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欧米の市民社会は自由貿易にNOと言う―TPP、TTIPと私たちの暮らし―(内田聖子ほか座談会『世界』)
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投稿者 烏滸の者 日時 2016 年 10 月 26 日 20:10:18: hk3SORw2nEVEw iUef9YLMjtI
 

座談会 欧米の市民社会は自由貿易にNOと言う――TTP、TTIPと私たちの暮らし――
メリンダ・セント・ルイス 
ローラ・ブリュッヘ 
内田聖子(司会) 
『世界』 2016年10月号 岩波書店(137-145ページ)
 
 
内田 メリンダさんはアメリカのNGOパブリック・シチズンの貿易問題担当として、TPPやTTIP(環大西洋貿易・投資パートナーシップ協定)の問題を日本の私たちや他国のNGO、労働組合、消費者団体とともに5年以上もウォッチし、交渉会合にも毎回のように足を運んでおられます。またローラさんはベルギーに拠点を置き、多国籍企業の動きを監視するCEOという著名なNGOで、TTIPに反対する多様な層の運動体をまとめ、巨大な運動に発展させてこられました。お二人は米国とEUにおける自由貿易協定に反対する市民社会の運動のトップランナーです。


 日本でも9月の臨時国会で、4月に頓挫したTPP協定の批准審議が再開されるわけですが、マスメディアなどのTPPへの関心は欧米市民社会ほど高まっていません。欧米では確実に、自由貿易が雇用や地域経済を壊し、食の安心・安全や公共サービスなどでの規制を緩和させ、さらに環境、人権、自治、民主主義という価値までも危機にさらすという認識の拡がりのもとで反対が強まっています。特に米国での反対運動は、大統領選も含めこの5年で最頂点に達している。今日はお二人の経験から自由貿易が私たちにもたらす弊害や運動の展望について議論できればと思っています。まず、それぞれの現場でのTPPやTTIPの情勢をお話しいただけますか?


 民主主義に反した秘密協定 


メリンダ いまTPPは、米国で最大の政治課題となっています。大統領選の候補者であるヒラリー・クリントンもドナルド・トランプもTPPに反対しています。クリントンと闘った民主党のバーニー・サンダースも「TPPは打倒されなければならない」と述べていました。その背景には、労働組合や環境団体などがTPP反対運動を広げてきたこともありますが、これまで民主党と共和党の間にあった自由貿易推進というコンセンサスに対して、超党派議員による反乱という事態が起きているのです。


 世論調査を見ても、TPPは支持政党を超えた選挙の大きな争点であることがうかがえます。今年2月の調査で、「あなたはTPPをやめ、米国の雇用を第一にする政策を公約としている大統領候補に投票しますか」という問いに対して54%の人が「投票する」と答えました。 「わからない」が29%、「投票しない」 は17%しかありません。興味深いのはもともと自由貿易推進である共和党支持者の64%もの人がTPP反対候補に投票すると答えていることです。


 なぜこのような反乱が起きているのでしょうか。まずは、その秘密主義です。TPPは史上もっとも秘密性の高い貿易交渉です。国民には交渉過程が完全に秘密である一方で、企業側の影響力が非常に大きい。米国通商代表部(USTR)には「貿易アドバイザー」という制度があり、500人以上いるアドバイザーの9割は大企業あるいは業界団体の代表です。シェブロンの代表やハリバートン、ゼネラル・エレクトリックなどの企業関係者などが多数入っています。彼らは秘密の協定文書を自由に見ることができましたし、条文の提案を政府にすることも可能で、実際に文言を作成することもありました。このような非民主的な秘密主義には米国議会でも怒りが噴出していました。交渉が妥結し昨年11月に条文が公開されましたが、交渉過程を記した文書は協定発効後も4年間は非公開という覚書を各国は交わしています。日本でも4月の国会で「黒塗り文書」が出されたと聞きますが、それもこうした約束義務があるからです。このようにTPPは妥結後も各国政府を説明責任から "擁護" しているのです。


 その結果、表向きは「自由貿易」協定ですが、実際には投資家や企業にとっての新しい権利・権益の拡大となっています。協定の全30章のうち、貿易に関する章はわずか6章だけ。残りは非貿易、つまり、食の安全、医薬品アクセス、環境・気候変動問題、金融規制、人権などの分野で企業の権力を拡大し固定するルールです。企業が政府を提訴できるISDS条項も含まれています。


口ーラ TTIPとは米国とEUとの間の自由貿易交渉で、TPPと非常によく似ています。交渉は2013年7月から約3年間続いていますが、幸いなことにあまりうまくいっていません。


 TTIPの目的も、実は貿易ではありません。EUと米国はすでにモノの貿易では多くの関税が撤廃されていて、重要なことはEUと米国との間で、同じような法律が制定されたり、規制の水準を同じにしていくことなのです。


 TTIPについての大きな論点は、TPPと同様に、民主主義の問題です。TTIPも秘密交渉で、透明性が完全に欠如しています。これまでEU市民や各国議員がさんざん圧力をかけてきた結果、ようやく各国議会での交渉文書の一部閲覧という成果を獲得できましたが、それでもまだ出てくる情報は限られています。たとえば先日、私たちは「透明性に関するEU指令」という規定に基づき、米国のたばこ企業のフィリップ・モリス社と欧州委員会の間で交わされた文書の公開請求をしましたが、真っ黒塗りです。


 フィリップ・モリス社は、各国の政府が国民の健康を守るために行なう規制措置に対して訴訟を起こすことが大好きな会社です。オーストラリアもISDSを使って提訴されたことがありました。だから私たちも同社の関連文書を要求したわけですが、黒塗り文書を出してきた欧州委員会の回答は、「公文書の提供は確かに義務づけられている。透明性は確かに大事である。しかしこのような貿易交渉においてはビジネスの利益が優先される」というものでした。ここにTTIPの本質がまさに表れています。要するに、環境や公共の利益よりも、貿易、経済、ビジネスが優先されるのです。ここに市民社会は猛烈に反発しています。


 期待できない経済効果 


内田 米国でTPPが支持されていない最大の理由は、雇用問題ですね。労働組合も中小企業経営者も労働者も、TPPで雇用が台無しになり家族を守れない、とのスローガンを掲げています。日本ではTPPでGDPが13.6%も増加し、80万人もの雇用が増えると夢のような試算が政府から出されています。


メリンダ 米国には過去の自由貿易で雇用が失われたという「負の経験」があり、自由貿易は経済成長や雇用増加にはつながらないということが人びとの間で十分実感されています。


 1992年に米国、カナダ、メキシコで締結された北米自由貿易協定(NAFTA)で米国の雇用、特に製造業は大きな打撃を受けました。政府はNAFTAで雇用は増える」と大宣伝していましたが、実際には2004年までに100万人もの雇用が失われました。別の統計では4人に1人の製造業の雇用が失われ、5万7000もの工場が国外に出ていきました。賃金の低いサービス業、特に大学の学位を持たない米国在住者の60%以上の人たちにも影響しました。結果的に米国内の賃金は引き下がり、労働組合が団体交渉する力も弱められてしまいました。政府の調査では、NAFTA以降、米国の製造業とサービス輸出の成長率は低下しています。「NAFTAでモノの貿易黒字が増える」といわれたのですが、結果は正反対で、570億ドルもの貿易赤字となりました。また2013年に韓国と結んだ米韓FTAの結果を見ても、米国から韓国への物品輸出は約9%低下し、米国には285億ドルの貿易赤字が生まれるというように、決して米国に経済利益をもたらしてはいません。


 これらの貿易政策の結果、過去20年から30年の間で、米国の格差は徹底的に増大しました。NAFTA以降、もっとも裕福な10%が得た国民所得の割合は24%上昇し、上位1%によって得られた割合は58%上昇しています。こうした実績は、何よりも説得力を持っています。だからこそ、多くの人は現在のTPPに反対をしているのです。


内田 2016年5月、米国政府の国際貿易委員会(ITC)は、TPPによる経済効果はほとんどないという報告書を出し、私も大きな衝撃を受けました。本来は「バラ色の展望」を提示するべき政府試算が、実は大したことはなかった。


メリンダ その通りです。政府もTPPについては、これまでのような楽観的見通しはさすがに出せなかったのでしょう。 ITC報告によればTPPでの経済成長は15年間でGDPがわずか0.23%増というものです。ほとんどゼロです。さらに報告では米国の農業、製造業、サ ービス業など55セクターのうち、36セクターで収支が悪化し、2032年ま
でに米国の総貿易赤字を217億ドル増やすとも試算しています。総論的にいえばTPPに入ることの経済的効果はほとんどなし、といえます。これによって反対運動も大きな根拠を得ましたし、TPPでの経済効果を信じていた人たちの期待も瓦解したといっていいでしょう。


 グローバルに進む規制緩和 


内田 TPPやTTIPの本質である「ルール部分」はどうでしょうか。すでに関税の問題ではなく、ルールの統一がグローバルにされていくことの問題点は欧米では共通の問題意識となっていると思いますが。


口ーラ TTIP交渉では、「規制の協力」という分野が設けられ、その中で米国とョーロッパの法律やルールの統一化が目指されています。しかしこれは法の自主性という意味でも本当に大問題で、 簡単にいえば、例えばヨーロッパで新しい法律を導入したい場合、欧州議会に提出する前に米国政府に相談して、貿易に悪影響を与えないかどうか意見をうかがわないといけないということです。大企業の意向が各国の法整備に大きな影響力を持つことになってしまいます。


 EU市民社会の中で規制の統一について懸念されているテーマは、たとえば化学薬品や化粧品です。ヨーロッパでは多くの国が「安全でない商品は市場に出さない」という原則のもとで規制をしていますが、米国の規制は明らかに弱い。ヨーロッパで化粧品に入れることを禁止している化学物質は約1000ほどありますが、米国ではわずか10ほどです。しかし「規制の協力」といって米国基準に緩和されてしまえば私たちの身近なところでこうした商品が出回るようになってしまいます。協定を批准してただちに規制緩和されることはなくても、10年、20年と経つ間にどんどん基準は引き下げられていくでしょう。


 食の安心・安全についての関心も非常に高く、牛肉の成長ホルモン、遺伝子組み換え作物、塩素処理された鶏などにEUは反対してきました。これはEUの選択です。しかし米国では何の問題もありません。それで米国とEUの間ではこれまでもWTOの紛争も多く起こってきました。このことがTTIPでも問題となることはわかっていますから、多くの農業者や消費者が反対をしています。さらに殺虫剤や環境ホルモンなどの問題です。「危険なものは域内に入れない」というEUが重視してきた原則が、「規制の協力」という名の下で台無しにさせられるかもしれません。実際に、米国の企業や業界団体からはこうした規制に対する攻撃があるわけです。


メリンダ 米国でも食の安全については心配されています。TPPは米国の安全基準を満たさない魚介類、肉、鶏肉の輸入を強いるものです。たとえばベトナムの魚介類から高い濃度の汚染が発見されたこともありますし、マレーシアのエビは最近禁止された抗生物質が高いレベルで発見されたため、輸入が差し止められたのです。これらがTPPで大量に入ってくる危険があります。米国食料医薬品管理局(FDA)は1%に満たない程度の魚介類しか検査していません。


 TPP協定文を読むとよくわかりますが、TPPは遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジーを使った農産品を新しい貿易ルールの対象にすることを明記した初めての貿易協定です。米国のアグリビジネスやその意向を受けた政府は、長年、他国の遺伝子組み換え作物への規制や監視体制を「貿易障壁」として攻撃してきました。TPP協定にはこうした各国のルールに対してモンサントやカーギルなどの企業を含む利害関係者が異議申し立てできる規定がありますし、ともすれば食品表示も「貿易違反」として抗議されかねない内容も含まれています。いま米国では有機農産物を求める消費者や有機農業者たちが遺伝子組み換え商品への表示義務制度をつくるよう、州レベルで激しくたたかっています。こうした人たちはTPPでこうした努力も後退してしまうことを危倶し、TPP反対運動にも参加してきています。


 投資家を守るISDS 


内田 TPPにもTTIPにも含まれるしくみとして、投資家対国家の紛争解決メカニズム(ISDS)があります。企業や投資家が、相手国の規制強化や政策変更に対して「当初予定していた利益を損ねた」として多額の賠償金を求め提訴できる制度です。これが欧米市民社会の自由貿易協定反対の最大の焦点だと思いますし、しかもISDSによって環境や人権、公共サービス、そして自治や主権が脅かされるという危機感がかなり共有されていると思っています。


メリンダ ISDSはTPPだけでなく多くの貿易・投資協定に含まれていますが、外国企業や投資家に、相手国の国民や国内企業を超える幅広い権利を与えるものです。国内の法制度や裁判を飛び越え、私的な仲裁廷に提訴することができます。仲裁人は3名いますが、通常は企業の弁護士を務めているような人たちです。裁定は一度限りで、控訴はできません。また投資家は実際に損なわれた利益に限らず、「将来に予測される利益」に対して訴えることが可能です。さらに政府が負ければ賠償金は国民の税金から支払われるわけで、どれをとっても私たちにとって有利なしくみではありません。近年、ISDS訴訟の数は急増していて、1987年以降、累計696件の訴訟があります。たとえば米国の天然ガスの会社ローンパイン社がカナダ政府を訴えたケースは、ケベック州が同社に、環境影響評価を行なう間、開発をしないよう求めたからです。それで利益を失ったとして、2億5000万ドルの賠償請求をして現在も係争中です。米国シェブロン社は、エクアドル政府を訴えました。同社によるアマゾン地域の深刻な汚染のせいで健康被害を受けたと地域住民が告発し、エクアドル政府は操業停止を命じたのですが、それに対してシェブロンは訴訟を起こしたのです。


口ーラ TTIPにもISDSは含まれており、非民主的なしくみだとヨーロッパでは強く非難されています。欧州委員会は、TTIP交渉に際して、ISDSに対する市民からの非難があまりにも強かったために、2014年夏にISDSの賛否を問う公の意見聴取をインターネツトで行ないました。すると回答者15万人のうち97%が「反対」と答えたのです。学会やビジネス界からも反対の声が上がりました。それを受けて欧州委員会は、2015年末にISDSの改革案として投資裁判制度(ICS)を米国に提案しました。ここでは多少の改善が見られますし、また公開聴取の結果という市民社会の声がもたらした勝利ではありますが、私たちが望むような改革案ではありません。専門家もICSはまったく不十分と評価しています。


内田 日本政府はISDSに関して「日本が提訴されることはない」と言っています。最近になって少し考えを変え訴訟された場合の対策を考え始めたようですが、その危機感は欧米の政府や市民社会ほどではありません。


メリンダ それはあまりに楽観的です。米国ではTPPが発効すればISDSで提訴されるという危機感が強くなっています。もちろん米国の大企業は最も頻繁にISDS提訴を主に途上国政府にしてきたのですが、最近では先進国政府が訴えられるケースも増加しています。


 最近の事例でいえば2016年1月、米国はカナダの企業にISDSを使って提訴されました。米国からカナダまでを結ぶパイプライン計画がもともとあったのですが、環境団体や先住民族の運動は、環境を破壊する計画は撤回せよと求めてきました。2015年11月、オバマ大統領は計画の認可を取り消す判断をしました。これは私たち市民社会にとっては歴史的な勝利です。ところが計画に投資していたトランス・カナダ社は、オバマ大統領の判断は「恣意的」であるとして、NAFTAのISDS条項を使って150億ドルの賠償請求をしました。実際の投資額は5分の1の30億ドルしかないにもかかわらず、です。でも考えてみてください。国民がある計画に反対をして、その意思に答えて政策を変更する。これはまさに民主主義です。なぜそれに150億ドルの賠償請求がされなければいけないのでしょう? もしその主張が通れば、環境保護は実現しません。環境ゃコミュニティに害があっても、国際条約に従って汚染を禁止しようとしても、ISDSで政府が訴えられてしまう。汚染をする側が多額の賠償金を得るという奇妙な話になるわけです。TPPが発効すれば訴訟はますます増えるでしょうし、米国企業が日本の自治体や政府、法律を訴える危険性があります。逆に日本の企業が他国政府を訴えるというケースも増えるでしょう。日本はISDSで訴えられることを真剣に考えるべきです。


口ーラ 2011年の福島原発事故はヨーロッパにも大きな衝撃を与えました。事故直後、ドイツ政府は脱原発政策に切り替えました。日本ではあまり知られていないかもしれませんが、このドイツの政策変更に対して、スウェーデンのヴァッテンフォール社はISDSを使いドイツ政府を提訴しています。同社はドイツで原発プラントを開発している会社ですが、脱原発になれば利益が得られないということが理由です。これは日本にとっても大きな示唆ではないでしょうか。


 多様な人たちの参加 


内田 環境や人権、自治などに対する脅威としての自由貿易協定に、それぞれの現場ではどのような運動が展開されているのでしょうか。


メリンダ 日本では環境問題からのTPP反対は少ないと聞いていますが、米国では環境の視点からの自由貿易批判は非常に強いのです。環境保護や気候変動対策は、国際社会、特に先進国にとっては共通の課題です。しかしTPP協定文に「気候変動」という文言は1回も出てきません。これに対してシエラ・クラブや天然資源保護協会など多くの環境団体は厳しく批判しています。また協定文には「環境」に関する章はありますが、動植物の違法取引や、違法な漁業とフカヒレ採取に対してはとても緩い義務規定しかありません。ISDSによって環境政策が攻撃されるという脅威もあります。


 医薬品についての懸念もあります。TPPで医薬品の独占特許延長などがされてしまえば、医薬品大企業には利益が舞い込みますが、医薬品価格は高くなり、ジェネリック医薬品へのアクセスも困難になります。途上国の医薬品コストは上昇します。「国境なき医師団」はTPPを「途上国の医薬品ァクセスにとって最悪の貿易協定」と批判しています。


 人権という観点からの批判もあります。6500ページもある協定文の中に、「人権」という単語は1回も出てこないのです。米国には人権を守っていない国とは経済的取引をしないという前提があるのですが、TPP参加国の中には、人身売買や児童労働を許容したり、労働組合つぶしをしたり、同性愛を犯罪と定めていたり、シングルマザーを石打の刑に処するような国も含まれています。米国政府はこうした実態は棚上げしたまま、そうした国との貿易をひたすらに求めています。これに対して人権団体やLGBT運動が声をあげています。


 このように米国では現在、TPPに反対する大規模で多様な運動があって、非貿易の側面からの反対がますます高まっています。過去に自由貿易協定を支持してきた経済学者たち、ジョセフ・スティグリッツやポール・クルーグマン、ロバート・ライシュなどが「TPPの経済的利益はわずかであり、逆に多くのリスクをもたらす」と反対しています。支持政党を超えて有権者はTPPについて知れば知るほど反対するように変化しています。11月には大統領選と合わせてすべての下院議員と上院の3分の1が改選を迎えるという要素も大きく、要するに候補者は「TPP反対」と言わなければ当選しない状況になっているのです。


内田 大統領選の結果によってTPPそのものがどうなるのかという点は私たちも気になるところです。


メリンダ TPP推進側は、11月の選挙後の「レーム・ダック」(オバマ大統領の残存期間)を唯一、批准可能な時期とみていますが、その見込みは少なくなっています。新しい大統領は「反対」といっていて、議会も通過させたくない。一方、政府や産業界は何とか発効させようとしている。トランプが大統領になればおそらく完全に廃案でしょう。クリントンの下では、少なくとも再交渉になるだろうと考えています。クリントンは以前から、為替操作や自動車その他のモノの原産地規則、知的所有権(医薬品特許)、そして ISDSについても現状の中身ではダメだと言ってきましたから、本音では批准したくても、何らかの手を打つしかないでしょう。


内田 貿易の問題は複雑で難しい、と私たちはどこかで思い込まされていて、日常の暮らしとのかかわりがなかなか実感できない人が日本にも多くいます。異なる層の人たち、無関心でいる人たちとどうやったらつながっていけるのかは日本でも大きな課題です。


口ーラ EUでのTTIP反対運動も多様なセクター、層によって成り立ち、数々のキャンペーンやデモが行なわれています。また自治体での反対決議もどんどん広がっています。各国でTTIPを自国の課題とリンクさせることも有効です。反対運動を牽引する国の1つはドイツですが、先ほど述べたように実際にISDSで提訴されたという経験が非常に大きいですね。もうーつ、TTIPで大きな議論となっているのは水道などの公共サービスの民営化への懸念です。


 私たちがこれまで強いキャンペーンを展開できたのは、今までは考えらなかったセクター、層の人たちと一緒に運動できるようになったからです。これまで自由貿易に反対する人といえば、農民や環境団体、労働組合、消費者運動、NGOなどで、これは世界共通だと思います。しかしこうした人たちに加え、中小企業やキリスト教民主主義の弁護士、研究者、EU議員、欧州委員会の元貿易担当高官なども参加しています。


メリンダ 米国では大企業や商工会議所、業界団体が政治システムの中で影響力を行使し、選挙がお金で買われているような状況があります。要するに「政策をお金で買っている」わけですね。その一方で、貧困や格差、最低賃金や気候変動などの問題も企業の支配が強まっていったわけですが、そこにメスを入れずに長い間やってきたわけです。しかしトリクルダウンがもう起きないという中で、米国に根本的な価値観の変化はありうるのでしょうか。私自身は、TPP反対運動の中でここ数年で起きたことを考えると変革の可能性はあると楽観的に考えています。TPP反対は労働者、高齢者、学生、LGBT、女性、消費者団体、環境など大きな広がりを見せています。そして重要なことは、二大政党の民主党も共和党もこうした人びとの声、有権者の怒りに対応しなければいけなくなったということです。これが私たちのチャンスになっているわけです。お金では対抗できないとしても、人びとの力を結集して対抗しようとしています。


口ーラ ヨーロッパの視点で言えば、この数十年間に「オルター・グローバリゼ ーション」(もう一つのグローバル化)運動がEU各地に存在しています。こうした下地がある上に、各地でTTIPなどの話をしていくと非常に理解が早いことを実感します。またスペインのポデモスに代表されるような「新しい政党」も登場しています。こうした積み重ねの結果、TTIP反対の声は多様で重層的につながりながら、欧州議会を動かす力にもなっています。もちろん課題もあります。TTIP反対の中には排外主義的なナショナリズムを煽る運動も存在することも事実です。これに対しては、排外主義的な考えと私たちは違うということを明確にしなければなりません。


メリンダ 現在、米国での反対運動の成果があるのも、国際市民社会が企業の権利拡大とたたかってきた歴史のおかげだと思います。WTOに対する運動もそうですし、NAFTAを拡大した米国自由貿易圏構想(FTAA)も、多国間投資協定(MAI)も市民の反対によって実現していません。こうした抵抗の延長上に、現在のTPPやTTIPとの闘いがあるわけです。多国籍企業は連帯しています。私たちも連帯しなければいけません。多くの人が、うまく言い表すことはできなくても、企業の巨大な権力やルールが自分の生活にどのような影響を与えているか実感し、不安を感じています。決して伝えにくい問題ではありません。ですからあまり細かいことや技術的な側面にこだわらず、生活者の視点から、そしてそのシステムの恩恵を受けていない人たちが感じたことを率直に伝えていくべきです。日本での国会批准審議がこれから再開するわけですが、米国でのTPPの行き詰まりを、日本の反TPP運動強化にもつなげていけば、ともにTPPを敗北に追い込むことができます。


内田 メリンダさん、ローラさん、ありがとうございました。



座談会 
欧米の市民社会は自由貿易にNOと言う
――TTP、TTIPと私たちの暮らし――
メリンダ・セント・ルイス 
ローラ・ブルュッヘ 
内田聖子(司会)


 9月の臨時国会で、4月に頓挫したTPP協定の批准審議が再開される。しかし、マスメディアなどのTPPへの関心は欧米市民社会ほど高まってはいない。
 欧米では確実に、自由貿易が雇用や地域経済を壊し、食の安心・安全や公共サービスなどでの規制を緩和させ、さらに環境、人権、自治、民主主義という価値までも危機にさらすという認識の拡がりのもとで反対が強まっている。
 特に米国での反対運動は、大統領選も含めこの5年で頂点に達している。アメリカとヨーロッパでそれぞれ活躍中のNGO活動家から、自由貿易が私たちの社会にもたらす弊害などについて議論する。


ローラ・ブルュッヘ/Lora Verheecke ベルギー・ブリュッセルに拠点を置き、EU全域で活動する市民団体「Corporate Europe Observatory (CEO)」にて調査研究とキャンペーンを担当。CEOは自由貿易と大企業とロビイストの動きを、社会正義や環境、貧困削減、人権、民主主義などの観点からウォッチしている。


メリンダ・セント・ルイス/Melinda St. Louis 米国・ワシントンに拠点を置く市民団体パブリック・シチズンの「Global Trade Watch」(貿易・投資問題の担当部署)国際キャンペーン責任者。同団体は1971年にラルフ・ネーダー氏が設立した消費者団体。貿易や投資以外にも環境、人権など幅広い分野で活動している。


うちだ・しょうこ アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長。


https://www.iwanami.co.jp/sekai/2016/10/137.html
 

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