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トランプの変化とクリントンの苦悩
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 5 月 06 日 15:23:27: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

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トランプの変化とクリントンの苦悩
2016年05月04日(水)海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
 今回のテーマは、「トランプの変化とクリントンの苦悩」です。4月26日(現地時間)に北東部5州で行われた共和・民主両党の予備選挙は、米長距離鉄道アムトラックで結ばれているため「アムトラック・プライマリーズ(予備選挙)」と呼ばれました。共和党は不動産王ドナルド・トランプ候補が全州で勝利し、次の中西部インディアナ州でテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)をノックアウトしますと、これまで議論されてきた共和党全国党大会での決戦投票の可能性が低くなります。
 一方、民主党はヒラリー・クリントン候補が5州の内、4州でバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)に勝利を収め、指名獲得に必要な2383人の代議員数にさらに近づきました。
 本稿では、トランプ候補の演説における変化と、今回の北東部5州における予備選挙で顕著に現れたクリントン候補の弱点に焦点を当てて述べていきます。
トランプ候補の演説における変化
 ペンシルベニア州予備選挙投票日前日のクリントン候補と筆者(@ペンシルベニア州フィラデルフィア市役所)
 トランプ候補は、共和党全国党大会における決戦投票の対策担当として、政治コンサルタントであるポール・マナフォート氏を採用しました。それ以来、同候補の演説に変化が生じています。
 昨年からトランプ候補は演説の冒頭で、各メディアが実施した世論調査の数字を必ず挙げて、自身の強さをアピールしてきました。ところが、ニューヨーク州ロチェスターやペンシルベニア州ピッツバーグでは、同候補は演説で2つの都市における製造業の激減に関する統計を出し、その原因を北米自由貿易協定(NAFTA)に帰しているのです。そのうえで、同候補は、「環太平洋経済連携協定(TPP)は北米自由貿易協定よりもさらにひどい貿易協定である」と主張しています。
 なぜ、トランプ候補は演説の冒頭を変えたのでしょうか。一言で言ってしまえば、労働者階級の票の獲得が最優先であると判断したからでしょう。同候補は、2008年及び12年米大統領選挙でオバマ大統領が勝利を収めたミシガン州、ニューヨーク州、ニュージャージー州及びペンシルベニア州を奪還すると述べています。12年米大統領選挙においてミット・ロムニー共和党候補が獲得した選挙人206に上の4州の選挙人の合計79を加えれば、過半数の270を超えることができます。極論を述べれば、激戦州の中の激戦州であるオハイオ州、フロリダ州及びバージニア州の3州をたとえ落としても、民主党候補に勝てる計算が成り立ちます。
ロッキー銅像の前でクリントン支持の看板を掲げる筆者(@ペンシルベニア州フィラデルフィア美術館)
 トランプ候補は指名を獲得した場合、本選で新たな激戦州となる可能性が高い上の4州と従来の激戦州であるオハイオ州、フロリダ州及びバージニア州などの組み合わせにより、過半数270を狙うのです。つまり、同候補は選挙人270を獲得するための選択肢を広げようとしているのです。
 本選では、選挙人の過半数270に到達するための選択肢が多い候補が、有利な選挙戦略を立てることができます。登山に喩えますと、頂上までのルートを複数持っているのです。12年米大統領選挙では、ロムニー陣営は選択肢が限られていたため、オバマ陣営に選挙人270獲得のルートを読まれてしまい敗れました。トランプ候補の選挙人獲得における選択肢拡大の戦略は、民主党候補にとって警戒すべき点です。
クリントン支持の看板を持ってロッキー・ステップを駆け上がる筆者(@ペンシルベニア州フィラデルフィア美術館)
 「トランプ対クリントン」の仮想対決に関する世論調査を見ますと、上のいずれの4州においてクリントン候補がトランプ候補をリードしています。政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス」が集計する各世論調査の平均値では、クリントン候補がトランプ候補をニューヨーク州で21.2ポイント、ミシガン州で8.6ポイント、ペンシルべニア州で7.4ポイントの差をつけています。「ラトガース−イーグルトン」が行ったニュージャージー州を対象にした世論調査(16年4月1日−同月8日実施)でもクリントン候補は、トランプ候補を14ポイント引き離しています。ただ、トランプ候補が本選で4州を重点州に位置づけますと、クリントン候補は従来の激戦州に加えて、これらの州においてもスタッフやテレビ広告費といった資源を余分に費やさなければならないのです。
無党派層と若者
低所得者層が住む地域での戸別訪問(@ペンシルべニア州フィラデルフィア北部)
 今回の北東部5州の予備選挙において、クリントン候補がサンダース上院議員に敗れたロードアイランド州は無党派層が投票できました。前回の「アメリカに社会主義は実現可能か?ニューヨーク決戦の裏舞台」でも指摘しましたように、クリントン候補は、民主党員のみが投票できる州では力を発揮しますが、無党派層が加わると苦戦を強いられます。この傾向は予備選挙が終盤に入っても変わっていません。本選になれば、無党派層の票の獲得がカギを握るようになります。
 さらに、クリントン陣営はミシガン州やニューヨーク州と同様、ペンシルべニア州においても戸別訪問におけるボランティアの若者不足の問題を抱えていました。筆者が参加した同州フィラデルフィアにおける戸別訪問の例をとってみましょう。有権者名簿には、1回目と2回目の訪問のチェック欄がありました。標的としている有権者が不在の場合、ボランティアの運動員は再度訪問して、クリントン候補を支持しているのか否かを確認します。クリントン陣営は、投票日当日になっても1回目を回りきれていませんでした。
戸別訪問をするボランティアの運動員(@ペンシルベニア州フィラデルフィア北部)
 2008年米大統領選挙では、投票日当日バージニア州においてオバマ陣営は3回目、12年は2回目を回っていました。ボランティアの若者が戸別訪問に参加したからです。クリントン陣営のボランティアは中高年が圧倒的に多く、戸別訪問に機動力が欠けているのです。
 ペンシルべニア州ではクリントン陣営は、若者不足を補うために米国国際サービス従業員労働組合(SEIU)並びに米国教員連盟(AFT)の力を借りていました。この点も、ミシガン州及びニューヨーク州と類似しています。同陣営がペンシルべニア州フィラデルフィアに置いた戸別訪問の拠点は、米国国際サービス従業員労働組合の建物の中にありました。クリントン陣営は、労働組合員を動員しても標的となっている有権者をすべて訪問することはできなかったのです。
エキサイティングと情熱
女性大統領候補誕生を支持する看板を掲げる女性のクリントン支持者。ポッタス(POTUS)は「President of the United States」の略(筆者撮影@ペンシルベニア州フィラデルフィア市役所)
 選挙では選対に、エキサイティングと情熱があるか否かは重要な要素です。これまで筆者が各州で観察してきた限りでは、仕事の延長として戸別訪問に参加している組合員は、クリントン選対にエキサイティングや情熱をもたらすことはできないのです。地上戦の核となる戸別訪問とエキサイティング並びに情熱に関して、「トランプとサンダースポピュリスト旋風は続かない−コノリー米下院議員に聞く」で紹介した特別代議員でありクリントン候補を支持しているジェリー・コノリー下院議員(民主党・バージニア州)にインタビューを行いました。
 コノリー下院議員は、コノリー陣営の戸別訪問に参加した労働組合員が不平や不満を漏らし、標的となっているすべての家を訪問しなかった苦い経験を語ってくれました。同下院議員は、労働組合員とは異なり、戸別訪問のプロは非常に効果的であると強調します。ただ、労働組合員と同様、戸別訪問のプロも陣営にエキサイティングと情熱をもたらすことはできません。そこで、同下院議員は、戸別訪問はプロと若者の組み合わせがベストであると結論づけています。
「自由の鐘」の看板(筆者撮影@クリントン勝利集会−ペンシルベニア州フィラデルフィアコンベンションセンター)
 地上戦重視のクリントン陣営は、本選で豊富な資金力を活用して戸別訪問のプロを採用することは可能ですが、やはりサンダース陣営に情熱を燃やしているボランティアの若者が必要です。副大統領候補のカテゴリーには女性、ヒスパニック系、アフリカ系並びに激戦州がありますが、どの候補を選択するにせよ、クリントン候補はエキサイティング及び情熱を選対にもたらし、しかも若者、無党派層並びに「非常にリベラル」な有権者の支持を得ることができる候補を選択する必要に迫られています(図表1)。

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アフリカ系の有権者の声
戸別訪問に参加する米国国際サービス従業員労働組合員(筆者撮影@ペンシルベニア州フィラデルフィア)
 クリントン陣営は、テキサス州やミシガン州と同様、ペンシルベニア州においてもアフリカ系の獲得に時間とエネルギーを費やしていました。クリントン陣営では、女性、ヒスパニック系、アフリカ系、若者、同性愛者から構成される「異文化連合軍」の中で、アフリカ系がかなり重要な地位を占めています。筆者が担当した地域は、主としてペンシルべニア州フィラデルフィア北部にあるアフリカ系の低所得者層が多く住む地域でした。そこで得た有権者の声の一部を紹介しましょう。
 ルース・リトルジョン(59)
 ・「ヒラリーは一番経験があり、大統領になる資格があります。トランプを破らなくてはいけません」
 クリント支持者は、共和党候補を含めた5人の中でクリントン候補が最も経験豊かで、大統領になる資格があると指摘する傾向があります。
 グロリア・コービン(90)
 ・「ヒラリーは私たちのために戦っています」
戸別訪問出発前(@ペンシルベニア州フィラデルフィア)
 クリントン候補は、男女の賃金格差是正や育児世帯における有給の病気休暇制度など有権者のために戦っているというメッセージを発信しています。クリントン候補はニューヨーク市で行った演説で、男女の賃金格差について他の争点と結びつけて述べました。米国社会は、女性が約50%の労働力を占め、一家の稼ぎ手となっています。同候補は、1つの争点は他の争点と相互関係にあると指摘し、男女の賃金格差は家族の争点であり、人種差別でもあると示唆しています(図表2)。その狙いは、個別に争点について議論をするサンダース上院議員との相違を明確に有権者に示すことにあるのです。

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 因みに、男性が1ドルを稼ぐ労働に対して女性は79セント、アフリカ系女性になると67セント、さらにヒスパニック系女性では56セントまで下がります。演説でクリントン候補は、男女の賃金格差の数字を挙げた後で、買い物をする際、「男性は定価で買っても、女性にはディスカウントがあってもいい」と語り、支持者から共感を得ていました。男女の賃金格差是正などクリントン候補が発信するメッセージが、コービンさんには確実に浸透していました。
 アルバータ・テイラー(95)
 ・「トランプは人種差別者です」
クリントン選対本部のスタッフ(中央)、ボランティアの運動員(右)と筆者(@ペンシルベニア州フィラデルフィア)
 ワシントンでキング牧師と公民権運動に参加した経験があると言うテイラーさんは、トランプ候補が人種差別者であると自信を持って語っていました。
 ダリー・ウォーターズ(57)
 ・「ヒラリーのことが好きです。共和党は財政赤字を増やし、ビル(クリントン元大統領)はそれを減らしました。トランプは偏見を持っています。私は自分を少数派とは言いたくありませんので、このように言いましょう。トランプは、私のような他の民族や人種に反対です」
 「トランプは共和党を統一できるか? プリーバス委員長に突撃質問−ミシガン州デトロイトからレポート」で述べましたように、ミシガン州デトロイトにおいても戸別訪問の標的となったアフリカ系の低所得者層は、トランプ候補を人種差別者だと指摘していました。同候補が共和党の指名を獲得した場合、本選でクリントン候補はアフリカ系の票をかなり稼ぐことができるでしょう。
2人の「不公平理論」
ペンシルベニア州フィラデルフィアでの戸別訪問(ペンシルベニア州フィラデルフィア)
 サンダース上院議員は、今回の北東部5州での予備選挙において、ロードアイランド州を除いた4州で無党派層が投票できないのは民主主義ではないと主張し、不公平であるというメッセージを送っています。さらに、同議員は、ウォール街の金融機関に対して公的資金を入れて救済したのだから、今度は彼らが学資ローンの返済で苦しむ若者を助けるべきだと、「公平・不公平」の観点から議論をしています。サンダース支持者も、不公平に訴えています。特別代議員はエスタブリッシュメント(既存の支配層)及びインサイダーであり、それを獲得代議員数にカウントするのはずるく不公平であると捉えているのです。
 トランプ候補の思考様式について、「不公平」というキーワードなしには語ることができないことは「不公平、不公平、トランプの怒りの矛先−支持者を負の方向へ動機づける」で述べました。トランプ候補は、出馬した当初から演説の中で「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」という言葉を用いています。同候補の定義は、「既存の政治・経済のシステムの中で、公平に扱われていない人」です。たとえば、退役軍人もその一人です。同候補は愛国心を持った退役軍人が、不法移民よりも待遇が悪いのは不公平であると議論するのです。
 トランプ候補と同様、サンダース上院議員も独自の「不公平理論」を展開しています。同候補と同上院議員の「不公平理論」の背景には、不公平によって有権者を動機づけ、彼らの不公平感からくる怒りや不満を票に結びつけようという意図が隠れています。
クリントン候補の苦悩
ペンシルベニア州フィラデルフィア北部を走るサンダース支持のバス(筆者撮影@ペンシルベニア州フィラデルフィア北部)
 さて、クリントン候補は、ニューヨーク州及びペンシルべニア州における勝利演説で、サンダース陣営に一緒に戦おうと呼びかけました。ところが、サンダース陣営は徹底抗戦の構えをみせています。クリントン候補は、サンダース上院議員が無条件に支持表明をすることを強く望んでいます。というのは、2008年民主党候補指名争いで、クリントン候補には接戦の末、オバマ候補(当時)に敗れた経験があるからです。クリントン候補は、同年 6月に撤退をした後、無条件にオバマ候補を支持し、全国党大会で民主党統一のためにオバマ候補を支持するように自ら支持者の説得に当たったのです。無条件とは、たとえばサンダース上院議員が党の政策綱領に自分が主張する非常にリベラルな政策を入れることを支持表明の条件としないという意味です。
 クリントン候補は、08年民主党候補指名争いで自分がとった行動と同じ行動をサンダース上院議員に期待しています。しかし、同候補と同上院議員の間には、まずイデオロギーの相違が存在しています。同上院議員がリベラルなのに対して、同候補は中道でタカ派です。それに加えて、2人の間には、民主党に対する思いや忠誠心において温度差があるのです。無所属の同上院議員が同候補に対して最終的に支持表明をするとしても、同候補が描いている方向にスムーズには進まないでしょう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/6711 
 

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