……生産する自我を「技術的人間」と呼ぶ一方、消費する自我を「藝術的人間」と呼ぶことができるかもしれない。「技術的人間」が主張する人間だとすれば、「藝術的人間」は表現する人間であって、だとすれば、後者が自分を評価する平等な他人を持たなければならないのは、自明であらう。
　先にも述べたやうに、欲望を引きのばす人間は、それをどこまで、いかに引きのばすかについてつねに不安なのであり、それゆゑに、自分の行動を評価してくれる他人の眼が必要なのであった。それにつけて、とくに注意しておかねばならないのは、消費が本質的に身体的な行動であって、したがって必然的に、他人に見える外的なかたちを持たざるをえない行動だ、といふことである。じつは常識に反して、生産は本来的に非身体的な行動であり、だからこそ、生産技術はつねに身体運動を省く方向に進み、つひには機械の導入をもたらすのであるが、消費が身体運動を省いて機械に頼ることは考へられない。消費が半ば受動的だといふのは、要するに、自我が自分の身体にまきこまれてゐるといふことであって、それを通じて行動の外的なかたちにまきこまれてゐる、といふことにほかならない。したがって、満足を引きのばす場合にも、この自我はそれを自分の身体運動の外的なかたちとして、つまりは、他人に向けての表現として行なふほかはなく、ここに消費行動のスタイルといふことが問題になるのである。
　すなはち、満足を引きのばすにしても、この自我は、それを他人の眼が容認しうるやうなかたちで行なはねばならず、いひかへれば他人への慎みのもとに、美しい作法を持った行動として行なはねばならない。そして、行動のスタイルは、その行動を何度も繰返してゐれば、やがて一箇の技術のやうにその人の身につくものであり、さらには技術が人柄を形成するやうに、その人の自我の実質部分を決定することになる。生産する自我が、ひとつの技術を身につけることで自分を統一するやうに、消費する自我は、行動にスタイルを持つことで自分を統一し、それを持ちつづけることで自我の同一性を守るのである。
　だが、その反面、生産の技術は変らないことがその本質であって、したがってそれは機械に置きかへられるのであるが、およそスタイルトといふものは、むしろ一定の同一性の幅のなかで柔軟に変ることが本質だ、といへる。われわれは、たとへばセザンヌが山を描き静物を描き、技術的にも多様な作品を作りだすのを見て、なほそこに同一のスタイルを認めるのであって、逆に軍人の動作のやうな、完全に画一的な行動にスタイルがあるとは感じられない。だとすれば、さうしたスタイルによって統一された自我は、生産技術によって支へられた自我とは違って、当然、他人にたいして柔軟にふるまひ、よりひかへめな自己主張を持つ自我になるほかはあるまい。すなはち、生産する自我にとっては、剛直に信条を守ることが美徳であるのにたいして、消費する自我にとっては、つねに一定のしなやかさを保ち、しかし、そのなかに有機的な一貫性を守ることが美徳とされるのである、
　また、行動のスタイルは技術とは異なり、人間の意識にたいして逆説的な関係に立つものであって、意識はそれを操作するが、しかし、過度に強く操作するとかへって毀してしまふといふ、独特の性質を持ってゐる。すなはち、日本の古来の茶人たちが注意してきたやうに、作法とはそれが自然に見えるときに美しいものであり、わざとらしさがめだったときには、たんなる無作法以上に他人の反感を買ふものであった。作法を欠いた行動は「やぼ」として非難されるが、作法の過剰に見える行動は「きざ」なのであって、遊廓の通人にとっても、「いき過ぎ」は「半可通」に劣るとして冷笑を浴びたものであった。
　いひかへれば、スタイルは、意識がそれを完全に支配し、能動的に操ってゐるやうに見えるときには破綻を招くものであり、逆に半ばそれに乗せられ、受動的に運ばれてゐるやうに見えるときに効果を発揮するものだ、といへよう。それは他人にたいして誇示したり、主張したりするときには力を失ふものであって、むしろ、それを持つ本人が自分でも気づいてゐないやうに見えるとき、強い説得力を持つものなのである。そして、この点でも、スタイルはたとへば信条とは正反対のものであり、当然、それによって統一された自我に、より柔らかい個人主義の主張をあたへることであらう。

山崎正和 「柔らかい個人主義の誕生」（1984年）より

https://www.youtube.com/watch?v=md4Ku3nwWHk

三宅洋平と山本太郎、山本太郎と小沢一郎、小沢一郎と志位委員長と。世代を超えて市民側勢力が繋がれば、それはひとつの大きなうねりとなり、政治がマツリゴトになりますね。

国民としてはこの繋がりを後押しするしかありません。 不正を防ぐ為にも目に見える形の圧倒的な後押しが必要だと思います。
三宅洋平、山本太郎、小沢一郎、志位委員長、この共闘に大きく期待したい。

都民