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『from 911/USAレポート』第729回 「トランプのアメリカ、3つの視点」 冷泉彰彦
http://www.asyura2.com/16/kokusai16/msg/414.html
投稿者 佐藤鴻全 日時 2016 年 11 月 20 日 08:01:45: ubCRqOmrnpU0Y jbKToY2DkVM
 

■ 『from 911/USAレポート』第729回

    「トランプのアメリカ、3つの視点」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』               第729回
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<1つ目の視点、歴史的だった選挙結果>

 2週間というのは極めて長い時間と改めて痛感しています。前号をお届けした11
月5日の時点では、投票日を4日後に控えた中、「トランプの勝率は15%」という
ような「ハズレ」の予想を申し上げていたことを思うと、今は全く別の時間が流れて
いるのを痛感します。

 言い訳めきますが、この時点で、ミシガン、ウィスコンシンの数字がトランプ優勢
になっていたことには言及しているわけで、これに加えてフロリダとペンシルベニア
が落ちれば大変なことになるというのは、数字としては成立していたわけです。です
が、それでも「15%」などという小さな数字を申し上げていたことについては、不
明を恥じ入るばかりです。

 では、私を含めてどうして選挙予測について「ここまで誤った」のでしょうか?

 この点に関しては、アメリカでも日本でも多くの識者が2つの指摘、あるいは反省
をしています。1つは「ラスト・ベルト」つまり製造業が衰退したペンシルベニア、
オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンなどにおける「怒り」が大きかったということ、
そしてもう1つは、民主党支持者の投票率が低かった、つまり「ヒラリー支持者が寝
ていた」ということです。

 確かにこの2点は重要と思います。特に私は、準地元と言って良いペンシルベニア
州については衝撃を感じましたし、何と言ってもミシガン州の結果は驚愕でした。衰
退する製造業、その象徴として2008年のリーマン・ショックで苦境に立ったデト
ロイトについては、オバマ政権が公的資金注入をして救済しているのです。また、イ
ンフラの老朽化に伴う「水道水の鉛公害騒動」に関しても共和党の州政が批判されて
いたのでした。

 そのミシガンでヒラリーが落としたというのは、やはり「史上空前の利益」を出し
ているGMが中国を中心とした「現地生産」に切り替えて「思い切り空洞化へ舵を取
っている」ことなど、現代の縮図という側面があるように思います。

 ただ、選挙から1週間を経て思うのは、今回の勝敗を決したのは「別の要素」だっ
たということです。それは、投票日直前の時点で、「共和党が全国レベルで勝ちに行
った」ということです。恐らくFBIのコーミ長官が、ヒラリーの「第二メール疑惑」
で書簡を議会に送った10月28日がターニングポイントと思いますが、そこで世論
が動いたというよりも、この時点で「勝機あり」と見た共和党陣営が「一気に走った」
というのが真相だと見るべきでしょう。

 一時は、ペンシルベニアでもフロリダでもトランプ陣営は劣勢となる中で「自分の
カネでの選挙CMを絞り始めた」という噂も流れたのですが、この時点で陣営として
は新たに26ミリオン(27億円相当)のTVコマーシャルを反対に追加したという
報道がありますし、それだけではないように思います。

 3月ぐらいの時点では、ブッシュ一族やロムニーなど「お行儀の良い共和党員」や
「中道寄りの人々」あるいは「ビジネス界の人々」はみんな、「今回はヒラリー」と
いう動きをしていました。彼等の口にした「トランプ批判」あるいは「トランプ降ろ
し」の言動は、今でも多くの人の記憶に残っており、「どう考えても彼等がトランプ
を支持するはずはない」という強い思い込みとしてあったわけです。

 ですが、そうした「中道保守」も結局はトランプを支持し、そして棄権せずに投票
所に行ったのです。同じように「女性関係などに不道徳な印象のトランプ」を嫌って
いたはずの「宗教保守派」も、そして「軍はトランプの指揮下に入るべきではない」
などと言っていた「軍事タカ派」も、結局のところ、みんなトランプに入れたのです。

 例えばオハイオ州の動向などを見ても、これまでの報道を総合すると「草の根保守
は動かないが、製造業関係者はトランプ支持」という印象論での選挙戦が続いていた
のが、最後の最後では「草の根保守」も支持して投票していたのです。この「共和党
が勝ちに行った」「共和党が最終的に結束して投票した」というのが、勝敗を分けた
大きな要因であったのです。

 反対に民主党の選挙戦は、最終的に「不完全燃焼」で終わりました。私は、投票日
の迫った11月4日の金曜日にNYのマンハッタンに行って驚いたのですが、マンハ
ッタンにはどこにも「選挙戦大詰め」を示すビジュアルはなかったのです。いつもな
ら、町を埋め尽くす支持者による選挙運動ポスター・バナーの類が全くなかった、そ
れはその時は「NY州はヒラリーで決まり」だから「仕方がない」のだ、そんな納得
をしてしまったのですが、実はそうではなかったのです。

 リベラルの牙城、ヒラリーの本拠といってもいいNYが「白けていた」ということ
は、全国レベルでの陣営が盛り上がっていなかったということに他なりません。私の
住むニュージャージーでも、「ヒラリー&ケイン」というサインボードを掲げた家は
ほとんど僅かであり、ステッカーを貼っている車も本当に少なかったのです。201
2年にも、08年にも、04年にも、2000年にも、1996年にも、こんなこと
はありませんでした。

<2つ目の視点、文明論としてのトランプ現象>

 テクニカルには、そんなわけで共和党は結束して勝ちに行ったのです。その結果の
勝利であり、上下両院の過半数というのも、その団結の結果であると言えます。です
が、その一方で今回の選挙結果が一つの文明論としての現状批判を突きつけたという
のは、重要なことだと思います。

 それは「世界の中で最も先進国である国家」であるアメリカで、その「先進国モデ
ル」が否定されたという問題です。考えてみれば、オバマ政権の8年間には、確かに
「リーマン・ショック」による2008年から09年の景気と雇用の「大きな底」か
ら、ゆっくりではありますが、経済は成長してきた訳です。その景気回復は、遂に
「腰折れ」することなくオバマの任期切れを迎えようとしています。

 その任期を通じて成長が見られ、失業率も10%という最悪の状態からずっと改善
を続けたわけですから、史上空前の「成功した政権」と見られてもおかしくないはず
です。ですが、実際はこの8年間、上がったのはGDPと株だけで、確かに失業率は
下がりましたが、人々の雇用の質は劣化し、大学を出た若者が就職するまでに必要な
労力と時間はどんどんかかるようになっています。

 3つの問題が並行して進んでいます。1つはソフト化です。モノではなく、ソフト
が社会的にも経済的にも重要な位置を占めるようになった、この8年間にはそうした
変化が加速していきました。2つ目は自動化です。以前は人がやっていた業務が機械
化されて、その結果として雇用が減っています。3つ目は依然として拡大する空洞化
です。

 よく考えれば、トランプ現象というのは、この3つの方向性の中で「3つ目だけを
批判」して喝采を浴びたわけですが、1と2にも同様に批判の目は向けられています。
そんな中で、トランプがいくら頑張ったところで、この3つの問題は解決できるとは
思えません。そうではあるのですが、冷静に考えてみれば、「知的な職業だけが尊敬
され、経済的な成功も約束されている」という単純なルールで3億人の人口を納得さ
せられるというのもまた、そこには無理があるわけです。

 3億の人がいて、その人々が個々に自尊心を満足する権利があると思っているとい
う事実、これと「知的な労働だけが尊敬され評価される社会」というのは完全に矛盾
します。対処法は簡単ではありません。国境を閉じるのは可能ですが、そうすればコ
スト高になり、消費者としての商品サービスを享受する権利が損なわれます。ビジネ
スが停滞することで、全員が不幸になることも考えねばなりません。

 それはそうなのですが、「先進国モデル」という宿命と「3億人の自尊心」という
現実にどう折り合いをつけるべきなのか、ドナルド・トランプという人には、少なく
ともそこに「問題がある」という指摘はできた一方で、民主党陣営にはそれに気づか
ない鈍感さがあったというべきでしょう。

 私は、問題の解決は「規制強化」では上手くいかないと思います。そうではなくて、
たぶん国境の持つ「透過性」の濃淡という問題にフォーカスというのが一つあると思
っています。どういうことかというと、日本のように「島国」であって、外国との距
離が「異常な憧れ」と「はるかな隔絶」の間を行ったり来たりする国の場合が特にそ
うですが、国境に守られた「ローカルな付加価値=文化」というものが「グローバル
な社会へと単一化する」ことをスローダウンしてくれているわけで、その辺の透過率
の濃淡をつけることで、問題を遅らせることは可能、そんな意味合いです。

 トランプ氏の手法と発想法については、その辺から考えると全く異なっていて、例
えばですが、アメリカの雇用を劇的に改善するというのは、国境を閉じるというより
も、あるいは税金をバラまくのでもなく、90年代のように、あるいは2000年代
のように巨大なバブルを現出させるしかないと見ています。それはともかく、先進国
モデルの否定という文明論的な事件が起きたというのは特筆すべき現象だと思います。


<3つ目の視点、政策論、特に軍事外交の方針転換>

 色々とスッタモンダがあったわけですが、本稿を整理している11月18日(現地
時間)の時点では、CIA長官にマイク・ポンペオ、安全保障補佐官にマイケル・フ
リン、司法長官にジェフ・セッションズという顔ぶれが固まったとされています。

 このうち、司法長官については本来であれば「全米における警官による黒人誤殺問
題」であるとか「LGBTの人権問題」といった問題に取り組んで、正に「分断から
和解へ」をやってもらいたいのですが、今回は「家業との公私混同を避けるという政
府の顧問弁護士的な役割」というのが不可避である中、「初期から支持してくれた忠
節の人」を充てるという話なのでしょう。ちなみに、セッション氏の場合は反対論も
ありそうで、今後一筋縄では行かない可能性もあります。

 CIAと安全保障補佐官については、とにかく「ゴリゴリのイデオローグ」的な人
を充てるというわけですが、ここには大変な難しさがあるわけです。

1)オバマ=ヒラリー路線は引っくり返したい。
2)基本的には民意を受けて不介入。米兵の投入も犠牲も最小限。
3)軍事タカ派の大前提、つまり「親イスラエル」「中東でのプレゼンス確保」はやる。
4)装備は更新か。
5)ISISとアルカイダはデフォルトの悪者扱い。
6)統治が安定するのなら独裁者も大いに結構。

 という辺りまでは、何となくイデオロギー的な「気分」として「やりたそう」です
し、実際に「やってしまう」のかもしれません。ですが、個々の国や地域に関して具
体的に見ていくとなると特に中東政策に関して見てみると、沢山クエスチョンがつき
ます。

(イラク)本当に「シーア派系の現政権」に冷淡にできるのか? クルド系を突き放
すのか? ISISを解体した後でスンニ派勢力を善玉に認知できるのか?

(エジプト)シシ政権認知で、経済成長や民意との折り合いは大丈夫か?

(パレスチナ)ファタハは信じず、ハマスは敵視でやっていけるのか?

(イスラエル)更に人口構成がアラブ系多数になっていく中で、リクード的な強硬姿
勢には限界があるのでは?

(レバノン)ヒズボラは否定?それとも親アサドだから認める?

(シリア)アサドに仕切らせるとして、過去の生物兵器使用問題は? 反政府系との
和解をどう仕切る?

(トルコ)EUから遠ざかり、かつクルドを許さず、独裁を強めるエルドアン支持で
全て丸く収まるのか?

(サウジ)国営石油上場と、非石油化経済をどう支援する?

(イラン)フリン氏の言っていたように、あるいはトランプ本人が言っていたように
徹底敵視? ロシアとの関係は?

(アフガン)腐敗の見られる北部同盟系を支持? それともパシュトン人の穏健派へ
のテコ入れをし続ける? タリバン無害化はやらない?

(リビア)ヒラリーへのベンガジ事件追及を大声でやってきた手前、ここの安定化を
するつもりはあるのか? そもそも可能なのか?

 こうした各国の情勢だけでなく、そもそもCIAには「ブッシュ時代以降弱体化し
た」人間による諜報活動(ヒューミント)を再建するのか、それとも電子諜報収集
(シギント)を中心の路線で行くのか、そしてブッシュ=オバマが推進した「超法規
的なドローン攻撃」などは拡大するのか?というような「戦いのスタイル」の問題も
あります。

 そう考えると、イデオロギーも重要ですが、この軍事外交の分野、あるいは諜報の
分野においては統治能力ということが何よりもまして重要に思われます。その点で、
ポンペオ、フリンといった顔ぶれには、どうしても「傍流」という印象が拭えません。
不安があるということは申し上げておきたいと思います。

 ところで、中東の複雑な情勢に関しては、冒頭ご紹介した『中東の絶望、そのリア
ル〜戦場記者が、現地に暮らした20年』(リチャード・エンゲル著、冷泉彰彦訳、
朝日新聞出版)という本(原題は "AND THEN ALL HELL BROKE")が提起してい
る問題は余りに重たいように思います。エンゲルは同書の中で、ブッシュの誤った介
入と、オバマの中途半端な政策が相乗効果となって「中東におけるアメリカの信頼を
破壊した」と厳しく断罪しています。

 そのエンゲルは、今週アレッポの「地下病院空爆事件」を報じる中で、現地の声と
して「トランプには何も期待していない。だって、オバマも何もしてくれなかったじ
ゃないか」という悲痛な叫びを取り上げていました。その砲弾が降ってくるアレッポ
に視点を置いた時、複雑に入り組んだ中東問題をイデオロギーの力比べに使うという
こと自体、既に相当に「ズレ」た感覚を感じます。

 そう考えると、いくつかの「必ず成功するという条件で、象徴的な方針転換」を行
う以外は、本当に国連やNATOと協調して落とし所を探すしかないように思うので
す。少なくとも、「孤立と言う名の自己中心的な姿勢」から「功利的な計算だけでロ
シアと組む」という政策は、アメリカの場合は基本的には成立しないのではないかと
思われます。

 仮に11月8日の投票日に「共和党が団結して動いた」のであれば、もっと中道実
務的な政権の顔が出てくることも考えられます。そんな中、ミット・ロムニー元大統
領候補を国務長官にという話も浮上しており、それが本当なら(最終的にロムニー氏
になるかは別としても)軍事外交の布陣を右派イデオローグ「だけ」で固めるのでは
「ない」方向性も検討されているのかもしれません。

 いずれにしても、現時点では日替わりで新政権の様相があれこれと取り沙汰され、
動いていく時期になっています。注意深く見て参りたいと思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『チェンジはどこへ
消えたか〜オーラをなくしたオバマの試練』『場違いな人〜「空気」と「目線」に悩
まないコミュニケーション』など多数。訳書に『チャター』がある。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
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JMM [Japan Mail Media]                No.924 Saturday Edition
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【お問い合わせ】村上龍電子本製作所 http://ryumurakami.com/jmm/  

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