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東京電力柏崎刈羽原発の様子。脱原発系候補が当選した“新潟ショック“で、投開票日翌日の東電HDの株価は急落した (c)朝日新聞社
新潟県知事選で脱原発系候補が当選、泉田知事が語った身の危険〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161026-00000240-sasahi-pol
AERA 2016年10月31日号
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働への対応が争点となった新潟県知事選で、泉田裕彦知事の慎重路線を継承すると訴えた米山隆一氏が当選した。泉田路線は引き継がれるのか。
「米山さんの当選は、県民のみなさんの選択の結果と受け止めています」
新潟県庁3階にある知事室。退任が4日後に迫った20日、泉田裕彦知事を訪ねると、穏やかにそう口を開いた。
経済産業官僚から新潟県知事へ転身し、東京電力福島第一原発事故以降は一貫して同柏崎刈羽原発の再稼働にノーを突き付けてきた。10月の知事選を控え当初は続投に意欲を見せていたが、8月30日に急遽、不出馬を表明。そこから周囲がざわつき始めた。新潟県知事選が、全国の原発再稼働問題の今後を左右しかねない重要な地方選挙になったからだ。
●原発利権からの圧力
不出馬の理由として泉田氏が挙げるのが、地元紙による県の日本海横断航路計画に関する契約トラブル報道。報道内容が事実と違うというのが県の主張だ。泉田氏が言う。
「随分前から新潟日報の虚偽報道には抗議してきましたが、こちらの考えが一切伝わらない。そんな状況で私が出馬しても日本海横断航路計画が争点の選挙になってしまう。新潟の未来をどうすべきかの選挙がそれでは県民にとって不幸です。選挙をやれば勝つと思っていましたが、争点が原発で勝たないとその後、国との交渉力が出てこない」
県内では約46万部を発行する新潟日報の影響力が大きい。とはいえマスコミは地元紙一社ではない。全国紙もある。知事の考えを幅広く世論に問うたら良かったのではないか。
その疑問をぶつけると、不出馬を発表する1週間前に新潟日報に訂正を要望したことを記者会見で伝えたが、他のメディアは報道しなかったのだという。
「撤退表明の時、他社の記者から『私たちがそのときの会見内容を報道していたら知事の不出馬の判断は変わったか』と聞かれました。変わった可能性があります」
現役の官僚が小説という形で原発利権の存在を告発した『原発ホワイトアウト』では、知事が困難に陥るくだりがある。泉田氏がモデルといわれるだけにリアルだが、在任中「原発利権勢力」から圧力はあったのか。
「東電を取材していた報道の人が『それ以上取材するとドラム缶に入って川に浮かぶ』と脅され、私にも気を付けてと言ってくれたことがありました。また、日本海横断航路問題を使って知事の首を取るプロジェクトがあるということも聞いています。ちょっと前には何者かに車で後をつけられました。その利権者はだれなのか。はっきりとした証拠がないのでいまはこれ以上話せませんが、いろんなことがあったのは事実です」
●踏みとどまった脱原発
知事選に話を戻すと、自民、公明は前長岡市長の森民夫氏を推薦。一方、共産、社民、自由の野党3党は医師や弁護士として活動し、泉田路線の継承を公言する米山隆一氏を擁立した。
政権与党の支援を受けた森氏が当選すれば、柏崎刈羽原発の再稼働の動きが加速することも十分に考えられる。危機感を抱いた脱原発派は早速、米山氏支援に動いた。再稼働阻止全国ネットワークに所属する東京在住のメンバーたちが初めにやったことは、民進党へ米山氏の支援を要望することだった。
「民進党の新潟県連は米山氏を推薦せず、自主投票を決め込みました。支持母体の連合の組合員に東電関係者が多数いるためだと聞いています。そこで我々は民進党本部へ乗り込み、党として米山氏を応援するよう求めたのです。そもそも米山氏は先日まで民進党所属。それを応援しないとはけしからんと抗議しました」(再稼働阻止全国ネットワークの山田和秋氏)
そのかいもあってか、選挙戦最終盤に蓮舫代表が新潟入りし、米山氏の選挙応援演説をした。山田氏らも新潟で昼は街頭演説の応援、夜は2千件に上る電話で米山氏への投票を呼びかけた。序盤は森氏が大きくリードしていたが、米山陣営も徐々に追い上げていった。
「原発は怖い。事故が起きたら生活基盤が危うくなる。だから泉田路線を引き継ぐ米山さんを応援するという声がだんだん多く聞かれるようになったのです。それに泉田さんは圧力で辞めさせられたと考えている県民も多かった。途中から、これはいけるなと感じました」(山田氏)
ふたを開けてみれば米山氏は53万票近くを獲得。次点の森氏に6万票以上の差をつけて勝利した。米山陣営のスタッフですら、「手ごたえは感じていたが、まさかこんな大差で勝つとは」と驚くほどだった。
再稼働阻止全国ネットワークの共同代表を務めるルポライターの鎌田慧氏はこう期待する。
「鹿児島の知事選では原発停止・点検を訴えた三反園(訓)氏が勝ち、新潟では反原発を鮮明に打ち出した米山氏が当選した。市民レベルで反原発が最大課題になっている。この動きは全国に波及していくだろう」
●泉田路線継承は未知数
各地で起こされている脱原発訴訟にも影響を及ぼすと言うのは脱原発弁護団全国連絡会共同代表の海渡雄一氏。
「関西電力大飯原発(福井県)の控訴審は旗色が悪かったのですが、名古屋高裁金沢支部で19日に開かれた控訴審では一転して裁判長が『基準地震動がもっとも重要な問題』だとして、我々の申請した専門家の証人尋問が認められる方向になったのです。裁判所も原発が危険だという民意の流れを感じ取っているのではないでしょうか」
米山氏は自民党、日本維新の会、民進党と各政党を渡り歩いてきた。泉田氏は、中越地震からの復興を祈念した山古志マラソンも一緒に走ったというが、どこまで泉田路線を継承してくれるかは未知数だと話す。
「例えば当選後に米山さんは住民投票をやると言っていますが、それを聞いたときは正直、うーん、それは泉田路線ではないと思いました。というのも住民投票は一度、県議会で否決されているのです。議会を通せない以上、条例案を出せば否決される。住民投票をやるというのは私のやってきたこととちょっと違い、自分の首を絞めることにもなる」
とはいえ、原発を争点にした知事選で当選したこともあり、期待は大きいようだ。
「あれだけ私と会うのを嫌がっていた原子力規制委員会の田中(俊一)委員長が米山さんと会うと言っている。原子力防災にどう向き合うのか。不可能を現場に押し付けている原子力防災指針を選挙戦で語った結果として米山さんは当選した。これで国としても地元の声を聞きやすい環境ができた。国に対する交渉力を増した可能性があります」
一方、東電や国の対応には依然として厳しく注文を付ける。現在、柏崎刈羽原発6、7号機は安全審査が進み、「安全が確認された原発は国の方針通り、再稼働へ動くことになる」(経産省幹部)。だが泉田氏は、それはあり得ないと話す。
「知事室に東電の広瀬(直己)社長が来て言ったのは、『東電だけでは安全確認が十分かどうか、自信がない。第三者の目を入れたいので6、7号機の安全審査を申請させてください』です。再稼働のための申請とは一言も言っていません。もし再稼働のためなら最初からウソをついていたことになる」
●知事退任後の挑戦とは
避難計画にも不備がいたる所にあると言う。
「原発震災が起きた際、UPZ(緊急時防護措置準備区域)は屋内退避。しかし熊本のように大地震の後にさらに大きな地震があれば屋内退避はかえって被害が大きくなり、死傷者が出る可能性があるのです」
屋内退避したあとの避難方法も現実的ではない。
「放射線量毎時500マイクロシーベルトが避難の基準ですが、域内の人口44万人を年間被曝限度量の1ミリシーベルトに達するまでのわずか2時間でどうやって避難させればよいのか。また、ヨウ素剤はどうやってその人たちに配りに行くのか。実際には無理なことばかりが指針には書いてある。こうした問題点を、国と交渉して直すことが次の知事の仕事です」
突然起きる災害を考えたら24時間気が抜けない知事職を退任するのは10月24日。その後は、
「荷物の整理をしながら、とりあえずちょっとゆっくりするつもり」
土俵際で踏みとどまった知事の新たな挑戦に期待したい。(ジャーナリスト・桐島瞬)
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