるでしょう。それは、ドラえもんがいけないとかではなくて、新しいものがそこに入らなくなって、もうずいぶん経ってしまっているということなんですよ。ここ20年くらいはもう、テレビでやっているテレビアニメの子ども向きの時間帯ってタイトルが固定されちゃってるんですね。そこで生まれ育った子どもにとって、新しいタイトルのものが入ってくること自体が想像の埒外なんです。

?だとしたら僕が、『マイマイ新子』っていう小学生が主人公の物語であるにもかかわらず、これをまず大人が観る映画として作るべきだと思っていたんですよ。

──なるほど。

?ところが、興業側は、「これは子ども向きの映画だから夕方17時開始の回をラストにしましょう」っていう風にしちゃう。すると仕事帰りの方は来られないんです。そもそも「子ども向きのものはこの時間帯」という前例主義みたいなものがある。それは前例に基づいた効率主義でもあるんですけど、それによって、前例がないものを作った時に無効になってしまうんじゃないかな、と。逆に言うと、前例にないもののほうが無効にされてしまうんですよ。そう思ったんですね。

?そうすると、僕らができる努力として、普通のファーストランで子ども向きの時間帯と設定されていようが、その次に大人が観られるレイトショーを自分たちで場所を探して上映してもらうということをやったんですね。

?それと同時に、そういう形態で上映されることをさらに望みますという署名活動を始めてくださった方がいらっしゃったんですよ。そのときはお金を集めていないのですけど、今のクラウドファンディングの方法と同じで、皆さんが名前を連ねて、私はこういうものを支持したいですという方がたくさん出てきてくださったんですね。

『この世界の片隅に』も同様で、いま戦争中のものを題材として作るって、一見するとすごく古臭くも思われますよね。でも、こうの史代さんが描かれた漫画そのものは、古い革袋なんだけど、中身はものすごく新しいお酒が入っているというような作品です。だとしたらまた、前例に則らない作品として成立しなければいけないと思ったんですね。ならば、やはり同じように、これにどのくらいの支持していただける方がいらっしゃるかっていうのを目で見える形にするのが一番だろうな、と。それが今回のクラウドファンディングだったんです。

?だから本来でいうならば、クラウドファンディングや署名をやらないで成立できるようにもっと土壌そのものが変わっていかないといけないんですよ。だから、クラウドファンディングの成功例として捉えられるのはすごくありがたくはあるんですけど、それが100%良いことかというと、そうしなければ成り立たないということから変わっていってくれると、僕らはもっといろいろ生み出せるんじゃないかなと思います。

大好きな映画の1カット目は
意外に誰も覚えていない

──映画を見たみんなが内容について語りたがって、他の人に勧めまくるという一種の“社会運動”のようになっているのは、クラウドファンディングという観客の巻き込み方をしたのと無縁ではないと思います。それと、この作品が珍しいのは、批判する論評を見たことがないことです。批判するポイントがないというのも、この作品の広まり方のひとつの特徴だと思うのですが?

?それはね、こういう風に考えているんです。

?例えば、すごく大好きな映画の最初の1カット目って覚えていますか?あんなに大好きなのに、人はだいたい、どうやって始まったか覚えていないんですよ。

?それは、1カット目が始まった時にはまだ、観ている自分の心の中で何と結びつけたらいいかわからないからなんです。つまり、映画って大半は、どんなものを送ろうと、受け手の方がきちんと自分の心の中の何かと結び付けていただかないと映画たりえないんですね。そのカットがなかったことになっちゃうんですよ。

?だとしたら、僕が自分で作るものには「こういうメッセージを込めました、だから観ろ」っていうのはやめて、「こういう現実があって、こういう状況の中で、こういう人がいて……。それはひょっとしたらあなたの中の何かに近くないですか?」というかたちにする。でも、その何かっていうのにすごくたくさん要素を入れることにして、どこかに引っかかっていただけるだろうと思ったんですね。

?だから自分としては、映画の作り手が作れるものは映像と音だけであって、それが映画として完成するのは観た方の心の中である、と考えています。ということは、皆さんはご自分の映画として『この世界の片隅に』を心の中で完成されてるわけだから、否定しようがないっていうことになっちゃったんじゃないかなと思いますね(笑)。もちろん、うまく化学反応できなかった方もいらっしゃると思いますが。

──なるほど、確かに私も人に勧める時には「単純に泣くための映画じゃないよ」と言っています。泣く映画だと思い込んで観てしまうと、自分の心の中の何かと結び付かなくなる可能性があるからですね。


立ち見も出るほどの人気ぶり?Photo by Tomomi Matsuno
?そうですね。だから、「これは楽しい映画なんだよ」と、わざと勧めてくださる方もいらっしゃって、「騙された」ということもあるけど(笑)、でも入口はいろいろあっていいんです。とにかく観ていただくことが大事で。観ていただいたら、そこで絶対になにかご覧になった方との間ではうまい関係が結べるだろうなと思いつつやっていました。

?だから観ていただくきっかけが本当に必要ですね。宣伝というのはそういうことなんだろうなと思うんですけど、この映画の宣伝はめちゃめちゃ難しいです。何と出会っていただくかは伏せたままやらないといけないから。

──自分の身の周りの人に勧める時って、相手がどういう見方をするか多少想像しながら「たぶん君に合っていると思うよ」とか言いながら……。

?そうそうそうそう!(笑)

──その意味で、拡散にSNSが機能しているというのは、まさにこの映画らしいなと思いました。

?あ、そうそう。あともう一つの特徴は、ご年配の方が多い。「この映画は親子連れが増えてきました」って言われて、何歳くらいのお子さんですかって言ったら「40代の方です」って。40代の方が70代の親御さんを連れてくるみたいで、それはお母さんに昔のことが懐かしいでしょって。そういうのって想像しなかったですよ。

?というのはやっぱり僕らが描いているものである以上、どんなに資料を費やそうと、リアルに昔、住んで、生きていらっしゃった、その時代を知っている方の心をそばだてられるだろうかっていうのは、そこまで自信があるわけではないんですよ。でも、結果的にそういう風になって、80代の方が「子どもの頃に住んでいた、戦時中の呉そのものだ」とおっしゃっていただいたりとかということが出てきています。

当時の地図と今の呉の町が
もはや二重写しで見える

──実は私、広島出身なのですが、呉に住んでいた友人が、「一点だけリアリティを欠いているところがある」と言うんですね。それは、すずさんが呉の町で迷子になるシーンで、呉は「9つの嶺に守られているから九嶺(くれ)という」と作品の中でもすずさんの夫の周作さんが言いますが、実際、地元の人は山を見れば方向がわかるそうです。よほどの方向音痴でないと迷子にはならない、と。でも、それでも迷ってしまうというところで、すずさんがどれだけ抜けたキャラクターか実感できたと言っていました。

?呉の町はだいたい、碁盤の目になっているんですが、碁盤目でなくなる場所があって、そこで間違えているんですよ、あの人。

(PCで昔の地図を示してくれながら)ここら辺までは、碁盤目でしょ?で、ここに相生橋があるから、この辺かな。ここで間違えてますね。で、郵便局から、こっち(自宅の方)へ行かなきゃいけないのに、こっち(遊郭)に行っちゃったんです。ほら、この道…このややこしくなっている辺りで間違えた。

?目印になる山もね、ここが尾根なので、それが目に入っていればいいんですけど、尾根の反対側に出ちゃったんですね。尾根がいくつかあるんで、またちょっと紛らわしくはある。

──本当にすずさんが歩いたかのように、完璧なシミュレーションですね(笑)。実際、片渕さんも歩いたんですね?

?歩きましたけど、この辺の町は、今、残っていないんです。戦時中に建物疎開でなくなっちゃってるんで、今は完全に区画整備されて、まるで違う町になってるんですね。

?その違う風になった町が、今の呉の上にどのように重なっているのかっていうのを頭の中に徹底的に入れていくと、二重写しに見える感じがしますね。これは昭和14年の地図ですけど、僕はいまだにここに書かれている中通り何丁目とか、4丁目とかの地番で覚えているので、今の住所表示じゃ逆にわかんないんです。

──配役としては、すずさん役の「のん(能年玲奈)」さんと、音楽のコトリンゴさんが「はまり役」という言葉では足りないほど重要な役割を果たしています。それぞれ、起用を決めたのはいつ頃なんですか?

?まず、コトリンゴさんですけど、『マイマイ新子と千年の魔法』が2008年の12月に一回できたとき、翌年の夏まで寝かせてあるんです。その間なにをやっていたかというとエンディングの曲を歌う人を探していたんです。そこでひっかかってきたのがコトリンゴさんでした。コトリンゴさんに曲を書いてもらったら、ようやく映画が完成したんですね。

?その直後にコトリンゴさんが新しくいろんな楽曲のカバーアルバムを出すんだと言って、それのサンプルを送ってきてくださったんです。まだ完成版ではなくてサンプルの段階のやつだったんですけど。そこに(今回、劇中歌に使った)「悲しくてやりきれない」が入っていたんです。ちょうど、それが『この世界の片隅に』を自分たちが手掛け始めた直後だったんですね。

「悲しくてやりきれない」って歌詞を読むとわかるんですけど、地上にいる人が空を見上げて雲が流れているとか、空に対してすごく距離感を抱いて、そこの下にポツンといる自分の小ささとか孤独さというのを歌っているんです。それがすずさんそのものに思えた。

?すずさん自身は、こうのさんの漫画で読んでもすごく柔らかい人となりの女性ですから、コトリンゴさんの声がすごくマッチするような気がしてて、逆に言うとそういうコトリンゴさんの声が前提としてあるところで、すずさんってどんな声なのかなと自分たちから(探しに)出て行かなければいけなかったんですね。

「戦争ものは夏」に違和感
冬に始まって冬で終わる物語

──コトリンゴさんのほうが先なんですね。


主人公の浦野すず。まるで実在の人物かのように、片渕監督は「すずさん」と呼ぶ
cこうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
?もちろん最初の時点から、すずさんってどんな声で、どんな女優さんの声だったらはまるだろうと、いろいろ心の中で試してみているわけですよ。その一つに、すずさんはコミカルな人だということがあった。コミカルなんだけどナイーブなものがあるんですね。その両方をきちんと兼ね備えていて、なおかつすずさんはお嫁に来た時に18歳なんですよ。そういう年齢感も持っている人がいてほしいなと考えていました。

?で、そういう女優さんいないかなと思いながら、テレビを観ていたら、たまたまなんですけどうちの奥さんがダイビングスクールでダイビングを習っていて、そのダイビングスクールが朝の連続テレビ小説(「あまちゃん」)の女優さんたちが潜る練習をする場所になるっていう話になって、そのダイビングスクールのスタッフの人たちがそのままロケに行くのでしばらくプールが閉鎖になりますって言われて。逆に面白そうだからその番組を観てやろうと。そうしたら、出てきたのが彼女(のんさん)だったんですよ。

?線が必ずしも太くなくて、それでいてコミカルなことをやる。「あまちゃん」ってコメディーですから、はっきり自分はコメディエンヌだと自覚してお芝居をやっている、実際にそのロケに一緒に行った人に聞いてみても、人柄もすごくいい。例えば僕がすずさんって人にものすごく入れ込んでいるとして、この人だったらすずさんって人を預けてもよさそうだなと思っていたんですね。

?とはいえ、それが2013年ぐらいです。それから僕らは画面作りでものすごい時間がかかってしまって、実際にのんさんにオーディション参加をお願いするまで、ずっと時間が過ぎてしまうわけですね。でも本来の予定どおり、もっと早く完成していたら、たぶん出会えなかったかもしれない。

──今回、11月と秋の配給になったのは製作上の理由なのでしょうか?

?例えば、終戦70周年(2015年)の7月や8月に公開すべきだという話があった時に「でもこれは冬の映画なんだ」という話をしました。冬から始まって、冬で終わっているのだから、夏でなければいけないという紋切りのほうがよろしくないんじゃないかという。

?8月を過ぎたら戦争のことや原爆のことは考えなくてよくなるのだとしたら、おかしな話じゃないかと思っているんですね。だから71年目の秋に公開されて、秋から冬に向かっていくというのは、すごく良いことだと思うし、このあとクリスマスのシーズンが近づいていくと、映画の中の冒頭のシーンにより近づいてきますし。これは、12月に始まって1月に終わる映画なんですよ。

──こうのさんも連載をそうした時間の区切りで始め、終えたのも意図があったのかもしれないですね。

?もちろん、だからこうのさんの原作も8月が最終回じゃないわけですよね。そこから先があるからこそ、この物語が意味を持っているんじゃないでしょうか。
http://diamond.jp/articles/-/110798

 

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宇野維正の興行ランキング一刀両断!

『この世界の片隅に』の奇跡は続く 3週連続で前週超え、年明けには上映館が3倍に!
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この世界の片隅に
ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
君の名は。
宇野維正
2016.12.08
20161208-rank.jpg
 『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の勢いが止まらない。先週末の土日2日間の動員44万5000人、興収6億7700万円という記録は、動員、興収ともに前週比約82%という高推移。新シリーズ「ファンタスティック・ビースト」が成功するかどうかは、観客の母体となる「ハリー・ポッター」シリーズのファンからどれだけ観客層を広げられるにかかっていたと言っていいだろう(似たような成り立ちのシリーズであった「ホビット」はそこがあまりうまくいかなかった)。公開2週目のこの数字は、公開直後に「ハリー・ポッター」シリーズへの忠誠心が高いファンが押し寄せただけでなく、今回の新シリーズで新たなファンを獲得しつつあることを表しているのかもしれない。

 大型連休も祝日も関係がない通常の「12月第1週の週末」であった先週、前週比を上回った作品が二つある。一つは、驚くべきことに公開から15週目にして、またもや前週比超えをはたした2位の『君の名は。』。もう一つは、こちらも驚くべきことに公開から3週連続で前週比を超える数字を記録し、遂にはトップ5内の4位にまで上昇してきた『この世界の片隅に』だ。

 特に『この世界の片隅に』を取り巻く熱は、まさに異常事態である。63館という小規模公開でスタートし、最初は都市部の劇場で、やがて日本全国の劇場でも、ウィークエンドも含めて連日満席興行を続けている『この世界の片隅に』。動員ランキングでの上昇の背景には、公開館数が82館(3週目)→87館(4週目)と徐々に拡大されていることがあるわけだが、現状、ほぼ満席状態が続いているため、全スクリーンのキャパシティにほぼ比例して動員が増えているというすさまじいことになっている。

 『この世界の片隅に』の上映館は今週末には90館まで拡大。先日、片渕監督自身が「年明けにほんとに上映が拡大します。びっくりするくらい。今お客さんが入ってくださってることを、たくさんの映画館の方々が信じてくださったからです。まだまだがんばらなくては」とツイートしていたように、ここから年末年始にかけても順次館数が増え、12月6日に作品の公式アカウントが告知したところによると、年明けには公開時の3倍を超える190館(累計)での上映が決定しているという。

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ちなみに2015年の映画興行は、外国映画の好調もあって秋まで記録的な数字を積み上げていたが、11月に入ってからどっと落ち込んでしまった。2016年の『君の名は。』と『この世界の片隅に』は、日本中から「ガラガラの秋のシネコン」を消滅させたことにもなる。この2作はあらゆる意味で前例のない広がり方をしている作品ではあるが、公開直後に動員が偏向せず、ロングラン興行に移行することが多いアニメ作品(これはディズニーやピクサーの海外アニメ作品にもしばしば見られる傾向だ)は、何よりも映画館を運営する興行サイドにとって、今後もますますその重要性を増していくことだろう。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■公開情報
『この世界の片隅に』
テアトル新宿、ユーロスペースほか全国上映中
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、澁谷天外
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)
企画:丸山正雄
監督補・画面構成:浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ
プロデューサー:真木太郎
製作統括:GENCO
アニメーション制作:MAPPA
配給:東京テアトル
(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト:konosekai.jp
http://realsound.jp/movie/2016/12/post-3434_2.html


 

 

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コメント
 
1. 2016年12月09日 09:14:04 : gseLP5DUAM : iLgzrqzI0go[18]
◆荒川強啓デイキャッチ 宮台真司 「映画『この世界の片隅に』を観てきました」2016.12.02

https://www.youtube.com/watch?v=s3ovvESnmI0


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